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二年目 10 ローフィス 18R
[¶二年目 10 ローフィス 18R]
2010年10月11日 16時14分の記事

やっぱり挿絵が上がってません。
とりあえずの更新です。

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10 ローフィス








 ローフィスは血相変えて自分目がけ突っ走って来る男が、見慣れた一級下の「左の王家」の男だと解った。

ディングレーは四年宿舎の廊下の角を、向かい来る男にぶつかりながら押し退け、ローフィスは自分に向かって顔を上げるその男前がひどく、取り乱してるのに気づくと、ディングレーとぶつかった友に、許してやれ。と顎をしゃくる。

友はディングレーの乱暴に、咄嗟に横を擦り抜けようとするその腕を掴み、いくら王族だろうが年上の男へ敬意を払え!とブチまけようと口を開いたが、ローフィスの合図に気づき仕方無く、その手を放した。

ディングレーは掴まれた腕を放された途端、突っ込んで来る。
ローフィスが、口を開くより先にディングレーが叫んだ。
「無事だったか…!」

ローフィスはその言葉に眉を寄せて唸った。
「子細を話せ。どうして俺が、災難にこれから見舞われるのかを!」
ディングレーは年上の…実の兄より余程、兄のようだ。と思ってる、自分よりは背が低く、だが明るい栗毛の爽やかな印象の、意志の強い青い瞳を投げる男に、さっきのいきさつを口早に話した。

ローフィスは、大きな吐息を吐く。
「…やっぱり、グーデンが大人しくしてる訳無かったな。
ディアスが卒業した後じゃ」
「…どうする!」
勢い込むディングレーの様子に、ローフィスは唸る。
「オーガスタスに、話すしか無い」
「話そうが…あんたがこの先、ヤバい事に変わりあるか?!」

ディングレーが大事な肉親を気遣うように、その尊大な顔を歪め心配する様に、ローフィスは一つ、吐息を吐く。
「俺の顔が殴られて変わったら、お前が責任取るってのか?」
がディングレーの顔は真剣に苦しげで、ローフィスは思わず吐息を吐き出した。

「用心する。
それで凌げるさ。奴らが狙ってる。と解ってるんならな!」
背を、向けようとするとディングレーが腕を咄嗟に掴む。
「本当にそれで大丈夫だと思うか?!」

年下のそのガタイのいい男があんまり自分の為に必死で、ローフィスはつい
『誰に言ってんだ』
と冷たく突っぱねられなくて再び、吐息を吐き出した。

「なあ…。夜盗がごろごろ居る森で餓鬼の頃、野宿した俺
だぞ?
怖い思いなら一通りしてる。
第一ここで、抜刀は御法度。

ひどく殴られたら死ぬが…騎士にも成ってない学生に殴り殺される程俺は阿呆じゃない」

が、ディングレーは腕を、放さない。
「本当に、本当だな?
言っとくがディアスが居ないグーデンは、本気で行儀が最悪だぞ!
弟の俺が言うんだから間違い無い!」

「…解った!
解ったから、俺をひ弱な可愛い子ちゃん扱いするな!」

怒鳴られてようやく、ディングレーはローフィスの腕を放した。
「…本当に…あんたは掴まらないな?」
まだ心配げなその男に、ローフィスはつい、鬱陶しくなってどやし告げる。

「何てツラだ!
入学式の時の、三年代表は俺様だ!
ってくらいデカイ面出来ないのか!」

がディングレーは困った様に眉を寄せる。
「…なあ…俺はとっくにあんたに散々な所を見せちまってる。
他の奴らには偉そうにはったりカマせるが、あんた相手にはもう無理だ」

言われてローフィスはたっぷり、頷く。
「それはそうだな」
「だから…俺と連んでるとグーデンが目を付けて…」
「解ったから、もう黙れ!」

怒鳴られてディングレーは、ようやく落ち着きを取り戻す。

「…そんなにひどかったのか?」
ローフィスに聞かれ…ディングレーは口に手を当て、顔を下げる。
「…あれは…暴行だ…。
間違い無く…ひどい事を奴らは平気でしてる。
どうして…平然と人間の尊厳を踏みにじれるのか、理解出来ない」

「それが愉しみだからな。
奴らはそれで自分が上だ。と確認したいんだ」
ディングレーは口に当てた手をぐっ!と押しつける。

「そういうのが兄だと、堪えるか?」
「…すごく」
ディングレーの気弱な返答に、とうとうローフィスはその逞しい肩を、バン!と叩いた。

「なら母親の浮気を疑え。
グーデンは多分、浮気相手の子だ。
身分が高い奴が相手だから、親父さんもねじ込めない」

ディングレーは顔を上げた。
「作り話だと直ぐ解るが…救われるのは確かだ」
良かったな。
とローフィスは頷いた。

満足して去って行くディングレーの逞しい背が遠ざかるのを見つめながら、ローフィスは唸った。
「あの気の回らない男に家庭争議のネタを振ってもオタつくだけだろうが……どう見たって髪の色以外、奴はグーデンと似ちゃいない。

