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幕末吉原の猫(無料公開)
[【時代小説発掘】]
2011年5月8日 12時12分の記事


【時代小説発掘】
幕末吉原の猫
篠原 景 


【梗概】: 
幕末の江戸吉原、猫が見た〈衝動〉の景色。

【プロフィール】:
篠原 景。
2000年より大学で史学に没頭、時代小説の道へ。敬愛するのは東西のロックの神様。日本文芸学院客員講師。


これまでの篠原 景の作品:
「かまきりと遊女」
「遊女の絵筆」 
「廓の子供 」
「春の床」
「花魁のねずみ」
「土人形」


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【時代小説発掘】
幕末吉原の猫
篠原 景 



(一) 惣太

 昨年の七月、長州藩が京に攻め入り、戦になったと大騒ぎになった。だが大騒ぎになっただけである。
 不穏な空気はある。噂も飛び交っている。しかし、江戸の町の日々の暮らしは変わらず、今年も桜の季節が終わった。
 吉原京町二丁目、惣太が逃がしてしまった猫を追いかけて入った行き止まりの路地に、女は、いた。
 雑然と並べられた、というより、半ば放置されたような葉ばかりの鉢の前に屈んでいた女を、日向から急に日陰に入った惣太の目は、一瞬猫と見間違えた。
 しかし惣太に気付いて立ち上がった姿は、紛れもない人間の女で、ここいらに多くある小見世に起き伏しする遊女に違いなかった。よれた着物をゆるく着ているのだが、少し煤けた赤茶色が、女の白さによく映えていた。
 そして、別人だとは分かっているものの、女は惣太の姉おかよに、あまりに、あまりによく似ていた。今年二十四になるおかよが、後三年もすればこうなるのではないか、と思える女だった。
「あんたは……」
 思わず口をついて出たかすれ声の続きは、〈姉ちゃんなのか?〉だった。だが、馬鹿馬鹿しいにも程がある言葉であった。
 取り繕うように口から出たのは、もっと馬鹿馬鹿しい、
「……猫が、化けたのか……?」
という一言だった。
 目の前の女が、惣太にはとても近づけない大見世、せめて中見世の女だったら、という思いが脳裏をかすめた。
 とにかく会ってはならない女に会ってしまったと思った。
 結局、猫は行方知れずのままだった。

