フランスでの同時多発テロ事件――本質はテロとの戦いではない? | |
[世界の読み方] | |
2015年11月17日 15時59分の記事 | |
「フランスでの同時多発テロ事件――本質はテロとの戦いではない?」(2015年11月16日)の続きです。
危ないのは既に2年前から 今回のフランス同時多発テロ事件によって、フランス行きをキャンセルされた方が多数いたと報じられています。 テロの実行犯がすべて排除されていない状況で非常事態宣言が出されているところに行くことは、やはりリスクとなりますので、当然のことでしょう。 ただ、フランスだけが危険かということになるとそうではないと考えます。今や世界のどこも危なくなっていて、むしろフランス以外の方が危険度が増していると考えるべきでしょう。 ただ、このような状況であるのは、何も昨日今日のことではなく、少なくとも2年前から既にそうなっています。 極めて簡単にここ数年の世界情勢を説明するなら、戦争を起こそうとする世界的なグループと戦争を止めようとする世界的なグループの拮抗が、現在の世界の実相です。世界的な拮抗ですから、実際にはいつでも第3次世界大戦になってもおかしくない状況が続いているわけで、大規模に戦端が開かれていないので平和と感じられる状態が続いているだけというのが現実の本当の姿です。 このような状況ですので、ローマ法王フランシスコは、現在の世界を表現するのに昨年から第3次世界大戦という言葉を使っていますが、以下のように報道されています。 ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は30日、トルコ訪問からの帰路の機中で記者会見し、中東やアフリカなど世界各地で戦乱が続く状況を「私たちは断片的に『第3次世界大戦』の中にある」と強い懸念を示した。その上で「広島と長崎から、人類は何も学んでいない」と、核廃絶が進まない現状を批判した。 「ローマ法王『広島と長崎から学んでない』 核兵器に警告」(2014年12月1日 朝日新聞) 昨年11月30日、トルコ訪問を終えた後にこのような発言を法王フランシスコはしていますが、本ブログ「ホロコーストに関するネタニヤフ首相の発言の背景にある事情」(2015年10月27日)をお読みいただければ、その重大な意味をお分かりいただけると思います。つまり、法王フランシスコのトルコ訪問の目的は第3次世界大戦を止めに行っているということです。そして、このような流れが今回のフランス同時多発テロ事件の状況と密接に絡んでいるのです。このような世界で戦争を止めよとする動きは、知る限り他に幾つかありますが、それは報道されていません。第3次世界大戦ということについては、『ザ・フナイ12月号』でも書きましたので、ご覧いただければと思います。 上記の朝日新聞の記事では、ローマ法王が核戦争について言及していることが書かれていますが、第3次世界大戦という世界情勢とあわせて考えれば、これは核戦争の危機が迫っていることを警告していると考えるべきでしょう。以下のように書かれています。 そして、その後も各国が核兵器を持ち続ける現状について「そんな文明は、新たな『無知』だ。『終末的』と呼ぶべきだ」と述べ、「もし終末的なことが起きれば、人類は再び一から始めなければならない。広島と長崎がそうしたように」と強く警告した。 (2014年12月1日 朝日新聞) ISだけが世界の脅威と考える時代ではなく、現状はもっと状況が深刻であるという認識は間違いなく持つべきでしょう。 戦争はお金のためになされるということを拙書『この国を縛り続ける金融・戦争・契約の正体』(2015年 ビジネス社)で書きました。このことは現状の世界でも同じです。 部分的にでも現在が第3次世界大戦という状況であるということは、実は2013年9月のシリア危機の時からずっと続いていています。このことも『ザ・フナイ12月号』で書きました。詳述はそちらに譲りますが、シリアが第3次世界大戦のキーであることは間違いありません。そして、その後もずっと危険な状況は続いていて、ローマ法王の昨年の言葉になるわけです。法王が第3次世界大戦という言葉を使ったのは、単なる比喩ではないのです。 このような非常に不安定になっている世界情勢を示す事例は私自身の経験からも幾つかあります。その中の一つをご紹介します。昨年のちょうど今頃、ある安全保障の専門家とブルガリアに行きました。その時、どのような経路でブルガリアに行くかということがポイントになりました。日本からブルガリアへは、だいたい二つのルートが有り、一つは中東経由で値段も安いルート、もう一つはドイツ経由で割高なルートです。