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風雲 念流剣 五  (無料公開)
[【時代小説発掘】]
2015年5月3日 12時31分の記事


【時代小説発掘】
風雲 念流剣 五
鮨廾賚



(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


【梗概】: 

 時代は室町中期に入ろうとする応永の末から正長にかけて(1420年代後半)。日本最古の剣派念流の道統二代目慈三首座(じさんしゅそ)は、初代念大慈恩の遺言として、南朝再興(後南朝)に一門あげて味方しようとしていた。南朝再興は、本当に慈恩の意思なのか。疑問を持つ正覚庵念道(俗名山入源四郎)とその弟子高垣藤四郎は、やがて、京と鎌倉の公方、後南朝の政争に巻き込まれていく。
本作は、全体4部作の予定で、下記(↓)『悍馬駆ける』の続編に当たります。


悍馬駆ける


http://honto.jp/netstore/pd-book_02503654.html


【プロフィール】:
鮨廾賚此昭和33年(1958)生まれ。平成22年(2010)第40回池内祥三文学奨励賞受賞。現在、新鷹会会員、大衆文学研究会会員、歴史研究会会員、歴史時代作家クラブ会員。




これまでの作品:

風雲 念流剣 一(序章)
風雲、念流剣 二 
風雲、念流剣 三 
風雲 念流剣 四 





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【時代小説発掘】
風雲 念流剣 五
鮨廾賚



第一部 鎌倉編 第四章 風雲の兆候(きざし)

一 曲者との対決

「はっはっは。ようやくに会えたな」
 佐竹義人の屈託のない声が部屋中に響き渡った。

 ここは巨福呂坂上の上杉憲実の別邸である。義人、憲実、念道の三人が座している。部屋には、小紋高麗縁の畳が敷き詰めてあった。この当時としてはぜいたくな造りである。今日の寄合のために、それほどまでに憲実が気を遣ってくれた、ということでもあろう。念道は素直に感謝した。

 正勝の幻術を振り切った念道は、約束の刻限にやや遅れて憲実の別邸を訪れた。
「申し訳ござらぬ」
 詫びは言ったが、遅れた理由は口にしなかった。

 だが憲実は、不快の色を見せることなく、
「なんの。御坊が来てくれたことが嬉しい。夏の夜はこれからよ。星はずっと輝いておろう。ゆるりとやろうではないか」
 詩人のようなことを言って、自ら義人のいる部屋に案内してくれた。

 むろん陽はすでに落ちている。部屋の全て戸は開け放ってあって、そこからは煌めく満天の星が見て取れた。

 その輝きとは裏腹に、念道の胸の内には曇りがある。さすがに常の心で会うというわけにはいかなかった。しこりのようなものがあったのは事実である。
 だが、邪気のない義人の声を聞いて、念道の抱いていたわだかまりはうそのように氷解した。

 思えば、鎌倉から誰一人身寄りのない鄙びた常陸国太田の地に入ったのが、わずか五歳のときである。
 爾来二十有余年、佐竹の家を巡る抗争に翻弄された人物でもあった。その争いをとにかくも収めた苦労は、並大抵のことではなかっただろう。

 威厳に満ちた、いかつい武者振りを思い描いていた念道は、目前の義人を見て、己の思いの誤りを知った。
 義人は白く丸い顔に柔和な笑みを湛えた、文人とも見紛う人物だった。画をよくするという風聞は真の事かも知れない。

「お噂はかねがね聞いておりましたが、拙僧もお目もじするのは、これが初めてでござりまするな」
「御坊の親父どのは、わしを佐竹に受け入れてくれなんだ。兄の祐義どのまたしかりだ」
 いきなりのきつい言葉だが、不思議と恨みがましさは感じられなかった。むしろ、それが当然とでもいうような話し振りである。

