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宿志の剣 四 (無料公開)
[【時代小説発掘】]
2013年7月28日 13時17分の記事


【時代小説発掘】
宿志の剣 四
鮨廾賚


(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


【梗概】: 
 上野国大胡の領主上泉信綱は、養子秀胤に城を譲り、兵法流布のため回国の旅に出ようとしていた。そのとき58歳。第2の人生を自らの創始した新陰流とともに生きようと考えたのだ。だが、その頃の上野国は、武田、上杉、北条の争奪の渦中にあった。そしてまた信綱にしつこく付き纏う忍者飛びの段蔵の陰があった。

【プロフィール】:
鮨廾賚此昭和33年(1958)生まれ。平成22年(2010)第40回池内祥三文学奨励賞受賞。現在、新鷹会会員、大衆文学研究会会員、歴史研究会会員、歴史時代作家クラブ会員。



これまでの作品:

傀儡子御前


宿志の剣 一
宿志の剣 二
宿志の剣 三




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【時代小説発掘】
宿志の剣 四
鮨廾賚



宿志の剣 第三章 碓氷峠


一 峠の危難

 
 仲冬(旧暦十一月)――。
 冷気の混じった風が渺々と吹いている。
 その高原の風に頬をなぶらせながら、初鹿野伝右衛門他二名の騎馬は、碓氷峠の麓に来た。正使が伝右衛門で、他の二名は副使である。
 昨夜、小諸の城で仮眠をとっているとはいえ、甲斐から走り詰に走って来ていた。今日も朝早くから馬を馳せて、身は埃にまみれ、やや疲労の色が濃い。
「思ったより、峠は険しゅうござるな」
「この分では、頂上は雪ではござるまいか」
「雪だと峠越は難渋しますぞ」
「今宵は箕輪の城で身体を温めてから、明朝、大胡の城を訪ねられては」
 峠の入り口で一息入れながら、副使格の武士がかわるがわる言い合った。
「そうもなるまい。小諸の城で休んだばかりでもある」
 伝右衛門が否定したそのとき、碓氷峠の頂きから白い煙が上がった。
 真っ直ぐ、線のような煙であった。峠の下はやや風がある。ということは、頂上はかなり強いはずだが、煙はほぼ真っ直ぐに上がっていた。普通、焚き火の煙は左右に散って真っ直ぐはあがらない。狼煙は藁と杉の生葉などに乾燥した狼の糞を乗せて燃やす。これにより煙が真っ直ぐ上るという。
「方々急ごうぞ。急げば陽の落ちる前には大胡の城に着けるであろう」
 伝右衛門は馬に一鞭当てて、
「参るぞ」
 先にたって坂を上り始めた。
 伝右衛門一行はあくまでも武田信玄の使者である。仮に上野国で戦が始まっていても、まず使者の任を果たさねばならない。
「おお。急ごうぞ」
 互いに言い交わしながら、やや遅れて二騎も後に続いた。
 浅間山系と荒船山系に挟まれた碓氷の峠道は険しい。左手に山の斜面が迫り、右手は急勾配になっている。細い峠道を、人馬は駆けるというより、歩くという感じで上っていた。だが、逆にこれが一行に幸いした。
 かつかつ、と人馬三騎が一列になって進み、直に峠の頂上という頃おい、
「伝右衛門殿、上に気をつけられい」
 後からくる者の言葉で、伝右衛門が見上げると、左手の斜面の上から大石と木材が逆落としに落ちてきた。
 あわや下敷きか、というとき、伝右衛門は手綱裁きも軽やかに、巧みに大石と木材を避けたのだった。
