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シドニー通信員の『豪リークス』
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難民問題と豪多文化主義の行方
2011年12月24日 7時50分の記事
第5回難民問題と豪マルチカルチュラリズムの行方
※日豪プレス2011年6月号掲載http://nichigopress.jp/nichigo_news/goleaks/26650/
豪リークス第5回は、最近収容施設で暴動が頻発している「難民問題」と、転機をえつつあるオーストラリアの「多文化主義」について。
◇相次ぐ難民収容施設での暴動
写真:ビラウッド収容所暴動を伝える地元紙(4月22日付)
4月20日夜11時過ぎ、シドニーの西郊外にあるビラウッド収容所内の建物から火の手が上がった。所内で暴動が起きているとの通報から約20分後に現場に到着した警察や消防隊に対し、収容者が屋根から木材を投げつけるなどして抵抗した。収容所敷地内の9棟の建物と医療設備などが焼けたこの暴動を、翌21日の早朝から地元テレビ各局が生中継で伝え、数回の爆発とともに燃える建物の映像が繰り返し画面に映し出された。
ビラウッド収容所には滞在ビザの切れた不法移民のほか、クルド人やアフガニスタン人などの政治亡命希望者約400人が収容されているが、今回の暴動は、20日の朝、難民認定申請が却下された数人が建物の屋根に上り抗議活動を始めたのが発端となり、その後、収容者約100人が加わる大規模なものに発展した。
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ここのところオーストラリア各地の入国者収容所では、収容者による暴動が相次いでおり、昨年上陸しようとした難民ボートが岸壁に衝突大破して、50人以上が死亡または行方不明になるという事故が起きた豪領クリスマス島の収容所では、今年3月に収容者300人による放火をともなう暴動も起きている。
シドニーのビラウッド収容所で発生した暴動鎮圧後も、屋根の上で抗議の篭城を続ける収容者の様子を生中継で伝えながら、歯に衣着せぬコメントで人気がある民放テレビ朝の情報番組のニュース・キャスターは、カメラを睨めつけ、放送を視聴していると思われる収容者に向かい「我々の善意につけこむなよ ! Don’t take advantage ofus」と、強い口調で言い放った…。
◇豪で「多文化主義」は根付いたか ?
もちろん放火をしたり、暴力に訴えることは決して許されるものではないが、暴動に加わった収容者の中には、明確な理由もなく1年半以上も収容所に留め置かれていたり、同時期に入所した兄弟は既に難民として認められているのに、依然として収容所暮らしという亡命希望者もいた。
難民収容所施設で相次ぐ暴動の背景には、審査官不足などで難民認定審査期間が長期化している現状があるという。こういう事情も伝えないままセンセーショナルな映像と刺激的なコメントを発信するマスメディアの影響は、特にこういうセンシティブな問題に関わる場合、非常に大きい。
1970年代に「白豪主義」を捨て、カナダとともに世界に先駆けて多民族国家においてそれぞれ民族集団が持つ文化を対等に尊重する「マルチカルチュラリズム(多文化主義)」を国家政策としてきたオーストラリアであるが、政治家も国民も、理念としての「多文化主義」を頭では理解しているつもりでも、具体的にどう現実社会に反映していくべきか、まだまだ試行錯誤を繰り返しているようにも見える。そのいい例が、この「難民受け入れ問題」だと言えよう。
今年2月、先述したクリスマス島で難民を乗せたボートが大破した事故で死亡した犠牲者の葬儀がシドニーで行われたが、遺族の飛行機代などその葬儀費用30万ドル(約2,400万円)のすべてが税金でまかなわれたことに、野党保守連合のスコット・モリソン影の移民担当大臣が異議を唱え、大きな論議を呼んだ。
普通に考えれば、粗末な船で不法に豪領クリスマス島に上陸しようとした“ボート・ピープル”の死亡事故の葬儀を、なぜ数千キロも離れたシドニーで、しかも税金を使って行う必要があるのか ? と、野党議員が疑問を呈するのは自然なことだと思われるが、その発言とともにテレビ・ニュースで子どもの犠牲者の棺の前で大声で泣き崩れるブルカ姿の女性の映像がテレビのニュースで流されてしまったものだから、こんな時に冷酷な発言をするなんて「モリソンはレイシスト(人種差別主義者)だ !」との批判が噴出してしまったのだ。
ビラウッド収容所の暴動では「暴力的な難民は豪州から出て行け」的になった国民世論が、この時は「難民擁護」に傾いたというわけだ。
「白豪主義」の対極と言える差別のない移民政策に基づく「多文化主義」の理念と、直接国民生活の中に関わってくる「難民受け入れ」という現実問題の狭間で、国民も政治家も多かれ少なかれ翻弄されているようだ。
◇モノカルチュラリズム(単一文化主義)に回帰 ?
