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¶二年目 16 アイリスの思惑
[¶二年目 16 アイリスの思惑]
2011年2月8日 15時48分の記事



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$「アースルーリンドの騎士」


16 アイリスの思惑

…その晩の騒ぎにアイリスは共同の居間に顔を出し、スフォルツァの胸に抱かれる金髪の幼い少年を見た。

四年のローフィスが部屋を出て行くと、スフォルツァの視線が見つめている自分に向けられる。

そして…保護を求めるようにしなだれかかる少年を抱きながらそっと…済まなさそうに微かに頷いた。

アイリスも、残念そうな顔を作って了承した。と頷いてみせたが、内心はかつて無い程晴れやかで、拍手を送りたい程だった。

その少年を送り込んでくれた、身内の誰かに。

今夜スフォルツァは少年の世話で忙しいだろうし、自分はお役ご免だ。

それに明日は待ちに待った学年無差別剣の練習試合。

それが済めばスフォルツァのボスの座は揺るがぬ物となり、自分はようやく…お姫様役から、解放される。

少年を抱いて自室に戻るスフォルツァの背を見送った時…まるで旦那に浮気された妻に向けるような視線を皆から浴びせられている事に気づき、アイリスは無理ににっこり笑顔を作り、視線の主達に送った。

伺うような視線は一斉に、同情の視線に変わり行き、アイリスはやっぱりそこら中の壁を、ぼこぼこに殴りたくなったが我慢した。

だが努めてしゅん。として背を丸め、しおらしく自室に引っ込む。

笑みが、漏れた。
シェイムが明日の衣服を整えようと扉を開けていた。

見られたが、構わなかった。
「いいニュースですか?」

「最高にね!
今夜は自室で眠れる」

シェイムが微笑んだ。
「では誰か代わりが?」

「スフォルツァの故郷の少年が、彼の元に押しかけてきた。
…気の毒だったのは、どうやらグーデンの手下に捕まったらしくて、悪戯されかけた事だ」

シェイムは眉を寄せる。
「…どうしてまともに相手を求められないのか、理解出来かねますね」

アイリスはその、背の高くハンサムで好男子の従者を見た。
「…全く、同感だ。
やっぱり相手に不自由すると、ああなるのかな?」

「でもグーデンは王族で見目だっていいんでしょう?」
アイリスは素っ気なく言った。

「そういう偉そうな奴程、本当に人には、好かれないものだ」
「…確かに、そうでしょうが…。
で?明日のお召し物はどうしましょう?」

アイリスは聞かれて考え込んだ。
身の下に鎧を着ければ間違いなく苦戦するし、まともに剣も振れない。

がその状態で自分がどこ迄勝ち上がれるのか、試したかった。

…オーガスタスには下に着けてる。と一発でバレるだろうし、それ以外の目端の利く者にもやっぱり、バレるだろうな…。

その顔色を読んだように、シェイムが囁く。
「ではなるべくバレないようなお召し物を選びます」

アイリスは顔を上げると、良く解った召使いに頷いて見せた。
シェイムは爽やかな微笑を返し、部屋を出て行った。

アイリスは足をテーブルの上に乗せて椅子の上にふんぞり返ると、思いっきりのびをした。

これでようやく、共同の浴場にだって堂々と出入りできる。
大貴族専用の浴場だったけどそれでも…かなり鍛え上げたこの裸を、病弱に見せるのは無理があった。

まあ最も…スフォルツァとやってる。とバレてたから、それ以外でも散々、好奇の瞳で見られたろうが。

下働きの者に、小さな浴槽に湯を運んで貰いこっそり縮こまって浸かるか、抜け出しては農村の共同浴場で農夫に混じって浸かる苦労はもう、しなくていい。

第一おてんばな姫が王子に嫌われまいと体裁を構うように、努めてしおらしくして無くていいんだ。と思うと、踊り出したい気分だった。

けど…ノックの音が、した。

開けるとスフォルツァが…すまなそうな顔を出す。
びっくりしてつい、囁く。

「あの…さっきの…少年は?」
