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星野の話のなかでも、耳を疑うほど驚いたのは、「東条英機がミッドウェー海戦の無惨な戦況を知ったのはサイパン陥落の直前だった」というくだりである。(1)
[森羅万象]
2019年8月14日 16時49分の記事



『転進 瀬島龍三の「遺言」』
新井喜美夫 講談社  2008/8/7



<太平洋戦争の真実を明かす「遺言状」>
・本書は、瀬島の言葉を私なりの解釈を交えながら綴った、太平洋戦争の真実であり、瀬島の「遺言状」である。

<東条が語った驚くべき事実>
・星野の話のなかでも、耳を疑うほど驚いたのは、「東条英機がミッドウェー海戦の無惨な戦況を知ったのはサイパン陥落の直前だった」というくだりである。

・1942(昭和17)年6月5〜7日の、このミッドウェー海戦の敗北により、日本は、南方の制空・制海権をほとんど失った。
 だが、その後の戦局、作戦を左右する、この重要な事実は、東条英機首相には、サイパンが陥落する1944(昭和19)年6月まで知らされなかったというのである。

・しかし、サイパンは玉砕。伝わってきた戦況に青ざめた東条は、星野に訪ねた。「あの真珠湾攻撃を成功させた海軍の誇る機動部隊はどうした」
 星野が「ミッドウェーで壊滅して、とうの昔にありません」と伝えると、東条は驚いていった。「そうとわかっていたなら、フィリピンにこだわったり、あるいはインパール作戦などやらなかったのだが……」

・星野が「東条はミッドウェー海戦の敗北を知らなかった」という話を公開したのは、迫水など、東急学士会の面々が居並ぶ前である。星野がつくり話をしているとはとても考えられなかった。
<海軍と陸軍にあった厚い壁>
・なぜ、ミッドウェー海戦の敗北が首相である東条に伝わらなかったのか――。
 ひとつには海軍の隠蔽工作があったからだ。ミッドウェー海戦の負傷者は日本に揚陸させず、ひたすら敗戦を隠し続けた。今と違って、情報網が発達している時代ではない。それでなくとも、前線の様子は本土には伝わってこない。
 陸軍の幹部も、最前線の様子はほとんど把握していなかった。参謀の瀬島でさえ、例外ではなく、「ガダルカナル島という名など、ずっと知りませんでした」とのちに語ったほどである。
 戦艦大和や戦艦武蔵は健在だ。東条も、よもや連合艦隊の機動部隊が、痛手を負っているとは想像しなかった。
 だが、東条に情報が届かなかった最大の理由は、東条が陸軍の軍人だったからである。

・戦中の日本軍の組織を知る人なら、陸海軍を束ねる天皇直属の最高統帥機関、「大本営」があったではないかと不思議に思われるかもしれない。
 確かに大本営は名目上あったが、陸軍部と海軍部に分かれており、作戦も陸軍は参謀本部で、海軍は軍令部で立案。事実上、別々の組織として動いていた。
 それがかろうじて一体となったのは、敗色が明らかになった終戦の年である。ガダルカナル島など南方諸島から陸軍が撤退を決めたときも、山本五十六は、「海軍では陸軍の面倒を見るほど余裕がないので、勝手にやってくれ」と、非協力的だった。

<敗戦を報告しなかった理由>
・瀬島が海軍の知人から伝え聞いたのも、「ミッドウェー海戦で大きな痛手を受けた」という漠然とした情報でしかなかった。
「海軍の恥をさらすようで、本来はもらしてはいけない情報ですが、お立場もあるでしょうから、あなただけのお耳には入れておきますと耳打ちされて……」
 しかし、たとえ個人的な人脈を通して得た、漠とした情報であろうと、海軍の機密情報に接することのできた陸軍軍人は何人もいない。本来なら、瀬島は上に報告すべきだったが、瀬島はこれを握りつぶしたという。

・東条は辞任した杉山元参謀総長にかわって、一時期、陸軍参謀総長を兼ねていた。当時、瀬島は上官だった参謀本部作戦部長の田中新一中将と参謀本部第一部長の真田穣一郎少将と共に東条を訪ねている。

・その後も報告のため、瀬島は何度も東条と会っている。だが、最後までミッドウェーの件については自分の口からは話さなかったそうである。
「海軍のことですからねえ」と、まるで他人事のように語る瀬島に、私はあの愚かな戦争の本質が見えたような気がした。

<補給もままならず死の島に>
・陸海軍の確執がもたらした代償は、実に大きかった。最高責任者の東条でさえ、サイパン陥落時まで、ミッドウェー海戦での機動部隊壊滅は知らなかったのである。ましてや、陸軍の上層部にこの事実を知る者はいなかった。
 制空・制海権を失っているにもかかわらず、日本陸軍が次々と決行した南方への侵攻作戦は、ことごとく失敗に終わり、夥しい数の兵士を無駄死にさせた。
 1942(昭和17)年8月から翌年2月にかけて行われたガナルカナル島の戦いはその代表例である。

<なぜインパール作戦を止められなかったか>
・それというのも、陸軍はその後も、現状とかけ離れた無謀な作戦で若き命を無駄にしたからだ。
 そして最後には、補給経路を考えない杜撰な作戦で歴史的な敗北を喫したインパール作戦へと進んでいく。

・インパール作戦には、学徒出陣で徴兵された大学生も数多く投入された。日本の将来を担うべき前途有為な青年たちが、次々と死んでいったのだ。
 あの戦争の戦死者230万人のうち約8割が最後の半年間で亡くなっている。戦局が差し迫っても、陸海軍は協調態勢が取れず、赤紙(召集令状)一枚で徴兵した国民を無駄死にさせたのである。

<行財政改革で総理に>
・残るは、中曽根総理の誕生である。金権政治家といわれた田中角栄のように集金力があれば、金で総裁選を勝ち抜くことができるが、中曽根にはそれがなかった。
 田中らの錬金術の秘密は、キックバックだった。政治力を使って、仕事を世話する。たんまりと儲けた企業に、田中はキックバックを要求した。そして、政治献金1000万円を持ってきた者には、100万円という具合に、1割ほどのキックバックを忘れなかった。実際、臨調の事務局には調査結果を示す数字もあった。
 田中に献金すれば、仕事をもらえるうえに、政治献金の一部も返ってくる。キックバックされた金は、税金のかからない、いってみればクリーニングされた金である。もらうほうはうれしい。どうせ政界に献金するのなら、田中角栄に、となる。

・田中や鈴木善幸と違って、中曽根は融通が利かない。キックバックするどころか、「もう少し欲しい」という顔をする。勢い、政治献金の額は伸びなかった。

<戦犯を救った五島慶太>
・あるとき、私が「東条英機はミッドウェー海戦で、連合艦隊の中核である機動部隊が壊滅状態になったと知らなかったそうですね」と水を向けると、瀬島が事もなげにいった。
「ええ、知らなかったでしょうね」
 あの話は本当だったのか――これがそのとき、私が抱いた感慨だった。実はかつて、瀬島の証言を裏付ける話を星野直樹から聞いていたからだ。
 星野は、昭和初期に大蔵官僚になり、満州国建国後、実質的な統治者であった満州国国務院総務長官として腕を振るった。
 その後、企画院総裁、貴族院議員などを歴任し、東条内閣の成立とともに、現在の内閣官房長官にあたる内閣書記官長に就任、日米開戦が決定された御前会議にも列席した経歴の持ち主で、紛れもなく戦中の主役のひとりである。

・東京裁判は戦勝国が敗戦国を裁くという、本来なら国際法に違反する報復裁判である。まともな審理は期待できなかった。事実、連合国側から派遣された裁判長、判事のなかで、国際法の専門家は、インドのラダ・ビノード・パール判事だけで、パール判事はただひとり、日本の無罪を主張している。

<坂本龍馬は利にさとい武器商人>
・幕末、日本の秩序は乱れた。動乱の時期には、勝海舟のような俗物が跋扈する。世渡りのうまい者が、混乱に乗じて、のし上がった時代でもある。
 私の解釈では、坂本龍馬もそのひとりだ。龍馬株は、戦後急上昇、歴史上の好きな人物を挙げろという問いには、いつも上位になるほど人気がある。
 だが、私からいわせれば、龍馬はみんなが持ち上げるほど立派な人物でもなく、功績を残していない。龍馬人気に拍車をかけたのは、司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』だが、あのなかで描かれている龍馬にまつわる話はほとんど架空に過ぎない。

・しかも、脱藩した後、龍馬は武器商人と手を組んで暗躍した。
 一儲けを企んで、アヘン戦争へとイギリス政府を導いたイギリスの商社が香港にあった。戦後、日本では、その関連会社が高級スコッチ、「ジョニ黒」の輸入元として知られた、ジャーディン・マセソン商会である。
 このジャーディン・マセソン商会が支店長として日本に送り込んだのが、長崎のグラバー邸の主、トーマス・ブレーク・グラバーだった。
 その少し前、アメリカで南北戦争が、当初の予定より早く終わった。南北戦争に際して、アメリカ政府は5年分の武器を発注したが、4年で決着がつき、1年分の武器・弾薬が不良在庫として残った。
 
・こうして、龍馬経由で安い武器を手に入れた薩長は、圧倒的な火器の力で、幕府軍を倒すことができた。
 しかし、龍馬は機を見るに敏で、商才はあったのかもしれないが、決して英雄でも偉人でもない。むしろ、日本を内戦に導いた張本人である。
 ともあれ、勝海舟や坂本龍馬のような見識のない人間が台頭したのが幕末という時代だった。江戸260年の秩序が崩れ、士農工商という階級制度がなくなり、誰でも世の中で頭角を現せるようになった代わりに、節操のない人間がのし上がる土壌ができた。

<男爵位欲しさに戦端を開いた軍人>
・このようにして明治以降、平民であろうと農民であろうと栄達のチャンスがある世の中に変わって、出世至上主義ともいえる空気が蔓延していく。
 なかでも、軍人は財産もコネもない庶民にとっては最も一般的な出世コースだった。現代の防衛大学校もそうだが、軍人になるための学校は授業料が免除されるばかりでなく、幾ばくかの金がもらえる。家が貧しい優秀な者が進めるエリートコースは、軍人を措いて他はなかった。
 先の無謀な戦争が招いた悲劇もまた、戦功をはやった俗物軍人たちが戦線を拡大していった結果、もたらされたのだ。

<東条と瀬島の共通点>
・また、瀬島が荒木や杉山と同じ節操のない軍人だというつもりも毛頭ない。瀬島と共通点の多い軍人といえば、私は東条英機を挙げたい。陸軍と海軍を比べれば、陸軍は質実剛健で質素、海軍は派手好きで華美、贅沢を好むというイメージがある。実際、食事の仕方ひとつをとっても違う。

<金と女性には無欲だったふたり>
・「英雄色を好む」というように、功なり名を遂げた人物は女性関係も派手な男性が少なくない。女性を養うのも甲斐性だと考えられていた昔は、玄人女性なら倫理観としても許されていた時代で、なおさら外に女性を囲う者が大勢いた。
 軍人も例外ではなく、山本五十六には複数のお妾さんがいたことが知られている。

<天皇のためにあえて汚名を>
・自決しようと考えていた東条のもとを、後任の陸相になった下村が密かに訪れた。国体護持を最後まで願っていた国民の期待に応えられるかどうか難しい。天皇に迷惑がかかることは極力避けなければならない。そのためには、天皇の身代わりになる人物が必要だった。
「非常に申し訳ないことですが、陛下の身代わりになれるのは、閣下しかいない。悪いがあなたがその役を引き受けてくれ。東京裁判において不名誉な裁きを受けてもらいたい。いつの日か、真実がわかる日が来るでしょう」

・拳銃による自殺未遂も、実は狂言で、東条には初めから死ぬ気はなかったという説もある。腹の肉をつまみ、そこに弾を撃ち込んで、自害に失敗した無様な独裁者という役割を演じて見せたというのだ。

<山本五十六は名将か>
・これに対し、井上成美は、
「あのとき、私が山本五十六長官なら、そんないい加減な答えはしなかった。私だったら、アメリカと戦争すれば絶対に負けます。私は軍人ですから、死ぬのはもちろん覚悟のうえです。しかし、近衛首相もただではすみませんよ。また陛下すら、どのようなことになるか保証の限りはありません。それでもかまわぬというのであれば、どうぞ日米戦争でもなんでも、ご勝手にお始めください、と答えたであろう。
 さすれば、いかに近衛公が物わかりの悪い公卿育ちのお坊ちゃんでも、日米戦争はやるべきでないと考えたに違いない。それを、あのように、格好いいことをいうものだから、お人よしの近衛公は、なんとかなると思ってしまったのではないのか。結果、山本長官の発言が日本の歴史を左右したことになる」と述べていた・

<東条と山本はどちらが本物の軍人か>
・山本五十六は、1943(昭和18)年4月18日、前線視察のため訪れていたブーゲンビル島上空で、暗号を分析して待機していた米戦闘機ロッキードP38に、搭乗していた一式陸上攻撃機を撃墜され、モイラ岬のジャングルに墜落、戦死した。山本の死は一ヵ月以上秘匿された。

・公式発表では、山本は機上で被弾し、「顔面貫通機銃創、背部盲管機銃創を被り貴要臓器を損傷して即死」とされているが、私は山本の死には疑問を持っている。
 山本の遺体を最初に発見した第6師団第23連隊の小隊長が、
「山本長官の遺体は座席と共に放り出されていた。そして(同乗していた)軍医長が地を這って近寄ろうとして絶命した痕跡を残していた。また、他の遺体が黒焦げで蛆虫による損傷が激しいにもかかわらず、二人の遺体は蛆も少なく比較的綺麗な形で残っていた」と証言しているからだ。つまり、不時着からしばらくは、山本と軍医は生存していたことになるのである。
 さらに、軍医の検死記録には、「気銃弾がこめかみから下アゴを貫通しているため、ほぼ即死」ともある。米軍のP38戦闘機の機銃は12.7ミリで、頭部に命中すれば頭半分は吹き飛ぶ。であれば、山本の頭部を打ち抜いていたのは、拳銃弾などの小口径の銃弾ということになる。
 このことを見ても、山本は自決したのではないか。初めからそのつもりで、飛び立ったのではないか。電報をアメリカに傍受されていることは、何度もドイツから注意を促されている。解読されるのはあらかじめわかっていた。連合艦隊司令長官の護衛機が、ゼロ戦6機というのも少なすぎる。
 山本は「俺が指揮を執れば勝てる」と豪語していた。だが、日本が勝てる見込みはまるでない。いい格好をした山本は、自ら死を選んで、名を残そうとしたのではないか。
 東条英機と山本五十六。どちらが本物の軍人だったか、世間一般とは違った評価があってもいいのではないだろうか。

<税金を納めなかった軍人>
・前章までに述べていたように、何ゆえ、日本軍は対米戦争などという無謀な戦いに足を踏み入れてしまったのか。筆者は根本の原因をつくったのは、明治維新だった見ている。
 先にも触れたように、明治維新は「功」もあれば「罪」もあったが、はるかに罪のほうが大きかった。
 
・こうして産業革命によって生まれたのは、帝国主義という名の、西洋によるアジア、アフリカの侵略だった。ヨーロッパの列強は、蒸気船をつくり、大砲を装備し、その武力を背景に、原料と市場を求めてアジア、アフリカに進出、植民地にし、搾取した。さらに20世紀になると、原爆、水爆はじめ、大量破壊兵器がつくられ、大虐殺が可能になった。

・明治維新は、こうした悪しき西洋文明と唯物思想の移植でもあった。混乱に乗じて勝海舟や坂本龍馬のような俗物が跋扈した。坂本はグラバーと手を組んで、南北戦争で余った武器を輸入、薩長に売りつけて、内乱を煽った。薩長の官軍によって戦場に駆り出されたのは、それまで戦いとは無縁だった町民や農民である。
 武士が戦って死ぬのは、その役割からいってもやむを得ない。だが、町民や農民は本来、その役ではない。彼らを鎮魂するために1869(明治2)年、大村益次郎の献策によって設けられたのが、靖国神社の前進、東京招魂社である。
 以来、庶民も戦争に巻き込まれる構造ができ、靖国神社はいつの間にか、軍人を祭る神社になった。ゆえに、靖国神社には、やはり問題があるといわなければならない。
 明治維新の大罪は、天皇を神格化し、日本を「双頭の鷲」にしてしまったことである。

