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武漢ウイルスの前にアジアをどん底に叩き落した「SARS」も中国発である。また中国国内でとどまってパンデミックとならなかった奇病などは枚挙に暇がない。中国は経済大国ではなく、疫病大国なのだ。(1)
[森羅万象]
2021年7月28日 8時46分の記事



『バイデン大統領が世界を破滅させる』
親中に傾く米国と日本に迫る危機
宮崎正弘  徳間書店   2020/12/19



<「暗黒の4年」が始まる>
<消去法で選ばれた男>
・世界的に感染が拡がり未曽有の疫病災害となったが、当時の情勢から判断して、チャイナ・ウイルスがなければトランプの圧勝となるはずだった。それというのも「武漢コロナ」以前までジョー・バイデンは泡沫候補にすぎなかったのだから。

<大戦末期と酷似>
・舌の根の乾かぬうちに、もううそをつく、世界では「暗黒の4年」がこれから始まるのではないかと筆者は考えている。いやそれどころか、バイデン政権が自由世界そのものを破滅に導いてしまうのではないかという危惧さえも抱いている。 その「バイデン・ショック」が日本を揺らすことは間違いない。南シナ海では力による現状変更という前科をもつ中国は、太平洋進出へのドス黒い欲望を隠そうとしていない。バイデン新大統領の誕生は、日本が中国に侵略される危機的状況ともいえるのだ。

<ジョー・バイデンの履歴書>
・その後、バイデンは36年の長期にわたって上院議員を務めた。議員歴が長いだけが取り柄で、ほかにこれといった政治的業績は聞いたことがない。ただし、ワシントンという特殊な政治都市の雰囲気、その社会での遊泳術は心得ている。
 アメリカ議会議員はシニオリティ(先任権の意味で、議会においては当選回数による序列)で部会の委員長を務めるが、日本の国会と異なり「委員長」は大きな権限をもつ。法案審議をするか、しないかも委員長の裁断によるの、バイデンは上院の外交委員長を務めて、知らないうちに議会の重鎮となっていった。

<既成事実を積み上げる>
・2020年のアメリカ大統領選挙はアメリカ憲政史上でも未曽有となる混戦、乱戦となったが、開票作業についても膠着状況が続いた。開票から数時間はトランプの圧倒的な優勢で進んだが、後半に入ると激戦州でバイデンが逆転する現象が起こった。

<トランプ敗北を喜ぶ者たち>
・しかしトランプ敗北によってもっとも高笑いしたのは、米国内で「反トランプ」策謀を巧妙に続けてきたディープステート(影の政府)だ。
 この「ディープステート」という用語はトルコでつくられたもので、諜報機関、軍事、治安、司法、組織犯罪の高レベルの要素で構成されるシステムであるとされる。

・選挙によって選ばれるワシントンが、市民にとって「見える政府」であるのに対して、ロフグレンはアメリカ国内のディープステートを、
「選挙という正式な政治プロセスを通じて表明された有権者の同意に関係なく、アメリカを効果的に統治することができる政府機関と、トップレベルの金融および産業の一部企業とのハイブリッドな協力体制を意味する」
 としている。トランプ政権では「ディープステート」がトランプを弱体化させたい民主党寄りの官僚の略記として使用された。ロフグレン的な意味でも、トランプ的な意味でも「ディープステート」にとって「居眠りジョー」は「操り人形」で、その「操り人形」を「操る」ためにトランプ政権成立前から動いていた。

<ポピュリズムを扇動したメディア>
・アメリカのメディアもまた「ディープステート」の一角だ。ほとんどがリベラルで民主党支持だから、その書き方は最初からバイデンの応援どころか「当選確実」というトーンで、報道の公平性からはほど遠い有様だった。

・このことで予測できるのは、バイデン政権が誕生しても、民主党の思いどおりに政治が実践できないということである。外交、軍事、予算を握る上院で共和党が辛うじて多数派を獲得するため、多くの法案成立は困難になるだろう。

・バイデン時代が訪れることで、日本にとっての最大の問題は米中関係がどうなるかである。オバマ時代を考えればバイデン外交は親中、反ロシアになることが濃厚だ。投票日を目前にして明らかにされた息子ハンター・バイデンの醜聞は、リベラルなメディアが大火事になる前に「報じない権利」をふんだんに利用して揉み消した。

<無知日にして反日>
・オバマと中国の蜜月関係は有名で、異母弟は中国政府が新たな金融センターにしようと力を入れている深圳市のイメージ大使だ。また2020年6月には、バイデンがペンシルベニア大学傘下に設立した外交公共関係の団体ペン・バイデン・センターが、中国からの数千万ドルの寄付金を公開しなかったことが明らかになった。

・訳せば、「日本が核兵器を持てないように、われわれが日本国憲法を書いたことをトランプは知らないのか? 彼はどこの学校にいたんだ? この判断力が欠如した人物を信用できる人間はない」ということになる。
 そもそも非核3原則は憲法条文ではない。長く外交畑を歩いてきたにもかかわらず、バイデンは驚くほど日本に無知であり、かつ反日的だ。
 いくらバイデン本人と取り巻きが中国とズブズブだからといって、ワシントンの政治は「中国は仮想敵国」という方向で収斂している。そのワシントン遊泳術にだけは長けたバイデンだが、いくら反日的だからといって、中国との防波堤になる日本を敵にまわすような選択をすることは考えにくい。

<ハンター・バイデン・スキャンダル>
・バイデンのアキレス腱といえるのが、息子、ハンターだ。
 大きく二つ、金銭についての爆弾がある。一つがウクライナ、もう一つが中国についてである。
 ハンターは2012年から米海軍に入隊して予備役将校に就いていたが、翌2013年にコカインの薬物検査で陽性反応が出て除隊処分を受けている。

・ハンターは、オバマ政権の国務長官、ジョン・ケリーの義理の息子で、ケチャップで有名なハインツの御曹司であるクリストファー・ハインツと大学時代から知人であり、そのハインツの大学時代の友人のデポン・アーチャーと3人で、2009年にローズモント・セネカ・パートナーズを設立している。
 以降、3人でつるみ、父親の威光を使ってビジネスに腐心していた。

・またバイデン訪中から12日後に、上海で「渤海華美股権投資基金管理有限公司(BHRパートナーズ)」というファンドが法人登記されている。このBHRパートナーズの株をハンターは10%保有し、上海での登記当初から取締役を務めている。

・また、前出のデポンはウクライナでビジネスをしたことをきっかけに、ウクライナの天然民間ガス会社、ブリズマの共同設立者ミコラ・ズロチェフスキーと接点をもつ。2014年にデボンがブリズマの取締役に就任すると、同年にはハンターも同社の取締役に就任。

・その2019年に発生した「ウクライナ危機・ウクライナ東部紛争」に、バイデンが積極的に関与したのはこの利権があったためだ。クリミア危機はロシアの勝利に終わり、アメリカはこの失敗を挽回しようとロシアに強力な経済制裁を発動し、ロシアをG8から追放した。
 父、バイデンがカネでアメリカの外交を売ったことについては疑惑のままとされてきた。ところが2020年アメリカ大統領選挙の投開票直前の2020年10月20日、「ニューヨーク・ポスト」がハンターが所有していたパソコンのハードディスクの内容を公開した。パソコンは2019年4月にバイデンの出身地であるデラウェア州の修理店に持ち込まれたものだった。

・ところが、この大スキャンダルを、ほとんどのメディアは事実関係が不明であることを理由に報道しなかった。SNSでも同様の理由で、ユーザーの書き込みが削除されるなどした。だが、トランプに同様の疑惑がもちあがれば「事実関係が不明」でありながら報じつづけられ、SNSは大炎上する。

<ゴマすりに失敗すれば企業は例外なくつぶされる>
・孫大牛という中国人実業家がいる。ソフトバンクグループCEOの孫正義と姻戚関係はない。孫大牛は日本では無名だが、中国では飛び抜けて著名な実業家である。
 孫大牛は貧困から身を起こし、小規模な養鶏事業に着手、やがて牛、豚、養殖産業から、観光、医療にも進出し、グループの従業員は約9000人。
 無名の農民から出世したのだから庶民の尊敬を集める。
 ところが民間の成功者ほど中国共産党にとってうとましい存在はない。

・だからといって、こうした集団が、民間企業の合理的で効率的な経営を真似ることはない。代わりにうとましく嫉妬し、あげくにつぶそうとするのが、共産主義の常道的なやり方だ。共産党になびき、常に忠誠を誓い、幹部に賄賂を届ける民間企業なら重宝もされる。だが、歯に衣を着せずに共産党的な非効率経営をちょっとでも批判すると逮捕されるのだ。
 庶民の英雄だった孫大牛も、このような共産主義の被害にあうことになった。共産党批判をネットで行っただけで、6カ月の営業停止と罰金1万5000元の処分を受けたのだ。2020年5月には、クラウドファンディングの農村版ともいえる「講」形式で新事業展開の資金を農民から集めようとしたところ、違法だと難癖をつけられ逮捕されたのである。

・こうやってつぶされた民間企業は山のようにあるが、アリババとて当初は江沢民、胡錦濤政権にさんざんゴマをすって大きくなったのである。大連の実徳集団や幇達集団も、あるいは香港を拠点にして急成長をとげた明天証券も、権力者が代わりゴマすりのタイミングに失敗すると冤罪をでっち上げられる。唐突な会計検査、税務調査が入り、取り調べを経て全財産を没収されるのがパターンだ。

<官製半導体バブルは早くも崩壊>
・かように共産主義社会での「健全な資本主義経営」は難しいものだが、再び共産主義的振興策の顛末を眺めてみよう。
 米国の制裁を受けたファーウェイがインテル、クアルコムばかりか台湾のTSMCからも半導体の供給を受けられなくなったため、中国国内半導体メーカーであるSMICがその代替供給企業となった。

・2020年12月の時点でSMICが製造している半導体は、よくても一世代前のもの、多くが二世代前の半導体だ。これまで最先端の半導体については輸入に頼っていて、中国が年間に外国から輸入してきた半導体の総額は約3000億ドルに達していた。サプライヤーで潤った筆頭は台湾のTSMCだが、米国の制裁以後は、中国企業への供給もぷっつんと切らして、TSMCの軍事部門の半導体工場はアメリカへ移る。

・中国政府による半導体バブルは早くも崩壊しているのが現実だ。この米中激突の半導体戦争が大きく影響して、日本では2020年9月28日に、キオクシアが10月6日に予定していた新規株式上場を見送った。
 米中激突の衝撃波は日本にも襲いかかっている。日本企業への影響はかなり深刻で、問題は半導体そのものよりも半導体製造装置にある。

・しかしバイデン時代に突入してどうなるのか。バイデンはトランプの行った中国への関税政策の「一部見直し」を公約していた。その「一部」がどの規模になるのかはいまだわからない。バイデンは息子、ハンターの金銭スキャンダルというアキレス腱を中国に握られている。

・日本政府は半導体産業を「産業のコメ」として、旧通商産業省(MITI)が主導するかたちで政府補助金と育成予算を出していた。アメリカが日本のMITIを蛇蝎のごとくに憎み、攻撃したのも昔の物語になった。日本はこのような大事なときに最先端産業分野に対して政府資金の効率的分配ができず、ますます技術力で台湾、韓国、そしてアメリカに水をあけられている。
 バイデン時代到来で、産業政策の抜本的見直しが喫緊の課題となっている。

<中国国家統計局は「嘘の伏魔殿」>
・中国国家統計局が、「2020年第3四半期のGDP成長率が前年比4.9%に回復した」と、発表したのは2020年10月19日のことだ。戦時中の大本営発表に似て、信じてはいけない数字である。

・しかし中国国家統計局なる部署は、何を隠そう「嘘の殿堂」だ。
 前局長の王保安は数字改竄の常習犯で、2016年1月下旬に突如失脚した。巨額の賄賂を受け取り、愛人と欧州への逃亡を企てて偽名を使い分け、ファーストクラス4枚分の航空券を用意したうえ、偽パスポートを保有していた。すでに中国当局の監視対象となっていた王保安は、役所での会議を終えて車で逃亡寸前に逮捕された。愛人も空港で逮捕されたのだが、この事件は中国国家統計局がいかに腐りきった体質であるかを如実に物語っている。
 中国国家統計局による公式発表の裏面にある赤字の増大に関して、中国当局が覚知していないかといえば、そんなことはなく、ただ目をつぶってきただけだ。

<失業者が溢れる「好景気」の不可解>
・都市部の調査失業率が5.4%(2020年9月)という中国国家統計局による発表も、人工的に操作された「低すぎる」数字で信用に値しない。
 あまりにも現実と乖離しているとする根拠は大きく二つある。
 第一に、たとえば失業によって農村から都市部へ来ることを「出稼ぎ」として、「失業者数」に計上していない。このような潜在失業者は、低く見積もっても1億人を超えていると考えられている。
 第二に、新卒者の就労事情が悪化していることだ。
 2020年の中国の大学新卒は約874万人。脅威の数字だが、「まともな職」あるいは「希望する職」につけたのは3割前後しかおらず、残りの新卒者は中小零細、現場労働に散る。

・それでも職を得られたのは幸運であり、残りは詐欺行為や五毛幇に走る。五毛幇は日本のネットスラングで「五毛党」と呼ばれ、中国政府に有利な書き込みをすると1回ごとに報酬が5毛(約8円)もらえたことからこの名がついた。
 それでも20%が就活中、すなわち、「失業状態」である。この数字のうえに「海亀派」と呼ばれる海外からの帰国組が加わる。就労状況も悲惨なことになっている。

・2020年4月7日に日本政府が決定した「2020年度補正予算」にはコロナ禍を受けての経済対策が盛り込まれた。その一環として「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円、「海外サプライチェーン多次元化等支援事業」として235億円が計上されている。
 マスクや手袋など医薬品を中国に依存していたことから、中国政府はコロナ禍を利用して「マスク外交」を始めた。予算内に「中国」を名指ししていないものの、影響力拡大のために平気で人命も利用するチャイナリスクの恐ろしさにようやく気がつき、脱中国を促すことが目的の費目だ。
 中国に進出した日本企業はその申し込みに殺到し、中国撤退第一陣として選ばれた87社に、574億円の移転補助金が出た。第二弾では、2020年7月末までに中国撤退を表明した日本企業は1670社。移転補助金の合計は1兆7600億円となる。

・将来の中国ビジネス展開にリスクと縮小が予測され、日本企業にも中国市場にとどまりつづけることが不安視されているのだ。一方で、トヨタを筆頭に70%の日本企業は中国にとどまるとしている。バイデン時代を迎えて、こうした日本企業が平穏でいられるかはわからない。

<国有企業が相次いでデフォルトに>
・2020年11月16日、中国の中央銀行にあたる中国人民銀行が、金融政策ツールの「MFL(中期貸出ファシリティ)」を通じて8000億元(12兆8000億円)を市場に緊急供給したと発表した。じわりと金利が上昇するほどの巨額投入である。
 理由は国有企業大手の連続的なデフォルトだ。日本のメディアは大きく報道しないので知らない人が多いけれども、中国では企業倒産が急増しているのである。
 たとえば、独BMWのパートナーである「華晨汽車」が、2020年10月23日にデフォルトに陥った。名車BMWも、こうなると評価に傷がつくだろう。

<鳴くオウムを食べる>
・日本国内のメディアが引用のかたちで伝えている、「中国は好景気」という中国報道が信用できないことは明らかだ。
 実態として中国経済は断末魔に近い。
 アメリカの制裁に対する駆け込み輸出入を行い、内需を喚起しても戻らなかった。2030年には4万キロメートルにすると豪語している中国の新幹線事業の現在までの累積債務は82兆円である。この一例だけではなく、嘘の伏魔殿が発表するGDPの真相はマイナスである。中国政府は株式と不動産相場を人工的に支え、銀行倒産を黙認しはじめた。
 とはいえ、筆者の読者の一人で中国と対峙している日本の防衛関係者から、「先生に中国がつぶれると繰り返していただけているのはとても励みになりますが、簡単につぶれてはくれないのです」
 とこぼされたことがある。中国ではカネが不足すれば人民元を刷って「謎の資金」が国有企業に投入され、政府の命令により強制的にカネを循環させる。当然、経済の歪みが生まれるのだが、中国国家統計局を頂点とする「嘘の伏魔殿」が連なってそうした問題をなかったことにしてしまう。

・トランプ政権から始まった米中貿易戦争の象徴は、ファーウェイとZTEをアメリカ市場から排除したことだった。
 貿易戦争の第一幕は、高関税をかけあうことでサプライチェーンの改編が促された。第二幕は、5GとAIを巡るハイテク覇権争奪戦で、これによって大々的なスパイ駆除がなされた。そして、第三幕が金融戦争である。

・トランプの中国制裁は、中国に内在していた基本的な諸問題をより深刻化させた。
 第一に、かなり控えめに推測しても、中国が抱える債務残高が9900兆円に達している点だ。このうち何%が不良債権なのかは誰もわからない。
 第二に、中国政府は外貨準備について約3兆ドルを基準に前後していると主張しているが、実態はゼロに近いという点だ。
 第三に、対外債務が急速に不良債権化している点だ。

・第四に、地方政府が発行した債券のほとんどに対して、債務不履行の危機が迫っている点だ。

・第五に、「ドル建て社債」が償還を迎えているにもかかわらず、その返済が絶望的な状況にある点だ。

<自宅に火を付けて焼け太りする放火犯>
・中国不動産企業の黄昏もリアルに迫っていて、大手「恒大集団」の社債償還は絶望的になった。不動産開発会社「碧桂園」は82%、大手デベロッパー「万科集団」は76%と恐ろしい負債比率数字が並んでいる。
「第3四半期は4.9%成長、中国は『V字回復』」という中国政府の発表は真っ赤な嘘で、いわば政治宣伝だということがわかるだろう。
 ところが、習近平は中国の状況を逆方向へ回天させている。香港国家安全維持法による「一国二制度」破壊で、香港の国際金融の自由都市としての価値は崩壊した。
 このことでドルによる起債、ドルの調達、ドル送金は今後ますます縮小し、香港から外資が逃げ出すだろう。ドル社債の起債も海外送金もできなくなると人民元はドルの交換ができなくなるが、その日は案外近いかもしれない。

<中国共産党と悪性がん細胞の類似点>
・林健良『中国癌との最終戦争』(勉誠出版)によれば、現在のあらゆる疫病の元区は中国にある。不衛生、毒性の土壌、不潔な住民、毒素の強い食べ物、汚染された河川――とくに家畜と同居する生活習慣は、動物にしかかからないウイルスがヒトに感染するウイルスへと進化させる培地になる。この「天然の生物兵器生産工場」によって疫病を常に培養してきたうえ、それを諸外国へ輸出してきたのだ。
 武漢ウイルスの前にアジアをどん底に叩き落した新型コロナウイルス「SARS」(重症急性呼吸器症候群)も中国発である。また中国国内でとどまってパンデミックとならなかった奇病などは枚挙に暇がない。
 中国は経済大国ではなく、疫病大国なのだ。
 著者の林健良氏は医師ゆえに医学の見地を取り入れながら、人類の敵である中国共産党がつくりつづけている生物兵器に関しての豊富な知識も持っている。
 がん細胞について林氏は、
・正常な細胞同士は、自分に必要な栄養だけを摂取するという共存共栄の秩序がある
・ところが、がん細胞はその共存共栄の考えをもたず、必要以上の栄養を摂取して他の細胞を押しのけて増殖する
・悪性であるがん細胞にも性質が良いものと悪いものがあるが、悪性であればあるほど増殖速度が速いため、周囲の正常な細胞を食い荒らしてさらに増殖を続ける
 と解説しながら、

