くる天 |
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飯島浩樹 さん |
シドニー通信員の『豪リークス』 |
地域:海外 |
性別:男性 |
ジャンル:ニュース 世界情勢 |
ブログの説明: オーストラリア在住 某民放局シドニー通信員からの情報。 |
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「レアアースの恩返し」を狙う?豪州 |
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2010年11月24日 14時43分の記事
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「アリガトウゴザイマス、セイジ!」ちょうど北朝鮮の韓国の島への砲撃が行われていた23日の午後、日豪外相会談後の共同記者会見で、オーストラリアのラッド外相は、前原外相を“セイジ(誠司)”とファーストネームで呼び、日本語で感謝を述べた。
会談では、北朝鮮の濃縮ウラン開発問題、尖閣諸島問題を含む日中関係の問題、核軍縮と不拡散などが議題となり、加えて豪州産レアアースの安定供給についても話し合われた。ラッド外相は会見で、「豪州は日本に対し、レアアースを長期的で安定した供給を行う用意がある」と述べたが、最近親日的な発言の目立つラッド外相の意図はどこにあるのだろうか?
前原外相の訪豪は慌ただしいものだった。22日の夜に日本を発ち、翌朝キャンベラに到着早々エマーソン貿易相と会談、日豪経済連携協定(EPA)と環太平洋パートナーシップ(TPP)などについて協議した。昼はラッド外相らとのランチミーティング。午後はオーストラリア戦争記念館を訪れての献花とギラード首相への表敬訪問。夕方約80分間の日豪外相会談を行った後日本行きの飛行機に飛び乗るという、0泊3日の強行軍だった。
日本の国会会期中で、勤労感謝の日の祭日にあわせたスケジュールのようだが、ラッド外相が「“セイジ”は当初21日の日曜日に来豪する予定だったので、自宅に呼び“テッパンヤキのオージースタイルバーベキュー”で、もてなすつもりだったんだけど…」と会見で冗談交じりに明かしたように、まさに“日本人らしい”日程だ。
先日訪豪したヒラリー・クリントン米国務長官でさえ、土日を挟んで3日もメルボルンに滞在したのに、前原さんも、もう少し時間を取ってもよかったのでは?と感じてしまう。
今回の訪豪の成果は、新聞報道にもあるように、オーストラリア側から「レアアースの安定供給」の“申し出”をとりつけたことだと言えそうだが、はたしてこの“申し出”を両手を上げて喜んでばかりいられるだろうか?
もちろん尖閣諸島問題勃発により、中国にレアアースを“外交カード”として使われている日本にとってこの“申し出”は嬉しいことだが、オーストラリアにとっても、コストや品質の問題などから今まで売ろうと思っても売れなかった”石ころ”…(失礼)“希土類レアアース”を長期に渡り買ってくれるというのだから、これは願ってもない話だ。
外交交渉の真の経緯はわからない。しかし、表面的には「オーストラリアが自らレアアースの供給を“申し出た”」という形になっているが、たぶん日本が困ってオーストラリアに泣きついて、それにオーストラリアが応じたというのが、本当のところだろう(もちろん民間レベルでの交渉は以前から持たれていたが、政府の支援が無ければ採算に合わなかったと思われる)。
気になるのは、今回オーストラリアが日本にレアアースを供給することによって、どのような見返りを期待しているか?という点だ。国と国とが交渉する場合、例えそれが同盟国間であっても“ギブ・アンド・テイク”があるのは当然だ(個人的には、”ギブ&ギブ”つまり”アゲル&アゲル”外交をして最終的に相手の譲歩を引き出すことができれば理想だと思いますが....)。
日本は良きにつけ悪しきにつけ、政治にも“武士道”精神を持ち込むから、そんなさもしい真似はできないと振舞いがちだが、欧米諸国や中国の政治家は、“ギブ・アンド・テイク”をあからさまにしても、別に恥ずかしいと思わないし、当然のことだと考えている(むしろテイク&テイクする国もある)。
一つの例として、中国の胡錦濤国家主席が2007年のAPECで来豪した際、南半球初のパンダを貸与する代わりに、大規模なガス田契約を当時のハワード首相と結ぶ、いわゆる”パンダ外交”をしている(ハワード元首相は認めないだろうが、結局そうなった)。
では、今回の“テイク”とは何か?ズバリ、EPA(日豪経済連携協定)の来年早々の交渉再開だ!(と思う...)