「恐れ入り申す。さりながら、それは浮き世のこと。拙僧はすでに御仏に仕える身でござれば」
 念道もごく自然に、さらりとその言葉が出た。

「よい。わしは敵ながら、与義どのには好感を抱いておった。自義(よりよし)どのにも恩がある」
 自義とは与義の弟で、念道には叔父にあたる人物である。名を小田野中務大輔自義といい、幼くして佐竹家の養子となった義人を、亡くなるまで誠意を持って補弼し通した。

 義人にもこだわりは全くないようだった。胸襟を開いて、まるで十年来の知古に再会したかのような口ぶりであった。

「まずは一献」
 話を変えるように、憲実が念道に声をかけた。憲実は今日の寄合の主人役である。
「お! 多恵どの」
 長い柄杓に似た瓶子を差し出したのは多恵姫だった。薄く紅を掃いている。
 義人と話している最中に入ってきたものだろう。

「いや。拙僧は、酒は・・・・」
 念道は杯で受けようとしなかった。
「多恵の酌では、気に入りませぬか」
 憲実も多恵も困惑の体である。

「いやいや、さにあらず。拙僧は兵法者でござれば酒は頂けませぬ」
 念道は師慈恩の教えを守り酒を嗜まない。

「これは堅いことを」
「お茶ならよろしゅうござりまするか」
 念道が頷くと、多恵姫はすぐに部屋を出て行った。

「せっかくの寄合の席ながら」
「気になさるな。酒が目的ではない」
「いかにも」
 義人も言葉を添えた。

 ややあって、多恵姫が茶の入った椀を持って部屋に入ってきた。
「どうしても会いたいと言ってきかぬのでな」
「ははは。多恵は御坊の兵法に惚れたようだ」
「叔父上。それは・・・・」
「構わぬではないか」
「そうですよ、兄上さま。わたしは念道さまに兵法を学びたいのでござります」
「そのように不躾に言っては。念道どのに失礼であろう」

 香織に続いて、多恵姫の弟子入りの希いを察して、念道は困惑してしまった。
「念道どのがにがりきっておるぞ」
「ははは」

 こうして話してみると、憲実の誠実な人柄と義人の真面目な性格が伝わってきて心地よい。二人ともに表裏のない人物と知れた。野心とも無縁であろう。
 山入と佐竹の抗争も義人が望んだことではないだろう。五歳の童がそのようなことを望むわけがないではない。
 義人は小田野自義の薫陶を受けて真っ直ぐに育ったようだ。敵と味方に別れたとはいえ、叔父自義の崇高な人柄は、念道も密かに尊敬していたのだった。

「山入祐義どのと和議が成ったのだ。常陸国の守護を分け合うこととなってのう」
 常陸国を上下に半国ずつ分け合うということらしい。

「聞きました。めでたき次第と存ずる」
「記念の一寺を新たに建立しようと思うている。御坊に住持を引き受けてもらえばなによりなのだ。天然和尚も推挙しておったぞ」
 山入、佐竹の和議の象徴である。住職として念道ある限り、再び両家が干戈を交えることはないだろう。

 義人には、両家のわだかまりを解くという誠意が溢れていた。その思いをひしと感じたが、念道も鎌倉を離れられない身である。

「常陸は静かになっても、鎌倉は落ち着きませぬな」
 心の内で詫びながら、念道はさりげなく話題を変えた。
「御所さまのことか」
 義人の眉宇が曇った。
「そういえば」
 思い出したように憲実の言葉が改まった。

「伝え聞くところでは、念流一門は南朝の残党に一味し、天下を騒擾に導かんとする野望があるとか」
「根も葉もない噂にござりましょう。確かに楠木某(なにがし)と名乗る人物が、わが念流一門に合力を求めたのは真の事。さりながら、念流の剣は、天下を騒擾に導くためにあるのではござりませぬ」
 念道はきっぱりと言った。

「あい分かった。それがしの誤解であったようだ」
 憲実が率直に詫びたそのとき、
「曲者!」
 外で警護する長尾景四郎のけたたましい声とともに、庭からいきなり殺気だった賊が飛び込んできた。

