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素粒子は 地球を透かす
 
2017年5月13日 21時0分の記事

『素粒子で地球を視る 高エネルギー地球科学入門』2014
田中宏幸/竹内薫

4 地球を透かす素粒子

「地球に降り注ぐ高エネルギー素粒子」宇宙線は 大きく2つに分類される
 ・超新星爆発などにより加速され 銀河系内部を伝わる1次宇宙線
 ・地球大気に到達した1次宇宙線が 大気と相互作用してできる2次宇宙線

2次宇宙線の種類には,物質との相互作用が桁違いに強い核子成分(主にパイオンや陽子)や,物質との相互作用が核子成分ほどは強くない電磁成分(電子やミュオンなど),そして物質とほとんど相互作用しないニュートリノがある.地球上で観測される 1 GeV 以上の宇宙線に含まれるミュオンの割合は 30%で,残りのほとんどはニュートリノである. 102


4.1 地殻を透かす

地中のミュオン

物質に入射したミュオンは物質中で少しずつエネルギーを落としていき 止まる

物質内部をある程度以上走ると,途中で止まるものが続出してかなり数が減ってくる.この減り具合は,ミュオン経路にどれくらい電子や陽子があるかに比例する.また,山の内部のいろいろな場所で電子や核子の数密度は異なっている(物質の違いや状態の違いにより原子の種類や密度が違う).だから,ミュオンが散乱する回数は,山の内部の場所によって変わってくる.散乱回数が多いと,ミュオンは山に吸収されやすい(衝突によってエネルギーをロスするような散乱を非弾性散乱と呼んでいる).逆に,散乱回数が少ないと,ミュオンが山を通り抜ける率が高まる. 102

止まるまでに走る距離は 入射時のミュオンエネルギーで決まる

2次宇宙線に含まれるミュオンのエネルギーはさまざまなので
透過経路が一定なら あるものは止まり あるものは通り抜ける

  ミュオンが物質と反応する頻度は,ミュオンが物質の中を進んでいくうちに出会う原子(電子と核子)の数,すなわち(粒子だたどった経路の長さ)×(その周囲の密度)に比例する.つまり経路の長さ(経路長)が同じならば,岩石中を通るのと空気中を通るのとではミュオンが出会う原子の総数はまったく異なってくる.ミュオンが出会う原子の総数が多ければ,ミュオンのエネルギー損失確率も増えるのだ.
  そのため,宇宙線ミュオンは通ってくる物質量に応じて,フラックスが減衰する.もとのフラックスから吸収された分を差し引いたフラックスを,透過できる最低エネルギー Ec から ∞ まで積分することで計算できる.観測対象のあらゆる位置に対して Ec を決められれば,得られるミュオグラフを予想することも可能だ.

忘れてならないのは 経路の長さによってもミュオンの数が左右される点

ミュオンの通り道に沿った原子の総数は,経路が長ければ増え,短ければ減る.つまり,経路の長さを一律にしないと,空気も岩石も区別できないということになる.そこで工夫して,「同じ経路長当たりどれだけミュオンが減ったか」という表現をとることにする.たとえば,詳細な地形情報があれば,ミュオン経路に沿った岩石密度の平均値を決定することが可能だ.

(図3-5 は鉛直ミュオン強度と岩盤の厚みとの関係を表すが,図4-1 は水平近くのミュオンのみに注目して,岩石に対する透過ミュオンフラックスを密度長(経路長×経路に沿った平均密度)の関数として計算したものである.)
(元素組成は岩石であるが 水等量で表現している…地殻を構成する岩石は密度の低いものから高いものまでさまざまで 同じ厚み(同じ経路長)でも Ec が異なるため 水を基準にして表現した方が(水の何倍というふうに)いろいろな密度に対しての計算がしやすい)

