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2010年7月12日 8時58分
真夏の帰郷
 
「……あれ?」
 気がつくと、俺は川辺にいた。
 どうやってそこにたどり着いたのか、覚えてない。
 それくらい深くものを考えていたのだろう。

 からから
 からから

 小川のせせらぎ。
 懐かしい音色だった。
 森に囲まれた川辺の木々のざわめき。

 みーんみんみん
 みーんみんみん

 それは、頭にきんと響く蝉時雨にかき消される。
 都会と隔離された田舎町。
 それが俺の故郷だった。
 見上げれば、つり橋。
「……変わってないな」
 町と、外とを結ぶ道程となるつり橋。
 今では街道が出来、このつり橋を使う人も減った。
 だが、この橋に愛着のある人は、今でも使い続けている。
 俺は、このつり橋から旅立った。
 ちりちりと照りつける太陽。
 季節は夏。
「あいつら、元気かな……」
 つり橋を見上げてつぶやいた俺のそんな声は、蝉時雨にかき消された。
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2010年6月21日 20時17分
戦場の休日
イラスト:一葉

「さあ……!」
 荒野に立つ少女。
「行くわよっ!」
 荒野に似つかわしくない少女の声。
 殺風景な景色と上品な少女の服。
 防寒着が荒野の風邪にはためく。
 長い髪が、彼女の背後で踊る。
 そして彼女の目の前に広がる無骨な塀と建物たち。
 それがS国の前線基地であることはこの辺りの人間であれば誰もが知っているだろう。
 町を挟んで向こう側に陣取るK国の基地との戦闘は、この町の悩みの種だ。
「絶対見つけ出して───」
 そこに向かおうという彼女は、険しい顔で基地を睨む。
 だが、その少女の険しい顔を見ても、多くの人間が微笑ましく思うことだろう。
 成長しきっていない身長。
 防寒具にもこもこと膨らんだ体。
 そんな、戦場に似つかわしくない少女。
 彼女を見て、誰が考えるだろうか。
「仕返ししてやるんだから……!」
 彼女が実は、K国基地の総司令などと。
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