森の中のバカ | |
[オートマチック・ガールズライフル2(小説)] | |
2018年11月29日 17時5分の記事 | |
ガールズライフル2二話です。
主よ。 愚かな私たちをお許しください。 文明は未成熟で未発達で、いまだに争いを繰り返して憎みあっています。 重すぎる罪を背負う私たちを見捨てないでください。 言葉にせずに心の中で祈る。 明け方、宿舎のベッドの上で手を合わせて組み、天に祈りをささげる。 1年前からの私の日課。別に宗教に入信しているわけじゃないけど、祈らずにはいられない。 信じられない世界、人間同士が憎みあい、殺しあっている。 宗教に入らなくとも、神様は信じているから。 私の神様は私の中にいる、誰かが敬えと教えた誰かの神様じゃない。 私とともに泣き、怒り、笑っている私の神様。 いつか世界が等しく、皆が手をつなぎ笑いあう日まで。 南部歴108年、私の住む村が戦場になった。 私は学生だが、国家招集例の名のもと、軍に徴兵された。 母、アン・ユウリィの警告通りに私も人殺しに加担した。 カンガルー条約機構とペパーミント連邦の再度の紛争。 平和と戦争を繰り返す人類は、なんかバカみたい。 「各自銃をとれ」 「セーフティレバーを確認してマガジンと手りゅう弾、レーション(携帯食)、フィールドパッグとファーストエイドツールとナイフも携行する」 「s2ヘルメット防弾ジャケットは自分のサイズに合ったものを選べ」 あーもう。ドキドキする。 なんでこんな非生産的な活動を学校が強制できるのよ? 最初の戦闘で、同学年の12人が死んだ。 軍正規部隊が最前線で戦闘しているから、学徒兵の私たちは後方の安全な配置のはずなんだけど。 敵軍が内地に侵攻してきた。最初は航空支援、空軍の空爆だった。 建物の中が安心というわけじゃない、爆撃の対象になっている家屋ならなおのこと。 例えそれが誤爆であっても。 ドン!!バラバラバラ・・・ 壁が背後から襲ってきた、崩れ落ちた壁の下敷きになる。 私たちが居る小屋が被害を受けた。壁が崩れ落ち、穴が開いた屋根から日の光が差す。 灰と残骸のカスを被る私。もう顔は真っ黒いだろう。 「死傷者の確認」 「ここが前線基地と勘違いされているようだ」 「敵部隊が来るぞ」 もうさっきから心臓がバクバクして飛び出そう! 怖いんだよ・・・ 外へ出た、遮蔽物に身を隠して銃撃戦が始まっている。 会敵。 銃弾が飛んでくる。 ビチビチ! 味方の歩兵は約40人、敵は50人ほどか・・・ 学校の敷地が戦場になっている。 神聖な学び舎が野蛮な悪意に汚されてゆく。 機甲部隊、タイプ・マン戦車二両がカヴァーしてくれる。 ズドン!! 敵戦車バイタリン5両のお出迎えだ。戦車戦になってきた。 林の奥で敵の戦車の主砲が火を噴く。 森が破壊されてゆく。 自然は何も語らない。本当にそうだろうか。 対戦車ライフルを構えていた味方の男子学生兵が銃撃されて死んだ。 頭が吹き飛んでライフルをその場に落として後ろに倒れこむ。 ギャーッ!! 怖いいい! 校門に隠れている敵兵に狙いをつける。 涙が出てきた。 心臓の音が聞こえてきた!ドクンドクン言ってる! フロントサイトとリアサイトの間にターゲットを合わせる。 バルンッ 当たらない・・・ ビシッチ! ! その敵の銃弾がヘルメットをかすめる。 「あ・・・」 死ぬう! 今までの人生が走馬灯のように浮かんでくる。 トン グチャ! 味方の誰かがグレネードランチャーを放った。 その敵兵がミンチになった。 「うわ〜・・・」 左手のこぶしで涙をぬぐう。 教官の言葉が脳裏をよぎった。 「憎い敵兵を倒せるな」 憎い?いったい何が? 誰も憎くはないよ、何も憎んではいない・・・ ペパーミント連邦だって同じ人間だ、何も変わんない。 一生懸命教師が敵軍の非道さを教えるけど、全部嘘だってわかる。 戦いは正義じゃない。 ! マイトク! 「マイ!」 親友のマイ・マイトクがうつ伏せに倒れている。頭から血を流して。 マイのs2ヘルメットを取り、仰向けにし、両腕に抱きかかえる。 駄目だ、瞳孔が開いている。ほっぺたをたたいても身動きしない。 左腕がなくなっている。内臓もはみ出して。 また涙が出てきた。手袋の両手がマイの血でまっ赤く濡れる。 マイトクを抱きしめる、こんなにも無力なんて。 「マイ・・・」 マイトクの両親の顔が思い浮かんだ。 なんて言えばいいんだよ・・・ 味方の戦車、マン式が一両撃破されて、敵戦車バイタリン三両撃破。残り二両は撤退した。 敵部隊は撤退していった。味方は8名戦死。 部隊が最編成される。 第三大隊D中隊9分隊、分隊長の戦闘指揮官クライ少尉、高橋曹長、グレン軍曹。私たち新兵の面倒を見てくれる。 新兵は、カール二等兵、田中二等兵、女子のサイコ・タバタ二等兵、私アニタ・ユウリィ二等兵。 支給されている自動小銃を両手に持つ、重い。鉄とプラスチック成型の部品でできた人を殺すための道具だ。 こんなものを開発するから戦争なんて非合法の商売が成り立つんだ。 この子、血に飢えているのかな。持つものでも撃たれるものでもどっちでもいいんだよね。 自動小銃をこの子なんて呼んじゃった、私もイカレタかな。 この自動小銃は501式、前紛争で使われた101式から改良発展してきた後継機種。 「あんたはオイルさして綺麗に手入れしてやんなきゃまともに人も殺せんぐうたらだね」 この子と会話してるわ、私・・・ 私は見た、投降した敵兵を味方の兵が撃ち殺した。 どうやら戦場という場所は、人をマシーンに変えてしまうようだな。 負傷した味方の兵士が救護所で手当てを受けている。 ぐじゅ 涙をこぶしで拭う。 絶望の季節がやってきた、人の形をしたケダモノがわがもの顔で闊歩している。 素直に負けを認めちまいなよ、私にはこの世界を救えませんって。 組織の中で生きるただの駒にすぎないってね。 ああ、私にはこの世界を救う能力がない、誰にも救えないんだろうか? この世はなんて残酷なんだろう。 身の安全の保障もないなんて。 今日を勝ち取るためにいったい幾度戦えばいいの? 戦争は個を否定する、集団の正義の中に個人は含まれない。 誰もが正義を主張するなら、いったい誰が悪役を演じてくれるのだろう。 これから私は涙を流すだろう、悲しみと絶望にうちのめされて。 死んでしまえばそんな苦労もしなくてもいいのかな。 それでも死にたくないから、私はあがなうのだよね。 「ユウリィ二等兵」 「は、なんでありますかグレン軍曹殿」 「生理用品はフィールドバッグに入れておけ」 「目立つように見せびらかすんじゃない」 「申し訳ありません!」 顔が真っ赤になった。これだから男って奴は!デリカシーもない。 二時間後に私たちのD中隊は前線へ投入されるらしい。 生き残ってみせるよ、母さん・・・ | |
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