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ロクでもない俺の傍に
[レノルー]
2011年8月21日 0時53分の記事

■レノルー:SWEET■
人はなぜ誰かを求めるのだろう?
どうか馬鹿笑いをする為ではありませんように。
願わくば一番弱い心の奥を支え合う為でありますように。
 

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気持ち悪い。吐き気する。
目ん玉の奥が痛い。
俺、病気かな?
俺、死ぬのかな?

そんなことをいつまでもいつまでもぼやいてる。
体調不良は嘘じゃない。
けど病院にいくまでもないかと思ってる。
死んだらそんときだろ、くらいに生きてるから。

しかしそれにしても体調悪い。
こんなふうにダレてるときは、もう何もしたくない。誰とも話したくない。
だけど、それなのに、誰とも繋がっていないと思うのはあまりにも辛い気がした。

誰ともいたくないのに、それでも孤独は嫌だ。
そんな馬鹿馬鹿しい我儘を胸に、ぎらぎら光った太陽の下でせめてもの呼吸をする。

ああ――――やっぱ死ぬのかな、俺。





「だから。どうして医者に診てもらわない?」

「俺、社長と違って温室育ちじゃないんで」

「はあ?今はそんなこと言ってる場合じゃないだろう」

あきれ果てた社長の顔を見るのも何だか面倒で、俺は眼を瞑って言葉だけの返答をした。

あーあ、本当だったら楽しいデート中のはずが、俺の体調不良で全部、ぱあ。
俺だって悔しいんだよ、そりゃあさ。

だけどルーファウス社長が悔しがってるのは、どうやらそういうことじゃないらしい。そもそも体調不良なのにわざわざ呼び付けるな、ということらしい。

ちょっとくらい良いじゃないか。
こんなときくらい。

レアカードだぜ?
こんな弱気なレノ様は。

俺は俺の大好きな赤いベッドの上で、うだうだとそんなことを考えていた。

「悪いが、私はお前が思っているより忙しいんだ。体調不良は医者に治してもらえ。私を呼ぶのはその後にしてくれ」

「冷たいなー」

「冷たくない、私は真っ当なことを述べている。私には、お前の体調不良の原因も症状もその解決方法も分からない。自分にできないことをそのまま放置するのは嫌なんだ」

「そうなんだ」

「そうだ」

確かに、社長は真っ当なことを述べてるのかも。
社長は医者じゃない。
つまり、専門じゃないやつに、こういうことは分からない。

だけど何でなんだろう、社長。

俺の体調不良は、確かに医者が治してくれるかもしれない。けど、俺の弱った心は、医者じゃ治せない気がするんだ。
それはだから、社長が専門なんじゃない?
俺の場合は。

「じゃあ、私は行くからな」

社長は俺の傍から離れると、俺のテリトリーから離れようと玄関へと足を向けた。

俺の家。
俺のテリトリー。
本当だったら、俺のテリトリーに入った瞬間に、誰も逃がさないのが普通なのに。
それなのに今日はどうやら、完璧なる歩行者天国。

「…なあ。ちょっと待ってよ社長」

「?」

俺の目は相変わらず閉じたまま。
けど、社長が立ち止まったのが分かった。

「傍にいてよ」

「え?」

「傍にいてよ。俺、治してほしいなんて思ってないから」

治してほしいわけじゃないんだ。
そりゃあ体調不良じゃない方がいいにきまってるけど、だけど治してほしいわけじゃない。

視界がぐるぐるする。
汗が噴き出る。
ああ、熱があるんだな。
だけどそんなのどうでもいいよ。

俺が欲しいのはさ、社長――――。


「…何だかお前らしくないぞ、レノ」

「たまには良いだろ、こんな俺も」

俺は頑張って口の端をくいってな具合に上げて笑ってみせた。
だけど目は閉じてた。
これが今の俺の精一杯。

目を開けたら、そこに社長はいないかもしれない。
けど、閉じた目の中にはいつでも社長がいるんだから。

そうだよ。

俺が欲しいのは、ただ一つの事実。


「――――仕方ないやつだな、この我儘男」


ちょっと甘い響きの台詞が俺に振りかかる。
俺の顔に影が出来て、やがてその影はひんやりとした感触を俺の唇に落とした。

折角のこのチャンスに、俺はその唇を貪ることすらできない。

ああ、でもいいや。
だって俺、これでも今、マックス嬉しいんだ。


社長が他の誰でもない、こんな弱ったロクでもない俺の傍にいてくれてるんだっていう―――――その事実。



END

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