・軍人は内政を軽視し、政府より軍部が上位だと考えていた。たとえば、明治の元勲、山縣有朋である。
 私の見立てでは、山縣は器の小さな軍人だった。
 山縣は1889(明治22)年に内閣総理大臣に就任した後も、陸軍軍人としての俸給を得ていた。しかも、税金もほとんど払っていない。

・税金を納めていなかったのは山縣だけではない。多くの軍人が長らく税金を納めていなかった。先の戦争が終わるまでは、軍人の税金は申告制であった。そのため軍人は一切申告せず、ビタ一文も納めていなかったのだ。
 戦費が嵩むようになって、さすがに大蔵省は軍人たちにも税金を負担するよう求めた。国民が食べるものも我慢して、戦費を拠出している時代である。
 さしもの陸軍省も、「前線の兵隊は別にしても、時勢が時勢だけに仕方がなかろう」と、国内の軍務官僚の税金徴収に渋々応じた。

・ロンドン海軍軍縮会議に次席随員として派遣された山本五十六は、現地で最も強硬に対米比率7割の確保を主張して、若槻礼次郎全権を困らせた。
 そればかりか、大蔵省から派遣された賀屋興宣が、「軍艦は油を大量に消費する金食い虫だ。財政面から軍備の大きい負担には堪えられない」という旨の意見をいおうとすると、「賀屋黙れ、なおいうと鉄拳が飛ぶぞ!」と怒鳴りつけ、慌てて言葉を飲み込んだ賀屋を山本は殴り、賀屋は鼻血を流したという逸話は有名である。
 国民が空腹に耐えながらお国のために我慢を重ねているときでも、海軍の首脳たちはたらふく贅沢な料理を食べ、戦費を使いたい放題使っていた。
 にもかかわらず、税金さえ納めようとしなかったのだ。

<明治憲法の罪>
・明治以来、行政を屈服させ、自分たちが優位な立場を築くために、軍部が持ち出したのは、天皇の統帥権である。
 内政と軍政が対立すると、軍部は決まって天皇の権威を笠にきて、「天皇の統帥権に対する干犯だ」と騒いだ。

<皇道派と統制派の対立>
・当時、陸軍は、皇道派と統制派が軍閥を形成、烈しく対立していた。
 皇道派とは、財界や政界を直接行動、たとえばクーデターのような過激な武力闘争を通じてでも変革すべしとするグループで、この革命的な行動を、彼らは「昭和維新」と称していた。皇道派の過激思想は、主に尉官クラスの隊付き青年将校らに広く支持されており、代表的な人物としては、荒木貞夫元陸軍大臣や真崎甚三郎教育総監が挙げられる。
 かたや統制派は、合法的に政府に圧力を加えることによって政治を操作しようという、陸軍内の勢力である。軍内の近代派であり、近代的な軍備や産業機構の整備にもとづく、総力戦に対応した高度国防国家を構想した。その親玉が、相沢事件で殺害された永田鉄山で、旧桜界の系統の参謀本部、陸軍省の左官クラスの幕僚将校が中心になって支持していた。東条英機も統制派に属していた。

<海軍でも繰り広げられた派閥争い>
・かたや海軍はどうだったか。海軍もまた双頭の鷲だった。艦隊派と条約派の二大派閥が互いに争っていた。

・陸軍青年将校の叛乱が2・26事件なら、海軍の青年将校らの叛乱事件が、1932(昭和7)年5月15日に起きた5・15事件である。

・叛乱の背景にあったのは、大きくは政党政治の腐敗への義憤だったが、直接の原因は1930(昭和5)年に締結されたロンドン海軍軍縮条約への不満である。

<すべての病根は明治維新>
・かように、陸軍も海軍も内輪の権力闘争に憂き身をやつし、大局観もなく、内向きの論理で無謀な戦いへと突入していったのだ。
 それに拍車をかけたのが、軍人の功名心である。
 天才・石原莞爾は、中国戦線の拡大は望ましくないと口癖のように説いたが、手柄を立てることしか念頭になかった多くの軍人たちは聞く耳を持たなかった。



『保守の正義とは何か』
公開霊言  天御中主神  昭和天皇  東郷平八郎 
大川隆法   幸福の科学出版  2010/8/7



<能力の高い人材を抜擢せよ>
・私は海軍にいたから、地上戦は海戦と同じではありませんが、どちらかと言えば、いわゆる空中戦のほうが少し近いかもしれませんね。武器効率や作戦立案のところは、海軍のほうにやや近いかもそれませんが、少なくとも、将となる人材の能力が低いことが大きいですね。

・個人個人の判断能力がとても低いですね。非常に能力の低い人がタイトル(肩書)をたくさんもらっているのではないでしょうか。だから、内部的に見れば、もう少し「実力人事」をきちんとやらないと駄目ですね。年齢や性別にかかわりなく、能力の高い人が上に上がれるようにしなければいけません。きちんと判断ができ、きちんと意見を通せて、解決策が見通せるような人を上に上げられるような体制をつくらないと駄目ですね。
 先の大東亜戦争においても、海戦で敗れたのは、もう将だけの問題ですよ。実際には、優秀な人はいたのですが、下にいたために力を発揮できませんでした。やはり、最終判断をするものが間違えたら、勝てないところはあるのです。したがって、しばらくは、抜擢人事をやらないといけないのではないでしょうかね。うーん。そう思いますね。



『小野田寛郎は29年間、ルバング島で何をしていたのか』
「帝国陸軍最後の軍人」が守り通した秘密  
斎藤充功   学研    2015/5/27



<中野学校の卒業生>
・軍服を脱ぎ(昭和18年以降になると軍服で勤務した卒業生がほとんどであった)。背広や現地人の服装をまとい、中国大陸や満州、北方、南方地域などの日本軍が進出した全戦線で謀略戦や情報戦、あるいは諜報戦、宣伝戦、遊撃戦(ゲリラ戦)などの特殊工作を展開したのが、中野学校の卒業生たちであった。

・それから6年後の2014年(平成26)1月16日、肺炎で小野田はこの世を去った。91歳だった。結局、小野田の口からルバング島の知られざる真実を聞くことはできなかった。
 だが、小野田が発したあの言葉は、その後も私の頭から離れることはできなかった。
「ルバング島のことだが、今まで誰にも話していないことがあるんだ・・・・」
 もしかしたら、小野田は誰にも話していないルバング島での29年間の真実を、ルバング島の極秘任務の真相を私に話してくれようとしたのではないか――。
 ここから小野田寛郎の真実の姿を追跡する取材が始まった。
小野田はあのとき、私に何を話そうとしたのだろうか。
そして、小野田はルバング島で29年間、いったい何をやっていたのかーー。

・堀の記述をみれば、情報班の別班の任務はスリリングだったことが窺える。そして、山路長徳少佐が指揮する「山路機関」が、1942年(昭和17)末、敵の女性スパイを確保して、“2重スパイ”に仕立て上げたという秘話も、堀は同書で次のように書いている。
 本間兵団(注・第14軍の軍司令官で戦後、処刑された本間雅晴中将の指揮する部隊)がマニラに進入したとき、軍参謀の部屋から本間兵団の重要書類を盗もうとした、英国の仏人系美人スパイのリタを捕えて、これに整形手術をさせ、別人の顔に仕立てて遂に日本のスパイとして、マッカーサーが比島から退却に際して残していった米軍の残置諜者を暴き
出し、これに徹底的な打撃(主として処刑)を与えたのも山路機関であった。(注は著者)
 中野学校は「謀略は誠なり」の精神を教育理念としていたが、堀の記述にもあるように、戦地では、スパイ活動によって拘束した敵の工作員を処刑していたことも明らかにされている。

・30万を超える兵力を要していたとはいえ、堀の分析によれば、方面軍の戦力は兵員、火力ともに米軍の3分の1程度の戦力しかなかったとされる。このような戦況下にあったフィリピン戦線へ小野田らは派遣されたのである。小野田が着任したのは、方面軍参謀部情報班だったが、正式な申告は、マニラから南に100キロほど離れたリパに司令部を置く第41軍隷下の第8師団(弘前)だった。この師団はルソン島南部を防衛する中核師団として奮戦しているが、終戦直前には米軍によって全滅寸前まで追い詰められていた。最後の師団長は、第41軍司令官兼務の横山静雄中将(陸士24期)だった。

<残置諜者としての戦い>
・潜伏を決して以降の小野田は、中野学校で仕込まれた諜報員としての本領を発揮し、部下3人を率いて島内で残置諜者としての活動を開始する。
 かき集めて所持していた武器・弾薬は「38式歩兵銃3丁、99式小銃1丁、14年式拳銃2丁、軍刀1本、手榴弾8個」で、実弾は「歩兵銃と小銃弾合わせて2300発、ルイス式旋回機銃弾600発(飛行機搭載の機銃)」(『たった一人の30年戦争』より)だった。小野田らは、これらの武器と装備で米比軍と交戦するつもりでいたが、実戦を経ずして日本は無条件降伏した。対米戦争に日本が負けたという情報を、小野田が半信半疑ながら知ったのは、米軍機から撒かれた“降伏ビラ”によってだった。1945年(昭和20)10月末のことである。

<帰国後に巻き起こった空前の“小野田ブーム”>
・フィリピンにおけるすべてのセレモニーが終わってから3日後の、1974年3月12日午後4時、小野田は日本に帰還した。
 当日羽田国際空港の第2スポットに、日航機326便は駐機した。空港の送迎デッキには、小野田の帰国を祝う7000人を超える人々が、手に手に日の丸の小旗を振って、万歳を三唱していた。

・複雑な心情に揺れ動いていた小野田を尻目に、報道合戦はますます過熱していった。そんな最中に舞い込んだのが、週刊誌『週刊現代』からの手記の執筆依頼だった。講談社が所有する伊豆の別荘で、口述筆記するゴーストライターと生活を共にしながらの執筆だった。
 1974年(昭和49)7月にスタートした連載のタイトルは「闘った 生きた」。帰国からわずか4ヵ月後の手記連載という、異例の速さだった。
 だが、帰国後の猛烈な環境の変化で小野田は心身ともに疲弊したため、日本の生活に嫌気がさし、帰国から半年後には次兄が経営しているブラジルのマットグロッソにある牧場に、雲隠れしてしまった。

<シ―グレーヴが説く「山下財宝」伝説>
・フィリピンの金塊にまつわる有名な話に「山下財宝」伝説がある。
山下奉文大将率いる日本軍が、終戦時にフィリピンの地下に莫大な量の金塊を埋め、戦後に引き上げようとしたものの、そのままの状態で眠っているという、いわば都市伝説のような話であり、戦後も詐欺話の枕詞として流布してきたという経緯がある。

・第2次世界大戦末期、日本軍はアジア各国から略奪した金・財宝をフィリピンに隠したというのである。

<フィリピン金塊譚と小野田寛郎の接点>
・そして“奇譚”ともいうべき、フィリピン金塊譚のバックボーンに関して、1章を割いてまで検証した理由は、小野田寛郎の知られざる任務、つまり、彼が日本が敗戦したという事実を知りながら、ルバング島に潜伏し続けた理由と密接に関係するからである。
 山下は取材の際、私にこう言った。
「フィリピンには、ふたつの種類の金塊がある事実を認識して頂きたいのです。ひとつは、“機関”によって計画的に隠匿された大量の金塊。もうひとつは、軍によって隠された軍資金です」
 ふたつの金塊譚が合体して、途方もない量の金塊がフィリピンに眠っているという「山下財宝伝説」が形成された。
 そして、シーグレーヴは『GOLDWARRIORS』で、小野田の任務を“皇族によって隠匿された金塊を監視すること“だったと書いた。しかし、私は中野学校関係者の取材を通して、小野田に課せられた任務は、シーグレーヴが説く任務とは違うものだったのではないかという考えに至った。
 では、小野田の任務とは何だったのか――それは、山下の証言にあった“軍によって隠された軍資金”を守ることだったのではないか。そして、その軍資金とは、“マル福金貨”と呼ばれた、ゴールド・コインだったのではないか…………。

<運命のゴールド・コイン――マル福金貨>
<「福」という文字が刻印された金貨>
<「彼の使命はマル福金貨を守ることにあったと思う」>
・――小野田さんのルバングでも本当の使命は、何だったと思いますか。
Kは「推論だが」と前置きしたうえで答えた。
「残置諜者としての任務を果たしたわけです。しかし僕は、彼の本当の使命は、“マル福金貨”を守ることにあったと思う。
 戦地は終戦末期になると軍票はまったく使えず、物資の調達はマル福(金貨)でやっていた。杉兵団がルソンからルバングにまる福を運び込んだのは、尚武集団の命令で軍資金の安全を考えたうえでの秘策だったと思う。目的は軍資金の隠匿。ちょうど、小野田が派遣された時期に運び込んだのではないか」

<師団司令部から届いた“重要なブツ”>
・小野田が「日本は戦争に敗け、終戦を迎えた」という事実を認知していたことはまちがいない。にもかかわらず、日本の敗戦を認知していた彼が、ルバング島に29年間も潜伏し続けていた理由は、我々が与り知ることのできない“特殊な任務”を彼が背負っていたからだとしか考えられない。
 その“特殊な任務”とは何か――それが、前出のKの証言にもあった「マル福金貨を守ること」だったのではないか。

<“虚像”という重い十字架>
・小野田は昨年1月、入院先の築地・聖路加国際病院で91歳で亡くなった。
 1974年3月に帰国して以来、小野田は自身の思惑とはまったく別の次元で創られた「英雄・小野田寛郎」という“虚像”を、あらゆる場面で演じ続けてきたのではないかと思う。

・小野田寛郎は、29年間、ルバング島で何をしていたのか――。
 この問いに対する私の見解はすでに述べた。山下の見解が正しいのか私の見解が正しいのか――それは読者の判断に委ねたい。いずれにしろ、本書で明らかにした小野田の実像は、残置諜者としての任務を全うした、命令に忠実な、紛うことなき「帝国軍人」であった。その事実はけっして揺るがない。
 29年間の潜伏と引き換えに小野田が得たものは何だったのだろうか。ブラジル移住の資金も、隠匿された金塊から得たという話も一部では囁かれた。しかし、それは違うだろう。当時、出版界で小野田の手記の印税は「数千万円から1億円」と噂され、話題となった。おそらく、移住の資金は手記の印税から捻出されたはずだ。



『天皇の金塊』
高橋五郎  学習研究社   2008/5



<明治以降の日本における最大のタブーと欺瞞>
・「金の百合」と称せられる“巨大資金”がわが国には隠匿されている。戦争を繰り返した大日本帝国が、“天皇の名”のもとにアジア各地から強奪した戦利品の集大成である。現代の日本社会をも動かしつづけているという、この略奪財宝の実態とは果たして何なのか?{金の百合}を軸に見えてくる、これまで決して語られることのなかった、明治以降の日本における最大のタブーと欺瞞を白日のもとにさらす。

・繰り返すが、ほぼ150年前のいわゆる“近代ニッポン”の始まりは国民のための近代社会の始まりとはまるで無関係だったということだ。要するに明治維新を革命と讃えている間は、大正・昭和・平成と続く時代の真実は見えないようになっているのである。

<ヒロヒト名義の大量金塊がフィリピン山中に今も隠匿>
・「あの戦争の最中も、昭和天皇のマネーはバチカン系の金融機関で運用されていたものだったよ」。私が元ナチス・ドイツのスパイ(スペイン人ベラスコ)から、昭和天皇の名義とされる「天皇の金塊」=秘密マネーがバチカン系の銀行で運用されていた――こんな話を聞かされたのは1980年(昭和55年)の初頭だった。

