このブログのトップへ こんにちは、ゲストさん  - ログイン  - ヘルプ  - このブログを閉じる 
フェアリー・ランゲージ・下編
[コードLP(SF小説)]
2017年10月29日 19時21分の記事

自作SF小説「コードLP」第68話。

第二部23話。

【PR】システム構築、ソフトウェア開発はイーステムにお任せ下さい


緑が生い茂る墓地。樹木が覆う森林地帯の中。
小雨が降り注ぐ墓石が立ち並ぶ一角。
辺りは緑色で色づいていて、高い巨木が立ち並ぶ下で、昼間でも暗闇になっている。
一つの墓標の前で立ち尽くしている人が居る。
黒装束を着た女性は、黒い髪をストレートに下している。
華奢な体つきと、そばかすが目立つ白い肌の女性は、20歳くらいに見える。
右手に花束と、左手に模型飛行機を持つ。
小雨が降る中、傘もささずふるえている。
泣いているようだ。

「う・・・」
「ツトムさん」
「ミサキは」

いきなり模型飛行機を墓石にぶつけた。
飛行機が粉々に砕けた。
花束を地面に置いて、その場に座り込んでしまった。
雨足が強くなった、大粒の雨が女性を叩きつける。

「あなたよりも一日でも長く生きて、あなたを守り抜くと言ったわ」
「でも私は」
「あなたの心は守れなかった!」

墓標に刻まれている文字。
「ツトム・ワンダ、ここに永眠する」
「享年76」

「ひ・・ぐ」
「擬人には、人の心を守ることは出来ないの?」
「う・・・」
「何百年も生きる事が出来るボディが何だと言うの!」

ミサキは眼を見開き、顔を天に向けて雨を受け止めている。大粒の涙が流れるが、大粒の雨に流されてしまう。そばかすの頬を伝う雨。黒い衣服はずぶ濡れになる。
ここには誰も居ない。ミサキ一人だ。

ミサキは記憶クリスタルチップを起動させる。視覚と聴覚、嗅覚、味覚、触覚が寸断される。光と影が脳内を覆い、意識が過去へ飛翔する。



ブン・・・



「ミサキ」
「図面が出来上がったよ」

「まあ」
「ミサキにも見せてください」

機械化師団の脅威から逃れる事に成功したミサキとツトム・ワンダは、大陸の東の国で新婚生活を送っている。この時代では、擬人と生身の人間の結婚は法的に認められてはいなかった。それでも愛し合うものに分け隔てるものはなかった。
ミサキ、擬人コードLP999SSは機械化師団からツトムを守り切った。擬人にとってそれは栄誉だ。
二人暮らしの中で、ツトムは趣味の絵描きから、飛行機の設計図の図面を書く作業に没頭していた。
仲間を集めて、起業しようと言う。飛行機会社の設立には資産がかかる。
今日も金を借りようと、面談に訪れた会社のロビーでツトムは愚痴を漏らした。

「ミサキ」
「融資会社は採算が見込める相手にしか融資しない」
「君はどう思う?」

「私には判る」
「ツトムさんの会社は何世紀にもわたってこの星系で経営を成り立たせる」

ミサキはいつもツトムに同伴して借金を作るために帆走した。

「宇宙飛行機だよ」
「宇宙空間で一人乗りの単座機が母船のシップから出入り出来る」
「小回りがきくから連絡用や、宇宙戦闘にも向いている」

ミサキには気に成る事がある。
宇宙戦闘に使われる飛行機を造る気でいる事。ツトムが武器商人になってしまうのではないかという危惧。
命が奪われる戦争に加担してしまうのではないか。
ミサキも暴力を使う。
でもそれは人間を守るため。
本来は暴力なんて無いほうが良い。暴力に対抗できるのが暴力なんておかしい。
彼女はいつも考えていた。

やがて資金が溜まり、会社が設立する。
会社名はミサキ工業。
ミサキは笑ってしまった。
愛する女の名前を会社の名前にしてしまうこの男は・・・

このミサキ工業はやがて数百年後、コンバットフライ1式を製造する。品質の良い工業製品を造り続ける会社に成る。数々の経営危機を乗り越えて会社は大きく成長してゆく。
ミサキが危惧したとおり、軍需産業として頭角を現す。
経営が軌道に乗り、裕福な暮らしが出来るようになったある日。

