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リンパの流れ
 
2016年7月31日 7時47分の記事

身体をめぐるリンパの不思議』2015 中西貴之


リンパ系は体内に蓄積する不要物を余剰な水分と共に回収し 細胞をフレッシュな状態に保ち さらに侵入した病原菌や毒素などの外来異物を処分する重要な役割を担う組織

その外来異物の処分の役割を特に「免疫」と呼ぶ

大量の細菌やウイルスなどが満ちあふれている環境で 免疫機能が失われると それらに感染し 全身はエサや住みかとして利用され 生きることができない(免疫機能を失ったマウスの実験で確認された)

一方 リンパから発症する病気もあり 起床時に顔がパンパンになったり 猫にひっかかれて腕や足が腫れ上がったり がん細胞にリンパを悪用されて全身に腫瘍が転移 してしまうなどの事実から 体を保つにあたり リンパが重要なポジションにあることがわかる


リンパ節は、ファンタジーに例えるなら、勇者や武器職人であるリンパ球がたくさん待機している街のようなもので、ひとたび敵が侵入してくると、そこは戦場にもなります。

このリンパ節には、何本ものリンパ管がつながっていて、その管を通して、周辺からその破片の毒素が紛れ込んでいることがあります。それらがリンパ節に入ってくると、待ち受けていたリンパ球が免疫反応、つまり身体の健康状態を維持するための活動を行い、その結果として炎症が起き、リンパ節が腫れ上がることがあります。


そのような仕掛けが 全身のあらゆる場所に仕込まれているため 雑菌あふれる環境で生きられる

つまり 一般に理解されている「リンパ」とは 全身に広がる「リンパシステム」の広大な世界の中のごくごく一部分でしかない

リンパシステムは全身に分散しているリンパ器官をリンパ管がつなぎ その管の中をリンパ液に運ばれるリンパ球が移動しているものだと表現でき

リンパシステムは 脳を除いて頭の先から足の先まで 皮膚近くから内蔵の奥深くまであらゆる場所にリンパ管を張り巡らせ リンパネットワークを形成している


リンパシステム(リンパ系):リンパ管 リンパ液 リンパ球 リンパ器官から成る

リンパ管…血管系における血管に相当する体内の水路で リンパ組織とそれ以外の組織 静脈の相互を接続し その中をリンパ液やリンパ球が移動

リンパ器官は 細胞が集まって形成された臓器のような構造体で 胸腺 脾臓 リンパ節 骨髄などがある

リンパ球には着色した細胞が無いため リンパ液は淡い黄色に見えたり また 食べた食品が脂肪分を多く含む場合は白色に見えたり と 目立たない色がリンパシステムの存在感を薄くしている理由でもある


リンパシステムの働き
・病原菌などの侵入に対抗するための防御機能
・身体の水分量の調節

人間の体はほとんど水でできていて 体内の水は純粋な水ではなく タンパク質や微量成分などが溶けこみ 生命化学反応が起きる場として重要な役目を持つ

その水は およそ3分の2(66%)は 細胞の内部にあり 細胞は細胞膜-油成分でできた袋のようなもので囲まれ 内部の水は外へ流れ出すことなく化学反応が行われている

3分の1の水「体液」は細胞の外に存在し 比較的自由に体内を移動…体液には血液 リンパ液の他に 細胞と細胞の隙間を潤している間質液(組織液)や 脳を包み込んで衝撃から守ったり栄養供給の媒介をする脳脊髄液 眼球の中の眼房水などが含まれ (尿も膀胱にある間は体液)

「体液」の中で リンパシステムに関係が深いのは 「血漿」と「リンパ液」  〜16



●リンパ管はどうやって形成されたか  109〜118

リンパ系は、血管系と一部の機能を重複させながら、いくつかの特定のリンパ臓器と密接に関係して、複雑、かつ高度な機能を担っています。このことから、生物の進化におけるリンパ系の獲得は、非常に興味深い点です。

ある動物がこれまで進化してきた過程を繰り返しているように見えます。このことを、生物進化を研究する領域では「個体発生は系統発生を繰り返す」と説明しています。この説を「ヘッケルの反復説」といいます。