「何者だ!」
 義人の激しい誰何が飛んだ。
 その者は小具足姿に柿色の被り物で顔を隠していた。手に抜き身の太刀を持っている。 咄嗟に憲実が多恵姫を後ろに庇った。

 賊は黙したまま、太刀を振りかぶると憲実めがけて打ってかかろうとした。
「危ない!」
 声とともに、念道が目前にある膳を賊に飛ばした。

 眼前に飛んできた膳をとっさに賊が避ける。その間にすばやく憲実が多恵姫とともに部屋を出た。
「和尚、これを」
 義人が自分の腰刀を念道に預けた。

「曲者。拙僧が相手になろう」
 念道は賊の前に立ちふさがるようにして、義人から預かった腰刀を構えた。
 ちっ、という賊の舌打ちが聞こえた。憲実を狙ったのは明らかだった。
 部屋は十畳ほどの広さで、天井がある。長い太刀よりも短い腰刀の方が有利である。

 賊は一太刀念道に斬ってかかると、そのまま直ぐに太刀を引き、部屋から外へ出た。
「逃がさぬ」
 念道が後を追う。

 賊が憲実暗殺を失敗したのは確かなことで、いったん引き上げるものと思われた。
 だが、すでに外は胴丸姿の上杉家の家来が、手にめいめいの得物を持って待ち受けていた。長尾景四郎の手配であろう。

 賊は外に出ると、手近な家臣に斬ってかかった。血飛沫が飛んで、あっという間に一人が倒された。賊は相当の手練れのようである。
「太刀を貸してくだされ」
「これを・・・・」
 景四郎が駆け寄って、持っていた太刀を念道に渡した。

 佐竹どのに、と小さく言って念道は、義人から預かった腰刀を景四郎に預けた。
「心得た」
 同じく小さな声が返ってきた。

「こなたの相手は拙僧じゃ」
 念道は雑兵と斬り合っている賊の方へ進み出た。
 賊も気づいたのであろう、斬り合いをやめて念道に対した。覆面、小具足姿に返り血を浴びて悽愴な感がある。

 念道と賊は、互いに太刀を構えて相対した。
「ううむ」
 賊の剣技は並々ならぬものがある。そのことは、先ほど部屋の中で太刀を受けたときに察していた。

「惜しい。それほどの兵法を持ちながら、暗殺を事とするは」
 賊は無言である。
「武士であろう。名を伺おう。拙僧との太刀合いは、卑怯な振る舞いなく戦おうではないか。兵法の勝負としてのう。かくいう拙僧の名は、念流の正覚庵念道」
 その言葉を聞いて、賊は柿色の被り物を取った。

 篝火や松明に照らし出された顔はまだ若い。二十ほどであろうか。藤四郎とそう多くは違わないだろう。鼻筋の通った彫りの深い顔立ちであった。

「それがしの名は相良放庵。流儀は特にない」
 そう名乗ると賊は、持っていた太刀を下段に構えなおした。
 念道も改めて横中段に構えなおした。

 相対したまま、しばらくの時が流れた。咳も聞こえぬまま静寂のときが過ぎる。ぱちぱちと爆ぜかえるような篝火の音だけが異様に大きく響いた。

 ややあって、放庵の太刀が右脇に上がり、そのままするすると前に出た。
 念道も横中段に構えたまま前に出る。
「やっ」
 という、双方の気合いの声が響いて互いが交差した。

 そのまま相良放庵と名乗った賊が、どうと前に倒れた。瞬きした者は見逃したのではないかと思われる程の一瞬の出来事だった。
 わっ、という歓声が起こる。

「大事ありませぬか」
 景四郎が念道を気遣って側に寄ってきた。
「見事な技前であった。若いながら、ここまでになるには相応の修行を積んだものであろうが・…」
 後は言葉にならなかった。
 それにしても惜しい、と胸の内で反芻した。暗然たる思いである。

「これにてごめんこうむりましょう。星辰の見物が無粋な太刀合いになり申した」
 憲実どのと多恵姫によしなに、と景四郎に言付けると、義人に辞儀をして、その場を後にした。