・ベラスコ(南欧系、熱血漢)は戦時中、戦費の調達目的で秘密交渉を担当したナチス親衛隊大将で保安諜報部外務局長の「RSHA」ワルター・シューレンベルグ(北欧系、青白き天才)と共によく銀行に出向いていた。訪問先はドイツ国立銀行ライヒスバンクとスイスに新設された銀行――金塊を担保に、参戦国全ての戦費融資に協力する唯一の“戦時”バンク、国際決済銀行(通称BIS)だ。

・ドイツ国防軍情報部(アプヴェール、長官カナリスはシューレンベルグと犬猿の仲)に所属するベラスコはSSシューレンベルグの活動エリアよりも広く、ドイツ国内はもとよりスペイン、イタリア(バチカン教皇国)、日本も含んでいた。

・ベラスコが機関長を務めた情報機関(TO)は、歴史と宗教上の経緯から南米スペイン語圏の大小の諸国と太平洋の島嶼フィリピン諸島を活動の範囲に含んでいたのだ。

・私はベラスコが勿体をつけて語ったバチカン・マネーの話を聞いてからほぼ数年後の1988年頃、今度は乾き切ったシュールな金塊話を日本人の国際金融ブローカーたちから聞かされることになる。それは昭和天皇(日本皇室)所有で知られた金塊が天文学的規模で現在もフィリピン山中に隠置されているというもの。天皇家名義の金塊のほかにバチカン名義の金塊も含まれるともいう。

<“霞ヶ関埋蔵金”こそ実は「天皇ファンド」「天皇の金塊」の利息分>
・福田新総裁が誕生して、民主党が参議院を制している環境のなかで道路特定財源の扱いを巡る攻防が喧しい。そんな中で元自民党幹事長の中川秀直が「予算が足りなければ“霞ヶ関埋蔵金”を使えばいいじゃないか」と発言。これが2007年(平成19年)末の永田町のちょっとした話題になった。中川のいう埋蔵金はいわゆる「M資金」などとも呼ばれた出所不明の部類の資金のことなのだが、それについて新聞はもとより、政府実力者たちすら本当のこと=「金の百合」をまったく知っていなかったようだ。

<マルコス大統領が「金の百合」を換金するには黄金商売人一族の裁可が必須>
・フェルディナンド・マルコス。彼は一介の弁護士からフィリピン大統領に成り上がった立志伝中の人で、大統領の座を「金の百合」資金で買い取った人物でもある。その後ろめたい秘密を炙りだす最初で最後のキッカケが「マルコス裁判」だった。マルコスはこの裁判で大統領の座から失墜する。民間人の山師が掘り起こした「金の百合」の一部をマルコスが強奪したことから争われたその民事訴訟裁判は、マルコス被告に賠償金430億米ドルを支払わせた。

・賠償金の原資もまたマルコスが地下サイトから秘密裏に回収した「金の百合」の一部が生み出したカネで賄っている。マルコスが大統領時代に地中から回収して換金、内緒で懐に入れたカネはおよそ1兆6300億米ドルにものぼっていた。

<「黄金ファンド」は「四ツ谷資金」「キーナン資金」「M資金(吉田資金)」>
・「黄金ファンド」(基金)は、1946年1月19日の“東京裁判”(極東国際軍事裁判)をまるで待ちかねていたかのように動かした。裁判向けの経費支出は、フィリピン山中から初めて金塊を堀り起こしたアメリカの将官(前述)であったサンティとランスデールの上官で日本占領軍司令部G−2のチャールズ・ウィロビー将軍が担当した。ウィロビーは「黄金ファンド」を「四ツ谷資金」「キーナン資金」、そして、のちに両資金を合体させる通称「M資金」に分けて支出した。「四ツ谷資金」とは当時の歓楽街で、無法者がはびこる新宿四ツ谷界隈をもじった呼び名だといわれる。

・たとえば、中国、満州それに朝鮮半島方面にスパイを送り込んだり、国内の左翼活動家や団体を弾圧する指揮現場が四ツ谷周辺にあったからだとも言われる。基金は反共作戦に動員する右翼活動家や暴力団を支援する資金にも使われると同時に、左翼勢力にも裏面で渡された。日本の共産党が戦時下も戦後もアメリカ共産党と教会経由の資金援助で活動していたことはよく知られている。

<昭和天皇の国師、三上照夫は物理霊媒の亀井三郎と双璧の博士>
・三上は毛沢東、周恩来の学者ブレーンたちと協議して日中国交回復時の対日賠償請求を中国側に断念させた人物だ。三上は3人のニッポン人国際法学者を同行、中国側の専門家たちとの間で日中の歴史(戦争)問題を事前に片付けて田中角栄の訪中をスムーズにした。

・その外交交渉の裏舞台で三上は「兵馬俑の共同開発をしないか」。中国側からそんな話を持ちかけられた。三上が共同発掘を断った理由は「地中に意念が残されていて危ないからだ」とのことだった。ここで、国師三上照夫の人物像について、三上を慕った周辺の人物たちが知る範囲と、三上が私に直接語ってくれた範囲で説明しておこう。

・終戦時、三上は大正から昭和にかけて活躍した京都の仏教学者(文学博士)でのちに禅の巨匠と呼ばれる今津洪嶽(1841−1965)の愛弟子であり、ユダヤ・キリスト教の経典をへブライ語で通読する若者の1人として、皇居に招かれて昭和天皇にユダヤ・キリスト教とは何かを進講し
ている。

<三上が物理霊媒力を備えた若者だったことを知る人は少ない>
・日本で稀有な能力が研究者の手で改めて明かされた人物は昭和初期のいわゆる物理霊媒師の亀井三郎。本稿はすでに故人になった亀井三郎の超能力者ぶりを例に、三上照夫が備えた物理霊媒能力を説明しておこう。物理霊媒という超能力は、たとえば物体に手を触れないでその物体を空中浮遊させたり、距離と無関係の遠い場所にある物体やあらゆる状況を鮮明に透視する能力のことだ。こうした超能力を三上は備えていた。

・1923年(大正12年)日本心霊科学研究所を創設した浅野和三郎は、亀井三郎の超能力ぶりを知り、人物亀井の出現はペリー提督の黒船登場にも勝る、と驚嘆したと伝えられている。ちなみに浅野和三郎は日本心霊科学の父と呼ばれた人物だ。

・亀井は彼らの面前で数種の楽器を空中浮遊させ、それぞれの楽器から音を鳴らして見せた。また床に置かれた紫檀製の重いテーブルを空中に浮揚させ、そのテーブルを数人掛かりで床に引き戻させたが、テーブルは天井に張り付いたまま動かなかった。

・昨今のテレビ番組が紹介している「超能力者」たちのそれらのようにも見えるが、亀井の能力は似て非なるものだった。亀井には心霊の存在をカタチで現す能力もあった。霊媒亀井の鼻孔から溢れ出る白い固形の流動物に人間の顔写真(いわばプリントゴッコに写った写真)のシールを貼ったような著名な人間の顔が次々と現れる霊力だ。

・専門家たちはその現象をエクトプラズムと呼んでいる。つまり、見えない霊を見えるカタチに変える物質化現象のことだ。亀井は心霊人間であって娯楽向け手品師ではない。超能力ぶりを示している場面は大手新聞にも掲載されている。

・三上照夫は文学博士、経済学博士で、東大・京大・大阪大教授を歴任し、佐藤から中曽根まで7代、22年間内閣ブレーンを務めるとともに、亀井三郎と同じ古神道の世界に生きる“超能力者”だった。その三上に亀井は接触、三上が主宰する古神道系団体「御上教苑」で活動した。亀井は自らも神霊界や古神道の勉強道場「白日教苑」を支援者を得て進めていたから三上とはすぐに共鳴した。

・「先生(三上)は私が娘時代に8畳間ほどのお部屋で私の父とお話をされている間に、お部屋の片隅に置いた私の人形を、お部屋の反対側の隅っこに手も触れずに移動させました。私は驚きましたが今はもう驚きません」

 1992年頃、私は三上が上京するたびに三上身辺のお世話係を務めている中年女性からこの話を聞いた。私は天皇の国師三上がそれまで黙して語らなかった三上の一部を知ったものだった。

<「黄金ファンド」の存在と活用法を熟知の三上照夫は松下幸之助や歴代総理の指南番>
・三上青年がGHQ占領中の皇居訪問以来再び皇居に招かれて天皇の国師として仕えてきた事実は現在もごく内輪の関係者が知るのみだ。早すぎた晩年を迎えて鬼籍に入った三上が、その直前に自身から実は、と天皇に仕える立場を語ったのを聞かされた内輪の人々のほかには知られていない。天皇の侍従長、入江相政が三上を大切にしたという説とその逆の説もあるが、真実を知る者はいない。

・三上は次の皇太子徳仁(浩宮)親王の先生役を再び務めるつもりだと私に嬉しそうに語っていたものだった。昭和天皇の国師のみならず佐藤栄作首相からその後に続く歴代の首相の相談に乗ってきていた。

・三上に相談を続けてきた実業家の1人に松下幸之助がいた。松下は三上から「帝王学」を15年間教えられてきた。佐藤政権以来の大蔵、通産、外務など主要各省の上級官僚たちも毎年正月には、内政、経済、外交などの見通しを三上から示唆されていた。

・三上は「黄金ファンド」の存在と活用方法をよくよく心得ていた。三上の周辺のごく内輪の人も「黄金ファンド」(秘密資金)の存在を知らなかったが、三上がしばしば口にする「産業育成資金」(前出)については周辺の人々も頭の中では知っていた。周辺の人々はおそらく今も、三上が口にしたアメリカに積んである「産業育成資金」、それが「黄金ファンド」のことで、“天皇マネー”に端を発した秘密資金だとは気づいていないだろう。

<ウィキペディアWikipedia(フリー百科事典)からの情報>
小野田 寛郎(おのだ ひろお、大正11年(1922年)3月19日 - 平成26年(2014年)1月16日)とは、日本の陸軍軍人、実業家。最終階級は予備陸軍少尉。旧制海南中学校・久留米第一陸軍予備士官学校・陸軍中野学校二俣分校卒。
情報将校として大東亜戦争に従軍し遊撃戦(ゲリラ戦)を展開、戦争終結から29年目にしてフィリピン・ルバング島から帰還を果たす。



『AI時代の新・地政学』
宮家邦彦   新潮社   2018/9/13



<AI兵器>
AI時代を迎え、従来の地政学の常識は大きく書き換えられていく。戦略兵器となった「AI兵器」が核にとって代わり、熱い戦争ではなく「水面下の刺し合い」が主戦場となる可能性すらある。

・国際情勢分析を仕事とする身としては、現在起こりつつあるAI革命が伝統的な地政学的思考に如何なる影響を及ぼすのか、考え続けざるを得ない。

・伝統的地政学とは、ある民族や国家の地理的状況や歴史的経緯に着目し、当該国家・民族や関連地域への脅威およびその対処方法を考える学問だ。
 しかし、特定の国家が有する地理的・歴史的状況はそれぞれ大きく異なる。安全保障上の利害関係に関しては、全世界共通の傾向や法則などそもそも存在しない。

・でも恐れる必要はない。これは日本にとってピンチであると同時にチャンスでもある。世界の一流国として21世紀に生き残っていけるかもしれない。逆に、この大変革期に及んでも従来の不作為と受動的対応を繰り返せば、人口減少による二流国への転落が確実に待ち受けている。

<AI革命で激変する地政学>
・しかし、筆者が懸念するのは、日本での主たる関心事がAIのビジネスに与える影響であるのに対し、他の主要国では政治・軍事に与える影響についてもその研究に多大な人的・財政的資源が投入されていることだ。

<第5次中東戦争はもう始まっている>
・ところが、最近の情報通信処理・AI技術の飛躍的進展は、伝統的地政学が示す優位・劣位の環境を逆転させつつある。従来の強者が弱小集団に簡単に敗れる可能性が出てきたのだ。

・その典型例が、カタルに対するハッキングやレバノンのサイバー戦遂行能力の向上だ。例えば、昔ならレバノンからカタルに直接攻撃がなされる可能性はほぼゼロだった。が、今やレバノンのような人口の少ない貧乏国でも、サイバー空間では相当程度の攻撃力を得ている。なぜこんなことが可能になったのか。

・サイバー戦の世界では防衛よりも攻撃の方が遥かに安上がりである。

・特に、攻撃ソフトを扱う闇市場では入手コストが大幅に下落している。

・だから最近は、伝統的優勢国でも弱小国の攻撃を抑止できなくなっている。

・巷では「AI技術が経済やビジネスを変える」といった議論が盛んだが、AIには伝統的国際情勢分析の常識を破壊する力もある。

<AIが作る芸術には創造性はあるのか>
・結局、人間は進化したAIに支配されてしまうのか。そこで問題になるのは、AIが人間の能力を超える、いわゆる「シンギュラリティ」の概念だ。シンギュラリティが本当に現実となるか否かについても議論がある。

<AI革命はダークサイトを変えるか>
・ラッダイド運動から50余年後の1864年、ロンドンで第一インターナショナルが結成されたが、AI革命の結末は2つ、第1はダークサイドの拡大と過激化であり、第2はネオ社会主義の台頭の可能性だ。10年後の世界は大量の失業者の不満と怒りを誰が吸収するかにかかっている。

<AI革命と米中の地政学>
・AI技術による米中の力関係の変化は日本の安全保障に直結する重大問題だ。日本もAIの軍事応用を本気で始める必要がある。

<AI革命と米露の地政学>
・ロシアがAI分野で米国に勝つことはなさそうだが、ロシアが米国以上に、他国を実際に攻撃・占領することの政治戦略的意味を熟知していることだけは間違いない。米露競争は今後も緩むことなどあり得ない。

<AIと日韓、日朝、日中の地政学>
・問題は対中関係だ。既に触れた通り、中国のAI技術革新は目覚ましい。しかも、その多くは中国国内の社会管理や言論統制など独裁体制を維持するための活動に応用されている。個人のプライバシーを保護することなく、10億人以上ものビッグデータを活用できる中国が国内の管理統制体制を完成させれば、次のターゲットは潜在的敵性国家である日本となるだろう。

<AI革命は戦争をどう変えるのか>
・80年代にはIT革命が米ソ冷戦の終焉とソ連邦崩壊をもたらしたが、2020年代のAI革命は一体何を引き起こすのだろうか。

・しかし、民間主導で急速に発展しつつあるAI技術の軍事転用を条約などで規制することは、航空機や核兵器と同様、事実上不可能だろう。
 AI軍事技術のもう1つの問題点は、議論が兵器システムという戦術面の核心に集中していることだ。AI軍事技術の最大の問題は無人兵器運用の是非などではなく、それが国家軍事戦略を根本から変えてしまう可能性である。

<AI革命で変わる国家戦略論>
1、 AIが国家軍事戦略を変えるということは、AIが核兵器に代わり、「戦略兵器」になり得ることを意味する。戦略兵器とは、それだけで敵の戦意を喪失させ、自らの勝利を保証する究極兵器だ。
2、 AI兵器が敵の戦意を喪失させるとは、核兵器を使わずに、AI兵器だけで、敵国の「大量破壊」が可能になるということだろう。
3、 現在、核兵器は「使いにくい」兵器となりつつあるが、AI兵器は従来タブーだった「大量破壊」をより容易に、かつAIだけの判断で、実行し得るようになるのだ。
4、 これを阻止するには、敵のAI軍事能力を減殺する「対AI軍事技術」を実用化していくしかない。

・そんな未来を議論している米国と比べ、日本は今もAIの軍事応用はタブー、「対AI軍事技術」の議論も皆無だ。これも背筋がぞっとする話ではないか。

<AIを悪魔にするのは人間である>
・当面は「AI」対「人間」の戦いにならない
・AI同士の戦いで優れたAIが勝利する
・AIを悪魔にするのは機械ではなく人間である

