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かわってしまった街並み
[人生]
2010年2月8日 22時46分の記事

■人生:SERIOUS■
街並みが変わるといつの間にか人はそれに慣れる。
人は利便さと引き換えにその場所にあった思い出を失う。
そして、やがて誰もそれを思い出さなくなる。
その時それは時代の変遷を意味しているのかもしれない。

FROM:ふりむく10題
http://xss.blog116.fc2.com/


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 ねえ、覚えてるかな。
 あの頃、この町は僕らの町だったよね。
 古ぼけた小さな商店街は僕らの遊び場所で、いつも僕らは商店街に来ては走り回っていたよね。楽しかったあの頃を、まだ覚えてるかな。
 
 
 
 商店街の入り口には、小さな駄菓子屋さんがあったよね。
 シミがいっぱいある駄菓子屋さんのおばあちゃんは優しくて、10円ガムを1つ買うだけの僕らにオマケだよと言って30円の駄菓子をくれたよね。人差し指を口に当てて、しいって言って、秘密だよって笑ってた。
 
 商店街を進んでいくと、途中には八百屋があったよね。
 威勢の良い八百屋のおじちゃんは豪快で、入ったばっかりの大きな野菜をすごだろうと言って見せてくれたよね。ちょっと形が崩れちゃったからって、たまにリンゴをくれたっけ。傷だらけのリンゴを丸かじりする僕らに、咽喉につまらせるなよっておじちゃんは笑ってた。
 
 商店街の終わりには、小さな文房具屋があったよね。
 物静かな店番のお兄さんは、いつも僕らの話し相手になってくれたよね。学校でこんなことがあったよって、面白い虫を見つけたよって、そんな何でもない話を、何度も頷きながら聞いてくれたんだよね。いつだかお兄さんがいなくなっちゃったときには、僕ら揃って泣き出したっけ。そんな僕らのことをどこからか聞いたのか、ある日突然お兄さんが遊びに来てくれたんだ。
 
 商店街を抜けると、小さな公園があったよね。
 鉄棒ができなくって一生懸命練習して、大怪我をしたことがあったよね。家に帰ってお母さんに怒られたけど、鉄棒ができるようになったんだよって言ったら、良く頑張ったねって頭を撫でて褒めてくれたっけ。
 
 商店街のずっと向こうには、古い工場の跡があったよね。
 もう使っていない工場は僕らの秘密基地で、僕ら夢中になって遊んだよね。此処は危ないからって何度も注意されたけど、そんなには構わずに走り回ったっけ。たまにオヤツを持ち込んで、みんなでこっそり食べたりもしたよね。その内その工場の跡が立ち入り禁止になったときには、僕ら一列に並んで、ぴっと敬礼して、解散をしたんだよね。
 
 
 
 あれから何年経ったのでしょうか。
 あの頃僕らのものだったこの町は、今ではもう僕らの町ではなくなってしまいました。活気があった商店街には閉店の張り紙が目立ち、ハンバーガーのチェーン店や外資系の珈琲ショップだけが唯一人の足を運ばせている状態です。
 
 十数年前から計画されていた再開発が今になってようやく進み、町は急速に破壊され、かつての面影さえも奪われていきます。長らくその場に住まっていた人々も立ち退きを余儀なくされ、今では寂しい人通りなのです。
 
 再開発が進み、それが完成すれば、この町は新しい町として活気を取り戻すことでしょう。理路整然とした町並みと、有名で便利な店の数々が、僕らの生活をより良いものにしてくれることを、この再開発は唱えているのです。
 
 しかし、かつての僕らにとって、再開発などどうでも良いことだったのです。整った町並みや、便利なことや、有名なお店や、そんなものは必要ではなかったのです。僕らはそういった計画が水面下で進められていることなど露知らずに、僕らの町を自由に生きてきました。そしてそれは、幸せでした。
 
 駄菓子屋のおばあちゃんは、三年前に逝去したそうです。八百屋のおじちゃんもすっかり店を畳み、今では年金生活を送っているとのことでした。文房具屋のお兄さんは今頃家庭を築いて幸せに暮らしていることでしょう。けれどそれを知る手立てはありませんし、仮にかつてのようにお兄さんが遊びに来てくれたとしても、もうこの町にはお兄さんが戻るべき文房具屋さんはありません。公園は、再開発予定地内にあったために取り壊されてしまいました。また、あの工場の跡ですが、これは今では車の展示場になっています。
 
 
 
 あの頃、この町は僕らの町でした。
 泥んこになりながらも、幸せと笑顔が溢れ返る、とても素晴らしい町でした。
 しかし今では、それを思い出す人はいないでしょう。
 
 
 
 近い未来にはきっと――、
 この薄れた記憶の上に新たな思い出と笑顔が溢れる日がくることでしょう。
 
 
 
 END

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