涙の海を完泳せよ3 | |
2020年11月20日 1時49分の記事 | |
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今日学校帰りに歩道の石を蹴った。 彼女はふてくされた顔で屋台のたい焼きを買ってきた。 セーラー服を脱ぎ散らかして、携帯電話を放り投げる。 学校でつまらないことがあったから。 ほんの些細なことで同級生と言い争いになった。 本当につまらない原因。 スウェットスーツに着替えてからベッドに突っ伏す。 ボム グスグス泣きながら熱いたい焼きを食べる。 あんこが少ないなとか思いながら、彼女は明日の身体測定を気にする。 弟のタイゾウが不登校でひきこもりだから、親がいつも怒っている。 変に優しくして甘やかしてはいけないと言う親。 彼女は知っている。 誰もが寝静まった深夜2時、タイゾウが一人で出かける。 最近毎日だ。 ある日気になって彼を尾行した。 暗い夜道で彼女は何回かコケたが、彼は夜目が良い様だ。 町外れの小高い丘を駆け上ると階段の先に、広い展望台がある。 いきなり現れた彼越しの満天の夜空に、心がときめいてしまった。 「うわあ・・・」 「おねーちゃん!」 タイゾウが驚いて振り向く。 彼は寝巻きのままここに来ているようだ。 周りに高い建物がないから夜空が天の川一色だ。 学校の理科の教科書で見たような星の地図が目の前に広がる。 彼女はコンクリの踊り場で黙って踊りだした。星がお客に思えた。 「おねーちゃん」 何も会話はなかったが、何も問題は起きなかった。 一時間ほど二人並んで天の川を眺めてから言う。 「綺麗だねタイゾウ」 「うん」 それから毎日の会話は無い。 でも知っているから。弟が人生を諦めてはいないことを。 朝が来るまでの瑠璃色の空、ベッドで天井を見つめる。 明日はあの娘にどんな顔で会えば良いんだろう。 ごめんと一言が言えない。 たった一言が言えないだけでこんなに困るのに。 あれからいつも天の川銀河を思い出す。 夜はいつも静かだ、ここらへんはへき地だから。 誰かといっしょがいいな。ひとりぼっちはさみしいから。 弟はいつも一人で泣いているのに、親に何も文句を言わない。 「星に話しかけるのかな」 ほかの同級生の娘と話したこと。 遠足でフェリーに乗ったとき。 「ねえみっちょん」「あの水しぶきは生きてるのよね」 「ええ?」「確かに生きてるように見えるよねえ」「あははは」 なんで記憶はあるのかな。 なんで都合よく消えたり覚えたり出来ないんだろ。 「・・・・」 がば またあの展望台へ行きたくなった。 今度はコケずに来られたが、タイゾウは居なかった。 時間が違うのだろう。 「うわあ」 今日も快晴の満天夜空だ。 天の川銀河が鮮やかに広がっている。 「ふんふんふん♪」 誰かに見られてたらなんて踊る理由には成らないよ。 今夜は私も寝巻きだ。ひきこもりってイカス・・・ 朝までこうしていたいな。何も考えずに。 「星のお客さんは何億人?」 軽やかなステップは、満天の星のお客さんに魅了されている。 明日の朝が来たら、また学校であの娘に「おはよう!」て言おう。 いつもの笑顔で。
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