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¶二年目 14 ローフィスの采配
[¶二年目 14 ローフィスの采配]
2010年12月18日 5時48分の記事



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追加更新情報とかつぶやきますので
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$「アースルーリンドの騎士」






 ローフィスは講師の声が眠り歌に聞こえ、余りの眠気にもう少しで机に、突っ伏す所だった。

四学年の集うその講義に、グーデンが姿を見せないのはいつもの事で、奴は修学済み。と言う講義免除を強引に取り付け、毎度講義を欠席していた。

奴が出て来るのはせいぜい…乗馬の講義くらいだ。

突然講師に名差しで立たされ、今の疑問に答えろ。と言われ、どこをやってるかを必死で黒板から探り、質問の予測を付けようとした所でシェイルが入って来て、講師に急用だと告げ、自分をその窮地から救い出してくれて思わず、シェイルに感謝の視線を向ける。

ディアヴォロスが卒業した今、やはりむさい男ばかりの教練の中で、咲き誇る花のように可憐なシェイルの姿は講義室中のざわめきを伴い、一斉に視線が彼に注がれ、シェイルは自分が横に来た途端、隠れるようにして身を横に、寄せる。

そっ…と顔を下げ…シェイルに囁く。
「…ただ、見てるだけだ。
もう…慣れただろう?」

シェイルが異論を唱える様に見上げる。
その顔が睨み顔で、ローフィスは吐息を吐いた。

「…ディングレーが…来る筈だったけど、彼は殴られて医療室で…それに…俺があんたに、会いたかったし」

シェイルに可愛らしく見上げられ、ローフィスは吐息を吐く。
「…つまり、俺が必要なのはディングレーって事か?」

シェイルがあどけなく見つめる。
「子細は知らないけど…一人が助けを求めてきて…もう一人が掴まってるって。

で、ディングレーを呼んで…」

ローフィスが振り向く。
「…奴一人で?助け出せたのか?」

シェイルが首を横に振る。
「三年の…編入生と…一年のアイリスが助っ人に行って…ディングレーは殴られてたけど、無事に助け出して戻って来た」

「………………………」
「ローフィス?」
「まあいい。子細はディングレーに聞く。
お前は講義に、戻ってろ」

シェイルは可憐に頷くと、行こうとし…けど振り向き、ローフィスの腕を掴み…小鳥のようにふわり…とその唇に口付け、身を飜す。

軽い…風のような接吻。
シェイルは頬を少し赤く染め…でも嬉しそうに一度振り向きそして…駆け去って行った。

ローフィスはシェイルの幻影が甘く唇の上に残り…思いっきり動揺する自分を、必死で抑えた。

でないと、シェイルの後を追ってしまいそうだった。
腕を引き…捕まえ…そして…ディングレーも編入生も、知った事かと念頭から閉め出してシェイルを…どこかに連れ込んでそのまま………。

