くる天 |
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プロフィール |
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飯島浩樹 さん |
シドニー通信員の『豪リークス』 |
地域:海外 |
性別:男性 |
ジャンル:ニュース 世界情勢 |
ブログの説明: オーストラリア在住 某民放局シドニー通信員からの情報。 |
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豪の農産業を中国が買い占める? |
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2010年11月15日 20時17分の記事
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15日付のシドニーの地元新聞の1面に、「今オーストラリアの農産業が外国資本に買い占められつつあり、その主たる買い手が中国だ」との記事が載った。80年代のバブル期には日本企業が、最近では南極海の調査捕鯨がセンセーショナルな豪州のイエロージャーナリズムによって叩かれてきたが、ここにきて”経済の救世主”としての「中国」礼賛ムードの風向きが変わったのだろうか?
シドニーの日刊紙「THE DAILY TELEGRAPH」の1面にデカデカと掲載された空ろなまなざしで遠くを見つめる農夫の写真。大見出しには「SELLING THE FARM―農場が売られていく」とあり、その上に「90億ドルの外資が襲う」「中国が大金で武装」と物騒な文字が躍っている。
記事の内容は、中国を中心とした外国資本が今、オーストラリアの農地と地方の農業関連企業を買い占めていて、ここ2〜3年で90億豪ドル(約7200億円)以上の農業関連資産が外資の手に渡っており、豪政府の外資規制は甘すぎるというもので、「複数の中国の投資家が13億の人口に“ミルク”を供給するために地元の畜産業を狙っている」というタスマニア島の地元不動産業者の話を載せている。
だが、2面と3面をたっぷり使い“EXCLUSIVE”独占特ダネ記事!と謳っている割には内容が薄く、紙面の3分の2を写真と地図で埋めてある。 大きく“Using our land to feed their people”“あいつらの国民を食わせるために俺たちの土地が使われている”と“their people”=“中国の国民”と匂わせる見出しの下には、「買い占められた豪国内の農業関連企業名と買い手のリスト」が掲載されているのだが、それをよくよく見てみると、買収した国に“中国”の名前が一つも見当たらないことに気がついた!
2009年にオーストラリア最大の食品・飲料会社の「ナショナル・フーズ」と、創業100年の老舗乳飲料製造会社「デイリー・ファーマーズ」を買収したのは “KIRIN”で、大手肥料関連会社の株式20%を取得したのが“SUMITOMO”で…えっちょっと待って!買ってるのは日本企業じゃん!! その隣の「現在買収交渉中」だという4つの企業・農場のリストの中にやっと中国の名前が初めて登場し、「これから買収ターゲット」とされている企業リストの買い手にも中国企業は1つだけだった。そうはっきり事実を出しているのにもかかわらず、肝心の記事には「JAPAN」の文字がひとつも出てこないで、「中国を中心に中東、シンガポール、韓国などの国々が買い占めている…」と書いてあるのだ。
別に中国の肩を持つわけではないが、なんという偏向記事!!
さすが「THE DAILY TELEGRAPHデイリー・テレグラフ」!メディア王ルパート・マードックのニュースリミテッドが発行する新聞だけはある!(皮肉です)
このデイリー..紙(この後面倒くさいのでDT紙と書きます)、限りなくタブロイド紙に近い新聞とは言え、無料のコミュニティ紙をを除きシドニーでちゃんとお金を払って読む日刊新聞は、たったの4紙しかないので(もちろん“東スポ”のようなスポーツ紙はありません…)、このDT紙の書く記事を「たかがタブロイド紙のたわ言か」と済ますことはできない。 その証拠に同日夕方の民放チャンネル7のニュースでは、完全にこの記事に後追い報道(というより内容はほとんどそのまま..)と言えるレポートを流していて、その中では「急増した外資の国内農業関連企業の買い占めの裏には、増加する人口を抱える中国政府の意図がある“らしい”(It’s believed)」とウラも取らず、専門家の意見も撮らないままBank of Chinaの支店と北京で大量の人が自転車で通勤する何年も前の資料映像にナレーションをつけていた。
もちろん、オーストラリアのジャーナリストでしっかりした人は大勢いるし、すばらしい調査報道もたくさんあるので、これだけで「オーストラリアのジャーナリズムの程度は低い!」と決めつけて欲しくなく、この記事の問題で言いたいのは、ジャーナリズムの質云々という点ではない。
これまで、こういったセンセーショナルな“外国“叩きは、この国では珍しくなくて、もちろん中国もしばしばターゲットにされてきた。しかし、ちょっと前までは、こういうネタのターゲットは決まって「日本」だったし、そのほうが「売れた」ことを考えると、「あれ、なんか違ってきたな..」と感じざるを得ないのだ。
数年前、オーストラリアのメディアが、大々的に反捕鯨キャンペーンを行った際、このDT紙は、親子のクジラ(これも親子だとはウラを取っているわけでなく、ただの大小の2頭のクジラだった可能性が強い)が血を流しながら日本の調査捕鯨船に吊り上げらている写真を1面全部を使い載せた。また、記憶に新しいシーシェパードの小型船が日本の調査捕鯨船に体当たりし大破した事件のあった翌日には「これは戦争だ!It’s WAR」とまで書いた。日本人としてはさすがにこういう報道がされた日は、町を歩きたくない気分になってしまうが、こういうセンセーショナルな記事を載せた新聞は「売れる」ことも確かなのだ。
言い換えれば、良くも悪くもオーストラリアのメディアや国民が「日本」に興味を持たなくなり「売れなく」なってきたと言えるのかもしれないが、今回の記事が、中国の反政府活動家がノーベル平和賞を受賞したのに始まり、尖閣諸島問題が勃発し、アメリカのオバマ大統領やヒラリー・クリントン国務長官の中国批判や“中国包囲網の構築”をほのめかすような言動が目立ち始め、ギラード豪首相がG20とAPECの首脳会議から帰国したその日に“満を持した”ように出されたのは、裏に“意図的な何か”があるのでは?と感じる今日この頃です(誰かのブログみたい!!)。
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