 初鹿野伝右衛門は初老の人物だが、真っ黒に日焼けしたいかつい顔立ちである。眼光鋭く唇も厚い。いかにも歴戦の勇士という風情である。馬術もなかなかに巧みであった。
 伝右衛門が振り返ると、後ろから従いてきた二騎もなんとかこの危難を切り抜けたようで、無事であった。
 大石と木材はほとんどがそのまま崖に落ちていった。だが、自然な落下ではないことは明らかで、次の落下を警戒して、伝右衛門は左手の坂上を虎視した。
 坂の上は、しんとして次の落下の気配はなかった。
 峠の頂上はすぐそこである。今年は雪の降るのが遅いのだろうか、頂上に雪はなさそうである。風がやや収まったようだ。
「方々、一気に頂上まで参ろうぞ」
 伝右衛門は、後ろに続く二人に声をかけると、馬に一鞭くれて、頂上まで一息に駆け上がった。二人も後に続いた。
「何者だ!」
 伝右衛門は激しく誰何した。
 頂上には四人の武士が、伝右衛門たち一行に立ち塞がるように待っていた。その中で頭と思しき男が声をかけてきた。
「大胡城へのご使者初鹿野伝右衛門殿ご一行とお見受け仕る」
 瀬尾兵四郎であった。
 鈍色の小袖に襷をかけて袴の裾を括っている。だが、他の三人は小具足に身を固めて、弓を携えていた。
「いかにも」
 伝右衛門は鷹揚に応じながらも、兵四郎一行に漂う強烈な殺気を感じていた。
「先ほどの落石はその方どもの仕業か?」
「あれはほんの挨拶代わり。あれしきで初鹿野殿一行が参るとは思ってもおりませぬよ」 兵四郎は涼しい顔で応えた。
「その方らは何者か。いずれの手の者か。何故、我らの邪魔立ていたすか」
 伝右衛門は矢継ぎ早に問いを飛ばす。
 だが、その質問に瀬尾兵四郎はいっさい答えなかった。
「お命頂戴」
 一声叫んだ兵四郎は、
「それっ」
 と、従う三人に下知をした。
 三人は弓に矢をつがえて、伝右衛門に従う二人に狙いを絞った。
「むっ!」
 伝右衛門の従者二人の動きが止まった。
「手出し無用。初鹿野伝右衛門殿。一騎打ちとござろう」
 兵四郎は余裕のある口ぶりでそう言うと、抜刀して伝右衛門に向かってきた。
「ふ、命知らずな」
 通常、一対一の勝負であれば馬上にある者が有利である。高みからの勝負ができるからだ。まして伝右衛門は歴戦の勇士であった。落ち着いて腰の太刀をすらりと抜きはなった。
 兵四郎と伝右衛門の距離がみるみるうちに縮まった。
 二人が互いの刃境を超えようとしたそのとき、兵四郎が大きく跳躍した。
「おう!」
 予想もしなかった事態に、伝右衛門は突きをくれようと構えていた太刀を慌てて引き、跳躍からの兵四郎の討ち込みに備えた。
 伝右衛門はとても片手では防ぎきれないと思い、両腿で馬の腹を押さえると、両手で兵四郎の太刀を受けた。
 がっ、という鈍い音とともに、二人の太刀が打ち合った。
 兵四郎の太刀には上から打ち下ろす勢いがあった。伝右衛門は支えきれず、どうと落馬する。着地した兵四郎は、そのままくるりと回転しながら、体勢を立て直そうとする伝右衛門を水平に薙いだ。
 伝右衛門は受けるのに精一杯である。十分に体勢を立て直していなかったため、そのまま再びどうと倒れこんだ。
 見れば崖が間近にあった。がらがらっと道にあった石が崖に落ちていく。
「お覚悟!」
 叫んで、兵四郎が上段に構えた太刀を、いましも上から振り下ろそうとしたとき、
「その勝負待った」
 しゃがれた声が後ろから聞こえたかと思うと、小刀が兵四郎の背中めがけて飛んできた。
「むっ!」
 危うく兵四郎が小刀をかわし、声のした方を睨むと、そこに旅の武芸者と思しき男がのっそりと立っていた。まるで地から湧いたような感じであった。