奴が父親似なら…グーデンの方が、母親が浮気して出来た子に決まってるのにな」

が、世間の一般評価が頭の片隅にも無い世間知らずの王族を、ローフィスは説得したものかどうか、悩んだ。

兄が母親の浮気相手の子だろうが、それで血の繋がりが、絶たれた訳じゃない。
半分は繋がってる。
その事実ですら、あの男に取っては耐え難い事実だろう。

そのくらい、ディングレーは兄グーデンを、嫌っていた。

ローフィスは一つ吐息を吐くと、進もうと思ってた廊下を引き返した。




「オーガスタス」
開いた部屋の扉を一応ノックして、ローフィスは寝台に腰掛け背を向ける赤毛の大柄な親友に声掛ける。

オーガスタスが、剣を磨く手を止め振り向くと、扉の前に明るい栗毛の顔立ちのいい…がはっきりと意志を示す青の瞳をこちらに向けて、ローフィスが立っていた。

「どうした?開いてるって事は勝手に入れって意味だと、とっくに知ってるだろう?」
ローフィスはぼやくオーガスタスに近づきながらささやく。
「…グーデンが動き出した」
オーガスタスの、赤毛が揺れる。

振り向くのを待たず、ローフィスは言葉を繋ぐ。
「早速一年を呼び出し、ご賞味遊ばしてたが、ディングレーが乱入して救い出したそうだ」

オーガスタスは肩を揺らす。
「…嫌いな兄と対面して迄?
あの男、苦虫噛みつぶしたような顔してたか?」

が、ローフィスは肩を竦めた。
「邪魔すると俺に報復すると脅されて…俺をひ弱な可愛い子ちゃん扱いし大層…心配しちまって」

オーガスタスが首を竦める。
「そりゃ…滅多に無い光栄なんじゃないか?
お前をマトモに心配する奴なんか、実際居ないだろう?
……だがグーデンはタチが悪い。

ヘタすると、腕の一本も折られるぞ?
あいつは自分が非力な分、力自慢を飼っている」

ローフィスは横迄来、オーガスタスが剣を磨く様を覗き込んだ。
「まあ…来る。と解ってりゃ、接近戦に備えるさ」
オーガスタスは剣の輝きを確かめ、再び布を刃に滑らして笑う。
「お前も、タチ悪かったな」
「言ってろ。
だがマジな話…一年はあのアイリスが統べると思うか?」

オーガスタスが、朗らかに笑う。
「ボスにしちゃ、お綺麗過ぎるか?
背はあるが」
「背だけじゃな…。
身分もあるが…。
あの女顔と優雅なお坊ちゃんぶりで、グーデンと張り合えると思うか?」

オーガスタスは剣を磨く、手を止め顔を上げる。
「だが俺達は一年まで目が届かないぞ?」
「じゃ、ご注進は二年のローランデにするしかないな…。

で?どうする?
直ある学年無差別剣の練習試合。
行ったついでに
『手を抜いてくれ。最終学年なんだ。
頼むから最後に華を持たせてくれ』
って奴に頼んどくか?」

その悪質な冗談の返礼に、オーガスタスは笑って手で横のローフィスを振り払い、ローフィスはその手が自分をぶつ前に、軽やかに笑い返して身を、かわした。

ローフィスが部屋を出るその背に、オーガスタスが言葉を投げる。
「試合が終わる迄、一年は誰がボスに成るか解らんぞ?」

ローフィスは振り返らずつぶやいた。
「四年はグーデンが認めなくても間違い無く、お前だしな!」
ばさっ!

オーガスタスが、剣磨きの布をローフィスの背に投げたが、それが届く前にローフィスは軽やかに部屋を出、布は当たる場所無く扉の前に、落ちた。
「やれやれ…」

オーガスタスは寝台の上に剣を乗せ、腰を上げて立ち上がると、ローフィスの消えた開け放たれた扉の前まで来て屈み、布を取り上げつぶやく。
「…あいつの心配なんて、ディングレーも無駄な事を………」

そして腰を伸ばすとふと…いつも尊大に顎を上げ、彼(ディングレー)が通ると三年がこぞって道を開ける程ガタイのいい男前が、血相変えて慌てふためく様を思い描き、くすくす笑い続けた。






「ローフィス!」
二年宿舎でシェイルが扉を開けるなり、抱きつく。
ローフィスは両腕を首に巻き付けられて胸に飛び込む義弟のその背後に、寝台に寝そべった同室のヤッケルがやれやれ。とだらけて片腕を頭の上に上げ、もう片手でりんごを囓ってるのを見た。

ローフィスが見てるとヤッケルは、戸口の二人を見て見ぬふりをしてる。
ローフィスは胸に張り付くシェイルを引き剥がしてその顔を拝む。
学校一の美貌の美少年。

異名を取るだけあって、彼の義弟は冗談抜きで掛け離れて綺麗だった。

人形…それよりは妖精のような…どこか人間離れした整いきった顔立ち。
つん。と先が細く形の良い鼻。くっきりと大きな、エメラルド色の瞳は銀の睫に覆われ、唇は赤く色白の肌に、映える。