だからローフィスは頭の中から、シェイルの触れた、唇の甘さを閉め出した。

そして、医療室に足を、向けた。


 サッテスは自分を見るなり、むっつりした。
ディングレーの姿は無かった。

「今、出てったばっかだ。
会わなかったか?」
「廊下の分岐点ですれ違ったんだな」

つぶやくと、サッテスはむすっとして、椅子に掛ける。
「ディングレーは兄貴の部下に殴られたそうだ」

ローフィスは黙って頷く。
「連れて来られた子はとっとと事は済んでて…乱暴には扱われたが、傷付いてはいなかった」

「…良かったな。で?もう一人は?」
そう尋ねると、サッテスが顔を上げる。
「…そういや、編入生がもう一人を看てて、後でここに来るかも。とは言ってたな………」

ローフィスは頷く。
「…ひどかったのか?」

そう…尋ねてやると、サッテスはますます険しい表情で振り向く。
「自分の子供を男に慣らしてここに送り込む、親を一発殴ってやりたい!」

ローフィスは目を、見開いた。
サッテスは吐き捨てる様に言った。
「ディングレーの保護した子がそうだ」

ローフィスはそう憤る、サッテスに一つ頷くと言った。
「鬱憤が溜まってるか?」

「これからだな…。
オーガスタスが退学になんか成ったら、最悪だ」
「ディアヴォロスが、させないさ…。
俺が奴に使者を出すからな!」

サッテスが、頷いた。



 ローフィスは三年宿舎に入ると、授業で皆出払ってるだだっ広い一階の食堂は、がらん。としていた。

先に編入生を覗きたかったが、部屋を知らないな。と思いつつ…良く、見ると食堂の椅子に、寝そべってる一人を見付ける。

本を顔の上に乗せ…横に成っている。

本を…持ち上げてやると、その髪色と顔は、見慣れた少年だった。
「…ゼイブン……。
編入生の部屋を、知らないか?

…ディングレーもさっき、戻って来なかったか?」

ゼイブンは聞かれた途端、むくっ!と身を起こす。
そして…横に立つ、ローフィスを見上げる。

ローフィスは吐息が漏れた。
「いい加減真面目に授業に出ないと、流石に単位を貰えないぞ?」
「…女遊びが、過ぎる…。と言いたいのか?」

「…まあ…柔っちろい面で男に目を付けられ、鬱憤が溜まってんのは解ってるが」
「分かって無い!」

ゼイブンはローフィスの手から、本を引ったくって怒鳴った。
「…通い詰めでやっと…落とした女なんだ。
もう、激しくって三度終わってもまだ…!
と離してくれない…。

嬉しいが…俺だって精力絶倫じゃないからな!
結局……戻ったのはさっきで…授業に出るつもりだったが、かったるくて…」

「そりゃ…そうだろう…。
そんな好き者の女を、通い詰めて口説いたのか?」

「貞淑な喪服の似合う未亡人で、喪が明けても喪服着てるから…そりゃ凄く、死んだ旦那の事を愛してたんだ。と…燃えるだろう?」
「慰めるのは俺だって?
…馬鹿だろう?お前」

ゼイブンが睨むので…ローフィスは肩を竦めた。

「…あんただって知ってるだろう?
編入生が押し込まれる部屋なんて大抵…」

ローフィスは先が解って頷いた。
「幽霊が出るって噂の部屋か?」

ゼイブンは無言で頷く。
ローフィスは先を行きかけてゼイブンに振り向く。

「授業に出る前、ちょっとディングレーの部屋に寄って、俺が先に編入生の部屋を覗いてから来る。
そう伝えといてくれ」

ゼイブンは途端ローフィスを睨み付ける。
「………冗談だろう?!

俺はあいつが、凄く苦手だ!
ああそれから編入生も、カオはそりゃ綺麗だが、背はあるし大したタマだぞ!

初日にシーネスデスとやって奴を殴り倒し、その後もやったらしくて…ともかく、グーデン配下を名乗ってる奴らは全員顔を腫らし、ギュンターが通り過ぎると道を譲ってる!」

ローフィスは肩を思い切り竦め…呻いた。
「ディングレーの、助っ人する筈だ…」

ゼイブンは頷く。
「やりそうだな。
で…ディングレーとデキてるって噂だが…本当か?
全然そんな感じじゃないが」

ローフィスは思い切り振り向く。
「…俺が知る筈無いだろう?」
「だが、これから会うんだろう?」

「…俺に見当付けろって?
それが重要か?」

ゼイブンはムキに成った。
「寝室でディングレーに可愛がられてるんならちっとは…可愛いとこもあるって事じゃないのか?!」
「…違ってたら?」
「俺は絶対!ギュンターの側には寄らない!」

ローフィスは吐息が漏れた。
「…口説かれるから?」
ゼイブンは歯を剥いた。
「近づくと、喧嘩に巻き込まれるからに決まってる!!!」

「…つまり俺が出て来る迄…そこでサボってる気か?」
「…言ったろう?
俺は四度目をこなし…出がけに五度目も、こなしたんだ!」
「じゃ当分女は足りてるな」

「…でも今夜は別口と約束がある」
ローフィスは呆れた。
「その為に授業サボって体力温存か?
…マジで単位落とすぞお前」

「ご心配有り難いが、この可憐な美少年が最悪に危険な一、二年を乗り切って無事三年で、もう俺を女の代わりにしようなんて発想の男が大方居なく成ったんだ!
今を楽しまなくて、どうする?
来年は卒業だし」