二 峠の太刀合い


「何者? 邪魔立てするか」
「そなたの剣、新陰流と見た。まずはそれがしと勝負せい」
「勝負はこの後にして取らす。いまは我らの邪魔立てをするでない」
 兵四郎の声は怒気を含んでいる。
「ふふ。若いのう。それではそなた負けるぞ」
 しゃがれた声は、挑発するように言った。
 旅の武芸者と思しき男は五十歳くらいか。小袖に袴を着していたが、袴の裾は絞っていない。小袖の上から羽織った海老茶の胴服が威厳を漂わせている。丸顔で額が大きく真っ白な髪を総髪にして肩まで垂らしていた。全体的に痩せていて、兵四郎より一回り小さい印象である。だが、細い目から発せられる眼光は鋭く、全体に隙がない。
 武芸者と思しき男は、胴服を脱ぎ捨てると、さっ、と太刀を抜いて兵四郎の前に進み出た。
「できる!」
 その者から発せられる気に、思わず瀬尾兵四郎の五体が引き締まる。かなりの遣い手であることは明らかだった。すぐに兵四郎は、右横に動いて中段に構えなおした。
「それがしの名は富田一法斎。新陰流とお手合わせ願おう。そこな御仁、立ち合いに邪魔ゆえ早々に立ち去られい」
 富田一法斎と名乗った男の言を聞くと、
「かたじけない。急ぎの用ゆえ失礼するが、わしは甲斐武田の臣で初鹿野伝右衛門と申す。このご恩は終生忘れぬぞ」
 立ち上がりながら名乗ると、伝右衛門は足早に自分の馬の側に寄った。
 頂上から見ると、上野国側は下りの坂道である。伝右衛門は馬の轡をとると、片足を鐙にかけてひらりと馬上の人となった。
「はいっ!」
 激しい叫びとともに、馬に鞭を当てて坂を下りていった。
「待て・・・・」
 だが、兵四郎に伝右衛門を追う余裕はない。一法斎の剣に油断は禁物であった。諦めて、従者に追うように指図しようとしたが、
「・・・・!」
 兵四郎に従った三人も、いまは弓を落とされ、一法斎の弟子とおぼしき四人に囲まれて苦戦している。
 伝右衛門に従った二人は、これもすでに伝右衛門を追って馬を急がせていた。
「ふふ。やっと諦めたようだの」
 兵四郎はやむなく一法斎と向かい合った。
「・・・・!」
 互いに無言で、中段に構えたまま動かない。双方ともに隙を見出せず、動けないと言った方が正しかったろうか。
 まずい、と兵四郎は思った。これでは主秀胤の命を果たせない。まさか邪魔が入るなどとは、夢にも思ってもいなかった。こうなると分かっていれば、もっと策を練るべきであったか、という後悔の念が湧いたが、すでに遅い。
 兵四郎の心の内に焦りが生じていた。
「ふふ・・・・」
 兵四郎のじりじりとした気持ちを察したのだろう。一法斎は薄笑いを浮かべながら、剣先をゆっくりと右下に下ろしていく。
(誘っている)
 兵四郎は一法斎の剣の動きに、われ知らず己の肩に力が入っているのを覚った。主命を重んじる気持ちが焦りとなって、誘われているのである。それほどに勝負を急いでいた。(いかん。相手の誘いに乗っては負ける)