スフォルツァはもっと、俯く。

首を横に振り躊躇い…が口早につぶやく。
「…今夜は付いていてやらないと…」

アイリスは努めて、同情をその表情に浮かべる。
「…悪戯されたんなら…ずっと付いていてあげないと…。
だってまだ、とても小さいんだろう?」

「12だ」
言って、スフォルツァは顔を上げる。
「けど情事には慣れてるし、俺の他にも相手が居る」

アイリスはすかさず囁く。
「…それでも君が良くて、ここ迄偲んで来たんだろう?」

聞いてやると途端、スフォルツァが項垂れた。
頭を思い切り前倒す、彼が気の毒には思えた。
がアイリスは言った。

「出来るだけの事はしてあげないと」

スフォルツァは、項垂れたまま頷いた。
が顔を上げてきっぱりと言う。
「けど、一番は君だ」

アイリスは戸惑うように囁いた。
「けどそれを、あの少年には言えないだろう?
あんな小さな少年がたった一人で、こんな所迄来たんだ。

…もしそれを聞いたら、とてもがっかりするだろうな」

スフォルツァはがっくり。と頭を垂れる。
言いたそうだった。
アイリスにもそれは解った。

“けどあの子はずっとここに、居る訳じゃない”と。

つまりずっと一緒にここに居る自分が都合がいい相手だし、一番で当然だ。

…そう…言った途端アイリスに切り返される気がして、スフォルツァは口を閉ざす。

アイリスが、そっと言った。
「迎えの者はいつ来るって?」
「早ければ、今夜」
「けど…うんと遅くだろう?」

スフォルツァはまた、俯いた。
「…そうだな」

確かに項垂れてるスフォルツァは気の毒だったが、アイリスは現実を彼に、叩き込む。

「ともかく…試合が終わったら、ゆっくり話そう…。

君だって…明日は大事な日だと、解ってる筈だ。
同学年にすら、使い手は結構居る。

万が一勝ち上がれば、次は…全校で二位に輝いた、二年のローランデと間違い無く当たる」

スフォルツァはごくり…。と唾を飲み込んだ。
そのローランデは一年等歯牙にもかけず、三年、四年を打ち破り再び…学年一の、称号に挑む。

ディアヴォロスの居ない今、それを手にする絶好の機会を、彼がモノに出来るかどうか、学校中が伺っている。

去年のあれは、まぐれか真の実力か。

皆それを知りたくて。

スフォルツァはそれでも顔を上げ…アイリスの顔を何か言いたそうにじっと見つめ…が一つ、頷き囁く。

「頼む…聞かせてくれ。
君は俺に…学年一に、成って欲しいか?」

アイリスは即答した。
「当然だろう?
君にしか、その地位を譲るつもりは無い」

スフォルツァの、グリーングレーの瞳が輝く。
真っ直ぐそう言ったアイリスを見つめ返し、確かな眼差し手をその愛しい人に注ぎ、頷いた。

“間違いない”

スフォルツァの表情を見たアイリスの直感。
それは確証だった。

アイリスは扉を閉め…背を閉めた扉に少しもたせかけて俯く。
スフォルツァは必ず明日、勝ち上がってローランデと剣を、交えるだろう。

スフォルツァが決して人の期待を裏切らない…思惑道理の男なら。


 スフォルツァが部屋に戻ると、寝台の上のアシュアークが直ぐ、抱きつきしなだれかかって来る。

その…小さな手でしがみつかれると、情欲に火が灯るのは直ぐだった。

上げた青いあどけない瞳が濡れていて、もう…アシュアークの欲する通りその小さく可憐な体を…好きなだけ鳴かせる事に夢中に成る。

アシュアークと居ると、いつもだった。

その可憐な体の温もりは愛おしく…けれど時折、憎くなった。

簡単に身を明け渡す癖に決して…自分一人の者にはなり得ない。

だからついいつも…乱暴に扱ってしまうのだろうか…。

もし自分だけを欲し、求め…待ち焦がれてくれていたら………。
そしたらもうきっと…アシュアークだけの物で…自分も居られたろう…。

顔を上げさせると、可愛らしい白面が目に映る。
顔を寄せ口づけるともう…アシュアークは震っていた。

腕に思い切り抱きしめると小さな体がしなる。
だけどつい…アシュアーク相手だと、意地悪を言ってしまう…。

「もう…こんなだ…。
奴らは、くれなかったのか?

