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2022年12月7日に報じられたメルケル発言との食い違いについての見解
[ザ・フナイ]
2022年12月12日 15時7分の記事

ザ・フナイでの連載や拙著『この国を縛り続ける金融・戦争・契約の正体』(2015年 ビジネス社)では、アンゲラ・メルケル前独首相が中心になってまとめた2015年のミンスク合意(ミンスク2)についてとりあげ、この合意とそれを主導したメルケルをともに高く評価してきました。ミンスク合意を主導したメルケルの動きは、平和のため、第三次世界大戦を防ぐためのものと分析・評価し、その動きは王族と金融資本(イギリス東インド会社、英米・ネオコン・NATO、金融資本・軍産複合体)という二極対立でいうのなら王族側の動きとして申し上げてきました。だからこそ、メルケルがミンスク合意締結直後に、バチカンで法王フランシスコに謁見し、さらに来日して上皇陛下に謁見したと書き、メルケルはこの両者に報告に動いたと申し上げてきました。
このことを拙著で申し上げ、ザ・フナイの連載においても触れ、さらにまたザ・フナイ2023年2月号での舩井勝仁さんとの対談でも触れています。
しかし、2022年12月7日のスプートニク(ロシアのメディア)は、メルケルがミンスク合意をまとめたのは、ロシアに対してウクライナが対ロシアの軍事力を付けるために『ウクライナに時間を与える試みだった』という発言をしたと報じています。

・ 『ミンスク合意は「ウクライナに時間を与える」ための試みだった=メルケル前ドイツ首相』(2022年12月7日 スプートニク)

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この発言は、私の申し上げてきたことからすれば金融資本の動きで、まさにウクライナを対ロシアのための軍事要塞にする動きを示す言葉なのです。この報道を目にしたのは、ザ・フナイ2023年2月号の初稿見直しを提出した後で、同号で上記のようにメルケルのミンスク合意についてのスタンスを取り上げていますので、実に慌てました。このメルケル発言は、この原稿だけではなく、これまで申し上げてきたこと、またバチカンと天皇家に対する評価も変える必要があるのです。無論、そうなれば、みな様にお詫びして、撤回して訂正しなくてはなりません。
ですので、この発言について色々と調べ、また私がこれまで申し上げてきたことと付き合わせて検討を致しました。その結果、結論から先に申し上げれば、今回のメルケル発言は、確かに私がこれまで申し上げてきたこととは正反対ですが、そのメルケル発言の真意はやはり変わらずで、これまで私が申し上げてきたことを変更・撤回する必要はないという結論に至りました。
むしろ、今回のメルケル発言は、結果として私がこれまで申し上げてきたことの延長線上にあることを明らかにし、さらにこれまでメルケルがしてきたことをさらに推し進めるものと考えています。
このような結論に至った理由を以下に説明して参ります。いずれにせよ、ザ・フナイ2023年2月号の原稿をほぼ出稿したと言える段階で、このようなメルケル発言の報道がされるのは、とにかく肝を冷やし、体には良くありません(笑)。


○ メルケル発言の報道
今回のメルケル発言を私が最初に目にしたのは、上記のスプートニクでした。この記事の元になるソースは以下のドイツ紙『ディー・ツァイト(Die Zeit)』に掲載されたものです。

・ 『"Hatten Sie gedacht, ich komme mit Pferdeschwanz?"』(2022年12月7日 ディー・ツァイト)


この『ディー・ツァイト(Die Zeit)』の記事は残念ながら読んでいませんが、上記スプートニクの記述を観てみましょう。以下はこの記事の全文です。

(引用はじめ)
ドイツのメルケル前首相は、独紙ディー・ツァイト(Die Zeit)のインタビューで、「ミンスク合意」について、ウクライナに時間を与えるために署名され、これによってウクライナは強くなることができたという考えを示した。
メルケル氏は「2014年のミンスク合意は、ウクライナに時間を与えるための試みだった。ウクライナもこの時間を利用して、ご覧のように、強くなった。2014年から2015年のウクライナは、現在のウクライナではない」と述べた。
メルケル氏は、「ミンスク合意」の参加者すべてがウクライナ紛争は一時的に停止しただけであり、問題そのものは解決されていないことを理解していたと指摘した。同氏はまた、ミンスク合意が発効していた間に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が現在と同じようにウクライナを支援していた可能性があるとの見方を示した。
またメルケル氏は、自身が首相を務めていたときに実施した対ロシアおよび対ウクライナ政策について、「今日でも自分にとって明瞭なかたちで決定した」と述べ、「それはまさにこのような戦争を未然に防ぐための試みだった。それが上手くいかなかったからといって、その試みが間違っていたわけではない」との考えを示した。
(引用終わり)