その安全保障の専門家は、中東経由はリスクが高いので、ドイツ経由が良いと述べ、私もその通りと思い、チケットを手配しました。 ドイツ経由ルートは、ロシアの上空を通り、フランクフルトに行き、そこからブルガリアのソフィアに着きます。帰りも同じ経路です。 ブルガリアはとても良い所で、また行きたいという想いを強く持ちましたが、滞在を終え、無事、帰国しました。帰途、ロシア上空で見た朝焼けは本当に美しくありました。 帰ってきて、おみやげ話に花を咲かせている時に、ロシアが外国の弾道ミサイル発射を探知したという記事が出ました。この記事にある弾道ミサイルの詳細は不明ですが、この情報が出た頃、ちょうどロシアの上空を飛んでいたので、大変に驚きました。ブルガリアに同行した安全保障の専門家も私もこの情報を見て肝を冷やしたことを鮮明に憶えています。安全と思っていても何が起こるかはわからないのが、今の世界なのです。 「ロシア航空宇宙防衛軍 外国の弾道ミサイル3発の発射を探知」(2014年11月30日 ロシアの声) 第3次世界大戦という状況は少なくとも2年前から厳然として存在しています。そして、その後も、その大戦に引きずり込もうとする動きは散発的に続いています。当然、世界においてテロなどの危険性がずっと続いているわけで、そういうことが起きる危険はまだまだ完全に排除されていません。個別的にテロなどがどこで起きるかということは、情報収集をしているわけではないので、具体的に判別できませんが、どこでも起きる可能性があるという状況に私たちが直面していることは間違いないでしょう。 したがって、フランスだけが危ないというのは、個別の事象だけを見て判断しているという可能性が大きく、これまでの世界情勢の流れで判断していないものと思います。とにかく、世界的な動きを個別的な情報で判断をすると必ず間違った結論を得る結果になります。 この第3次世界大戦ということが、現在の世界の中で最大の問題で、法王フランシスコは、このことに対処するために積極的に動いていると分析します。 そして、現在の日本の政権はこの第3次世界大戦を抑止する動きには逆行しているものと考えています。このことが日本を外交において劣勢に追い込んでいる主原因と分析します。 原油の値動きも関係する このような国際情勢の流れで見れば、シリア難民問題が鮮明化した今年9月から、それが新しいオペレーションであると考えるのは自然なことであるのです。このことには、ロシアによるシリアのIS勢力への空爆も関係するでしょう。ロシアの攻撃が非常に成果を上げていることが、ISが戦場をシリアから別の場所へ移動させた一つの大きな理由と考えられます。逆に言えば、米国などが昨年から行っていたシリア空爆はほぼ成果を上げていなかったと分析できます。つまりその空爆は何であったかということが実は問われているのです。 ロシアが中東の安定化を目指し本気で攻撃し始めた動きによって今回のようにシリアにいられなくなり「新しいオペレーション」が発生し、戦場を欧州へ移動させることを選択したと分析します。これはシリア問題が改善に向かっていることを意味し、ISの勢力が弱まっていると分析できますが、同時に不安定が欧州に拡大したことも意味し、それは世界的な不安定要素になることをも意味しています。したがって、この状態を世界でいかに対処するかということが、明らかにポイントになっています。 いずれにせよ、このことはロシアの問題ではなく、以下、説明するようにISとは何かということと第3次世界大戦ということに密接に絡みます。 また、昨年6月から始まった原油の下落もこの戦争と絡んでいると分析します。この下落は戦争の資金源に直結する問題です。現在の世界においては、原油価格が下がることは庶民の生活にとっても朗報ですが、世界にとっても朗報なのです。したがって、原油価格が下がることによって困るという人たちが、この戦争を発生させようとすることに深く関わると判断して間違いありません。言動を追えばすぐに分かるはずです。また原油の問題は基軸通貨の問題でもあります。その点も重要です。いずれにせよ、戦略物資である原油の値動きを単なる需給関係で見るということは、本質的ではありません。 ISには政治的主張はない ISには政治的主張はありません。彼らの言動から見て取れるその目的は、常に戦争に巻き込むということにあります。実際、ISは様々な活動で何かを得ているのでしょうか? その動きは過激なので目立ちますが、実は彼らは何も得ていません。ISは領土を得たのでしょうか、お金を得たのでしょうか、国際社会の信任を得たのでしょうか。実際は何も得ていません。何のためにやっているのかさっぱりわからないのが、実はイスラム国なのです。