 去りゆく念道の背に、
「天晴れ、念流の兵法」
 佐竹義人の感動した叫び声が飛んできた。
 義人の気持ちは理解しながらも、その言葉だけは拒否したい思いの念道だった。


二 源太左衛門との決別

 念道は怒っていた。
「楠木正勝め。卑怯なことを」
 いかに大義のためとはいいながら、あのような若者に暗殺を命じるとは、思い返すだに腹立たしいことである。
 そのうえ、あたら若い命を散らしてしまった、と思う。

 憲実や義人を守るためとはいいながら、太刀合わざるを得なかった。あの場合、全力であたらねばこちらが殺されていただろう。それほどに相良放庵の剣技は優れたものだった。
 思えば思うほど、藤四郎とそれほど年齢の違わない若者の命を、己の手で奪わねばならなかったことに無念の思いが募ってくる。

 いつもは冷静な念道にしては珍しいことであった。
 それゆえに、暗殺を命じたであろう正勝に怒りが湧いてくるのである。

「はっははは。和尚。肩いからして、何を怒っている」
 突然聞こえてきたその声には、揶揄が含まれていた。
「軒猿か!」
 念道は立ち止まって辺りを見回した。

 夜の往来では、人通りはそれほど多くない。
「この先の右手に大きな松の木がある。そこで待っていよう」
 その声は念道にのみ聞こえているようである。軒猿の姿を探してきょろきょろする念道を、怪訝な目で見る者がいた。

 念道が逃げるように歩を早めると、確かに右手にみごとな枝振りの松の木が見えてきた。その根本に埃にまみれた素襖姿の牢人が一人、太刀を枕に寝転がっていた。

「軒猿か?」
 念道が誰何すると、
「珍しく機嫌が悪いようだな」
 牢人はむっくりと起きあがると、からかい気味に言った。山木三十郎である。

 念道が黙っていると、
「先ほどの相良放庵という兵法仁は、楠木正勝が差し回した者ではござらぬよ」
「なに!」
「正勝は念道どのに術をかけようとして失敗し、念仏堂で不貞寝してござった」
「ぬしは見ておったのか」
「くぐつの術は、相当に気を遣いますでな。休まぬと身体が持たないのでござろう」
「なぜ、あのとき助けなんだ」
「念道どのなれば、破ると思うておりましたよ」
「ぬけぬけと。ところで、正勝の命でなければ、何者が相良放庵を寄越したのだ」
「さあ。それがしにもいまのところは分かり申さぬ」
「もう良い」
「虫の居所が悪うござるな」
 念道はこれ以上軒猿と話すのが面倒になった。珍しいことである。

 念道は無言でその場を離れた。あるいは軒猿が追ってくるかと思ったが、そのまま消えてしまったようで、振り返っても松の根本にそれらしき影はなかった。

 寿福寺に戻ると、
「お師匠!」
「お怪我はござらぬか」
 藤四郎と源太左衛門が交互に聞いてきた。
 二人とも心配して待っていたようだ。夜は深く、さすがに香織の姿はない。そのことに念道は安堵した。

「いや。大事ない。関東管領どののお人柄は、先だって一色小次郎の手の者から救われたときに分かっている」
「しかしながら、常と違うように見受けられるが」
 さすがに源太左衛門は、念道が興奮していることに気付いていた。

「相良放庵と名乗る兵法仁が現れて、ちと騒動になったのだ」
「相良放庵!」
 源太左衛門が驚いたようにその名を繰り返した。

「知っておらるるか」
 頷く源太左衛門に、上杉邸で起きた出来事を詳しく話して聞かせた。その後で、
「教えてくれまいか。相良放庵が何者で、誰が彼の者を暗殺に向かわしめたか」

「命じられたものではござりませぬ」
 源太左衛門は苦痛に顔を歪めて続けた。
「相良放庵とは仮の名。真の名は小栗平三郎と申し、常陸国の領主小栗満重どのの妾腹のお子でござる」
「なに、小栗の御曹司!」