まさにこのメルケルの言葉は、ミンスク合意はロシアに対してウクライナを強化するための時間稼ぎであり、それをNATOが支援してきたということを明らかにしています。2022年2月24日、プーチン・ロシアはウクライナに対して特別軍事作戦を開始し、現在のロシア・ウクライナ情勢が始まりましたが、このロシアの行動はこのNATOのウクライナ支援と東方拡大に原因があるとプーチン・ロシアは当初から一貫して主張しています。
つまり、プーチン・ロシアは、このNATOの反ロシアの東方拡大というアクションに対して、ロシアの安全保障のためにリアクションをしたと主張してきたわけで、このメルケル発言は、このNATOの『アクション』を証明したことになります。このNATOとは私が申し上げてきた金融資本(イギリス東インド会社、英米・ネオコン・NATO、金融資本・軍産複合体)のことです。
そして、ザ・フナイ2023年1月号及び2月号で申し上げたように、このロシア・ウクライナ情勢は、ロシアとウクライナの戦争ではなく、ロシアと英米・ネオコン・NATOとの戦争であり、だからこそ第三次世界大戦なのですが、このNATOの関与をメルケルが言ったことによって、メルケルがその第三次世界大戦の構図を明確に証明しているのです。
そうなると、一つのポイントが浮上します。それは、ウクライナにNATOが関与してきたことを言っているこのメルケル発言で、メルケルは当然、この戦争が一般的な言い方をすればロシア対NATOとの戦争であることは十分わかっているということです。
そして、その戦争の構図を矮小化された一般的な認識である『ロシアとウクライナの戦争と言う構図』で述べていることです。このメルケル発言を掘り下げると実は整合性がないのです。メルケル発言がこのようになるのは、そのポイントがこのロシア対NATOの構図、私の論からの言い方にするのなら『ロシア対金融資本(イギリス東インド会社、英米・ネオコン・NATO、金融資本・軍産複合体)の構図』を明確にすることにあると考えます。
これまで西側では、メルケル発言が指摘した長らく続いてきたNATOのウクライナへの関与についてまったく触れてこなかったので、2022年2月24日のロシアの特別軍事作戦開始以来、『狂った鬼畜プーチン・ロシア』がひ弱なウクライナを侵略し始めたということになったわけです。ですから、西側ではウクライナ支援がまさに英雄的な行為になり、ロシア擁護の論調を張れば大変な風当たりにあったわけです。
しかし、今回のメルケル発言が『ミンスク合意が発効していた間に北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が現在と同じようにウクライナを支援していた可能性がある』と指摘したことによって、この西側のプロパガンダの根拠は完全に崩れました。実はこのメルケル発言は、まさに西側のプロパガンダにおいては最大の『タブー』なのです。それをメルケルはこの発言で一気に暴露し、さらにメルケルはその発言によってプーチン・ロシアの対ウクライナの特別軍事作戦に根拠を与え、正当化しているのです。
やはりここが大きなポイントと考えます。たとえメルケルがミンスク合意を結んだのは、ウクライナに時間を与え、『このような戦争を未然に防ぐための試みだった』と述べていても、メルケルがこのタブーを暴露したことによって、英米・ネオコン・NATOとウクライナにとっての不都合となっているのです。そして、これまでのメルケルの業績・姿勢を考えると、メルケルの真意はこのタブーの暴露にあると考えるのが自然なのです。


○ 現在のメルケルの政治的位置づけ
このメルケル発言を取り上げている記事は、以下の『クーリエ・ジャポン』が12月5日に出しています。この記事はメルケルが置かれている状況がよくわかるとても良いものですが、同記事は11月24日の『シュピーゲル』をソースにしています。私はこの時点でこのメルケル発言については把握していませんでした。

・ 『ロシアに譲歩した? 引退後のメルケルに問われる責任 アンゲラ・メルケル元独首相「ウクライナ侵攻が起きたのは驚きではなかった」 』(2022年12月5日 クーリエ・ジャポン)

・ 『»Das Gefühl war ganz klar: Machtpolitisch bist du durch«』(2022年11月24日 シュピーゲル)


このクーリエ・ジャポンの記事を観ると、メルケルが行なってきたことの意味、そしてそれ故に現在のメルケルが置かれている政治的な立場がはっきりとわかります。それでは観ていきましょう。

(引用はじめ)
「メルケルの業績はますます無残なものになりつつある。ロシア政策、エネルギー政策、健康政策、気候政策、デジタル化においてだ」と、メルケルから話を聞いたオサンは述べる。
「危機の宰相」と言われたメルケルは、今のドイツでは「危機の責任者」のように受け止められている。なんと、独誌「ツァイト・マガジン」のニュースレター読者の86%が、「ロシア政策の過ちに対して、メルケルによる謝罪を望む」と回答したほどだ。
ウクライナ侵攻以来、ロシアはヨーロッパへの天然ガス供給を停止し、エネルギー危機に見舞われるドイツは危機的状況にある。ドイツのロシア産天然ガスへの依存度は、4期にわたるメルケル政権下で高められていったのだ。今となっては間違っていたとされる、ロシアへの依存を作り出すのにメルケルも一役買った。
メルケルが推進したロシアからの2本目のガスパイプラインであるノルドストリーム2は、ロシアの影響力を高めるとしてアメリカやウクライナからは批判されてきた。そして、「よりによって彼女がよく長く知るプーチンが、嘘や虚勢を用いてウクライナを侵攻し、その結果、メルケルの評判は台無しになった」とオサンは記す。
(引用終わり)


ロシア・ウクライナ情勢が激しくなっている現在、親ロシアであったメルケルは、2005年から16年に及ぶ首相時代になした業績に対する厳しい疑問の眼にさらされているわけです。もちろん、それは2022年2月24日、『狂った鬼畜プーチン・ロシア』がひ弱なウクライナを侵略し始めたという認識が現状のドイツを覆っているからで、その認識は英米・ネオコン・NATOの反ロシアのプロパガンダにもとがあるわけです。
無論、この論調は、英米・ネオコン・NATOがウクライナで行なってきた反ロシアの営みを完全に隠ぺいしているからこそ、成立つもので、このことによって、ロシア寄りであったメルケルが厳しく批判されているわけです。そして、そのメルケルは上述のようにこの隠ぺいされた英米・ネオコン・NATOによるウクライナでの反ロシアの営みという西側における『タブー』を今回暴露しているわけです。
過去の業績におけるメルケルのスタンスは、この記事では他に『「結局メルケルが中国との貿易やロシアとのガス取引を推進したのも、この信念のためなのだろう」とオサンは考える』や以下の記述でも確認できます。

(引用はじめ)
2008年、ウクライナとジョージアのNATO加盟にメルケルは反対したが、あのときウクライナがNATO加盟を果たしていればロシアはウクライナを侵攻しなかったと言われることがある。しかし、メルケルは、その決断が間違っていたとは考えていない。
「政治家には、国民を困らせないような決断が求められます。2008年のブカレストでのNATOサミットで私はウクライナとグルジアをNATOに加盟させませんでしたが、それが当時のドイツの有力な専門家の意見でした」
また、2014年に始まったウクライナ東部のドンバス地域での紛争に関しても、メルケルはフランスとともに仲介し、ウクライナとロシアの間で、即時停戦を定めたミンスク合意を締結させた。しかし、この停戦合意は両者の主張が食い違う点があったためにすぐに破られ、紛争は続いた。メルケルは、この合意を急ぎ、やり過ごそうとしたこともよく批判される。
(引用終わり)