煽るだけで?」

アシュアークが眉を寄せ、首を横に振る。

綺麗な…黄金色の髪が揺れる。
長い髪をかき抱き、再び口づける。

スフォルツァが欲しかった…。
だからこんな所迄だった一人で来た。

アシュアークが全身でそう、語っていた。
それは…解っていた。
だから細い腿が腿にまとわりついた時、正直息が上がる。

小さな唇は蜜のように甘い。

髪の感触も頬の感触も…彼があんまり小さいからだろうか…。
あんまり幼気(いたいけ)で…だからこそ欲されると、もう無我夢中で溺れる。

欲されるまま応え…アシュアークの顔が泣き顔に変わると胸が時めくし、彼の中に入ると…あんまりの気持ち良さに一瞬息が詰まり意識が途切れる程だ。

乱暴に揺さぶっても、文句を言った試しも無い。
どころか激しければ激しい分、その後ぐったりと力の抜けた体はぴったりと自分に隙間無くまとわりつき…まるで小さなアシュアークに抱かれるように腕を回される。

勲章を与える女神のようだ。
確かに少年の筈なのに。

それとも幼すぎて…同性をあまり意識出来ないせいなんだろうか?


 
 縛られて散々嬲られたから…一度目はあんまりあっという間で…。

アシュアークはほっと息を抜いてスフォルツァの懐かしい体に抱きついたまま、息を整えた。

けどスフォルツァは秘やかな武人のような逞しさが身に付いて、少年から青年へと…どんどん力強く成っていて、つい抱かれるとどきどきしたから…また、もぞ…。と動いては、欲しい…。

と股間に手を伸ばしスフォルツァ自身にを手に取る。

スフォルツァは直ぐ回復すると、知っていたから顔を上げて目で、訴えた。
がスフォルツァは掠れた声で言った。

「明日は大事な日だ。
干からびる訳にはいかない」

でも!と異論を唱え、手を動かすと、それは固さを増し、スフォルツァの男らしい眉根が寄る。

その整った顔が自分に向けられるともう…もう一度彼が欲しくて必死に成った。

解ってた。
こんな暖かい時間をどれ程一緒に過ごしたって、終わればスフォルツァは直ぐ彼を迎える、たくさんの人々のものに成ってしまう…。

ぽつんと残され…一人きりに成るのはいつも…自分。

でもそれは…ずっとそうだった。
父母も、祖母もそう…。

幼いアシュアークをたった一人で置いて行った。

けどスフォルツァは二度と会えないんじゃなくここに居る。
だから…手の中で彼が大きく成ると、アシュアークはもう自分の蕾に、それを当てていた。

スフォルツァが仕方なさそうに身を起こす。

身を倒され、抱かれると歓喜でアシュアークの身が震える。

しっとりと、口づけられる。
始める最初にいつも、スフォルツァはそれをした。
乾いた唇を湿らすように。

しがみつくときつく抱いてくれる。
この瞬間スフォルツァは僕だけの物に成る…。

事情が許せば…時間があれば幾らでも応えてくれたから…。
スフォルツァの明日の用事を、アシュアークは呪った。

二度目もあっと言う間。
けど今度は抱きつこうとするとスフォルツァは身を起こし…召使いに何か、告げていて…。

暫く寝台に、戻って来なかった。
でも手にした飲み物を見て膨れっ面をしてると、スフォルツァが差し出し手に握らせて言った。

「ここ迄馬で来た上、上級生も相手したんだろう?
これで直ぐ眠れる」

睨みながら仕方なしにそれを手にする。
甘い、蜂蜜とハーブの香り。

スフォルツァが忙しい時いつも手渡されるそれ。

最初の時、飲んだ途端眠くなって、気づいたらスフォルツァの暖かな胸で無く、独りぼっちの寝台で目覚め、それが自宅でつい…騒ぎまくった。

ラフォーレンが飛んで来て、スフォルツァが寝ている自分を手渡し馬で帰ったと聞いて、もう、地たんだ踏んで泣いて喚いた。

終わった後の彼の胸元が、第二のご馳走なのに!

