くる天 |
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第一節 |
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流川雅子(るかわまさこ)について語ろうとすると、極めて普通の女子中学生だ、としか言いようがないかもしれない。 多少人より暢気で、穏やかな、見た目は可愛いが、目立つところがないため埋もれがちになるという、特にこれといったとりえもないような普通の女の子だ。 髪はそこそこ長く、縛らずに行く日もあればポニーテールの日、ツインテールの日もある。 完全にその日の気分と朝の時間の余裕任せだが、今日はポニーテールの日だ。 彼女の名前は雅子で、普通に「まさこ」と読むのだが、子供の頃は「がこ」と呼ばれていた。 それがいつの間にか流川雅子の前を取り、流雅と書いて「るが」と呼ばれるようになった。 その呼び名を気に入っているわけでも嫌っているわけでもなく、そう呼ばれるからそれが自分のあだ名だと認識して、そう呼ばれたら返事をするという感じだろうか。 この辺のこだわりのなさが流雅の普通で暢気たる所以ではあるのだが。
その日の朝も、いつもの様に彼女は学校へと登校していた。 「恋はいつもフライング〜♪」 友達と待ち合わせなんかはしない。 学校がそう遠いわけでもないし、歩いているうちに色々な知り合いと合流できるからだ。 「フライング二回で失格〜♪」 そんな彼女が、陽気に歌いながらいつものように登校していた。 ふと、後ろからかけて来る足音。 それが彼女に近づいて来て、そして、通り過ぎていく。 「!?」 その瞬間、急に足元がひんやりと寒くなるのを感じる。 それが自分のスカートが舞い上がったためだと気づくのには、少しだけ時間がかかった。 「やぁぁぁぁっ!」 流雅は慌ててスカートを押さえるが、その時には既に重力によってスカートは下がり切っていた。 「よお、流雅。今日は水色の縞か!」 振り返る流雅とすれ違いで、一人の少年が追い抜いていく。 「中守(なかす)ちゃん!? もうっ! また子供みたいにスカートめくりなんかしてっ!」 流雅はめくられたスカートをまだ押さえつつ、中守と呼んだ少年に怒る。 「ばっか、お前、スカートめくりは紳士のスポーツだぞ?」 「そんなわけないよ! 紳士はそんなことしないよ?」 「更にだ、俺なんて研究までしてるんだ。すげえだろ」 「? 研究って何の?」 流雅は首を三十度くらい傾けながら、聞き返す。 「おう、毎日お前のパンツの色を研究して、お前が何着パンツを持っているか研究してんだぜ? すげえだろ?」 「凄い子供だよ! 大人のすることじゃないよ! 大人がしたら、普通に逮捕されるレベルだよ」 「何だと、この!」 中守は流雅のポニーテールを乱暴につかむ。 「痛いっ! 髪は痛いからやめてぇぇぇっ!」 半泣きの流雅。 「こっちを向いて話せ!」 「無理だよ! しっぽつかんでるから無理だよ!」 中守が流雅の後頭部のポニーテールをつかんで引っ張るので、流雅はどうしても後ろ向きにならざるを得ない。 だから中守の言っている事は無茶なのだが、それでも容赦ない。 「こっちを向かないなら、研究に協力しろ。それならそっち向いてていい」 「協力って何? パンツ見せるとかは嫌だよ?」 流雅は後ろを向いたままで中守に言う。 「それはいつでも見れるからいい」 「いつでも見ちゃ駄目! もう見ないで!」 流雅は慌てて、スカートの後ろを押さえる。 「うるさい、黙らないと今見るぞ!」 「さっき見たからもういいでしょ!?」 「母親かお前は。まあいい。お前の持ってるパンツの数と種類を言え! それで今回は許してやる」 「それ、もう研究じゃなくて答えだよ!? いいの?」 「うるさいっ! さっさと言え!」 「ふぇ───んっ!」 |
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