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二年目。 56 第五章 オーガスタスの一日
[★二年目 連載]
2010年7月31日 2時12分の記事



オーガスタス…。

つくづく、お疲れ様………。

彼はこの初対面で、アイリスを思い知ったのでした…。

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美少年は屈んでいたが、駆け寄る俺に顔を上げ、一瞬で眉根を寄せる。

直ぐ彼の方から駆けて来て俺に寄ると、素早く足を止め、俺を見上げささやく。
「…黙って…いてはくれませんか?」

直ぐ、酒場の扉が開き、男の叫びに何事かと、数人が姿を
見せる。

美少年は真摯な濃紺の瞳を向け、俺に懇願する。
「…貴方がした事に……しては頂けませんか?」
その真剣な表情が切羽詰まり…あんまり一生懸命に見えて俺は固まった。

倒れる男に屈む男達が口々に騒ぐ。
「…潰れてる………!」
「いい気味だ!これで奴の被害者は居なく成る!」
「あんたがやったのか?
教練のデカイ暴れん坊!」

その整いきった一年の美少年はまだ真っ直ぐ、俺を見つめ続ける。

俺は…結局彼の懇願するあまりに真剣な表情に気圧され、仕方成しに口を開く。
「ああ……俺だ。
ウチの下級に手出ししたから、思い知らせた」
皆が頷く。

美少年…アイリスが途端、俺を見つめた瞳を反らさず、安堵の吐息を吐き出す。
俺は内心動揺と、彼に従っちまった自分に舌打ちそうに成り素っ気なく怒鳴る。
「潰れてるか?」

倒れる男に屈む男達から直ぐ、返事が戻って来る。
「医者に、見せないとな」
「だが血塗れだ」

俺は、頷く。
「こいつを送ってく。後を頼めるか?」
「後で酒場に寄って、祝杯を受けてくれ!」
俺はアイリスの背を抱き…連中に頷いていたと思う。

肩を抱いて歩くものの…間違いなく抱いて隣を歩く奴は確かに…猛獣だった。
気品の塊。上品な香水の漂う、育ちの良さそうな。

暗い校門に立つと、アイリスは振り向く。
「アイリス。そんな名だったな?」
聞くとアイリスは微笑を浮かべる。
「名前を貴方に覚えて頂けるなんて、光栄だ」
まだたった14の少年の…無邪気にすら見える笑顔。にだが俺はぞっとした。

ふいに彼の白い手が伸びて首の後ろに手を掛けられ、顔を下げさせられると彼が顔を寄せて来、その唇が俺の唇を掠め、ぎょっとし身を、起こす。

途端彼は悪びれも無く言葉を紬出す。
「ああ…こういうお礼は必要、ありませんか?」
俺は目を、見開いたままつぶやく。
「これは俺に取っては礼じゃない」

アイリスはくすり。と笑う。
「では別の礼を後日、届けさせます。
本当に、助かった。

ついでに、誰にも言わずに居て下さると嬉しいんですが」
「なぜ?」
アイリスは悪戯っぽくくすり。と笑うとささやく。
「学年無差別剣の練習試合を、見て頂ければ解ります」

俺は…頷いていた。
そう言う謎かけは、嫌いじゃなかった。

が、アイリスは頷く俺に、気を良くしたのかつぶやく。
「…失礼を、お詫びします…。
入学してからこっち…結構男に口説かれてしまっていて…。
つい、貴方もそっちの男と、カン違いして…」

こっちもつい、無言で頷く。
「お前の身分なら無体な真似は、されないだろう?」
だがアイリスは、男の睾丸潰した時のような、きつい瞳をすると吐き捨てるようにつぶやく。

