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ある日のアイリス 5
[★ある日の出来事]
2010年4月21日 0時18分の記事







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アイリスはフォルデモルドのいかつい顔を見つめ、ささやくような、だが断固とした響きをその言葉に含ませ、告げる。
「一度配属が決まった隊から移動すると、全てが混乱を来(きた)す。
シャーネンクの隊はシャーネンクが隊長を辞任し、隊員達の配属先がまだ決まってない。
…補充人員として引き受ける事が出来る筈だ。
違いますか?」
議長はアイリスににっこりと微笑むと、その通りだ。と頷いた。
「一部隊としては人数も足りず、どこに配属しようか困っていた所だ」
そこに居る全員が一斉に顔を、下げる。
シャーネンクの隊員達が皆、ごろつき上がりの最悪に手の負えない乱暴者で無法者達なのを、議場の全員が知って居たし誰もが連中を自分の隊に、引き取るのを拒んでいたから、アイリスの申し出にフォルデモルドがどう言い返すのか、期待せずに視線を振った。
アイリスに、勿論剣の腕前でも喧嘩でも、勝つのは厄介だったがそれ以上に言葉で喧嘩するのを、腕自慢の隊長らは皆思い切り敬遠していた。
弁の立つこの美男のいけすかない微笑を常に湛えた男を言葉で敵に回したが最後、一言も言い返せず腸(はらわた)が煮えくりかえるのをそこに居る全員が、経験から思い知っていた。
アイリスと同様のディアヴォロス派の、ディングレーとギュンターでさえもが。
フォルデモルドがその言葉にどう言い返そうか、煮詰まって顔を真っ赤にする。
奪ってやろうとしたのに、出来ないばかりか礼儀も知らないごろつきを引き受けるだなんて、問題外だった。
がそれを上手くかわす言い訳は、どこを探しても見つからない。
わなわなと拳が震え、その整った美男のいけすかない顔を殴って黙らせたいのを必死で我慢しているフォルデモルドの姿を、アイリスは冷静に見つめ、にっこりと微笑む。
その、チャーミングな女性を魅了する魅惑的な微笑みに、そこにいる猛者達は皆、寒気を感じ、俯いて顔を下げた。
あれはいわば勝利の微笑みだと、その場に居る全員が、戦場で幾度も見知っていたので。
「ではそれで補充人員の件は解決だ。
そうでしょう?」
フォルデモルドがとうとう怒鳴った。
「シャーネンク隊の男達は正規の訓練を受けていない!
人員が足りず特別推薦で入隊した、ごろつき共じゃないか!」
アイリスがきっぱりと言い返す。
「ローフィスの…今はもう、ディングレーの隊だが!」
その言葉が強く、フォルデモルドも一瞬、敵にしていた男が今やもう、ローフィスで無くディングレーにすり替わった事を認識し、一瞬ぎくり…!と頑健な体付きの、王族である黒髪の尊大なディングレーの姿に視線を送る。
アイリスは口早に言葉を続ける。
「…そして私の隊にすら、推薦枠の男達は居る!
君の隊には私の記憶では一人も居ない!
推薦枠の男が配属先が無く遊んでいる以上!
君も引き受けるべきだ!
人の隊の人員を宛にせず!
それとも君は、私にもローフィスにも出来た事を自分は出来ないと、認めるのか?!」
「ふざけるな!
貴様らに、劣る俺ではないわ!」
怒鳴った途端、フォルデモルドははっ!とした。
ムストレス派の隊長達は全員、首を横に振りまくり、アイリスの挑発に乗った愚かな男から視線を背ける。
フォルデモルドは言ってしまった言葉を撤回する方法が思いつかず、必死に援軍を見つけようと顔を椅子にかける同士に向けるが、誰一人として顔を上げる者は居なかった。
議長はにっこりアイリスに感謝の微笑みを浮かべ頷くと、フォルデモルドに顔を向け
「ではシャーネンク隊の人員リストをフォルデモルド、君に早急に届けさせる。
内、必要人員を選び、自分の隊に配属したまえ」
ムストレス派の、男達のささやきが聞こえる。
「はなから勝負は、見えてたな…」
「脳みその無いフォルデモルドと、悪知恵の塊の、アイリスじゃな………」
フォルデモルドはもう顔を真っ赤にし、わなわなと全身を震わせていた。

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「アースルーリンドの騎士」
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オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
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