銀の巻き毛を肩に垂らし、見慣れていてもやはり、目にすると一瞬その美貌に目が、惹きつけられた。
がおくびにも出さずつぶやく。
「ローランデに用なんだ」

シェイルは途端、膨れっ面をした。
「俺に、会いに来たって言えよ!
例え嘘でも!」
「…嘘でも良かったのか?」

が、シェイルの眉が切なく寄る。
「…嫌だ…。
俺に会いたかった。そう…言って欲しい」
そう言って再び首に回した腕で抱き寄せられて胸に顔を埋められる。

困っているローフィスをチラ…!と寝台の上のヤッケル
は見、つぶやく。
「ローランデへの伝言は、俺が聞くぜ…。
シェイルを放っとくと、欲求不満なんだろう?とまたロクデナシにつけ込まれるぞ!」

シェイルが頬を赤く染めてヤッケルに振り向く。
ヤッケルは目を見開いて、両肩を思い切り持ち上げぼやく。
「だって…今更だろう?」



ローフィスが顔を俯け、ぼやく。
「あんまりシェイルを煽るな」
ヤッケルが直ぐ様言い返す。
「煽ってんのはあんただ。
ディアヴォロスが居ないから余計だろ?

休暇迄お預けだ。と膨れてたし、あんたはロクに相手してくれないって愚痴、毎度聞かされるのは俺なんだぞ?」
「ヤッケル!」
シェイルに怒鳴られても、ヤッケルは肩を竦めただけだった。

ヤッケルは寝台から背を、跳ね起こすとひらり。と両足床に付け、戸口の二人に近付く。
「二階(大貴族用宿舎)には俺が行くからここを使えば?
鍵、掛けとけよ。
最中に俺に開けられたくないだろ?」

シェイルはやっぱりヤッケルのその言い様に頬を染めて俯いき、ローフィスは顔を背け、やれやれ。と吐息を吐いた。

そしてせっかちなヤッケルが廊下を行く背に怒鳴る。
「一年にグーデンがちょっかい掛けてるらしいから、ローランデの口から一年のヘッドに注意を促しといてくれ。と伝えろ!」
ヤッケルは足を止めぬまま遠ざかりながら、振り向かず頷いた。

 寝台の上で腕の中にシェイルを抱き、耳元でささやく。
「お前…そんなに欲求不満なのか…?」
が、その声でもう感じた様に…シェイルは身を震わす。
その様子があんまり可愛くて、ローフィスが思わずごくり。と喉を鳴らした。

そっ…と顔を寄せるとシェイルがその美貌の面を上げ、濡れたエメラルドの瞳で見つめられると、ローフィスはもう、自分を抑えるのは無理だった。

そっと柔らかく薔薇色の唇にしっとりと口づけ、体を抱き寄せる。
それだけで愛おしさが、沸き上がる。

解ってる。
シェイルは俺無しじゃいられない。
幼い頃から身を寄せ合い、雨風凌ぎながら旅を続けていた。

震えている小さな小鳥。
そんなシェイルが愛おしくて大切で…ローフィスは文字道理、彼の為に体を張り続けた。

…だから自分が、内心は彼を離したくない。愛でたい。
そう切望する情熱を、兄の顔をした仮面の下に隠し持っていたりするから…ずっと一緒に居たシェイルがそれを感じない筈が無く、自分の為なら命も惜しまず敵に立ち向かってくれた返礼として、身を投げだそうとしても、無理ないのかもしれない…。

ディアヴォロスは解っていて、何も言わない。
が、ささやいた事がある。
“シェイルは知っていて、君の為なら何でもする。
その機会を君が与えてくれなくて、泣いている”

それが…応える。と言う事なんだろうか?
一旦抱きしめると、欲望を押し止めるのは無理で………。

抱きしめたままシェイルの背を寝台に押し倒すと、そのまま衣服を剥ぎ取りながら、曝された肌に口付けて刻印を、残していく。

「んっ…」
シェイルの甘やかな喘ぎが、耳をくすぐる。
白い肌。
微かに薔薇の香りのする…。
唇を這わすとほんのり…ピンクに染まる。

恥ずかしげに…シェイルが身もがき、けど腕の中から放さず、そこらかしこに…印を付けていく。

「あっ…!ああっ!」
鎖骨の少し上…。
ここを吸われると、シェイルは決まって声を上げた。

胸の衣服を取り払い、曝していくと、シェイルは捕らえられた小鳥のように可愛らしく身もがく。
彼を欲しい。と思わない男はこの教練に、居ないんじゃないか…。
そう思う程一年の時シェイルは多くの…余りに多くの欲望の視線に曝された。