EPAは北海道の農家などが大反対しており、3年前の交渉開始から日豪両国間の意見の相違が大きく、半年以上も交渉が行われていなかった。先日横浜で開かれたAPECなどで、日本政府がTPP参加に前向きな姿勢を見せたことも背景にはあるが、豪州が考えているようなEPAの締結は、日本の農家の死活問題になる可能性があり、決して100%日本の国益になるとは限らない。ここはかなり慎重に駆け引きをしなければいけないところだが、さすが、外交官出身で、首相も経験し、中国語が堪能な(関係ないか…)百戦錬磨のラッド外相。レアアースをうまく”外交カード”に使い、日本の新米外務大臣を手玉に取ってしまった(ように見える…)。
もちろん今回交渉を再開すると決めただけで、EPAがすぐさま締結されるということではないが、律儀な日本人が「レアアースの恩」を忘れるはずがないので(忘れるかもしれないが...)、オーストラリアがEPAの交渉にこの“恩”をさりげなく持ち出してくるかもしれない。
ところで、ヒラリー・クリントンが訪豪した際、オーストラリア初の女性首相のギラード首相とメルボルンのヤラ川沿いを2ショットで歩き、市民に愛想を振りまいた。また、地元メディアのインタビューにも多数答え、対話形式のタウンミーティングを行い、オーストラリアの若者の質問に直接答えた。まさに“大統領”気取りだったが、地元メディアや市民は“とりあえず”喜んだ。
一方、前原外相は、23日にキャンベラの戦争記念館を訪れ、無名戦士の墓で献花し、共同記者会見では、「第二次世界大戦における約2万2千名の戦争捕虜の方々へのお詫びの気持ちを(元戦争捕虜の)ダンロップ博士像を訪問することで表したかった」とし、「来年来日する予定の元戦争捕虜の方々を心から歓迎したい」と述べた。これは日本の外相が公式に述べる言葉としては“重い言葉”だ。
しかし、北朝鮮砲撃事件やニュージーランドの炭鉱爆発事故などの重大ニュースが他にあったとは言え、今回の前原外相の訪豪のニュースは、地元メディアで皆無に近いほど全く報道されなかった! この手の発言は、いわば“社交辞令”なのかもしれないが、せっかく訪問先の国民が聞いて気持ち良くなるようなことを言ったのに、地元メディアで報道してもらえなければ言った甲斐がない。
もう少し外務省も考えて欲しいものだと思う(外務省の責任だけではないが..)。まだまだオーストラリアには親日的な国民が“ごまん”といて、日本食は大人気だし、日本語を学ぶ人は韓国、中国に次いで世界で第3位。忍術教室なんかも全豪各地に多数ある。 オーストラリア政府が、国民の人気取りのために“反捕鯨キャンペーン”をしたことで(それをやった張本人はラッド現外相だ!)、日本や日本人に対するイメージが少なからず損なわれてしまったが、リーマンショック後の世界不況で、豪州国民も捕鯨のことより自分の財布の中身が気になりだし、経済の救世主としての中国礼賛ムードも“懸念ムード”に変わってきている今こそ、日本のイメージを回復させるグッド・タイミングだったのに…。
政界の“郷ひろみ”といわれるイケメンの前原外相が、あと1日くらい時間を割いて、ラッド外相とオージーBBQ風の“テッパンヤキ”をTシャツと短パン姿で食べるだけでもしたら、きっとオーストラリアのメディアも少しは取り上げただろう。
そろそろ日本の政治家にも、大演出家先生にでも頼んで、“パフォーマンス・スキル”をしっかり身に付けていただきたい。
あのオバマさんでさえ鎌倉で抹茶アイスをほおばっているし、“良い悪い”は別として、多くのオーストラリア国民は、小泉元首相の“エルビス・プレスリーのパフォーマンス”を今でも覚えているのだから…..。
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