・「自分だけが巨大化する癌細胞の略奪行為には際限がない。(いわば)軍拡、勢力拡大、資源戦争などに狂奔する」
と説く。中国共産党が支配する中国の姿は凶悪ながんそのものということだ。米国は、この悪性がんを世界から取り除く決意をした。日本は悪性のがんの拡大にさえ、まだ気がついていない。凶悪ながん細胞である中国共産党がどのように世界に浸潤、転移していったのかを見てみよう。
 人民元という自国の通貨や、中国共産党がつくる社会を信用していないのは、他ならぬ共産党の幹部たちだ。そこで共産党の幹部は、アメリカで出産して子どもに米国籍を取らせたり、子女を欧米へ留学させたりする。中国共産党中央委員の直系親族の92%が欧米の国籍を所有している。中国の省部級幹部の子女のうち75%がイギリスの永住権あるいは米国籍を所有しており、孫の代になるとその91%が米国籍だ。

<米政権の寄生虫たち>
・政権が交代しても、このようなパンダ・ハガーが寄生虫のごとくアメリカの中枢に食い込みつづけていたのだ。
 トランプはパンダを駆逐する方向に舵を切った。
 2020年10月1日、国土安全保障省傘下の市民権・移民局は、共産党や全体主義の政党に所属する外国人の、アメリカでの永住権や国籍の取得の許可を認めないという新指針を発表した。

・2018年までの累計で、アメリカへ移住した中国人は250万人あまり。メキシコ、キューバに次ぐ第3位で、全移民の5.5%を占める。2018年単年度だけでも6万7000人の中国人がグリーンカードを取得した。ちなみに、グリーンカードを取得している中国人の総数は49万人と推定されている。
 当初、トランプ政権は「中国共産党員の『入国』を認めない」としていた。しかし、ビザ申請時のチェックで、共産党員を識別することは不可能だ。検討した結果、「移民を認めない」という方針に後退したものの、画期的な措置だと評価できる。

<「経済制裁」もパクった>
・しかし、これまでにも中国は、あえて法律を成立させずにフィリピンからのバナナを税関でとめ置いて腐らせたり、日本にレアアース供給を中止したりした。オーストラリアの首相、モリソンが武漢ウイルスについての独立調査を求めて以来、中国はオーストラリアに嫌がらせを始めた。オーストラリア産の牛肉などを輸入停止にして豪産ワインに220%の関税をかけ、石炭を港湾に放置して通関させないようにしている。
 中国は「輸出入」を外交戦略の武器として、西側のアキレス腱をつき、貿易交渉を中国有利に押し戻す狙いがある。そのアキレス腱の代表格が「レアアース」だ。

<バイデン時代に日本はどうする>
<21世紀型の地政学>
・地政学とは、大きく言えば地理と戦術の関係を明らかにして、戦争の準備と戦争のやり方を教える学問と言える。地政学は戦争準備が安定を支える抑止力となることを教える。

・この海洋戦略をいち早く理解したのがイギリスで、イギリスは7つの海のチョーク・ポイントを抑えるように各地に植民地をつくり覇権国となった。逆に、この海洋戦略を理解できなかったスペイン、オランダは後退した。
 第ニ次世界大戦後は、イギリスの覇権を継いだ米海軍が、空母の戦略的展開にチョーク・ポイントを利用している。

・「リムランド」は、マッキンダーが指摘した「ハートランド」を覆っている。すなわちスパイクマンは「ハートランド」を防衛するためには、「リムランド」を防衛しなければならないとした。またスパイクマンは戦争形態の変化から「エアパワー」の重要性も説いている。
 アメリカは、「リムランド」に位置する国と同盟関係を結んでいるが、このリムランド理論と「エアパワー」が今日のアメリカの国際戦略の基礎となっている。
 大陸国家である中国は、これまでの地政学とは無縁の存在だった。

<「核」から「宇宙」へと移る地政学>
・しかし新たに戦場となっているのが、宇宙空間である。
 偵察衛星、観測衛星、通信衛星、気象衛星などおびただしい衛星が宇宙に浮かぶ。日本人が身近に感じているのは気象情報とグーグルの地図情報だろう。安全保障と直結しているのに、日本人の多くは国家の防衛と宇宙を結びつけて考えないのだ。
 
・ここまで状況が激変すると、マハンもマッキンダーもスパイクスマンも古典的地政学となる。いずれ新たに宇宙地政学が考案されるだろう。
 実際に中国の戦略は既存の陸海軍戦力で出遅れた軍事劣勢を、いきなり宇宙で挽回しようとする方向に傾いている。
 中国は国を挙げた軍事力躍進という富国強兵政策によって、短期間でキラー衛星の実験に成功した。つまり英米EU、日本が打ち上げている衛星を打ち落とし、通信機能を無効にできるというパワーを手に入れたのだ。

・いずれサイバー空間の地政学も生まれるだろう。
 日本がこの技術的優位を交渉とつなぐ武器として外交に活かせる知恵があれば、またまだ大国の一員として振る舞えることは可能だが、現代に日本人はそうした発想さえ浮かばないのである。

<伝統を守る重要性>
・日本人は戦後民主主義教育によって共同体意識を久しく忘れてきた。我だけが良く、他人は放置して顧みないというエゴイズムが間違いであることに気がついているだろうか。人のために生きるという意味は、戦いを避ける、争いごとを治めるということなのである。

・15世紀なかばからスペインは南米を征服しはじめたが、南米ではスペインがもちこんだ疫病によってばたばたと先住民族は死んだ。その恐怖が語り継がれて、都会からきた部外者が疫病を運んでくると信じている。麻薬密売の取り締まりが主任務だった地元警察は、外部の侵入者を防ぐために村の入り口にバリケードを築き、出入りを入念に警戒した。
 鎖国をしてでも伝統を守る決意を示したのだ。

<バイデン時代にあるべき日本人のあり方>
・ここまでバイデンの人柄、政権に関与する人間、その思想、過去などについて記述してきた。そのバイデンが率いるアメリカとの絆をさらに強く、さらに深めようとする発想は、日本から文化の独自性を守るという発想を失うことと同じである。「バイデンのアメリカは、いかなる世界秩序をもたらしてくれるのか」と期待する言葉がメディアに踊るが、それは「期待」という名の他律的な発想、すなわち無責任な他力本願だ。
 常に情勢の変化に対応するしか能のない政治と、アメリカの定めたルールを疑いもなく受け入れつづけてきた戦後の日本にあって、いまこそ古来あったはずの日本的自立性が求められているのである。

・非営利法人の「言論NPO」が実施した「第16回日中共同世論調査」の結果が、2020年11月17日に発表された。実に90%の日本人が中国にネガティブな印象を抱き、「好ましくない」と回答しているのだ。同じ設問で中国人に調査をした結果、日本を好ましくないと回答したのは52.9%だった。
 この、中国を好ましくないとする世論調査は過去20年近く高止まりしたままで、2005年の反日暴動以降、ほとんど変化がない。

・この路線を踏襲する習近平は、「いつでも戦争ができる準備をせよ」と軍に命じつつ、外交的には「中国の平和路線」と矛盾したことを平気でうそぶき、権力を固めている。
 いったい、この政治体制のどこにマルクスの革命理論があるのか。
 ところが、それでも日本では政財官界をあげて中国との友好関係を維持し、これからも発展させることが重要だとしている。与党と公明党の連立政権は中国の独裁者、習近平を国賓で来日させようと画策し、また財界の多くは中国が日本の貿易相手のナンバーワンであるとする。

・「中国はすべての人間を犠牲にしてしまっているのです。国家資本主義は民主主義的資本主義よりも有効です。しかし、文化的にもイデオロギー的にもこの2つのシステムは水と油です」



『中国でいま何が起きているのか』
米中激突、香港デモ、経済ショック………激動の中国社会を現地レポート
邸海涛  徳間書店   2019/10/31   



・頻発する子供誘拐、農村の深刻な貧困状況、暴力化する若者まで、
日本では報じられない中国の「新たな現実」をレポート

<5000万人失業予測とリストラの嵐>
・森峰主任は、米中貿易戦争の激化によって中国に860万人の失業者が発生すると言っているが、この「失業者」が誰のことを指しているかは不明である。
 中国では、戸籍が農村出身である者は失業者統計に入らないため、実際の失業者はもっと多くなる可能性が高い。
 数年前、中国のあるネット記事では、これから中国では5000万人もの失業者が発生すると推測していた。その執筆者によれば、2014年時点で中国の民間中小企業の従業員は約1億5000万人で、もし5年以内にその3分の1が破産すれば、5000万人が仕事の場を失うことになる、というわけだ。もしも半分が破産すれば、7500万人が収入源を断たれる。

・日本では経済産業省や商工リサーチなどが年間倒産件数をまとめているが、中国にはそうした統計数字がない。しかも、中国の民間中小企業の寿命は3〜5年という通説が定着しており、倒産はありふれた現象である。

【2019年初、重大な警告】
・学習会のテーマは、中国がいかに危機を乗り越え、重大なリスクを回避するかというもので、習近平主席がみずから開会式に出席して重要な講話を行った。
 習主席は、「中国はいま政治、イデオロギー、経済、科学技術、社会、外部環境、党の建設などの領域において重大な危機に襲われている」ことを認め、「ブラックスワン(黒い白鳥)」と「灰色のサイ」が現れるのを強く警戒しなければならないという認識を示した。

<「マイナス成長」を示唆した大学教授>
・向松祚教授の演説の要点は、次のとおりである。
2018年は、中国にとって尋常ではない1年だった。中国経済の落ち込みが激しいからだ。
米中貿易戦争については、誤判断があった。アメリカを甘く見すぎていたのだ。
民間投資が大幅に減少している。経営者たちがひどい目にあう事件が起こっている。2018〜2019年にかけて、私有制を廃止し、民営企業を退場させるといった類いの議論が横行している。
中国経済の下降局面は長期間にわたって続いていく。
2018年の社債の不履行は、合計1200億元(約2兆円)を超えていると思われる。国有企業を含めて多くの企業が倒れかかっている。
株式市場はかなり悪化している。1929年のウォール街の崩壊を彷彿させるほど、数多くの株式がピーク時から8割、9割も下落している。
ブラックスワンと灰色のサイは身の周りにたくさん存在している。金融詐欺事件や社債デフォルトは立派なブラックスワンで、不動産はもっとも大きい灰色のサイである。
中国はすぐにでも三つの改革を行わなければならない。それは税制改革、政策改革、国家改革である。企業減税を実施し、政府の機構を簡素化し、その権限を減らす。中国の最大の問題は、社会統治コストがあまりに高いということである。
 
<30年間で驚異的な物価変動>
・以下は主婦たちがまとめた1988年から2018年までの30年にわたる、中国の物価変動の比較表(北京、上海、広州、深圳などの大都会)であるが、庶民の日常生活に密接にかかわる物価が異常なほど暴騰していることがわかる。なお、学費は小学校から大学までを含む。
米  1988年0.12元/500g  2018年4.4元/500g  36.66倍
白菜 1988年0.02元/500g  2018年1.8元/500g  90倍
豚肉 1988年0.7元/500g  2018年17元/500g   25倍
学費 1988年140元     2018年約15万元    1071倍
病院 1988年0.98元/平均1回 2018年90元/平均1回 91.8倍
住宅 1988年10元/月平均家賃 2018年1500元/月最低家賃(郊外)150倍

 では、庶民の収入は、この30年間でどのくらい変わっただろうか。
 1980年の都市部における平均月収は64元だったが、1989年には161元に上がった。
 30年前の1989年の平均月収を基本に考えると、現在、月収4000元の場合は24倍、6000元の場合は37倍、1万元の場合は62倍となる。
 現在、中国の一般庶民の平均月収は4000元近辺だから、この物価変動倍率に照らせば、この30年では物価上昇のほうが大きく、月収1万元でも決して楽な生活ではないことがわかる。

・現在では、交通が不便な郊外の新築住宅を購入する場合でも、最低200万元はかかる。平均月収の500倍、年収の41年分だ。都心では300年分以上にもなるだろう。
 食、教育、医療、住宅は庶民の暮らしの基本だが、それがネックになると、庶民は暮らしの豊かさを実感できなくなるだろう。
 中国の農村部では、医療費が高くて農村は医者にかかれないことが多い。骨折でも医者には行かない人が少なくない。1回重病にかかっただけで、30年間にわたって貯めてきた大事な貯金が底をつき、家族全員がきわめて厳しい貧困生活に陥ったという悲しい話がよく聞かれる。

<「環境保全」「長江経済帯」で失業者が続出>
・2019年1月10日、中国農業農村部は、「ここ数年のあいだ、多くの農民工が都市を離れて故郷に戻り、農産品加工・流通、地方観光などの新事業に取り組んでいる。この数は780万人にも達している」と発表した。

・筆者は、帰郷した農民工は、政府発表の2倍はいるのではないかと思っている。また、景気悪化が原因の失業もあるが、政府の命令で、環境保全のために工場が強制閉鎖され、その結果、職を失うケースも多くある。失業者の割合としては、半々という感じだ。

<所得税を払っているのは14人に1人以下>
・中国人の消費が低迷している理由はさまざまなだが、中国人の中産階級は、海外から想像されているほど豊かではない。

・中国で貧困層が想像以上に多いことを示す、もう一つのデータを紹介しよう。
 中国メディアが報じた統計によると、中国での大卒者人口は総人口の4%以下にすぎず、労働力は7億人以上あるが、個人所得税を支払っているのは6000万人しかいない。すなわち、労働者14人のうち所得税を支払っているのは1人だけということだ。
 ということは、中国での個人所得税徴収の最低基準額は月収3500元(2018年10月に5000元に引き上げられた)からとなっているが、平均的に中国人の月収がそれを下まわっていることを意味する。

<自己破産法がない中国で起こるカタストロフ>
・前述したように、中国では現在、家計債務が急速に積み上がっている。すでに50%を超えた中国の家計債務の対GDP比だが、これについて「20%から50%の水準まで、アメリカは40年間かかったが、中国はわずか10年間で調達した」ともいわれており、その増大スピードはかつてないほどである。
 このような状況下において非常に危険なのは、中国には自己破産法がないということだ、これは重大な制度的欠陥だ。
 
・先進国では、いずれも自己破産法が確立されているが、中国にはこの制度がないのだ。
 そのため、中国国民は破産しても、残債があれば死ぬまで借金の返済を続けなければならない。農村部では、その返済義務が借主の子供や孫の代にまで継承されていくことも多い。
 中国では住宅価格が高騰したため、失業者が大量に発生すると、住宅ローンが返済不能となり破産するケースがいちばん目立つ。

<返済能力の限界へ到達しつつある中国の家計>
・上海財経大学は2018年に中国家計債務危機に関する報告書をまとめ、2017年の中国家計債務の対可処分所得比が107.2%に達したことを発表したが、これについて同報告書では、リーマンショック発生前のピーク時の数値に近づいており、中国の家計債務はすでに返済能力の限界に到達していると述べている。さらに、表に出ていない民間ローンなどの闇金融の氾濫を考えれば、事実上、中国の多くの家計はすでに“火の車”状態にあると論じている。
 このような状態であるため、すでに中国では住宅を放棄して夜逃げする者が多数出ている。

・中国の銀行が住宅ローンの取り立てに容赦ない一方で、中国政府はローン返済責任を履行しない者に対し、「誠信制度」(社会信用システム)という手段で懲罰措置を行っている。
 「誠信制度」とは、政府が全国すべての企業や個人に点数をつけて信頼度や素行の良さを判定する制度であり、素行不良などの記録がない者には加点して合格者とし、不道徳・違法・違約などの行為のある者は減点してブラックリストに入れる。この制度は全国の企業・国民の名誉や信用度などをランキング化するようなものだ。
 個人でブラックリストに入れられると、大変なことになる。
 とくに、返済能力があるのに返済しない債務者は中国で「老頼」と呼ばれているが、「誠信制度」において「老頼」と認定されると、名前がネットで公表される。

・だから、いまの若者の合言葉は「どんな事情があろうと、絶対に仕事を辞めない」なのである。「老頼」のレッテルを貼られたら、人生が終わるからだ。

<ローン返済をめぐる自殺も多発>
・2019年3月1日、中国の最高人民法院は「2013〜2018年 中国裁判所司法改革白書」を発表した。それによると、2018年までに「誠信制度」でブラックリストに入れられた「老頼」の人数は、なんと1288万人にも達しているという。
 また、前述した河北省の裁判所のウェブサイトでは、2018年末までに借金を返済できず、飛行機の利用を禁止されたのは延べ1746万人以上、高速鉄道の利用を禁止されたのは延べ547万人で、351万人がこうした罰則を回避するために返済義務を履行したと報告されている。

・ローン返済に悩んだ末、自殺する者も増えており、「ロイター」(2017年9月30日付)は、オンライン貸金業者から金を借りた学生が返済不能になり、自殺するケースが増えていると報じている。
 また、住宅ローンに関連する自殺者についても、政府系の新聞がその深刻さについて報道している。

<住宅をもたない者の就職は厳しい>
・住宅価格が暴騰し、貸し出しが鈍り、返済不能の債務者が急増する、この現象は、住宅ローンに苦しむ家庭の増加を意味している。
 また、「公積金報告」では公積金制度加入者の9割が平均年収レベルで、返済能力が低く、違約のおそれが十分にあると報告している。
 中国では住宅ローンに苦しむ者も多いが、マイホームをもたない者も再就職や転職が難しい。会社側からいつでも仕事を辞めていく不安定な人間だと疑われるからである。
 住宅ローンの返済が不能になれば、住宅を失い、かつての貧乏な生活に戻ってしまう。生活苦のうえにメンツも潰れ、自殺を図る人が多くなるわけである。
 現在の中国不動産の時価総額は43兆ドル(あるいは65兆ドルとも)見積もられ、これはGDPの4倍である。1990年代、日本のバブル崩壊前夜、東京の不動産の時価総額は東京のGDPの2倍でしかなかった。
 たとえば北京のマンションを例にすると、平均的収入の家庭では夫婦二人で3カ月働いた収入でようやく買える面積は、たった1平方メートルしかない。それほど高価なのだ。
 中国の不動産バブルがいかに異常かわかるだろう。

<失業手当は少なく、企業破産法さえもない>
・中国では、政府所轄の職業安定所はあるものの、ほとんど機能していない。社員募集の情報はなく、職員の対応もお粗末である。ネットワークの構築ができておらず、就職斡旋はあまり重視されていないようだ。
 ある調査によれば、失業者で職業安定所に行く者は100人のうち1人だけだという。職員の学歴は高卒までで、大卒者がいない。
 失業手当はあるものの、その額は非常に少ない。支給額は地域の最低賃金の8割程度だ。最低賃金(全国平均)はおよそ月額1500元だから、失業手当は1200元くらいだ。1人分の1カ月の食事代を賄える程度で、家族を養うことまでは無理である。
 しかも、自己都合で会社を辞めた場合は失業手当がもらえない。
 生活保護の制度はあるものの、存在していないに等しい。体の不具合などで働けず、さらに親戚もおらず住む場所もないような場合にしか対象にならない。このような極端なケースは都会部には少ないうえ、支給額も数百元と少ないのである。

・企業破産法は理屈上はあるものの、それも存在していないに等しい。というのは、現行の企業破産法の実施対象は国有企業のみであり、民営企業や外資系企業などが除外されているからである。
 中国では、民営企業が企業全体の8割も占めるようになっている。にもかかわらず、これらの企業が法律適用対象外にあるとすれば、法律の存在意義そのものが疑われる。
 中国では民営企業の社長の自殺事件がよく報じられている。印象だが、住宅ローン返済をめぐる自殺件数より数倍も多いような気がする。
 民営企業の経営者にとって、とくに資金繰りが厳しくなっている。もちろん建て前上は銀行から借り入れできることになっているが、実際は銀行の融資先のほとんどは国有企業だ。民営企業にはいろいろ理由をつけて貸し渋る。