「…………だってここで単位落としたら、その卒業も、無いんだぞ?お前」

呆れきったローフィスの言葉に、でもゼイブンは頭を揺らした。
「まだ年度始めだ。
後半は自重するさ」

『出来るのか?』
言いたかったが、止めた。
確かに可憐な美少年だった。一年の時は。
今は青年になりかけ、どうやら女に夢中で入れこんでる。

言ったって、聞きやしないだろう。

ローフィスは食堂の奥の、外へと続く扉を開け、そこに階段を見付けた。

去年自分が過ごした宿舎だ。
要領の悪い奴か、後から来た奴が押し込まれる、吹きっ晒しの外階段の、冬は冷え込む外れの一角だった。

ノックをすると案の定、入学式の時見た、派手な金髪の美貌が顔を、出す。

思わず、くすっと笑う。
「…やっぱここに、押し込まれたか…」

ギュンターはその、見知らぬ男が好感が持てるのに、怪訝な表情で尋ねる。
「…あんたと俺は…面識があったかな?」

「酒場でオーガスタスと連んでたろう?
四年で、オーガスタスの友達だ」

ギュンターは必死で記憶を、探ろうとした。
確かにチラと…酒場で見た顔かもしれない。
ともかく酒場で集うオーガスタスの友人は、多かったので。

「…で?」
ギュンターに聞かれ、ローフィスが囁く。
「ディングレーと一緒に、グーデンの所から少年を助け出したって?」

ギュンターは聞かれ、途端に顔を歪める。
がその表情すら綺麗で、ローフィスは呆れた。

確かに優美な美貌で、皆が全員見入る筈だ。
外で見ても目立つだろうが、何といってもここはむさい男ばかりだから余計に、目立つ。

「…ひどい状況だった。
縛られてて身動き取れず…グーデンが突っ込む為散々…色々嬲られてたようだ」

ローフィスも内心吐き気がした。
が表情に出さずつぶやく。
「…傷付いては…無かったのか?
お前が面倒見ると言ったらしいが」

「…煽られて…勃ってたからな…。
ずっとそのままだから…何か薬でも使われたんじゃないか?」

ギュンターが声を顰めるので、ローフィスは中にその、少年が居る。と解った。
「…で?」

ギュンターはもっと、声を顰める。
「…手で納めるつもりだったが…」
「…そうはいかず…突っ込んだ?」

聞いてやると、ギュンターの、顔が揺れる。
「さんざ、煽られてて…どうしようも無かった」
「…でお前、それで勃ったのか?」

「か細い手でしがみつかれちゃ…勃つだろう?」
ローフィスは大したタマだ。の意味が解った。

「ちょっと様子、見てもいいか?」
ギュンターがようやく、横を開ける。
ローフィスが室内に入ると、寝台の上でその黒髪の美少年は寝息を、立てていた。

安らかな顔。
「寝てるから…声顰めたのか?」
小声で聞くと、ギュンターは頷く。

生意気にも隣に立つと、自分より背の高い三年につい…ローフィスは見上げる。
ギュンターは気づいて…首を縮こめ、頭を下げた。

「…そりゃひどい目に合って…やっと安心したんだ。
ゆっくり休ませてやりたいだろう?」
「…成る程…。
助け出した状況を…聞いてもいいか?」

ギュンターは頷く。
「俺が行った時、ディングレーは殴られてた。
多分…相手は四年だ」

ローフィスは頷く。
「何人居た?」
「二人」
「助っ人したのか?」
「一人はディングレーがとっくに沈めてたからな」

「…だが他にも居たろう?
グーデンの部屋か?」
ギュンターが、頷く。
「王族の部屋とかで…品のある変わった髪色の奴が、えらく心配してたからな…」

ローフィスは、ローランデの事らしい。と見当付けた。

頷くローフィスに、ギュンターはその爽やかで整った顔を見つめ、尋ねる。

「ディングレーの部屋には行った事あるが…王族の部屋ってそんなに…敷居が高いのか?」

ローフィスは、ゼイブンの言った言葉の意味が解った。
「…ディングレーはだってお前を、招いたんだろう?
…奴は酒を飲んでいたか?」
「ああ俺も、飲んだ」
「…で、泊まった?」