銀の巻き毛。
小作りな色白の、小さな頭。
細く高い華奢な鼻。大きなエメラルド色の瞳。

薄い胸の突起に吐息を吐きかけただけで震う。
じらすようにそこを避け、脇に吸い付いてやると、シェイルの赤い唇から落胆の、吐息が漏れる。

ディアヴォロスが散々可愛がったそこを、シェイルは吸われるのが好きだった。
「…女に、産まれれば良かった…」

日頃そうつぶやいてるせいなのかは知らないが…。
だが膨らみようのない胸に落胆し、自分の一物に…衣服を取り払われ触れられると毎度、シェイルは身を、跳ね起こす。

…自分が女に成って俺に抱かれてる。
そのつもりなのに自分のそこは、その甘やかな空想を裏切り、惨めな現実を彼に、思い起こさせる。

男の癖に女のような容姿で、男に欲される以外役立たない美貌。
腕も腰も足も華奢で、どう見ても男に産まれた事が、間違いの様な…。

シェイルはそんな自分が嫌いだったから、彼の股間をやんわり握ってやると、泣き出しそうなエメラルドの瞳を向ける。

俺に、愛されるに相応しい体に成りたい…。
シェイルがそう…思ってるのは知って居たから、お前が男だろうが可愛くて…ここもお前のものなんだから愛おしいと…顔をそっと下げて口に、含んでやると、シェイルはぴくん…と動き、口の中に包まれた途端…甘やかな喘ぎを漏らす。

ようやく…シェイルもそこが、甘い快感を引き出す感覚器官だと、思い出したようだ。
あんまり可愛くていつも、彼のそこを銜えたままかなり長い事可愛がったら…シェイルはどういうつもりなんだ。
と一度聞いて来た。

「棒キャンデーと、間違えて無いか?
俺のは小さいから」
真顔で言われて吹き出したが…確かにまろやかに舌を使って彼の最も感じる先端に舌をくねらすと、シェイルはしなやかな白い裸体をたまらないようにくねらすから…それが楽しくてつい、離せなく成る。

美味しい。と感じてるのも確かだ。
女相手に、使った事の無いそれは…口の中で硬さを増す度、自分が同じものを持ってる。と思えない程華奢で愛らしくてつい…貪るように吸い上げてしまう。




口の中で生き物のように育ち、汁を滴らせるそれは、持ち主のシェイル同様小鳥のように儚げで可愛らしかったからつい…舌で先端を絡め取ったまま、上下させる。

煽ってやるとシェイルは上半身を艶やかにくねらせ、美しい銀の髪を寝台の上に散らし、悩ましくくねる。

もう…後ほんの少し…そんな所で口から出され、身を起こすと、シェイルは恨めしげなエメラルドの瞳を、自分に投げた。

咄嗟にシェイルが肘を付き、腰目がけて襲いかかり衣服を剥ぐ、その両手首を握る。
自分も銜えて俺の欲望を高め、早く済まそうと言う魂胆は見え見えで、つい激しく身もがく華奢なシェイルの両腕を捕まえたまま、その背に回し抱き寄せると、シェイルは抱きつきながら可愛らしく文句を言う。

「…ど…うしていつもそんなに意地悪なんだ!」
言いながら、華奢な体がしがみつくように抱きつき、その指が肩に食い込む。

「…まだ…自分だけ服を着ててずるい…!」
顔を寄せるシェイルの耳元にささやく。
「お前に脱がされる気は無い」

ぐっ!と肩にシェイルの指が喰い入る。
手で、口の中で育てたシェイルの股間を探り握ると、シェイルは背を反らし、仰け反った。
「ん…っ!」

甘い喘ぎを耳にだが…勃ち上がって欲望の汁を先端から滴らせる、その細く可愛らしいものから手を放すと、シェイルの身が失望に戦慄いた。
「ヘタに弄るとお前、直ぐ達っちまうし、そうなったら簡単に回復しないじゃないか」

シェイルの眉が、その意地悪い言葉に泣きそうに寄る。
喰い込む指は痛い程だった。
が無視して顔を下へと滑らし、ディアヴォロスが開発したシェイルの胸の突起に顔を寄せ、ささやく。
「…それにまだここを…可愛がって欲しいんだろう?」

言って顔を寄せ…唇を、じらすようにそっと擦りつけるとシェイルの身が、悦びに戦慄く。

抱き寄せた身を寝台の上に押し倒し、その胸に顔を寄せる。
女の胸にするように愛撫されるのが…シェイルは好きだった。
ディアヴォロスとそうしてる間だけは自分が、途方も無く惨めな雄だと…忘れられる。

シェイルは可憐そのものの…どんな男だって抗えない程の可愛らしい仕草でその美貌を俯ける。
俺は毎度呆れた。

どんな雄でも平伏させる。
それが最強の雄だと言う事が解らない。
シェイルに言わせればそれは雄で無く“雌の出来損ない”だそうだ。

だから…いつも必要な時は、冷たく突っぱねるような表情をする。
小鳥のように可愛らしい普段の彼は影を顰め…そんなシェイルの虚勢を哀れに思うが…だが生き残る為に彼が必死でそうしてるのを知って居たから…だから……。

思い切り揉み上げてきつく先端を吸い上げてやると、シェイルは甘やかに喉を曝す。
華奢な首に確かに男の印ののど仏も見受けられたが…シェイルはそれですら、目立たない程小さい。