<呉英裁判の衝撃>
・また、融資を受けられる3割の民営企業にしても、資格審査や手続きが厳しくて、結局、大手の民営企業かつ役人とのパイプをもつものだけしか認められない。
 そのために、大多数の中小民営企業は地下金融、すなわち民間資金の借り入れに頼っているのが現状である。
 しかし、2007年に起こった「本色集団」の呉英社長の逮捕事件は、民営企業ばかりでなく、多くの国民にかなり大きい衝撃を与えた。民間資金を借り入れた呉英社長が「金融詐欺罪」に問われて死刑を言い渡されたからだった。あまりにもひどすぎる判決だった。
 中国では民間借款が禁止されているわけではないが、合法か違法かは検察側の思惑次第で、判定基準が矛盾だらけなのだ。
 中国では数千人という不特定多数の投資家から高利を餌に巨額の資金を騙し取った犯罪で、犯人が死刑になった司法案件があったが、呉英社長の場合は知り合い11人から借金しただけで、しかも彼らから詐欺の被害届が出されたわけでもなかった。
 このようなひどい判決が出た裏には、呉英社長の財産をねらっている腐敗役人の存在があるといわれている。

・その一方で、腐敗役人らが暗躍し、地下の闇金融組織を牛耳って暴利を貪っている。
 呉英社長は逃亡もしていないし、会社も破産していない。金を借りたことだけで死刑判決が出たことに国民はまったく納得せず、全国で呉英社長を応援するキャンペーンが繰り広げられた。結局、死刑判決は再審により見直され、死刑執行猶予から、無期懲役を経て、最終的に懲役25年という判決が2018年3月に出た。この決定まで10年の歳月が費やされていた。一方、呉英社長は無罪を訴えて上訴しつづけている。

<P2P詐欺をめぐって>
・中国ではP2P金融も大変な社会問題となっており、家庭崩壊や自殺事件が相次いでいる。
 P2P金融とはネット上の金融で、好リターンを条件に民間から資金を集め、それを中小企業や個人の借り手に高金利で融資する金融業者のことである。

<中国医療保険制度の重大な欠陥>
・2019年3月の第13期全人代では、李克強首相が政府活動報告で医療制度改革にふれ、「できるだけ早く糖尿病、高血圧などの一般疾病を治療する薬を医療保険制度に入れるよう努力する」と語った。
 世界2位の経済大国である中国だが、現状では多くの病気の治療が医療保険制度に含まれていない。
 国民の健康がどのくらい保障されているかということは、一国の実力や国民の幸福度につながることだ。日本で長年暮らしていた筆者は、日本の国民皆保険制度については馴染みが深い。健康保険組合の種類などに違いはあっても、日本の保険制度はシステムとしては統一されている。
 一方、筆者が中国の医療システムについて調べると、その複雑さや不透明さにめまいがするほどだ。
 中国では医療体制が農村部と都市部によって異なるし、都市部でもそれぞれ違っている。個人負担額など規定は複雑で、はっきりと答えられる人がほとんどいない。

・これにより、制度としてはほとんどの国民がカバーされることとなり、中国政府は2020年までに、全国民に保険制度を提供することを目標としている。
 だが、これはあくまで建て前上のことであり、現実とはかなり乖離している。

<高すぎる医療費>
・このように中国の医療保険制度は不備や不平等、不合理な部分が多い。日本ではほとんどの疾病が健康保険で治療を受けられ、すべての地域で統一された医療保険制度が実施されているが、中国はまだまだ立ち遅れている状態である。だから、中国人の多くが北京、上海、広州、深圳など医療条件の優れている都市へ押しかけて都市戸籍を取ろうとするのである。
 一方、中国の医療費は高すぎて、自己負担が重すぎるという苦情も跡を絶たない。歯の治療でも抜歯や差し歯程度で2万〜3万元(約30万〜45万円)、胃潰瘍の手術で10万〜20万元、がん治療など大きな手術となると30万〜50万元もかかる。日本のような高額療養費支給制度が実施されていないために、一般家庭にとっては医療費の支出がかなりきつい。
 大きな手術を受けるのに必要な金がないため、テレビやネットを通じて助けを求める人がよくいる。とくに子供が重病にかかったケースなどは非常にかわいそうで、政府が責任をもって対処すべきことだと思うが、現実は厳しい。

<少ない医療予算は役人がほぼ独占>
・これまでの話をまとめれば、中国では個人も企業も破産法が確立しておらず、国民の健康を守るための社会保険制度も不完全なものとなっている。
 経営も家計も健康も、セーフティネットがない状態で国民生活が不安定化しているのだ。
 そこへ米中貿易戦争がのしかかり、中国経済の衰退がさらに加速することで、国民生活はかつてない危機に巻き込まれようとしている。

・一方、中国の役人の厚遇が、国民から批判されている。
 2015年の数字だが、当時の国家歳入は10兆元に達しているものの、医療予算はわずか2000億元だった。少なすぎる。
 日本の場合、2019年の税収は60兆円超であるのに対して、医療関連予算は34兆円とされ、半分以上があてられている。アメリカなどほかの先進国でも、およそ同様な割合で予算が組まれている。
 中国では2000億元の医療予算のうち、1600億元は数百万人にも及ぶといわれる公務員や役人幹部のためのもので、14億の民に使われるのは残りの400億元だけだとされる。1人あたり約30元という悲惨な金額である。

<それでも中国が崩壊しない理由>
・このような社会保障の不備に米中貿易戦争が加わることで、中国は「崩壊」してしまうのだろうか。
 近年の破綻国家といえばベネズエラがあげられるだろう。ベネズエラでは、デノミで経済が完全に麻痺状態となり、仕事を失った人びとは家に引きこもり、1日数千人の難民が国外脱出している。

・いずれ中国も、ベネズエラのような国家崩壊状態になるのだろうか。日本でもそのように予測する識者がいるが、筆者はそうならないと思う。その理由は以下のとおりだ。
中国では各地方の格差が大きい。公務員の給料が出ないほど財政が逼迫しているところもあれば、まるで外国の都市にいると錯覚させるほど豊かなところもある。だから、1カ所がだめになったにしても、すぐに全体が崩れてしまうわけではない。
 そのうえ、経済発展に必要な工業生産システムは健在しており、戦争によって破壊されて麻痺状態になったわけではない。
社会福祉や国民の自由度が低いなど、社会統治のコストが低い。公安の安定維持費が高いという説があるが、高額な社会福祉予算を組むことに比べれば低い。
外貨準備高が十分にある。中国の外貨準備高の額については疑問視されることも多いが、とくに破綻は見えていない。
社会・国民への監視は厳しく、政権を脅かすような暴動の兆しがあれば、すぐに対応・改善する態勢が整っている。
海外在住の華人からの投資などによる中国国内への送金が多い。
外国資本の進出は完全にとまっているわけではない。
無人探査機、AI、5G通信、キャッシュレスシステムなど、いくつか
の領域において中国のハイテク技術が先行しており、イノベーションが進み、国際的な競争力が強まっている。
一般国民、とくに農家は国家転覆や外国人による政治介入はほとんど望んでいない。
西側諸国も中国の崩壊を望んでいない。経済の相互依存が進んでいるグローバル時代の現在、よほどのことがなければ相手国を崩壊させることは自分の利益にも合わない。自分の首を絞めることに等しい。そこが冷戦時代のソ連崩壊とは異なる点だ。

 中国人のあいだでは、「中国は政府が美化しているような美しい国でもなければ、外国人がさんざん貶めるような汚い国でもない」という言葉がはやっているが、そのとおりだと思う。

<子供の誘拐事件が多発>
・中国では子供の誘拐事件が多発しているが、被害の実態については正確な情報がない。民間では毎年20万人にのぼる子供が行方不明になっているといわれるが、政府系の新聞は年間100人くらいだろうと、まったくケタの違う情報を伝えている。だが、報告されない事件もあり、筆者は毎年少なくとも数万人の子供が誘拐されているだろうと推測している。
 長らく一人っ子政策を実施してきた中国では、1人以上産むと罰金を科されるために、親が出生届けを出さずに無戸籍となっている子供たちが数多くいる。彼らは「黒孩子(ヘイハイツ)」と呼ばれており、中国国家統計局の2010年の調査では、その数は約1300万人となっている。
 こうした子供たちは、人知れず人身売買や誘拐の対象になっていることが少なくない。違法なかたちで生まれ、戸籍もないため、誘拐されても警察当局に届け出ることができないからだ。

・家族の誰かが必ず毎日子供を学校に送り、迎えにくるというように、大人が付き添っていないと教師も安心できない。だから、日本の子供が1人で登下校することは、多くの中国人家庭から羨ましがられている。

<電光掲示板で幼児虐待防止>
・中国では公立の幼稚園が足りないため、ほとんどの幼児が私立の幼稚園に通っている。一概には言えないが、私立の幼稚園は学費が高いうえ、教員による幼児虐待が多発して社会問題になっている。

<農家の生活を見れば、その国の経済がわかる>
・中国に行けば世界旅行ができるというジョークがある。中東のようなイスラム教圏の地域、ヨーロッパのような歴史ある街、ニューヨークやシリコンバレーのような最先端シティなど、中国各地を歩けばすべて体験できるという意味である。
 しかし、中国には、アフリカにも劣らないほどの貧困地域もたくさんある。人口の約9割が貧困生活を強いられているからだ。

<9割近くの農家は生活が貧困>
・もちろん、中国の農村部にも、比較的裕福なところもあれば、貧しいところもある。だが、基本的に7〜9割近くの農家はまだまだ貧しい。子供や老人を除いて、家族全員が出稼ぎに行かなければならないのが現状であり、農業だけで生きていけるというのは、神話に等しい話だ。

・ただし、南方であろうと北方であろうと、農民の収入は出稼ぎに頼っている。出稼ぎに行かなければ、金は極端に少なくなる。もっとも、出稼ぎ先では、いろいろな身分的制限があり、不公平に取り扱われることが多い。

<中国でいちばん小さな役職が中国一の金持ち>
・基本的に、農村では村長が村を管理しており、村の財産の用途や配分について絶大な権利をもっている。そのため、汚職事件が跡を絶たない。
 筆者が貧困地区を訪れた際、農民と話をしたことがある。
 農家には、病気、子どもの教育、凶作など心配事がたくさんあるが、何よりも恐れているのは村の役人の汚職である。村民は毎年、村の運営費を出しているが、役人の汚職によって自分たちの血と汗の結晶が水の泡となるのではないかと、毎日、不安に思っている。ネットで検索すれば、村役人の汚職に関しておびたただし数のニュースが出てくる。
 だから、中国には、「村長は中国でいちばん小さい役職だが、中国一の富豪だ」という言葉まである。農村には一見すると何もないようだが、山や川の使用権など、利用価値のある宝物がたくさん隠れている。村長はこうした財産をすべて思いのまま支配しているのである。

<農村にはびこる汚職の手口>
・村の役人の汚職には、おもに八つのルートがある。
土地徴用賠償金
地方発展助成金
老朽化住宅改築助成金
村道建設助成金
貧困家庭生活補助金
山、川、荒地などを勝手に第三者に売買して、莫大な利益を獲得する。
特定プロジェクト助成金
農機購入補助金

・Δ鮟いて、補助金については必ず村の役人を経由する。このことが汚職の温床となっているのだ。

<村長制度が撤廃される?>
・ところで、集団所有制の変革はしばらく望めないものの、村の権力者である村長のポストがこれから撤廃されるという噂が立っている。2018年の年末から取り沙汰されているが、中央政府による公式見解や政策発表はまだ出ていない。
 ただし、ネット上では関連文章が急増し、民間から支持の声が上がっている。いままで村長の権力があまりに大きすぎて、汚職し放題だったため、国民から強い反感を買っているからだ。

<「中国模式」という幻>
・中国模式とは、中国人にしかできない独自の発展モデル、発展基準、発展方式を指しており、これがあるからこそ、中国は西側先進国が歩んできた長い道のりを短時間で立派に走り抜くことができたのだという。
 中国人は、何でも独自に事を運ぶのが好きな民族である。

・中国が急速に発展した理由として、毛沢東時代の極端な圧政が終了し、国民にビジネスをする自由空間が広がったことなど、いろいろとあげられるだろうが、筆者にいわせれば、中国経済発展のエネルギー源となったのは、ただ一つ、安い労働力だ。
 大量で、安い労働力が中国に存在していた。それを支えていたのは、農民工という集団である。

・中国では労働法が定められているが、現実には、工場の経営者が法規、法律を遵守しようとせず、政府の労働部門も法に基づく監督をほとんどしていない。理由は、彼らが農民工だからである。農民工は臨時工の身分であり、無視されてもかまわないような存在なのだ。

<法治国家には「中国模式」が似合わない>
・農民工の現状は、いまでも昔のままだ。実は、中国では、改革開放後に現れた農民工の後に、もう一つ、「都市部農民工」ともいうべき大軍が現れた。彼らはもともと農民ではなく、国有企業の労働者であった。
 1998年、当時の国務院総理、朱鎔基は、国有企業に近代的な管理制度を導入するとして、4000万人ともいわれる労働者の早期退職政策に踏み込んだ。
 その4000万人の労働者のほとんどが40代、50代の中年世代で、仕事を失った彼らは家族を養うために給料の低い町工場で働かざるをえなかった。技術系の労働者が多かったので、行き詰っていた中国経済の活性化に大きな力を発揮した。

<深刻な農民工への賃金未払い問題>
・最近、筆者が読んでいる本に『中国農民工40年』というものがある。非常に勉強になる一方、悲しくなる内容だ。
 著者は盛明富といい、元「工人日報」新聞社の総編集長である。農民工誕生の歴史、生存状況、社会的差別、奴隷的扱い、過酷な労働環境、戸籍問題、都市化と農民など、40年にわたる農民工の生活ぶりや社会環境の変遷を克明にレポートしている。いままで筆者が読んだ関連書籍のなかではいちばんの良心作だと思う。
 そのなかで、印象的かつ衝撃的だったのは、農民工の賃金未払い問題である。もうとっくに解決されたと思っていたが、話が全然違っていた。



『ついに中国で始まった大崩壊の真実』
急落する経済と社会混乱の実態を現地から衝撃報告
邱海涛      徳間書店  2015/7/24



<株も土地も大暴落、年金破綻、無法がまかり通り、AIIB、外交、国内政治も大波乱>
<経済崩壊で好戦的気運が高まる中国>
・2015年4月25日付の「経済観察報」は、東莞市が第2次企業倒産ブームに見舞われていることを報じている。工場閉鎖が大量に相次ぎ、この1年で少なくとも4000社が倒産に追い込まれた。2008年から2012年までの5年間で、東莞市ではなんと計7万2000社が倒産し、数百万人の労働者が失業に追い込まれた。

<実体経済の崩落が止まらない>
・中国の景気が落ち込み始めたのは2008年からであった。

・企業の生産も鈍い。2015年4月の工業生産は前年同月比5.9%増だった。伸び率は同年3月より0.3ポイント改善したが、8%超だった2014年の通年の水準を大きく下回る。4月の乗用車の生産台数は11.2%減と2008年12月以来の2桁の減少幅となった。石炭、粗鋼、板ガラスなど、設備過剰が目立つ業界の生産量も前年割れが続いている。
 要するに、景気悪化が加速し、企業の経営が苦しく、ほとんどの企業は利益をあげられず、重大な危機に直面しているということである。

<40年前の生活水準に戻る中国>
・GDPが相当に上がらないと、社会福祉も国民生活への保障なども消えてなくなってしまうからだ。
 かつては、そのために必要なGDP成長率は8%といわれ、「保八(8%を維持する)」が絶対条件だとされていたが、もはやそれを唱える政府関係者や学者はいない。無理だからだ。
 平たく言えば、工場からの製品出荷が鈍り、デパートには買い物客の姿が見られなくなるということである。生産も消費も激減する。成長率4%とは、40年前の生活水準に逆戻りするということを意味する。

<2015年の「3つの重大事件」から始まる中国崩壊>
・まず2015年だが、中国では3つの重大事件が起こると予測されている。それは、次のようなものだ。
1. 理財商品のデフォルト

・中国の経済学者、李迅雷は2013年に、「これから2、3年のうちに、中国には全面的な経済危機が起こる。不動産市場が一番危険な火薬庫だ」と警告したことがある。
 彼によると、中国銀行の貸付総額のうちの約30%は不動産市場に流れ込み、地方政府の財政収入のうちの約30%は土地と絡んでいる。そのために、いったん不動産や土地の価格が下落すると、中国経済が崩壊しかねないという。彼の予言は現実味を帯びてきている。

・∀働人口減による激震リスク
 2つ目の重大事件は、2015年から中国の生産年齢人口が急減し始めることである。毎年400万人近くの労働力が失われ、経済発展に大きな打撃を与える。人件費の高騰が予想され、成長率の失速が避けられそうもない。
 一人っ子政策のつけが回ってきたのが原因であろう。2014年から一人っ子政策が見直されたが、もう遅すぎるのは明らかである。これから20年間は逆転の望みがまったくない。
1. 日中関係は重要な節目を迎えるのか
3つめの重大事件は、2015年8月に中ロ共同主催の「世界反ファシスト戦争勝利70周年記念行事」が行われることだ。同時に、中国では抗日戦争勝利70周年を迎え、中国国民の反日感情が高まり、反日行事が各地で行われるであろう。

<2016年の「第13次5カ年計画」が中国経済に波乱に輪をかける>
・2016年は、中国の「第13次5カ年計画」が始まる初年度である。第13次5カ年計画にどんな内容が盛り込まれるかを大いに注目したい。

・実際、5ヵ年計画は宣伝されているような完備無欠で信頼性の高いものではなく、いままでも問題点がいろいろ指摘されている。
 たとえば、設定された目標が達成できなかったことはよくあった。1991年の5ヵ年計画では、教育支出予算の目標をGDPの4%と定めたが、それは十数年連続で達成できなかった。やっと実現させることができたのは、20年も経ってからである。

・しかし、問題が1つある。それは、2016年から始まる第13次5ヵ年計画を策定する際、李首相は現実路線を踏襲しにくい状況に陥る可能性があるということだ。
 その理由は、第13次5ヵ年計画の期間には、大変重要なイベントと重要な時期が控えているからだ。重要なイベントとは、次のようなものだ。
・2017年 中国共産党第19回全国代表大会(党大会)
・2019年 中華人民共和国建国70周年
 そして、2021年には中国共産党誕生100周年にあたるが、その前年の2020年まで継続していた第13次5ヵ年計画の成果が、改めて問われることになる。

<2017年に起こる政治体制の激変>
・最終的にどうなるかは、大会が開かれてからしかわからないが、中国共産党第19回党大会では改革派(共青団派)が党の中核に大いに躍進するのはほぼ間違いない。
 もっとも、この党大会を睨んで、2017年に入ると、各地方で大規模な開発ラッシュが始まるだろう。借金してでも巨大なプロジェクトを建設する。地方と地方との背伸び競争が激しくなる。というのも、ポスト昇進のチャンスだからだ。

・GDPの伸びを役人の評価基準とすることは害が大きく、見直すべきだと声があがっているが、世の中はそう簡単に変わらない。何よりGDPのほうが一番はっきりと見える実績だからだ。

<「1国2制度」が限界となった香港は捨てられる>
・サービス業の対外開放、規制緩和など、数多い経済改革のテスト措置の中で、もっとも重要なものが金融の改革開放であり、成功すれば、上海は国際金融センターとしての基盤づくりができることになる。核心となるのは、資本移動の開放と預金金利の自由化であり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への早期参画も目論んでいる。
 もし、これが成功すれば、香港は完全に孤立させられ、没落していくだろう。

<2018年に経済構造の変化が起こる?>
・前述したように、上海自由貿易試験区で得られる成果は2017年に新自由経済モデルとして全国各地に広げることになっているので、第19回
3中全会では、上海自由貿易試験区で成功した経験を取り上げる決議文書が発表されるであろう。これをきっかけに、中国の経済構造は大きく変わる可能性がある。

・成思危の予測では、2019年に成長率が9%に達する可能性があるという。
 その理由は、前年に全人代と全国政協が開かれ、多くの有能な新人幹部が政府の各部署に抜擢され、彼らが非常に情熱的に経済活動に取り組むので、実績がどんどん積み上がるのだという。
 ただし、2019年以降は、経済の成長率が6〜7%に落ちるとも成思危は指摘している。