ギュンターが、顔を上げる。
途端、真横にあった顔が上に伸び、見下ろされその顔は、眉間を思い切り寄せていた。

「…いや」
「一緒に酒を、飲んだだけか?」

尋ねられ、ギュンターはだがまだ慎重だった。
表情は誤解されてる。と感じかなり、怒っていたが。

「…そうだ。それ以外を期待されても、無い袖は振れない」
ローフィスは吐息を吐く。
「…ディングレーは深酒すると、男相手に迫るからな…」

ギュンターが、ぎょっとした。
「…じゃ、奴がかなり酒を煽った時はさっさと退散しよう…。
いい奴だから、殴り合いたくない」

ローフィスはくすり…。と笑った。
「ディングレーが気に入ってるから…授業を抜けて助っ人したのか?」

ギュンターは俯く。
「…サボってたら…ディングレーが駆け出して…しゃべってるのが聞こえた。

一年が助けを求めてるって。
グーデンの名も、聞こえたしな」

ローフィスは呆れた。
「お前くらい目立つ奴は、代返が利かないだろう?」
ギュンターは歯を剥いた。
「昨日はオーガスタスと酒場で…かなり飲んだし、女も抱いちまったからな!」

ローフィスは肩を竦める。
「だってお前が酒場なんかに顔出したら、女が放って置かないだろう?」

ギュンターがまた…俯く。
「…一所(ひとところ)に長く居た試しが無かったし…旅先じゃ俺は餓鬼でひよっ子に見られてて…そんなにモテた試しも無いから、つい…」
「楽しくて?」

ギュンターは気まずそうに顔を背ける。
「…そりゃつれなくされるより…歓迎された方が、いいに決まってる」
「…まあ、そうだ。
その面で旅って…盗賊に良く、浚(さら)われなかったな?
ヘタすりゃアースルーリンドの外で売られるぞ?」

ギュンターが、振り向く。
「…あんただったら大人しく捕まるか?」
ローフィスは首を横に振った。
「いや」

「…だから俺だって喧嘩の仕方を覚えた。
一緒の叔父貴には『浚われても助けない』と言われてたからな」
「………スパルタだな………」

ギュンターは大人しく、頷いた。
「…まあ、背が伸びてから、寄って来るのは盗賊から女に変わったが」
「………良かったな」
ローフィスは思わず、長身の美貌の男に同情して顔を、上げた。

彼は殊勝に、頷いていた。

後でもう一度顔を出す。と言い、ローフィスはその部屋を後にした。


 だだっ広い食堂に戻ると、ゼイブンはやっぱりそこに居た。
「…で?」

机に肘を付いて聞かれ、ローフィスは首を横に振る。
「ディングレーとはデキて無い」
ゼイブンはがっくり首を、落とす。

「…あいつ…あのツラに似合わず滅茶苦茶喧嘩っ早いぞ!」
ローフィスは
『そりゃ、盗賊がごろごろ現れるような旅で、頼りの叔父貴に『助けない』と言われてちゃ、そうなるよな…』
と吐息を吐いた。

「先制は一番利く攻撃法だ」
「…だとしても!
あいつのやり様は半端じゃないぞ!」

「…まあ…編入生って、そう言うもんだ。
まして三年の編入だ。
よっぽどの腕の男じゃなきゃ、講師共も合格は出さない。
入れても直ぐ大怪我負って学校を辞めちゃ、意味無いだろう?」