「すっかり…忘れてたんですがね。
この顔がタイプの野郎が居る事を…。
いつも周囲には女性しか居なかったから、まさか私を口説く男が居るだなんてね…!」

それでつい…尋ねた。
「その女性ってのは、身内か?」
彼は朗らかに、そしてとてもチャーミングに微笑んで首を横に振った。
「当然、しとねを共にする女性ですよ」

俺はああ…。と首を縦に振り、俯いた。
確か、14の筈だ。
末恐ろしい14才も、居たもんだ。

「でも、ともかく目立つのは、困るんです…!」
そう言う彼はやっぱり、優美そのものの可憐な美少年に見えて…俺は背筋が冷たく成った。

俺はもう…理由を尋ねる気も無く、頷いた。
「他言しないと約束しよう」

彼は、とても嬉しそうに微笑んだ。
濃紺の瞳がきらきらとし、艶やかな焦げ茶の栗毛を品良く胸に垂らす、真っ赤な唇が色白の肌に映えた美少年だったが、もう俺はこいつを、外観道理見られなかった。

彼は突っ立つ俺の手を両手で親愛を込めて握り込み、顔を見上げささやく。
「後日必ず…!
お礼を届けさせますから……!」
言って背を向け、一度振り向いて微笑む。
俺は咄嗟に、礼は要らない…!と叫びかけ、止める。

奴に握られた手が、微かに震うのに気づいたからだ。
あんなぞっとするモノを、見せられたんだ。
有り難く…貰って置こう。ついそう、思って。

酒場に戻ると、ギュンターはエリーダを伴って個室から戻ってた。
俺を見つけると近付いて来る。

だが戻ったエリーダに次を申し入れた奴が断られ、皆がギュンターの背後で一斉に、ブーイングを垂れた。

「あの顔で…?
そんなに良かったのか?!」
「奴は上手かったって?!」

俺は目前に立つ、ギュンターをつい、まじっと見た。
が、ギュンターは口を開くと、言った。
「あいつは…?
大丈夫だったのか?」

俺は呆れた。
「余所事考えて、それでも女を満足させたのか?」
ギュンターは情事の後で、その金髪と男らしい美貌に艶と輝きを纏っていたが、眉間を寄せる。
「最中は考えないさ!」
俺は、頷いた。

もし俺が止めなければあの、すまして綺麗な顔をした気品溢れる美少年の猛獣振りを、見てたのはこいつの筈だった。

俺は、一つ吐息を吐き出してつぶやく。
「男は撃退し、奴を校門まで送って行った」
ギュンターは頷く。
「あんた、さすがだな!」

ぽん。と肩を叩かれたがまさか…あの美少年が自分で、しかも普通の奴が、やらない程強烈な方法でカタを付けた。とは口が裂けても言えなかった。

だが酒場の男は杯を俺に手渡すと、叫ぶ。
「奴は無事、睾丸も一物も潰れた!」
酒場中の、男も女も一斉に杯を、俺に上げて歓声を上げる。

ギュンターが横で、マジマジと俺を、見つめた。
「そこ迄して…この祝いか?
余程最悪な男だったんだな?」

タチの悪い男から、俺が下級を救い出した。とギュンターに尊敬の瞳で見つめられ、俺はつい、顔を背ける。

皆が奴の…一物を潰した俺を、頼もしそうに見る。
俺の握力ならそれは、訳無い。と皆が微笑む。
そう…俺の、握力ならば。だ。
だが潰したのは俺じゃない。

俺は何時迄も歓喜に沸き立つ酒場で皆に感謝を告げられ、酒の味なんか全然、解らなかったし、寄って来る、女の手を取る気すら、無い程気色悪かったが、奴に口外しないと約束した。

奴に代わって英雄に成り…つくづくその苦々しい気持ちに強烈に思う。
やっぱり送り届けられた奴からの贈り物は、突っ返さず貰っとこう。と。

追加を、請求したって良いはずだ。
英雄を、湛えるこの場から、逃げ出す事も出来ない俺の居心地の悪さを考えたら………!




つづく。

ベルこの連載を最初から読む。
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で、別窓を開き、元のページは目次。として
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『北領地[シェンダー・ラーデン]の恋人』
の後の
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プロフィール
「アースルーリンドの騎士」-ブロくる
天野音色 さん
「アースルーリンドの騎士」
地域:愛知県
性別:女性
ジャンル:趣味 漫画・小説
ブログの説明:
オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
「二年目」のミラーサイトに成っちゃいました。
昔はこっちが本家だったんですが………。
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