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二年目 5 オーガスタスの1日
[¶二年目 5 オーガスタスの1日]
2010年8月23日 13時46分の記事

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 その日オーガスタスは授業をサボって、校舎の外れで昼寝していた。
草の上にごろん。と転がり、頭の後ろで腕組み…つい、考え巡らす。

ディアヴォロスが卒業して、確実に何かが、変わった。
グーデンは自分の手前一応、大人しくはしている。
が、仲間と見せる笑みには解放感が浮かび楽しそうで、見ている自分に、にやり…!と、意味ありげな視線を、くべて寄越す。

オーガスタスはそれを思い出すと、吐息が漏れる。
あれは
『お前が幾ら立ち塞がったとしても、身分で劣る。
私の壁に成れる器じゃない。退学に成るのはお前の方だ。
覚悟するんだな』
そう告げて居るのは、言わずもがなだ。

ディアヴォロスは卒業式の後、真っ直ぐ俺を見て、こう言った。
「いつでも、力に成る」



ロクに話もしなかった男がいきなり。
周囲は学校を治める立場を彼が俺に、譲った。と解釈したが。

皆がディアスの言葉を受ける、俺の肩やら頭を叩き、大騒ぎして祝福してくれた。
無論…暴挙は見逃すつもりは無い。
…と言うか、奴隷上がり。と言う育ちのせいで、威張って暴力振るう奴見ると、むかっ腹立って行動に移してる。

処罰喰らう奴隷宿舎ですら、監視に刃向かった俺だ。
こんな甘っちろい場所で、我慢等出来る筈も無い。

グーデンの笑みを受けた時…俺は正直言って、いかにもお上品。な下衆(げす)な面を思い切り、やっと思い切り拳で殴り付けられる悦びで震えた。
が良く、考えればそれをしたら確実に退学に成る。
その時の俺は時微塵もそれが、浮かばなかった。

…マズイな…。
ずっと南領地ノンアクタルの、見せ物戦士として鍛えられた。
半端じゃない乱暴な方法で。
奴隷じゃない今の俺は、重い鎖から解き放たれた野獣と変わらない。

奴隷商人から俺を買い取り養子にしてくれたゼッデネスとの約束…教練を卒業し、近衛で名を上げて家名の格を上げる…の約束を、きっちり忘れたのは確かだ。

オーガスタスはもう一度、吐息を吐く。
戦闘で片足痛め、今でも杖を付き引きずるゼッデネス。
正直彼は、その養父が好きだった。

生意気な口を利いても、気にもしない。
どころか
「餓鬼はそれ位、生意気で無いとな」
と言い…。
「だが世間はそうはいかない。最低のマナーはそいつに教えて貰え」
言って、教師を付けた。
聞けば自分はマナーなんて大嫌いで、絶対俺に教えるのは不可能だと…。
ぶっきら棒で孤独で……そして、素っ気ない態度の中に、溢れる程の情愛を、隠し持った男で………。

オーガスタスが買い取られる時、たった一人、気にかかる奴が居た。
まだ小さく…弱く…見目が良く………。
間違い無く身分の高い男…もしくは女の、愛玩にされる運命の………。

けど彼は、敬虔に神を信じる、心の綺麗な子供だった。
弱くていつも、強い奴に食料を取られてた…。
痩せた体が更にがりがりに成り…俺がそっと食事を分けると、他の者もそれに習い…やがて奴から、食事を取り上げる奴は、居なく成った。

礼代わりに嬉しそうに俺に、訓辞を垂れる。
「神様は、偽りの表面なんか、見ちゃいない。
ちゃんと真心を、見て下さる。
だから…幾ら辛くてもそれを無くさなきゃ、必ず救って下さる」

俺は憮然。と告げた。
「死んだ、後でもか」
奴は微笑んで、頷いた。
「…だから…食べ物が無くても誰も恨まず死んだら、神様は天国の門を、僕の為に開けて下さる」
俺は奴の、脳天気具合に呆れた。

が………。
奴が信頼した養父にこっぴどく裏切られ、騙されてここに来たのだと耳に挟む。
「養父が、居たのか?」
奴は途端、嬉しそうに顔を、上げる。
「ジェネッタは凄く、優しかった。
母さんは娼婦で汚い。って親戚の誰も相手にしてくれず、葬式も出して貰えなかったのに…。
でも、出してくれた。
お腹を空かせた僕に、食事もくれた」
「カビた、パンだろう?」
奴はそれでも、笑った。
「僕には、ご馳走だ」

俺はつい…ムキに成った。
「だがお前をここに売った」
奴は途端、沈んだ表情で俯く。
が顔を上げ…笑顔を無理に作ってささやく。
「きっとお金が、必要だったんだ」
俺は………言いたかった。
『お前をはした金で引き取ったのは、もっと大金をせしめる為だ。疑う余地もなく』

……だがそれを、口に出来やしない。
奴は養父を…恨むまい。と固く決めていた。
養父がした事は、奴に取って問題じゃない。
養父を…恨まない事。
自分にそれが出来るかどうか。
それが奴にとっての…問題だった………。

ある日奴は奴隷商人に呼び出され…その身を貸し出された。
貴族の屋敷に。
そして…帰って来た。尻の穴を、血塗れにして。
監視達は念入りに手当てし、だが奴はひどい顔で…震っていた。
「ひどい目に、合わされたのか?」
横たわった奴は、真っ青な顔色で表情無く、震ったままだ。
そして…そのまま弱って逝ってしまいそうだった。

俺は…腹が立って弱った奴の耳元で怒鳴った。
「恨め!誰でもいい…!
お前をこんな目に、合わせた奴を!」
だが奴は弱々しく微笑んで、首を横に振る。

俺は涙が、溢れた。
ボロボロの雑巾のように…こんなにひどく打ちのめされたまま人間が、死んでいい筈が無い!
神がそれでも救ってくれるだと?
生きて居る間、何一つ…いい事の無い人生を全(まっと)うしたご褒美に?

