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幸せの言葉
[セフィルー]
2011年12月7日 0時8分の記事

■セフィルー:SWEET■
ほんの一言に、絶大な力があったりする。


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理由とか、意味とか、そういうのを欲しがる。
例えばそう、自分の存在理由とか。
一緒にいることの意味とか。

そういうものをいちいち欲しがる自分に、恐らくセフィロスは呆れていた。
恐らく、というか、ほぼ確定的に呆れていたのだ。
それは態度でも言葉でも分かる。

「おまえはいちいち面倒なやつだな」

「そうかもしれないけど」

仕方ないじゃないか。
ルーファウスはそう思った。

理由とか意味とか、正しいとか正しくないとか、そういう何がしかの「解」を求めなければ、とてもじゃないけれどやっていけないのだから。

これは別に、物事をいちいち哲学的に考えてるとか、そういうことではないのだ。
セフィロスのように…というか、セフィロスが世間一般と同一だとすれば世間一般のように、と置き換えることも可能だろうが、ともかくそんなように”いちいちそれらのことを考えなくともやっていける”ならば、それで良いのだ。そうできたなら、自分だってとっくにやっているだろう。

でも、できないから。
だからわざわざそれを口に出しているのだ。

それであるのにセフィロスは、そんなルーファウスを面倒だとか女々しいヤツだとか、その都度罵ったりする。
その都度ルーファウスは悲しく辛くなる。

「…こんな人間で、ごめん」

どうして自分が謝るのだろう。
それこそ意味も理由も分からないけれど、とりあえずルーファウスはそう謝った。
しかしセフィロスは依然として機嫌が悪いままである。



その日、二人は久々に食事などをした。
目の前の料理に舌鼓をうちつつ、これは美味いな、とか、これはどこの特産物で、とか、そういう他愛ない話だけしていれば、あるいは良かったのかもしれない。そういう、未来にさしたる問題も起こさないような、軽い話題をすることが、もしかしたらばベストなのかもしれない。

しかし、約二カ月ぶりにこういう時間を取れたことについて、そういう軽い話題だけして和めるほど、ルーファウスは強いわけでもなかった。

どんなに忙しいといっても、同じ会社で働いている。
住居の距離だって、驚くほど離れているわけではない。

会おうと思って、死ぬほど努力をしなければ会えないとか、それほどのものではない。
逆にいえば、そこそこ努力すれば、いつだって会えたはずなのだ。
それなのに、約二カ月、こういう時間がとれなかった。
その事実。

その事実が物語っているのは、わざわざ努力するほどのものではないのだろう、という事実である。

そう、きっとセフィロスにとっては、自分の時間を削って、意味だとか理由だとか面倒な話を繰り出してくるルーファウスと会うだなんて、努力するほど価値のあることじゃなかったのだろう。それであれば、一人でのんびりと夜の時間を過ごすほうが余程有意義なのだろう。

だからルーファウスは思っていた。
自分はきっと、セフィロスに好かれてなんてないのだろう、と。

しかし、そうとなると、この二カ月ぶりの食事が実現した”理由”が分からなくなってしまう。こんな食事に一体何の”意味”があるのだろうか。どうせそんなもの無いのだろう。

理由が欲しい。
意味が欲しい。
価値が欲しい。
愛情が欲しい。

誰だってそうだろう?
誰だって。

好きだから会いたいのだと、そういう理由が欲しいのじゃないのか。こうして会っていることにはちゃんと意味があるのだと言って欲しいのじゃないのか。この関係にはしっかり価値があると。何故ならば愛しているからと、そう――――誰だって、そう認めてほしいと思うことがあるだろう?

それの一体どこが悪いというのか。
それを感じ取れないから、不安で、不安で、だからこんなふうになってしまう。
こんな弱い自分は厭だと、何度思ったことだろう。
しかし、それが自分なのだ。

「…こんな人間でごめん」

「その台詞はさっき聞いた」

「うん。そうだけど…」

「いちいち謝るな。面倒だ。そもそも二カ月ぶりに会ったのにそんな憂鬱な話をされたくない」

「・・・変な理屈だな。二カ月なんて、適当な数値なのに」

ルーファウスはぼそりとそう呟き、シルバーをテーブルの上に置いた。
二カ月ぶりに会ったのに憂鬱な話をするな、だなんて。
だったら何故二カ月もの時間が空いたのか。

不安の募る心を偽って、自分の心に嘘をついて、それでも笑えというのか。
楽しい話、なんでもない話、そんなものばかりを紡いで、何もなかったようにしろというのか。
その方がよっぽどナンセンスじゃないか。
そう思った。



そう思ったけれど、笑った。





大好きな人との時間なのに、自分の心を偽って過ごす。何とナンセンスなことだろうと思うがそれでもそうしてその時間をやり過ごすと、さよなら、今日は楽しかった、と手を振って別れた後に、何だか無性に悲しくなってきたものである。

二カ月ぶりの食事は嬉しかった。
嬉しかったけれど、セフィロスの望み通りに何でも無い話題と笑顔で終えた時間は、ルーファウスの心を満たしてくれはしなかった。

悲しいとか、苦しいとか。
確かにそんなもの、誰も欲しがらないのだろう。

誰だって楽しくて愉快で簡単なものを欲しがる。そんなの世の中の理だ。
それは分かっているのだけれど。

でも――――ずっとこんなふうに生きていくのか?

そう思ったら、ルーファウスは無性に悲しくなってきた。
だって、常に自分とセフィロスとの間には埋めきれない溝があるみたいに感じたから。

これが幸せだというのだろうか?
これが?


――――よく分からない。


そう思っていた、その時。
ポケットの中で眠っていた携帯電話がぶるぶると震え、ルーファウスは反射的にそれを取りだした。

どうやら緊急電話というわけではなく、メールであったらしい。
ほっとしつつメール画面を覗き込むと、そこには意外な文面があったものである。

一瞬、信じられなかった。
だってそこには、セフィロスからのメッセージがあったから。
こんなことは滅多にないというのに。

しかもそこには、こんなことが書かれていた。



”スマナイ、アイシテイル”、と。



「・・・何だ、これ」

今迄、一回だって聞いたことがない。そんな言葉は。

理由とか、意味とか、そういうのを欲しがっていた自分を、セフィロスは知っていた。それなのに今までそんな台詞は聞いたことがなかった。

しかし今それは、こんな素っ気ない一通のメールの中に存在している。
その一言、たった一言が、理由も意味も存在意義も、一緒にいる理由も全て、包括してくれるのだ。


「都合のいいやつ・・・」

ルーファウスは霞む視界の中でそう呟くと、そっと携帯を握りしめた。
それは、いつもいつも感じていた渇望と、そして劣等感が、氷解していく瞬間だった。


たった一言。
たった一言だけなのに。



人はそれを、幸せと呼んだ。






END

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