細い両手首を捕まえ、シーツの上に釘付けて胸に倒れ込む。
シェイルの身が喜びで震える。
吸い付いてやると可愛らしく喘ぐ。
「んっ…あっ……………」

愛されても恥じる事の無い、女に成ってるんだろう…。
ディアスは俺がそう、させるのだと言った。
「君が巨乳ばかりに擦り寄って、口説いているから。
シェイルの価値基準は君で、男の自分の美貌より巨乳が勝る。
そう信じてる」

それは…だって仕方無い。
シェイルに欲望を自覚したのは11の頃で…旅先で湖で水浴びしてる裸のシェイルがあんまり綺麗で…真っ白な肌に赤い唇が愛らしく、俺を見、微笑んでいた。

途端、股間が熱くなって勃ち上がって…俺は慌てて陸に上がり、シェイルは追いかけて来て…怪我をしたのかと、心配した。

「大丈夫だ」
言って…綺麗なシェイルから目が離せなかったから芦の間で湖に浸かるシェイルを盗み見しながら…でもますます勃ち上がる股間に焦り…必死で…処理した。


最悪なのは危険を心配しシェイルを見やる時は萎み始め…その肌や真っ赤な唇。
すんなりした裸体を目で追うと途端、かっ!と興奮する。
「嘘だろう…?」

それから幾度…そう言う危険が訪れただろう?
親父は気づいてた。
シェイルに見つめられて微笑まれ…そしてそれを眺めてると決まって…不味い状況に陥り、席を立ってたから。

親父はシェイルの居ない薪(たきぎ)の前で炎に顔の輪郭を揺らめかせ…ぶっきらぼうにつぶやいた。
「解ってても惚れてるなら、性がないな」

俺が親父の横顔を見ると、奴はこっちを見ないまま言った。
「お前の問題だ。
お前がどうするかだ。
大抵は告白するか忘れるか。
それは相手が誰だろうが同じだ」

俺は…怒鳴ってた。
「シェイル相手に、告白なんて出来る訳無いだろう?!」
親父はやっと俺を見、そういう事だ。と頷いた。

…つまり…忘れるしか無い…と。
“お前は奴にとって兄貴なんだぞ?!”

そう…言える筈なのに言わなかった。
奴はいつでもとんでも無く乱暴でぶっきらぼうなのに…憎めないのはそんな所だ。
全てを知ってて…だからこそ凄く、優しい…。

表面の当たり障りのない、親父が言うべき事なんか言わずいつも人間として対等に…付き合ってくれていた。

シェイルを忘れるには…あの、すんなりとした平らな綺麗な白い胸を忘れるには…巨乳しか…方法が、無いじゃないか………。

「あっ…あ!んっ…………」
甘やかな喘ぎに応えて、散々胸を可愛がってやるとシェイルの頬は薔薇色に染まり…赤い唇が可愛らしく満足げに甘い吐息を紬出す。

けど大抵は感じてくねり始めると暫くして…忘れ去った筈の、奴を男に引き戻す股間が辛くて…泣き出しそうな表情を作る。

俺はシェイルのそんな顔を見るのが切なかったから…慌てて尻の穴を探ってやる。
シェイルは俺を迎え入れるのが大好きで…挿れて果てた後
「ずっと…こうしていたい」
と大馬鹿な事抜かすから…。

つい真顔で
「お前、馬鹿か?排便しないと死ぬぞ?」
と言った途端、枕で顔を思い切り殴られた。

シェイルのエメラルド色の瞳が濡れて、切なげに瞬く。
そこは自分が男だと…思い出させるもう一つの場所だったから………。

泣き出しそうな瞳に耐えられず、胸を倒し口付けるとシェイルの両腕が巻き付く。
そしてその手が、俺の上着を肩から剥がしにかかるから…俺は慌てて衣服を脱ぐ。

シェイルの手が必死にそれを手伝う。
肌を合わせるのが好きで、俺が衣服を着たままだといつも…泣き濡れた瞳で抗議する。

はだけた肌に顔と身を埋めるとようやく…シェイルは俺を自分に、捕まえた気分に成るらしい…。

子供のような奴は女に俺を取られ、失うといつも…怯えていたから、裸の俺を腕に抱き、口づけを受けそして…両足持ち上げるとようやく…喜びに震えた、可愛らしい表情を俺に、向ける。

シェイルは無表情だった。
見せる表情は怯えか、泣きそうな表情だけ。
叔父に追いかけられ…引き裂かれる恐怖にいつも怯え…。
俯き、無垢な瞳を上げるだけ…。

それが初めて微笑んだ時、あんまり可愛らしくて、その表情を引き出せた自分を、誇った程だった。

シェイルの華奢な腰を抱いて形の良い双丘の間に自分を推し進めると、シェイルの表情は俺を迎え入れる喜びに微笑み…両手が首に、巻き付く。
身を、自分から俺に寄せ…動く度に腰を合わせる。

つい…彼の中があんまり良くて失神しそうに成るのを堪え…顔を離しシェイルの表情を見つめながら、腰を使う。

うねるような快感が沸き起こり…ぱっ!と周囲が薔薇色に変わる。
淡い色の洪水の中で可憐で可愛い…シェイルが微笑んでいた。

脳裏に浮かぶその顔は決まって…もっと小さな頃の、ようやく笑いを取り戻したばかりのシェイルで…けどまだ怯えは去らず、ちょっとした事でその微笑みは消え…俺は幾度も願ったものだ。