その説の例として出されるのが ほ乳類

ほ乳類の受精卵が生き物らしい形を形成する初期段階で、エラの様な構造が現れますが、それはすぐに消えてしまいます。これをもって、ほ乳類が魚類を経て進化した証拠だと考え、魚類だったころのほ乳類の姿を繰り返している、というのです。

この説に関しては、エラのある一時期の胎児は魚なのか、というあまりに極端な議論を呼び起こしたため、進化の過程を繰り返すという、胎児と太古の生物を同一視する点においては大きな違和感があり、完全に受け入れられているわけではありません。しかし、進化的に、ほ乳類よりも古い生物の特徴が現れることは否定できない、と多くの科学者は考えています。


とすると ほ乳類の誕生の過程でリンパ管はどのように挙動しているのか?

そこに、わたしたちが進化の過程でどのようにしてリンパ管系を獲得したのか、のヒントが隠されているかもしれません。

卵子は 受精をすると細胞分裂を開始し 数回の細胞分裂を繰り返すと 将来胎児になる細胞に性質が二分され 中が空洞のボールのような状態に成長した胚盤胞になる

その時のボールの中にあるひとかたまりの内部細胞塊と呼ばれる細胞が さらに細胞分裂を繰り返して胎児の体を形作る

(内部細胞塊:再生医療に使用することが可能だと期待されて研究が進められていたES細胞は その内部細胞塊を取り出して培養したもの)


内部細胞塊は、胎児になる前準備として、さらに三種類の異なる性質を持つ細胞の集団に分かれます。それらは内胚葉、外胚葉、中胚葉と呼ばれます。

血管系は、中胚葉の細胞がさらに枝分かれして血管芽細胞となり、この細胞が管状に細胞分裂して作り出されます。

受精卵から胎児になる過程で、リンパ管系がどの段階でどの種類の細胞から作り出されるのかは、実はよくわかっていませんが、2通りの予想が有力視されています。

・静脈の管壁を構成する内皮細胞からリンパ管が形成され全身に広がる

・組織内で何らかの種類の細胞がリンパ管壁となる内皮細胞に変化し 形成されたリンパ管が次第にネットワークを形成する


人間はもちろんのこと ほ乳類が誕生する過程で リンパ管系がどのように形成されるのかを観察することは非常に困難

小さな魚「ゼブラフィッシュ」を使って観察実験が行われた

ゼブラフィッシュの場合 リンパ管系細胞の由来は 特定の場所から伸びていく管と全身のあちこちで湧き出るように誕生する管の二つがある…人間同様に静脈角と呼ばれるリンパ管と静脈が合流する位置の静脈からリンパ管が枝分かれするように成長を始め 同時に全身では組織の内部で発生したリンパ管の断片のような構造が互いに接続して リンパ管のネットワークを形成している


見分けの付かない一つのリンパ管ネットワークが、異なる由来の細胞同士によって形成され、やがてそれらが一体になって機能するというのが本当のリンパ管の由来であれば、その調節メカニズムについては非常に興味が持たれる部分です。しかしその点については未だ解明されていません。


魚類では 血管系が種類によって明確な血管系のない開放形だったり 心臓が4つの部屋から成っていなかったりなど 構造は異なり

魚類とほ乳類のリンパシステムの最大の違い…
・ほ乳類ではリンパ管の途中にリンパ節があるのが一般的
・魚類ではリンパ節とリンパ管は一体になっていない

(メダカのようにリンパ節がないと報告されている魚類もあるが メダカのリンパ節はあっても相当小さいことが想像される)

一方 トラフグの研究では エラに大量のリンパ球が集まった塊が点在していることが発見され エラはリンパ組織の一つである可能性が示唆される観察結果もあり 外部から侵入してくる雑菌などに抵抗するために 粘膜層にリンパ節が集中していることを考えると エラがリンパ器官というのはさほど奇想天外な話ではないが まだ結論は出ていない

リンパシステムには血管から栄養などと共に間質液として放出された余分な水分を回収して全身の水分バランスを保つという役目があるため 閉鎖した血管を持つ生物には必ずリンパシステムが存在すると多くのリンパ学者は考えている