<AI革命時代に日本がすべきこと>
・(AI時代に日本が何を考え、何を実施すべきか。論点は4つある。)
・AI革命の影響・効果は経済分野だけではない
・AI革命は短期的に社会的格差拡大を助長する
・AIは軍事・安全保障分野でも革命を起こす
・今、重点投資すべきは「対AI軍事技術」である

・(では日本は何をすべきか。幾つか提言しておきたい。)
・戦後空想的平和主義からの脱却
・AI技術の軍事応用に関する研究者の養成
・AI技術の軍事応用に対する予算配分
・対AI兵器技術の重点的な研究・開発

<歴史の大局観を磨く>
<大局を読む直観力を養う方法>
・筆者が直観力に拘わるのには理由がある。
 今の日本は国家としての大戦略を欠いている。大戦略を立案するには、20〜30年後の世界の国際政治・軍事戦略環境についての冷徹な見通し・シナリオを持つ必要がある。

・歴史の大局が発生するためには、それに至る一連の流れが必ずある。その流れを左右するのが歴史の「ドライバー」という概念だ。

<歴史の大局を左右する「ドライバー」とは>
・英国の戦略思考家は、国際情勢を左右する主な要因を「ドライバー」と呼んで重視するが、森羅万象の中からこれを見付けるのは意外に難しい。

・「ドライバー」「エピソード」「トリビア」に分類する癖をつける

・歴史を学び、常に過去と照合する癖をつける

・知ったかぶりは厳禁、「知的正直さ」こそが武器になる

・では現在の筆者は一体何を「ドライバー」と見るのか。キーワードは、欧州ではロシアのクリミア侵攻、中東では米軍のイラク撤退、東アジアでは中国公船の尖閣領海侵入だ。ロシアの侵攻でポスト冷戦期は終わり、米軍の撤退でイラクとシリアが破綻国家化し、中国が東シナ海の現状を変えた。いずれも地域情勢を左右する力があると思うからだ。

・あるファンドマネージャーが書いたこんな記事を見付けた。「過去の値動きを現在と照合すれば、大局を見失わず冷静に判断できる」――。なるほど、市場と歴史は似ているようだが、1つ違いがある。市場の大局が読めれば大富豪だが、歴史の大局を読めても大儲けはできない。

<「力の真空」理論と北朝鮮情勢>
・「力の真空」状態では、基本的に、最強の部外者が最大の分け前を得る。
・最大強者が動かない場合には、弱い部外者でも分け前に与れることがある。
・部外者が介入しない場合には、破綻国家となるか、新たな独裁者が生まれる。

ということだろう。この仮説を北朝鮮に当てはめると何が見えるのか。北朝鮮の「終りの始まり」は「力の真空」を暗示する。中国にとって核武装する北朝鮮はもはや緩衝地帯ではなく、むしろお荷物になりつつある。

<中国人とアラブ人の5つの共通点>
・カイロ、バクダッド、北京に合計8年住んだ体験で申し上げれば、両者のメンタリティは驚くほど似通っている。典型的な共通点を5つ挙げよう。
1. 世界は自分を中心に回っていると考える
2. 自分の家族・部族以外の他人は信用しない
3. 誇り高く、面子が潰れることを何よりも恐れる
アラブ人を怒らせる最も簡単な方法は公の場で相手を非難し、その面子を潰すことだが、この手法は中国でも十分通用する。但し、効果は覿面なので、あまり多用しない方が良い。
4. 外国からの援助は「感謝すべきもの」ではなく、「させてやるもの」
流石に今このようなケースは少なくなったが、2000年当時の北京国際空港は日本の経済協力により建設されたものだった。当時中国政府は「日本政府の支援に感謝する」なる一文を空港内に掲げることに強く抵抗していた。恐らくアラブ諸国ではこうしたメンタリティが今も残っているのではなかろうか。
5. 都合が悪くなると、自分はさておき、他人の「陰謀」に責任を転嫁する
アラブ人は米国とシオニストの「陰謀論」が大好きだが、中国も同様。何かといえば、「歴史問題」と「抗日愛国戦争勝利」を持ちだすあたりは、アラブの独裁政権とあまり変わらない。

<中国人と中東人はここが違う>
・まとめてしまえば、中東のアラブ人とアジアの中国人の共通点は、?自己中心、?部外者不信、?面子重視、?援助不感謝、?陰謀論好きとなる。だが、筆者がアラブ人気質と信じたこれらの性格は、実は中国人だけでなく、開発途上国の国民が共通して持つ「劣等感」の裏返しなのだ。

<ユダヤ陰謀論に陥るな>
・その典型例が「ワシントンやニューヨークなどにいる在米『ユダヤ人』の陰謀」論ではなかろうか。これらの陰謀論が如何に間違っているかを具体例と共に説明しておこう。
 2016年、全米ユダヤ委員会(AJC)の年次世界大会にパネリストの1人として招待された。
 AJCの活動を知る日本人は少ない。ウィキペディアの日本語版もあまり詳しくない。AJCは1906年設立の国際ユダヤ弁護団体だ。その監視対象は米国内の反ユダヤ主義に止まらず、国内及び世界での様々な差別や人権侵害行為に広がる。

・大会に参加して強く感じたことがある。第1は、世界の現状と将来に対する彼らの強い危機感だ。

・第2は、国際ユダヤ運動の多様性である。

・第3は、彼らの圧倒的な知的力量だ。差別というキーワードで彼らは世界各国の情勢を詳細に分析、議論している。この膨大な知的活動がAJCを支えている。これだけでも、今も巷に流布する「ユダヤ陰謀論」の空虚さが判るだろう。

・AJ(アメリカン・ジュー)は何よりもユダヤ人の故郷イスラエルの利益を優先する。米国市民でありながら、イスラエルに冷淡なオバマ政権には批判的だ。

<ユダヤ・ロビーとイスラエル・ロビー>
・2000年に当選した息子ブッシュ大統領はこれを一変させた。ユダヤ票の獲得が目的ではない。彼は親イスラエル傾向の強い3000万票以上とも言われる「キリスト教右派」「福音派(エヴァンジェリカル)」の票が欲しかったのだ。
 この傾向はトランプ政権で一層顕著になった。トランプ氏を熱烈に支持した層は「白人、男性、ブルーカラー、低学歴」だといわれるが、そこには多くの福音派キリスト教徒が含まれる。彼らは聖書を厳密に解釈し、「神は、シオンの地をアブラハムの子孫に永久の所有として与えられた」という教義を字義通り信じている。こうしたキリスト教シオニストにとって、エルサレムがイスラエルの首都であるのは教理上、当然だ。トランプ氏が内政上必要とするのは、こうした福音派キリスト教徒の支持なのである。

<「核の脅威」の本質>
・そもそも北朝鮮を如何に見るべきか。あれは国家などではなく、従業員2500万人以上の巨大な超ファミリー・ブラック企業だと考えた方が良さそうだ。

<北朝鮮「売り家と唐様で書く三代目」>
・社員たちはなぜかくも従順なのか、それがブラック企業の恐ろしさだ。オーナー一族の独裁は強大だから、抵抗すれば直ちに捨てられる。再就職は不可能だから服従するしかない。

・だが、この三代目の弱点は、致命的に世間知らずなことだ。思い上がった三代目、唐様ばかりが得意のようで、創業者とは月とスッポンである。

<対北朝鮮「宥和政策」は機能するのか>
・歴史の教訓は無慈悲である。強硬策を決断した敵対者に宥和政策は通用しないのだ。

<周辺の大国に翻弄される「朝鮮」外交>
・朝鮮は、常に強国に朝貢することで周辺の大国間のパワーバランスを維持し、自国の独立を守ろうとした。

・中華は、朝貢を続ける朝鮮を保護しつつ、恭順を示さない朝鮮に対しては常に厳しい態度を取った。

・朝鮮への地政学的脅威は女真や日本など非漢族の異民族であり、中華は必ずしも脅威ではなかった。

・朝鮮内部ではエリート間権力闘争が長く続いたが、対外政策はそうした政策論争の重要な要素だった。

<半島「力の真空」ゲームを各国は如何に戦うか>
・トランプ政権以降、米中露間競争は新段階に入る。
・北朝鮮で「終わりの始まり」「力の真空」が生じる。
・「真空」では最強部外者が最大の分け前を得る。
・最強部外者が不介入なら、次なる部外者に益する。
・部外者が不介入なら、破綻国家か新独裁者が生まれる。

<ちょっと変わっているが、素晴らしい国>
<外務省を辞めて分かった格差の拡大>
・この「官民」でまず大きく違うのはカネの出入り。当然と言われようが、官僚は国民の納税「義務」に支えられているのに対し、民間には物品の消費「義務」などないから、人々は自力で収入(売上)を確保せねばならない。

・長々と昔話をした理由は他でもない。10年以上前に感じたこの「官民」「民民」の格差は、今や解消するどころか、逆に一層拡大しているように思えるからだ。



『米中戦争 そのとき日本は』
渡部悦和  講談社  2016/11/16



<ライバルを必ず潰してきた米国>
・日米関係について言えば、1970〜90年代における米国の経済面での最大のライバルは日本であった。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が1979年に書いた『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は有名だが、多くの米国人が日本に脅威を感じていた。とくに日本経済の黄金期であった1980年代の米国人は日本を最大の経済的脅威として認識し、日本に対してさまざまな戦いを仕掛けてきた。その典型例が日米半導体戦争である。半導体分野で首位から転落した米国のなりふり構わぬ日本叩きと熾烈な巻き返しは米国の真骨頂であった。こうした米国の仕掛けが成功するとともに、日本の自滅(バブルを発生させてしまった諸政策と、バブル崩壊後の不適切な対処)も重なり、バブルを崩壊後の失われた20年を経て日本は米国のはるか後方に置いて行かれたのである。そして今や中国が米国にとって最も手強い国家となっている。

<スコアカード・5つの提言>
・ランド研究所では「紛争開始時の米軍の損害を減少させ、勝利を確実にする」ための、5つの提言を行っている。
●バランス・オブ・パワーの変化は米国に不利なトレンドではあるが、戦争は北京にとっても大きなリスクであることを明確に認識させるべきである。
●兵器調達の優先順位においては、基地の抗堪性(余剰と残存性)、高烈度紛争に最適なスタンドオフ・システムで残存性の高い戦闘機及び爆撃機、潜水艦戦と対潜水艦戦、強力な宇宙・対宇宙能力を優先すべきである。
●米国の太平洋軍事作戦計画策定においては、アジアの戦略的縦深(地理的な縦深性、日本などの同盟国が米国の緩衝地帯を形成することに伴う縦深性)を活用する。米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする(積極拒否戦略)を考慮すべきである。その結果、中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう。
●米国の政治・軍事関係者は、太平洋の島嶼諸国及び南東アジア南部の諸国とも連携しなければならない。これは、米国により大きな戦略的縦深と、米軍により多くの選択肢を提供することになる。
●米国は戦略的安定・エスカレーション問題において、中国に関与する努力を続けなければならない。

<スコアカードに関する筆者の評価>
<日本の安全保障に与える影響>
●本報告書には日本防衛に影響を与える記述が随所にあり、その記述を詳細に分析する必要がある。例えば、「嘉手納基地に対する比較的少数の弾道ミサイル攻撃により、紛争初期は緊要な数日間基地が閉鎖、より集中的な攻撃の場合は数週間の閉鎖になる可能性がある。米国の対抗手段により、その脅威を減少させることができる」などといった記述である。
 とくに台湾危機シナリオは日本防衛に直結する。台湾の紛争が在日米軍基地への攻撃などの形が我が国に波及すれば、日本有事になる。南西諸島の防衛をいかにすべきか、在日米軍基地を含む日本の防衛態勢をいかにすべきかを真剣に考える契機とすべきである。台湾や南シナ海の危機は日本の危機でもあるのだ。

●ランドの研究グループは、作戦構想としてのエア・シー・バトルを採用しているために、「アジアの戦略的縦深を活用し、米軍がこうむる当初の打撃を吸収し最終目標に向かっての反撃を可能にする「積極拒否戦略」を考慮すべきである。中国近傍の地域を静的に防護することは難しくなるであろう」と提言しているが、この提言は重要だ。要するにこれは、「危機当初は米空軍・海軍が中国軍の打撃を避けるために後方に退避し、反撃を準備してから攻勢に出る」という意味である。米国の同盟国である紛争当事国は米軍の反撃が開始されるまで中国軍の攻撃に耐えなければいけない—―「積極拒否戦略」にはそのような意味が込められている。
●我が国においても、ランド研究所のシミュレーションを上回る分析が必要であり、詳細かつ妥当な分析に基づく防衛力整備、防衛諸計画策定がなされていくことを期待する。

<キル・チェインとC4ISR能力>
・弾道ミサイルなど、長射程兵器の「キル・チェイン」と、それを可能とする指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察{C4ISR}の能力はきわめて重要である。キル・チェインとは、ほぼリアルタイムで目標を発見、捕捉、追跡、ターゲティング(目標指示)、交戦(射撃)の効果を判定する—―という、一連のプロセスを指す。

<東日本大震災時に軍事偵察を活発化させた中国・ロシア>
・筆者が最も恐れる最悪のシナリオは、同時に生起する複合事態である。2011年に発生した東日本大震災は複数の事態が同時に生起する複合事態であった。当時の自衛隊は、地震、津波、原子力発電所事故に同時に対処する必要に迫られた上、周辺諸国の情報偵察活動も続けなければならなかった。多くの日本人は知らない事実だが、当時、自衛隊が大震災対処で忙殺されている間に、その自衛隊の警戒態勢を試すかのように周辺諸国(とくに中国とロシア)が軍事偵察を活性化させた。その姿勢には強い憤りを感じたものだ。しかし、それが我が国周辺の厳しい安全保障環境であると改めて実感したことを思い出す。
 筆者が恐れる「同時に生起する複合事態」の一例は2020年に開催される東京オリンピック関連である。この大会に備えてテロやサイバー攻撃への対策が議論されているが、大会直前や開催中の首都直下地震の発生及び対処は考えられているだろうか。
 筆者がさらに恐れる同時複合事態は、首都直下地震(または南海トラフ大震災)の発生に連動した日本各地でのテロ活動、もしくは、尖閣諸島など日本領土の一部占領である。

<日中紛争シナリオ>
<各シナリオ共通の事態>
・いかなる日中紛争シナリオにおいても、非戦闘員ないしは特殊部隊による破壊活動は必ず発生すると覚悟すべきであろう。平時から中国軍や政府機関の工作員、そのシンパで日本で生活する中国人、中国人観光客が、沖縄をはじめとする在日米軍基地や自衛隊基地の周辺に入っていると想定すべきである。

<中国の準軍事組織による「尖閣諸島奪取作戦」>
・中国は常套作戦としてPOSOW(準軍事組織による作戦)を遂行し、米国の決定的な介入を避けながら、目的を達成しようと考える。準軍事組織による作戦の特徴は、?軍事組織である中国軍の直接攻撃はないが、中国軍は準軍事組織の背後に存在し、いつでも加勢できる状態にある。?非軍事組織または準軍事組織が作戦を実行する。例えば、軍事訓練を受け、ある程度の武装をした漁民(海上民兵)と漁船、海警局 の監視船などの準軍事組織が作戦を実施するのである。この準軍事組織による作戦は、南シナ海—―ベトナム、フィリピン、インドネシアに対して多用され、確実に成果をあげている作戦である。

・以上の推移で明らかなように、この作戦には軍事組織である中国海軍艦艇が直接的には参加しない。日本側から判断してこの事態は有事ではなく、平時における事態(日本政府の言うところのグレーゾーン事態)であり、海上自衛隊は手出しができない。尖閣諸島に上陸した漁民を装った海上民兵を排除するためには大量の警察官などの派遣が必要となる。法的根拠なく自衛官を派遣することはできないからである。
 中国の準軍事組織による作戦は、日米に対してきわめて効果的な作戦となるだろう。なんといっても日本の法的不備をついた作戦であり、自衛隊は手出しができない。
 一方、米国にとっても準軍事組織による作戦に対して米軍が対応することはできない。つまり、こうしたケースの場合は米軍の助けを期待することができないため、これらの事態の対処は当事国の日本が単独であたらなければならない。