 源太左衛門の語ったところによるとこうである。
 小栗満重は、念道の父山入与義などとともに京都御扶持衆の一人であった。鎌倉府よりも京の幕府に忠勤を励んでいたという。

 鎌倉公方持氏としてはそれが面白くない。そのため、応永二十九年から三十年にかけて、立て続けに京都御扶持衆を討伐した。命を受けたのは関東管領上杉憲実である。
 満重は憲実に攻められて、応永三十年についに小栗城は陥落した。そのとき満重は城を枕に討ち死にしたのである。

 まだ幼かった平三郎は、密かに城を落ちると鹿島の地に隠れ、そこで剣を学んだ。長じて後、憲実を親の敵と狙っていたのである。そして、今夜の決行に及んだものらしい。

「なんと!」
 源太左衛門の話を聞いて念道は絶句してしまった。
 激しい悔いが、再び満潮のように押し寄せた。

「念道どの。我らに力をお貸しくだされ。我らが仇、上杉憲実、足利持氏をともに倒しましょうぞ」
「そのために剣を学んでいたのか」
「いかにも。我ら長倉一党は、同じ志の小栗牢人と結び、いつの日にか憲実、持氏を殺し仇を報じる所存なのです」
「何という心得違いな」
「御坊にとっても持氏は父上の仇。我らとともに立ちましょうぞ」
 いまや源太左衛門の方が激していた。己の言葉に酔っているようでもあった。

 藤四郎はこの後どうなるものかと、はらはらして二人を見守っている
「長倉どの。落ち着かれよ」
 念道は源太左衛門を宥めると、
「持氏公は知らず、上杉憲実どのは高潔なお方。いま憲実どのを亡くすと、京と鎌倉は一戦に及ぶこと必死となるであろう」
 一気に言った。

「望むところではござらぬか。それゆえ我ら長倉、小栗一党は、憲実どのを狙うのでござる。念道どの、ぜひとも我らに与力願いたい。御坊の兵法があれば仇討ちの成就は、成ったも同じこと」
「お断り申す。上杉憲実どのは、鎌倉になくてはならぬお方」
「なんと!」

「小栗城攻めに、憲実どのが先鋒を務めたのは間違いなきこと。さりながら、それは持氏公の命を受けてやむなく行ったこと。元凶は京の将軍にならんとする持氏公の野望でありましょう。小栗どのとて、持氏どのに反旗を翻したのも確かなこと。勝つも負けるも兵家の常ではありませぬか。憲実どのを仇と狙うは筋違いというもの。それに憲実どのの人柄は、先日いっしょにお会いした折り、その目で確かめたはず」

 念道の必死の説得も、
「ならば、先に持氏公を討ちましょうぞ」
 恨みに固まった源太左衛門の耳には入らないかのようだ。
「聞き分けのないことを。京と鎌倉が一戦を交えれば、全国の南朝残党も蜂起しましょう。それでは、再び南北朝の戦乱の世に戻ってしまうことになる」
 そこまで言って念道は、はっとした。

 長福寺で楠木正勝から念流一門に合力の申し入れがあったとき、何となく腑に落ちないところがあった。その気持ちは自分でも十分整理し切れていないものだった。

 だが、いま長倉源太左衛門を前にして、己の進むべき道がはっきりと定まったように思われた。
(そうだ。念流は太平のための兵法。南朝にも北朝にも、京にも鎌倉にも与してはならぬのだ)
 それこそ師念大慈恩の教えを生かす道ではないか、と考えたとき、慈恩が南朝に合力する誓詞を書くはずがない、と念道は確信した。

 合力とは、後南朝とともに起つこと、剣をとって戦うということである。だが念流は太平のための兵法である。
 太平のための兵法とは、すなわち、
〈平法〉
 のことである。
 それゆえ、中条流平法の中条兵庫頭も二階堂流平法の二階堂右馬助も慈恩を師と仰ぎ、それぞれの奥義に達したのではなかったか。