<2020年から一気に総崩れとなる中国>
・2020年に東京オリンピックが開かれ、日本経済はいっそう活力がみなぎることになるだろう。また、待望しているメタンハイグレード(メタンを主成分とする化石燃料)の実用化も、この年の実現が予測されている。
 一方、中国では翌年に中国共産党誕生100周年を迎えるが、解決しなければならない問題が国内に山積しており、それが原因で一気に坂道を転げ落ちる可能性が高い。深刻な高齢化問題が、その1つである。
 中国は2020年になると、3人の若者が1人の老人を養い、さらに2035年になると2人の若者が1人の老人を養うという、大変厳しい社会人口構造に直面することになる。いままでは一人っ子政策による制限が人口減少の原因だと言われてきたが、学歴社会が定着し、婚姻意識が多様化しているなど、その原因はいろいろ挙げられるだろう。

・中国人、とくに農村部の人々は男尊女卑の意識が根強く、一人っ子政策のもとで男児を出産するためには手段を選ばなかった。妊婦が超音波検査を受けて胎児が女児とわかると、堕胎させることはよくあった。そのため、中国では男女の人口比のバランスが崩れてしまい、結婚適齢の男性が女性より3000万人も多く、結婚できないでいる。このことも急速な人口減につながった。2020年になると、結婚適齢の男性が6000万人も余ると言われている。
 このような極端な社会生態のもとでは、いろいろな社会問題が起きるだろう。婚姻売買、婦人誘拐、性的犯罪が多発することは容易に考えられる。

・ある学者が、大胆な予言をしている。それは、これから10年の間に、数千万人に上るアフリカの結婚適齢期の黒人女性が中国へ嫁にやってくるというのである。理由は、アフリカにも美人が多いし、コストが世界一安いからだ。中国政府は奨励措置を講じるともいう。

<「1億3000万人を都会人に」の無謀>
・2013年の中国の総人口は13億5000万人で、都市部人口は7億1000万人。2020年に総人口が14億人に達すると予測され、「都市部人口は60%以上」という目標を掲げるならば、8億4000万人にまで増えなければならない。言い換えれば、あと数年の間に1億3000万人が都会人になるということである。
 しかし、高価な住宅、立ち遅れる地方都市のインフラ整備、教育・医療・社会福祉の問題など、難題が山積している。真っ先に解決しなければならないのは、何といっても就職問題だろう。仕事がなければ、どんなに立派なスローガンであっても、絵に画いた餅にすぎないからだ。

<株バブル崩壊が招く中国発の世界金融危機>
・このように、重大な経済危機が7年周期で起きており、2015年は2008年9月のリーマンショックから7年目を迎える。
 しかし、中国の株式暴落は彼の予想より早まった。そしてその破壊規模はギリシャの破産より十数倍も大きいものだ。中国発の世界金融危機が起こる可能性する否定できない。
 中国の株暴落の元凶は、言ってみれば、政府そのものにある。

<いま中国社会で起きている悲惨な現実>
<上海でもオフィスビルはガラガラ>
・2013年に上海のオフィスビルの空室率は8.1%に達し、2014年には13%にまで上った。2015年は、さらに上昇している。前述した日本の空室率とは雲泥の差が見られる。

<成都市の空室率は46.9%にも>
・大都市の上海でもこのありさまだから、地方の中小都市の景気がいかに悪化しているかが窺い知れよう。

・いま、地方都市で、オフィスビル空室率が全国ワーストワンとなっているのは、四川省の成都市だ。2010年から空室率はうなぎ上りに上昇し始め、2012年に34.6%、さらに2014年には43.9%という驚くべき数字にまで達した。
 
<廃墟化する全国の「経済開発区」>
・中国には、もう一つの経済バブルが確実に弾け始めている。それは、「経済開発区」と呼ばれるものである。その損失規模は、オフィスビルの開発より数倍大きいといわれている。

・いろいろな呼び名があるだけではなく、経済開発区の数は想像以上にあり、全国各地に夥しく存在している。正確な統計数字はいまだに出ていないが、国だけでなく省や市が認可したものも含めると、数万以上あると推測される。
中国には22の省(台湾を除く)、4つの直轄市、2つの特別行政区、5つの自治区があり、それらの下には2856の県があり、さらに4万906の鎮と郷がある。香港とマカオ特別行政区を除けば、経済開発区のないところは見つからないのだ。

・開発区の敷地内には雑草が生え、空き地が目立っている。堀で囲まれた工場は数ヵ所あったが、窓から中を覗き見ると、床が裸土のままで機械は1台も置かれていない。現地の人々は、もし稼働している工場が見つかったら「国宝級のパンダ」という称号を送りたい、とよく揶揄している。

<氾濫するニセの外資企業>
・原因はいろいろあるが、やはりひどいGDP依存症にかかっているため、正常な経済活動に歪みがでていることが大きい。実績を粉飾するのは当たり前になっており、将来性や持続性のない外資企業の導入が盲目的に行われていた。
 高汚染、高エネルギー消費、かつ本国で禁止された生産品目を扱う外資企業が続々と中国に進出してきた。結局、そのつけが回ってきて、やむをえず閉鎖や破産に追い込まれたのである。

<6000万戸の空き住宅>
・2014年6月、西南財経大学の調査チームが、「2014年、中国住宅空室率および住宅市場の発展趨勢」という報告書をまとめた。その報告書の中で、都市部の販売済み居住用住宅の空室率23.4%にも上り、約6000万戸は誰も住んでいないという驚くべき真相が明らかにされた。このニュースが伝わると、大きな反響を呼んだ。

<30%にも及ぶ「無効GDP」で地方債務は爆発寸前>
・重複プロジェクトとは、全国的に企業の生産過剰が広がっているのに、同じものを生産する新規事業のことをいう。コストの回収はほぼ絶望的で、地方債務が膨らむ一方である。
 中国ではGDPのうち、「無効GDP」の部分が非常に大きい。無効GDPとは、帳面上は入金が記載されているが、実際にはその金は消えており、存在していないということである。日本ではあまり聞きなれない現象だ。専門家の試算では、いままでに、この無効GDPが全体の20〜30%を占めるとされている。

<役人の監視体制は機能しない国>
・このようなことが可能になるのも、地方(県)の最高指揮権は党委員会書記(党委書記)にあり、党委書記の裁量ですべてのことが決められるからだ。
 日本の場合、県や市にはそれぞれ県議会、市議会があり、知事といえども勝手に公共事業の立案や予算などを決めることはできない。だが、中国では党委書記がすべての権力を持っている。だから、地方の党委書記は「地方皇帝」と呼ばれているのである。

<老齢人口の増加と実体経済の低迷が年金制度を直撃>
・いま、中国では60歳以上の人口が約2億人に達しており、総人口の約14.7%を占めている。35年後の2050年には高齢者人口が総人口の40%まで占めるようになるという試算が、ほぼ確実なものだと見られている。

・ちなみに、1998年まで中国には本格的な年金制度が存在せず、誰も年金の掛け金を納付していなかった。したがって、定年退職の年から平均寿命の年までに受け取る年金総額は、在職期間中に納付した掛け金の15倍にもなってしまうのである。このデータはすでに明らかだ。
 年金財政が破綻の危機に陥っているもう1つの原因は、年金制度の設計における重大な欠陥が挙げられる。
 前述したように、中国の年金制度は1998年から本格的に実施したもので、あまりに歴史的に浅く、年金財源の備蓄不足は大変深刻な状態である。

<7000万人の役人はただで年金が受け取れる>
・中国の公務員数は約1000万人で、「事業単位」と呼ばれるところで仕事をしている準公務員は約6000万人いる。
 事業単位とは、学校、病院、学術研究所、文化団体、新聞社、テレビ局などを指しており、仕事は政府の行政指示のもとで進め、政府から運営経費をもらっているのが特徴である。
 実は、この7000万人の年金が大問題なのである。彼らは昔も今も年金保険金を納付していないが、一般の国民より多額の年金を受け取り、年金生活を享受するという非常に不公平な現状があるのだ。

<「理財商品」で税収の5倍に膨れ上がった地方債務>
・実は、地方債務は、土地を強制買収して大型プロジェクト建設を進めようとしている。しかし、資金がなければどうしようもない。

<国家に還元される利益は10%にも満たない>
・中国企業には、投資対象国の政治的、経済的リスクをまったく無視して、無理やり勢力拡大をしようとする傾向がある。さらに、中国国内と同様に、現地の法律や法規を無視する行為もよく見られる。そうしたことが、海外進出で多額の損失を招いているのである。
 だから、中国では、国有企業が「第2の税務署」という渾名で呼ばれている。もちろん、国民の富を容赦なく吸い上げるという皮肉が込められているのはいうまでもない。
 にもかかわらず、前述のように11万社に上る国有企業のうち、利益をあげている企業は10社くらいである。ほとんどの国有企業は破綻寸前の状態に陥り、国からの資金注入を頼りいいかげんな経営をしているのだ。



『チャイナ・リスク』
黄文雄   海竜社   2005年3月9日



<中国の破局は突然やってくる><農村の崩壊が引き金となる>
・中国の破局は突然やってくるだろう。というのも、歴史を見ると、中国の場合は、そういう傾向があるからだ。

<通常、大きい国は没落に時間がかかる>
・中国の場合、没落には時間がかかるが、破局は突然やってくる。どのような環境変化によって、あるいは歴史的条件の変化によって破局を迎えるかと言うと複合的にやってくる。

<今、中国が抱える大きな問題点の一つに、「三農問題」がある>
・中国の農村人口は約8億6000万人だが、農作業を行っているのは5億4000万人、実際せいぜい1億〜2億人程度で十分だ。それ以外は余剰人口ということになる。

・中国以上に耕地面積を持つ、アメリカの実労人口がたったの300万人と比べれば一目瞭然だ。農村で仕事にあぶれた農民は、都市に出稼ぎに出る。年平均9000万〜1億人の農村人口が都市に流入している。

・が、都市部の建設ブームが去り、農村の経済を支えていた出稼ぎ人口が、仕事にあぶれて農村へ帰ることになると農村問題はより深刻化する。それをきっかけに農村が一挙に崩壊する可能性はある。歴代王朝の末期に見られた流民の大噴出が再現するのは避けられない。

・歴代王朝を見ると、水害、旱魃、飢饉がおこり、流民が100万、1000万単位で出てきて、疫病が流行し、カルトつまり法輪功のような新興宗教が出てくると、それが易姓革命になる可能性が出てくる。



『100年予測』
世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図
ジョージ・フリードマン  早川書房  2009/10/10



・「影のCIA」と呼ばれる情報機関ストラトフォーの創立者でCEOをつとめる政治アナリスト・フリードマンが予想する衝撃のこれからの世界は……。

・アメリカ・イスラム戦争は近く終局をむかえる。
・勢力を回復したロシアは、アメリカと第2の冷戦をひきおこす。
・アメリカへの次の挑戦者は中国ではない。中国は本質的に不安定だ。
・今後、力を蓄えていき傑出する国は、日本、トルコ、ポーランドである。

・今世紀半ばには、新たな世界大戦が引き起こされるだろう。その勝敗を左右するのはエネルギー技術であり、宇宙開発である。
・そして、今世紀の終わりには、メキシコが台頭し、アメリカと覇権を争う。

・地政学の手法を駆使してフリードマンが見通す未来は、一見荒唐無稽に感じられても合理的で、的確な洞察力を感じさせる。示唆に富む未来覇権地図がここに描かれている。

<2020年の中国―張子の虎>
・中国は過去30年にわたってとてつもない発展を遂げている。これほどの成長が無期限に、あるいは永久に続くというのは、経済の基本原則を無視した考え方だ。いつか景気循環が醜い顔をもたげて脆弱な企業を淘汰するはずであり、実際そうなるだろう。そして技術力を持った労働者の不足が持続する成長にいずれ終止符を打つだろう。成長には構造的限界があり、中国はその限界に達しつつある。

<中国の政治危機>
・中国では忠誠は金で買うか、強制するものだ。金がないなら、強制するしかない。景気低迷時には、企業倒産や失業が多発するため、一般に社会不安が起こる。貧困が広く存在し、失業が蔓延する国に、景気悪化の圧力が加われば、政情不安が広がる。

・あり得るシナリオの二つ目が、中国の再集権化である。景気低迷をきっかけに相反する諸勢力が台頭するも、強力な中央政府が秩序を打ち立て、地方の裁量を強めることによってこれを抑え込む。

・第3の可能性は、景気悪化がもたらすひずみにより、中国が伝統的な地方の境界線に沿って分裂するうちに、中央政府が弱体化して力を失うというものだ。

・これが実現すれば、中国は毛沢東時代と同じ状況に陥る。地域間の競争や、紛争さえ起きる中、中央政府は必死に支配を維持しようとするだろう。中国経済がいつか必ず調整局面に入る事、そしてどんな国でもそうだが、これが深刻な緊張をもたらすことを踏まえれば、この第3のシナリオが中国の実情と歴史に最も即していると言える。

<日本の場合>
・大方の予想に反して、中国が世界的国家となることはない。

・中国のもっともともありそうなシナリオは、日本をはじめとする強国が中国に経済進出を活発化させるうちに、中央政府が力を失い分裂するというもの。

<アメリカの力と2030年の危機>
・アメリカは50年周期で経済的・社会的危機に見舞われている。

・次の危機は労働力不足で、2028年か2032年の大統領選挙で頂点に達する。アメリカは移民の受け入れ拡大政策で問題の解決にあたるだろう。

<新世界の勃興>
・2020年代のロシアの崩壊と中国の分裂が、ユーラシア大陸に真空地帯を生み出す。

・その機会を利用して勢力を伸ばしていくのが、アメリカと同盟を組んだ、日本、トルコ、ポーランドである。



『チャイナクライシスへの警鐘』  2012年中国経済は減速する
柯隆   日本実業出版社    2010年9月20日



<「市場経済」という言葉自体はタブーだった>
・実はその当時は、「市場経済」という言葉自体を公にすることができなかった。

・なぜなら、「市場経済=資本主義=反社会主義」という考え方が、当時はまだ根強かったからだ。そこで、苦し紛れに付けられた名称が「商品経済」というものだった。そういう状況だったから、「民営化」とか「私有化」という言葉など口にしようものなら、当時の中国社会では厳しく批判され、人生の前途が台無しになる恐れがあった。

<自浄システムが欠如している>
・経済格差や政治的腐敗がどんどん拡大していった先にあるのは何だろうか。それは、おそらく「暴動」という形で表面化する。中国の国民もバカでないから、そうした実態を目の当たりにすると、怒って暴動を起こす。それが鎮圧され、また暴動が起こるということを繰り返している。あまり日本では報じられないが、中国では年間8万件もの暴動が起こっている。

<貧者も富者も不幸せな社会>
・なぜ富裕層なのに安心感が得られないのか。それはいつ、財産を没収されるかわからないからだ。経済的にも資本主義でも、政治的には共産主義だから、政府の一声で、財産を没収される恐れがある。

・私有財産を安心して自国内に置いておくことができないから富裕層にとっても安心できる国ではないということになる。

<飢饉が起こる恐れすらある>
・このままいくと飢饉が起こる恐れすらある。飢饉というものはそう頻繁に起こるものではない。数十年に一度の割合で起こる程度のものだ。ちなみに、中国では直近、1960年に飢饉が起こっている。このときは飢饉が3年間続いた結果、実に3000万人もの人が亡くなった。
 この数字は第二次世界大戦で戦死した人の数よりも多い。食糧危機というのは実に怖いのだ。

<北京の地下水は枯渇寸前>
・中国ではいま。水が完全に不足している。中国の大河、揚子江よりも北に位置する都市は、すべて水不足に悩んでいるといってもよい。

・しかし、中国には自力で水不足の問題を解決する力はない。

<中国のカントリーリスクに備えよ>
<減速と混乱は通過儀礼>
・したがって、個人、法人を問わず、中国に投資している人は、仮にXデーを迎えたとしてもパニックに陥る必要はない。求められるのは情報収集力を強化して、それを解析して戦略を考えることだ。仮にXデーを境に中国が谷に向かって進み始めることになったとしてもリスクを軽減できるようにいまから資産の分散を図っておくとよい。



『中国沈没』
沈才彬   三笠書房     2008年3月25日



・中国には「居安思危」という諺がある。この諺には、平時に有事を想定し、危機管理を徹底するという意味である。

・近い将来、中国が沈没するようなことになれば、このところ続いている10%を上回るGDP成長率が、一気にマイナス成長へと転落する可能性も否定できない。それを回避するためにも、中国は自国の状況に対して危機意識を持たなくてはならないのだ。

<中国沈没―9つのケース>
1、「政治闘争」になる社会・経済の不安定化
・66〜76年までの文化大革命(文革)によって、中国は10年間という長期間の沈没を経験した。

・中国の「失われた10年」は、日本とは比べものにならないほど悲惨だった。文革の10年間、約2000万人の国民が非正常死したといわれている。

2、“爆食”による経済成長の行き詰まり
 ・エネルギーを非効率的に消費し、高度成長を達成する「爆食経済」。この言葉は、今の中国の高度成長の特徴を表すために私が作った造語である。爆食経済はいつか必ず破綻する。

3、アメリカ経済が、かって陥ったマイナス成長パターン
 ・ベトナム戦争は、アメリカを深刻なトラウマ状態に陥れた。さらに経済的な沈没だけでなく、価値観の崩壊まで招いてしまった。長期的な戦争は必ず国を沈没させる。

4、「格差問題」「腐敗蔓延」「失業問題」
 ・ラテンアメリカ諸国を不安定な状態に陥れた「格差拡大」「腐敗蔓延」「失業問題」という3つの問題は、中国が抱えている問題と完全に一致している。ラテンアメリカでは、こうした問題への国民の不平不満が政変へとつながっていった。

5、「民主化運動」による中国政府の分裂
・とう小平の南巡講話が行われ92年、中国は14.2%という経済成長率を達成し、天安門事件によってもたらされた沈没から脱却することに成功したのだった。

6、日本の「失われた10年」型長期低迷パターン
・バブル崩壊によって失われた資産価格は、約2000兆円といわれている。2000兆円は、今の日本のGDPの4倍に相当する額であり、驚異的な額の資産がバブル崩壊とともに消滅してしまったことになる。

・バブル崩壊後、日本は深刻な不況に陥った。90年代は景気低迷が続き、その10年間は「失われた10年」として、日本経済に大きなダメージを与えた。いまある問題を解決し、さらなる成長のための目標を決定することができなければ再び沈没してしまうことも十分に考えられる。

7、旧ソ連が経験した国家崩壊型の沈没
・国家崩壊は計り切れないほどの負のインパクトをもたらす。もし中国がソ連のように崩壊や分裂するようなことがあれば、とてつもない数の人々が犠牲になるのは間違いない。中国の人口はソ連崩壊当時の人口より4〜5倍も多いのだ。

・中国とても、ソ連が経験したような国家崩壊型の沈没だけは何としてでも避けなければならない。

8、アジア「通貨危機」型のリスク
・アジア通貨危機はASEANに大きなダメージを与えた。98年のASEAN全体の経済成長率はマイナス8%にまで落ち込む。

9、アメリカ経済失速による世界経済の崩壊
・ただし、アメリカ経済はITバブルの崩壊からわずか2年後に再び回復軌道に乗っている。その理由は、ITバブルが日本のバブルとは違った特徴を持っていたからである。

<中国が抱える問題は、最後は「政治」に行き着く>
・民主化を定着させるためには、厚い中流層が形成されなくてはならない。しかし、中国では厚い中流層が形成されておらず、いわば発展途上国と中進国が混在している状況だ。こういった状況では、民主化は時期尚早といわざるをえず、中国民主化はかなり先の話になる可能性が高い。

<中国沈没の回避の方法は見いだせるか?>
・中国にとっての最善策はこれからも「気功療法的な改善」を進めていくことだ。農村地域や貧困層にも経済発展による恩恵を行き渡らせ、中流層を育てていくことが中国にとって何よりも大切である。