 女の名は夕月(ゆうづき)と言った。惣太が猫を追って入った路地のすぐ近くにある小見世、近江屋抱えの妓で、間もなく惣太は夕月の許へ通い始めた。
 十三のとき、箪笥や机を作る指物師の親分のところへ弟子入りして家を出たので、共に暮らさなくなって久しかったが、惣太は姉おかよの匂いをかすかに覚えていた。それは年に何度かではあるが、顔を合わせる機会があるたびに、嬉しそうに小走りで近づいてくるおかよから、まるで惣太を撫でるように漂ってくる匂いだった。
 おかよに会うと、惣太は、目が眩むような気持ちになり、おかよと別れた直後は、そこいらの物を蹴散らしたいような乱暴な感情を抑えねばならなかった。
 おかよは、惣太の母親が二度目の所帯を持った、惣太にとっては継父となる男の連れ子で、年が一つ上だから姉となったが、血は繋がっていなかった。
 近江屋を訪れ、通された狭苦しい三畳の部屋で、夕月の汗と脂粉の匂いのする胸に顔を埋めたとき、惣太は姉の匂いを忘れた。いや、今嗅いでいる匂いが姉の匂いなのだと思った。音を立てて、激しく夕月の肌の匂いを嗅いだ。
 指物師として一人前になってから、惣太は親の暮らす長屋には頑として寄りつかなくなった。継父である長吉との折り合いがひどく悪かったこともあるが、おかよの顔を見るのが辛いというのも、決して明かせぬ密かな理由であった。おかよは、惣太より年下の、大工として修行中の男と夫婦約束をして、男が間もなく一人前になるのを待つ身となっていた。
 もし事が起こるのがせめてもう一年先であったなら、おかよは人の女房となり、それなりの幸せを得ていたのかもしれない、と思う。無論、惣太もおかよも、大変な目には遭っただろうが。
 おかよは、ある日突然、吉原に売られることが決まった。
 十年ばかり前、黒船に備える台場築造で賑わう品川で小金を稼いで以降、山っ気の強い儲け話にばかり手を出してきた長吉が、入り用になる一方の金を、よりによって博打で稼ごうと思い立ったことが原因だった。確か今回は、横浜のエゲレス人を相手にした儲け話で、長吉は「俺は嵌められたんだ。責められる謂われはねえ」と吠えていたらしい。
 とにかく、どうにもならなくなった借金のカタに、おかよは売られた。
 周囲の好奇の目に晒されるのを嫌がったおかよは、話がまとまったと隣近所に知られる前に、ひっそりと家を出たようだと、惣太までもが後になって聞かされた。
 母親のおこんは、惣太が覚えている限り、ずっと女だった。表向きはしおらしいが、肝心なときはいつも、熱に浮かされたように長吉に寄り添った。
 おかよが売られるときには、目に涙くらいは浮かべたであろうが、二人きりになってしまえば、また「お前さん、お前さん」と甘えた声を出して、暮らしにくくなってしまった長屋から引っ越す算段でもしているのだろう。
 姉ちゃんの身内は俺だけだ。俺が姉ちゃんのために出来ることは何だ、と、惣太は丸二日、仕事も放り出して考え続けた。おかよが売られたのは吉原京町一丁目にある中見世で、どう足掻こうと、身請けの金など用意出来るはずもない。
 考えに考え抜いて、ふと思いついたのが、おかよが可愛がっていた猫のことだった。
 トラと呼ばれていたその虎毛の雄猫は、おかよが両親と暮らす長屋のあたりを縄張りにしている野良猫で、おかよが焼いた魚の端などを食わせていたのを惣太は見たことがある。
 トラの方もおかよにはよく懐いていたようで、おかよはトラを、もう一人の弟と呼んだりしていた。
 聞いた話では、吉原の遊女たちの中には、猫を飼うのを好む者が少なくないと言う。弟とまで呼んだトラが傍にいれば、おかよの気持ちも幾分かは慰められるのではないか、そう思った。
 思いついたら居てもたってもいられなくなり、惣太は指物師の腕を生かして、猫を入れるための小窓のついた木箱を拵えた。翌日は急ぎの仕事を片付けて、またその翌日、足を向けたくもない両親の暮らす長屋へと出向き、負い目があるのか先行きが不安なのか、殊更甘えてくる様子の母親をあしらいながら三日を過ごし、とうとう餌でおびき寄せてトラを捕まえた。
 そうして、猫が弱っては一大事と、急いで吉原へと向かったのだ。
 しかし勢いだけで仲之町の突きあたりまで来て、急にためらいが出た。
 昼見世にはまだ間がある時間帯で、姉に会うには今が一番都合が良いとは分かっている。だが、どんな風に会えば良いのか、どんな顔をしてどんな言葉をかければ良いのか、迷いが後から後から出てきた。遊女となり、もう客を取らされている姉を実際に見ることへの恐れもあった。
 立ち止まっているわけにもいかず、木箱を抱えたままで歩き回っていたら、最初は暴れていたのに随分と静かになった猫の様子が急に気になった。
 小窓から覗いてもよく分からず、蓋を細く開けてみたところ、惣太の手に引っ掻き傷を二筋残して、トラは飛び出て行った。
「おわっ……ちきしょう。待ちやがれっ」
 箱を投げ出してトラを追いかけ入った路地に、姉によく似た女、夕月はいた。