<日米の機雷戦>
・日本はすでに、南西諸島沿いに太平洋に出ようとする中国の水上戦闘艦及び潜水艦に脅威を与える高性能の機雷を多数保有している。日本の洗練された機雷は、狭い海峡を通り抜けようとする艦艇・潜水艦を目標として製造されている。適切に敷設された機雷原は、第1列島線を超えて東方に向かう中国艦船の行動を遮断する。機雷は大量生産が比較的簡単で、高価な艦艇よりはるかに安価である。
 対潜戦と同じく、中国海軍は対機雷戦にも弱く、この弱点を衝くべきである。

<手足を縛りすぎる自己規制はやめにしよう>
・習近平首席の軍改革の目的は「戦って勝つ」軍隊の創設だった。戦う相手は日本であり、勝つ相手も日本である。戦って勝つためには手段を選ばない超限戦を実行する。超限戦では国際法も民主主義国家の倫理も無視する。こういう手強い相手が中国であることをまずは認識すべきである。
 これに対して日本の安全保障のキャッチフレーズは「専守防衛」だ。防衛白書によると、「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」。
 
<中国軍の航空・ミサイル攻撃に対する強靭性を高める>
・我が国の防衛の最大の課題は、中国軍の航空攻撃や大量のミサイル攻撃から生き残ることである。そのためには防空能力を高めること、築城による基地・駐屯地の抗堪化、装備品の分散・隠蔽・掩蔽、装備品の機動性の向上、被害を受けた際の迅速な復旧の措置による被害の回避が必要である。
 
・防空能力については、統合の防空能力を強化すべきである。そのためには、各自衛隊の防空装備品を統一運用するためのC41SRシステムが必要となる。さらに日米共同の防空能力の構築にも尽力すべきであろう。
 将来的には、電磁レールガン、高出力レーザー兵器、高出力マイクロ並兵器の開発を加速させ、中国軍のミサイルによる飽和攻撃にも対処できる態勢を構築すべきである。とくにレールガンは、中国軍の次期主要武器――高速飛翔体や各種ミサイル—―を無効化する可能性のあるゲーム・チェンジャーであり、その開発を重視すべきだ。

<強靭なC4ISRを構築する>
・ミサイルのキル・チェインを成立させるためにC4ISRが大切であることも繰り返し述べてきた。米軍も統合運用を深化させる過程で、異なる軍種のC4ISRシステムの連接に努めてきた。とくにグローバルに展開する武器を連接し、リアルタイム情報に基づいて迅速かつ効率的に火力打撃を実施するためには、強靭なC4ISRが不可欠である。

<継戦能力を保持する>
・最後に強調したいのが「継戦能力」である。予想される戦いは短くても数週間、数カ月間継続する。弾薬・ミサイル、燃料、予備部品などの備蓄は必須だ。形ばかりの防衛力整備ではなく、継戦能力の向上のために、より実際的な事業が不可欠なのだ。

<ランド研究所の「中国との戦争(考えられないことを考え抜く)」の論文>
・「米中戦争は、両国の経済を傷つけるが、中国経済が被る損害は破滅的で長く続き、その損害は、1年間続く戦争の場合、GDPの25%から35%の減少になる。一方、米国のGDPは5%から10%の減少になる。長期かつ厳しい戦争は、中国経済を弱体化して手に入れた経済発展を停止させ、広範囲な苦難と混乱を引き起こす」

・本書の目的も、米中戦争という最悪の事態を想定し、それに対処する態勢を日米が適切に構築することで、中国主導の戦争を抑止する点にある。

・いずれにせよ、日米中が関係する戦争(紛争)が実際に生起することを抑止しなければならない。平和を達成するためには戦争を知らなければならない。



『悪魔の情報戦略』  
  隠された「真実」を看破する戦略的視点
浜田和幸   ビジネス社   2004/4/1



<中国有人飛行成功の裏に隠された情報戦略>
・国民の平均年収が8万円でありながら、3000億円近い経費を投入した今回の打ち上げに対しては、内外から批判的な見方もあったが、ひとたび成功のニュースが流れるや中国人の間では「偉大な中国の科学力の勝利」といった歓迎ムードが広がった。

・中国共産党にとってはかってない規模での政治ショーを成功させたことになる。国内では貧富の差も広がり、教育や福祉、環境、人権などさまざまな分野で国民の不満が溜まっているところだったから、今回の宇宙ショーは、その国民の気持ちを高揚させ、共産党支配の未来に希望を抱かせる上で、極めて効果的だった。

<「2017年米中宇宙戦争勃発」のシナリオを描くアメリカ>
・なぜなら、中国の宇宙開発計画は将来の「宇宙戦争」を念頭に置いていることを、もっともよく理解しているのはアメリカに他ならないからである。ラムズウェルド国防長官の特別補佐官を務め、現在はノースロップ・グラマン・ミッション・システムズ副社長となっているリッチ・ハパー氏は「このままではあと20年以内にアメリカと中国は宇宙での戦争に突入する」との見通しを明らかにしているほど。実際、アメリカの国防総省では「2017年米中宇宙戦争勃発」とのシナリオに基づく模擬戦争演習を行っている。

<ライバル視する中国、誘い込むアメリカ>
・一方、中国の人民解放軍の幹部も、「科学技術の粋である宇宙戦争を戦える力を持たねば、我々はアメリカによってコントロールされる」と言う。それのみならず、「宇宙大戦争計画」と称して、やはり「アメリカとの最終戦争の舞台は宇宙になる」との見方を示しているのである。

・曰く、「中国は陸、海、空の領土保全に加え、これからは第4の領土である宇宙に目を向け、その開発に積極的に取り組むべきである。宇宙の資源をめぐる争奪戦での最大のライバルはアメリカとなるだろう。この戦いに勝利するため、我々は、必要な宇宙兵器の開発を早めねばならない」

<宇宙から選ばれし国家「中国」という情報操作>
・中国UFO調査協会では中国の宇宙開発を支援するための教育啓蒙活動に熱心に取り組んでいる。なぜなら、今回の友人宇宙飛行にも関わった北京航空航天大学の沈士団学長がこのUFO協会の名誉会長を務めるほど、中国では「飛碟」(UFO)や「外星人」(宇宙人)研究が政治的に認知されているからである。

<内部書類「対米全面戦争勝利戦略」の信憑性>
・このところ、北朝鮮の新聞やラジオは盛んに「アメリカの攻撃に対して大規模な反撃を準備しよう」という呼びかけを続けている。北朝鮮には100万を超える陸軍兵力に加え、470万の予備役もいる。数の上では世界第4位の軍事力と言うのがご自慢で「イラクの軟弱兵士と比べ、我々には高いモラルを維持しているので、徹底的にアメリカ軍を殲滅できる」と意気盛んな限りである。

<大地震は本当に起こる?>
<情報に対して未熟な日本>
・とてつもない大きな地震が来るかもしれない。中央防災会議では「東海地震はいつ発生してもおかしくない。東南海地震と同時発生の可能性もある。東南海、南海地震は今世紀前半の発生が懸念される」と発表している。

・地震学的に間違いないといわれているものの、根拠なき理由から、たとえ大地震が来ても自分だけは助かるという、信じる者は救われるような情報の価値とはまったく異なる次元で人は生きているところがある。

<脆弱な日本の情報機関>
・日本でも以前には「明石機関」や「陸軍中野学校」などで知られる諜報組織や情報機関と言うものがあった。ところが占領軍によって壊滅させられたのである。

・英米の諜報機関のような大組織によって世界中に張り巡らされているネットワークから上がってくる情報に基づいて政策を策定する、そういった情報サービス機関はない。

・日本版のCIAといわれる内調でさえ内実は国内情報分析で60人、海外の情報分析で80人の計120人体制なのである。例えば、日本に最も影響の大きいアメリカの情報分析にも4、5人でフォローしているという状況である。

・そこで、どういう対応をするかというと国家予算を使ってアメリカの法律事務所やコンサルタント会社と言ったビジネスの情報機関から定期的にワシントンやニューヨーク情報を買うのである。



『語られざる中国の結末』
宮家邦彦  PHP  2013/10/16



<人民解放軍の「サイバー戦」観>
・ここで、中国サイバー軍の概要について簡単にまとめておこう。各種報道によれば、中国は2003年以来、秘密裏に軍人3万人、民間専門家15万人という総勢18万人のサイバー・スパイを擁する、巨大なサイバー軍を実戦運用しているといわれる。
 中国はサイバー攻撃を最も有効な対米「非対称戦」と位置付けている。最近は中国サイバー戦能力の向上が著しく、米国は中国のサイバー軍を「米国にとって唯一、最大のサイバーテロ・脅威」とみなしているようだ。

<米国が恐れる中国版「真珠湾攻撃」>
・米国が恐れているのはズバリ、中国版の「真珠湾攻撃」だろう。冷戦終結後の湾岸戦争やベオグラードの中国大使館誤爆事件を契機に、中国側は現代戦争の重点が「機甲化戦」から「情報化戦」へ変わりはじめたことを、ようやく理解したからだ。
 情報化戦では、ミサイル、戦闘機など在来型兵器に代わり、敵のアクセス(接近)を拒否するため、緒戦で敵の指揮・統制を麻痺させる戦略が重視される。中国は初動段階でのサイバー・宇宙戦など、「非対称戦」の重要性を強く認識しているはずだ。

<対日サイバー攻撃は年間1000件以上>
・以上はあくまでシュミュレーションだが、実際に日本の政府機関や企業へのサイバー攻撃は、警察庁が把握している分だけでも、年間1000件以上あるという。また、情報通信研究機構(NICT)の調査では、2012年の1年間だけで、この種のサイバー攻撃関連の情報通信が、78億件もあったそうだ。

<「攻撃」を模索する米側のロジック>
・パネッタ長官は、サイバー攻撃には「防衛」だけでなく、「攻撃」の選択肢も必要であり、サイバー空間での「交戦規定を包括的に変更中」であるとも述べた。その直前にオバマ大統領は、「破壊的攻撃を行なうサイバー兵器」の開発を命じている。米中サイバー戦はすでに新たな段階に突入しつつあるのだ。

<「サイバー攻撃能力」の研究を>
・過去数年来、米国ではサイバー戦を「抑止」するための「サイバー攻撃」に関する準備が着々と進んでいる。日本でも、憲法上の制約があることを前提としつつ、サイバー戦「抑止」のための「サイバー攻撃能力」を研究する時期に来ている。

<「第2次東アジア戦争」は短期戦?>
・他方、だからといって近い将来、米中間で大規模かつ、長期にわたる軍事衝突が起こると考えてはならない。少なくとも、米国や米国の同盟国が中国を挑発する可能性はきわめて低い。米国は中国大陸に侵入して中国と戦うことなど考えてもいないだろう。

・先に述べたとおり、米国の関心は西太平洋地域における米国の海洋覇権が維持されることを前提とした「公海における航行の自由」の維持であり、中国大陸における領土獲得や政権交代などではないのである。
 一方で中国側、とくに中国共産党の文民政治指導者にとっても、いま米軍と戦争をする利益はあまりない。そもそも、戦闘が始まった時点で中国をめぐる多くの国際貿易や経済活動は停止するか、大打撃を蒙るだろう。これは中国経済の終焉を意味する、事実上の自殺行為である。

・そうだとすれば、仮に、たとえば人民解放軍側になんらかの誤解や誤算が生じ、サイバー空間や宇宙空間で先制攻撃が始まり、米中間で一定の戦闘が生じたとしても、それが長期にわたる大規模な戦争に発展する可能性は低いと思われる。

<実戦能力を高めるだけでは不十分>
<中国の「敗北」後に予測される7つのシナリオ>
A 中国統一・独裁温存シナリオ(米国との覇権争いの決着いかんにかかわらず、共産党独裁が継続するモデル)

サブシナリオA1 中国が東アジア・西太平洋における米国との覇権争いに勝利。

サブシナリオA2 中国が統一と共産党の政治的権威をほぼ現状のまま維持。

サブシナリオA3 第二次「文化大革命」などによる独裁強化。

B 中国統一・民主化定着シナリオ(米国との覇権争いに敗北。米国主導の民主化、中国超大国化モデル)

C 中国統一・民主化の失敗と再独裁化シナリオ(国家分裂のないロシア・「プーチン」モデル)

D 中国分裂・民主化定着シナリオ(少数民族と漢族で分裂するも民主化が進む、資源のない中華共和国モデル)

サブシナリオD1 たとえば北京を中心に漢族中心国家の統一が維持される一方、他の少数民族が民族自決する。

サブシナリオD2 サブシナリオD1で想定した漢族中心の統一国家がさらに分裂し、現存する中国各地の主要経済圏を基盤とする複数の漢族中心国家群が出現。

サブシナリオD3 分裂した中小国家群が、一部または全部で、連邦制ないし国家連合を組む。

E 中国分裂・民主化の失敗と再独裁化シナリオ(少数民族と漢族の分裂後、民主化が失敗するロシア・「プーチン」モデル)

サブシナリオE1 たとえば北京を中心に漢族中心国家の統一が維持される一方、他の少数民族が民族自決する。

サブシナリオE2 サブシナリオE1で想定した漢族中心の統一国家がさらに分裂し、現存する中国各地の主要経済圏を基盤とする複数の漢族中心国家群が出現。

サブシナリオE3 分裂した中小国家群が、一部または全部で、連邦制ないし国家連合を組む。

F 中国分裂・一部民主化と一部独裁の並立シナリオ(少数民族と漢族の分裂後、民主と独裁が並立するモデル)

サブシナリオD、Eと同様、分裂の仕方については三つのサブシナリオが存在。

G 中国漢族・少数民族完全分裂シナリオ(大混乱モデル)

(まとめ)
▼米中がなんらかの戦争ないし戦闘により衝突する場合、中国人民解放軍が米軍を圧倒し、決定的な勝利を収める可能性は低い。

▼他方、こうした戦争ないし戦闘において米軍が優勢となるにしても、中国側は早い段階から決定的敗北を回避すべく、政治決着をめざす可能性が高く、米側の決定的勝利の可能性も低い。

▼されば、サブシナリオA2、すなわち仮に中国が敗北しても、内政上の悪影響を最小限に抑え、中国の統一と共産党の政治的権威をほぼ現状のまま維持する可能性が、現時点では最も高い。

▼その場合、中国共産党の指導体制は当面、揺るがない。しかし、米中衝突という異常事態が中国国内の政治経済環境に及ぼす悪影響は計り知れず、いずれ、国内情勢は不安定化していく。

▼万一、国内の政治的安定が崩れれば、中国の分裂が現実味を帯びるだろうが、その場合でも、漢民族の連帯は強く、分離していくのはチベット、ウイグルなどの少数民族に限られるのではないか。

▼可能性は最も低いものの、実現した場合の悪影響が最も大きいのが「漢族分裂」現象であり、その場合には、民主的でない複数の漢族中小国家が生まれる可能性が最も高い。

▼複数の漢族国家が誕生するか否かは、中国人民解放軍がどの程度、軍としての統一を維持できるかにかかっている。

▼その場合、各国の軍隊の大小、装備の優劣、とくに核兵器保有の有無が鍵となる。各国軍隊の力が均衡すれば分裂は長期化し、逆に一国の軍隊が突出すれば、いずれ中国は再統一に向かうだろう。

・現在、中国では、国民の多様化した政治的、経済的、社会的利益を「誰が代表するのかが静かに問われはじめている。中国共産党が新たな統治の正統性を見出さないかぎり、正統性の第一、第二の柱に依存しつづける。そうなれば、中国共産党の統治システムはいっそう脆弱なものとなるだろう。