『数字が証す中国の知られざる正体』
「21世紀は中国の世紀」のウソを暴く
石平   日本文芸社   平成14年9月20日



<繁栄の集中的「演出」と普遍的貧困>
<各地で労働者による大規模な抗議デモが発生>
<失業率28%、1億7千万人の失業者がさまよう中国>
・2001年に全国の失業率はすでに26%に達しており、2002年には失業者数が1億7千万人に上り、全労働人口の28%が失業状態にあるという。要は、日本の総人口をはるかに超える大量の失業者が中国には存在していて、勤労能力を持つ国民の5人に1人が定職についていないという状況にあるというのである。

<コーヒー三杯分の月収で生活する千四百万人の貧困層>
・大量失業とともに発生しているもうひとつの深刻な問題は、広がる一方の貧富の格差である。

・中国では、都市部だけでも実に千四百万人もの人々がコーヒー三杯分以下の月額収入で生活している、ということになる。

・中国で最も貧しい雲南省では、農村部の「貧困人口」が2001年には1千万人以上という統計数字がある。さらに、そのうちの6百万人は食事も満足にできない「食うか食わず」の生活状態にあるという。

・一省の貧困人口が1千万人以上ともなれば、中国全国にはどう考えても億単位の貧困層が存在しているはずだ。

・「中国の繁栄と未来」という途方もない世紀の神話の中の日本人たちは、隣国において生ずるかもしれない不測の事態に対する備えも、自らが負うことになるかもしれない多くのリスクに対する冷静な計算も棚上げにしたまま、空気だけに流されて過熱な中国ブームに安易に乗ろうとしている。
 このままでは、中国社会に内在する危機が総爆発して、神話が破滅する日もさほど遠くないかもしれない。

<「7%台の高い経済成長率」は果たして本当なのか>
<専門学校卒が60%も就職できない経済繁栄とは?>
<8年間で生み出された総生産の42%は『在庫』>
<中国経済はもはや完全に赤字債務経済>
・中国経済はもはや完全に赤字債務経済となっているわけである。

・以上の一連の数字から浮き彫りになるのは、財政赤字と負債によって支えられ、巨額の不良債権を抱えながら大量の在庫を生み出し続けるという中国経済の実態である。

・経済成長の最中にありながら、中国はすでに経済衰退期の「末期症状」を呈しているのである。ならば、経済成長が鈍化し、あるいは停滞してしまえば、この巨大国はいったいどうなるのか・・・。



『堂々たる政治』
与謝野馨   新潮社   2008/4



<官房長官として30日>
・「与謝野さんは事務所費の件、大丈夫ですか」
「うちは事務所費に関しては税理士を入れ、ちゃんと過去の分も監査しているし、いまは1ヶ月に1回、税理士の人が来て、全部点検していますよ」

・こうして私は、安倍改造内閣の官房長官に就任した。
 官房長官として第1に考えたことは、私自身が記者会見や何かの発言で、絶対に間違わないようにしようということである。記者会見での言葉遣いには、とくに神経をつかった。

・通常の閣僚は、記者会見前に官僚から説明を受けるのだが、私は、とくに必要な時以外はこうしたブリーフィングをあまり受けなかった。

・内閣の基本的な方針は総理大臣が決めるものだが、個人的には、永田町を含めた巷にはびこる「市場原理主義」的な考えと戦うということを密かに心に決めていた。

<率直さが魅力だった安倍総理>
・このとき信三氏は、ミサイル防衛など専門的な事について、アーミテージ氏とも対等に話していた。アーミテージ氏が「アベさんは、非常によく物を知っている」と驚いていたことは今でもよく憶えている。最新の知識のみならず、戦前も含めた外交史、中国、韓国などの権力構造にまで詳しかったことに、私も驚いた。

<官房長官は番頭役>
・官房長官を重要ポストに変えたもう一つの要因として、財務省の力が落ちたことも挙げられる。

<梶山氏から学んだ役人操縦術>
・官房長官としての梶山氏は、「良い奴」と「悪い奴」の区別、識別がとにかく早い。そして「悪い奴」と判断した相手は、徹底的にどなりまくって対決していく。官僚の言うことなんか聞かない。ブルドーザーみたいにとにかく推し進める。後藤田氏とは対極のタイプだったという。

・梶山氏ならではの手腕で官僚をコントロールする場面は、何度も目の当たりにした。

・「与謝野たちの世代は、戦争の本当の悲惨さを知らねえだろう」とよく言われたものである。この言葉は今でも耳に残っている。

・梶山氏が亡くなった後、追悼文に思い出話を書けと言われて書いたら、原稿用紙で30枚にもなってしまった。それを届けたら1人3枚だと言われて書き直したが、私の書いた元の原稿は、聞くところによると、茨城にある梶山氏の家の仏壇に飾ってあるらしい。

<天才的なカンとひらめき>
・郵政民営化、構造改革を掲げた小泉純一郎元総理は、5年5ヶ月という戦後3番目の長期政権を担った。小泉氏の長所というものは、訓練によって得られたものではない。生まれつきもっている天性のカンとひらめきが、経験の中で磨かれていったというところだろう。自分が目指す改革が実現できなければ「自民党をぶっ壊す」。とまで宣言した小泉のやり方を、普通の政治家が真似しようとしても無理である。生まれつきのカンとひらめきが備わっていないから、多分、真似はできない。

・後で小泉氏の秘書官だった飯島勲氏に聞くと、小泉政権での登用にあたっては、徹底的に「身体検査」をしたという。この「身体検査」という言葉は、安倍内閣のときに一気に有名になった、一種の隠語である。要するに、登用しようとする政治家に金銭や異性の問題はないか、事前に行う調査のことだ。小泉内閣のそれは非常に徹底していたので大きなスキャンダルがなかったのに対して、安倍内閣は甘かったから様々な問題が続出した、とはよく指摘されるところである。
 しかし、小泉内閣の身体検査は、通常イメージされる金銭や異性絡みのスキャンダル調査だけではなかったようだ。その政治家の主義主張も、国会での過去の質問をはじめ何から何まで全部調べあげたらしい。それが私の登用につながっていた。

<肝心な時は人に相談しない>
・要するに、人に相談すると平均的な答えしか返ってこないということが、よくわかっていたのだ。このときに、参院で否決されて衆院を解散などということまで想定していたかどうかはわからない。ただし、小泉氏ほど「自分で決める」という信念を強く持っている人はいないのは確かである。
 この点で思い出すのが、安倍内閣の組閣だ。安倍氏が他人に相談せずもっと好きなようにやっていたら、ああはならなかったのではないか。いろんな人の意見を聞いて話を広げると、往々にして結論は平凡になってしまう。組閣という「肝心なとき」に人と相談しなかった点でも、小泉氏は天才だったのだろう。

<ワンフレーズ・ポリティクスの恐ろしさ>
・しかし、郵政という問題にまず熱狂したのは実は、政治家ではないだろうか。それも対抗勢力である郵政民営化反対派が、大した問題ではないのにもかかわらず、これに命を懸けてしまった。それでこの問題が実際よりも大きくなってしまったのだ。
 当時はこんなことを言ったらおかしいと思われただろうが、現実的には、郵便局が民営であろうと公営であろうと、国民の生活を決定的に変えるような話にはならない。少なくとも短期的にみて、国民が不自由するようなものではない。ところがこれを天下の一大事だと、まず政治家が思ってしまった。ここには事実認識、時代認識のずれが相当あったと思う。

・しかし、小泉氏に常識は通用しない。ただ、これはほとんど本質的な問題ではないし、今後もああいうタイプの天才がそうそう出てくるわけではないだろうから、あまり考えても仕方がない。

・むしろ、このとき改めて感じ、今でも忘れてはならないと思うことは、小選挙区制度の恐ろしさである。以前、カナダの与党が169あった議席を2議席まで落としてしまったことがあった。これも小選挙区制ゆえに起きたドラマである。
 日本の場合は、小選挙区とはいえ比例代表もあるので、そこまで極端なことは起きないだろう。それでもほとんどそれに近い地すべりというか、表層雪崩のような現象が起きたからこそ、自民党が圧勝することになった。

・今思えば、解散した瞬間に、国民は勧善懲悪の精神から小泉氏に軍配を上げていたのではないかと思う。

<自民党はぶっ壊れたか>
・土木建築業者は、バブルがはじけた時には53万〜54万社あった。そのときに補正予算をバンバン使ったものだから、不況下でも土木建築業者だけは増えて58万〜59万社になった。約60万社として300の選挙区で割ると、1選挙区に2000社の土木建築業者があることになる。つまり2000人社長がいる。
 ところが、小泉政権以降、その人たちが「公共事業を何とかくれ」と文句を言っても、中央はやらない。地方自治体もロクにできない。仕事も作れない自民党なんか応援できない、という話になる。

・こうなったいま、政治家に出来ることは、個人レベルでの努力しかない。当たり前すぎてつまらないと思われるかもしれない。しかし、最終的に問われるのは、政治家としてきちんとしているかどうか、そのことに尽きる。ちゃんと地元を回って、地元の声をよく聞いているかどうか。人格的にも物の考え方も、高い志に支えられているかどうか。
そういうことによって政治家が選ばれる時代になった。

<新聞の社説にとらわれない>
・以来、日本の政治は、支持率など世論の動向を見ながら運営される傾向が強まる一方である。世論主導型政治となってしまった。

<小泉構造内閣の評価>
・私は今でも、小泉構造改革路線は、あの時点では政策として正しかったと思っている。問題は、この小泉改革の成功によって、「市場原理は常に正しい。小さな政府路線はいつも正しい」ということが「永遠の真理」として証明されたと信じている人々、「市場原理主義」と呼ぶべき輸入品の考えを振り回す人々がいることだ。
 効果的な経済政策の中身は、その時々の世界経済の動きや、国内状況の変化に応じて変わるものだ。いつでもどこの国でも有効な「永遠の真理」のごとき経済政策は、残念ながら人類は発見できていないし、これから先も発見できないであろう。なぜなら、経済の世界を構成する変動要因はあまりに多すぎるのである。

<米国は「市場現実主義」>
・少し話がそれたが、アメリカですら、経済を絶対的な市場原理主義に基づいて運営しているわけではないということを再度強調しておきたい。むしろ市場の限界を冷徹に見極め、時々の状況に応じて柔軟に対応している。いわば、「市場現実主義」とでもいうべき立場だと私は理解している。 

<落選3回、当選9回>
<結婚と出馬>
・中曽根氏の勧めで、選挙に立候補する決意をしたのは、1971年のことだった。

・今考えれば、若気の至りの稚拙な思いつきだったと思う。現に、選挙は得票数4万963票の次々点。後になれば、そういうパフォーマンス的な運動だけでは通用しないことがよくわかる。
 それから4年間、私は黙々と選挙区を歩いた。落選とはいえ、次々点になったという実績は大きく、地元の方がようやくまともに私を相手にしてくださるようになってきたのを感じた。四谷の小さな事務所を拠点に秘書何人かと黙々と地元を歩き、地元のあらゆる会合に必ず顔を出した。
 こうして2回目の選挙を迎えることになった。もっとも、4年間も待つことになるのは予想外であった。人気が4年とはいえ、普通は平均すると3年目には選挙が行われていたからである。過ぎ去ってみれば短かったのだが、ひたすら選挙区を歩いて準備をしている身には、途方もなく長く感じられた。

<当選、そしてまた落選>
・当時、東京1区の自民党現職は強固な地盤を持っていた。それ以外には共産党、社会党がそれぞれ当選しているという現状の中で、新人の私が議席を得るのは非常に難しいというのは誰しもが認めるところだった。

・このときの経験から言うと、いまの小選挙区制は新人が出にくいという欠点があると思っている。あらゆる選挙区であとに続く者が出やすい中選挙区制の方が、自民党としての活力が維持できるのではないか。私はいまでもそう考えている。

・大平内閣が一番重点をおいたのは、財政の再建だった。それが1979年に迎えた2期目の選挙では仇となったかもしれない。それでもこの選挙、当初の世論調査の結果は非常に良く、私としてはトップ当選を目指していた。それも驕りにつながったのだろう。結果は、大雨で投票率が下がったこともあり、千数百票の差で次点となってしまった。2度目の落選である。
 この開票日のことは、いまでもよく覚えている。落選を報告しにきた秘書に、私が「ところで島村氏と鳩山氏はどうなっている?」と聞いたところ、2人とも落選した、とのことだった。

<身にしみた温かさ>
・落選後3週間くらいは力が出てこなかったが、1ヶ月もするともう一度挑戦しようという意欲が湧いてきて、再び選挙区を歩くことにした。

・落選したにもかかわらず、支持者の皆さんは温かかった。70歳を過ぎたあるご婦人は、私を連れていろんな知り合いのところを歩いてくださった。本当にありがたく、そのような方々に連れられて、毎日毎日100〜150軒も選挙区を歩き続けた。そんな励ましを受けながらも、「これから3年間これを続けていくのは辛いな」とも思っていた。
 ところが、前回は4年間も待たされたのに、今度はたった7ヶ月で次の選挙が行われることになった。

<野党に転落>
・選挙の後でも自民党は第一党であったが、「政権を作る数にはとても足りない」と思案しているうちに、小沢氏が日本新党の細川護熙代表を担いで、8つの党派による連立政権を樹立し、自民党は野党に転落した。
 その時点で10年以上国会議員をやってきたとはいえ、野党なんてやったことがなかったので、何をしていいのかわからなかった。あるとき、困り果てて中曽根氏のところへ出向き、「先生、野党の仕事って何ですか」と尋ねた。その答えは、
「何が何でもそのときの政権を倒す。政策も何もない。とにかく政権を倒すことが野党の仕事だ」
 という単刀直入なものだった。今の民主党は、ある意味でこの言葉通り、野党の仕事をしていると言える。

・帰国しても四谷の事務所で、午後になるといつも本を読んでいた。ふっと見たらウィスキーの瓶がある。昼間の3時ごろ、氷もないので水道水でウィスキーの水割りを作って飲んだ。実にうまい。野党になったときのお酒の味は格別においしいと実感した。以降しばらくは、夕方になると酒を飲んでうさを晴らしていた。
 事務所でひたすら読みふけっていたのは物理学の本だった。マックス・ブランクが創始した量子力学を勉強しようと思って、20冊ぐらい本を買って全部読んだ。

<入閣と落選、そしてガン>
・振り返れば、七転び八起きの人生である。最初の挫折が駿台予備校の試験で不合格、次に三菱商事の入社試験に失敗、3回目は最初の衆議院で落選、4回目は2期目を目指す選挙で落選、5回目が2000年の選挙で落選、それから6回目はやはりガンになったことだ。6回転んだが、官房長官としてまた起き上がった。
 安倍改造内閣の顛末を7回目と見る人がいるのだろうが、私はそれを挫折に入れていない。あれは自分の挫折ではない。 

<政治家の王道>
<中曽根氏の言葉>
・私に就職先を世話してくれたのも、政治家としてのイロハを教えてくれたのも、すべて中曽根氏である。様々な局面で言われたことは今でもよく憶えている。

・秘書になってからも、いろいろ面白い話を伺った。
「派閥の親分というのは、どういう素質が必要なんですか」
と聞いたら、しばらくして返ってきた答えが、「母性愛だな」続けて、
「いろんな性格の議員が大勢いる。それをみんな抱えていかなければいけないんだから、母性愛がないとやっていけないだろう」
 また、「政治家は、人を突き放すようなことができない。そういう職業なんだ」とも話していた。これは母性愛に通じる言葉だ。

・私見だが、田中角栄元首相の派閥のあり方は「父性愛かな」と思うことがある。

<熟成ゆえの重み>
・常に我々以上に勉強しており、我々以上に人と会って、我々以上に人の話を聞き、外国の人とも会って話をしている。それは「いつか総理に復帰しよう」というような思いからではないだろう。リタイアしても生活に困るはずもない。誰に文句を言われるわけでもない。それでも、自分なりに日本や世界の将来のことを考えるということが、人生に与えられた使命だと思っている。それが中曽根氏の生きがいなのだ。
 だから、中曽根氏はマージャンをやる人間をものすごく嫌う。「あんな無駄なことはない」と言う。私はマージャンが大好きなので、この点では少々肩身が狭い。

・そして、熟成にはやはりある程度の年月が必要だと思う。
 地位が人を作る、ということもあるのだから、安倍氏ももう少したてば地位によって熟成できたかもしれない。その点は惜しかった。一方で、周囲の熟成度も足りなかったとも思う。

<小沢・与謝野、囲碁対決の真相>
・小沢氏がまだ自由党党首だったころ、「もう僕の楽しみは、日曜日の12チャンネルの朝の碁とNHKの碁の番組しかないんだよ」なんて言っていたことがある。「囲碁・将棋チャンネルというのがあって、囲碁か将棋を朝から晩までやっていますよ」と教えたら、「本当?」と興味津々である。そこで自由党の本部に私がその囲碁・将棋チャンネルの申込書を届けてあげた。
 その後すれ違ったとき、「ご覧になっていますか」と聞いたら「紹介してくれたのはいいけど、あれを見すぎて腰悪くしちゃった」と言う。そのくらい好きなだけあって、囲碁についてものすごく勉強している。

<政治家の王道>
・それでは、政治家にとって一番大切なのは何か。
 それは、肝心なときにものを言い、肝心なときに行動をすることである。清潔であることでもないし、演説がうまいことでもない。そういう些末なことではなく、良い世の中を後の世代に残そうという理想の下で、肝心なときにものを言い、行動すること。

<役人は使いこなすべき>
・役人は少し褒め、少しおだてて方向性を与え、あとは政治家が責任を取る。そうすれば役人はいくらでも知恵を出すし、いくらでも働く。
 優秀な人たちの能力を活用しなければ、日本国全体として損だ。ずるい言い方をすれば、我々凡人は少々働いて少々遊んでいればよく、優秀な役人たちは遊ばないで働き詰めに働いてもらって、その成果を国民みんなで分かち合う。これがバッシングするよりも利口なやり方だ。

・役人の中には立場を利用して悪いことをする者も出てくるが、この種の汚職は何千年も昔からある。なくすように努力しないといけないけれども、とにかく役人を叩けば解決するという話ではない。

<国は巨大な割り勘組織>
・国家とは、国民が割り勘で運営している組織に過ぎない。国家の成立は人類史上、何万年もさかのぼれるわけではない。せいぜい5千年ぐらい。人類の歴史のなかでは割合、新しい組織だ。以来、幾多の国家が樹立され、世界中で形を変えつつも続いているのは、国家というものを作っておいたほうが何かと便利だからということに尽きる。
 第一に、かかるコストを割り勘にする上で便利というわけだ。さらに、外交や安全保障上も便利だということがわかってきて、国家が成立していった。あくまでも割り勘でやっている組織なので、国民と遊離したところに国という別の組織があるわけではない。そこのところを、国民の皆様にわかってもらわなければいけない。



『「中国の終わり」にいよいよ備え始めた世界』
宮崎正弘   徳間書店   2015/10/29



<半値8掛け2割引>
・暴落の終着点は「半値8掛け2割引」と昔から言われるように、大雑把に見てもピークから68%下がる計算になる(じっさいに2008年から09年にかけて上海株は71%下げた)。

<株式大暴落が次にもたらす災禍とは?>
・次の大暴落は必至の情勢となっているが、中国に残された手段はあるだろうか?可能性は2つあるように見える。
 第1は市場の閉鎖である。1カ月ほど思い切って株式市場を閉鎖すれば、この間に様々な処理ができるだろう。なにしろ一党独裁の国ならばこの緊急事態を乗り切る強引な手段も出動が可能である。
 第2は通貨の大幅な切り下げである。
いまの人民元は完全な変動相場制への移行が難しいうえ、ドルペッグ体制となっているため、対ドル相場を30%程度切り下げるのである。「そんな乱暴な」と思われる向きもあるかも知れないが、実際に中国は1993年にいきなり33%も通貨人民元の切り下げを行った「実績」がある。
 これにより輸出競争力が回復でき、若干の海外企業の直接投資も復活する可能性がある。
 
・デメリットは石油、ガス、鉄鉱石など輸入代金が跳ね上がること、もうひとつは日本に観光旅行へ来る中国人の「爆買い」ツアーが激減することだろう。というより現在の爆買いツアーはもう終わりに近く、中国人の発狂的海外ツアーも沙汰止みになるだろう。
 かくして中国の爆発的投機の時代は終わりを告げ、中国経済全体の崩落が始まる。それは連動して中国共産党王朝の崩壊の始まりとなる可能性が高いのである。