 夕月は、抱いてみると驚くほどに滑らかな肌を持つ女だった。腕の中の女の、よくしなる背中や腰を撫でながら、惣太は何度も、
「おめえは本当は猫なんだろう? そうなんだろう?」
と呟いた。本心を歪めた言葉だった。
 長く続く不景気で、吉原の見世はどこも著しい値下げを余儀なくされていたが、たとえ小見世といえども、職人として一人前になったばかりの惣太がそう頻繁に来られるものではなかった。
 何とかやりくりして、月に二度ほど夕月の許へ訪れるたびに、惣太は、
「おめえは本当は猫なんだろう?」
と繰り返した。すると夕月はお定まりの調子で
「あい、そうでありんす」
と応える。
 幾度かそのやりとりをした後、惣太は堪えきれなくなったように喉を鳴らし、女にしてみればかなり乱暴な抱き方で夕月を抱いた。長い間、決して口に出来ずにいた想いを叩きつけるように、姉を抱いた。
 そうして、夕月の許に通って四月ほどが経った、ある蒸し暑い夜のことだった。暗い行灯に照らされる床のなかで、夕月が急にいたずらっぽい顔になった。
「どうせなら、猫の名で呼びなんし」
 拭うだけ無駄な汗をそのままに、夕月の上にいた惣太は、上体を浮かせて女を見た。夕月の笑いを含んだ声は続く。
「あれ、忘れたのかえ。わっちの名を」
 〈わっちの名〉を強く言った夕月は、鼻に皺を寄せて笑った。
 惣太は、ためらいの後に、喉の奥のかすれ声を絞り出した。
「……お……かよ……」
「おかよ? 人みたいな名でありんすなア」
「お……俺がつけたんじゃねえ」
「ふうん」
 目を閉じた惣太は、今度ははっきりとした声で、
「おかよ」
と呼んだ。そして、右手の下にあった夕月の乳房を、乱暴に握りしめた。痛がる夕月の唇を、くわえるように唇で覆った。


(二) 夕月

 ここしばらく雨が降っていないからか、やけに空気が乾いている。そう思うと、裸足の足裏に触れる畳のささくれも、やたらかさついて感じられる。
 小見世の二階はどこも湿気たにおいがすると言ったのは、異人の着物から家の柱の建て方まで、やたらと蘊蓄をたれていた客の男だった。夕月には最早何も感じられないが、三畳の狭苦しい部屋が並び、そこで女たちが次々に客を取るのだ、当然だろう。
 夕月は格子窓にもたれて、薄い雲を刷毛でひいたような明るい空を見上げながら、嫌なにおいごとみイんな乾いちまえばいいのにと思う。
 膝の上に、猫が一匹寛いでいる。最近このあたりを縄張りにしている野良猫で、虎毛であることから、何となく皆がトラと呼び始め、夕月もそう呼んでいる。人懐こい猫で、特に夕月によく懐き、時にはこうして膝に乗ってきたりもするので、夕月の方もつい、猫の餌のためにいらぬ出費を重ねてしまっている。
 猫と言えば、少しばかり前から夕月の許に通って来るようになった男は、このあたりで猫を見失ったらしい。そして滑稽なことに、猫を見失った近くにいた夕月を、猫が化けた女なのではないかと言う。
 戯れごとを言う客は多いが、男の言葉には妙に頑な真実味があり、夕月は少々持て余している。何より、ひとたび床に入れば粗暴な振る舞いが目立つ男で、あまり深入りしたくなかった。
 男が猫を見失ったのとちょうど時期を同じくして現れたので、最初はトラがその猫なのではないかと思ったが、男の猫は牝猫らしいので違うだろう。
「お前、いっそ、あたしの猫になりなよ」
 つい先程まで、夕月の鴇色(ときいろ)に白い菱模様の袖にじゃれついて遊んでいたトラの首を撫でながら、夕月は呟く。
「ねえいいだろう?」
 トラは気持ち良さげに身をよじらせた。