「ふざけるな!
人間は生きてなんぼだ!
死んで、何の意味がある!
それじゃ……!
それじゃ生きてる事に、意味が無くなっちまうじゃないか!
いいか!お前は絶対、安全で安心で愛情溢れた場所で、もう一度笑う!
絶対だ!」

だが、暗い牢獄のような奴隷宿舎で誰もが皆、沈黙の中告げた。
“今、死ぬのが奴の神の救いだ。
この先生きたって、ただ悪戯に貴族の奴らに弄ばれ、自尊心は奪われ、体を壊し、もっとひどい目に、合う末路しか残ってない…”
そう………………。

目の前で死にかける奴の耳に、それでも俺は、大声で怒鳴り続けた。
「生きる事は意味が無いと、お前の神は言うのか?
死ぬ事だけが幸せだと?!
一度の幸福に成る機会すら生きてる間に与えてくれない、それがお前の神なのか?!!!」
奴は顔を揺らし…俺の意見に同意したのかどうか…それは不明だったが、危機を脱した。

元気に成った、奴は幾度も俺を、見た。
幾度も。
俺は奴に恨まれてる。と思った。
確かに皆の、言う通りだ。

俺は剣を持たされ、そして棍棒で小突かれて言われる。
「身分の高い、男を護って死ぬのがお前の人生だ」と。
無法者から主を護り例え傷付いたとしても…もしその後、使い物にならなけりゃボロクズのように捨てられる。
だがその前に、売り込みの見せ物試合で、死ねばそれすら無いがな。
監視達は笑ってズタボロの俺にそれでも、太い棍棒を振り入れる。
「ちゃんと、受けるか避けろよ!ホラ!」
丁の良い、奴らの憂さ晴らしだ。
だがそれで俺は…剣の交え方を覚えた………。

だが…奴らの言う通りだ。
見せ物試合で貴族の目に止まり、護衛として買い取られたって…体を壊せばそれで終わり。
痛めた体を引きずり…ボロを纏い、住む場所もロクに無く…毎日僅かな食べ物を得る為に、町中を俳諧する………。

せめて苦しまず、死ぬのが幸福。
それがお前の人生だと。
監視は俺の末路が見えるように、毎日毎日笑って棍棒を振りかざす。

…だが奴は俺に、微笑んだ。
「…でも幸福に成る道は、必ずある。
君はそう思ってる。
…そうなんでしょう?」

その微笑みと言葉を聞いた時、俺の頬に涙が伝った。
図星、だったからだ。

監視共ですら俺に、悔し涙すら流させる事が出来やしなかったのに………。

涙を流しながら俺は奴を、震える腕で、抱きしめる。
どうしてだか…どこからだか解らないが、心の底から沸いて来る言葉がある。

生きる事には意味がある。
人は幸福に成る為に、産まれてきている。

…俺ですら…それが現実に、成ると信じちゃいなかった。
だが神を信じる、奴には解ったみたいだった。

俺が奴にとっての神のように、その事を…必死に…そして縋るように、信じ続けている事を。

決して無くしたく無い宝物のように心の底で、大切に大切にそれを護りながら、信じ続けている事を………。

この暗く、汚い奴隷宿舎をいつか出て………。
必ず、出て行ってお前らに唾を吐きかけてやる!
そんな風にいきがる奴らのように…誰にも俺の思いを、ぶつけた事が一度も無い。

それは俺の心の中に了(しま)われ続け、誰にも見せた事の無い………けどそれが、あったからこそこの最低の生活の中でも生きてこられた……俺に取って大切な、本当に大切な宝物だった。

奴は俺の腕の中でつぶやいた。
「僕にもそれが訪れると、僕は信じられないけれど…これだけは解る。
君の心は。
僕に、死んで欲しく無い。と言ってくれた。
僕に食事を分けて幾度も…ぶたれ…独房に食事抜きで三日も閉じ込められても…止めなかった。
僕に、死んで欲しく無いのは……僕の心にある、“真心”を護りたかった…そうでしょう………?」

オーガスタスは顔を、歪めた。
「そういう奴を、ボロ雑巾のように死んでいいなんて神は俺は絶対…認めない!
そんな奴は、神なんかじゃない!」
だが奴は、ささやいた。
「僕が君にしたのは…ここに来たその日、君の傷の、手当てをした…たったそれだけの事だったのに………」

オーガスタスは、奴が来てやって来たその日…反抗した罰として受けた傷を誰も…手当てする事を許されず、部屋の隅に体を丸め、ただ痛みを耐えていた時の事を思い出す。

その白い小さな指先は冷んやりし…それでもとても、暖かかった………。
傷の痛みより、誰にも労って貰えない孤独で心が蝕まれそうだったから…。

誰にも、必要とされない自分…。
死んでも誰も気づかないような価値のない自分…。
それが哀れで惨めで…。
辛かった。

だから…傷の手当てなど無意味だと…。
周囲の奴らが無言で、告げて居るように感じた。
せめて必要とされるのは、金の為…。
奴隷商人達の、懐を潤す為。
その為だけの、存在。

人間で無く、物でしか無い。
心等不要だと…奴らの扱いは告げていた。

痛みは遠ざかり…同時に心が、凍って、いきそうだった。

その時のその、白い指先。
奴の手がぎこちなく…傷に触れ痛んだが…寄り添ってくれる、その心は暖かかった………。
気遣い…柔らかい吐息で顔を伺い…その顔は“痛い?”と尋ねてくれた。