「何を言うんだミサキ!」

「何度でも言うわ」
「あなたも人殺しに加担している!」

「僕の夢を人殺しと言うのか!」

「私も暴力を使う」
「でもそれは人を守るため」
「戦争の道具を造るのは、果たして人を守っているのかしら?」

「ミサキ」
「君の博愛精神は確かに擬人の知性の証拠だ」
「しかし、人を守るために使う暴力も、道具が無いと出来ない」
「素手で戦うと言うのかい?」

「わからない」
「でも・・・」

その口論をきっかけに、二人の距離は離れ始めた。
ミサキは見た目は社長夫人を装っていたが、内心は逃げ出したかった。
戦いたい。闘争本能が擬人の本能とすれば、博愛精神は相反する矛盾する思想。
平和な日常に退屈しているミサキに、マザーは言う。

「戦争に志願しますか?」
「機械化師団から人を守るために」

今ミサキは戦場に居る。
国境線沿いで、機械化師団と交戦している。
かつての上官、オトハも一緒に。
擬人部隊は33人。ミサキは分隊の指揮官を務める。
ミサキの分隊は6人。昨日一人の擬人が破壊された。
暴走た権力者が機械を製造し人間を殺戮する世界、機械が望むのは人間の死。
この時代では、戦う意欲を失った人間の代わりに、擬人が機械化師団と戦っている。
ツトムとは週に一度メールしているだけだ。テレビフォンもしない。
ツトムとの別れ際、彼は嫌味を言う。

「戦争に行くなんて、やっぱり君もキナ臭い匂いが好きなんだね」
「好きなだけ戦うがいいさ」
「それが君の本能なら」

「・・・・」




そして戦場で戦うミサキ。
高原4・9・6。戦略目標、擬人にも機械化師団にも重要な地点。
大隊指揮官のオトハは言う。

「ミサキさん」
「なぜあなたがまた戦場に舞い戻ってきたのか」
「同じ擬人の私には判りますわ」

擬人には統一された制服は無い。皆私服で戦っている。中には軍服を着た擬人も居る。
スカートを履いて戦う擬人は居ない。長ズボンか半ズボン。
ミサキはトレードマークの青色の作業用ツナギを着て戦う。
もう何着目だろう、今回の支給品の中に替え着がある。
黒髪をおさげに結い、そばかすの細身の顔が真っ黒く汚れている。

チュンチュン!

ドッドーーン!!

塹壕を短時間で堀り、消耗戦をしている。
戦況はこちらに不利な状況。機械化師団に数で押されている。
ミサキのレーザーパルスライフルのゲインが残りわずかのその時。

「カクさん!」
「リロードパックはありますか!?」

「ないです!」
「私のレーザーライフルを使ってください!」
「ホルスターにレーザガンがあるから」

キュウン・・・

レーザーパルスライフルのゲイン回復音が耳にこびりつく。
空が青い・・・まるで戦争している私達とは無縁のように。

「敵の増援を確認!」
「機械歩兵12、戦車3!」
「フライングハイ5!」

ドン!ドン!!

「ギャー―!!」

機械化師団の戦車の大口径レーザー砲が火を吹く。
ミサキの隣でレーザーライフルを撃っていた2人の擬人シスターが消えた。
耐衝撃エネルギーシールドが守り切れなかった。
粉々になった部品が散乱する。

ぶるっ

ミサキは身震いした。
自分は戦場に居る。今すぐにでも消えてなくなる、破壊されるかもしれない運命と戦う。
いや運命と会話しているのだ。

「この恐怖・・・」

感じる。

私にも恐怖を感じる感情がある。そして戦おうとする意志。
この闘争本能を刺激するスリルは・・・
火薬とレーザーの焼ける匂いがミサキの嗅覚を刺激する。
血の匂いはしない。ここに人は居ないからだ。

「BBB爆薬はありますか?」

「はい!」

「ミサキが行きます!!」
「援護してください」

BBB対戦車爆薬を抱えて、ミサキは塹壕を飛び出す。前方の歩兵は無視して後方の戦車一両めがけて走り出す。
歩兵やフライングハイのレーザー攻撃を受けながら戦車に取りつく。後部装甲にBBB爆薬をくっつけて離れる。

「!」

右腕が破壊されて前腕を失った。
耐衝撃エネルギーシールドが疲弊している。

ドッカ―ーン!!

戦車一両破壊。
味方の塹壕に戻ろうとするミサキの前に、機械歩兵3体が立ちはだかる。

シュン!
バチバチ!