(図から) ミュオンはキロメートルにも及ぶ岩盤を通り抜けることがわかる

岩盤の厚みや 密度が高くなるほど 透過できる数が急激に減る

山体内部に密度の変化があればキロメートル透過できるミュオン強度に濃淡ができるのだが

(図を見ると)厚みが20kmを越えたあたりで 透過ミュオン強度が岩石の厚みに相関しなくなる

非常に小さなフラックスで 地表から現れるそのミュオンは
地球の裏側からやってきたニュートリノによってつくられるミュオンである(荷電カレント反応)

(それらは 検出器の周囲ほぼ1km以内で vμが岩盤と相互作用をしてつくられると考えられている) 104


ミュオグラフィのシミュレーション技術

数学的モデルをもとにしたシミュレーション技術は,ミュオグラフィのクオリティーを飛躍的に向上させる.ミュオグラフィの問題は,電離,制動輻射,直接対生成等についての断面積が与えられれば,原理的には完全に解けるはずだ.しかし,ミュオンの飛跡に沿って離散的にバーストを起こす反応は難しい. 104

(したがって,仮にこの方程式が数学的に解けたとしても,式3-18 のような解は,ミュオンのエネルギー損失の平均の性質を示すだけであって,実際のミュオンの分布を示しているわけではない.)

電子が制動輻射を起こすまでに走る距離,その際に失うエネルギーなど,すべては統計的な量である.したがって,ある一定のエネルギーから始まる過程でも,個々のミュオンのエネルギー損失は,その平均の周りに「揺らぐ」ことになる.

(そのような問題を扱うために Robert R.Wilsonは モンテカルロ法と呼ばれる方法を考え出した)

モンテカルロは地中海に面する有名な賭博場であるが,この方法は問題の持つ統計性を数学的には扱わず,仮想的な「ルーレット」を使って確率的に扱うために,このような名前がついたのである.

モンテカルロ法を用いれば ミュオンの飛跡に沿って離散的にバーストを起こす反応過程でのエネルギー損失を確率論的に計算することが可能 105

(…個々のミュオンのエネルギー損失が その平均の周りに「揺らぐ」ため 同じエネルギーのミュオンでも 薄くても通り抜けられなかったり 厚くても通り抜けられたりといったことが起きる… 106)

正方形の中にランダムにたくさんの点を発生させ そのうち円の中にある点の数を数えれば 正方形と円の面積の比が求まる
「ランダム」というところがミソ

円の内側に小石が落ちる確率は,その面積に比例する.本場のモンテカルロではルーレットかサイコロを使うのだろうが,物理学では,コンピュータに内蔵された擬似乱数を発生させて,確率,すなわち面積を計算する.

モンテカルロ法は 科学のあらゆる分野で使われている

たとえば,素粒子同士の反応確率(いわゆる衝突断面積)でも,基本的に2体問題より複雑になると,解析的には計算ができなくなるので,モンテカルロ法を使うことになる. 107



ミュオグラフィのテスト実験

  宇宙線ミュオンの透過力は高く,ミュオグラフィをシミュレートできるような巨大な物体を実験室に用意することは容易ではない.かといって,ニュートリノグラフィのように 100%シミュレーションに頼らなければいけないほどでもないので,さまざまなデモンストレーション実験が行われている.最も簡単なデモンストレーション実験では,建物が利用されることが多い.建物の影響でミュオン強度の減少が確認できるが,減少量は少なく,定性的な議論にならざるを得ない.
  もう一歩進んだテスト実験では,鉛,鉄,あるいは重コン(コンクリートに鉛を混ぜ込んだもの)のブロックなどが使われる.このテストに用いられる吸収体の総重量は数百kg〜数十トン程度が限界であるため,幅,奥行きともに数十cm〜m程度までと大きさにかなり制限がかかり,やはり透過ミュオンフラックスを正確に議論することは難しい.しかし,建物と違い,形状が直方体,立方体などとシンプルなので,検出器の位置分解能のテストには有用である. 107