シェイルがずっと…微笑んでいられますように。
その為に自分は何でもするから。と。

だが腰を中心にこの上無い幸福感に浸りながら…これが、そうなのか?と自分が情けなくなる。

確かに、シェイルと繋がると彼はずっと微笑み続ける。
甘やかに喘ぎながら。
だがその為にシェイルは男を捨てる。

抱き止めると頬に顔を埋めその頬が…小さく、愛おしくてつい、下から甘やかに突いてやる。
柔らかな唇から甘い喘ぎが洩れるのを耳に、下から連続で突き上げ…そしてもう、たまらなくてシェイルの頬に頬を寄せ、顔を傾けて口づけし…鼻の頭を掠め瞼に、額に…唇を、擦りつけながら絶頂を、迎える。

「んっ…!」
シェイルの身が、小刻みに震える。
それは決まって
『たまらなくイイ』と告げて居て、結果それに煽られ、彼の中に放つ。

体の弱いシェイルの体調をいつも心配していたから中に出すのは好きじゃなく…いつも最後慌てて引き抜いていたのに、シェイルはそうしようとすると必死で…抜かれまいと俺を抱き寄せる。

華奢な腕の非力な力をありったけ…振り絞って。
外で出すと泣きそうな顔をされ、泣き出したいのはこっちだ。と言えず、弱り切る。

中で出したいのは山々だが、それでシェイルの体調を、気遣わなくてはならないのはこっちなのに。

この事でどれだけ辛い目に合っても…最後に抜かれるよりはマシだ。と泣き叫んで言われた時、こちが泣きそうに成った。

シェイルが可愛かったから…熱を出して苦しむ様を見るのは何より…辛かった。

怪我を負った時も…綺麗な肌に傷が付くと決まって…胸が痛んだ。

そういう思いはごめんなんだ。とシェイルに、伝えても聞かない。
自分より俺が何倍も危険に合い傷だらけじゃないか!と叫ばれても…つい…思ってしまう。

“お前の為に負う傷は痛くない。
お前が傷を負ってる方が、ひどく堪える”

シェイルは決まって…言葉を無くし、大きなエメラルド色の瞳に涙を溢れさせ…そして、抱きつく。

胸に抱く小さくか弱い小鳥…。
この小鳥は育たないかも知れない。あまりに、弱すぎて…。

旅先で老婆が、そっと告げた。
「大事にしてるあんたには辛い事かもしれない。
が、弱い者が苦しまず、早く逝くのは幸せなことだ」

俺はそれを認めるのが嫌でムキになって…ムキになってシェイルを護った。
どんな時でも。
身を盾にし、飢えた狼の群れに襲いかかられようと。

ぐったりしながら…シェイルは身を、寄せて来る。
胸に顔を埋めしがみつき…そして決して離れたく無い。
そう言うようにぴったりと身を、寄せて。

二つに、別れるのは嫌だ。
そんな風に………。

顔を覗うと濡れたエメラルドの瞳が向けられ…その乾いた唇に口付ける。
その間にそっ…と自分を引き抜き…シェイルの肩を抱き、休ませる…。

勿論…欲望が、昇るから抱き合う事も必要だったろうが、シェイルに取ってはこの時間が、何よりも必要だった。

幼い頃のように…たった二人切りで…常に居た頃と違い、離れ、多くの人に取り巻かれた今では特に。

俺が自分のもので、変わって無い事を確かめる為に。
シェイル。悪いが俺の方がお前に首ったけだ。

がもしお前が男に戻って…輝く笑顔で惚れた女を横に、青年らしく顔を誇らしげに輝かせたなら…俺はそれでいい。

どれだけ胸が痛んでも、祝福してやれる。

そう…事が終わると毎度…女よりも艶やかで美しい、男にすら見えないシェイルの目を閉じた顔を見つめる。

シェイルはいつも無言で身を、寄せる。
育たなかった小鳥が育ちそして…手に入れたものが俺なら…それが最高の幸福で、他に何も、必要とする物が無くそして…いつ死んでも、思い残す事は無い…。

………そんな風に、満足げに。





 宿舎に戻る途中に、途端に始まる。
シェイルと過ごすと決まってその後、暫くシェイルのあの甘い喘ぎと、真っ白なしなやかな肌の感触、くねる姿が脳裏に繰り返し現れて離れない。

ローフィスはどれだけ歩き、夜風が冷たくても頭に浮かび続けるシェイルの肢体に心震え、自分を叱咤した。

どれだけ自分がシェイルに惚れ、囚われてるか。をこの時間が一番、思い知らされた。

宿舎の扉を開け、自室に駆け込む。
扉を閉め、はあはあ…と顔を下げて肩で息を吐く。

シェイルが、生きて幸せに成ってくれたらそれだけでいい。
義兄としてのそんな思いを嘲笑うように、甘やかな裸のシェイルをずっと自分のものにしたい。

そんな激しい思いは凶暴な獣に変わり、喉の渇いていた者が少し水を含んだ途端喉の渇きを思い出し…強烈な飢えに暴れ狂って水を欲してる…そんな風に、自分の事を感じる。




「…シェイルを、抱いたのか?」
落ち着き払ったその声に顔を上げると机の前にオーガスタスが、椅子に掛けてこちらを覗っていた。

不機嫌に顔を背け、つぶやく。
「居たのか…」
真っ直ぐ暖炉上の水差しに向かうローフィスに、オーガスタスは思い切り両手を広げる。
「こんなデカい俺の図体が目に、入らないんじゃ想像は付く」