で?とローフィスに見つめられ、ゼイブンはローフィスを睨む。
「…俺はディングレーに寄ると、あいつの唇の感触を思い出して蕁麻疹が出る」

ローフィスはがっくりと顔を伏せた。
「………言ったようにあいつは深酒すると記憶が、無い」
「俺もそうなりたいよ!」

ゼイブンの言葉に、ローフィスはゼイブンの肩をぽん。と叩いた。
「忘れさせてくれる、女がいっぱい居るんだろう?」
「そうだ!今は天国だ!」

『だからって単位は落とすなよ』
言いたかったがその言葉を飲み込み、ローフィスは食堂内の、立派な階段を上る。

大貴族用の宿舎に続く、階段だった。


 扉を開ける、ディングレーは青冷めていた。
「…良かった。来てくれたのか」

ローフィスはディングレーのその様子に、参ってるな。と感じた。
「…助けたんだろう?」

尋ねるが、ディングレーは俯いた顔を背後に振る。

ローフィスがディングレーの視線の先を見ると、明らかに一年と分かる小柄な美少年がこちらに、顔を向けた。
手に…どうやらディングレーに振舞われたらしい、飲み物を持って。

その、無感動な表情。
虚ろな瞳に、ローフィスの胸が詰まった。

ディングレーが顔を寄せ、ローフィスの耳元で囁く。
「…家の者に、男に慣らされてここに送り込まれたと…」

「…つまり…大丈夫だったって事か?」
「助けを呼びに抜け出し…報復を恐れてる」

ローフィスは一つ、頷く。
そしてそっと…その少年を見た。

マレーは入って来たその年長の青年が、ディングレーよりも小柄で…けれど人慣れした親しみやすい笑みを浮かべるのに、ほっとした。

「四年のローフィスだ」
言うと、マレーは頷く。
ローフィスが口を開く前に、マレーはつぶやく。
「マレーと言います」

ローフィスは彼が機転が利き頭の回転が早い。と読んで、向いの椅子に座る。



ディングレーはやり切れないように、一つ吐息を吐いて部屋の扉を閉めた。
マレーが俯くディングレーの表情に視線を送るのを見、ローフィスが囁く。
「…奴にとっちゃ、グーデンは兄貴だ」
マレーが深く俯き、そして…頷いた。

「…抜け出して…助けを呼んだって?」
ローフィスに聞かれ、マレーが覚悟を決めたように顔を上げる。

「アスランは僕が気分が悪いと思ってる!
だけど…」

ローフィスが頷いて後の言葉をかっさらった。
「脅されたんだな?」
マレーは泣き出しそうな表情をローフィスに向ける。

ローフィスは声を落とし囁く。
「奴らの常とう手段だ。お前は悪くない」
「けど…!僕のせいでアスランは…!」

ローフィスははっきりとした言葉で告げた。
「お前のせいじゃない!
間違えるな。お前がしなくても、誰か言いなりになる奴を連中は脅したさ!
たまたまお前だっただけだ。
で結果…お前で、良かったんじゃないか」

マレーはきっぱりそう言う、爽やかで軽やかな雰囲気なのに意思の強い青の瞳の、ローフィスを見つめる。

「…どうやって抜け出した?」
聞かれてマレーは途端、頭を深く下げる。
「…脅した奴は一年で…僕の事を気に入ってて二人きりだったから…」

ローフィスは彼の様子に吐息を一つ、吐く。
「…好きなようにさせて、油断させたのか?」
マレーは俯いたまま頭を揺らす。
「もっとひどい…。
自分から…銜えたし、挿れた」

ローフィスは目を、見開く。
「…そんなにアスランが心配だったのか?」

マレーは自分の告白で、ディングレーにも目前のローフィスにすら、軽蔑されやしないかと顔を上げて伺ったのに…ローフィスの瞳は暖かく、自分を労わってた。

マレーは身が、震った。
アスランの事を考えると、泣き出しそうな気分に成った。

「以前…ディングレーが助けてくれた時もあいつは…最悪だった。
叔父のデライラですら…初めての時に僕に、銜えさせたりはしなかった!」

ローフィスは大きく吐息を吐き、今だ扉に肩を持たせかけ、腕組みして俯くディングレーを見やる。

ローフィスはそっと囁く。
「グーデンはアスランにそれをさせたのか?」

マレーは頷く。
その拳は、膝の上で握り込こまれた。
「…あの…ひとは…初めての無垢な相手をうんとひどく…辱めて楽しみたいんだ…。
僕はそれが分かったから…だから!
気が気じゃなかった!」