《歴史》

〈動物のリンパ管研究〉

紀元前5世紀の医師ヒポクラテスがリンパ管についての最初の記述をしたとされ

紀元前4世紀にアリストテレスが無色の液体が流れる管としてリンパ管を記載

紀元前3世紀 アレクサンドリアの医師ヘロフィロスとエラシストラトスが 解剖の結果として乳び管と呼ばれる小腸周辺のリンパ管と思われるものを記載

16世紀になるとイタリアの解剖学者エウスタキオは馬の胸部リンパ管を発見し それを静脈として記述

イタリアの外科医師アセリが イヌを解剖しているときに 乳び管を発見したと記述…空腹の動物を解剖しても乳び管は見つけられないが エサを食べた後は見た目が大きく変化…アセリは偶然十分にエサを摂取していたイヌで実験したため 容易に発見できたものと思われる

実験動物では 実験上の都合で乳び管が最も目立つ存在だったため 初期には乳び管の研究が熱心に行われた


〈人間のリンパ管研究〉

人間の体内で最大のリンパ管は「胸管」…下半身全体のリンパを静脈に輸送するリンパ管

(海外では古くから解剖学が進展していたが)リンパ管系については 特に人間の死体ではリンパ液があっという間に静脈に抜け出てしまい非常に観察しにくいという問題があり また 当時は死体を美しく保存するのは不可能だった

(現在は遺体の血管に樹脂を入れ型どりする技術 プラスティネーションなどの手法がある)

17世紀のヨーロッパで 樹脂によるコピーの元祖「ムラージュ」という手法が発見されていた

ミニチュア模型の精密パーツを自分で複製する手法に似て 解剖した死体を石膏などで型取り ロウを入れ複製を作り色を塗る…その手法の開発により 臓器の立体模型が普及し 研究や医学に活用され 毛細血管の詳細までわかるようなムラージュに至っては 現在美術品としても扱われることもある

現在の研究においても トレーサーと呼ばれる放射性物質や色素を注入して その挙動を追跡…その技術もその原形は17世紀のヨーロッパで開発されたもので 当時の科学者は リンパ液の流れの全体像に興味を持ち 工夫 たとえば 空気や牛乳などを注入 追跡

17世紀も終わりに近づくと 水銀をトレーサーとして使用する技術が開発され アントニオ・ヌックは 水銀でリンパ管系の詳細を描き出し出版…水銀注入法には水銀毒性の問題があるが 多くのリンパ管に関する書籍が発行された

19世紀末に油性色素をトレーサーとして使用する手法が ルーマニアのゲロータにより開発された…組織間隙に色素を注入し リンパ管がそれを吸収して着色することを利用したもの


〈日本でのリンパ研究〉

西洋医学の導入…18世紀の蘭学による医学知識伝来と「解体新書」の翻訳…蘭学者杉田玄白 前野良沢 中川淳庵

ドイツ語の医学書「解体学表」-ドイツ人ヨハン・アダム・クルムス…そのオランダ語訳「ターヘル・アナトミア」

(日本の医学でリンパが登場したのは「解体新書」1774 が最初だろうと考えられている)

「解体学表」が書かれた頃には 人間のリンパ管系についてもすでに色々わかっていたため 「解体新書」では 腸間膜から始まって 左静脈角に至る主要部分の全体像が描かれている

1812年に波多野貫道が著した「解観大意」が 日本人が初めて自らリンパ管系を観察して図解した医学書だとされている

20世紀の日本では 京都大学を中心に血管系やリンパ管系がどこにどのように広がっていて どのような役目を果たしているのかに関する研究が盛んに行われた

リンパ管や関連する組織の構造は 管の数や形 つながり方に至るまで 大きな個人差があり 日本人のリンパ管に関する総説がまとめられたのは1960年代になってのことで 当初は体内での張り巡らされ方についての記述に集中 20世紀になり分析装置の発展に伴い リンパ液そのものの化学的組成に関するアプローチも行われ始めた
(画像化…リンパ管造影)

