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水際 十一
[哲学 文学 科学 宗教]
2010年9月20日 11時48分の記事

――ふむ。人口減少社会の突入か……。


――さう。人間が生物に対してしてきた報ひとしか俺には思へぬ人口減少社会へと移行する外ない此の社会では、これから圧倒的に《死》の《存在》が多くなる。つまり、《生者》は生存する限り《他》の《死》を何度となく見届けなければならぬのさ。


――それには、勿論、富の移動も必然と言ふ事だね。? 


――ああ、当然だ。これまで貧困に喘いでゐた国国の勃興で富は其方へ移動する筈さ。そして、人口減少社会へと突入した此の国は徐徐に貧しくなるのが道理だ。


――へっ、さうなって初めて此の国の《生者》は切羽詰まった上での自棄のやんぱちででも存在論を、その言説が誰にも理解可能な言質で新たなる存在論を立ち上げるしかない、かな? 


――既に此の国には貧困が厳然としてあり、その悲惨な現状が社会問題化してゐるが、こんな《もの》でこの国の貧困が済む筈がない。


――ふっふっふっ。衰退をとことん味ははなければならぬ定めなのだらう? 


――さうさ。《生者》の論理ばかりが罷り通ってきたその報ひを《生者》は生き残るために受容しなければならない。


――つまり、何を《生者》は受容しなければならぬのかね? 


――諦念、若しくは悲哀、それも《存在》する事の悲哀さ。


――そんな事は、既に現在《存在》してゐる《生者》は嫌と言ふ程に味はひ尽くしてゐる筈だがね? 


――へっ、これからはそれがもっと露骨になるのさ。衰退し始めた国から富が逃げ出すのに一日もゐらなんだぜ。


――それぢゃ、《生者》は子を産めよ殖やせよと? 


――いいや。子を儲けるのは既に《生者》の裁量に、つまり、《生者》が《自由》に決定する《もの》に成り下がっちまった故に、子供が増へるなんてあり得べくもないお手上げ状態と言ふのが正直なところさ。しかし、《生者》が《生》の《自由》を味はふには、《生者》は《自由》である事の全責任を担はざるを得ぬのさ。


――《自由》の全責任とは? 


――つまり、徹頭徹尾独りで死ねことさ。


――ちぇっ、そんな事はお前が言はずとも太古の昔より《死》は死して行く《もの》しか解からぬ《もの》ぢゃないかね? 


――へっへっへっ。さうぢゃないさ。誰にも看取る《生者》が《存在》しない中で、その死に行く《生者》はたった独りで《死》を迎へるのさ。


――だが、孤独死の話なんぞは今に始まった事ではないぜ。


――誰も孤独死の話なんぞしてやしないぜ。


――ぢゃ、お前の言ふたった独りでの《死》とは何かね? 


――神も仏も《存在》せぬ《死》さ。


――神も仏も《存在》せぬ《死》? そんな《死》が《存在》するのかね? 


――へっ、人類史の残酷さを見れば神も仏もない《死》なんぞ珍しくとも何ともないぜ。


――しかし、それは、これまでは特異な《死》であったに違ひない筈だが、これからはその特異な《死》が普通一般の《死》となるのは間違ひないと言ふ事か……。


――何故さう思ふ? 


――《生者》は何としても《死》を此の世から隠し通したいからさ。それ故に《死》を迎へる最期の《生者》は《生》とは隔絶した処で、ひっそりと独りで死んで行くのさ。


――つまり、それは《生者》が《自由》に対して最期まで無責任極まりなかったことの哀れなる最期と違ふかね? 


――さうさ。その通りだ。これ迄《生者》は《自由》に途轍もない、《生者》独りでは背負ひきれぬ《生者》たる事の責任が厳然として《存在》してゐるにも拘はらず、其処から目を背けてゐたし、これからも《死》ばかりが増える衰退して行く社会でも《生者》たる事の責任をどんな手を使ってでも回避する事ばかりに現を抜かす筈だ。


――それぢゃ、《生者》は如何に《死》から逃げられるかばかりを追ひ求める卑劣な《存在》に等しい、ちぇっ、つまり、下らぬ《存在》に成り下がっちまっただけぢゃないか! 


(十一の篇終はり)



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