多少のお金を得ているかもしれませんが、軍事的な支出も大きいでしょう。ISは様々なことを実に巧妙に計算・計画していると言われているにもかかわらず、一方で本質的に彼らの動きはとても不可解なのです。そして彼らが行動することによって唯一生じることは、戦線や混乱の拡大なのです。 ISの動きが目的的でない実相を考えれば、ISの動きによって利益を得るものが現在の世界情勢における本質と疑う必要は当然出てきます。それが誰なのか。そこがポイントなのです。中東における歴史的経緯によって生じた様々な怨念、また差別などをされた人々の個人的な恩讐などは、現在の世界情勢において混乱を拡大させるために利用されることはあっても、情勢を動かす本質ではないと判断します。本質はもっと現実的で、利害が関係することなのです。戦争とはそういうリアリティで動きます。 テロとの戦いではない 本ブログ「イラク戦争にかかわるブレア英元首相の報道に見る戦争の構造?」(2015年11月1日)で取り上げましたが、英国のブレア英元首相が、2003年に米英のイラク侵攻したこと(イラク戦争)がIS拡大の要因であると述べたことが報道されています「ブレア英元首相:イラク戦争で「謝罪」」(2015年10月26日 毎日新聞)。また同記事では、ブレア英元首相は、IS拡大の背景には2011年から始まったアラブの春が関係しているという認識も示しています(同上)。正確な分析であると思います。 シリアはそのアラブの春で内戦状態になり、上述したように第3次世界大戦のキーとなったのは2013年9月のシリア危機でした。この時、米国などが支援する武装反政府勢力へに対して、シリア・アサド政権が化学兵器を使用して攻撃したとして、その制裁のため米国やイスラエルがシリアへ軍事介入をしようとし、緊張状態になりました。 しかし、この時のポイントになった化学兵器は以下の記事のようにISがシリアで使用しているとも伝えられています。 「ISIS、イラクとシリアで化学兵器を使用 現地調査団報告」(2015年7月20日 CNN) 2013年9月のシリア危機で、戦端が開かれていたら中東大戦、第3次世界大戦になっていましたが、そのことを抑止することに大きな影響を及ぼしたのはローマ法王フランシスコです(詳細は『ザ・フナイ12月号』で)。その法王フランシスコは上述した朝日新聞の記事で、以下のように発言しています。 法王は「第3次大戦」について、「人よりお金を中心に置く思想」が、戦争の背景となる政治経済の問題や敵対を生んでいると指摘。戦争で利益を得る軍需産業を「最も力を持つ産業の一つとなっている」と批判した。シリアの化学兵器を例に挙げ、保有を批判した先進国側の企業こそが製造などに関与してきたのではないかと疑念を示した。(2014年12月1日 朝日新聞) 中東、ウクライナでの戦争という構図の本質は、この法王フランシスコの言葉にあるでしょう。そいう構図の中でのISという存在であるのが世界の実相なのです。つまり、ISは本質ではなく単なる戦争の拡大装置であって、本質は別にあります。したがって、テロとの戦いによって戦争は、縮小するどころか拡大することは必至であるのです。 世界の安定化を実現するには、シリアの内乱を最短の形で安定化させること第一です。それにはシリアの現政権を主軸に進める他に道はありませんし、それは国際法にもかなったことでしょう。その上でシリアの復興と政治の正常化・民主化を国際協調の下、はかるべきであって、焦点がテロとの戦いになれば、情勢は好転せず、第3次世界大戦の危機は温存されるだけでしょう。 現在の世界情勢においては、味方だと思っている人が敵かもしれず、何が本質なのかは常に疑ってかかる必要があります。だからこそ、ISの動きも緻密になると考えるべきなのです。そして、そういう見方をしなければ人類は危機を脱することはできないでしょう。 現在の戦争の構図が、最も明確に出ているのが2月に調停されたウクライナ紛争です。これは上述したように中東情勢と直結するものですが、このウクライナ戦争に対する態度で、戦争を起こそうとしているグループに属するか、戦争を止めようとしているグループに属するかははっきりとわかります。もう一度、この視点で世界を見つめなおすべきでしょう。 「協調と和平」をキーワードとして考える方向性にしか、事態の改善の道はありません。破壊を仕掛けられているのが現在ですから、その反対を考えるしか事態の改善は、当然ですが、ないのです。 「フランスでの同時多発テロ事件――本質はテロとの戦いではない?」(2015年11月16日) | |
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