『身体をめぐるリンパの不思議』





同書 “飼い主”に感染  はてな 7.26分

〈リンパ系フィラリア症〉

フィラリア糸状虫と総称される線虫の中には、リンパシステムに成虫が寄生する種がいます。ヒトのリンパシステムに寄生する糸状虫は、バンクロフト糸状虫、マレー糸状虫、チモール糸状虫の3種類ですが、リンパ系疾患の原因のほとんどはバンクロフト糸状虫だとされています。

成虫は雄は4センチ程度 雌は10センチに達し 5年体内で生き続ける

感染源は蚊で 媒介して人から人へと感染

成虫が人の体内で子供を産んで その子供で体長0.3ミリ弱のミクロフィラリアが血液中に移動

患者を刺した蚊が糸状虫を取り込み中間宿主となって 別の人を刺した時に感染する

急性期にはリンパ管炎を発症して発熱し、リンパが貯蔵することによってリンパ液の送液が正常に行えなくなり、リンパ液の循環が徐々に損なわれリンパ管が破れることもあります。悪化すると手足の浮腫や象皮病へと進んでいきます。ミクロフィラリアは、それ自身が花粉同様にアレルギー源となり、ぜんそくのような症状も起こします。血液中にミクロフィラリアを検出することで診断し、駆虫薬で治療します。

原因となる糸状虫は、熱帯〜亜熱帯地方を中心に広い範囲に生息しています。日本においても、沖縄県と鹿児島県にかつて生息していましたが、1970年代に根絶されました。しかし、世界中ではいまだ1億人もの糸状虫感染者がいると言われており、WHOは2020年を目標に根絶に取り組んでいます。

なお、糸状虫の感染で見られるリンパ管の拡張と同様の症状は、ケガややけどが原因で起きることもあります。  147、8


〈猫ひっかき病〉

別名 非細菌性局所性リンパ節炎 という立派なリンパ関連疾患

猫キックをされた際などに爪でひっかかれ 1週間程度経過した後に 傷の部分やリンパ節が腫れ上がる病気

容易に感染症とわかる病気だが 詳細が明らかになったのは1990年代に入ってからのこと

ひっかかれた傷口から 猫が持つ病原菌:バルトネラ・ヘンセラ菌が体内に侵入することで発疹が起きる

その菌は非常に強力なため リンパ球やマクロファージとの激しい戦いが繰り広げられ リンパ管を通じてリンパ節にまで入り込んだ菌との攻防戦によってリンパ節が腫れ上がる

保菌者は 間違いなく猫で 猫同士はノミが媒介して感染が広がると考えられていて 猫に対しては何も病原性を持たない

自然に治癒することも多いが 激しい症状が長く続くこともある(通院して感染症治療を行う)  148


〈リンパ球性脈絡髄膜炎〉

ペットが原因となると思われるリンパ系の病気で ハムスターやハツカネズミが持つアレナウイルス(LCMV)と呼ばれるウイルスの人間への感染が原因

(猫ひっかき病は日本中で発生している)

ハムスター・ハツカネズミ由来リンパ球性髄膜炎は 日本では明確にその患者だと確認された例がない

というのも猫ひっかき病が かわいらしい名前の割りに症状が激しく ひっかき傷とセットになった炎症が非常に目立ち診断しやすいのに対し

リンパ球性脈絡髄膜炎は そのおどろおどろしい名前とは対照的に症状はたいしたことはなく 一般的なウイルス感染による髄膜炎と区別がつきにくく 適切な治療を行えば 大きな問題には進展しない炎症性疾患

(とみられている が)

その病原ウイルス LCMV を実験動物の脳内に注入すると リンパ球の一種である細胞障害性T細胞がウイルスを除去しようとして脳の中で異常な活動を示し その動物は死んでしまうことから そのウイルス自体の有害性は 低いものではないようだ

猫ひっかき病にしても ハムスター・ハツカネズミ由来リンパ球性髄膜炎にしても その病原体を持っている張本人のペットたちは 基本的にはそのような症状を見せない

飼い主に感染して初めて大変なことになる

そのため ペットが健康だから 自分の病気の原因となるはずはないと考えるのは早計で 感染症疾患の場合 ペットに関する情報も適切な診断とそれに基づく適切な治療に有用な情報だと思われる  149『身体をめぐる リンパの不思議』2015 中西貴之




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