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ある日のディングレー 4
 
2010年4月29日 8時30分の記事







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 ローフィスとディングレーがアイリスから離れた途端、隙を伺っていた女性達が一気にアイリスの元へと詰めかけ、あっという間に女性の巨大な輪が出来る。
ディングレーはその素早さに、無言で目だけを見開いた。
ローフィスが隣でぼそり。と告げる。
「…待ち構えてたんだな」
ディングレーは躊躇いながらも、ギュンター同様輪の中央で一際抜きん出た長身の、濃い栗色の巻き毛を胸に品良く流す優雅なアイリスに顎をしゃくり、ローフィスにささやく。
「だが…奴は最初からずっと居たサイシャって栗毛の女と約束してる筈だ」
甘やかな微笑を零しながら、アイリスはダンスをねだる彼女達を優雅にたしなめている様子だった。
が、ディングレーが見ているとアイリスはサイシャに顔を寄せ、耳元にささやきかけ、うっとりとした微笑を向けて確認を取り、サイシャはちょっと憮然。としたが、直ぐアイリスが二言三言足す言葉に、頷いた。
そしてアイリスは、群がる女性に微笑を送りながら掻き分けるようにゆっくり歩を進め、まるで約束してるから。と言わんばかりにその舞踏会で一二を争う美人、金髪の素晴らしく豪華なレース仕立ての華やかなドレスを身に纏ったナーデンタール婦人の方へと寄って行く。
婦人の周囲には男達の垣根が出来ていたが、その一際整った顔立ちの美人は、姿を見せる長身のアイリスに気づくとにっこりと笑いかけ、自分を取り巻く男達を避けてアイリスの方へ、その歩を進める。
その、取り巻きを作る程の美男美女は引き合うように腕を絡ませ、微笑を浮かべて見つめ合いながら、踊りの輪の中へと優雅に歩き去った。
「相変わらず、鮮やかだ」
ローフィスの言葉に、ディングレーは呆れてモノが言えなかった。
「…あれでどうして女達は懲りずにあいつを取り囲むのか、理解出来ない」
「いつもはあの輪の中から選んでるが、今夜はムストレスの姪、アンリッシュが居る」
見ると確かにムストレスの年の離れた姉の娘アンリッシュの、ダイヤで飾られた銀の素晴らしい細工の髪留めで濃い栗色の巻き毛を結い上げ、一目で高価だと解る黄金色の艶やかなドレスに大きなダイヤモンドの首飾りと耳飾りを付け、群れるご婦人達の中一際気取った、つん。とした横顔を見せていた。
吊り目気味の大きな青の瞳が色白の肌に映え、小さな真っ赤な唇の、可愛らしいが生意気な顔をディングレーは「左の王家」(黒髪の一族)の集まりで見た記憶を呼び覚ます。
その記憶は彼女がまだ六歳くらいの時のものだったが。
がその時からもう、自分はとても可愛らしくて魅力的で、どんな殿方でも自分には、平伏すように乞うものだ。と思ってる態度が最悪に気に障ったものだ。
あの当時はまだ若いディアヴォロスに事ある毎に絡み、誰にも乞われる魅力的なディアス(ディアヴォロスの愛称)は皆の注目の的で、餓鬼の癖して必死で彼の気を引こうとしていた。
そして自分には、未熟な少年。と見下す視線を送り、モノ知らぬたった六歳の少女に思い切り腹を立てた記憶を思い出すと、今はアイリスの取り巻きに群れる彼女に、ディングレーは思い切り呆れた。
「…アイリスも、身分も気位も高いムストレス派の彼女を面と向かって断れないから、ああいう手段に出たんだろう?
だが「右の王家」(金髪の一族)の血を引くナーデンタール婦人が相手じゃさすがのアンリッシュも、引かざるを得ない」
「腹黒いな」
ディングレーの感想につい、ローフィスは顔を下げた。
「だがあいつはあれで、変な誤解を受けてない」
ディングレーはぐっ!と言葉に詰まった。
「お前と一緒に舞踏会に出席した時居合わせた婦人を口説くのに、お前とは何でも無い。と説得するのに俺がどれだけ苦労してるか、知らないだろう?」
ディングレーはふて切った。
「俺とデキてると、思われてるんだろう?
いつもはあんたと一緒だから不愉快な噂は耳に入らないが、今夜はずっとアイリスと一緒だったからな」
ローフィスはたっぷり頷くと、ぼそり。と言った。
「あいつの言い回しに腹立ててないで、世間を良く知るあいつの側で少しは勉強したらどうだ?」
がディングレーは即答した。
「それは俺に何度、握った拳を振り上げるのを我慢出来るか試せ。と言う試練か?」
ローフィスはそう言ったディングレーの男らしい真顔を思わず見上げ、つぶやいた。
「…悪かった。俺の考えが甘かった」
ディングレーはたっぷり、頷いた。


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