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短篇小説:おりもじ
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たとえばあの時
[人生]
2010年2月7日 2時27分の記事
■人生:funny■
「もしもあの時〜していれば」と思う事がある。
体外それは、そう決断できなった自分へのフォローである。
と共に、そう決断できなかった為に歩んでいる現状へのフォローである。
from:ふりむく10題
http://xss.blog116.fc2.com/
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「俺は偉大な芸術家なんだ!世の中はそれを理解っていない!」
誇大妄想に取り付かれた神経質な男はそう叫び散らした。
男は長年趣味で続けてきた造形について、自身には芸術的センスがあり、それは世の中に賛美されて然るべきであるのに全く脚光も浴びないことを酷く嘆いていたものである。
しかしその理由がわからなかったので、男は、何故自分の作品や才能が世の中の賛美を浴びないかということについて彼自身の答えを出さざるを得なかった。そこで男が考えついたのが、あまりにも革新的だから、という理由である。
「世の中はまだ俺についてこれないのだ!だから理解できないのだ!」
それであれば仕方があるまいと了解した男は、数年後にやっと理解されるであろうあまりにも革新的な作品を、それはもう熱心に手がけていった。
今時分に理解されずとも数年後には理解される予定なのだから、その時にはセンセーショナルを起こすくらい納得のいく素晴らしい作品が完成されていなければならない。過去の作品はどれも素晴らしいが、それでもそれを超えるものがあれば尚良いだろう。そう考えて、男は何年もの間その作業に没頭していったのだった。
ところが、数年が経っても男の作品は脚光を浴びることなど全く無かった。これはどうしたことだろうかと一層神経質になった男は、これは何かの間違いだと頭を抱えたものである。
一体何がいけなかったのだろうか、この予想外の展開には何か原因たるものが存在しているのに違いない。つまり理由が存在しなければならないのだ。そこで男は、やはりこの事態に対しての答えを考え出したのである。
「そうだ!例えばあの時外出していなかったら、記者が困って帰ることなどなかったのかもしれない!」
男はそう叫んだ。
「そうだ!例えばあの時電話に出ていたら、感嘆に震える人々の声を聞き逃さなかったのかもしれない!」
男はそうも叫んだ。
「そうだ!例えばあの時食事を残さなければ、健康になって作品に悪影響が出なかったのかもしれない!」
男はまたそうも叫んだ。
「そうだ!例えばあの時風呂に浸からなければ、才能の欠片である垢が落ちなかったのかもしれない!」
男はまたそんなことも叫んだ。
これらを聞いていた彼の妻は、数年もの間続いてきた誇大妄想としか言いようのない神経質な夫の叫びに、いい加減疲れを感じてしまったものである。しかしこの妻は、長年この男と連れ添ってきた経験があるだけに、神経質な夫を更に神経質にさせてはいけないと思い、慰めるようにこう言った。
「例えば例えばって言いますけど、あなた。それだったら、まずはその作品を人の目に触れるところに出してみたらいかが?」
END
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