先日、このお騒がせ発言をしたモリソン氏に直接話を聞くチャンスがあったので、昨年メルケル独首相が「ドイツの多文化主義は失敗だった」と述べたことを例に挙げ、オーストラリアのマルチカルチュラリズムの将来についてどう思うか ? と聞いてみた。
写真:記者の質問に答えるモリソン氏(筆者5月19日撮影)
「自分は『多文化主義』という言葉をあまり用いない人間だ。確かに文化の多様性は強みだが、政策よりもむしろメインストリーム(主流)に沿った共通の価値観のもとにオーストラリア国民をまとめることに興味を持っている」(モリソン影の移民担当大臣)
「多文化主義」に懐疑的だったハワード元首相の肝いりで、豪政府観光局代表の職から中央政界入りしたモリソン氏。やはり大先輩の教えには忠実なようだ…。
一方、身長180センチを優に超える巨漢で“辛口コメント”が板についているモリソン氏に比べ、小柄で童顔、物腰も柔らかなクリス・ボーウェン移民問題担当大臣は今年2月、地元新聞紙上に寄稿し、メルケル独首相の言葉に触れながらオーストラリアの「多文化主義」の今後について述べている。
「外国人労働者中心の移民政策を採るドイツとは違い、豪州の多文化主義はお互いの文化や価値観を尊重し合うことを重要視している。オーストラリアが“自由平等社会”であるならそれは“多文化社会”であり、“多文化”であるためには“自由平等”でなくてはならない」(ボーウェン移民問題担当大臣)
ヨーロッパの国々などが、移民の流入による犯罪や社会不安の増加、テロの脅威で「マルチカルチュラリズム(多文化主義)」から「モノカルチュラリズム(単一文化主義)」へ回帰傾向にある一方で、オーストラリアは、各移民が持ち込む多種多様な文化、伝統、言語、宗教を維持しながらも、自国の伝統的な価値観である共通語としての英語や自由平等民主主義を堅持する、いわば「豪州版マルチカルチュラリズム」を維持しようとしている。
「多文化主義政策」という大いなる実験の成否は、いつか世界が国家の枠を取り除き、1つの“地球共同体”をつくるという夢の実現の“カギ”となるのかもしれない。
※写真付の記事はこちらからhttp://nichigopress.jp/nichigo_news/goleaks/26650/
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1.
ふぅみん。
2012年1月25日 20時30分
[返信する]
白豪主義は、未だ息づいていますね。
純粋英国系オーストラリア人を見かける事が珍しい今でも、「オーストラリアに来る限り、英語を話し、オーストラリア文化に迎合するべき。」という考え方が深く浸透しているのを日頃感じます。古き良き白豪オーストラリアが、異文化に乗っ取られる危機感。日本にも共通するものを感じます。
反面、人道的、道徳的な難民対策を支持するオーストラリア国民。ジレンマを乗り越えて、本当のマルチカルチャリズムへの新しい一歩を踏み出せるでしょうか?
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