プーチン・ロシアは、ウクライナなどでの英米・ネオコン・NATOの反ロシアのアクションに対してリアクションをしているわけですから、2008年当時、ウクライナとジョージアがNATOに加盟していたら、そのプーチン・ロシアの『リアクション』はもっと早かったと考えます。
ただ、当時、プーチン・ロシアは軍事力や経済力の面で、その『リアクション』ができる力が整っていなかったものと考えますので、むしろ、この2008年当時のメルケルの決断は、プーチン・ロシアに準備をするために時間を与えたと考えます。
そして、メルケルがこのような決断をしたからプーチン・ロシアの2022年の対ウクライナ行動になったとは考えません。ザ・フナイ2023年1月号、2月号でお話しをしたとおり、NATOの東方拡大、英米・ネオコン・NATOがウクライナを反ロシアの軍事要塞にすることをしなければ、2022年2月24日からのロシアの行動は生じることはなかったのです。これがプーチン・ロシアの『リアクション』という意味です。
むしろ、2022年2月24日の段階においてさえも、プーチン・ロシアは英米・ネオコン・NATOの反ロシアの動きに対するリアクションを行なう十分な力をまだ付けていなかったとも考えています。無論、これはプーチン・ロシアのウクライナに対する力ではなく、英米・ネオコン・NATOに対する力のことです。これは現在のロシア・ウクライナ情勢についてエマニュエル・トッドが『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書 2022年 31頁)で「今回のウクライナの問題は、強いロシアが弱いウクライナに戦争を仕掛けたのではない。弱いロシアが強いアメリカに攻撃を仕掛けたのだ」という指摘したことに通じます。
このように考えれば、メルケルがミンスク合意を2015年に締結したのは、むしろロシアに時間を与えるためと言えると考えます。実はこのことは後述する中東情勢にも直結するのです。


○ 欧州とロシアの平和の紐帯となるガスパイプライン
このクーリエ・ジャポンの記事をみると、『ガスパイプライン』というものがメルケル及びロシア・欧州の非常に大きなキーワードになっていることがわかります。以下のウィキペディアをみると、ドイツとロシアを結ぶガスパイプライン『ノルドストリーム』がメルケルによってなされていることがよくわかりますし、同時に『脱原発をはかっていたドイツにとってロシアの天然ガスは重要なものであった』とも書かれています。

・ 『ノルドストリーム』(ウィキペディア)


ロシアの天然ガスは欧州の生活を支え、このことはロシアの安全保障に適うものです。では、欧州にとってはどうでしょうか? 英米・ネオコン・NATOが反ロシアの動きをウクライナで仕掛け、それに対してプーチンはリアクションをしたわけですが、プーチンはそのロシアの行動を正当化するために欧州に対してガスを止めるとは言っていません。
ガスを拒絶したのは欧州であり、恐らくノルドストリームを爆破したのも英米・ネオコン・NATOと考えるのが正しいと考えます。このように観たとき、ロシアは天然ガスを自らの行為を肯定・正当化するための道具にはしていません。ということなら、ガスパイプラインとロシアの天然ガスは欧州にとっても安全保障にプラスになるということなのです。
ロシアとのガスパイプライン敷設も含めて上述のような親ロシアなどの動きをメルケルは率先して行なってきて、その動きなどを含めて総じて考えて、私は『ユーラシアの覚醒』と申し上げてきました。そして、実際、現状、欧州は別としても、中東や中国などは少なからず『ユーラシアの覚醒』の方向性で動きつつあります。
しかし、英米・ネオコン・NATOは、このような方向性を良しとしないので、ウクライナを反ロシアの軍事要塞にしたり、ロシアに対する経済制裁を欧州に要求したり、恐らくノルドストリームを爆破したと考えます。英米・ネオコン・NATOは自らの利益のために欧州とロシアの平和と安定の紐帯であるガスパイプラインを実質的に破壊しているのです。
このような背景を持つメルケルは、当然のごとくミンスク合意を米国抜きで進めたわけです。2015年のミンスク合意(ミンスク2)の時点でも、メルケルはロシアとの協調路線を堅持していると考えます。
このクーリエ・ジャポンの記事では以下のように、プーチンのメルケルに対する評価が載っていて、プーチンは『メルケルを尊敬していた』とあります。これは実際、間違いでないでしょうし、プーチンが表向きなんと言おうと、今でもこの評価を変えていないと考えます。

(引用はじめ)
第3次メルケル政権で副首相や外務大臣を務めたシグマー・ガブリエルは、「アンゲラ・メルケルがまだ首相であったなら、プーチンはウクライナを攻撃しなかっただろう」と話す。彼によると、「プーチンは、ヨーロッパで最も強力な国を率いた女性、ロシアを理解する女性として、メルケルのことをすごく尊敬していた」そうだ。
同様に、2022年10月に訪独したハンガリーのヴィクトール・オルバン首相も、記者会見で、「メルケル首相がいれば戦争は起こらなかっただろう」と述べている。
(引用終わり)


このように観てくると、メルケルについての私がこれまで行なってきた分析評価は、今回のメルケル発言とは食い違うものですが、この発言の真意ということを考えた場合、これまで私が申し上げてきたことを訂正・撤回する必要はないと考えています。
私の分析の手法は、全体性の中の連関を観て行ないます。一事をもってすべてを考え、結論する訳ではありません。このようにする理由は分析の精度を保つためです。一事をもってすべてを考えると、当然、間違える可能性は大きくなります。他の事象との連関で観れば、間違える可能性は格段に減ります。私がマクロで観て考えるべきと言うのは、実にこのような含意もあるのです。
そのように観た場合、2022年の今回のメルケル発言は、やはり字面通りに受け取るべきものではなく、そこにはメルケルの意図があるものと推測します。
それでは、次にこの私の結論を、拙著『この国を縛り続ける金融・戦争・契約の正体』(2015年 ビジネス社)で私がメルケルとミンスク合意を書いたの記述を振り返って論証していきます。


○ 拙著の記述をもう一度振り返る
2015年に出された拙著ではメルケルとミンスク合意について、キーワードとして『ロシア、フランス、ドイツ、バチカン、ウクライナ、中東、トルコ、地中海(エーゲ海)、黒海艦隊(セバストポリ)、第三次世界大戦(含む中東大戦)、ガスパイプライン、米国』などをあげました。このことは基本的に現在も変わりません。ただ、当時、私はまだオバマ政権の戦争屋としての本質をしっかりと評価できていませんでしたし、イギリスについての正確な評価も出来ていませんでした。ただ、それでもこの当時に書いたことは、現状をしっかりと説明するものになっています。それでは、みていきましょう。尚、以下文中の『今年』とは2015年のことで、文中の太字は原文のママで、下線は現在の私が付けたものです。