新版『ラルース 地図で見る国際関係』  現代の地政学
イヴ・ラコスト   原書房    2016/12/22



<「地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」>
・「地政学、それはまず戦争をするのに役立つ」。これは1970年代末に発行されたイヴ・ラコストの著書のタイトルで、当時大きな反響をよんだ。
 現状に即して完全に見なおしたこの新版で、著者はこの直観を現代世界を読み解くカギとして使っている。著者(フランスの地政学の第一人者の1人)は現代の大きな争点について、独自のアプローチを提案する。それは、局地的な地図から世界地図まで、さまざまな地域の地図を重ねあわせることによって、そうした争点をたがいに関連付けるという方法である。

<中国:いずれは世界一の経済大国か?>
・統計によれば、中国は2009年から公式に世界第2位の経済大国になった。しかし国民の多く、とりわけ農民は、今でも非常に貧しい生活を送っている。にもかかわらずそうした状況が語られないのは、人々が今でも共産党の役人の支配下にあるからである。

<始まりは大きな地政学的動き>
<漢民族の勢力拡大:南北2000?>
・中国人は全員同じ言語を話すわけではないが(中国南部にはさまざまな方言が存在する)、そのほとんどが自らを漢民族だと認識しており、共通の文字である漢字を用いている。漢字はアルファベットと違って表意文字で、読み方は地域によって異なる。この文字の統一性は、インドとは大きく異なる点である。インドも10億人以上の人口をかかえるが、その90%がヒンドゥー教徒であることを除けば、言語的、文化的には非常に多様である。

<中華帝国がまもなく世界の中心になる>
<中国のめざましい経済発展とその地政学的理由>
・産業活動は、党の有力者とその家族が結託して中国や外国の個人投資家と取引するという、理論的に不鮮明な無秩序な方向に向かって進められた。
取引相手はとくに台湾の人間だった。

・そのいっぽうで地方の状況は非常に不安定なままで、国の管理下にある工場は失業者を出し、多くの場合労働者に賃金を払えずにいる。

<国内移住と貧困>
・国際的な研究によれば、中国では中流階級(西洋型消費・社会生活を送る人々)が3億人いるいっぽうで、公式な数字によれば1億人以上が貧困線以下の生活を送っている。これは年収882元以下を基準にしたものだが、貧困線の世界平均は年収3000元以下である。こうした貧困層の大半は、仕事を求めて田舎から都市に出てきた無数の国内移民(2000年代初頭には約4200万人)で、おもな出身地は、四川省、湖南省、河南省である。出稼ぎ先としては、広州(半数近く)と上海が多い。こうした人口の大移動は、国の政治経済を不安定にする大きな危険要素の一つである。

・人口密度の非常に高い東部地域となかば砂漠のような西部地域との違いは歴然としている。世界的な経済危機によって対米貿易が低下したとはいえ、中国はこの危機以前に経済成長の記録を達成している(最高年16%)。そうしたなかでも中国当局は綿密な出生管理を続けており、1970年代に決定した産児制限政策は2001年にふたたび「国家政策の基本」であると宣言された。しかも妊娠中絶という強制的な手段も棄ててはいない。中国の出生率は人口の自然出生率より低くなる見込みで、女性の数の不足が強く意識されはじめている。都市の人口は、1980年から2011年の間に、全体の19.7%から50%に変化した。

<農地の獲得、緊張と対立の源>
・1980年に中国の都市人口は全人口の20%以下であったが、現在は50%を超えたところだ。上海は2300万人を、北京は2000万人を超えている。かつて四川省に属していた内陸部の重慶市は、数字の上では3100万人を超えるが、これは特別なケースである。というのも、三峡ダムの建設後に長江流域が水没したため、「赤色盆地」(四川盆地)の多くの地域を行政上まとめたからである。
 多くの都市の拡張はほかの国と同様、都市化の問題を引き起こしたが、中国では都市の農村部への拡張が特別の問題をもたらした。農地は原則として集団の土地にしておかなければならないからである。各公社で指導者たち(選挙で選ばれる原則だが、実際は共産党に任命される)が土地を不動産開発業者に売ることを決めると、開発業者はその不動産を裕福な市民に売却する。この売買の際に、公社の指導者たちが利益のうちのかなりの部分をしばしば着服していることに、農民たちはすぐに気がついた。こうした土地詐欺に続いて複数の指導者に対する暴動が起こり、インタ―ネットで伝えられるようになった。
 党幹部(「赤いプリンス」とよばれる)の家族が私服を肥やす問題やその役職の問題、地方や国家のトップの座を争うライバル関係については、ますます論議されている。

<中国がアメリカを「救う」>
・1990年代から米中の経済関係は非常に良好で、何年も前から中国資本がアメリカの巨額な貿易・予算赤字を補填しているほどである。中国はアメリカに製品を売り、同国から国債を購入しており(推定1兆ドル以上)、アメリカの外貨と経済を支えている。

<国内移動者が大量に存在>
・今や豊かで工業化された沿岸各省と、大部分が農村の中央部、そしてあきらかに開発の遅れた西部各省の間には大きな格差が認められる。
 現代の中国の特徴は地方から都市へ向かう国内移動者が大量に存在することで(2000-05年に2億人以上)、一部の人はこれを社会を不安定にするリスクであると考えている。しかし当局は、人口100万人以上の都市に住む人の割合は世界平均よりもまだ5%以上低いと指摘する。
 香港を含む中国のGDP(国内総生産)は、2010年にはアメリカに次いで世界第2位であり、日本とドイツがこれに続いている。

<華僑>
・華僑がもっとも多いのは当然ながら東南アジアだが、中国人の存在に対して土着住民が激しい拒否の動きをみせることがある。とくにインドネシアでは、1965年にスハルト将軍のクーデターが起こったときにそれがみられた。中国人は当時共産主義と同一視され、地元の共産主義者とともに多数が虐殺されたのである。

<どのような大国? どのような未来?>
・中国では昔から、何百万人もの農民が不法に都市に出稼ぎにきて、非常に不安定な状態におかれている。国内移住を管轄する当局は、相応の許可をもたない人間が都市に居住することを禁止しているからである。現実に何千万人もの「密労働者」が必要な滞在許可なしに都市で働いているが、最低の賃金で、家族を呼びよせられずにいる。彼らはいかなる要求もできない。そんなことをしたら追い出されるか、労働所に収容され、それまでの貯金を田舎の家族に仕送りできなくなるからである。世界的な経済危機の影響で中国の経済成長も大幅に減速したため、「不法労働者」たちは田舎に押しもどされている。収入源を絶たれた彼らは、自分達よりもはるかに豊かに暮らしている地元の共産党の役人による支配に反発しはじめている。
 反発の声は、共産党員の労働者からも上がっている。党の有力者の親族が経営する民間企業は羽振りがいいのに、彼らが働くかつての国営工場は不振にあえいでいるからである。この不安定な社会情勢に直面して、指導者たちは社会保障制度をはじめとする改革を約束する。国の息のかかった組織は、国の統一を強化するために、中国が外国から脅威にさらされていると吹聴する。その言によれば、国際世論がチベット人を支持しているのがその証拠だ。

・ナショナリズムの高まり、社会不安、農村部での反乱、都市部の混乱など、現在の中国は何が起きてもおかしくない状況である。しかも、めざましい発展を制御しつづけることができたとしても、この国はいずれは国境を越えて力を行使したくなるのではないだろうか。中国は原材料、とりわけ石油を大量に必要とし、中央アジアやアフリカに本格的な経済攻勢をしかけている。とくにアフリカには、資材と資本だけでなく数多くの労働者も送りこんで、地元民をひどく驚かせている。
 中国の大企業は、現在はグリーンランドや北極海の鉱物資源に強い関心を示している。

<北朝鮮:横目でみる地政学的争点>
・以来、韓国は民主主義体制のもとで繁栄する国家となり(人口4900万人、2011年にGNP1兆1630億ドルで世界13位の経済大国)、隣国の北朝鮮は貧困と全体主義に沈んでいった(人口2400万人)。

・そのうえ北朝鮮が原子力研究分野でパキスタンや複数のアラブ諸国を支援したことも忘れてはならない。また、特定のテロリストグループに原子力兵器を提供すると脅していることも忘れてはならない。しかしながら、国の経済が破綻しているにもかかわらず、現在誰も体制が近々崩壊するとみている様子はない。それは直接の利益を得るものがいないからかもしれない。南北統一が実現した場合、韓国は、ドイツ経済が東西再統一時にかかえた負債よりもはるかに重い負担がのしかかってくることを恐れている。中国は、南北朝鮮の再統一がアメリカに有利に働くのではないかと危惧している。そしてアメリカは、南北統一によって韓国駐留米軍の存在意義が問われることになるだろうとみている。日本はといえば、北朝鮮のミサイルの直接の脅威にさらされているのにもかかわらず、統一された朝鮮が長期的には大国となり、経済的な手ごわいライバルになることを憂慮している。さらに北朝鮮から大量の移民が流入するリスクもかかえている。近年北朝鮮政府は、新たな核実験や、太平洋上のハワイにまで達しうるロケット弾の発射を行った。

・韓国は、北朝鮮軍が日本に到達する能力のある射程1300?以上のミサイルを少なくとも1000基保有しているとみている。一部の観測筋によると、中国は深刻な危機の際に北朝鮮のカードを切るかもしれないという。とくに台湾問題をめぐって米中間に強い緊張が生じた場合に、北朝鮮のミサイルの脅威は日本に向けられるかもしれない。

<日本:驚異的な成長も現在は停滞中>
・中国と朝鮮半島の北東に位置する日本のジャパンという英語名は、中国語で「日本」をリーベンと呼んだことに由来する(ジーペンと聞こえる)。この非常に古いアジアの国は、世界的に見て二つの大きな地理的特徴をもっている。第一に、早い段階でおおよそ統一された、全体として非常に単純な形状の島国国家であるという点だ。

・しかも全長3000?以上の広さをもちながら、大きな文化的均質性を保っている点も、他の島国国家とは異なっている。二つめの大きな地理的・地政学的特徴は、19世紀の産業革命を自力でなしとげ、その結果、西ヨーロッパや北米と同様の「先進国」の特徴をすべてかねそなえた唯一の非西洋国家であるという点である。

<日本の危機感>
・1990年代半ばからは成長率が大幅に低下し、日本は新たな段階に入った。さらに2009年には世界的な経済危機の影響で、本格的な景気後退に突入した。原因は複雑だ。1つは、産業界の大企業が多くの生産拠点を海外に移したことである。海外拠点は人件費が安く、そう遠くない韓国や台湾、インドネシアだけでなく、より大きな市場をもつアメリカや西ヨーロッパにも広がった。また、人口の減少と老齢化による国内市場の景気停滞も原因の一つである。

<現代日本の地政学的課題>
・かつて日本の地政学野心はとほうもないものだった。現在は国境を越えた介入は少しずつ増えてはいるものの(アフガニスタンやイラクへの派兵、台湾への明確な外交支持)、日本の地政学的問題は限定的になっている。

・実際は、日本の地政学的な課題は、領土よりも国のイメージの問題だといえる。近隣諸国は日本に対して、かつての帝国主義のイメージを抱いているからである。韓国人は、日本の植民地時代や第2次世界大戦中に自国の男女が受けた扱いを忘れてはいないし、中国人は日本軍の行い、とりわけ1937年の「南京大虐殺」における残虐な行為をつねに思い起こしているのである。
 北朝鮮の問題と同政府が核兵器をちらつかせる戦略は、直接的には韓国に向けられているが、日本もとりわけ関係があるといえよう。北朝鮮はすでに、弾頭非搭載のミサイルを日本の頭越しに太平洋に撃ちこんで、自国の力を誇示しているのである。

・中国と日本の競争は、石油分野と地政学的戦略面でも表れはじめている。中国政府は今、カザフスタンと西シベリアから石油を受け取っているが、日本は西シベリアやカザフスタンから来るパイプラインがロシア連邦の沿岸地方まで、すなわち日本海側まで到達することを望んでいる。日本は広島への原爆投下の記憶がありながらも、エネルギーの安全確保のために何十年も前から原子力発電所建設の大規模計画を実現してきたが、これは福島の大惨事以後非常に問題視されている。とはいえこの原子力の民生利用計画は、日本が自力で国の安全を守らなければならなくなった場合に、簡単に軍事目的に転用できる手段でもある。

・1946年にアメリカに押しつけられた憲法によって、日本は公式な軍隊はもたないものの「自衛隊」を備えており、その艦隊は力を増しつづけている。2007年1月、防衛庁は省に昇格したが、これは日本における軍隊復活の兆しかもしれない。日本の地政学的課題は北朝鮮の挑発に限られているのではなく、中国国内で高まるナショナリズムの流れにも関係している。中国は西側諸国には軍事力をアピールし、日本に対しては、先の大戦で日本軍が犯した残虐行為を思い起こさせている。

<「日本はアジアにおけるアメリカの空母」>
・日本がロシア、韓国、中国と領有権を争っている対象は実際には副次的な存在で、いくつかの小さな島々にすぎない。しかし、日本の地政学的立場は安穏とはいいがたい。日本は、国力を増し続けている隣の中国と、日本の経済、政治、軍事面のすべてにおいて存在感を誇るアメリカとの間に挟まれているからである。中国は日本がつねに中国の意向を阻止しようとしていると疑っており(ロシアの石油資源をめぐる競争や、北京政府を苛立たせる日本による台湾支持)、日本はアジアにおけるアメリカの空母だと批判する。アメリカが、1945年以来日本が守りつづけてきた慎重な外交姿勢や軍事的立場を変えるように仕向けているだけになおさらである。こうした状況の中で、北朝鮮の核問題については中国も懸念している。

<歴史と地政学>
・1945年からナチズムに関する言及がいっさい禁止されたドイツと異なり、日本は半世紀もの間、ある問題に悩まされつづけている。それは第2次世界大戦中に日本軍が中国で行った残虐行為に関する歴史認識の問題だ。

・しかし10年後になると、この南京大虐殺や「従軍慰安婦」といったその他の非道行為を、「完全な捏造」として否定する動きが生まれた。A級戦犯が埋葬されている靖国神社へ小泉純一郎総理大臣が何度も参拝したことによって、この問題は再燃した。2005年には、日本の小学校で配られるいくつかの歴史教科書に事実を否定する記述がなされていることに対して、中国で大規模な抗議デモが起き、論争はさらに過熱した。

・中国政府はこのほかにも、この状況に乗じて、日本が主張する尖閣諸島の領有権異議を唱えた。この尖閣諸島(中国では「釣魚群島」と呼ぶ)周辺には、石油や天然ガス資源の存在が確認されている。
 何はともあれ、日中両国はパートナーシップを解消するわけにはいかない。2004年には中国は日本にとって第1の貿易相手国となり、2009年には世界第2の経済大国になっているからである。

<東日本大震災>
・2011年3月11日、巨大地震(マグニチュード9)が太平洋にある日本最大の島、本州の東海岸近くで起きた。続いてほぼ直後に大津波が起こり、巨大な波が沿岸に近い福島の町を襲った。時間がなく警報も間に合わずに、2万人以上の人が命を落とした。

・日本社会にとってこの惨事の影響は計り知れないものであった。それまで日本人は、大地震の影響をほぼゼロにするために数十年前から構築されてきた地震対策を(そして地質学者や技術者を)信頼しきっていたが、以後東京が激しい地震に襲われる危険が現実化した。

・数年前から核エネルギーを告発していた環境保護団体は、大震災以後、かつてないほどどこであれ原子力発電所の禁止を求めるキャンペーンを行なった。ヨーロッパでは、ドイツが遅くとも2022年には原子力発電所をすべて閉鎖することを決定した。風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギーを開発するまでの間は、代わりに石炭火力発電所によって発電するという。エコロジストたちはこれまで主に化石燃料の焼却で生じる「温室効果」を批判してきたが、いまや原子力を糾弾するようになった。しかしこれは大気の温暖化を防ぐもっとも強力な方法なのである。フランスでは電気の70%が原子力エネルギーによるものだが、原子力計画は鈍り、原子力発電所の安全強化が求められている。