物に痛みは存在しない。
俺は突然その時悟った。
痛みがあるのは、心が、あるからだ…。

奴の冷たい指先が傷をそっと…水で清め、奴が持ち込んだ薬草を貼り…布でくるみ…。
痛みは戻って来たが俺は…嬉しかった。
同時に奴の暖かい…心を感じたからだ。

奴はその晩ずっと俺に寄り添い…熱を出した俺の額に、冷んやりとした水で浸した布を幾度も…幾度も宛がってくれた。
慣れていた。
痛みにも、熱にも。

けれどその時は、奴の存在がやたら嬉しくて…気遣う指先が触れる度、告げて居るように感じた。
“生きていい。
生き続けてもいいんだ”と……。

願ってた。
死にたくなんて無かった。
例え未来が、真っ暗な陽の注さない暗闇だったとしても。

「僕は知らなかった、だけなのに?」
翌日奴は、俺の手当てをした。とチクった奴の為に、鞭でぶたれた。
その悲鳴は俺の胸を、引き裂いた。

ボロボロに成った奴は二度と俺をもう、見ないんじゃないか。そう…思った。
だがすまない。と見つめる俺に、奴は心から笑って告げる。
「君は何一つ、悪く無い」

その時の気持ちを、どう言っていいのか、解らない。
奴は神の事を良く口にしたけれど俺には…その時の奴の言葉が、神の言葉のように聞こえた。

だって、罵るのが普通だ。
“君のせいで…!”
傷は膿み、奴は熱を出したし、ロクに食べ物無く回復せず一週間、寝込んだ。
罵らなくとも…二度と俺になんか振り返ったりせず…俺の姿を見つけたら苦々しく顔を背ける。
“奴に、構ったりしたから、こんな目に合うんだ”と。
それが…当たり前だ。

だが奴は真っ直ぐ俺を見る。
そして微笑み…止(とど)めがその…言葉だった。

“何一つ…………”

丸で全てが、許されるような神の言葉を奴は俺に告げる。
真心。そう…奴は言った。

養父を恨んで当たり前のように、俺を恨むのは当たり前の筈だ。
恨みは人を強くする。
生き残る、原動力にすら成る。

ここの奴らは皆がそうだった。
上手くやる。
そして見返してやる…!
いつか…奴隷商人を笑う立場に、必ず成ってやる!

俺はそれに同意しなかったが…その気持ちは痛い程良くわかった。
そうしてないと、自分を哀れみそうだったからだ。
奴隷に成った自分…。
悲惨な末路しか用意されない身分の、誰にも本当に愛して貰えない自分を。

暖かな布団。
気遣う優しい手の温もり。
無条件で与えられる親の愛情…。
そんなものから完全に見放され…それがどれだけ哀れで惨めな事なのか、俺達は思い知っていた。

だから…誰かのせいにしてなきゃ、弱った心で自分を責める。
きっとどっかで自分は取り返しの付かないヘマをして…。
だからこんなひどい罰を今、受けてるんだ。と………。

が………。

“君は何一つ、悪く無い”

奴は心から、その言葉を俺に送った。
それは光って、暖かく俺の心に、灯った。

奴隷商人が金を受け取り、俺の背をゼッデネスの方へと押し出し…だがゼッデネスは、俺の冴えない顔を見た。
そして、唸った。
「何か…気にかかるのか?」
そして…俺は言った。奴の事を。
「…俺が倍働いて必ずあんたに金を返す」
「どいつだ?」

俺はゼッデネスに、奴を見せた。
ゼッデネスはその場で、金を払って奴を出した。

そして知り合いの…夫妻に彼を、紹介した。
夫妻は彼に良く似た男の子を、病で亡くしたばっかりで…涙ながらに彼を抱きしめた。
確実に…その優しそうな婦人と情愛溢れる夫は彼を…大切に扱うと、俺は感じた。

ゼッデネスに…その後言った。
「何をすれば借りを返せる?」
ゼッデネスは書斎でペンを持って振り向き、言った。
「俺は立て替えただけだ。金は結局、夫婦が払った」
俺がまだ、立ってると奴は振り返り、唸る。
「何時迄そこに居る。
教練でお前は好きに暴れられる。
本望だろう?
だが連中の、ルールもある。
ルールを覚えれば先の近衛でも、愉快に好きなだけ、暴れられるぞ」
「そうすればあんたの、役に立つのか?」
「家名が上がる」
俺は…頷いた。

オーガスタスはごろん。と身を転がした。
が、直ある学年無差別の剣の試合で多分俺は又、二年のローランデに敗れるだろう…。
ルールがある。
そうだ。
練習試合の剣は脆い。
力自慢に不利に成ってる。
力任せに剣を振り回したら折れ…それで負ける。

いかに器用に…手持ちの剣を折らず相手を叩きのめせるか…。
本当の剣技が、要求される。

その前はディアヴォロスが居た。



よりによって今世紀最強の剣士。とお墨付きの、半端無く強い男。
そして、ローランデ。




子供の頃から剣技を叩き込まれ、呼吸をするように剣を扱う。
俺も握って来たとは言え、あんな洗練されたもんじゃなく、いかに相手を叩きのめすかだけだ………。

オーガスタスはまた、マズい状況だ。と感じた。
その上、グーデンが立ち塞がり…退学に成ったりしたら、ゼッデネスにどう言えばいい?