ローフィスは一気に水を飲み干し、頭の中の…情事の時の艶やかなシェイルの…甘やかな美貌を振り払おうと試みて、結果失敗した。

オーガスタスは顔を歪める親友の表情に吐息を吐く。
「で?ローランデに逢ったのか?」

ローフィスは気づいて顔を、上げて親友を見、その時ようやく自分の馬鹿さ加減に気づく。
「先にシェイルに逢いに行ったのが敗因だ」

オーガスタスは、そんな当然の事を今更。と語気強く促す。
「ローランデには?」
ローフィスは一つ、吐息を吐くとつぶやく。
「同室のヤッケルが伝えた」

オーガスタスが、頷く。
「お前は会って、無いんだな?」
ローフィスはようやく親友を、真顔で見つめる。
途端、オーガスタスは苦笑する。
ローフィスは、言わんとする事が解って顔を、背けた。

ローフィスの、情けない吐息を耳に、オーガスタスは笑って椅子を立ち上がり、滅多に見せない厳しい表情の親友の、肩を抱く。
「そんなに余裕無い程惚れてんのか?」

顔を背け、出す言葉すら無い親友の様子に、それでも笑顔を浮かべ、陽気に誘いかける。
「至上の幸福は袖にして、現実のくだらなさを思い出しに行こうぜ!」

ローフィスは肩を抱いて強引に部屋の外へと連れ出す、大柄な赤毛の親友を、見上げ睨む。
「女を、抱けって?」

「最高にくだらなくて、足も地に着くぞ?」
そう笑う、オーガスタスの朗らかな笑顔を見つめ、ローフィスは不本意ながら、親友の良く知る対処法に、頷いた。

「巨乳が抱きたい」
言うとオーガスタスがバン!とその背を叩く。
力自慢の奴の喝。は流石に痛かったが、それがエールだと、知っていた。

“しっかりしろ!
自分に流されず、いつかシェイルの結婚式に、胸張って兄として出席するんだろ?”

そう言った奴に、いつか聞いた。
“そんな日が来ると、お前は思うか?”
がオーガスタスは肩を竦めた。
“俺に解るか?
お前次第だ。
お前が自分の欲望と独占欲を制御し、シェイルが一人前に、成ると信じ続ければいずれそうなる”

ローフィスはただ、頷いた。
吐息が漏れる。
この、自分の中で暴れ狂う、シェイルを自分に繋ぎ止め機会あらば何時でも腕に抱き止め、愛でたい。と切望する獣を、飼い慣らす事を考えると。

オーガスタスはそれを知ってるから決まって煮詰まってると連れ出し、俺好みの金髪巨乳に逢わせ、つぶやく。
「シェイルの代わりは誰にも出来ない。と思い知る、良い機会だが勃たなきゃ相手に失礼だろう?」

それで俺は自分を取り戻す。
まるで妖精のように綺麗な…すんなりとした白い平らな、胸を忘れる為に。

それを独り占めしようなんて馬鹿げた考えだ。
そう自分を諫める為に。
一時の慰めに付き合ってくれる、優しい女の、胸の谷間に顔を埋める。

シェイルの泣き顔が浮かぶ。
“俺を、忘れるのか?”

だってお前を、本当に愛してる。
俺の独占欲で縛り付け、窒息させたくない程に。

シェイルには解らない。
“だって俺に取ってそれは幸福だ”

シェイルは自分が男だと、忘れたい。
けど…俺は誇らせたい…。
そのままの…ありのままのお前の姿を、恥じることなく。

もしお前がいつか、自分が男だと…胸を張ってられる日が来て…それでも俺が欲しければいつだって応えてやる。

でもシェイル。俺は本当は、最高に幸福で辛い。
女に成り代わり俺に抱かれながら幾度も…自分が男だったと思い出す度自分を惨めな出来損ないだと、泣きそうに顔を歪め自覚するお前を抱く事が………。

それしか選択が無く…自分がまっとうな男として生きる道は閉ざされてる。
そんな風に、諦めてるお前を見る事が…。

頼むから…そんな泣き顔はよしてくれ…。
お前にそんな顔されると俺は…たまらなく辛く成る。

人並みの幸福に見放され後ろばかり向いていた。
それでもう、十分なのにまだ…自分を恥じている。

いいから胸を張れ。
綺麗な男で居ろ。
恥じる、事なんか何一つ無い。

ディアヴォロスのような最高な男を跪かせた男として、堂々と胸を張れ。

そして頼むから…女に生まれたかった。そう嘆くのは止めてくれ。
頼むからそのままの自分を受け入れ、愛してやってくれ…。

俺が愛したお前を…決して疎んじたり、しないでやってくれ……。

シェイル、お前は健気で愛おしい…。
俺は死ぬまでお前を愛し続ける。だから…愛してやれ。
本当の自分を。

そのまま…ありのままの…お前自身を……………。

そして…諦めるな!
死ぬ事が生きる恐怖から逃れるたった一つの幸福だと…そう思い込む死んだ心を蘇らせた今…例え男に女の様に抱かれようが、自分が男だと言う事を決して恥じるな!