4.2 野外におけるミュオグラフィ観測システム

ミュオグラフィ観測が成功するか否かは ミュオンの信号をどれだけ効率良く検出できるかにかかっている

鉛直方向から飛来するミュオンフラックスを取り逃すことなく ミュオンだけを確実に100%処理することが 理想的なミュオグラフィ観測システムに求められる

  ミュオグラフィシステムは高エネルギー素粒子物理学実験で用いる素粒子検出器と似ているが,最も大きな違いは位置情報(あるいは角度情報)や時間分解能にそれほど精度がいらない点である.これは同時に,低消費電力でメンテナンスフリーの装置ができる可能性を示唆している.
  だが,野外観測に必要な機能と高解像度ミュオグラフィを同時に満足させることは難しい.検出器の有感面積,角度分解能,検出効率,アクセプタンス*,可搬性(重さや耐衝撃性も含む),消費電力,コストは,互いに両立させることが難しい機能の一例である.

*検出器のアクセプタンスとは「ある与えられた方向に対して,ある与えられた立体角でミュオンフラックスをとらえることのできる能力」のこと.たとえば,より短時間で解像度の高い画像を得るためには検出器の有感面積を最優先させる必要がある.画質は,観測期間,検出器の面積,そしてアクセプタンスの積で決まるからである.*

ハンガリーの研究チームが洞窟探査に選んだのは ガス検出器技術を用いたシステムで 一辺50cmの立法体に入る程度の大きさで 重さはわずか13kg(浅い洞窟で 検出器の有感面積が小さくてもよかった)

フランスの研究チームが西インド諸島の火山観測で用いたシステムの総重量は 800kgだが 組み立て式の設計 人海戦術により厳しい地形環境でも設置できた

野外観測で用いる検出器には 普遍的なデザインやサイズはなく 対象の規模や設置環境に特化してさまざまな形に最適化されるのが現状


ミュオグラフィ観測に使われてきた素粒子検出器

ガイガーカウンター/原子核写真乾板/シンチレーション検出器/ガス検出器/チェレンコフ検出器


ガイガーカウンター

最も初期のミュオグラフィで用いられた 小型軽量検出器
ガイガーカウンターはミュオンの飛来方向の検知ができないため 現在ではミュオグラフィ観測に利用しているグループは存在しない

オーストラリアの物理学者 E.P.ジョージ(E.P.George)は,ガイガーカウンターを用いて坑道上部の厚さ 100m程度の地層の密度測定を行った(George,1955).ミュオン強度は坑道内部と外部で測定され,その比からミュオンの透過量を見積もった.


原子核写真乾板

商用電源が使えない環境下でもミュオグラフィ観測を行える有用な検出器だが 実際の観測では 画像を得るまでに 設置 回収 現像 解析の一連の作業が必須
原子核乾板中に記録されたミュオン飛跡は 現像 定着 乾燥の後 顕微鏡で調べられる
飛跡は黒化した乳剤粒子の並びとして観測される

写真乾板は1930年代から素粒子物理学実験に使われてきたが ミュオグラフィに用いられるようになったのは最近(ミュオン飛跡の読み出しを人間の目で行うにはあまりにも膨大な時間がかかったから)
フィルムを自動的に解析できる顕微鏡の開発により ようやくミュオグラフィに使うことができるようになってきた


シンチレーション検出器

現在 ミュオグラフィ観測で最もよく利用されている検出器
主要部品であるシンチレーションカウンターは「荷電粒子を効率良く光に変換する装置」であるシンチレーターを光電子増倍管と組み合わせたシンプルな荷電粒子検出器
野外の観測点へのアクセスは一般的に難しいことから 装置の安定化と遠隔通信機能が追求され 技術が確立されてきた
検出システムには幾何学的分類による 平板型と円筒形のシステム そして 用いるシンチレーターが固体か液体かの違いによるシステムがそれぞれある
取り扱いの便利な固体システムが専ら野外のミュオグラフィに用いられている

「シンプルな構造」を徹底し,装置としての信頼性をあげる努力がなされてきたのだ. 110



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ミュオグラフィ観測(システムとデータ処理技術)



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