いつも…ゼッデネスは俺の体を気遣った。
ほんの僅かな傷も見つけると…来い。と言って手当てする。
俺は手当てを受けながら呻いた。
「怪我されちゃ、使い物に成らないからか?」
ぶっきら棒な態度に見合わぬ、その優しい手元を見てそう…尋ねてみる。

ゼッデネスは吐息を吐いた。
「傷を侮って俺は片足、動かなくした。
お前を見ていると良く、解る。
暴れる事が大好きだ。
俺もそうだった。
そんな奴に俺の気持ちを、味合わせたく無いだけだ」
その声は、悼みに溢れ…俺は言葉が詰まった。

ゼッデネスは手当てを終え、俺を、見た。
「暴れてるお前は生き生きしてる。
だがそれ以外は、退屈そうだ。
唯一の生き甲斐を…無くすお前を俺は、見たく無い。
獅子のように髪を散らし暴れまくる生き生きとしたお前を見たくて…引き取ったんだからな」

ぽん。と…軽く腕を叩くその手は…自分の事を、大切にしろ。と告げて居て……。
俺はゼッデネスが、とても感情を表すのが、不器用な男だと、知った。

それはどこか…グーデンの弟、一年年下の、ディングレーを彷彿とさせた。



ディングレーは王族で気品に溢れ威風あり、騎士崩れのようなゼッデネスの…様にはとても、見えなかったが。

だがグーデンと相対する奴は苦しげで…兄に肩を抱かれると顔を歪め、呼吸も出来ない様子で…その後、見つめている俺に気づくと、ほっ、と呼吸を緩める。
実の兄より俺の姿に、救われるように。

そして俺は幾度も…兄のタチの悪い取り巻きに引っ立てられる、年下の少年を物陰でこっそり…助けてるディングレーを見た。

見ている俺の姿に気づくと、罰が悪そうに頬を染めて俯く。
だが決して…面と向かって兄に、意見した事が無い。
聞けば王族は年功序列がそれは厳しい戒律で護られていて、年上の相手への意見は控えろと厳しく…育てられてるせいだと………。

俺と違い清潔で綺麗で豪華な…それでも、牢獄に居るんだと…俺は奴の事を、思った……………。


だんっ!
微かに話し声がする。と思ったら、派手な物音に俺は体を跳ね上げる。
見たら…グーデンの配下の連中が、新入りの顔の綺麗な金髪の編入生を取り囲んで居たがその編入生は先に、取り囲む一人を伸していた。




金の髪が靡(なび)き、直ぐ横の男がその綺麗な顔に拳を振る。
それを鮮やかに身を反らし避け、直ぐその右腕が、唸るように拳を振った男の顎目がけてめり込む。

どっ…!
新入りのその横顔はやっぱり整いきって綺麗だったが、その紫の瞳は…感情を抑える事無く、激しく敵を睨め付けていた。

面白い奴を、見つけた。
俺はそう…感じた。
そんな風に…どこか鬱積(うっせき)した感情を構うことなく拳に乗せるのは、俺だけか。そう思ってた。

一年の、時の俺がそうだった。
上級はこぞって腕試し。と称し俺にかかって来たし、俺は思う様暴れて来い。とゼッデネスに言われ…解き放たれた、野獣のようだった。

こんな暴れ方をしたらいずれ退学だ。
皆は影でそうささやいたし、喧嘩相手にも言われた。
がいつも…大事に発展する前に現れたのは一学年上のカリスマ、ディアヴォロスだった。

上級達の下級に対する暴挙を、その最高に身分高く学校一の剣士であるディアヴォロスは見過ごさない。と奴らは知っていたから、誤魔化すようにつぶやく。
「単に…腕試しをしてただけだ」

ディアス(ディアヴォロスの愛称)は頷く。
そして俺の様子に
『大人しく、やられてないな』
と当たりを付けて言葉を残して行く。

「解っているだろうが彼は…どれだけ君達に傷を負わせても、処分を受けない」
つまり…ディアスは入学したての、俺を庇う。そう皆に、言い放った。

以来先輩方は、加減を覚えた。
俺にどれだけひどい目に合わされても俺が咎を負う事無く
『殴られ損』だと理解したので。

俺はその金髪の新入りに、視線を戻す。
相手は八人居た。
つい、腰が浮く。
が、その新入り…ギュンターは、向かいの男の腹を蹴り、左横の男の腹に左肘を喰らわせ、一気に三人沈めた。

残り五人が、かかって来るかどうかを一瞬、伺う。
相手の一人が拳を振って襲いかかって来ると、顔を振って避け、横に詰め寄る男に身を屈めて回し蹴りを喰らわせ吹っ飛ばし、足を地に着け様、拳を振りきった男の懐に潜り込んで下から腹を、殴り上げた。

どすっ!
腹にめり込む奴の拳に、殴られた男は食い物が逆流し、口をきつく閉じて吐くのを我慢する。
だが奴は素早く拳を、抜く。
残り三人。

今度は奴の方から一人に飛びかかって行き、その拳を振り回す。
がっ!
敵は思い切り頬に喰らう。

俺は目を見開く。
避けたその先に拳を振り入れる、高等技術。

逃げ腰に成る、残り二人の間に瞬速で詰めると、右の男に右拳をその腹に叩き込み、左の男に一瞬で体を倒して左肘を喰らわす。

俺はつい…静かに風に金髪を靡かせて唯一人立つ、その美貌の男を呆れて見つめた。
素晴らしくしなやかで素早く強い。
間違い無く奴は、野生の豹のようだった。

つい…立ち上がる。
その美貌の奴の眉が、俺の体格を目に、寄る。

奴が口を開く前に、俺はしゃべった。
笑って、いたと思う。
「助っ人は、必要無かったな」

ああ。と奴は顔を周囲の…今だ倒れ伏して殴られた場所を腕で庇い、呻く八人の男を見回し、つぶやく。
「そうだな」
言って、顔を上げる。
長身だったが俺は奴より更に背が高かったから、奴は自分より背の高い男を、見慣れぬように俺を、見上げた。

で、自己紹介した。
「四年の、オーガスタス」
ギュンターの、眉が寄った。
「四年にゃあんたみたいな…大男がごろごろしてるのか?
ここは体格のいい、男だらけだろう?」

俺は肩を竦めた。
「俺は特別高い」
ギュンターは、頷く。
殊勝にしてると、その美貌が際だつ。
つい…笑って肩を揺すった。
「その面が、気に入らないって?
グーデンは自分が学校一顔のいい男だと、思い込んでるからお前が、目障りなんだ」
「変える事の出来ない、面で文句つけられてもな!」
ギュンターが、吐き捨てるように言う。
「殴れば、変えられる」
ギュンターの、眉が思い切り寄る。
「そんな整形はごめんだ!
あんただったら、大人しく殴られてるか?」