<米国の親中派学者も「中国崩壊論」へ>
<旧ソ連は国防費の増大に耐えられなくなって潰えた>
・米国や日本が衰退する危険性はその原因と考えられる少子高齢化の人口動態よりも、もっと見えない変化、すなわち国防費増加ではなく「エンタイトルメント」費用、すなわち「社会保障、メディケア、保険医療(メディケイド)、所得保険」の急拡大にある。日本はこれに失業保険料が差し引かれ、しかも保険料を支払わなかった人々が月100万円ほどもかかる高額の介護を受けているケースもある。
 かくして日米欧先進国や台湾、韓国などは防衛費拡大に予算を回せない隘路に陥没した。インドも貧困層の食料援助予算があり、タイ、インドネシアも然りだ。しかし中国には国民皆保険制度はなく、介護保険もなければ生活保護もない。義務教育も有料である。だからこそ狂気の軍拡が続けられたのだ。
 欧米先進国が共通して陥没した財政危機とは民主制度のパラドックスかも知れない。
 中国の次なる問題は宮廷の内部争い、権力闘争の陰湿性である。

・そして、「宦官と官吏による内戦に近い状況は何十年と続いた。朝貢貿易は崩壊し、比類無き明の艦隊は港で朽ち果てた。一方、海岸地域の町の住民はその後の数十年にわたって対外貿易から利益を得たが、明の宮廷はその繁栄ぶりを不快で脅威をもたらすものとみなした。官吏は近視眼的で経済的知識のない官僚の常套手段をとり、潜在的なライバルの力をそぐことにした。もはや仁の政治どころではなくなった」。
 これまで国家の興亡論については、軍事力や海の支配、地政学的観点が主流だったから右のような別の視座からの切り込みは異色である。
 それにしても明がなぜ衰退したのか。
「宮廷ではライバル関係にある各集団が皇帝の関心を引こうと争いあっていた」
 漢の場合、「皇帝への影響力をめぐって、名門一族、軍当局者、官吏である学者・官僚集団、宮廷の宦官という4つの主要な対立勢力が争っていた」
 なるほどまったくと言ってよいほどに現代中国の様相と似ている。

・2014年7月に北京大学中国社会科学研究センターが発表した中国のジニ係数は0.73(0.4以上は暴動が多発するレベル)。まさに天文学的所得格差の破壊力によって、史上空前の不均衡状態にある現在、中国は国家の財政が一握りの特権階級によって蝕まれつつあり、王朝の崩壊が近いことを物語っている。

<鮮明に表れた中国共産党瓦解の兆候>
・このように、米国における対中穏健派が雪崩を打って中国への失望を表明しはじめたのである。
前述したシャンボーは、共産党体制崩壊は次の5つの兆候からうかがわれるとした。
 第1に富裕層の海外逃亡、第2に国内での言論弾圧、第3に誰もが政権のプロパガンダを信じていないこと、第4に共産党と人民解放軍にはびこる腐敗、第5に経済縮小と利害集団による改革阻止である。
 シャンボーはこう結論している。
「一度、この体制が崩れ始めると中国は長期的かつ複雑に停滞し、より暴力的な社会となるだろう」

・――危機管理とは考えられないこと、あるいは考えたくないことを考えることである。
 日本人が嫌がる防衛論議、日本の核武装、戦争、これら考えたくないことを、じつは真に近未来のシナリオとして考えなければならない。それは指導者の役目だ。

<迫り来る米中戦争の行方>
<米中戦争は不可避だとするロシア>
・こうなると、米中の関係悪化はどこまでいくか、ロシア紙『プラウダ』(英語版、2015年6月24日付)は米中戦争の蓋然性を検証し、11の根拠を描いていた。
 その行間には米中戦争への「期待」(なぜなら「最大の漁夫の利」を獲得できるのはロシアだから)が滲み出ている。

<米国が想定する米中軍事衝突3つのシナリオ>
・南シナ海問題で一歩も譲らす、重大なチャンスを逃がしたのである。
偶発戦争は起こり得ない可能性が高いものの、危機を危機と認識できない指導者が、党内権力闘争の生き残りをかけて軍事衝突に出てくる場合、俄に起こり得る危険性に繋がるのである。
 たしかに国内矛盾を対外矛盾にすりかえることは歴代独裁者の常套手段とはいえ、中国の軍事外交の突出が続けば、いずれ本格的な米中衝突を招来し、結末は中国の敗北が明らかであり、中国共産党の指導力の信用が撃滅され、共産党の一党独裁は激しく揺さぶられることになるだろう。

<そして中国に大破局が訪れる>
<機密文書まで海外に持ち逃げし始めた「赤い貴族」たち>
・「これ以上、反腐敗キャンペーンを続行すると、指導部の安全に問題が出てくるだろう。いまですら執行部の安全は深刻な状況であり、反対派は絶滅されていない。もし、キャンペーンを続行するとなると党そのものが深刻な危機に瀕することになり、このあたりで手打ちにしないと、状況は危うくなる」

<中国共産党の命運は尽きようとしている>
・黄文雄氏や福島香織氏が口を揃えて言う。反日の中国人と韓国人は本当は日本が好きで、できれば日本人になりたいと願望している、と。
「来生は中国人に生まれたくない」とする若者が3分の1もいて、これは韓国でも同じ比率という。「来世はブタでも良いから中国人には生まれたくない」と回答する者もいる。いや、その数は夥しい。

・世代交代が著しくなり、軍人でも朝鮮戦争体験組は誰もいない。
 公式の発表より、民衆は裏の情報を選別して入手している。若者はネット世論の行間を読み、暗号で通信しあう。
 過去の話より現実の腐敗、権貴階級への不満と憎しみが噴出しはじめ、いずれ巨大なうねりとなって、より暴力的になり、社会は乱れきって無法状態に陥るかもしれないという明日への恐怖が中国の統治者の間で認識できるようになった。状況はそれほど悪化している。
 
・国家の基盤が安定を欠いて根本から揺らぎはじめ、特権階級も安穏としてはいられなくなったとき、共産党幹部自らが、「そろそろ俺たちの時代は終わりだな」と自覚しはじめる。だからあれほど夥しい中国共産党幹部が賄賂で得た資金ごと海外へ逃亡を始めたのである。
 余命いくばくもなくなったのが中国共産党である。



『晋三よ!国滅ぼしたもうことなかれ』
〜傘張り浪人人生決起する〜
亀井静香    メディア・パル  2014/11/29



<小学校3年生のときに迎えた敗戦のショック>
・吉田茂や岸信介は小さな抵抗はしたかもしれないが、大きな流れでいえば従米路線を進め、それが自民党、つまり日本の政治の主流となっていったんだ。

<交渉は相手の力を利用して制す合気道の極意で>
・ただ、集団的自衛権はまずかった。
 世論の大方の反対を押し切って、閣議決定で変更することをやってしまったことも。開けてはならないパンドラの箱をいじってしまったんだな。
「実際問題、集団的自衛権が使えるか」って晋三に問い質したが、
彼はただ黙って聞いていた。
使えるわけがないのだ。ダメだと話をしたが、本人も今になって「しまった」と思っているんじゃないかな。
TPPは、大企業含めてそれで得する連中もいるが、集団的自衛権の問題は、カネではなく命の問題であり、日本の平和と秩序の問題だ。
 
<純ちゃんの改革を総括する>
<「政治の従米化」「マスコミの洗脳」「国民の劣化」>
・この章の目的は、俺のほんとうの意味での敵が外来種の新自由主義であることと、その新自由主義の出鱈目な正体を明らかにすることだ。そのためには、どうしても純ちゃんの改革について語らないわけにはいかんだろ。
 あれから10年、郵政民営化とは結局なんだったのかって考えると、「政治の従米化」「マスコミの洗脳」「国民の劣化」を痛感するね。
 政治家は国民のための政治をするのではなく、それを権力におもねったマスコミが情報操作、アレンジして伝え、一方、国民も痛みを痛みとも感じず生体反応を起こさないほど劣化した。それが今も続き、ますます悪くなっている感じだ。
 あのとき純ちゃんは「官から民へ」とか、「改革なくして成長なし」ともっともらしいことを言っていたね。「痛みなくして改革なし」とも言ったが、結局、ほとんどの人に「痛みだけあって改革なし」だったってことだ。
 
・聖域なき改革とか三位一体の改革とか、改革が素晴らしいもののように思わせ、マスコミもそう誘導した。彼らのバックには、郵政民営化で得する大スポンサーがいたから当然だろう。
 郵政民営化だけを争点に、衆議院を解散して選挙に臨んだのは狂気の沙汰だった。法案が参議院で否決されたからといって、衆議院を解散するというのは憲法違反の暴挙だな。民主主義を冒涜する以外の何物でもなかった。自民党内でも多くの人が反対していたが、党執行部は彼らを脅したりあやしたりして鞍替えさせていた。
 俺は郵政民営化が明らかにアメリカからの年次改革要望書(日本の弱体化を狙う勢力や、郵政の財産を狙ったアメリカの保険や金融資本の意図した)に沿ったものであると承知していたので、徹底的に反対した。

・郵便にしても、簡保にしても、郵貯にしても、あるいは、それ以外のサービスを含め、郵便局は地域に密着したコミュニティーの拠点だから潰すわけにはいかないんだ。日本の重要な社会基盤の一つなんだが、やつらはそれを壊そうとした。
要は「官から民へ」ということを、十把一絡げでやるのはあまりにも単純過ぎるということ。
「改革」にしたって中身が問題ってことだよ。

<結果は「働けど働けど我が暮らしよくならず」>
・この10年、改革によって日本がよくなったと思っている人はほとんどいないだろう。いるとしても1パーセントのカネを握っている連中だけだろうな。あとの99パーセントの人々の生活はますます苦しくなって、全然いいことないと感じているのではないか。
 つまり、その改革が国民のためではなく、自分たちに都合のいい、つまりバックにいる新自由主義のグローバリストたちに都合がいいものだったってことだ。日本の財産が掠め取られ、「働けど働けど我が暮らしよくならず」という風になってしまった。その、日本人の富を吸い上げる仕組みが、この10年でつくられてしまったんだ。

<我が反骨と抵抗の半世紀>
・カネがないからアパートにも住めない。それで、東大・本郷のキャンパス内にある合気道部の道場『七徳堂』の隅に布団とミカン箱を持ち込んだ。俺は合気道のヌシだったからできたんだ。
 全日本学生合気道連盟を俺はつくって委員長だった。東大の合気道部を同好会から部にしたのも俺だ。副委員長が大平(正芳元首相)さんの息子だった。彼は慶応の合気道部のキャプテンで金持ちだから、飲んだら全部払ってくれた。
 家から仕送りをしてもらうわけにもいかない。飯が食えない。仕方がないからアルバイトを見付けるしかなかった。石油モーターの消費実験をするアルバイトを見付けてきた。夜間のアルバイトもやって、朝方に帰ってきて、勉強を始めたんだ。

<嵐を呼ぶ警察官時代>
<自治省のおごりでピンサロ三昧>
・あまりにやることが派手だったから亀井対策として、後に新党さきがけの代表となる武村正義が自治省から地方課長として埼玉に送られてきたくらいだ。
 で、夕方5時くらいになると、「亀ちゃん、行こう、行こう」とハイヤーを待たせて誘いにくる。俺も嫌いじゃないから、ピンクサロンなんかへ1軒、2軒と付き合ってやった。
 ところがあいつは、「亀ちゃん、もう一軒行こう」って誘うんだ。仕方がないから付いて行ってやったけどね。
 あいつが村山政権で大蔵大臣をしているとき、大蔵官僚のノーパンしゃぶしゃぶ接待疑惑が持ち上がったんだよな。あいつが彼らを、「首にする」と言い出したから、「何言っているんだ。おまえだって、遊びまくったじゃないか」と脅すと、「昔のことは言わないでくれ、言わないでくれ」って懇願してきた。
 結局、懲戒処分にするのを諦めて処分保留にしてたな。

<社会のゴミをなくすために国会を目指す>
<誰にも相談しないで出馬を決意>
・いくら警察で頑張っても所詮、社会のゴミ掃除だ。社会のゴミを出さないようにするしかない。そんな考えで政治家になろうとした。

<晋三の親父さんから「帰ってこい」と言われ>
・代議士となり、自民党では清和会に入った。俺を推挙してくれた永山先生の流れからだ。当時は晋三の父晋太郎さんが派閥の長で安倍派と呼ばれていた。
 実は一度、清和会(安倍派)を除名処分になっている。

<政権内でも暴れまくり>
<今でもスチュワーデスに礼を言われる俺>
・村山政権が誕生して、野坂さんが俺に、「組閣では、好きな大臣を選んでくれ」と言ってきた。俺も久し振りに日の当たるところでやれるんだなあ。よかったわいと思って涙が出たよ。そして運輸大臣になったんだ。

・「ダメだ。俺は認めない。日航に取り消させろ。スチュワーデスは、お茶汲みじゃない。あれは重要な安全要員なんだ。同じキャビンで同じ仕事をしているのに待遇が全然違う。更に、安く使おうというのか。そんなことでコスト削減を図ろうなんてとんでもない話だ。ただちにやめさせろ」と指示した。

・どの会社でも試用期間っていうのはあるから、3年間は試用期間。アルバイトじゃない。3年経ったら無条件で正社員にする。事故のときは正社員並みに扱うという文言を、自ら書いたんだ。給料も2倍以上に引き上げた。
「これは最終案だぞ。文句があるなら辞めろ」と通達したんだ。今でも、国際線や国内線に乗っていて、年配のスチュワーデスから、
「私は、先生のおかげでアルバイトからスチュワーデスになれて、今は責任者の立場で働いています」と何人も礼を言うんだよ。スチュワーデス神社ができたって言われるくらい、俺は救いの神になったんだ。

<ハワイでゴルフをしながら2兆8000億円の財源確保>
・俺がハワイでゴルフをしていたわずか10日ほどで、223事業を中止にし、2兆8000億円くらいをカットしたのだ。
 結果、2兆8000億円の財源をつくったわけだ。財源づくりまでこっちはしてやったんだから、大蔵省がガタガタ言うことではない。そして、建設省、農林省に必要と思われる新規事業をバーンと付けた。

<自衛隊全軍をすぐ福島に派遣しろ!>
・「どのくらいだ」
「8000名の陸上自衛隊を派遣しました」
「おまえ、何を言っているんだ。こういうときに頼りになるのは、自衛隊と警察と消防だぞ。特に自衛隊だ。陸海空を全部派遣しろ。全指揮を統幕議長にとらせろ」と命じたのだ。その後、菅に、「副総理をやってくれ」と2時間近く口説かれた。菅は、俺が一応剛腕だというイメージがあるから、それを副総理にすることで格好付けようとしたんだ。

<真の敵は外来種の新自由主義>
<人類は文明から大反逆を受けている>
・自然環境だけじゃない。人間社会でも異常が常態化し、人々の心も文明から反逆を受けている。原発事故や公害、あるいは薬害問題など、人々の命を脅かすことが頻発している。

<人々の幸福や生命までも奪われていく>
・彼らは国を超え自由に経済活動をすることで人類の繁栄をもたらすと考えているようだ。「グローバリズム」(世界主義)とも呼ばれているが、要は自分たちが独占したいだけ。自分たちの価値観やルールを「グローバルスタンダード」とか言って世界中に押し付け、自己の止まるところを知らない欲望を、ただ満足させようとしている連中である。

<日本人よ、洗脳から目を覚まして立ち上がれ>
・そんな新自由主義的なグローバリズムに対して、「冗談じゃない!」と声を上げる人々が現れた。何が正しくて何が間違っているかを自己判断でき、行動できる人たちだな。
 お膝元のアメリカでもヨーロッパでも。またアジアの国々でも新自由主義的なグローバリズムに対して、デモや言論による抵抗と反発の動きが起こり始めている。

<外来種の思想ではなく土俗の政治が日本を救う>
<地方再生は農漁業がカギ>
<日本人の根っこは農漁村にあるんだ>
・そこにTPP(環太平洋パートナーシップ協定)でしょ。TPPは新自由主義の典型的な政策。日本の農家が大打撃を受けるのは明らか。関税が撤廃された、安い米やら野菜、果物が大量に入ってきたら、間違いなく壊滅する。アメリカやオーストラリア、ニュージーランドといった農業大国と戦ったら、中小零細の日本の農業なんかあっという間に木端微塵だ。
 今でも食料自給率は40パーセントだが、TPPでは10パーセント台になると言われている。文明の反逆を受ける現在、天候不順などで日本に食料が入ってこないと、餓死者が続出することだってあり得るんだ。俺は、農業は森の番人、漁業は水の番人として大切に守らなければならないと言ってきた。これらの風景は日本人にとって心の原風景だけでなく命の支えでもあるんだよ。
 農業と漁業は食糧安全保障の要。それを価格で勝負が決まる自由競争の場に出すということ自体、そもそも考えが間違っている。

<狙われた農協と農業潰しの背景にある意図>
・食べるものがなければ、いくら最新の車や電化製品があっても生きていけない。日本にとって大事なのは、TPPで輸出を促進したり安い農作物を輸入したりするのではなく、日本の農業を立て直すことだ。

<アベノミクスは絵空事だ>
<所信表明演説から消えたアベノミクス>
・今まで、わかっていても書かなかったが、各週刊誌もいろいろ書き始めている。隠し子騒動の話まで飛び出した。上り調子のときには書けなくても、今なら大丈夫というところだろう。見るに敏というか、マスコミもいい加減なものだ。

<晋三に注意した、博打場となった株式市場>
・だから俺は総理に直接電話でも言ってやった。
「なあ晋三、今、兜町はどうなっていると思ってる。近頃の株式市場は産業資金を調達する場ではなく、ただの博打場になっているじゃねえか」
それに対して信三から特に否定する言葉は返ってこなかった。だから心のどこかでそう思っているのかもしれないな。

<株価が上がれば景気がよくなるというのは嘘>
・アベノミクス実施後、株価は上昇し、兜町界隈の懐は暖かいかもしれないが、それ以外の場所で景気がいいという話はほとんど聞かない。むしろ、寂れて荒廃しているのが今の姿なんだよ。

<今の日本では円安はマイナス要因だ>
・現在の日本の産業構造では、円安というのは、日本人が一所懸命つくっているものを外国に安売りしていることに他ならない。
 円高対策で数兆円程度の為替介入をしたところでその効果は一時的だ。逆に投機的な動きがある中、「虚の世界」にもてあそばれるだけ。ここでも、まさにグローバルな資金を使った外資たちが、儲けている。
 もちろん為替を安定的に推移させるためにはいろいろな施策をやらなければならない。だが、実体経済を伴わず、ただ日銀がカネを出しまくって円安に持っていくというのは通貨の価値が下がるだけだ。

<アベノミクスは日本を叩き売っている>
・アベノミクスは円安で日本売りを図る政策だが、バナナの叩き売りみたいもの。日本の財産を投げうっているというもんだ。

<黒田の馬鹿たれは欲求不満を爆発させている>
・黒田は財務省では本流から外れていたんだよ。欲求不満が溜まっていたのかもしれないね。いずれにせよ中央銀行の立ち位置を踏み出し、政治的な動きになっている。これは、日銀の独立性を尊重した従来の日銀総裁はやらなかったことだ。前任の白川だって「この石頭!」と言われながらも、一応かたくなに守っていた。
 とにかく日本は、アベノミクスの下、国を挙げてマネーゲームに走っているんだよ。

・実体経済は小泉改革以降、ガタガタになっているから、使い道のないカネが結局、兜町に流れたってことだ。日銀の通貨政策で実体経済が上向くというのは、今の日本では絶対に不可能なこと。そんなの現場を見れば馬鹿でもわかる。