 吉原に来る前、夕月は人の女房だった。
 亭主であったのは楠田光太郎という名の浪人者で、手習いの師匠として生計を立てていた。
 光太郎は、決して明るかったり人あたりが良かったりという男ではなかった。師匠としての彼の唯一の取り柄は、子供らに教える身になってなお、自身の学問を怠らず、常に新しい学問を求めていたことからも分かる、一途なまでの真面目さであった。
 無論、子供への教え方も熱心で、それゆえに光太郎は、子供の親たちから信頼されていたし、むきみ売りの娘であった夕月も、人の紹介があったとき、喜んで光太郎の女房となったのだ。
 確かに、夕月は、光太郎を好いていた。だから折に触れて、神仏に、自分は夫に精一杯に尽くすことを誓い続けたのだ。
 光太郎がそのまま手習いの師匠でいたならば、夕月も幸せだったに違いない。しかし光太郎は少しずつ変わっていってしまった。
 浦賀沖に黒船が来て以降、世の中が騒がしいのは夕月も知っていた。
 光太郎が言うには、今この国は、異国に攻められるか否かの瀬戸際なのだと言う。そして光太郎は一刻も早く、京の都におわす天子様の許へ馳せ参じ、お役に立たねばならないらしかった。
 だが光太郎には何のつてもなく、相変わらず手習いの師匠でいなければならなかった。何かの集まりがあると聞けば、急いで飛び出して行くが、自分とは考えが違うと首を振って帰ってきた。
 日に日にやつれ、人相まで変わってしまった光太郎は、ついに夕月に切り出した。自分は天子様のために身を捧げる。だからお前も、私の仕事のために身を捧げてくれ、と。
 京の都が、夫の想像しているようなところだとは思えなかったが、神仏への誓いを破るわけにはいかなかった。
 夕月は、夫が思う存分働くのに必要な金を作るため、吉原に身を落とした。
 夕月が家を出る日、光太郎は言った。
「もうすぐ世は変わる。天子様を中心とした新しい世に、私が変えてみせる」

 最初の客は、光太郎とどこか似たところのある侍であった。夕月を前に、相槌も無視して、まるで独り言のように時勢を語り、酒を飲んだ。そして酔いがまわったところで、何も言わずに夕月を抱いた。
 勝手な男だとは思ったが、どんな客が来ても受け入れねばならないのだと覚悟を決めていたので、妙な安堵感があったのも事実だった。夫のために身を委ねねばならない最初の相手が、少しでも夫に似た男であるというのは、とても分かりやすいような気がした。
 そうして始まった勤めは、辛くないと言えば嘘になるが、何とか持ち堪えていられたのは、自分が誓いを守っているのだという自負があったからだった。多くの男になぶられ、耐える姿を、部屋の低い天井のはるか上から、神仏に見守ってもらっている気持ちでいた。
 絶望は、一月後に訪れた。
 部屋のなかにも徐々に染みてくるような音のない霧雨の夜、若くて比較的見た目の良い、職人風の男に抱かれているときだった。
 夕月の体の上で今にも果てようとしている男の腕に力がこもったとき、夕月の体に堪えきれない快感が走り抜けた。夕月は、喉の奥から鋭い悲鳴を漏らし、無我夢中で男にしがみついた。
 それは、光太郎にだけ見せていた反応だった。
 起き上がった後、突然泣き始めた夕月を、男は悦びのあまりと思い込み、あれこれ話しかけたり体を撫でたりしたが、夕月は胸に開いたどす黒い空洞の、そのまた真んなかにいた。
 たとえ光太郎の言う通り、世の中が変わったとしても、最早自分には戻れる場所がないのだと思った。