敵だと…疑う事も俺の事を出来たのに、奴はもうすっかり、普通の奴に口を聞く様子で戦意を、解いていた。
だから俺もつい…その面白い男に、応えてやる。
「…してると、思うか?」
ギュンターは俺を眺め、そうだな。と肩を、揺すった。
「してる訳無いか………」
そのつぶやきに、奴が初対面なのに俺を…“同類”と認めた事を知った。

奴はその、美貌の顔を振り向ける。
優美な作りで、本当に綺麗だったが、奴の紫の瞳は俺の同類、豹のような鋭さを浮かび上がらせた。
丸で…俺の前じゃ自分を隠す必要が無い。と、言っているみたいに。

「いい酒場を、知らないか?
来たばかりで、不案内なんだ」

俺は肩を竦めた。
「入った途端、女に取り囲まれるな。その面じゃ」
ギュンターは俯いて唸った。
「俺は下級の、更に男を相手にする気が無いからな。
聞いたら、それ以外は酒場で女を引っかけろ。と言われた」
「誰にだ?」
「ディングレー」

俺は笑い出したく成った。
あの男がこいつを、気に入る理由が解りすぎて。

俺を伺う奴を、見た。
だが線が細く、少し…不慣れな場所で、不安げに見えた。
それで俺は思った。
ディングレーはこいつと連んで、面倒見るのは無理だろう。
そしてどうやらその役目は、俺のようだ。

「今夜がいいか?」
聞いてやると、奴は頷く。
「ここに来る前に支度や準備で三日、お見限りだ」
たったの三日?

呆れたが、確かに外でこの面じゃ、女達が放って置かないだろう。
頷くと、告げる。
「夕食後に校門だ。出られるか?」
ギュンターは、誰に言ってる?と睨んだ。
「当たり前だ」
俺はつい…奴の肩を掴んで大きく揺さぶり、笑った。
が、奴は男の付き合いに慣れてる様子で、俺の笑顔に少し、フテた顔を、見せただけだった。
笑っている俺に、唸る様に告げる。
「ディングレーは俺に迫る奴が居るだろうと言っていたが、顔を潰そうとする奴しか寄って来ないぞ?」
俺は真顔で尋ねた。
「口説かれたいのか?」
ギュンターは俺を見返す。
「…口説かれたいように、俺が見えるか?」
いや。と首を横に振った。


 酒場に入ると案の定、奴の容貌は目立ちまくった。
が、肝心の奴は俺を見上げる。
「…あんた、有名人なのか?」
俺は苦笑した。
「注目を、集めてるのはお前だ!」
「俺は慣れてる。だが全部が俺を見てないぞ?」

俺は肩を竦める。
「確かにここで俺に逆らう奴は皆、痛い目見てるからな」
そうだろう。とギュンターが顔を、訳知り顔で揺らす。
面と…背の割に細い体付きが奴を優美に、見せていた。
「…痩せてるな」
俺が言うと、奴は木目のカウンターで酒のジョッキを受け取り、呻く。
「旅先でロクに食えない日も、あったからな。
だがここじゃお代わりを幾らしてもいいそうだ。
直腹が出るかもな!」
笑う奴に、俺もジョッキを受け取り、言ってやる。
「机に座る授業はほんの少しだ。
体を使う授業が殆どだから、脂肪を蓄えてる間なんか、無いぞ?」
「なら、腹を引っ込める為に、喧嘩相手を探す必要も無いか…」
俺は、呆れた。

「喧嘩が、好きか?」
「言葉で言うより、手っ取り早い」
俺はついまたその…美貌の面を、見た。
「柔な奴だと、舐められるか?」
ギュンターはようやく吐息を一つ吐き、ささやいた。
「殆どの、奴にな!」
俺は、頷いていた。


直ぐ、一人の女が寄って来た。
「オーガスタス。貴方の連れ?
見た事無い顔ね?」
「三年の編入の、ギュンターだ」

が、女が腕を絡ませると、ギュンターは気まずい顔を、した。
つい顔を寄せて耳元でささやく。
「食う気で、来たんだろう?」

ギュンターが顔を向ける。
「…あんたの、女じゃないのか?」

俺は笑った。
「俺の女なら、遠慮するか?」

ギュンターは顔を、俯いたまま揺らす。
「…夕食時に、あんたの話を聞いた。
学校一のボスで、皆あんたを頼りにしてる」
俺は言った。
「それは皆だろう?
お前は自分の判断で俺に対せばいい」

「…だから…俺もお前はそうだと思う」
「そう?」
ギュンターは真っ直ぐ俺を、見た。

「助っ人に、入る気だった。そうだろう?
俺が奴らにやられていたら」

…俺はそういうのが、苦手だったから顔を、背ける。
「…まあ…グーデン一味は俺にとっても敵だ」
ギュンターが即答した。
「だが自分の一味に加われと、あんたは一言も言わない」