<2本目の矢も結局空振っている>
・2本目の矢もひどいんだよ。
 アベノミクスの2本目の矢は、「機動的な財政出動」ということになっているが、空振っているな。これも、晋三とそのブレーンが全く日本の現状を見ないで、外国で聞きかじった経済政策をやった結果だろう。

<ドブに向かって跳ぶ矢もある>
・「総理、地方のニーズに合わせた予算を組んで、実際に執行されるような政策をしないと、絵に描いた餅になるぞ」これも晋三に直接言ったことだ。
 何千億、何兆円の予算を組んでも、地域の経済が活性化していく、地場産業が元気になるような具体的な手当てをしないと、スーパーゼネコン向けのムダな公共事業に終わって、カネをドブに捨てるようなものになっちまうよ。

<晋三を操る新自由主義者どもの大罪>
<真空地帯にすーっと入ってきた竹中平蔵>
・本当は成長戦略こそもっとも重要なものだが、結局1本目と2本目でカネをばら撒き、株価、物価、消費税は上がり、景気は後退したわけだが、一部の連中だけが潤ったということだ。
 実は、総理は経済に関してはあまり得意じゃない。だから取り巻き連中はやりたい放題。人がいいから任せたという感じだろうが、国民にとってはたまったものではないな。
 だから、始末が悪いことに、小泉改革以来、日本をさんざん混乱させた新自由主義的な政策が始まった。「改革」というまやかしだ。

<やつらの規制緩和で日本はガタガタ>
・日本人が得られるべき富が吸い取られ、ますます庶民の生活が苦しくなってしまった。給料も物価も売上も上がらないというデフレスパイラルに陥ってしまったんだ。

<新自由主義政策で産業の空洞化が進む>
・新自由主義的経済政策では大企業に有利だが、その大企業だって当時は業績低迷で必死だったから、下請け孫請けのケアどころではなかった。

<働く人の懐から掠め取った恥ずべき利益>
・そんな外来種の新自由主義に牛耳られつつある今の日本。そこで大企業がやっていることは、非正規社員をどんどん増やして安い労働力を確保し、会社の利益を上げていくというものだ。その利益を社員に還元するのではなく、株主の配当に重点を置いている。

<弱い者いじめの税制・年金・社会保障>
<大儲けの企業からは取らずに庶民から取る>
・現在、日本の企業は全体で300兆円以上の、過去最大の内部留保を貯めている。従業員の懐に入ったり、下請け孫請けに回ったりする分を取って貯めた結果だ。今、そこに法人税減税をやると総理自身が言っている。
 結局、税制においても強者から取らないで一般庶民から取るべく、消費税という形で担税させた。しかも更に10パーセントにするという。

<弱い者いじめを批判しないマスコミたち>
・社会保障政策だってことごとく弱いものいじめだ。
 介護だって、医療だって、現政府が進めているのは、全部、お年寄りや弱者に対しての負担増だ。大病院に行く場合には、紹介状がなければ初診料を全額自己負担という話も出ている。カネのないやつは病院に行くなという感じだな。
 介護保険にしたって、年金だって受給年齢や受給期間の条件をやたらと厳しくしている。

<社会保障に明るいはずの晋三だが>
・重要なのは、その年金の基本理念だ、国民の信用を取り戻す努力とともに、個々の意識改革も大切。
 例えば、年金の必要のない金持ちまで、もらえるものはもらわなければ損だというのでは、いくら納付率を上げようが税収を増やそうがムダなんだよ。富裕層への支給は控える制度設計にしなくてはね。
 いずれにしても超少子高齢化社会を迎える以上、今のままでは持続は不可能になるし、世代間での負担の格差が広がるばかりで若い人には希望が持てなくなる。だから年金だけでなく社会保障制度全体の抜本的な改革が必要なんだ。
 晋三も、俺が自民党政調会長のときに社会部会長をやっていたから、そういう社会保障問題でついては詳しいはずなんだが、弱者をいじめて、反対に富裕層への恩恵ばかり助長するようなことをやっている。

・この調子では日本はどんどん新自由主義的な、強きを助け弱きを挫く政策に染まってしまう。



『世界を見る目が変わる50の事実』
ジェシカ・ウィリアムズ  草思社 2005/4/28



<50の事実>
1.日本女性の平均寿命は84歳、ボツワナ人の平均寿命は39歳

2.肥満の人の3人に1人は発展途上国に住んでいる

3.先進国で最も妊娠率が高いのは、米国と英国の10代

4.中国では4400万人の女性が行方不明

5.ブラジルには軍人よりも化粧品の訪問販売員のほうがたくさんいる

6.世界の死刑執行の81%はわずか3カ国に集中している。中国、イラン、米国である

7.英国のスーパーマーケットは政府よりも多くの個人情報をもっている

8.EUの牛は一頭につき1日2.5ドルの助成金を受け取る。年額にすると世界旅行が可能だ

9.70カ国以上で同性愛は違法、9カ国で死刑になる

10.世界の5人に1人は1日1ドル未満で暮らしている

11.ロシアで家庭内暴力のために殺される女性は、毎年1万2000人を超える

12.2001年、何らかの形成外科手術を受けたアメリカ人は1320万人

13.地雷によって、毎時間1人は死傷している

14.インドでは4400万人の児童が働かされている

15.先進国の国民は年間に7キロの食品添加物を食べている

16.タイガー・ウッズが帽子をかぶって得るスポンサー料は、1日当たり5万5000ドル。その帽子を作る工場労働者の年収分の38年分

17.米国で摂食障害を患っている女性は700万人、男性は100万人

18.英国の15歳の半数はドラッグ体験済み。4分の1は喫煙常習者

19.ワシントンDCで働くロビイストは6万7000人。連邦議員1人に対し125人

20.自動車は毎分、2人を殺している

21.1977年以降、北米の中絶病院では8万件近い暴力事件や騒乱が起きている

22.マグナルドの黄色いアーチがわかる人は88%。キリスト教の十字架はたった54%

23.ケニアでは家計の3分の1が賄賂に使われる

24.世界の違法ドラッグの市場規模は4000億円ドル。製薬市場とほぼ同じ

25.アメリカ人の3人に1人は、エイリアンがすでに地球に来たと信じている

26.拷問は150カ国以上で行われている

27.世界では7人に1人が日々飢えている

28.今日の米国に生まれる黒人新生児の3人の1人は刑務所に送られる

29.世界で3人に1人は戦時下に暮らしている

30.2040年に原油は枯渇するかもしれない

31.世界の喫煙者の82%は発展途上国の国民

32.世界の人口の70%以上は電話を使ったことがない

33.近年の武力紛争の4分の1は天然資源がらみ

34.アフリカのHIV陽性患者は約3000万人

35.毎年、10の言語が消滅している

36.武力紛争による死者よりも自殺者のほうが多い

37.米国で、銃を持って登校し退学になる生徒の数は、平均して週に88人

38.世界には「良心の囚人」が少なくとも30万人いる

39.毎年、200万人の女性が性器切除される

40.世界中の紛争地帯で戦う子供兵は30万人

41.英国では総選挙の投票者数よりも、テレビ番組でアイドル選びに投票した人のほうが多い

42.米国のポルノ産業の規模は年間100億円ドル。海外援助額と同じである

43.2003年、米国の防衛費は約3960億ドル。「ならず者国家」7カ国の防衛費総計の33倍

44.世界にはいまも2700万人の奴隷がいる

45.アメリカ人が捨てるプラスチック・ボトルは1時間に250万本。並べると、3週間分で月に達する

46.ロンドンの住民は、監視カメラで1日300回撮影される

47.毎年、西欧向けに人身売買される女性は12万人

48.英国で売られるニュージーランド産キウイは、その重量の5倍の温室効果ガスを排出している

49.米国は国連に10億ドル以上の未払い金がある

50.貧困家庭の子供たちは、富裕家庭の子供たちに比べて、3倍も精神病にかかりやすい

<「50の事実」に何ができるか>
・読み進めていくうちに、いくつかのことが明らかになるだろう。何より、世界を取り巻く問題の多くは、富める先進国と貧しい途上国との、醜い不平等に起因していることだ。

<私は、これら50の事実が世界を変えると確信している。>
・「思いやりがあり、行動力のある人々は、たとえ少人数でも世界を変えられる――それを決して疑ってはなりません。実際、それだけがこれまで世界を変えてきたのですから」

<中国では4400万人の女性が行方不明>
・2002年10月、中国の新華通信社は最新の国勢調査を発表した。それによると、2000年には女児100人に対し、男児は116.8人生まれていた。そこには、かすかだがはっきりと警告の響きが感じられた。過去2回の国勢調査と比べても、この男女比は拡大している。『上海スター』 紙は、こうした傾向が続けば、約500万人の中国人男性が結婚相手を見つけられなくなると伝えた。そうなれば、家庭、経済、社会的サービスにも問題が生じるだろう。ある専門家は、自暴自棄になった男性による女性の誘拐が増えるとさえ警告している。

・この不均衡は、中国やインドをはじめ、東アジアや南アジアにおいて男の子を望む傾向が強いために生じた。女の子を望まない親たちは、性別診断で胎児が女児とわかると、中絶に走る。実際に生まれても、女児の多くは生後数日から数週間で殺されてしまう。親たちはそれを自然死に見せかけるために、手を尽くして警察や衛生当局の目を欺く。幸いにも生き延びた女児も、出生届は出されない。その結果、教育や福祉ばかりか、充分な食事さえ与えられない日陰の生涯を歩む。

・インド、中国、台湾の出生率は着実に下がりつづけて西欧並みになりつつあるが、それでも女児への偏見は根強い。

・出生登録をされない子供たちには、どんな運命が待ち受けているのか?法律的には、彼らは存在を認められていない。だから学校に行くこともできず、公的機関の診療も受けられない。彼らの生活条件は、ひどく限られている。

<アメリカ人の3人に1人は、エイリアンがすでに地球に来たと信じている>
・30%の人々が「これまでに報告されている未確認飛行物体の一部は、他の文明からやってきた本物の宇宙船」だと答えており、45%のアメリカ人が地球外知的生命体はすでに地球に訪れていると回答している。

・実際、軍の発表と目撃者の言い分には食い違いがあった。エイリアンの死体が、いまやすっかり有名になったロズウェル空軍基地の「エリア51」に運びこまれるのを見たという人々もいる。1994年には、「エイリアン検死」の様子であるとのふれこみの怪しげなビデオも出回った。



『世界を見る目が変わる50の事実』
ジェシカ・ウィリアムズ  草思社 2005/4/28



<70カ国以上で同性愛は違法、9カ国で死刑になる>
・同性愛が死刑の対象になる国が9カ国ある。モーリタニア、スーダン、アフガニスタン、パキスタン、チェチェン共和国、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE),そしてイエメンである。

・1979年のイランにおけるイスラム革命以来、4000人以上の同性愛者が処刑されたと推計されている。

・世界で70カ国以上がレズビアン、ゲイ、同性愛者、あるいは性倒錯者を差別する法律を有している。

・社会においては同性愛は「病気」として扱われ、ゲイやレズビアンは精神医療による「治療」を強いられてきた。

・しかし、多くの国々で事態は変わりつつある。2003年6月、米最高裁判所は、同性カップルの性的行為を禁じるテキサス州法に違憲判決を下した。この判決は、テキサスだけでなく、他の13州における類似の法律を一挙に無効にすることになった。

・さらに同性愛のカップルも異性愛のカップルと同じように子供を育て、家族の絆を持ち、結婚に関する判断を下すことができるとした。これらは米国憲法に保障された権利と確認したのである。

・米国市民自由連合はこの判決を「LGBT(レズビアン、ゲイ、両性愛者、性倒錯者)にとって、これまでで最も有意義な判例」と呼んだ。

・国際人権団体も同性愛を公言する人々の保護を求める働きかけで注目を集めており、おそらくはそれがまた保護手段になっているだろう。



『国家の実力』   危機管理能力のない国は滅びる
佐々淳行・渡部昇一   致知出版社     H23/6/30



<中国に対抗するための「核シェアリング」という発想>
(佐々)アメリカは日本のために核戦争はやりません。ただ、ちょっと心配なのはアングロサクソンというのは撤退するときに、焼土作戦をやって引き揚げていくのです。物を残さないで破壊してしまう。だから、日中を軍事的に破壊することはあり得ないけれど、経済的、政治的に破壊していくケースは考えられなくないんです。中国の一部になられたら困るわけですからね。

(渡部)日本には「核シェアリング」という発想が重要だと思うんです。そうすると中国と戦争は起きない。にらみ合っているうちに向こうはひっくり返りますよ。中国が総選挙のできるような国になれば、戦争の危険はあまりなくなるわけだから、それまで日本は核シェアリングをしたいというようなことをアメリカに対して表明すればいい。

(佐々)ただ、今は運の悪いことに原発事故が起き、国内で反核ムードが高まっていますからね。まず国内を説得しなければなりません。核シェアリング論にとって、これはとても困った状況ですね。

<警察官不足で危機に瀕している国内の治安>
(佐々)「ポリティコ・ミリタリー」や「ポリティコ・エコノミー」や「ポリティコ・ファイナンス」を唱えて研究する人は、いるのですが、「ポリティコ・ミリタリー」をやる人はいません。ましてや治安、防衛、外交の三点セットをすべて学んだ人はほとんどいない。私は、たまたまそれを学ぶことになったわけですね。だから、次の総理には治安、防衛、外交をやってくれる人になってほしい。今の内閣は、正反対です。「治安、防衛、外交だけはやらない」という人たちの集まりですから。

(佐々)私が、警察に入ったころから警察庁が言っているのは、人口5百人あたり警察官一人が必要である、と。人口が1億なら20万人の警察官が必要だと言っているのですが、なかなか実現しない。

・この間の1万人の増員が完成して5百5人に1人。

・しかし、諸外国と比較してみると、イタリアはカラビニエリという警察騎兵隊を入れると272人に1人の割合で日本の倍以上になっています。それから、アメリカは353人に1人。イギリスが366人に1人、ドイツとフランスがそれぞれ314人と286人です。ところが埼玉県などは現在でも639人に1人です。

・だから被害者が警察に助けを求めていたのに、警察は忙しいものだから「恋愛沙汰には民事不介入の原則で手を出せない」なんて言って放っておいたら、それで被害者が殺されてしまいました。あの時は、ごうごうたる非難を浴びたけれど、本当に人がいなかったんです。
 しかも、定員を増やさないまま、どんどん仕事が増えました。また、コンピュータ犯罪が出たり、愉快犯が出たり、犯罪の種類もどんどん広がっています。

<小泉純一郎元総理の知られざる功績>
(佐々)小泉さんは2回目の自民党総裁選の立会演説会で「空き交番をゼロにする」と言いました。そして、実際に1万人の警察官増員をして平成19(2007)年までに空き交番はなくなったのです。これはすごいと思いました。



『職場のLGBT読本』
柳澤正和、村木直紀、後藤純一   実務教育出版 2015/7/22



<LGBTを知っていますか?>
・LGBTは、Lesbian(レズビアン)、 Gay(ゲイ)、Bisexual (バイセクシュアル)、transgender(トランスジェンダー)の頭文字をとった、性的マイノリティ(少数者)を表す総称です。

・欧米ではアーティストからスポーツ選手、企業経営者や政治家に至るまでさまざまな職業の方が、カミングアウト(LGBTであることを公にする行為)をする例が増えています。みなさんもオリンピックで水泳の金メダルをとったイアン・ソープ選手や、アップルCEOのティム・クック、そして2015年にグラミー賞を獲得したサム・スミスなどのカミングアウトのニュースをご覧になられたかもしれません。

<日本でのLGBT事情は?>
・調査によると人口の5%〜7%強(電通総研2012年、2015年)はLGBTだといわれます。13人〜20人に1人です。日本の苗字で多い「佐藤」「鈴木」「高橋」「田中」さんは、合計600万人いるといわれますが、LGBTの推定人口はその数に匹敵する規模というわけです。

・本書が、おそらく日本で初めての、「ビジネス書・人事」の欄に置かれるLGBTの本になると思います。

<LGBT人口はどれくらい?>
・性的少数者(性的マイノリティ)と言うぐらいですから、ストレートに比べたら少ないのでしょうが、実際にはどれくらいいるのでしょうか。人口の3%〜10%というデータを目にしたことがあるのかもしれませんが、これほどの幅が生まれるのはなぜなのでしょう。それは、LGBT人口の統計というのは、さまざまな意味で正確な数値を出すことが困難になっているからです。
・アメリカではその後、何度も同性愛人口についての調査が行われてきました。最近の2003年の調査があり、性的に活発なアメリカ国民男性の4.9%が18歳以降に同性との性的行為を持ったことがあると回答しました。

・イギリスでは、財務省などがシビル・ユニオン制定の影響を調べるため、2005年に行った調査によると、イギリスにいるレズビアン、ゲイの数は360万人で、国民の約6%が同性愛でした。

<古代ギリシアからルネサンス期>
・自然界にももともとたくさんあるように、人間界にも古来から同性愛はありました。よく知られているのは古代ギリシアです。プラトンは『饗宴』のなかで少年愛を美と結びつけて賛美しています。ポリス(都市)では、年長者が庇護者として少年を愛することが称揚され、それは少年を立派な市民に育て上げるという教育的な意味ももっていました。

・しかし、キリスト教が誕生し、同性愛を退廃とみなす中世の暗黒時代へと入っていきます。聖書の「ソドムの市」の記述から同性愛は「ソドミー」と呼ばれ、火あぶりなどの刑が科せられることもありました。

・『ホモセクシャルの世界史』を著した海野弘氏は同書で「キリスト教がホモフォビアを作ったのではなく、キリスト教が生んだ抗争がホモフォビアを助長したのかもしれない」と述べています。

・ルネサンス期はネオプラトニズムの影響で同性愛に寛容なムードが広まる一方で、取り締まりも行われました。レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロといった芸術家たちの同性愛は広く知られるところです。
 イギリスでは、エリザベス朝時代のクリストファー・マーロウやシェイクスピア、17世紀のフィリップ1世(オルレアン公)、ジェームズ1世、ウィリアム3世の同性愛が有名です。18世紀には産業革命を背景に、今日のゲイバーの原型である「モリー・ハウス」が誕生し、庶民も同性愛や異性装を謳歌するようになったことが知られています。

<近代から現代>
・近代になると、家父長制と資本主義、ナショナリズムが結びつき、一夫一婦制が定着し、ジャーナリズムの発展とともに国家と大衆が同性愛者を非難・弾圧するようになり、ホモフォビア(同性愛嫌悪)が蔓延します。

・19世紀末、オスカー・ワイルドが同性愛のかどで逮捕・投獄され、フランスではヴェルレーヌがランボーとの恋の終幕に拳銃を発砲し、逮捕されました。20世紀初頭には、ドイツで皇帝ヴィルヘルム2世の閣僚や側近が同性愛者として糾弾される一大スキャンダル、「オイレンブルク事件」が起こりました。第1次世界大戦の遠因ともなる、国家を揺るがすような事件でした。イギリスでは、経済学者のケインズ、作家のヴァージニア・ウルフやE・M・フォスターらの同性愛者・両性愛者が中心となったブルームズベリー・グループが活動し、パリではディアギレフやニジンスキー(ともに同性愛者)のバレエ団バレエ・リュスがセンセーションを巻き起こしました。
 
・女性に目を向けると、「ロマンチックな友情」と呼ばれて称賛された女性同士の友愛が19世紀に頂点を迎え、経済的自立を果たした中産階級の女性たちは共に暮らしはじめます(アメリカ東海岸では「ボストンマリッジ」と呼ばれます)。1920年代にはニューヨークなどにレズビアンコミュニティが誕生します。

・しかし、精神科医による同性愛者や異性装者というカテゴライズは、のちにそうした人々が異常だとか病気であると見なされることにもつながりました。そしてナチスは性科学研究所を破壊し、何万人もの同性愛者を収容所で虐殺……歴史上類を見ない悲劇が起こったのです。

・第2次世界大戦が終わり、男女平等や公民権運動が進んでもなお、依然として同性愛は違法であり、第2次世界大戦の英雄であったアラン・チューリングが同性愛のかどで逮捕され、ホルモン治療を強制され、自殺に追い込まれるという悲劇も起こりました