(引用はじめ)
話を本筋に戻しましょう。一触即発だったウクライナ紛争を今年二月、調停にこぎつけた主役はドイツのメルケル首相でした。この調停会議の最大の成果は、前述したとおり、ウクライナを「独仏露VSウクライナ」の枠組みで収め、戦争の拡大を防いだことです。
この新しい構図の”本当の核”が何であるのかと言うことは、ウクライナ紛争調停後のメルケルの行動に如実に表れています。ウクライナ紛争停戦発効直後の二月二一日、メルケルはバチカンを訪問しています。これまでのバチカンの関与を考えれば当然の動きで、法王フランシスコに成果を報告しに行ったのです。
さらにその後、三月九日にメルケルは日本を訪問し、天皇陛下に謁見しました。このメルケル訪日は急遽決まったため当時、その真意についてさまざまな憶測が流れましたが、天皇陛下に会うために来ていたことは確かです。事実、メルケルが来日した三月九日のドイツメディア「ドイチェ・ヴェレ(DW)」に、「メルケル訪問のハイライト(最重要点)は、火曜日に明仁天皇陛下に謁見することである。その後、彼女は自身のカウンターパートである右翼の安倍晋三首相と会う」という記事が出ました。「ドイチェ・ヴェレ」とは、ドイツの国際放送事業体で、日本でいえばNHKの海外向け放送のようなものです。
これでおわかりのとおり、メルケルの来日は安倍政権の政治家に会うことが主旨ではありません。それが国際政治の現実です。メルケルはウクライナの調停後、バチカンと日本にその「報告」をしに来たのです。
メルケルは天皇陛下に謁見後、南青山の根津美術館に二〇分ほど立ち寄っています。外交の歴史の常から考えると、実はここで彼女に美術品が手渡されていると考えられます。すなわち”ご褒美”です。たった二〇分というあまりに短い滞在時間を考えると、彼女は美術館へ鑑賞しに行っているとは到底考えられません。根津美術館でご褒美を手にした後、メルケルは安倍首相と会談します。そのとき、一部メディアで報じられたように、メルケルは安倍首相に「脱原発」と「歴史認識」を突きつけました。また、「ドイツをはじめ、ヨーロッパ全域で安倍政権の”暴走”への懸念が高まっている」との報道もありましたが、まさにそのとおりでしょう。
メルケルが来日した次の週、今度は米国からの使者が訪日しました。ミシェル・オバマ大統領夫人とビル・クリントン元大統領です。二人とも天皇と会見しています。会見の内容は秘密ですが、おそらく、後述するドルの問題と次期大統領のことと推測しています。
いずれにしても、これだけの人たちが天皇陛下に会いに来たという現実は、ユーラシアが覚醒する構図をつくった基軸が、バチカンと日本というラインであることを如実に物語っています。そらにその流れで、五月にカトリック教徒のケリー国務長官が突然、敵対していたはずのロシアを訪問しています。
(71頁)
(引用終わり)


このことについてはザ・フナイ2023年2月号での舩井勝仁さんとの対談で再度申し上げました。
メルケルは2015年3月9日に東京・築地の浜離宮朝日ホールで来日講演会を開いていますが、このホールの関係者がこの講演会が急遽決まったということを言っていたと人伝いに聞きました。まさにミンスク合意(ミンスク2)が2015年2月11日に調印されて、その後、来日が急遽行なわれたことを物語っています。

・ 『メルケル首相、朝日新聞社来訪 ドイツ特集紙面に笑顔』(2015年3月10日 朝日新聞)


拙著ではこのミンスク合意に至る過程をご説明しました。このことをもう一度、みてみましょう。

(引用はじめ)
「アラブの春」が起きたシリアで、二〇一三年九月、シリア危機が生じました。シリアへ軍事介入しようとする米国とイスラエル及び欧州諸国と、それを阻止しようとするロシア、イランなどの国々との対立が鮮明化したのです。イスラエルがシリアを攻撃したらイランはイスラエルを攻撃すると宣言したほど、もしここで戦端が開かれていたら中東大戦になっていたことは間違いありませんでした。
そこで、バチカンが平和への”関与”を行なったのです。同時に、米国・イスラエルの艦隊がシリアを標的にしていた際、そのなかに割って入ったのがロシアの黒海艦隊でした。黒海艦隊がまさにシリアの盾になり、戦争はギリギリのところで回避されたのです。この動きを以下に見ていきましょう。
(63頁)
(引用終わり)


この中東大戦とは『第三次世界大戦』のことです。
ここで述べた『バチカンが平和への”関与”』とは2013年9月5・6日にロシアのサンクトペテルブルクで開かれたG20でのバチカンの関与のことです。このG20の議長国はロシア、議長はプーチン大統領です。拙著では以下のように書きました。

(引用はじめ)
フランシスコ法王は、これまでもシリア危機やトルコ(ウクライナ)に関与して、戦争が拡大化することを防いでいます。たとえばシリア危機では、「『無益な軍事的解決を脇に置くよう切に願う』――二〇一三年九月にロシアのサンクトペテルブルクで開かれた二〇ヵ国・地域(G20)首脳会議。米国が検討していた対シリア空爆が最終的に回避されたのは、討論の途中で読み上げられた法王の書簡が寄与したとされる」(二〇一四年六月九日 時事通信)と報じられています。
(60頁)
(引用終わり)

法王フランシスコの書簡を読み上げたのはプーチン大統領です。この法王の関与とロシアの黒海艦隊がシリア危機を止め、中東大戦(第三次世界大戦)を止めたのです。この中東大戦(第三次世界大戦)を止めた黒海艦隊について以下のように書きました。


(引用はじめ)
米国・イスラエルにとり大きな障害になった黒海艦隊の母港は、クリミア半島のセヴァストポリ。再度、シリアに軍事介入することを考えれば、黒海艦隊を封殺することがポイントになります。そして、これこそがウクライナ紛争の”本質”なのです。ウクライナ紛争が拡大すればするほど、中東で米国・イスラエルに対抗する勢力が滅殺されていきます。こう考えれば誰がウクライナ紛争を仕掛けているか一目瞭然です。ですから、米国やイスラエルがウクライナに武器供与するという話が出てきます。
(64頁)
(引用終わり)