「それはお前の自由だ」

ギュンターの、眉が寄った。
「助っ人してたら?
配下に成れと言ったか?」
「どうして言う?」

ギュンターはつぶやく。
「あんたは常識外れで変だ」
「どの辺が?」

「普通、体格と腕力にモノ言わせて、勢力を拡大する」

背後で、笑い声が聞こえた。
「顔の綺麗な新入りに、オーガスタスが絡まれてるぜ!」

ギュンターと俺が振り向く。
同学年の悪友共が、集ってた。
一斉に、杯を上げる。
「その様子じゃ、新入りは早速グーデンらに絡まれてたようだな?」

俺は笑った。
「編入生の身上道理、奴一人で全部、蹴散らした!
助っ人は必要無かったぜ!」
「マジかよ?」
「腕が立つって?その面で?」

そして忠告を付け加える。
「自分で確かめようとするなよ!
どうせグーデンの奴らは引っ込んで無いし、こいつも喧嘩っ早いから暴れる姿に直ぐ、お目にかかれる」

どっ!と皆が沸く。
俺は笑う悪友共に言葉を足す。

「だがこの面だ。女は取られる。
取られたく無い奴は今の内に、女を鎖で繋いどけ!」

全員が、あ〜あ!とふて腐れる。
「俺の財布は、空(から)っ欠なのに?」

「贈り物で無く、あっちで満足させりゃ浮気しない」
「こいつにそれは、どだい無理だ!」
どっ!と笑いが一斉に飛ぶ。

ギュンターの、顔に微笑が浮かぶ。
くつろぐような、笑顔だった。

「男の兄弟か?」
つい、尋ねると、奴の眉が寄った。
「上に二人、下にもう二人の、野郎だらけだ」
俺は、道理で…。と頷いた。

「お前と違って少しは…お上品か?」

兄弟のはぐれモノで、鬱憤晴らしに暴れん坊なのか。と思い、尋ねたがギュンターの、眉がもっと寄った。
「冗談だろう?
俺の上を行く、暴れん坊達だ!」

きっぱり言い切られて、俺は不本意に頷いた。
確かに…俺の女だと思って遠慮する辺りは、兄弟からはみ出る、我が儘男に見えなかった。

女に腕を引かれ、ギュンターは彼女を見つめる。
そして俺に振り向く。
「本当に、いいんだな?」
俺は頷く。
「エリーダを満足させられたら、大した物だ」

背後の連れの一人が叫ぶ。
「奴の後は俺だ!
坊やの口直しを、してやるぜ!」
ギュンターは呆れて皆を見つめる。
が腕を絡ませた女は笑う。

「いいわ…!
楽しみにしてる!」

俺は呆けるギュンターに、そう言う事だ。と頷いてウィンクしてやった。

が、ギュンターが酒場の隅に視線を振る。

「あれ…一年で見た顔だ。マズいんじゃないのか?」

つい、奴の視線の先を見た。
そこには確かに、一年の壇上で一番最後に名を呼ばれた、大公を叔父に持つ大貴族の美少年が、酒場でタチの悪い男に絡まれていた。



その男の事は良く、知っていた。
乱暴な扱いをする。と女に毛嫌いされていて、教練で下級生が上級の、ペットにされてるのを良いことに、その立場の弱い少年達ばかりを狙ってる男だった。

体格良く、なかなか見目も良かったけれど、大抵の相手は傷を作るし、女を孕ませても責任も取らない。

かくして女に相手にされない奴は、時に女を捕まえては強姦するので男達に袋叩きにされ…それで懲りて…文句の言えない、教練のお上品で弱い、美少年らを相手にし始め…。
今度は俺達に、睨まれ始めた矢先の男で………。

見ていると、焦げ茶の栗毛を胸に背に垂らす、結構一年にしては背の高い、気品の塊のようなはっ!とする程色白で美しく整った美少年で、彼は行く手を男に塞がれ、困惑していた。

また一歩、男を避けて先へ行こうとするが、男はその胸で進路を遮り、抱き寄せようとする。

ギュンターが女の腕を振り解き、ずい!と進み出ようとし、俺は呆れて奴の肩を掴み、止めてつぶやく。

「初日から目立つ真似する気か?
ここは俺に任せて、女と楽しめ」

ギュンターは暫く、俺を見つめていた。
「…いいのか?」

「学校のボスだと言ったのはお前だ。
自覚は無いが、どのみちあの男と俺は、決着付けないとな」

言ってる間に、美少年は男に強引に抱きしめられながら、酒場の外へと、連れ出される。

「エリーダをこれ以上、待たせるな!」
言って奴を押し退け、奴らの後を追って酒場の扉を、開けた。

どんっ!
美少年は酒場の外壁に背を突き飛ばされて打ち付けられる。
正面に、被さるように見つめる男をその濃紺の瞳で、睨め付けていた。
体格で勝る男は、にやにや笑ってる。

ここで始める気か?
だが奴は酒場の親父さんにも睨まれ、酒場の中の部屋は使えなかった。

男はいやらしい目でその、新入生の真っ新(さら)な美少年を笑って真正面から見つめ、口を開く。
「俺で無くとも、上級の奴らが念入りにお前に教えてる筈だぜ…!
男に鳴かされるのは慣れてんだろう?
それとも尻を振って、くれと可愛くせがむのか?
お綺麗でお上品に見えたって!
中身はそうじゃないとバレバレなんだよ!」
そう言って、男はもっと被さって行く。

馬鹿…!
そいつは大貴族だ。
教練は確かに体格でねじ伏せる奴が殆どだが、身分重視。
大貴族のそいつには、皆迂闊に手は出せないんだぞ!

駆け寄ろうとした、その時だった。
被さった男がふいに…ぐったり…と力を無くし、美少年に身を倒す。

その大貴族の品のいい美少年はだが、きつい濃紺の瞳で被さる男を睨め付け、真っ赤な唇を噛むと、咄嗟に自分にしなだれかかるその男の体を突き飛ばして浮かせ、瞬時に下から、拳を叩き込む。

がすっ!
「ぐっ………!」

どうやら男が迫り被さった時既に一発目を、腹に叩き込んでいたらしい。
一発目で完全に気絶し無かった男は、その二発目の痛みに呻き声を上げる。

が腹を押さえて美少年を見つめ、呻く。
「覚えてろよ…!
どんな手を使ってもお前を、頂いてやる!」

が、その美少年は、焦げ茶の艶やかな巻き毛を振って、頷く。
「懲りて、無いようだな…!」
そして、いきなり片足後ろに引くと、思い切りその男の股間を膝で蹴り上げる。

がっっっっ!