誰よりも可愛く、何よりも愛しいシェイル。
俺の全部をお前にやる。

だから…胸を張って生きろ!



 月が照らす、夜風の冷たい荒野を横を並んで歩くローフィスの心の叫びを、オーガスタスは知っていた。

辛いな。
奴だって餓鬼だ。
なのにシェイルの為にいつも必死で…大人でいようとする。

若く青い凶暴な獣を抑えつけ、年に似合わぬ分別を纏い…。
必死でシェイルに
『大丈夫だ』
と言ってみせる。

けどそれをする奴はいつも誇らしげで…オーガスタスはそんな無理するローフィスが、好きだった。

シェイルの前では何時も…何でも軽やかに擦り抜ける青年の顔を造る。

爽やかな…笑みを零して。

裏の顔をおくびにも出さず、精一杯の、はったりカマす奴の事が気に入ってる。
だからオーガスタスは、ローフィスの手助けをしようと、心に決めていた。

そんな自分の事をローフィスは知って居て…無言で頼ってくれる。

それは…良い気分だった。
奴の必要とされ…友達で居る事は。

 
 酒場のカウンターで酒を注文してる間に、テーブルに残して来たローフィスに三年のごろつきが近付くのに気づき、オーガスタスは長く跳ねた赤毛を肩で揺らす。

ローフィスは下げてた顔を、上げる。
いちゃもん付ける奴らに、ローフィスは外で話そう。と席を立ち掛ける。

「俺の親友に、何か用か?」
ふいに現れたオーガスタスに、その男達は顔を恐怖に歪めた。
自分達を殴り倒すくらい強い、四年の猛者の顔をぼこぼこに腫らし、自分は掠り傷一つ負わなかった怪物を目前にして。

陽気な態度と微笑み。
がその鳶色の瞳の奥がぎらり!と光る。

奴(オーガスタス)の中の野獣が、敵を前に暴れ出す機会を狙い澄ます。
「…酒場の余興に、俺も一役買うぜ?」
がオーガスタスのその一言で、ごろつき達はひっ!と叫び背を向け、逃げ出した。

ローフィスはそれを目で追い、正面に座る親友の顔を見る。
「折角のご指名だったのにな!」
オーガスタスは顔を下げた。
「…だって針を、刺すか、飛ばすつもりだったんだろう?
針先に、毒は塗ってないな?」

ローフィスは憮然。と言った。
「それっくらいの分別はある!」
尚も見つめるオーガスタスに、ローフィスは解ったよ!と怒鳴る。
「塗ったのは睡眠薬だ!」
オーガスタスはようやく、頷く。
「拳で殴られた方が、奴らに取っちゃ親切だぜ」

ローフィスは呆れた。
「あの、逃げ出し方を見ても、そう思うのか?
殴られる相手は俺じゃなく、お前なんだぞ?」
「だから?」
「虎やライオンくらいタチが悪いだろう?」

オーガスタスは気づいてつぶやく。
「そうかもな」
ローフィスは頷き、言った。
「庇って貰えて楽出来て嬉しいが、一度俺を相手にするとどうなるか、思い知らせて置かないとまた絡んで来る」
「そうだろうな…。
熱烈ご指名だもんな!」

ローフィスはやれやれ。と首を振る。
「奴らはディングレーが殴れないから俺で鬱憤晴らしがしたいんだ」
オーガスタスはぼやいた。
「つくづく、お前はモノ好きだ。
シェイルに…次はディングレーか?

秘蔵っ子のシェイルは別にして…放っとけないのか?
あんなデカイ面したガタイのいい王族の男前飼い慣らして、どうする気だ?」

ローフィスは注文した酒がテーブルに置かれるのを見て、グラスを取り上げる。
「あれで結構可愛い」
オーガスタスが、頷く。
「奴(ディングレー)の、同族でいとこのディアヴォロスがそう言うのなら解る」

ローフィスが吐息を吐いた。
「まあ…いつかお前もあいつと親しくなれば解る」
「気の毒だとは思う」
「グーデンの弟だから?」

オーガスタスは、たっぷり頷いた。
「あんな…育ちのいいデカい狼に、懐かれて嬉しいか?」
ローフィスはすましきって言った。
「親友に、最高にデカいライオンが居るから、どって事無い」

顔を上げるとオーガスタスは苦く無理して口の端を上げ笑い、ローフィスは心の底から、にっこり笑い返した。







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「アースルーリンドの騎士」
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オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
「二年目」のミラーサイトに成っちゃいました。
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