まさに上記下線部分のとおりで、この部分がミンスク合意をメルケルがまとめた核心と考えます。つまり、メルケルがミンスク合意をまとめたのは、ウクライナではなくロシアにとっての時間稼ぎの意味があるのです。ただ、この時間稼ぎは、ロシアの国防についてではなく、中東を含めたユーラシア全体の安全を確保するためのものと言うほうが正確です。メルケルも、プーチンも自国のことだけを考えて、世界の平和を見据えているわけではないのです。
そして、この2015年当時に書いた構図は、現在のロシア・ウクライナ情勢にかかわっていくわけです。このことを現在的に言い換えれば、ロシア・ウクライナ情勢は中東情勢(中東大戦・第三次世界大戦)に直結するものということなのです。このことは日本では誰も言っていないと思います。そう考えれば、中東の産油国が現状、ロシア寄りになる理由も非常にわかりやすいと思います。
このように観ると、ミンスク合意が結ばれたのは、現在のロシア・ウクライナ情勢だけを視野に入れてと言うより、当時最大の問題であった中東大戦・第三次世界大戦を止めるためにメルケルをはじめとする人々が動いたと考えるのが自然なのです。だからこそ、今回のメルケル発言は、本人が述べているものですが、それは本人の意思を示すものとしては適当ではないのです。つまり、今回のメルケル発言は、字面のウラにある他の意図があると考える方が正解と考えるわけです。
この中東大戦・第三次世界大戦を視野に入れたロシア・ウクライナ情勢の構図と日本の関係について、拙著では以下のように続けました。

(引用はじめ)
そうしたなかで安倍政権もウクライナに援助資金を拠出することを表明しました。援助資金ということですが、その資金を受け取ったウクライナは、その分浮いた予算を他のさまざまな名目で使えるようになります。本書ではカネの流れをテーマにしていますが、軍事情勢におけるカネの流れは極めて重要なのです。
(64頁)
(引用終わり)


このことは、現状を観れば明らかで、安倍政権が反ロシア、親ウクライナであることは一目瞭然なのです。ですから、2022年3月23日、ゼレンスキーが国会でビデオ演説したときに安倍氏は『日本はウクライナとともに』といったわけです。本当にわかりやすい。

・ 『安倍氏「日本はウクライナとともに」 大統領演説受け』(22年3月24日 日本経済新聞)


上掲したように2015年にメルケルが来日した際、『メルケルは安倍首相に「脱原発」と「歴史認識」を突きつけました。また、「ドイツをはじめ、ヨーロッパ全域で安倍政権の”暴走”への懸念が高まっている」』ということをメルケルは安倍氏に突きつけています。それは、当然、この対ウクライナ政策にかかわっていくわけです。基本的にメルケルと安倍氏のスタンスは真逆です。そしてその当時の外相は現在首相の岸田氏ですから、岸田氏のスタンスは明白です。
この『脱原発』と言うことも非常にキーワードで、上述のようにメルケルのガスパイプラインについての動きにかかわっていくわけです。
そして、以下のことも、現在にまったく通じるものです。

(引用はじめ)
さらに、ウクライナ紛争が拡大すれば、西欧とロシアに接する東欧地域も不安定化し、紛争の飛び火もありえます。そうなると東欧の構図は、ウクライナを含め米国が介入することで大きく変っていきます。当然、この構図の変化はまた中東情勢においても、米国やイスラエルを利するものになっていきます。
実はウクライナ紛争当初の二〇一四年四月、米海軍が黒海に入りロシア軍と一触即発の事態にまで至っています。しかし、この流れは同年一二月一日、トルコとロシアがガスパイプラインについて合意したときから大きく変りました。この合意は単なる経済的な側面だけではなく、米軍などに対して黒海の入り口が実質的に締められたことを意味します。この時点からウクライナ紛争の構図は変わり、同時に中東の構図も変わりました。
ここでのポイントは、合意がなされた日の前日の一一月三〇日まで法王フランシスコがトルコを訪問していたことです。もしこの”関与”がなければ、第三次世界大戦が勃発していたとしてもおかしくなかったでしょう。現にフランシスコ法王は先ほども触れたように、この二ヵ月前の九月に「世界は既に第三次世界大戦の状態にある」と述べています。
(65頁)
(引用終わり)


この2014年11月30日の法王フランシスコのトルコ訪問とその翌日である12月1日のガスパイプライン『トルコ・ストリーム』(2020年1月8日開通)についての合意がロシア・トルコ間で成立したときから、中東などの構図が変わり、現在は中東諸国がロシアや中国と歩調を同じくしているわけです。英米・ネオコンが中東大戦・第三次世界大戦にしようとしていたのですから、当然と言えば当然でしょう。
メルケルのミンスク合意とりまとめの背景には、このようなものがあるわけです。ですから、以下のようにメルケルはミンスク合意を迅速にまとめたのです。

(引用はじめ)
その後、ウクライナ紛争の調停は、停戦に向けて独仏両首脳が、二〇一五年二月五日、ウクライナのポロシェンコ大統領と、次いで六日プーチン大統領と会談してから、たった一週間で決着しました。間髪を入れない大変なスピードです。この一連の動きの最終段階となった二〇一五年二月一一日からベラルーシのミンスクにおいて開催された独仏露ウの四ヵ国協議は、夜通しで一六時間を超える異例のものとなりました。この協議はほぼ缶詰状態で行なわれたといわれており、妥結しなければ絶対に終わらないという各国の意思を感じさせるもので、最終的に二月一五日から停戦となったわけです。
この紛争調停の協議は「独仏露VSウクライナ」という構図でなされました。ここで一つ重要なことは、米国が外されたことです。極めてスピーディーに交渉がまとまったことが、米国などに干渉させる隙を与えなかったことを如実に示しています。
つまり欧州は、「ウクライナ紛争は米国によるもの」と見ているということです。そこには、ウクライナ紛争はロシアを抑止し、同時に世界的に戦争を拡大させる装置という欧州の認識があり、当然、この調停に失敗すれば世界的な戦争に発展するという欧州の危機感がありました。このように考えるのは、前述したようにウクライナ紛争が中東情勢と密接に結びついているからです。このことを示すキーワードはシリア危機、黒海艦隊、そしてトルコです。
まさにこの一年の世界情勢は、第三次世界大戦が勃発するか防止するかというギリギリの状況で推移してきました。ローマ法王が「第三次世界大戦は既に始まっている」と表現したのは誇張でも何でもなかったわけです。
そして、この状況の最大の焦点のウクライナ紛争が独仏露で決着したことにより、欧州、ロシア、中東の構図が変わり、ユーラシア全体の構図が変わりました。まさにユーラシアが覚醒したのです。その後、長らく中東の火種であったイランと米国・イスラエルの対立が解消し合意に至ったのもこの流れのことです。
(65頁)
(引用終わり)