グラスに口を付け上目使いで睨み、顔色を見てるとスフォルツァはとても整った、どきどきするハンサム顔で苦笑するからつい…グラスを下げて言った。

「もう一回くらい…」
「駄目だ」

即答されてついしぶしぶ、グラスを口元に持ち上げる。
こくん…。
こくん。

スフォルツァは喉が動くのを見守る。
三口目でもう、眠くなった。

思ったより、疲れてたみたいだ…。
グラスを持つ手がぐらり…と揺れた途端スフォルツァがそれを、零すまいと取り上げる。

スフォルツァの腕の中でぐったりと身を折る。
意識が途切れる少し前のほんの、数秒間だった。

爽やかなコロンの香るスフォルツァの男らしい安心な胸元を、感じたのは。

スフォルツァは腕の中で眠る、アシュアークの愛らしい寝顔を見つめた。
そうしていると丸で天使みたいなのに。

が、吐息を吐く。
こんな時間じゃアイリスの寝室の扉を叩いたら、怒鳴られ追い返されるだろう。

あまり味わえない極上の果実を逃した事に内心、思いの外がっかりした。
アシュアークを味わったばかり。

なのにアシュアークに比べるとはるかにしっかりした体付きの、確かに同性だと感じるアイリス。

それなのにどうして特別な果実のように、独特の甘く麗しい放香を、彼(アイリス)は放っているんだろう?
アイリスの事を考えると、息が苦しく成って胸が高鳴る…。

スフォルツァは一つ、吐息を吐いた。
ともかく、ラフォーレンが迎えに来るのを、待つしかない。

スフォルツァはアシュアークの飲み残した飲み物を焼け糞に一気に飲み干し、アシュアークの横に身を、投げ出して眠りに付いた。



 翌朝、アイリスはすっきりした表情で身の下に例の、きんきら鎧を着けた。

胸当てと胴回り。そして二の腕と太腿。

シェイムが心配げに覗き込んでは呟く。
「せめて…腕の重りだけは、お取りに成っては…?」

言葉は従者のそれだが、そっと正面に立たれて腕を取られると、シェイムのその優しさを放ちながらも、いつでも自分の胸元に力強く相手を抱き留める雰囲気の、男の色香を放つ胸元に“気”が吸い寄せられる。

女性なら、頬を真っ赤に、染めていただろう。
シェイムはアイリスが俯く様子に一つ、吐息を吐く。

「…いつもは気にも止めないのに。

スフォルツァ殿に女性扱いされてると、そんな方に鼻が利くもんなんですかね?」

顔を上げる、その整ったハンサム顔は小憎らしい程で、アイリスはつい、じっ…。と従者の顔を見つめた。

「…いや。凄く勉強に成る。
やっぱり、多くの者相手に連戦連勝だと、もう雰囲気だけで相手のソノ気を誘えるものなんだな。

何気に身を寄せられただけで、男の私でもどきっとする」

シェイムは年とかけ離れて大人びた、がとても色白の美少年の自分の主人を見降ろし、また一つ吐息を吐き出した。

「つまり私はエルベス様ともアドルッツァ様とも違って、随分と女垂らしだと、言いたいんですか?」

アイリスは肩を竦めた。
「エルベスもアドルッツァも、自分が落としたい相手にしかそういう色気を出さない」

シェイムはアイリスに背を向け、両肩を軽く持ち上げ竦めた。

アイリスは素晴らしい色男の従者の背に、呟く。
「…だってこれが、図体はデカイのにおぼこいドンネッテ辺りだったら…。

自分が心配される子供にしか、感じられない」

シェイムはまだ振り向かず、小机の上に積まれた衣服の元へと歩み行く。

アイリスはつい、その従者の背に再び声かける。
「…褒めたんだ。
その気が全然無いのに、ソノ気を引き出すって」

シェイムは吐息混じりに小机の上の衣服を腕に取る。

アイリスはつい、屈んで従者の表情を伺い囁く。
「…だってそれは、凄い特技だろう?」

シェイムは戻って来ると、アイリスの腕に衣服を押しつけて言う。
「今日は大事な日でしょう?
実力を、出す気は無くてもスフォルツァ殿以外負けられない相手が居る筈です。

ここで叩いて置かないと今後デカい面されて、鬱陶しい相手が!」

乱暴に、練習用の剣を押しつけられて、アイリスはそれを握りぷんぷん怒ってる様子のシェイムの、くるりと向けた背をつい、眺める。

「私が…スフォルツァに解放されて、浮かれてると思ってる?」

シェイムは振り向くと怒鳴った。
「貴方を!
ご心配申し上げている!