見ていても解る程、激しい一撃だった。
男があまりの痛みに、声も出せず仰け反る。
がその美少年はいきなり屈むと、その男の股間を手で鷲掴みにし、男の顔を見てうっとりするような美しい微笑を湛え、ささやく。
「痛むか?」

男は声も出ず、首を縦に振る。
が…美少年の微笑は冷笑に変わる。
「ぎゃあっ!」

男は叫び、必死で股間を掴む美少年を突き飛ばそうと手で払い退け、が退かせる前にまた…。
「んぐぁぁぁぁっ!」
くぐもった声を上げて首を、振る。

男はとうとう、ぜいぜい…と口の端から涎を垂らし、肩で息をして背を丸め、震える。

美少年はまだ股間を掴んだまま、その男の表情を見守り、優しげにすら見える微笑を湛え、顔を近づけささやく。
「私を……どうするって?」

俺はその、顔の表情とは裏腹の、徹底した冷酷な攻撃に呆れ返って言葉も出なかった。

第一幾ら膝蹴り喰らわせたとはいえ、大人の一物を14才の少年が、潰すその握力にも。

返事が無いので、その美少年は更に握っているモノに力を入れる。
「ぐ…ぐぁ……!」
男はもう、だらだら口から涎を垂らし、涙まで浮かべている。

この光景を、リアンナ…シャルロッタらが見ていたら、驚乱して喜ぶだろう…。
妊娠した…。と男を攻め、そして散々暴力を受け、流産した二人なら。

「…おい…。
随分口数が減ったな?
さっき酒場で、私に何て言ってたっけ?

男の癖に、色っぽいな。
もうとっくに上級生に抱かれて可愛がられてるんだろう?
尻の奥が疼いて、たまらないんじゃないのか?
俺が突っ込んで思い切り、慰めてやるぜ。

…確か、そんな事言ってなかったか?」
「ぐ……ぐぁぁぁぁぁおぅぅぅぅ!」

余程痛いんだろう。

涙と涎でその顔は、ぐちゃぐちゃだった。
他の男なら男として同情もしたが………。

男はがくがくと膝を揺らす。
息をするのも、立っているのすらやっとのようだ。
がしかしあれ程ガタイのいい男に、抵抗も出来ない程の痛みを与えるだなんて、どれだけの握力なんだ?

が、美少年は微笑を浮かべたまま、再び優しい声色でささやく。
「それで?
当然、これ…で!」
「ぎゃああああっ!」
「私の尻の奥を、慰めてくれる気なんだな?
だがこれが、使い物に成るならの話だが!」

そう言い切った美少年の濃紺の瞳が途端、ぎらりと光り、俺はぞくっ。とした。

顔の綺麗な男の、予想外の暴れ振りを見たのは今日二人目だった。
が、この新入生はギュンターとは全く逆。
どう見ても優雅で少し弱々しげにさえ見える、気品溢れる可憐な美少年。

が美少年は最早優美な微笑を取っ払い、相手が竦み上がるような冷笑を浮かべ、続ける。
「…残念だな。
これ…が!」
「ぅぐぅぅぅっっっっっっっっっ!」
男は痛みを必死で、堪えようとしていた。

「私を慰めてくれるのを楽しみにしていたのに。
だが次があると、君は言った」
途端、美少年はその手の握りを解いて背を伸ばす。

解放された男は、俯き涎を滴らせたまま、身をがくがくと震わせていた。
が美少年はその綺麗な面を優美に持ち上げると、目前の屈む男の、肩を押す。
押されて男は後ろに倒れ、地面に倒れ込む。

どんっっっっ…!

色白の美少年は真っ赤な唇の、整いきった優美な顔を、倒れる男へと向けて下げる。
良く手入れの行き届いた焦げ茶の艶やかな巻き毛が胸元で揺れ、ぎらりと光る濃紺の瞳で男を静かに見つめると片足を…振り上げた。

流石に、俺は飛び出した。が遅かった。
がんっっっっ!
「ぎゃあっ!」
凄まじい絶叫がし、男は事切れたように、気絶した。

美少年は屈んでいたが、駆け寄る俺に顔を上げ、一瞬で眉根を寄せる。

直ぐ彼の方から駆けて来て俺に寄ると、素早く足を止め、俺を見上げささやく。
「…黙って…いてはくれませんか?」

直ぐ、酒場の扉が開き、男の叫びに何事かと、数人の男が姿を見せる。

美少年は真摯な濃紺の瞳を向け、俺に懇願した。
「…貴方がした事に……しては頂けませんか?」
その真剣な表情が切羽詰まり…あんまり一生懸命に見えて俺は固まった。

倒れる男に屈む男達が口々に騒ぐ。
「…潰れてる………!」
「いい気味だ!これで奴の被害者は居なく成る!」
「あんたがやったのか?
教練のデカイ暴れん坊!」

その整いきった一年の美少年はまだ真っ直ぐ、俺を見つめ続ける。

俺は…結局彼の懇願するあまりに真剣な表情に気圧され、仕方成しに口を開く。
「ああ……俺だ。
ウチの下級に手出ししたから、思い知らせた」
皆が頷く。

美少年…アイリスが途端、俺を見つめた瞳を反らさず、安堵の吐息を吐き出す。
俺は内心動揺と、彼に従っちまった自分に舌打ちそうに成りながら素っ気なく怒鳴る。
「潰れてるか?」

倒れる男に屈む男達から直ぐ、返事が戻って来る。
「医者に、見せないとな」
「だが血塗れだ」

俺は、頷く。
「こいつを送ってく。後を頼めるか?」
「後で酒場に寄って、祝杯を受けてくれ!」
俺はアイリスの背を抱き…連中に頷いていたと思う。

肩を抱いて歩くものの…間違いなく抱いて隣を歩く奴は確かに…猛獣だった。
気品の塊。上品な香水の漂う、育ちの良さそうな。

暗い校門に立つと、アイリスは振り向く。
「アイリス。そんな名だったな?」
聞くとアイリスは微笑を浮かべる。
「名前を貴方に覚えて頂けるなんて、光栄だ」
まだたった14の少年の…無邪気にすら見える笑顔。にだが俺はぞっとした。