下線部の記述は、今もまったく同じで通じるものです。
さらに今や誰もが第三次世界大戦と言っていますが、しかし、それはすでに2013年から始まっているのです。そして、ロシア・ウクライナ情勢はこの第三次世界大戦のまさに肝なのです。


○ 金融資本(イギリス東インド会社、英米・ネオコン・NATO、金融資本・軍産複合体)の第三次世界大戦への動き
上述のように2013年9月5・6日のサンクトペテルブルクでのG20で法王フランシスコの書簡をプーチン大統領が読み上げ、黒海艦隊が盾となって中東大戦・第三次世界大戦は防止されたわけです。これがまさに同年の9月前半の出来事です。
そして、その直後から金融資本(イギリス東インド会社、英米・ネオコン・NATO、金融資本・軍産複合体)は動き始めます。
まず2013年9月18日、米国のウクライナ政策のポイントとされるネオコンのビクトリア・ヌーランド(現国務次官)が、アメリカ合衆国国務次官補(ヨーロッパ・ユーラシア担当)となり、オバマ政権が終わる2017年1月20日まで続けます。ヌーランドはこの役職にあるときに対ウクライナ政策を行なうわけです。
そして、ヌーランドは就任早々、ウクライナの政変を仕掛けます。ウィキペディアには以下のようにあります。

(引用はじめ)
2014年2月、ジェフ・パイアット駐ウクライナ大使との通話内容がYoutubeに投稿された。そこでは2013年末からのウクライナの政情不安についての議論がなされ、ウクライナの今後の体制はアルセニー・ヤツェニュク政権の発足が望ましいものとされ、ビタリ・クリチコやオレグ・チャグニボクの排除が合意された。その場でヌーランドは国連によるウクライナへの介入を支持し、ヌーランドの意にそぐわないEUを「fuck EU(EUなんか、くそくらえ)」と侮蔑する発言をした。これによりウクライナやロシアから、アメリカのウクライナに対する内政介入を批判する声が上がっている。米国務省のサキ報道官はこの会話内容が本物であることを認め、2月6日にヌーランドはEU側に謝罪したと発表した。
また、2013年12月には、ウクライナを巡る会議において「米国は、ソ連崩壊時からウクライナの民主主義支援のため50億ドルを投資した。」と発言している。

・ 『ビクトリア・ヌーランド』(ウィキペディア)
(引用終わり)


オリバー・ストーンの『ウクライナ・オン・ファイア』は、2014年に親露派のヤヌコビッチ大統領に対して政権転覆を仕掛けたのは、バイデンやビクトリア・ヌーランド国務次官などであると指摘しているわけです。
親露派のヤヌコビッチを排除してウクライナを反ロシアにすれば、対ロシア、対中東の構図が変わるわけです。まさに2013年9月にシリア危機、中東大戦・第三次世界大戦が頓挫した直後からオバマ政権が動いているわけです。
バイデンはホワイトハウスでウクライナ政策の担当をしています。BBCは以下のように報じています。

(引用はじめ)
焦点となっているのは、2014年〜2015年の期間だ。バイデン前副大統領はオバマ政権のウクライナ政策を担当していた。そしてこの同じ時期、息子のハンター・バイデン氏は、ウクライナのガス会社役員として高額の報酬を受けていた。

・ 『【解説】 なぜウクライナはアメリカにとってそれほど重要なのか』(2019年11月19日 BBC)
(引用終わり)


2013年9月からのオバマ政権の動きが、親露派のヤヌコビッチを失脚させたユーロマイダン、オデッサの虐殺となり、ヌーランドの『fuck EU(EUなんか、くそくらえ)』となるわけです。そこに当然、ハンター・バイデンのウクライナ問題があるわけです。
このようにオバマ政権、バイデン・ヌーランドは、ウクライナを反ロシアの軍事要塞にする動きを2013年9月以降、急激に行なっているわけです。だからこそ、プーチン・ロシアはクリミア併合に動くわけです。なぜなら、黒海艦隊の母港がクリミアのセバストポリにあるからです。
この米国の攻勢によってウクライナの大統領が親露派から反露に変われば、当然、クリミアのセバストポリに手を打たれる。そうなると黒海艦隊が問題に直面し、動けなくなり、それは中東大戦・第三次世界大戦の問題に直結するわけです。
だから、プーチン・ロシアはクリミア併合に走るわけで、ウクライナ紛争とミンスク合意の前段にはこのような状況があるわけです。ですから、ミンスク合意では、クリミアについてロシアの併合は動かなかったわけです。それが、ミンスク合意の一つの重要なポイントで、それはこの合意のまとめ役のメルケルの意思が反映されていると考えます。この意味でもやはりロシアにとっての時間稼ぎの要素がミンスク合意にはあるのです。
ミンスク合意のあと、米国ではウクライナに関与してきたバイデンが、2016年、トランプとの大統領選で敗れます。トランプはバイデンの正反対ですから、対ロシア姿勢は柔軟で、また戦争をしなかった大統領と言われているくらいですから、戦争の方向性は世界的に収束していきます。
このように観ると、トランプが大統領に就任してから、トランプ政権のロシアとの関係を問題視するロシアゲート問題があり、一方でハンター・バイデンのウクライナ問題がある理由がよくわかります。無論、これらのことは、単に米国内での権力闘争ではなく、その本質は第三次世界大戦なのです。
トランプ時代には米国は大きくウクライナ関与に動かず、平穏でしたが、バイデンになって当然のごとく一気に悪化し、今や第三次世界大戦となっているわけです。


