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くる天
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二本の蝋燭が燃え
 
2015年7月27日 0時28分の記事



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「少し人参《にんじん》をやっといてくれ」
「こんな根性悪とよくつきあっていますね」
「相性が最高なのさ。いい旅だったぞ、ファラン。ご苦労さん。温かくして寝るといい」
 馬が背を向けると、スパーホークは門番に声をかけた。
「しっかり外を見張っていてくれ。ここへ来る途中、じっとわたしを見ている者がいた。どうも単なる好奇心ではなさそうな感じだった」
 門番の騎士の顔が緊張した。「気をつけます」
「頼む」スパーホークは踵《きびす》を返し、濡れて光っている中庭の石を踏んで、二階の屋根つき外廊下に続く階段を上っていった。
 この宿の秘密を知る者は、シミュラでもほんのわずかだった。表向きは十何軒かあるほかの宿と変わるところはないが、ここを所有し運営しているのはパンディオン騎士団なのだ。街の東のはずれにあるパンディオン騎士館を何らかの理由で利用できない仲間たちに、この宿は安全な避難場所を提供していた。
 階段を上りきったスパーホークは足を止め、最初の部屋の戸を指先で軽くノックした。。現われたのはがっしりした体格の男だった。鉄灰色の髪をして、短く刈りこんだこわい髭をたくわえている。ブーツとズボンは黒い革製で、同じ素材の長いベストを着ていた。腰帯には重そうな短剣を吊るし、手首には鋼鉄の手甲をつけ、厚く筋肉のついた腕と肩をむき出しにしている。男前とは言えない顔の《めのう》のような硬い光を放っている。
「遅かったですね」男が平板な声で言った。
「途中ちょっと邪魔が入った」スパーホークはそっけなく答えて、蝋燭《ろうそく》の
「元気だったか、クリク」会うのは十年ぶりだった。
「まずまずですよ。濡れたマントを脱いでください」
 スパーホークは顔をほころばせ、鞍袋を床に置くと、水のしたたる毛のマントの留め金をはずした。「アスレイドと子供たちはどうしてる」
「大きくなりましたよ」クリクはマントを受け取り、うなるように答えた。「息子どもは縦に、アスレイドは横にね。農場暮らしが性に合っているらしい」
「太めの女が好みだったじゃないか。それでアスレイドと結婚したんだろう」
 クリクはまたうなり声を上げ、主人の痩せた身体に批判的な目を向けた。
「まともな食事をしていませんね」
「母親みたいなことを言うなよ」樫材の大きな椅子の中で手足を伸ばし、あたりを見まわす。部屋は床も壁も石でできていた。天井は低く、太くて黒い梁《はり》に支えられている。アーチ型の暖炉の中では炎がはじけ、その光と影の舞いが室内を満たしていた。テーブルの上では、二台の小さな簡易寝台が左右の壁に押しつげてある。しかし最初にスパーホークの目を引いたのは、青いカーテンがかかった一つしかない窓の横の、どっしりとした棚だった。棚には黒く輝くエナメル引きの甲冑《かっちゅう》一式が置かれている。その横の壁に立てかけてあるのは大きな黒い盾で、表面には家の紋章である、燃え立つ翼を持った鷹《たか》が鉤爪《かぎづめ》に槍《やり》をつかんでいる図柄が銀で打ち出してあった。さらにその横には、柄に銀を巻いた重そうな大剣が鞘《さや》のまま立てかけられていた。

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