『核の戦国時代』が始まる
日本が真の独立国になる好機
日高義樹  PHP   2016/7/13



<イスラエルの核兵器保有>
・イスラエルはすでに核兵器を保有しているが、これまではこの核兵器を使ってテヘランやモスクワを攻撃するといった基本戦略を明らかにはしてこなかった。
 しかしながらアメリカに対する信頼を失えば、イスラエルは必ず独自の核戦略を世界に向けて発信することになるだろう。標的はイランの首都テヘランとモスクワになる。

・オバマ大統領は2009年に就任した直後、「核のない世界をつくる」と述べ、ノーベル平和賞を獲得した。だが現実には、世界の核兵器は増えつつある。オバマ大統領は結局、「核のない世界」などをつくろうとは思っていない。言行不一致の典型といえる。

<アメリカ政治の強まる不条理>
<吸収されない「国民の不満」>
・本書を書いている2016年6月の段階では、両者の支持率は拮抗したまま、11月の大統領選挙に向けて、闘いが始まっている。

・だがアメリカの政治を長く見てきた私からすると、2015年から長々と続いてきた大統領選挙をめぐる混乱は、アメリカ政治と言う火山の噴火の前兆にすぎない。新しい大統領は、本格的な噴火に遭遇することになる。

・アメリカのこうした状況から見て私は、アメリカ国民はまったく未知の人物ドナルド・トランプにすべてを掛けざるをえないと思う。アメリカ政治火山の大爆発に対処できるのはトランプしかいない、と考えられるからである。
 
・「考えられないようなことが起きている。ドナルド・トランプが大統領になった場合、我々はその状況をいかに凌いでいくか、いかに生きのびるかを考えておかねばならない」
 こうした危機感は、ドナルド・トランプが、アメリカ国家にとって最も重要な安全保障問題について経験や見識がまったくないことから生じている。
 だがアメリカはこの8年間、それこそ経験も見識もないオバマ大統領のもとで、外交、戦略上の失敗を繰り返してきた。

・アメリカの指導者たちは、世界情勢が不安定で危険なものであることは認識しているものの、効果的な対応策を誰も打ち出そうとはしていない。新しい考え方、新しい政策は、まったく提起されていない。

・アメリカのマスコミの指摘どおり、たしかにドナルド・トランプには安全保障や国際戦略についての経験や知識がまったくない。

・アメリカを企業か組織に喩えれば、社長や会長、重役たちが、正しい行動をとることができなかったために、いまや経営が危機的状況になっている。新しい経営者を選ぶのは当たり前のことである。

・ジョンソン大統領やカーター大統領に至っては、軍の首脳に相談することなくアメリカ軍最高司令官の権威を行使して直接、現地の戦闘部隊に命令を下して大混乱を起こした。
 トランプが軍人と直接、話をすると言ったのは、もちろん、そういった突飛な行動のことではない。補佐官や専門家たちを経由せずに、軍の首脳たちの判断と見識を尊重し、顔を合わせて話をする、と言ったのである。

・オバマ大統領はこう述べた。「中国経済がうまくいかなくなれば、アメリカ経済も崩壊する。中国と争うべきではない」
 こうしたオバマ政権の考え方に対してトランプは、「中国が人民元を操作し、安い製品の輸出ダンピングを行って、アメリカの経済体制そのものを破壊している」とテレビで述べた。正面切って中国を非難したのである。

<消滅する政治道徳>
・友人の共和党の政治家が、こう言っている。「誰の目にも明らかなのは、ヒラリー・クリントン政権ができれば、第3期オバマ政権になるということだ。アメリカの国民はオバマの8年間の失敗を繰り返そうとは思っていないはずだ」

・「ヒラリー・クリントンとその周辺、とくにビル・クリントングループは、中国との同盟体制をアメリカ外交の基本にしようとしている。この考え方はバラク・オバマにも共通しているが、ヒラリー・クリントンがホワイトハウスに入れば、アメリカと中国の同盟体制はより強固なものになり、危険な状況になる」

・ヒラリー・クリントンがアメリカ大統領に適していないのは、国務長官時代に外交上の過ちを繰り返したことからも明らかである。もともとヒラリー・クリントンは外交よりも国内政治に関わりつづけてきた政治家なのだ。

・ヒラリー・クリントンは犯罪的な資本家グループとのつながりが強い。核エネルギー産業とのビジネスでは、世界的なシンジケートの一員に組み込まれていると噂されている。

・その外交問題の責任者はヒラリー・クリントン国務長官だったが、夫のビル・クリントンは上海やシリコンバレーで中国企業のために講演し、莫大な謝礼金を受け取っている。

<「ビジネス国家」の危険性>
・アメリカのマスコミは、この事実を追求していないが、明らかにビルとヒラリーのクリントン夫妻は、アメリカの安全保障を外国に売るようなビジネスに関わり、多額の謝礼を受け取ったのである。

・ビル・クリントンは何度もカナダで講演を行い、サリダー・キャピタルから合わせて800万ドル、日本円にして8億円の謝礼を受け取っている。講演料の常識をはるかに超えた額である。

・このシンクタンクの調べによると、ビル・クリントンは、ウラニウム・ワンの買収の直前、頻繁にロシアで講演し、その際にはプーチンとも連絡をとっている。
 この間、ビル・クリントンがプーチンをはじめロシアの人々にヒラリー・クリントン国務長官から得た情報などを伝えたことは想像に難くない。
 ビル・クリントンとヒラリー・クリントンの公職を利用したビジネスの相手はロシアだけではない。ビル・クリントンはサウジアラビアほかの国々で講演し、そのたびに50万ドル相当の謝礼を受け取っている。

・クリントン元大統領とヒラリー・クリントン国務長官が、大統領職や国務長官の立場をビジネスに利用していることに対して、アメリカ議会からも強い批判が出ている。

・ビル・クリントンとヒラリー・クリントンが、中央アジアやアフリカ、中東の国々それぞれや、中国の指導者との関わり合いで稼ぎ出した資金は、2億ドルとも3億ドルともいわれている。日本円にして200〜300億円にのぼる。

<リベラル化しすぎたマスコミ>
・ドナルド・トランプの発言はたしかに非常識で、大統領として言うべきではないことを言ってしまい、強い反発を買っているが、アメリカの普通の人々の本音を反映しているのである。
 大統領になるための訓練を受けているとか、という点で見れば、トランプよりもヒラリー・クリントンのほうが適しているといえるだろう。
 だが、すでに触れたように、ヒラリー・クリントンは公の立場と権限を利用して、常識では考えられないような金儲けをしている。

・ビル・クリントンはこれまた「大統領」をビジネスにして、金儲けに精を出している。オバマ大統領にはこういった金銭的なスキャンダルはないものの、大統領の特別権限を盛大に利用して、一方的な政治を行ってきた。
 全米商工会議所は、オバマ大統領が就任以来、新しくつくった1000近い規制によって、ワシントンの官僚の数が20万人以上増えたと計算している。その結果、浪費された税金や時間や労力を考えると、はたしてオバマは大統領にふさわしかったか、という疑問を呈する人が大勢いる。
 
・ドナルド・トランプに対する既成政治家たちの度を越えた批判や反発は、これまでの政治体制を維持し、ビル・クリントンやヒラリー・クリントンのように、政治的な利権を確保しておきたいという思惑から来ている。

<崩壊する保守共和党>
・私が大統領選挙戦を取材するのは今度で12回目になるが、これまでの大統領候補戦のフロントランナーは、政治の基本ルール、政党のルールに従って選挙戦を繰り広げた。
 こうした常識的な選挙戦をドナルド・トランプが放棄したのは、共和党に対する不信が原因である。

・私の友人たちは、「ドナルド・トランプが台頭したのは一般党員が共和党の指導者に反発しているからで、一種の政治革命である」と指摘している。

・言葉で人々を燃えあがらせてしまうことが、ドナルド・トランプの人気を高めるのに役立っている。だが同時に、人々の対立を激しくし、憎しみを燃え立たせる結果にもなっている。
 ドナルド・トランプが使う「メキシコ移民は犯罪者で麻薬の売人」といった言葉がそのまま、ドナルド・トランプを対立の焦点に置いていると言える。
 ドナルド・トランプの現在置かれた状況は、彼の言葉が火の玉になって、人々の心に燃え移った結果である。もともとそのための準備も心構えもなかったドナルド・トランプが、アメリカを動かす人気者、ポピュリスト的政治家になってしまった。

・2016年11月のアメリカ大統領選挙でアメリカ国民は、ドナルド・トランプという、政治的にはまったく未知のビジネスマンを大統領に選ばざるをえなくなっていると私は予測しているが、共和党の指導者たちは、「考えられないことが起きてしまった」と怯えている。

<日本の真の独立へ高まる期待>
<決まらないアメリカのアジア極東戦略>
・アメリカ共和党の事実上の大統領候補になったドナルド・トランプは、外交軍事上の経験や素養がまったくないと非難されている。大統領になればアメリカ外交を、さらに弱くしてしまうという批判の声が共和党内からも起きている。

<終焉する日米安保条約>
・「日本はいつまでもアメリカに守ってほしいと思っているのか。いつになったら、自分で自分の国を守るようになるのか。その意志があるのか」

・「日本人と日本政府は、アメリカ軍にいつまで沖縄にいてほしいと思っているのか」

・日本が、日米安保条約の基本にある軍事力にかかる経費を負担するという問題が現実になりつつあるが、日本は、アメリカの要求どおりに分担金を払って日本の将来の国際戦略を形づくるか、あるいは日米安保条約に代わる新しい戦略を独自に構築するべきか、歴史的な分岐点にさしかかっている。

<浮上する「核抑止力の論理」>
・とくに北朝鮮のような、初歩的な核兵器とミサイルで恫喝してくる国に対しては、独自の核戦力を開発する用意があることを明示しておく必要がある。

・アメリカ国内には、日本に核装備させることがアメリカのアジア戦略にとって安上がりになるか否か検討するべきだ、という声が出はじめている。
 一方、日本ではアメリカの「核の傘」に守られてきたという現実を忘れた人々が、「核兵器反対」「憲法第9条を守れ」と声高に叫びつづけている。
 日本の人々は、アメリカの次期大統領になる可能性のある人物が、国民の声を代表して「日米安保条約をやめてしまえ」と主張していることを真剣に受け止めるべきである。

<「核の戦国時代」に、どうする日本国憲法>
・アメリカの力が後退するなかで、独裁者がすべてをとりしきる専制国家ロシア、中国、北朝鮮が核兵器を持ち、今後ますます侵略的な政策を露骨にしてくると思われる。そうしたなかで、まず懸念されるのは朝鮮半島である。

・すでに触れたが、ドナルド・トランプが『ニューヨーク・タイムズ』の記者や編集者と1時間20分にわたって外交、国際問題を話し合った中で、「日米安保はいらない」と述べたことから、日本では日米安保条約の将来と日本の孤立について関心が強くなっている。

・日本は国連を金科玉条のごとく尊重し、外交の基本にしているが、国連はアメリカによって設立された国際機関である。日本外交は即、国連外交だと世界中から言われているが、それはすべてをアメリカに頼っている外交という意味に他ならない。
 日米安保条約が空洞化し、アメリカが日本を見放せば、日本の国連外交は壊滅する。だが日米安保条約が空洞化することは、日本が真の独立国家として存在することを意味する。
 世界は「核の戦国時代」に入るだけでなく、予想すらできない困難な状況になろうとしている。
 だが逆に言えば、日本は真の独立国家になる機会を手にすることになる。この機会を逸してはならない。

・ドナルド・トランプが大統領にならない場合でも、アメリカの政治家たちは中国を新しい敵と見なし、アメリカ国民をまとめていくことになると思われる。

<崩壊する中国の国防バブル>
・中国の国防費の拡大は、まさに「国防バブル」と言えるほど異常なものであった。
 中国の侵略的な領土拡大は、際限のない国防費の拡大に象徴されている。中国は過去25年、四半世紀のあいだに国防費を40倍に増やした。とくに2005年から10年間で3倍半に増えているのである。

・中国はこの有力な陸軍兵力を背景に、インドと紛争を続けているヒマラヤ地域で領土侵犯を繰り返し、過去3年間だけでもインドの領土を600回以上、侵犯している。中国はインドがパキスタンと争っているカシミールにも地上兵力を送り込み、インドの安全を脅かしている。

・中国はすでに述べたように、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイなどが領有権を主張しているスプラトリーアイランド(南沙諸島)の岩礁を埋め立てて人工島をつくり、滑走路をはじめ軍事施設を建設している。中国は国際法を無視して、中国本土からはるかに離れた公海に領土をつくるという、新手の侵略戦争を始めているのである。

・モスクワでインタビューした政治家は、シベリア地方にはすでに500万人を超える中国人が不法に侵入していると言ったが、中国による実質的なロシアの領土侵犯が行われているのは明らかだった。

・国防費のバブルが崩壊すれば、中国は、最も安上がりで効果のある核兵器をさらに増やし、アジアに新たな混乱をもたらす危険がある。

<増大する中国解放軍の不平不満>
・「人民の軍隊」を標榜する軍部の抵抗をそらすために、南シナ海での領土拡大だけではなく、さらに多くの不法な侵略行為を始めざるをえなくなる。そしてその結果は、核兵器を手にしての危険な戦争である。

<水爆をつくりつづける北朝鮮>
・国民の多くが飢えに苦しみ、政治収容所に囚人が溢れている独裁国家北朝鮮は、世界で最も貧しい国の一つである。

・長いあいだ秘密のベールに包まれてきた核兵器は、コンピュータ時代になると、製造法や部品、技術者に至るまで、ヨーロッパの闇市場で手に入れることが難しくなくなった。核爆弾に使用される核分裂物質の濃縮ウラン235や、プルトニウム239なども、比較的たやすく手に入るようになっている。

・「水爆をつくるのは、さほど難しくない」と私に言ったのは、水爆の父といわれるアメリカの物理学者エドワード・テラー博士だが、SIPRIのフランク・バーナビー博士も原子爆弾をつくることができれば、水爆をつくるのは難しいことではないと言っている。

・ところが世界では、広島に落とされた原子爆弾の数千倍もの威力を持つ水爆が、まるで通常兵器のようにつくられるようになっている。

<懸念が高まる朝鮮半島の核戦争>
・現在、キム・ジョンウンが開発を進めている水爆は、海中発射のミサイルと組み合わせた場合、まさにアメリカに国家存亡の危機的な状況をもたらすものと言える。
 北朝鮮のミサイルシステムや水爆の開発は、世界が新しい核戦争時代に突入したことを象徴している。



『日本人が知らない「アジア核戦争」の危機』
日高義樹  PHP  2015/7/22



<中国の核戦略思想は危険である>
・アメリカ国防総省は中国の宇宙兵器とサイバー攻撃に強い関心を示し、全力を挙げて対抗しようとしているが、とくにこの宇宙司令部は、中国のアメリカ本土に対するミサイル攻撃と、衛星に対する攻撃に備えることが最も重要な任務になっている。

・「中国や北朝鮮が地上移動型の大陸間弾道ミサイルの開発を強化しており、すでにアメリカ本土を攻撃できる能力を持っている」

・「宇宙戦争の帰趨がアメリカの命運を決めることになる。冷戦が終わって以来、初めてアメリカは、深刻な安全保障上の危機に直面している」
アメリカ国防総省をはじめ、宇宙戦争やサイバー戦争の責任者が強い危機感に捉われているのは、中国の核戦略が危険な考えに基づいているからだ。

・「中国は核兵器を抑止力とは考えていない。実際に使うことのできる兵器だと思っている。アメリカは核兵器を、戦争を起こさないための抑止力として使っているのに対して、中国は、戦いを有利に進めるための兵器として使おうとしている」

・「中国に対しては、ライオンがネズミかウサギを狙うときでも全力を挙げるように、アメリカの核戦力のすべてを挙げて対処することが正しい」
 シュレンジャー博士は常に、こう主張していた。博士は中国が核兵器を開発しつづけていること、通常戦争で勝てないとなれば危険な核兵器を使う意志のあることを、認識していたのである。