<LGBTの日本史>
・日本は欧米に比べ、LGBTに寛容な国だといわれてきましたが、おそらくその理由には、日本人が異性装、ことに女装が大好きだからということもあるでしょう。三橋順子氏は著書『女装と日本人』(講談社刊、2008年)において、ヤマトタケルの女装を端緒に、古代日本の女装した巫人(シャーマン)、王朝時代の稚児、中世の持者、江戸時代の陰間………と現代まで連綿と続く女装の系譜を検証しながら、日本文化の基層に「性を重ねた双性的な特性が、一般の男性や女性とは異なる特異なパワーの源泉になるという考え方=双性原理」があると述べています。

<「男色」大国だった日本>
・そのことも深く関係しますが、かつて日本は世界に冠たる「男色」大国でした。有史以来、日本の歩みは男色とともにあり、日本の歴史は男色文化に左右されながら、時にはそれが原動力となって動いてきました。
 古代の豪族からはじまり、空海が唐から男色文化を持ち帰って以来、稚児を愛するライフスタイルが爆発的な広がりを見せ(稚児は「観世音菩薩の生まれかわり」として崇拝され、僧侶の間では男色は神聖な儀式でした)、僧侶から公家、貴族、そして武士にも伝播しました。室町時代には喝食(かつしき)と呼ばれる美少年がもてはやされ(足利義満と世阿弥が有名)、戦国時代には武将が小姓を寵愛し(織田信長と森蘭丸をはじめ、ほとんどの武将が小姓を抱えていました)、やがて「衆道」へと至ります。「衆道」は念者と若衆の愛と忠節によって成立する崇高な男の契りであり、ちょうど古代ギリシアのように、少年を庇護し、立派な武士に育て上げる(軍の団結を強化する)意味合いももっていました。

・日本の男色は、政治をも大きく動かし、独自の文化を花咲かせ、日本的美意識とあいまって「宗道」と呼ばれる武士の人生哲学となり、江戸時代には若衆歌舞伎という一大娯楽産業(そして色子、陰間という売色のシステム)も誕生しました。この時代、色道の極みは男色と女色の二道を知ることだと言われ、陰間茶屋が栄えました。陰間の中には女形を目指して女装した者もいました。稚児などもそうですが、美少年はしばしば女装もしており、男色は現代とは異なり、疑似異性愛的なものでした。日本の男色史は女装史と不可分なものだったのです。

<明治以降〜現代>
・明治維新以後も「衆道」の名残りが薩摩藩などを中心に見られ、大正時代まで続きました。しかし、明治政府は、江戸以前の男色の文化を封建的な江戸の奇習、西南日本の悪習(それに影響された学生の悪習)、「文明」に対する「野蛮」として周縁化しました。富国強兵・殖産興業の国策の下、どんどん同性愛者は生きづらくなり、戦時中は「非国民」と呼ばれ、弾圧されました。

・戦後、待ってましたとばかりに同性愛者や女装者が活動をはじめますが、三島由紀夫の「禁色」に描かれているように、まだアンダーグラウンドなものであり続け(歴史の教科書も男色を隠蔽し続け)、ほとんどの同性愛者は偽装結婚を余儀なくされました。それでも、女装したママのゲイバーやブルーボーイのショークラブ、二丁目のゲイバー街ができ、丸山明宏(美輪明宏)のようなタレントが登場し、ニューハーフやミスターレディがメディアを賑わせるようになり、というかたちで次第に世間に浸透していきました。(その後もカルーセル麻紀、おすぎとピーコ、ピーターらをはじめ、現在のマツコ・デラックスに至るまで、数多くのオネエタレントが活躍してきました)。

<同性愛の世界地図>
・西欧や北米、中南米、オセアニアでは同性婚または同性パートナー法が認められている国もありますが、中東やアフリカ、東欧では、まだ同性愛者を弾圧する国がたくさんあります。近年、この二極化が進みつつある一方で、日本をはじめとする東アジア・東南アジアでは、ひどい差別もないが保護する制度もない、という状況が続いています。

・同性愛が違法となっている国(国外追放や終身刑、死刑などの極刑に処せられる可能性がある)
イラン、サウジアラビア、イエメン、スーダン、ナイジェリア、モーリタニア、ソマリア。

<日本アイ・ビー・エム株式会社>
・1950年代には米国企業としてもいち早く、個人の尊重、機会の均等をコーポレートポリシーとして宣言し、すでに80年代にはLGBTにも注目し、差別禁止規定のなかに「性的指向」「性自認」という文言を入れています。ダイバーシティ施策の一環でLGBTへの特化ではなく、人種の違いや障がい、女性と同様に尊重するものでした。

 マイノリティの従業員の定着、意識向上を考え、ロールモデルをいかに輩出していくか、平等な福利厚生、継続性、LGBT市場の開拓やブランディング、賛同してくれる仲間の企業をつくる、といったことに取り組んでいます。客観的な調査機関のサーベイ(調査)にも積極的に応じて、差別のない職場環境の整備と維持を心がけています。

<さまざまな企業の取り組みを知ろう>
・そこに風穴を開け、いち早くLGBTへの働きかけを行ったのが、今はなきリーマン・ブラザーズ証券でした。2004年に入社したヘイデン・マヤヤスさんが、社内でLBGLN(リーマン・ブラザーズ・ゲイ・アンド・レズビアン・ネットワーク)という当事者ネットワークを立ち上げ、LGBTの従業員同士で親交を深め、同性カップルの結婚を祝福したり、識者を招いて講演会を催したりしていました。そして「多様な人材を抱えることができれば顧客提案の幅も広がる」との考えから、2006年3月には早稲田大学など7大学のLGBTサークルに声をかけ、社内のLGBT支援システムをアピールし、優秀な人材の確保に乗り出しました(2008年以降、リーマン・ブラザーズ証券の取り組みは、野村證券へと受け継がれていきます)。

<ゴールドマン・サックス証券株式会社>
・ゴールドマン・サックスは、多くのLGBTが活躍している世界有数の金融機関です。イギリスでは「LGBTが働きやすい会社トップ100」の6位に選ばれています。

・日本法人では2005年に社内LGBTネットワークが設立されました。

<野村証券株式会社>
・2008年9月にリーマン・ブラザーズ証券が破綻したあと、野村證券がリーマン・ブラザーズの欧州とアジア拠点の部門を継承した際に、ダイバーシティ&インクルージョンのコンセプトとともにLGBTネットワークが野村證券に引き継がれることになりました。



『妖怪の理 妖怪の檻』
京極夏彦    角川書店  2007/9



<柳田國男の妖怪談義を巡って>
・現在、“妖怪”を語る時には必ずといっていい程引き合いに出されてしまう柳田國男も、最初から「妖怪」という言葉を使用していたわけではありません。
 例えば、有名な『妖怪談義』(1956/修道社)に収録されている論文の中で一番古い「天狗の話」が書かれたのは明治42年(1909)のことなのですが(それは井上圓了が活躍していた時代です)、その中に「妖怪」の2文字を見出すことはできません。のみならず初期、中期の論文において柳田は、天狗は天狗と記し、大太法師は大太法師と記すだけです。柳田國男がそうしたモノの総称として「妖怪」という言葉を頻繁に使い始めるのは、大正も半ばを過ぎてからのことなのです。

・ただ、柳田國男はその学問の創成期から民俗の諸層に立ち現れる“怪しいモノゴト”に深い興味を示してはいました。
 柳田はまた、それを怪しいと感じる人間の心の在りようを研究することに学問的意義を見出してもいたようです。加えて、柳田が比較的早い時期に「妖怪」という言葉を“述語”として採用しようとしていたこともまた、事実ではあります。

・そして柳田以外の民俗学者達が「妖怪」という言葉を術語として頻繁に使い出すのは柳田が昭和11年(1936)雑誌『日本評論』(日本評論社)に論文「妖怪談義」を発表して後のことと思われるのです。

・また当時流行し始めていた心霊研究、さらには海外のスピリチュアリズムなども、柳田の視野には収まっていたはずです。
 ならば、日本民俗学を学問として確固たるものにするために、そうしたある意味いかがわしさを含んだ学問と一線を画する必要が、柳田には確実にあったはずなのです。民俗の中の“怪しいモノゴト”を扱うにあたって、さらにはそれを“妖怪”と名づけるにあたって――「妖怪」という言葉を術語として使うために、柳田國男は、井上、江馬、藤澤、そして心霊科学、そのどれとも異なった道を模索せざるを得なかったのでしょう。

<『古今妖魅考』は平田篤胤が記した書物で、天狗に関する多くの記述がある>
・柳田が“妖怪”と“幽霊”を明確に区別したがったのは、過去(文献)だけを研究対象とした江馬のスタイルと決別するという主張の現れだったのではないでしょうか。それはまた、民俗学を近代的な学問――科学とするための一種の方便として捉えることも可能です。

<黎明期の民俗学を巡って>
・柳田は全国各地の習俗や言語など“民俗”に関わる事象をくまなく調査し(必ずしも自らが全国を巡ったわけではないのですが)、蒐集・蓄積した膨大なデータを様々な形で纏め、世に問うています。しかし、纏められた資料や論考を俯瞰した時、“性”と“差別”に関わる記述が驚く程に少ないということに気づくはずです。まったく触れられていないというわけではないのですが、それにしても扱われている情報は僅かで、扱い方も常に淡泊です。
 これは、それらの情報が蒐集の網から漏れた故に生じた“不備”ではありません。
 それはむしろ、意図的に“取捨選択”がなされた結果であるものと思われます。“性”や“差別”に関わる情報は、なにがしかの基準によって選り分けられ、隠蔽されてしまったようなのです。
 但し、その選別作業がどの段階で行われたのかは定かではありません。

・柳田の許に届く前、例えば蒐集の段階で捨てられてしまったという可能性も、もちろんあるでしょう。しかし、たとえそうであったのだとしても、何らかの基準なり指針を示したのが柳田であったことは想像に難くありません。
 柳田は“夜這い”などの性に関する習俗や、取り上げること自体があからさまな差別の誘因となり得る事象などに対しては極力言及しない――という方針を持っていたようです。これは柳田個人の(そうしたものを好まない)性質・信条に因るものだという見方もあるようですが、それを踏まえた上での、一種の“戦略”であったと捉えられることも多いようです。
 立ち上げ間もない民俗学を守るための――学問の一分野として成立させるための――それは学問的“戦略”だというのです。つまり民俗学が卑俗なものとして受け取られることを虞れたあまり、誤解を受けそうなテーマを緊急避難的に遠ざけた――ということになるのでしょうか。

・ただ、柳田國男が意図的に「妖怪」なる言葉を民俗学用語として採用し、ある程度積極的に使用したことは明らかな事実ですし、その結果として現在私たちが知る“妖怪”という概念が形成されたことも事実でしょう。

・性的習俗・差別的文化の取り扱い方が、柳田の学問的“戦略”であったのだとしても、また、単に柳田の個人的な嗜好の発露であったのだとしても、柳田がなにがしかの基準を以て蒐集した情報を取捨選択していた(あるいはさせていた)という事実に変わりはありません。
 そうした事実がある以上、ここでまず問題にしなければいけないのは、その“基準”そのものでしょう。
 それでは、その基準と果たしてどのようなものだったのかを考えてみましょう。

・筆者はその基準を、取り敢えず“通俗性の有無”と要約することができるだろうと考えています。
 通俗とは、“下品”であり“幼稚”であり“下劣”である――学問的でない――と言い換えることもできるでしょう。柳田國男は高名な学者であり、官僚でもあり、インテリゲンチャのホワイトカラーであり、現在でも、およそ通俗とはかけ離れた印象を以て受け入れられている人物です。柳田が通俗を厭うたというもの言いは、いかにももっともらしく聞こえることでしょう。しかし、それはあくまで“印象”に過ぎません。

・風俗史学が“下品”で“幼稚”だなどと述べているわけではありません。前述のとおり、風俗史学は(民俗学とは以て非なるものではありますが)きちんとした理念や体系を持つ、れっきとした学問です。
 ただ、明治期から昭和初期にかけて、風俗研究の名を借りた通俗的な言説が一種のブームとなっていたこともまた、紛れもない事実なのです。

・もちろん、性であれ差別であれ、研究者は決して下世話な興味本位でそれらを俎上に並べたわけではありません。風俗史学の内部では、それらはいずれも学問的な研究対象として、真面目に取り扱われています。しかし、研究者がどれだけ真摯な姿勢でそれらと向き合っていようとも、そうした対象を扱うという行為自体が、好奇=通俗の視線に晒される要因となるのだとしたら――通俗化を回避することは難しいといわざるを得ません。
 戦後のカストリ誌などで好んで扱われたネタの多く(猟奇趣味、犯罪心理、性愛記事、秘境探検記事など――)は、そうした“風俗研究ネタ”の直接的な焼き直しです。

・風俗史学が「過去のモノゴトを現代に紹介する」学問だとするなら、民俗学は「過去を知ることで現代を知る」学問です。風俗史学が「特定の場所や時代を研究する」ことに終始するのに対し、民俗学は「古層を探ることで現在を理解する」ためになされる学問なのです。
 実際、柳田以降もその二つは時に混同され、集合離散を繰り返すこととなります。

・柳田が“性”や“差別”を禁じ手としたのは、そうした手本があったからなのでしょう。それが柳田の個人的な嗜好であったのだとしても、学問の卑俗化を防ぐための戦略であったのだとしても――柳田の視野に風俗研究が収められていたことは疑いのないことのように思えます。

・柳田國男は、どういうわけか「妖怪」という言葉だけは捨て去ることをしませんでした。それどころか、柳田は晩年に至って「妖怪」という言葉に拘泥し始めるのです。先に挙げた基準が正しいものであるならば、「妖怪」は真っ先に捨てられていて然るべき言葉であったのでしょう。

<明治の雑誌をなどを巡って>
・明治30年代に入ると、圓了の著作以外の場でも「妖怪」という言葉が使用されるようになります。

・明治政府は圓了以上に迷信や旧弊を弾圧しました。明治期には、まじないや因習を禁止した政府令がいくつも出されています。反体制という場所に立って眺めるならば、圓了も明治政府も同じことをしているように見えたはずです。

・合理を前面に打ち出した圓了の場合、現象の背後には何もありません。「起こり得るか/起こり得ないか」の二者択一で、非合理なものは「起こらない」「ない」というのが圓了の立場です。
 平井の場合は多少違っています。神霊(心霊とは微妙に違う概念です)の有効性を信じる者にとっては、すべての事象はなにがしかの「意志の結果」なのです。「起こり得ないこと」であっても「起こるべきこと」は「起こる」ということになるでしょう。

・二人の違いとは、現象の背後にある“モノ”を想定しているかいないか、ということです。
 平井の文中にそうした“超越者”に対する記述はいっさいありません。しかし、先に述べたように、平井が後に心霊研究の方面に手を伸ばす人物であることは事実です。平井金三にとって大切だったのは、「何が起きているか」「それは起こり得ることなのか」ではなく、「何故起きたのか」、あるいは「何が起こしたのか」だったのではないでしょうか。
 健全な“妖怪”=“神仏”が「在る」のであれば、不健全な“妖怪”もまた「在る」ということになります。

・天狗の話も河童の話も、フォークロアや寓話としてではなく「本当にあったこと」として語られているわけです。
 現代に置き換えるなら「私は宇宙人に遭った」「自殺者の霊がトンネルに現れた」というのと同じ文脈で天狗や河童が語られているわけです。天狗も河童も実在するモノゴトとして、要するに“オカルト全般”として扱われているということ――即ち井上圓了の引いた枠組みの中で語られているということ――になるでしょう。

・圓了の仕事によって、“妖怪”の名の下にそれまで乖離していたいくつかの事象が統合・整理されたことは間違いないでしょう。それは、後にオカルトなる便利な言葉が一般化したために、超能力やUFO、心霊現象やUMAなど、本来無関係であるはずのものごとがひと括りにされ、新たな体系が編まれた事情と酷似してもいます。

<郷土研究の社告を巡って>
・その当時「妖怪」という言葉は、通俗の場においてこそ“化け物”というニュアンスを帯びつつあったものの、学問の場において、また枠組みとしては(結果的に)圓了の独壇場だったといえるでしょう。しかし柳田は(たぶん敢えて)この枠組みから外れた使い方をしてみせます。

・民俗学は(というよりも柳田國男は)もちろん近代的学問を目指しはしたのでしょうが、決して前近代を否定する立場をとっていたわけではありません。民俗学にとって前近代は否定するものでも肯定するものでもなく、近代を知るための“研究材料”だったのです。

・たしかに圓了といえば迷信否定――今でいうならオカルト否定派の急先鋒です。心霊研究とはおよそ馴染まないように思えます。しかし、繰り返し述べている通り、圓了が厳しく糾弾したのは“前近代”なのです。
 心霊科学という言葉からも判る通り、心霊研究は、“科学的”な発想をその根底に持っています。

<再び柳田と民俗学を巡って>
・明治末から柳田が抱えていた「山人」という大きな研究テーマ――『後狩詞記』(1909/自費出版)や『遠野物語』(1910/聚精堂)などを生み出す原動力ともなり、南方熊楠との、いわゆる「山人問答」を通じて明確化したテーマ――に、柳田はここで終止符を打ちます。そして研究対象を平地人=常民へと移して行くのです。
 そうした様々な変遷の中、柳田は「妖怪」という言葉とは距離を置き続けます。と――いうよりも、柳田は、「妖怪」という言葉をまったくといっていい程使っていないのです。

・昭和9年(1934)、柳田は現在もなお“妖怪”研究の基本文献のひとつとされる『一目小僧その他』(小山書店)を上梓します。
 一つ目小僧、目一つ五郎、隠れ里、橋姫、ダイダラボッチと――論文中で扱われているのはいずれも(現在の感覚では)紛う方なき“妖怪”ばかりですが、やはり「妖怪」という言葉は一切使用されません。

・金城は、最初に挙げた「マジムン」を「妖怪変化の総称」としています。続く「ユーリー」は、マジムンと同義であるとしながらも(那覇では)「人間の死霊」に限定する呼称であると述べています。

<様々なコトバを巡った後に>
・柳田は、“妖怪”に対する自らの指針を正当化するために、まず“幽霊”を“お化け”のカテゴリから切り離さなければならなかったのではないか――。
 そのような観点から柳田の仕事を見直した時、“妖怪”と“幽霊”に関する柳田の定義も、かなり脆弱な論拠の上に成立している限定的な言説として捉え直されてしまいます。
 柳田の定義は概ね次のように要約されて、広く人口に膾炙されてしま
います。

幽霊は人に憑くが妖怪は場所に出る。

幽霊は深夜に出るが妖怪は薄暮に現れる。
この二点は“妖怪”と“幽霊”の決定的な差異として様々な場面で引用されています。

・人に取り憑くモノは“幽霊”ばかりではありません。狸も狐も、鬼も天狗も河童も、わけの判らないモノだって人に憑きます。“憑き物”を外しても、個人につきまとう“幽霊”以外のモノはいます。一方で同じ場所に出続ける“幽霊”もたくさんいます。そうした“幽霊”は不特定多数に祟ることもあります。昨今の言葉でいうなら“地縛霊”ということになるでしょうか。柳田の定義を押し通すなら、“地縛霊”は“幽霊”ではなくなってしまいます。
 また、出現時間に関しても同じことがいえるでしょう。深夜に訪れる恐ろしいモノが、すべて“幽霊”かといえば、そんなことはありません。夕暮れに目撃される“幽霊”も多くあるでしょう。それは今にかぎらず、過去にも多くあったのです。
 定義から漏れるものは認めない、という態度もあるのでしょうが、そうするとかなり無理をして分類し直さなければならなくなります。


・ただ、生涯を「妖怪学」に捧げた井上圓了と違い、柳田國男の“妖怪”研究は、その膨大な仕事のうちの、ほんの一部にしか過ぎません。しかし、割合としては少ないまでも、柳田にとって“妖怪”が一種「特別な」研究対象であったことは疑いようがありません。





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