ローフィスはそれを良く、熟知していたからディングレーに囁く。
「…どうしてやるつもりだ?」

その声が、深く響いてマレーは顔を、上げる。

ディングレーはその言葉が自分に投げかけられてると、知ってるみたいに組んだ腕を解く。
「…ここに暫く匿う」

ローフィスは無言で頷いた。
マレーは二人の、呼吸の合った年上の男達を交互に見つめた。


「…で、怪我は無かったって?
不幸中の幸いだ」

ローフィスが自分に向くなりにっこりと笑い、マレーはその笑顔があんまり…暖かくて、心の中の溶けることのない氷が、溶けていくのを感じた。

「…でも…アスランは…!
僕が呼び出したせいで…彼は本気にして僕の気分が悪いと思って僕を……か…ばったんだ…!
奴らに言った!
マレーは気分が悪いから、行かせてあげて!って………」

マレーは言った途端…あんまり…悲しくて我慢できずに顔を、下げた。
そして吐き出した。
「…僕は最低だ!
それを聞いても…言わなかった!
アスランに!

奴らの罠だ!僕は気分なんて、悪くない!
逃げろ!

…僕にはそれを言える、勇気が無かった!
それどころかまたアスランを呼び出す道具に僕を使う為、真実を告げなかったドラーケンに、感謝すらした!

あんな…奴に丸で仲間のようにこっそり頷かれて僕は…ほっとしたんだ!」

マレーの身がぶるぶると震い…叫ぶ声は悲痛で…ローフィスはただ、聞いていた。
マレーが拳を握り込み、深く俯く髪で隠れたその頬に、涙が滴るのを見つめ、囁く。

「…それだけか?
全部、吐き出しちまえ」

マレーは震いながら顔を上げる。
そして唇を激しく震わせ、その唇を噛む。

が、再び口を、開く。
大きく頭を振りながら。

「丸で…父と同じだ!
義母の弟に…僕をしたい放題させ…惨めな姿を見ても顔を背けるだけ!

義母の顔色を伺い…僕の為に叔父のした事を糾弾してもくれない!
僕は……」

マレーの、肩も拳も、ぶるぶる震った。
「…僕は嫌だった!
僕の心を粉々に砕いた、父と同じに成るのは、絶対に!
だから……だか…ら………。

それに…」

ローフィスが顔を少し寄せ、傾けて尋ねる。
「それに…?」

マレーは震う唇を一瞬噛み、それから…言葉を絞り出した。
「…アスランは…信じてた。
きっと…またディングレーが、助けてくれるって……。

僕は…」

マレーは顔を横に振る。
「…ディングレーを、馬鹿だと思った。
だって一度くらい助けて貰ったって何にもならない…。
どのみちディングレーの目の届かないところでまた、呼び出されるに決まってる!

第一多勢に無勢で…。
ディングレーが痛い目に合うだけだ。
何にもならない。

けど………アスランは、信じてた」

そして顔を上げて、ディングレーを見つめた。
黒髪を背に流す、堂とした体格の、俯く男前を。

「…また…来てくれるって。

そうじゃなくても…」

ディングレーが、顔を上げる。
ローフィスが囁く。
「なくても?」

マレーは首を横に振った。
「…ディングレーを…思ってるだけでもきっと…。

アスランにとってディングレーは希望だったから…」

ディングレーが吐息混じりに口を開く。
「だから嫌いな男に媚を売ってまで、俺を呼びに来たのか?」

マレーは、顔を上げないまま頷いた。
そしてそっと…頭を持ち上げ、ディングレーを見る。

ディングレーは顔を、俯けていたが、マレーの視線に顔を上げて苦く笑った。
「…済まない…。俺に術が無くて」

マレーは目を、見開く。
ディングレーは言葉を続ける。
「俺の事は気にするな。
どれだけ傷を作ろうと、あいつを止めるべきなのにしない…。
俺の方こそ、責められるべきだ」