 トラは夕月の膝の上で、ゆっくり昼寝へと落ちていくようだった。夕月はトラの体を撫で続けながら、身じろぎも出来ず、もたれた格子窓の固さを肩と背中に感じている。
 膝の上は、あたたかい。緩やかに動かす掌の下は、柔らかい。
 人間の男は、金を欲しがり持っていってしまう獣(けだもの)か、金を持ってやってくる獣のどちらかだった。
 自分にとって、黙ったまま肌のぬくみを分け合えるのは、この猫だけなのかもしれないと思った瞬間、夕月のなかで凶暴な気持ちが動いた。
 トラの脇を両手で持つと、
「ねえ、世の中は変わるってお言いよ。トラ。新しい世が必ずやって来るってお言いよっ」
と言いながら、激しく揺さぶっていた。
 驚いたトラは、身をくねらせて暴れ、夕月の手や手首に幾つもの小さな傷を残し、半分開いた襖から部屋を飛び出していった。
 トラが去った方を、しばらく呆然と見ていた夕月は、立てた片膝の上に両手をのせ、傷口からあふれてくる血を、猫のように丹念に丹念に舐めた。


(三) トラ

 見渡す限りの世界を、あたたかな陽の光が満たしている。心地よい風が全身の毛をかすかに揺らす。
 言うことなしの昼寝日和だった。
 吉原京町二丁目の小見世が集まる一帯、同じような造り、大きさの屋根が連なるなかの一つに、トラは四本足を投げ出すようにして寝転んでいた。
 時折、尻尾を動かし、ひげを動かし、欠伸をする。頭のなかにも、涼やかな風が吹き抜けていく。
 このあたりの暮らしにも、もうすっかり慣れたが、つくづく人間というのは妙ちきりんな生き物だと思う。
 鰯で誘って狭い箱に閉じこめ、トラを住み慣れた縄張りから無理矢理ここへ連れて来た男は、結局何をしたかったのだろう。どこへ行けば腹が膨れるかも分からず、先住の猫とのいざこざもあり、実に大変な思いをさせられた。
 そう言えば、始めの頃からトラを一番可愛がっていた女が、先日突然、トラを持ち上げて乱暴に揺さぶったのにも驚いた。あの女からは、トラをここに連れてきた男の体臭がしたことがあったので、それと関係あるのかもしれないとは思うが、もう近づくことはないので分からないままだろう。
 たまにかけられる迷惑を何とかやり過ごせば、人間は至極便利な生き物だった。トラに親しげにしてくる人間を見つけ、甘えてやれば、旨い物を差し出してくるし、暇潰しに遊んだっていい。
 トラの新しい縄張りは前の縄張りと違って、毎日大勢の見知らぬ人間が出入りしていて、とてもうるさい。特に夜はひどい。
 暮らしている者は女たちが多く、気のいい者が多いが、髪に触れたり着物に少しでも爪を立てようものなら、過剰な悲鳴を上げてトラを放り投げる。それから、女たちが好きこのんで顔や首回りに塗りたくるものは、トラの鼻にとって由々しき問題の一つだった。
 違いはある。しかし人間というのは基本的にどこでも同じだとトラは思う。妙ちきりんで、便利。ついでに言えば、屋根でのんびりすることを知らない生き物。きっとこの先も、ずっと先もそうだろう。
 だから憂いはない。寝返りを打っていたトラは、どこまでも屋根の続く吉原の景色を、薄目で眺めた。広い世界のなかで、何にも縛られはしないという心地。頭のなかを涼やかな風が吹き抜けていく。
 ふと、かすかな匂いを感じて上体を起こすと、隣の屋根に猫が一匹いてこちらを見ていた。白黒のまだら模様の牝猫だ。トラより風下にいたので、こんなに近くに来るまで気づけなかったのだ。
 トラは深々と息を吸い込んだ。途端、涼やかな風の流れは塞がれて、トラの頭のなかは、甘い匂いのする白黒のまだら模様で完全に塗りつぶされた。血の流れが、音をたてた気がした。
 牝猫が身をひるがえして駆けていく。トラもゆっくりと駆け出した。
 すぐ下の通りでは、顔見知りの行商人を卑猥な言葉でからかい、女たちが笑っている。

                               了






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