ふいに彼の白い手が伸びて首の後ろに手を掛けられ、顔を下げさせられると彼が顔を寄せて来、その唇が俺の唇を掠め、ぎょっとし身を、起こす。

途端彼は悪びれも無く言葉を紬出す。
「ああ…こういうお礼は必要、ありませんか?」
俺は目を、見開いたままつぶやく。
「これは俺に取っては礼じゃない」

アイリスはくすり。と笑う。
「では別の礼を後日、届けさせます。
本当に、助かった。

ついでに、誰にも言わずに居て下さると嬉しいんですが」
「なぜ?」
アイリスは悪戯っぽくくすり。と笑うとささやく。
「学年無差別剣の練習試合を、見て頂ければ解ります」

俺は…頷いていた。
そう言う謎かけは、嫌いじゃなかった。

が、アイリスは頷く俺に、気を良くしたのかつぶやく。
「…失礼を、お詫びします…。
入学してからこっち…結構男に口説かれてしまっていて…。
つい、貴方もそっち系の男とカン違いして…」

こっちもつい、無言で頷く。
「お前の身分なら無体な真似は、されないだろう?」
だがアイリスは、男の睾丸潰した時のような、きつい瞳をすると吐き捨てるようにつぶやく。

「すっかり…忘れてたんですがね。
この顔がタイプの野郎が居る事を…。
いつも周囲には女性しか居なかったから、まさか私を口説く男が居るだなんてね…!」

「その女性ってのは、身内か?」
彼は朗らかに、そしてとてもチャーミングに微笑んで首を横に振った。
「当然、しとねを共にする女性ですよ」

俺はああ…。と首を縦に振り、俯いた。
確か、14の筈だ。
末恐ろしい14才も居たもんだ。

「でも、ともかく目立つのは、困るんです…!」
そう言う彼はやっぱり、優美そのものの可憐な美少年に見えて…俺は背筋が冷たく成った。

俺はもう…理由を尋ねる気も無く、頷いた。
「他言しないと約束しよう」

彼は、とても嬉しそうに微笑んだ。
濃紺の瞳がきらきらとし、艶やかな焦げ茶の栗毛を品良く胸に垂らす、真っ赤な唇が色白の肌に映えた美少年だったが、もう俺はこいつを、外観道理見られなかった。

彼は突っ立つ俺の手を両手で親愛を込めて握り込み、顔を見上げささやく。
「後日必ず…!
お礼を届けさせますから……!」
言って背を向け、一度振り向いて微笑む。
俺は咄嗟に、礼は要らない…!と叫びかけ、止める。

奴に握られた手が、微かに震うのに気づいたからだ。
あんなぞっとするモノを、見せられたんだ。
有り難く…貰って置こう。そう、思った。


 酒場に戻ると、ギュンターはエリーダを伴って個室から戻ってた。
俺を見つけると近付いて来る。

だが戻ったエリーダに次を申し入れた奴が断られ、皆がギュンターの背後で一斉に、ブーイングを垂れた。

「あの顔で…?
そんなに良かったのか?!」
「奴は上手かったって?!」

俺は目前に立つ、ギュンターをつい、まじっと見た。
が、ギュンターは口を開くと、言った。
「あいつは…?
大丈夫だったのか?」

俺は呆れた。
「余所事考えて、それでも女を満足させたのか?」
ギュンターは情事の後で、その金髪と男らしい美貌に艶と輝きを纏っていたが、眉間を寄せる。
「最中は考えないさ!」
俺は、頷いた。

もし俺が止めなければあの、すまして綺麗な顔をした気品溢れる美少年の猛獣振りを、見てたのはこいつの筈だった。

俺は、一つ吐息を吐き出してつぶやく。
「男は撃退し、奴を校門まで送って行った」
ギュンターは頷く。
「あんた、さすがだな!」

ぽん。と肩を叩かれたがまさか…あの美少年が自分で、しかも普通の奴が、やらない程強烈な方法でカタを付けた。とは口が裂けても言えなかった。

だが酒場の男は杯を俺に手渡すと、叫ぶ。
「奴は無事、睾丸も一物も潰れた!」
酒場中の、男も女も一斉に杯を、俺に上げて歓声を上げる。

ギュンターが横で、マジマジと俺を、見つめた。
「そこ迄して…この祝いか?
余程最悪な男だったんだな?」

タチの悪い男から、俺が下級を救い出した。とギュンターに迄尊敬の瞳で見つめられ、俺はつい、顔を背ける。

皆が奴の…一物を潰した俺を、頼もしそうに見上げる。
俺の握力ならそれは訳無い。
と皆が微笑む。
そう…俺の、握力ならば。だ。
だが潰したのは俺じゃない。

俺は何時迄も歓喜に沸き立つ酒場で皆に感謝を告げられ、酒の味なんか全然解らなかったし、寄って来る女の手を取る気すら、無い程気色悪かったが、奴に口外しないと約束した。

奴に代わって英雄に成り…つくづくその苦々しい気持ちに強烈に思う。
やっぱり送り届けられた奴からの贈り物は、突っ返さず貰っとこう。と。

追加を、請求したって良いはずだ。
英雄を、湛えるこの場から、逃げ出す事も出来ない俺の居心地の悪さを考えたら………!




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6 スフォルツァの祈り に続く。



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プロフィール
「アースルーリンドの騎士」-ブロくる
天野音色 さん
「アースルーリンドの騎士」
地域:愛知県
性別:女性
ジャンル:趣味 漫画・小説
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オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
「二年目」のミラーサイトに成っちゃいました。
昔はこっちが本家だったんですが………。
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