マレーが、顔を揺らした。
茫然と、そう言うディングレーの男らしい顔を見つめる。

ローフィスが、くすりと笑った。
「王族なのに、珍しいか?」

「…だって…グーデンは兄なのに」

ディングレーが思いきり顔を下げ、ローフィスが助け舟を出す。
「一族の恥だと、奴は思ってる」

マレーはそう言うローフィスを、見た。
そして…つぶやく。
「…じゃ…僕…と、似てる?

したいのに出来なくて…辛く思ってる?
だから…あんな場所でも、飛び込んでくれるの?」

ディングレーは俯いたまま、顔を揺らした。
「…あんな場に飛び込むくらいは何でもない。
第一それくらいしか出来ないしな…」

ローフィスが微笑むと、マレーは身が、軽くなったみたいに表情が解(ほぐ)れた。
「…ほっとしたか?」
ローフィスに尋ねられ、マレーは顔を上げる。

「王族って雲の上の人で…普通の感覚と、違う人なんだと思ってた」

ディングレーが、大きな吐息を吐いた。

ローフィスはその様子に笑うと、マレーに微笑みかける。
「アスランはギュンターの寝台で、安らかな寝息立ててたぞ?」

マレーの表情がそれを聞いて、明るく輝く。
「…本当に?」
ローフィスは頷く。

マレーはほっとしたように、がっくりと両腕を垂らす。
ディングレーは目を見開いて、ローフィスを見た。

ローフィスは一気に脱力するマレーに語りかける。
「ここで暫く世話に成れ。
だがお前が気のある振りをした男は、今後付きまとうぞ?
お前の方からしたんじゃな」

ディングレーがすかさず尋ねる。
「なんて名だ?」
マレーが顔を上げる。
「ドラーケン」

ディングレーとローフィスは目を見交わし、頷き合ってた。

ローフィスはよいしょ。と椅子から立ち上がり、マレーに屈む。
「せいぜい我儘言って、ディングレーを困らせてやれ」

マレーはびっくりしてローフィスを見ると、彼は軽く片目つぶってウィンクした。

ディングレーの、深い吐息が聞こえた。

戸口で、ディングレーはローフィスに感謝をその深い青の瞳に滲ませて、小声で囁く。
「…ギュンターの奴、マジであの状態を収めたのか?
だって…」
ディングレーは一層声を、潜める。
ローフィスは思わず耳を、寄せる。