 その思いが、兵四郎をして新陰流の基本の型に頼らしめた。ゆっくりと呼吸を整えると、兵四郎は猿飛の太刀の構えをとった。
 ――燕飛は懸待表裡の行、五箇の旨趣をもって簡要となす
 後に兵四郎の師秀綱から新陰流の印可を受けた柳生石舟斎がまとめた『影目録』にある。
 懸かるも待つも表裏の如く、五箇(眼、意、身、手、足)を敵に集中しろというものである。いわば剣を遣うものの基本とも言えるものだが、往々にして人間というものは雑念に惑わされるものである。勝負に雑念が無用だということはよく考えれば分かることだが、言うは易く行うは難い。
 後に秀綱が疋田文五郎へ与えた目録によると、猿飛は猿飛に始まり、猿廻、山陰、月影、浦波、浮船の六箇の名称が明記されて居る。ところが柳生石舟斎が師上泉秀綱から伝えられた燕飛は、燕飛、猿廻、月影、山陰、浦波、浮船、折甲、十力と八箇あり、折甲、十力の二つが追加になっている。さらに、数とともに<猿>が<燕>に変わっている。
 これは柳生石舟斎が秀綱から学んだ太刀を、自身さらに発展、整理したものと考えられる。猿廻、山陰とかもそれで一つの太刀の型を成しており、おそらく秀綱の猿飛の太刀は、猿飛、猿廻、山陰、月影、浦波、浮船と流れる一連の太刀を総称して言ったものであろう。。
 燕飛は元来猿飛と言い、秀綱が師愛洲移香斎の陰流から学んだ太刀である。石舟斎はさらに修行を積み、素早いが鋭さに欠ける〈猿〉の動きではなく、さっと飛翔する〈燕〉の迅速にして鋭利な曲線に自身の剣の奥義を見たのではないだろうか。
 ちなみに猿飛の読みは〈さるとび〉ではなく、まま〈えんぴ〉と読むらしい。
「む・・・・!」
 下段に構えた一法斎は、するすると進んで、そのまま兵四郎めがけて斬り上げた。
 兵四郎は猿飛から猿廻、月影、山陰、浦波、浮船までの一連の猿飛の太刀を持って一法斎に対した。だが、一法斎もまたその太刀の流れに呼応するように自らの太刀を様々に変化させた。
 兵四郎は一法斎の攻撃に対したように見えながら、実のところ一連の流れは、単に型通りに流れていたことに気づいていなかった。
「むねん・・・・」
 兵四郎の一連の流れが止んだとき、一法斎に深々と胸をえぐられていたのは、むべねるかなというべきであったろうか。。
 どうと倒れた兵四郎のもとへ一法斎が近寄ったとき、すでに兵四郎は事切れていた。
「主持ちの辛いところだの」
 薄笑いを浮かべながら、血振りをくれると、一法斎はさっと刀を納めた。
 兵四郎と行動をともにした三人を斬った一法斎の弟子と思しき者達が集まった。一人は一法斎の胴服を捧げ持ってきた。
「よし、急ぐぞ」
 嘯くように言うと、胴服を着して一法斎は先に立って歩き始めた。
 はっ、と門弟と思しき男達が後に続く。