「では、どうあっても」
「長倉どのこそ、落ち着いてよく考えてくだされ」
「臆したか念道どの。それがしは無念でござるぞ。亡き上総入道どのも草葉の陰で泣いてござろう」
 上総入道とは、念道の父山入与義のことである。

「いや。父なれば、いまの拙僧の考えを分かってもらえるように思われる」
「残念だが、お別れでござるな。後で後悔しても知りませぬぞ」
「なんの後悔など。それよりも長倉どのこそ」
「我らは牢人したとて坂東武者。命より名を重んずる」
 双方涙を流して話し合ったが、互いに理解を得るところとはならなかった。

「もはや二度と訪れることはござりますまい」
 源太左衛門は泣く泣く寿福寺を後にした。
「決して逸ってはなりませぬぞ」
 念道もそう言うのが精一杯だった。

 牢人しての源太左衛門は、衣食に事欠く暮らしであろう。日々の生計にも苦労しているはずである。その思いが、憲実や持氏に向かうのは理解できないことではない。
 だからといって、源太左衛門の言うとおりになれば、さらに坂東は混乱し、第二、第三の長倉牢人たちが生み出されることになりはしないだろうか。

 念道は政事の複雑さを噛みしめると共に、念流という兵法がどこまで役に立つのか、行くところまで行こうと堅く心に決めるのだった。


三 源太左衛門の孤立

「上杉安房守憲実か・・・・」
 長倉源太左衛門は、先ほどから何度となくその言葉を呟いていた。

 時刻はすでに深更に近い。だが、満点下の星の光で、鎌倉の町は殊の外に明るい。
 二階堂谷の奥の荒れた邸が、長倉一党と小栗一党の隠れ家だが、源太左衛門は真っ直ぐ帰る気がしなかった。そのため、星明かりのもと鎌倉の町中を目的もなくぶらぶらと歩き回っているのだった。

 原因ははっきりとしている。先ほどの念道とのやり取りである。いかに僧侶とはいえ、十も若い念道から激しい言葉で詰め寄られたことを思い出して、再び腹の中が煮えた。

「上総入道どのの恨みを忘れてござるか」
 口惜しさに思わず叫んでみたが、目前に念道が居るわけではない。声に出した途端に虚しさが襲ってきた。

 歩き回っているうちに、だんだんと頭が冷えてきた。
 冷静になって考えてみると、長倉一族を滅ぼしたのは、足利持氏であって上杉憲実ではない。
「確かに・・・・」
 その頃憲実は、まだ年端もいかない子供で、関東管領にさえなっていなかったのである。
 そこが小栗一党と決定的に異なるところである。小栗攻めの大将は、持氏に命じられたとはいえ憲実だった。

 源太左衛門は一色小次郎に追われ、憲実の別邸に匿われた日のことを思い出していた。 あの日見た憲実は、眉目麗しやかな青年であった。立ち居振る舞い、物言いにも若いながらも威厳が感じられて、好もしい印象を抱いたのも事実である。

 同じ鎌倉府の主人と家臣、と思っていたのだが、念道の話が真の事だとすると、内実は少し複雑なようである。
 いや、念道のあの話しぶりでは、真の事だろう。とすると、憲実は京に心を寄せて、持氏の行動を諫めていることになる。
「我らの仇は上杉憲実ではない。足利持氏なのだ」

 長倉一族が滅ぼされたのは、山入一族と共に佐竹義人の養子縁組に反対したのが直接の原因である。
 山入与義は京都御扶持衆であった。その後、京都に対して憎悪の炎を燃やす持氏が、同じ京都御扶持衆の小栗、宇都宮などを滅ぼした。そのときの総大将が上杉憲実だったに過ぎない。

「小栗党と我ら長倉党は、やや立場が異なるのかも知れぬ」
 考えに考えて、ようやく源太左衛門が、己の心の内に一つの帰結を得たのは、東の空が白々と明け染める頃だった。

 考えがまとまると源太左衛門の行動は早かった。
 二階堂谷の隠れ家に戻ると、まだ寝ている同志を起こして、
「上杉よりも公方の方が先だ」
 ひときわ大きな声で言った。

