くる天 |
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『グランドピアノ 狙われた黒鍵』の調べ 〜お馬さん生誕記念日によせて〜 |
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2016年7月23日 19時48分の記事
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昨季レイのFPは、
映画『グランドピアノ 狙われた黒鍵』。
開始直後に見せる何かを頭上に放り投げる仕草は、一体放り投げられたのは何なのかというミステリーに相応しい問いを想起させるものの、しかし、敢えてサスペンス映画の曲を採用したとは思えない静かな立ち上がりで始まる。
放り投げた物の在処を探すが如く、要素の合間にところどころに、天を仰ぐ仕草を印象的に差し挟みつつも、むしろ起伏少なく淡々と進むこのプロの、私的最初の見せ場は、一本目のAに続く転調後のシリーズだ。
見えない犯人に翻弄される映画主人公のそれを救い上げたかのような、戸惑いと焦燥に満ちたそれは、見事に、レイ本人の、昨年の長いトンネルにも似た重く苦しい期間を連想させる。
個人的にはここが、このプロを採用した事の意味が最も強く押し出されている部分にも思うが、こうした重ね合わせはこのプロにおいてはむしろ控えめである。 そうした部分は全体に包摂され、それを含む曲のテーマを逸脱破壊する事をこそ、最優先した結果、レイの長い手足を最大限生かすという”命題”はマテュウに比べてやや後退し、また導入された動き自体も、ある意味身体表現においては定番のパターン化されたものが、マテュウに比して相対的に多い。 振付の目的の絞り込み、そしてその自由度・奔放さという点において、マテュウは『黒鍵のー』に一日の長だが、しかし逆にそれだけにミヤケンの上手さばかりが目立ったマテュウに比べこの『黒鍵のー』では、振付の妙よりもむしろ、その振付に命を吹き込むレイの表現の繊細さと深さが尚一層際立つ結果となった面がある事は否めない。
キムのガーシュインを彷彿とさせる、滴り落ちる水を追うような静謐さに満ちた表現は、最後まで曲のテーマと剥離する事なく、細やかに、表情豊かに語られ続けた。
それらは同時に、得てして観衆が目を奪われがちでありまたそれゆえに自らの目に蓋する皮相者が勢い声高に吹聴して回る単なる音ハメやリズム感、あるいはやたら忙しなく動き回るだけのガサガサした粗忽なプロや民族音楽という特異点とそればかりを先行させる話題性を以って表現の有無にすり替えるような表現についての議論を痛撃し、それらが如何に表現の本質を外れた紛い物であるかをも、言わず炙り出す物である。
そう、静的表現にこそその真髄は宿る。
このプロにおいてもそれは、アップテンポでない分、曲とのユニゾンのために求められる相応のリーチ、と言ったような技術的な部分を超えて、振付師の、曲の表題に忠実たれという要請に応えて、ひとつひとつの動きを丁寧にまた情感豊かにこなした部分にこそ存在した。
元々レイは表現巧者と言われる類の選手ではなかった。 それをここまで導き引き上げたのは、ミヤケンという優れた振付師との巡り合わせという幸運があったにせよ、技術的熟練あるいは表現面におけるBGMプロだけに決して満足する事なく、観客の心を打つ演技を模索し続けた本人の飽くなき情熱ゆえであり、そもそもそれなくしては、その眠れる才能を見事に開花させたミヤケンとのセッションそれ自体もなく、更には、その表現の深度を更に深めたこのプロもこの世には存在はしなかっただろう。
真に曲のテーマを掘り下げ体現する領域は、未だ片手に余るごく一部の表現者にのみに限定される未踏の地だが、その情熱は、負を正へと転じる精神的な強靭さと相まって、今やレイをして、その領域にさえ手をかけつつある事を予感させ、その思わぬ高みに目が眩みそうになる。
数々の鍵盤の超技巧を準えたジャンプ他の要素を交えつつ、やがてドラマはクライマックスへ。
遅咲きのマテュウに自らを重ね合わせたように今回もまた、挫折からの復活をモチーフにした映画音楽に、この選手の故障からの復帰の重ね合わせを垣間見る事は、あまりにも長く先の見えない重苦しい極寒の時代をくぐった本人とファンにとっては、限りなくささやかではあってもやはり愛すべき奇蹟の一つと呼ぶに相応しいものではないかと思う。
依然謎は残る。
プロ開始直後に放り投げられたものは一体、「何」だったのか。
手前味噌ながら、私だったら、フィニッシュのところで放り投げたものをまた掌に収めるマイムを入れるのに、とつい思ったりしなくもないが、仮に冒頭放り投げられたものが、自らを縛り戒め閉じ込めていた見えない檻の鍵の類であったらば、それを拾う必要はもはや、ない。
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