三 再び、峠の太刀合い


「待て!」
 富田一法斎一行が、碓氷峠の頂上を上野国側に下ろうとしたとき、後方から声を掛けてきた者があった。
「・・・・?」
 一法斎は怪訝に思って振り返った。
 そこには一人の武士が立っていた。信濃国側から来た者であろうか。
 網代の笠を被っている。顔は分からないが、声からして若いようだ。身なりは貧しくはないが、黒の袖無し羽織の色の褪せ具合いからして、同じく旅の武芸者と思われた。
「何者!」
 一法斎の弟子の一人が前面に出て激しく誰何した。
「そこな御仁」
 網代笠の武士は一法斎を指さした。
「先ほどのお手並み、見事であった」
「まさか・・・・」
「いかにも。それがしも太刀合いを所望せん」
「むむ・・・・」
「ご不満か。死んだ若者も先ほどの勝負に不満であったろう。その心の隙に乗じられたは若さゆえかも知れぬ。だが、それゆえ、ここから先に行かせるわけには参らぬ」
「ぬう! さては新陰流縁故の者だな」
 怒りに任せて前面にたった弟子が刀を抜こうとするのを、
「待て」
 と止めて、一法斎が前に出た。
「そなたの相手ではない」
 網代笠の武士の腕前を見てとったのであろう。
「それがしは京流を学ぶ富田一法斎と申す。お手前のご姓名を承ろう」
「わけあって名は名乗れぬ」
 網代笠の武士が答えると、
「何! 無礼であろう」
「被り物を取れ」
「痴れ者め」
 一法斎の弟子たちが各々叫んだ。
「ふむ。名乗れぬ相手にこれ以上の問答は無用。我らは先を急ぐでな。さらばじゃ」
 弟子の激昂に比して、むしろ一法斎はやんわりと断った。
「いや。ここで立会いを所望じゃ」
「何! 無礼な奴。そこ動くな」
 弟たちはさらに激昂している。
 さきほど瀬尾兵四郎たちを倒したばかりである。弟子たちは一様に血が騒ぐのであろう。今にも抜刀しそうな気配であった。
 ところが、なぜか網代笠の武士は悠然と構えている。策略か、それとも腕への自信であろうか。
 言動からして、この網代笠の武士は腕に相当な自信があるようである。だが、一法斎の側は弟子が四人、対して網代笠の武士は一人。四人でかかれば倒せない相手ではない、と一法斎は思った。
「名乗りもあげぬ者に尋常な立会いは不要。刀の錆にしてやれい」
 一法斎の命令を待っていたかのように、四人はさっと抜刀すると、網代笠の武士にいざり寄った。
 おそらく、網代笠の武士もそれを待っていたのであろう。合わせるように太刀を抜くと中断に構えた。
「たあっ!」
 一法斎の弟子の一人が、気合の入った声をあげて打ってかかった。それを合図に残りの三人もいっせいに殺到した。
「・・・・!」
 一法斎は息を呑んだ。
 網代笠の武士の流れるような太刀さばきに、あっという間に四人が斬り立てられたのである。文字通り、流れるような、という形容がぴたりとくる流麗な剣の使い方であった。 しかも、一法斎にはその太刀の流れに見覚えがあった。
「新陰流猿飛の太刀!」
 思わず叫んでいた。
「いかにも」
 網代笠の武士は、刀についた血脂を払いながら答えた。
「ううむ。見事な。そなた何者じゃ」
「さきほど、名は名乗れぬと言うたはず。さ、今度は一法斎殿、こなたの番じゃ」
「むむ!」
 これほど見事な剣を遣うのは、上泉秀綱につながる者としか考えられない。秀綱の子秀胤か高弟の疋田文五郎か・・・・。
 相手が名乗らぬ以上、一法斎には知りようがない。
 と、そのとき、
「どけどけ、箕輪城代工藤祐長殿の火急の遣いじゃ」
 馬上の武士が二人、上野国側から登ってきた。相当に急いでいる。
 馬蹄の響きに、やむを得ないと思ったのか、一法斎に続いて、網代笠の武士が道をあけた。
 それと見た一法斎は、後ろから来た先頭の馬をやり過ごすと同時に、ぱっと跳躍して宙返りを打った。後方の一人を払うように蹴倒した。
 一法斎の蹴りにたまらず武士が落馬すると、そのまま代わって自分が馬に跨った。
「どう、どう・・・・」
 一法斎は手慣れた手綱さばきで馬の向きをかえると、上州側へと一気に駆け抜けた。
「ぬ! しまった」
 先頭の馬を避けた網代笠の武士が、臍を噛んだときには遅かった。すでに一法斎は碓氷峠の上野国側の下り道をいっさんに駆けているところであった。
 先頭の馬を手に入れようと思っても、すでに後の祭りだった。
「やむを得ぬか」
 網代笠の武士は諦めたように、悠揚と上野国側松井田の方へ向かって峠を下り始めた。 工藤祐長の使者のうち先を行く一人は、落馬した後ろの一人にはかまわず、ひたすら信濃国へ急いでいた。それほどに急いでいるということである。それもそのはず、この使者は、
 ――上杉謙信が春日山城を発して上野国へ出陣。
 という、知らせを持った甲斐国への使者だったのである。
 先ほどの狼煙もこの知らせであったが、さらに詳細を告げるべき使者であった。
 再び、上野国が、風雲急を告げていた。
(続く)







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