グーデン配下の者達には何があっても負けてはいられないのに!
心配を余所に、腕当て迄お着けだから!!

なのに私の色香の話ですか?!」

アイリスは一つ、吐息を吐き、俯くと呟いた。
「ごめん…」

シェイムは項垂れる年若い主人に振り向く。
若枝のようにしなやかで俊敏な体が、その重しでどれだけの実力を制限されるか、もう一度聡そうと口を開く。

が瞬時にアイリスが顔を上げる。
「…それで負けたら、私はそれ迄の男だって事だ」

シェイムはその、真っ直ぐ意志の強い濃紺の瞳を見つめ、呻く。
「ご自分を…そんなにお試しに成りたいんですか?

今日は練習で無く本番なのに」

アイリスは真っ直ぐ従者を見つめる。
「本番で実力が発揮できなかったら、練習の意味が無いじゃないか」

シェイムはつい、自分の主たる器の少年を見つめた。

年若かった。
がアイリスは、人がどんなものに魅せられ、どんな相手に真に頭を垂れるかを、知っていた。

その価値も。

だがそれでもシェイムは囁いた。
「負けたら…どうするおつもりです?」

アイリスは真顔で言った。
「いつもエルベスに言われてる。
自分が相手をひれ伏させる事が出来なければ、その弊害を結果自分が引き受ける事に成る。

先に努力をし、どれ程その瞬間に全力を出せるか。
出来なければ自分で、そのツケを自分が引き受けるしか無い。と。

がツケを何とかするのは大変骨が折れるから、叩ける時に叩く実力が無ければ結果、陰謀にたけ、権力を強固にするしか道が無いがそれは男としては、惨めで誇りから見放された行為だと、思い知って置くように。と」

「…つまりご自分が、男として人の尊敬に値するかそれとも…権威で相手に恐れられるかを、選ぼうとお思いで?」

アイリスは素早く衣服を羽織り着け、練習用の宝玉で飾られた剣を脇に刺して顔を上げ、微笑む。
「自分の実力が及ばなければ、間違いなく後者だ。
自分で選ぶ事なんて出来ない」

言って、シェイムに微笑んだ。
「君だって嫌だろう?
その実力が無いのに、権力で尊敬迄相手に期待する馬鹿に仕えるのは」

シェイムが、即答した。
「真っ平です」

アイリスは一つ、頷いて扉に手を掛ける。
「自分の真の実力を、思い知って置くのも一つの自分への、親切だ」

シェイムは背を向ける年若い騎士に告げた。
「私を失望させたら、お暇を頂きます」

その、真剣な言葉にアイリスはぐっ!と足を止める。
そして…ゆっくりと振り返った。

召使いと言うより従者。
確かにシェイムは貴族で無いのに特待で教練に入学を認められただけある、腕の確かな男。

があんまり女性にモテて男達にやっかまれ、更に貴族で無いと言う理由で周囲の最悪な扱いにげんなりし、エルベスに見出されてその下で仕え、出世も出来た筈なのに爵位だけは賜って、エルベスの役立つ仕事に就きたい。と頭(こうべ)を折った男だった。

真の眼を持っていて、エルベスには一目置いて、密かに敬意を抱いてる。

けど甥の自分には…守護者エルベスの代わりに護る、力弱い庇うべき相手。と見られているのにアイリスは内心不満だった。

アイリスは笑った。
「…いいだろう。
私が無様に負けたらエルベスに
“甥のアイリス様は残念ながら、男としては尊敬する資質に欠けています”
そう伝言を携えて大公家に戻ればいい。