・こうしたシュレンジャー博士の考え方は、中国を「話せばわかる相手」としているキッシンジャー博士などと対照的だが、中国政府が進めている軍事戦略を分析すれば、中国の核兵器についての戦略構想がきわめて危険であることは明白である。すでに述べたように、中国はアメリカが最新技術を駆使して通常兵力を強化したために、通常兵力で戦えば必ず負け戦になることをはっきりと認識し、核戦力を強化したのである。

・中国は核兵器でアメリカの強力な通常兵器に対峙しようとしている。それどころか中国は、アメリカ本土を核攻撃することも考えている。そもそも中国の戦争についての考え方は、歴史から窺える戦争についての常識とは大きく違っているのである。
 人類の戦争の歴史を見ると、戦争はまず利害の対立から始まる。利害の対立の延長線上で戦争が始まっている。戦争の前には外交上の駆け引きがある。このことはあらゆる戦争の歴史が示しているが、中国はそういった歴史の範疇外にいる。利害の対立があれば直ちに武力攻撃を仕掛けてくる。

・日本は中国の無謀な核戦力に押し潰されようとしていることを認識しなければならない。現在、日本が進めている集団的自衛権の拡大といった、その場しのぎの対応策では、回避できない危機が日本に迫っている。

<中国核戦力の大増強が始まった>
・「中国政府がいかに説明しようとしても、先制攻撃に核兵器を使わないという約束はきわめて疑わしい。中国政府は核兵器を最初に使わない、また核兵器を持たない国には使わないと約束しているが、この約束は軍事的に保障されているものではない」

・アメリカ国防総省の専門家は、中国が実際に核兵器を戦争に使おうとしている理由について、三つのことを挙げている。
 まず、中国はすでに膨大な数の核兵器を製造して保有し、使う体制を整えている。アメリカやロシアが核兵器の削減を行っている最中に、中国は大量の核兵器を製造しつづけている。大量に保有していることは、核戦争を行う意図があることを示している。

 次に、中国が各兵力を強化したのは、アメリカのエア・シー・バトル、「空と海の戦い」戦略にとうてい対抗できない、つまり通常兵器だけによる中国沿岸での戦争に中国が敗れることがはっきりしたからである。中国は負け戦を避けるために核兵器を使おうとしている。
 三つ目は、中国が核兵器の効果を十分に認識していることである。日本や韓国、台湾など核兵器を持たない近隣の国々を脅かすのに、最も有効な兵器だと考えている。そういった核兵器による恫喝は、そのまま使用につながっていく可能性がある。

・「中国には広い国土がある。よって核兵器を落とされたところで、その効果を吸収してしまう。国民の多くが核爆弾で死んでも、中国人が全滅するわけではない」

<中国が宇宙戦争を仕掛ける>
・中国がさらに力を入れているのが、電磁波によってアメリカ全土のインターネット・システムを攻撃することである。核爆発が起きると電磁波が混乱して、まったく使えなくなる。中国は核兵器を先制攻撃に使うだけでなく、実際にアメリカの通信ネットワークを破壊する手段として使う準備を始めているのである。
 アメリカは、こうした中国の核戦略について強く懸念している。戦争についての中国の考え方、あるいは各国に対する数々の不法な軍事行動から見て、中国が宣戦布告をしないまま突然アメリカに攻撃を仕掛け、アメリカの通信網を破壊する可能性は十分にある。

・次に中国が力を入れているのは、これまたアメリカを見習っての航海用および時差修正用の衛星である。中国は高性能の航海用衛星「北斗」を数十個打ち上げ、上空はるか彼方から20メートルの誤差で地球上のすべての場所を指定する能力を有している。中国はさらにアメリカやロシアの技術を盗んだりして、GPSおよびグロノス航海用衛星システムを開発し、打ち上げに成功している。

・中国は技術的にも急速な進歩を遂げ、核や宇宙での戦いではもはや発展途上国であるとは言えなくなった。

<米中サイバー戦争は本格化する>
・アメリカがサイバー攻撃部隊や防衛部隊を設置したのは、中国がアメリカに対するサイバー攻撃を本格的に始めたからである。2012年、中国は上海にあるサイバー攻撃司令部を中心に、全米のコンピュータ・サーバーやアメリカ軍の戦闘司令部のコンピュータ・ネットワークに侵入した。

・中国の人民解放軍が重視するサイバー攻撃作戦の第一は、標的とする敵を確定し、敵の情報機関から情報を収集することである。そして第二に、サイバー攻撃によって集めた情報を利用して相手側の軍事行動を遅延させ、軍事ネットワークだけでなく、民間のコマーシャル活動をも混乱させる。第三は、敵側のコンピュータやネットワークに電子攻撃やレーダー波による攻撃を仕掛けて、敵の情報収集能力を破壊する。

・アメリカは中国のサイバー攻撃の拠点、つまり中国が密かに隠しているサイバー攻撃部隊や組織の所在や活動状況をすでに割り出している。中国が普通の会社として使い、サイバー部隊であることを隠している香港の司令部も割り出し、攻撃波を探知して反撃を加えたりしている。

・「中国の大規模なサイバー攻撃は台風や竜巻、地震や洪水といった自然災害よりも恐ろしく、しかも広範な地域に壊滅的な被害をもたらす」

・中国のサイバー戦争は今後ますます複雑化し、強力なものになってくると思われる。日米安保条約の18年ぶりの改定にあたってカーター国防長官が「サイバー攻撃に対抗する日米協力体制をつくりたい」と発言したのは、当然のことと言える。

・世界ではこれから、アメリカと中国の核の対立と、宇宙での戦いが深刻になっていく。アメリカと中国だけでなく、北朝鮮やイラン、さらには中東諸国を含めて、核戦争の時代が始まろうとしている。

<朝鮮半島で始まる核戦争>
<指導者が人海戦術によって人の命を簡単に奪う野蛮な国>
・アメリカが中国を相手に本格的に戦争を行うことができないのは、中国人のものの考え方が理解できないからである。戦いの相手が中国である場合、偶発的な核戦争が起きる可能性が、ソビエト相手の場合よりも何十倍も大きいのだ。

<北朝鮮が核戦争を起こす>
・「北朝鮮は、すでに核爆弾の小型化に成功している。2020年までに数十発の小型核兵器を製造する見通しである」

・中国が偶発的な核戦争を起こす危険があるのと同じ程度、あるいはそれ以上に、北朝鮮が自らの存在を賭けて製造した核兵器によって朝鮮半島で偶発的な核戦争を起こす確率は、きわめて高い。

<ロシアの核兵器が野放しになった>
・プーチン大統領は。クリミア半島を占領してから一周年にあたる2015年3月16日、「祖国に向けて」という題名のロシアテレビのドキュメンタリーの中で、「アメリカはじめ西側がウクライナをめぐってロシアに挑戦してくれば、核兵器を使うことも考えた」と述べている。プーチン大統領のもとで偶発核戦争の危険は世界に広まっている。

<イランが中東核戦争の発火点になる>
<アメリカが最新鋭の核兵器を開発する>
・アメリカが開発しようとしている最新鋭の核兵器は、B60-12と呼ばれるGPSのチップを爆弾の尾翼に埋め込んだ最新鋭の核爆弾である。GPS機能を活用し、あらゆる目標を10センチの誤差で正確に攻撃することができる。

・2008年、アメリカ国民は大きな期待を持って、アメリカ史上初めての黒人大統領としてバラク・オバマを選んだ。だがいまやアメリカ国民は、反オバマで固まりつつある。そしてオバマ大統領がいなくなることで起きる変化への期待が、驚くほどアメリカ人を元気づけている。
 オバマ大統領が間もなくいなくなる。ドルが歴史的に安定している。アメリカの石油が世界を再び動かしはじめている。この三つがアメリカ人に自信を取り戻させた。アメリカのこの変化は、これからアメリカと世界に何をもたらすのであろうか。

・共和党の大統領候補は、結局のところジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が選ばれるだろう。ジェブ・ブッシュは祖父の代から続く人脈を駆使し、多くの共和党の政治家を取り込み、最後に大統領候補としての立場を確立すると思われる。

・しかしながら現実には、アメリカの選挙はマスコミがつくりだす浮ついた雰囲気と宣伝、それにキャンペーンの進め方によるところが大きい。強くて正しい候補者が勝つとは限らない。その最もよい例は、あらゆる政策に失敗し、選挙戦で述べてきたことのほとんどが噓であったオバマ大統領が、二度も大統領選挙に勝っている。これもまたアメリカの現実である。
 しかしながら、世界と歴史のことを少しでも考えれば、アメリカの人々はオバマの民主党とその後継者ヒラリー・クリントンを選べないはずである。

<習近平は核の先制攻撃を考えている>
<日本の「非核ユートピア思想」は終わる>
・アメリカやヨーロッパの核兵器現実主義者は、一方的なユートピア的思想を推し進めれば、中国共産主義という異文化に基づく勢力が地球を支配し、偶発的な核戦争がいつ起きるかわからないと警告している。この主張は、オバマ大統領があらゆる外交に失敗し、アメリカの軍事力を弱体化させるなかで力を得ている。

・中国に核兵器を使わせないことが、最も重要な戦略なのである。そうした重大な問題について何も語らずに「積極的平和主義」などと言っていれば、平和主義ではなく、平和ボケだと非難されても仕方ない。

・アメリカの絶対的な卓抜した力のもとにおいて核兵器に反対するユートピア的な思考で国際社会を生きて日本は、アメリカ、中国、ロシア、北朝鮮、さらにはイランまでが加わろうとしている核の乱立の時代、いまこそ現実的な核戦争の抑止を実施する軍事戦略を考え出し、実施する必要がある。



『アメリカが日本に「昭和憲法」を与えた真相』
日高義樹  PHP 2013/7/8



<核兵器の国際管理と独自の核兵器を提唱する>
・アメリカは核戦略の三本柱としてICBM大陸間弾道ミサイル、原子力ミサイル潜水艦、それに長距離戦力爆撃機を保有し、ロシア、中国、北朝鮮、イラン、パキスタンといった敵性国家の拠点1000カ所に対して、常時、攻撃態勢を取り続けている。だが、オバマ大統領は、現在の国防費削減の強い要求の中で、この態勢を続けることはできないという悲観的な見方をしている。

・アメリカ軍事戦略の中心である核戦略を支援するために、財政負担を申し出る事自体、非常識だと考える人も多いであろう。だが、非常識であろうがなかろうが、思い切った提案をしないかぎり、NATO型の安全保障の取り決めをアメリカに承知させることはできないと思われる。

・さらに日本がやらねばならないことが少なくとも二つある。一つは核兵器を運搬する手段の開発と整備を本格的に始めることである。もう一つは核爆弾をいつでも製造できるようにしておくことである。

・核兵器というのは抑止力である。使ってしまえば本来の意味がなくなってしまう。報復を受けることもありうる。

・核のボタンに手を置くことをアメリカに要求するには、財政的な負担を申し出るとともに、「いつでも核兵器を製造する」という抑止力を使って交渉することが必要である。

・日本は自らの力で自らを守る国家として、アメリカ、中国、ロシアと交渉していかなければならない。アメリカの影響力と軍事力は急速に後退しつつある。日本が独立しようがしまいが、独自の力であらゆる国際情勢に対応しなければならないときがきている。



『いまアメリカで起きている本当のこと』
日本のメディアが伝えない世界の新潮流
日高義樹 PHP   2011/3/19



<核戦争の危機が高まっている>
・冷戦時代は、二つの超大国が核兵器を保有していたため、抑止力によって核戦争が起きなかった。だが、北朝鮮とイランが核兵器を開発し、連鎖的に中東やアジアに核兵器が拡散しようとしている。核戦争と核テロの危険が高まっているのだ。
 こうした状況の中で、日本政府の責任者がやるべきは、アメリカ政府と現実的で具体的な協力体制を作り上げることである。

・アジアで北朝鮮が核保有国になれば、韓国、台湾が当然のことながら核兵器を持とうとするだろう。インドネシアやベトナムも核兵器保有に向かうと思われる。そうした状況についてキッシンジャー博士は「世界各地で忌まわしい核戦争が起きることを予測させる」と私に言った。

・日本は三つの基本的な政策を検討する必要がある。第一は「核兵器は要らない」などというイデオロギー本位の姿勢を改め、現実政策として核問題を取り扱うべきである。二番目は、核戦争を回避するために、アメリカとどのような協力体制を新しく作るのかを考えるべきだ。三番目は、日本が独自の抑止力を持つことを考えはじめることである。核兵器反対、国連支持と言っているだけでは、世界は安全にならない。

・安全保障上の原則はもともと単純で明確である。アジアで中国、ロシア、北朝鮮に続いて、韓国、台湾、あるいはシンガポール、ベトナムといった国々が核兵器を持ち地域の安全が危うくなる場合は、日本も抑止力を持って、自国を守ればよい。

<米中友好の時代は終わった>
・中国のやり方は、安い人民元によってダンピングを続けるというものだが、この中国と闘うには、アメリカもまた対抗して保護貿易とダンピングをやるほかはない。

・「中国人は、政府が食べさせてくれさえすれば、どんな政府でもいいと思っている」中国の友人が私にこう言うが、13億の国民に十分に食べさせることができなくなる日が近づいている。これまでは、毎年10パーセント以上の国民総生産の伸びを続けながら「今日よりも明日」と国民生活を豊かにしてきたが、そうした状況が終わろうとしている。

・オバマ大統領がクリントンよりも悪い弱腰外交で中国をすっかりつけあがらせてしまった。アメリカの国民の大多数は、こうした米中関係に我慢がならなくなっている。やがて必ずや強力で毅然とした政治家が次の大統領として現れるに違いない。強いアメリカ大統領がアメリカの力を結集して、中国と正面から対峙すれば、いくつかの重大な弱みを持つ中国は崩壊する。

<中国は百年後もアメリカの軍事力に追いつけない>
・アメリカはサイバー戦争のための準備と開発にも全力を挙げている。アメリカ海軍はこのほどサイバー戦略のための艦隊司令部を設置した。アメリカと中国、北朝鮮の間ではすでにサイバー兵器を使っての宇宙戦争が始まっている。

・アメリカのサイバーコマンドは、コンピュータに対する外部からの攻撃を避けるために、さらに強力なシステムも作成に取りかかっているが、作戦担当者によれば、中国からの攻撃はすでに始まっている。アメリカ側も外部からの攻撃に備えるだけでなく、攻撃することを検討している。

・中国軍がアメリカに追いつき、アメリカと同じ兵器体系を作り出すには、まだ百年はかかるだろう。
 アメリカ人が常に新しいものを作り出し、中国がそれを追いかけるという構図は将来も変わらないはずだ。

・「普通の国であれば、人口が減少すれば移民を考える。だが、日本は単一民族である人々がしっかりと編まれた社会と独特な文化を作り上げているため、移民が入り込めない。日本が移民を考えずに人口問題を解決するには、突出した科学技術の革新が必要である」

・日本がいま最も必要としているのは、将来を見据えた産業政策である。日本には世界に冠たる優れた技術はあるが、優れた産業政策がない。

・米中衝突がもたらす日本の危機は、7百年前の蒙古襲来、元寇を超える、日本にとって国の命運を左右する難局なのである。

<世界の技術はアメリカの大学が改革する>
<アメリカの強さの秘密は、アメリカの大学にある>
・最近の国連の教育白書は世界で最も優秀な20の大学のうち、17はアメリカの大学であると指摘している。

・こうした大学が中心となってアメリカの産業技術を開発している。アメリカ技術の中核は大学であるという事ができる。アメリカの最先端の技術センターとも言えるシリコンバレーを支えているのは、スタンフォード大学とその周辺の大企業である。

・ハーバード大学は自らの政治力で議会を動かし、企業に働きかけて資金を集めている。そういった大学の在り方と企業とのかかわりが、アメリカの大学を技術ネットワークの中心的な存在にしているのである。このネットワークがアメリカの技術を常に革新し拡大し続けている。



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