「…ひどい状態だったんだぞ?」
が、ローフィスは顔を上げてディングレーを真っ直ぐ見つめる。

「…俺の言った事は事実だ」

ディングレーは顔を、揺らす。
「でも、どうやって?」

ローフィスは室内のマレーを見、ディングレーの胸倉掴んで室外へ半分その身を連れ出すと、小声でつぶやく。
「…抱いたに決まってる」

「…………つまり抱いて…慰めたって言いたいのか?」
ローフィスは混ぜっ返すその男に憮然。と告げる。
「言いたいんじゃない。
そう言ってるんだ!」

「だって……」
再びディングレーは声を潜める。

「…本当にひどい体験をしてる」
ローフィスは頷く。

ディングレーは分かってないローフィスに、尚も畳み掛ける。
「…そんな相手じゃ余程繊細に扱わないと…逆に傷を、広げるだろう?」

ローフィスは頷くと、言った。
「自分よりギュンターの寝技が器用だと知って、ショックか?」

言われてディングレーは暫く、ローフィスの顔をまじまじと見つめた。

「………まあ…そうかもな」
ローフィスは笑うと顔を上げる。
「…良かったな!マレーは経験者で。
多少不器用に扱っても文句は出ないぞ。
限度はあるが」

ディングレーはムキに成る。
「…慰めが目的の時は俺だって、自分本位に楽しんだりはしない」

ローフィスが、突っ込んだ。
「けどお前、不器用だしな…。

慣れた女なら、最高に男らしい。と受けまくってるみたいだか」

ディングレーは思わず軽口叩く、その年上の男を睨んだ。


 ギュンターは扉を叩く音に、扉を開ける。
やはり…ローフィスで、今度は直ぐに体を開けて、彼を中に入れる。

ローフィスが寝台に目をやると、アスランは余程…疲れていたのか、まだ安らかな寝息を立てていた。
『大したもんだ』
物音にも、目を覚ます様子が無い。

ギュンターは寝台から離れた、粗末な木造りの机に並ぶ二脚の椅子の一つに掛ける。
ローフィスは向かいに掛けて、ギュンターに顔を寄せると、ギュンターも寄せて来た。

「…この後が問題だ」
ギュンターが、たっぷりと頷く。
「この間オーガスタスと保護した子も、それは怯えていた」
ローフィスも頷く。
「一年のグーデンの配下は、同学年の連中に見張らせるしか無い。
…こんな事が続けば、オーガスタスは黙って無い」

ギュンターの、顔が揺れる。
「…だが二年の奴が…グーデンを殴ればオーガスタスは退学だと俺を脅した」

ローフィスは、顔を引き締め告げる。
「…それは俺がさせない」
ギュンターはびっくりして…その爽やかな好青年を見つめる。

だけどどう見ても…自分より上背もなく軽そうで、威風とか権威からは、かけ離れていた。

ローフィスは直ぐその視線に察し、つぶやく。
「つてが、ある」
ギュンターは納得した。と頷く。

「…暫く俺のとこに泊めるか?」
ギュンターに問われ、ローフィスは吐息を吐く。
「二年の大貴族用宿舎に行って、フィンスかローランデに見てもらえ」

ギュンターが顔を、揺らす。
「俺はだって…面識が無い」
「会ってないのか?」

「さっき顔を合わせただけで…ロクにしゃべってない」
「じゃ、二年の普通宿舎で…銀髪の美少年を探せ。
シェイルって名だ。
俺の弟だから…俺の名を出せば奴がその後、何とかする」

ギュンターの、眉が寄る。
「…美少年…?
大丈夫なのか?
そいつ自身も危ないんじゃないのか?」

ギュンターに問われ、ローフィスは吐息混じりに立ち上がる。
「シェイルに連中は、手出し出来ない。
ディアヴォロスが怖いからな」

戸口に歩み寄るローフィスの背を見つめ、ギュンターが慌てて椅子から立ち上がり、その背を追う。
「…ディアヴォロスの名はよく聞くが…どうしてシェイルに手出しするとディアヴォロスが出て来る?」

ローフィスは振り向き、その今では猛々しく見える金髪美貌の、背の高い男を見つめた。
「…ディアヴォロスが“愛の誓い”を捧げ、護った相手だ。
シェイルは」

ギュンターの、眉間が思いきり寄った。
「“愛の誓い”…?
それって、一生に関わる重大な誓いでおいそれと…口にしちゃマズい誓いだろう?」

ローフィスは扉を開けて、言った。
「それを公の面前でシェイル相手にディアヴォロスが誓ったから…グーデンらも、迂闊にシェイルに手出し出来ないんだ。

シェイルに手出ししたら即、ディアヴォロスを敵に回す」

ギュンターは閉じかける扉を手で止め、振り向くローフィスの明るく輝く青の瞳を、見つめる。
「…グーデンはそんなに…ディアヴォロスが怖いのか?」

ローフィスは、くっ!と笑った。
「一度、ディアヴォロスに会えば解る。
剣の腕だけで無く…グーデンと同じ王族とは思えない程高貴な男で…万人に慕われている。

そんな男は誰だって出来るだけ、敵には回したくないものだ」
「例え…グーデンと言えども?」

ローフィスはたっぷり、頷いた。








つづく。
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