○グローバル・ブリテン、地中海・エーゲ海
ここでザ・フナイ2023年1月号で申し上げたイギリス派遣のグローバル・ブリテンについてお話しをしておきます。
同号では以下のように申し上げました。

(引用はじめ)
片桐 そう見えますが、一番の背景はイギリスであると私は思っています。実はイギリスの動向に対応してプーチンは動いていた。例えば、黒海艦隊がいまポイントになっています。黒海艦隊に対して、イギリスが「ウクライナの海軍増強支援」と発言したのが確か2月2日ごろ(※7)。私の勉強会では「これは第三次世界大戦につながる話」と伝えていました。
黒海艦隊の重要性と第三次世界大戦については連載で最も紙幅を割いたことの一つですが、現状、黒海艦隊がなぜ重要かといえば、グローバル・ブリテンの時代、地中海でイギリスとロシアがぶつかるのです。グローバル・ブリテンとは聞き慣れない言葉だと思います。そしてアメリカの覇権の時代は去年終わっています。まさに日本人のほとんどが知らない時代にすでに突入しています。そういう中に今年のロシア・ウクライナ情勢があります。一般的には恐らく一度で理解できることではないと考えますので、一つ一つお話ししていきます。
(中略)
それでは、そのグローバル・ブリテンとは何か?
グローバル・ブリテンとは、イギリスが世界の海に艦隊を派遣し、世界秩序の安定に貢献していくと2017年に当時の英首相テリーザ・メイが空母・クイーン・エリザベスの艦上で明確に宣言したイギリスの世界戦略です。
したがって、ご質問にお答えするのなら、次の覇権国はイギリスということになると思いますが、話はそう簡単ではなく、正確には次の覇権国になるためにイギリスが動き始めたということです。
そのイギリスの動きの中に現在のロシア・ウクライナ情勢があるわけです。少なくとも2013年以来、グローバル・ブリテン(英米)がウクライナを反ロシアの軍事要塞にしてきたわけです。そのアクションを静観するとロシアの自衛が成り立たないので、ロシアがそのアクションに対するリアクションを起こした。だからプーチンは一貫して大祖国戦争と言っているのです。
そしてすでにロシア・ウクライナ情勢は、グローバル・ブリテン(英米)とロシアとの戦いになっているので第三次世界大戦ということなのです。
(引用終わり)


当然、このグローバル・ブリテンとロシアの関係においては、中東情勢が入るわけです。イギリスが『世界の海に艦隊を派遣し、世界秩序の安定に貢献していく』ためにインド・太平洋方面へは、地中海からスエズを経て中東を通っていくわけです。
だからこそ、地中海でロシアの黒海艦隊とぶつかると言うことが出てくるわけです。実はロシアとイギリスが地中海でぶつかるという構図は、19世紀のディズレーリの時代からあるものなのです。
だからこそ、黒海艦隊、イギリスによるウクライナの海軍増強支援、トルコ、地中海、そして中東諸国と言うことがポイントになるのです。ですので、今や中東諸国が英米ではなく、ロシア寄りになっていることの意味は非常に大きいのです。
このグローバル・ブリテンはEU離脱のブレグジットにかかわり、そのことから当然、ロシアと欧州が親密になることをイギリス(金融資本など)が非常に敵視するということになるわけです。そこにロシアと欧州とのガスパイプラインのポイントがあるわけです。


○ メルケル発言の真意とロシアの当然の反応
ここまでのお話しをご覧いただくと、冒頭に申し上げたように今回のメルケル発言に対して、私がこれまで申し上げてきたことを訂正・撤回する必要がないことはおわかり頂けるのではないかと思います。
では、メルケルの真意は何か?
ノルドストリームを進めたメルケルは基本的にロシアとの協調路線であり、だからこそミンスク合意を米抜きで進めたと考えます。上述したように、これまで中東や欧州・ロシアの協調と平和を実現するためにメルケルは行動してきましたから、今回の発言はその延長にあることは当然です。
このように観ると、今回のメルケル発言によって英米・ネオコン・NATOがウクライナの政権転覆を含めて関与し、ウクライナを反ロシアの軍事要塞にしてきたことを明確にすることにメルケルの真意があることは明白と考えます。そして、メルケルが西側でタブーとなっていることを明示することによって、英米・ネオコン・NATOが対ロシアの第三次世界大戦を肯定する『2022年2月24日に狂ったプーチン・ロシアが、ひ弱なウクライを侵略したから、その狂ったプーチン・ロシアを叩け』という現在の西側での論拠を完全に破壊するわけです。
このようなメルケルの姿勢は、2008年に同氏がウクライナとジョージアのNATO加盟に反対したこととも共通するわけです。無論、だからこそ、メルケルのこれまでの施策は、英米・ネオコン・NATOによる『ひ弱なウクライナを助け、狂ったプーチン・ロシアを叩け』という世界観からは批判されるわけです。
しかし、メルケルの姿勢は、現在でもウクライナが糾弾してきたドイツのウクライナに対する消極的な関与に表れていると考えます。むしろだからこそ、そのドイツの姿勢の張本人であるメルケルをドイツ内において英米・ネオコン・NATOが批判し、攻撃しているものと考えるのが自然と考えます。要するにドイツを力尽くで英米・ネオコン・NATOが変えようとしているわけです。無論、そこには民主主義はありません。
今回のメルケル発言は、もう一つのことを明確にします。それは2022年2月24日からロシアがウクライナで展開している特殊軍事作戦の正当性を導き出したことです。
このような一般的認識とは真逆の事態を明確にすることにメルケルの真意があることは明らかと考えます。したがって、このメルケルの真意は、彼女の過去を語るものではなく、現在に対処することにあることは明らかと考えます。
このメルケル発言で、プーチンが追い込まれる可能性はあります。なぜなら、プーチンはメルケルによってだまされ、ロシアにとって後ろ向きな状況を招いたと言われる可能性があるからで、このことによってロシア内の対欧州強硬派の台頭をもたらす可能性をはらんでいます。
しかし、プーチンは2024年2月24日からの対ウクライナ特殊軍事作戦を開始しているわけですから、この論拠が力を持つ可能性は大きくはないと考えます。今回のメルケル発言は、ここまでの計算があると考えます。これらのことメルケルもプーチンも織り込み済みと考えます。
このような今回のメルケル発言ですから、この発言に対するロシアの反応は、当然、このメルケル発言に乗るものになります。
ロシアのメディアであるスプートニクを観ると、まず以下のようにロシア外務省が『西側はウクライナ強化のためミンスク合意を利用』と英米・ネオコン・NATOが長らくウクライナに関与してきてロシアの安全保障を脅かしてきたと糾弾するわけです。そしてこれは、当然、2024年2月24日からのロシアの対ウクライナ特殊軍事作戦を肯定するものになります。