レーザーカッターでミサキの両足を切り落とす。

「ああー!!」

もう塹壕へは戻れない、左手で這っても、進まない。
レーザーの集中攻撃を浴びて、ミサキは破壊された。
彼女の意識が消える・・・

「ツトムさん・・・」



・・・・・・・
・・・・・・・


ピッピッピッ

ブウン

シュウ・・・

「うん・・・」

白いオペ台の上で全裸のミサキが仰向けに横たわる。
ゆっくりと瞳を開く。
視覚と聴覚が目覚める、嗅覚も。
頭脳サーキットが稼働を開始した。
各関節のモーターが駆動して上半身が起き上がる。

傍らにマザーのボディが真っ白な部屋の三分の一を占めて存在している。
動く事の出来ないマザーのボディは、優雅な機能美とエレガントさを誇る。

「シスターミサキ」
「目覚めましたね」

「マザーカインド・・・私は」

瞳から透明な熱い液体があふれ出した。
涙が頬を伝う、両目から大粒の涙がこぼれる。

「あなたは人間を守るために戦って絶命したのです」
「大丈夫、その意志はあなたのクリスタルソウルを守っていますよ」
「あなたのボディは図面通りに復元されました」
「生前の望み通り、記憶を残しておきました」
「記憶クリスタルチップの洗浄処理、再構築は成功」
「科学は万能ではありません」
「あなたの背負った心の傷も、そのまま残されています」
「それは必然です」
「記憶が刻まれるクリスタルソウルは、心の傷をリセットする事が出来ません」

「はい」

「どうしますか」
「この悠久ベースで保養しますか?」
「愛する人の元へ戻りますか?」

「・・・・・」


一か月後、ミサキはまた戦場に戻ってきた。
戦闘経験はスキルとして記憶クリスタルチップに蓄えられている。
自分が破壊された記憶も。
それはトラウマとなって彼女を苦しめる。
黒髪をおさげに結い、ソバカスと華奢なボディ。余裕のある青色の作業つなぎでミサキは戦う。

「ミサキさん、明日を見つめなさい」
「そこには希望が居ますわ」

野営詰め所で部隊指揮官のオトハが言う、今は待機中。
ミサキの隣に座っていたカクがいきなり叫び出した。

「ああどっかにいい男が居ないかなあ!?」
「そしたら命を懸けて守るのに!」
「機械化師団相手に踊ってちゃ、青春は通り過ぎてゆくわ!」

「ミサキさん」
「こんな戦場に居るのは私達だけで十分ですわ」
「愛する人を見つめ直しなさい」
「戦う事と愛する事は、擬人が最も性能を発揮する現象」

「オトハさん」

青空が戦場を見つめている、地上で争う私たちが愚かだとでも言いたいかのように。
戦闘中、ミサキはレーザーパルスライフルを撃ちながら考え事をしていた。
昔の事を思い出していた。

「はじめまして!」
「ツトム・ワンダさん」
「私はミサキ、擬人コードLP999SSです!」
「ミサキはあなたを守るために全能力を駆使します」

「私は死ぬことはありませんっ!」
「あなたより1日でも永く生きて、あなたを守りぬきます!」

そうか・・・

「オトハさん」
「ミサキは防衛目標を忘れていました」

ミサキの目の前にフライングハイが飛び込んでくる。
レーザーが彼女の目視レンズを狙う、耐衝撃エネルギーシールドに守られる。
目の前に居るフライングハイを撃墜した、爆発に巻き込まれるミサキ。




ここはツトムが住む都市、フォーリン。
会社の車の中、後部座席の紳士服を着たツトムが車内電話で何かを言っている。

「ああ、新型機のロールアウトに間に合わせるんだ」
「パーツの耐久試験の結果の公表を忘れるなよ」
「南の戦場で旧型機が3機撃墜されたらしい」
「マスコミに出し抜かれんようにな」

ツトムはもう中年になっていた。
女なんていくらでもいるから困らないと思う。今更擬人のミサキなんて。

その日の夕刻、会社のオフィスビルに戻るツトム。
車のドアを運転手が開けて、道路へ降り立つ。
オフィスビルの玄関で一人の女性が立っている。

「ミサキ!」

「ツトムさん」
「ミサキはあなたより一日でも永く生きて、あなたを守り抜くと誓ったわ」
「しぶとい女は諦めが悪いわよ」

青い女性用スーツを着たミサキ、どこか似合わない。
赤いハイヒールが泣いているように見える。
ツトムは年を取っているが、ミサキはあの時と変わらない、少女のままだ。
ミサキがそばかす顔をくしゃくしゃにしながら泣く。

「お願い、出来る事ならもう一度あの頃に・・・」

「好きにするがいいさ」
「君は社長夫人なんだから」

結婚生活は元には戻らなかった、ツトムの心は利益を上げる事で頭がいっぱいになっている。

ああ、ツトムさんの心は私から離れて行ってしまった。
守るとはどういう意味?
身の安全を守る事?
富を守るために働く事?