だが私はそれをさせる気は、一切無いがな!」

シェイムはさっ!と身を翻す、アイリスの背に怒鳴った。
「だからと言ってハンデを付けすぎです!
そんな物をお着けになって戦うのは絶対!!!」

が扉は閉まり、アイリスは戻って来なかった。

シェイムは一つ、吐息を吐く。

初めて会ったアイリスはまだたったの八つだった。

大人びていて快活で…けど、とてもチャーミングに笑う少年で、一発でその人懐っこい微笑みにノックダウンされ、誰もがアイリスを、好きに成らずにはいられなかった。

愛くるしい笑みは成長と共に、素っ気なく小憎らしいくらい爽やかな笑みに、変わって行った。

彼は慢心をいつも、恐れていたし周囲には馬鹿を馬鹿と、堂々と口にする大人だらけだったから、いつも高い目標を持たざるを得ず…それでも自分がその大人達の眼鏡に叶うと、少年らしく誇らしそうに、その頬をピンクに染めて見せ…。

いつも…背伸びして高い目標に挑み時には…自分に厳しすぎる程自分を、律していた。

だが…心配げな顔を向けると彼はいつも挑戦者の瞳をし…輝かせて必ず言う。
「出来なければ私は、それ迄の男だ」

丸で自分を切り捨てるような言い様で。

彼がいつも自分に叩きつける、自分への挑戦に勝って戻るとほっとするのはいつも、周囲だった。

次第に覗かせる、自分への誇りと期待。
それを絶対のものにしようと…アイリスの挑戦はどんどん、無謀な戦いへと変わって行く。

皆が同様祈っていた。

彼…アイリスがいつも、その戦いに勝って戻りますように。と。
勝利の女神がいつも、彼に微笑みますように。と。

それ程皆が願ってた。
アイリスの、心からのチャーミングな笑顔が決して、失われないように。
大切な大切な宝物を護るようにして。

ここに来る前、彼の祖母、大公婦人に頭(こうべ)を垂れて頼まれた。

「アイリスを護って…!
人の、忠告を聞く子じゃない。
けれど…ズタボロに自尊心を無くす、あの子を決して
見たくは無いの…!」

自分は彼女に感動した。
うんと年下の小僧相手に大公家を仕切ってきた烈女が頭(こうべ)を垂れ、ただの孫を思う祖母に戻って乞い願う姿に。

私の瞳を見てエルベス様も言ってくれた。
「頭を上げて。母様。
シェイムは誰よりも物の分かった従者だから」

シェイムは下働きの者二人に今日の用事を言いつけると、素早く召使い用の階段を駆け下り、そっと…剣の試合が行われる、全校生徒がすっぽり入る程大きな、講堂に足を運ぶ。

かつて自分もそこで戦った、懐かしいあの試合場。
今は中へ、入る事の許されぬその窓辺で主の戦いぶりを、見守る為に。



 







つづく。
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プロフィール
「アースルーリンドの騎士」-ブロくる
天野音色 さん
「アースルーリンドの騎士」
地域:愛知県
性別:女性
ジャンル:趣味 漫画・小説
ブログの説明:
オリジナル小説「アースルーリンドの騎士」
「二年目」のミラーサイトに成っちゃいました。
昔はこっちが本家だったんですが………。
カテゴリ
全て (1603)
[3 恋の勝者 その後 帰りの道中の出来事 (12)
★二年目 連載 (1380)
¶二年目 1 新しい顔ぶれ (3)
¶二年目 2 三年宿舎 (1)
¶二年目 3 一年宿舎 18R (1)
¶二年目 4 アイリスの寝室 18R (1)
¶二年目 5 オーガスタスの1日 (1)
¶二年目 6 スフォルツァの祈り 18R (1)
¶二年目 7 アイリスの怒り 18R (1)
¶二年目 8 美少年アスラン 18R (1)
¶二年目 9 綺麗な少年 18R (1)
¶二年目 10 ローフィス 18R (1)
¶二年目 11 抗争の始まり (1)
¶二年目 13 ギュンターとディングレーの介抱 18R (1)
¶二年目 14 ローフィスの采配 (1)
¶二年目 15 学年無差別剣の練習試合、前日 (1)
¶二年目 16 アイリスの思惑 (1)
¶二年目 17 剣の試合、当日 (1)
★ペンタブ練習画 (52)
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