・ 『西側はウクライナ強化のためミンスク合意を利用=露外務省』(2022年12月8日 スプートニク)


そして、プーチンは以下のように、このメルケル発言が英米・ネオコン・NATOがウクライナに関与してきたことを証明したことをもって、『西側諸国は長年にわたりドンバスで虐殺とテロを奨励してきた』と糾弾するわけです。むろん、これもロシアの対ウクライナ特殊軍事作戦を肯定するものになります。

・ 『西側諸国は長年にわたりドンバスで虐殺とテロを奨励してきた=プーチン大統領』(2022年12月9日 スプートニク)


そして、以下のようにプーチンは、メルケルには失望と言って、ロシアの対ウクライナ特殊軍事作戦を肯定することをはっきりと言うわけです。この反応は、メルケル発言の真意にぴったりと対応するものなのです。

(引用はじめ)
「思いがけないことで失望している。メルケル氏の言葉は、ロシアが人々を守るために特殊軍事作戦を始めたことが正しかったことを証明するものだ。欧州諸国でさえどの国も合意を履行しようとせず、ウクライナを兵器で満たそうとしていただけだったということだ」

・ 『「ウクライナ和平に期待し動くのが遅れた」=プーチン大統領 メルケル氏には「失望」』(2022年12月9日 スプートニク)
(引用終わり)


このようにメルケルとプーチンの発言を観ていると、しっかりとこの両名は世界の状況を平和に導くために考えているということがわかります。
この両名はミンスク合意を締結したときから中東の戦争やロシア・欧州の戦争などが視野に入っています。このミンスク合意の本質は今にいたるまでロシア・ウクライナ情勢だけではなく中東、欧州全体及びユーラシア全体が視野に入っていると考えます。
ですから、中国も2022年2月24日以来、ロシアに対して敵対的な姿勢をとっていはいません。英連邦のインドにしても今のところ中立です。そして、中東がロシア寄りになっているのは、このように観ると必然と考えます。2013年から中東大戦の危機を救ってきたのはプーチン・ロシアであり、中東がロシアと方向性を同じくしているのは当然であり、象徴的なことなのです。
現状においても2015年のミンスク合意締結時のキーワード『ロシア、フランス、ドイツ、バチカン、ウクライナ、中東、トルコ、地中海(エーゲ海)、黒海艦隊(セバストポリ)、第三次世界大戦(含む中東大戦)、ガスパイプライン、米国』は有効で、ここにプラスするとすれば『NATOの東方拡大、グローバル・ブリテン、トルコとバチカン、ノルドストリーム』などになると考えます。
今回のメルケル発言は、私にとってちょっと困った話ではありましたが、本当の意味で困ったのは、英米・ネオコン・NATOなのです。それは、この発言によって2022年2月24日以来の『ひ弱なウクライを侵略した狂ったプーチン・ロシアを叩け』という論拠が崩れるからです。メルケル発言のポイントはそこにあり、このように観れば、首相在任時からあるメルケルのロシアとの協調路線というスタンスは変わっていないと判断できます。そして、だからこそメルケルはドイツで批判され、攻撃されているわけです。


○ メルケルはなぜ今話したのか?
今回、メルケル発言が飛び出した状況はいかなるものか? 考えられるのは政治的に追い詰められていることを利用しての反論とも考えれらますが、まだわかりません。
それとも、以下のようにドイツで『貴族の子孫』などの極右グループが逮捕されたことと関係するのでしょうか? まだわかりませんが、このグループはQアノンの影響を受けているとあります。Qアノンは『CIA』なので、そう考えたとき、メルケルではなく英米・ネオコン・NATOとの関係があるとも考えられます。

・ 『ドイツで国家転覆画策か 貴族の子孫・裁判官ら25人逮捕』(2022年12月8日)


現時点ではまだ断定はできませんが、むしろ、以下の3つの記事に関連する可能性があるようにも考えられます。この3つの記事は、ウクライナの劣勢を報じるものです。これまでロシアの劣勢が西側ではずっと言われてきましたが、ここに来てウクライナの劣勢が報じられるようになっています。
このような情勢において、メルケルは英米・ネオコン・NATOとウクライナに不利な発言をして、ロシア・ウクライナ情勢を終幕に持ち込もうとしている可能性は大きいものと考えます。実際、今回のメルケル発言では、ミンスク合意をつかってウクライナの強化をしてきたと言っていますが、以下の記事だとウクライナは劣勢になっているわけです。こういう『矛盾』も計算のうちと考えることはできます。無論、ロシア・ウクライナ情勢がこの反対かもしれません。いずれにせよ、現状ではメルケルがどのような状況において今回の発言をしたのかを断定する決定的な要素は見いだしていません。

・ 『東部戦況の「難局」認める、抗戦は続く ウクライナ大統領』(2022年12月10日 CNN)

・ 『ウクライナで徴兵逃れ横行 「富裕層にあっせん」』(2022年12月9日 共同通信)

・ 『ウクライナ・ニュース:沼地の塹壕、短期訓練、弾切れ』(2022年12月8日 マスコミに載らない海外記事)

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内容は今まで見たことのない国際情勢と世界史の分析で、2024年の世界情勢の根本要因が書かれています。この本とザ・フナイの連載をトータルで読むと、ロシア・ウクライナ情勢、パレスチナ・イスラエル情勢及び中東情勢、東アジア情勢など現在の世界情勢の本質が見えてきます。もちろん、日本国内の情勢も見えてきます。内外情勢は決して別々ではない。
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片桐 勇治(かたぎり ゆうじ)プロフィール
1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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