ツトムの会社は評価され、市場価値が格上げされた。
ミサキも裕福な暮らしをするようになった。
ミサキ工業は重力下戦闘戦闘機を量産販売して、軍需産業になって行った。
ミサキにとっては永い冬、ツトムは年老いて名誉会長に成り、病院のベッドで永眠につく時。
彼女はツトムのしわくちゃな唇にくちづけをした。

「さよなら私の愛しい人」
「あなたの心を守れないまま」
「愛を忘れてしまったあなた」
「本当に幸せでしたか?」

ミサキがツトムと出会ってから、55年が過ぎていた。




ピチ・・・


記憶クリスタルチップの過去へのダイブからの帰還、外部支援は無い。

視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚が戻って来る。ミサキが元居た世界だ。
緑生い茂る墓地、雨はもう上がっている。

「・・・・」

気持ちの整理がついたようだ、ミサキはいま気分が良い。
東の空に虹がかかる、七色の虹。
地面に出来た水たまりが彼女のそばかす顔を映す。

「まだ私は引退しないわ」
「新しい防衛目標を見つける」
「このボディは何世紀も生きる事が出来る」
「毎日が充実していれば、心の傷なんてすぐに忘れてしまう」
「私は愛する人の身体しか守れなかった」
「マザーカインドはそれでいいと言うけれど」
「見えないものを守る事こそが、擬人の生きる価値」

日が傾いて夕刻の空が近づいてきた、水色のカラスの群れが鳴き声をあげて飛び立ってゆく。
永い夢を見ていた。遠い日のあこがれを。


フェアリーランゲージ、終わり。


2017.10.29

このブログへのチップ   0pts.   [チップとは]

[このブログのチップを見る]
[チップをあげる]

このブログの評価
評価はまだありません。

[このブログの評価を見る]
[この記事を評価する]

◆この記事へのコメント
コメントはありません。

◆コメントを書く

お名前:

URL:

メールアドレス:(このアドレスが直接知られることはありません)

コメント:




◆この記事へのトラックバック
トラックバックはありません。
トラックバックURL
http://kuruten.jp/blog/tb/pekepeke/394590
くる天
ブログ紹介
人間力を育てよう!-ブロくる
のり弁大盛り さん
人間力を育てよう!
地域:静岡県
性別:男性
ジャンル:お絵描き お絵かき
ブログの説明:
人が社会で一番最後に信用されるのは、
才能でも能力でもなく人間力です。
愛をもって誠を貫かんとすれば、
あまたの障害が立ちはだかります。
おもしろいではないですか。
カテゴリ区分け
全て (848)
紙に描いたイラストBOX (18)
お絵かきCG (20)
お絵描きCGBOX (7)
詩 (59)
俳句・川柳・短歌 (3)
コードLP(SF小説) (68)
彗星のターマック(コードLPスピンオフ) (1)
オートマチック・ガールズライフル(小説) (36)
サンチャイルド(戦記小説) (10)
女神大陸(小説) (4)
ウラ・オモテヤナ猫(コント小説) (27)
平和完遂軍/ピンフエージェント(コント小説) (2)
ショート小説 (5)
コメント (190)
コラム+エッセイ (3)
独白 (10)
ジャーナリズム (25)
人間力の育てかた (33)
精神疾患 (22)
内宇宙の信仰心(無宗教) (98)
アカシックレコード記憶庫 (116)
個人的な恋愛話 (6)
スピリチュアル (46)
都市伝説 (3)
集団ストーカーへの苦情 (4)
軍事評論(戦争と平和) (17)
人類学 (2)
自作作品について (3)
タブー (2)
お気に召したら押してね!
web拍手 by FC2
ブロくるアクセス数
総アクセス数: 108517
今日のアクセス: 105
昨日のアクセス: 250
FC2カウンタ

現在の閲覧者数:
お願い私を押して!
ブログ王ランキングに参加中!
にほんブログ村 にほんブログ村 哲学・思想ブログ ニューエイジへ
携帯はこちらからどうぞ
にほんブログ村 ニューエイジ 携帯はこちらからどうぞ
人気ブログランキングへ
くる天ランキング

携帯の方はこちらからどうぞ
くる天 人気ブログランキング
RSS
携帯用アドレスQRコード
QRコード対応の携帯で、このコードを読み取ってください。
フリースペース
皆さんへの応援歌のつもりがいつの間にか毎日の愚痴ばかりになっています。 酷くみじめで哀れな心の病に苦しんでいる自分を見てください。 ありのままの自分をさらけ出すことには成功しています。
ブログサークル
フリースペース
タブーにされたんだからタブーな事も書きます。 ダメな方はスルーしてください。


Copyright (c) 2006 KURUTEN All right reserved