「寝言か。このように朝早く」
 訝る同志に、自らが見たり聞いたりした上杉憲実の高潔さと一色小次郎との諍い、その父一色直兼の評判、鎌倉府にまつわる風聞を述べて、
「憲実暗殺は思いとどまるべきだ」
 と力説した。演説といって良い。

「いかがいたしのだ。源太左衛門どの」
 始め不審がっていた長倉一族も、やがて源太左衛門の説得に、
「確かに我らが仇は、足利持氏だ」
 と、話に耳を傾ける者も現れたが、
「いまさら何を言う。まず、上杉憲実を、そして足利持氏を倒すと誓った我らが約定はどうなるのだ」
「そうだ。神前で一味神水して誓ったではないか」
 小栗牢人の激高はすさまじかった。

 この時代、
〈一揆〉
 すなわち武士が徒党を組むときは、決まった儀式があった。
〈一味神水〉
 といって、起請文にそれぞれが署名し、必ず神前でそれを灰にした後、お供えの清水に交ぜて飲みまわして誓いを立てるのである。後には、百姓が一揆を結ぶときの儀式にも受け継がれていく。

「待て。皆の衆」
 小栗党の長老が座を制した。
「聞けば、源太左衛門どのは、念道なる禅僧に兵法を習っているとか」
「念道とは、山入上総入道の子息だな」
 座の中から声がかかった。

「その念道は、昨晩上杉憲実、佐竹義人に会うため、上杉の別邸に向かったと聞いた」
「なにっ!」
「なぜそのような話を知っている」
「ふふ。それは内密のことで、ごくごく内々の話らしい。その機を狙って上杉憲実を討つべく平三郎どのがその別邸に向かったのだ」

「おお! 確かに平三郎どのがおられぬ」
 座が一気にどよめいた。
 昨夜の今朝である。相良放庵と名乗って、憲実暗殺に失敗した平三郎のことは、まだ知られていないようである。

「とはいえ、はや朝ぞ」
「いかにも。ちと、帰りが遅いようだが・・・・」
「鹿島で剣を修行した平三郎どののこと。まさかに失敗(しくじり)はないと思われるが」
 小栗党に不安が広がっている。

「念道に剣を習っているのであれば、源太左衛門どのは、結末を存じているのではないのか」
「いや。それがしも夕べは早めに修行を切り上げた」
 平三郎が失敗したことはすでに知っていたが、そのことを正直に話すことはためらわれた。

 そうとは知らず、なぜか長倉党の話は逸れていった。
「念道とは、山入祐義どのの弟どのか」
「その念道どのが、何故に憲実と佐竹義人に会うのだ」
「まさか、裏切ったのか」
「いや。そんなはずはあるまい」
 隠れ家は蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。

 祐義は佐竹義人と和を結び、先年常陸半国の守護に任じられていた。その和議がかりそめであることは、長倉党の全員が知っている。
 なぜなら祐義は、ここにいる長倉党、小栗党を密かに支えている大名だったからである。彼らが衣食に困らないのは、祐義の陰がらの支援があるからであった。

「待て。仲間内での争いは見苦しいぞ」
「平三郎どのが帰ってくれば分かること」
「いかにもそうだ。それに長倉どのの考えを山入祐義どのに談合してみてはどうか」
「おお。それは良い考えだ」
 分別ある者の言に、早速話がまとまった。

「いかがか、源太左衛門どの」
 京と関東の複雑な状況を反映して、長倉、小栗の者たちの考えも千変万化、まちまちだった。
「分かった。そういたそう」
「よし。では、言い出したそれがしが、祐義どののもとに参ろう」
 そのときである。

「平三郎どのの従者が帰ってきたぞ」
 という声が聞こえてきた。
「遅くなってすまぬ。はっきりさせるのに手間取っての」
 従者は詫びながら部屋に入ってきたが、肩を落として沈んでいる。

「して、平三郎どのの首尾は」
「不首尾でござる」
 帰ってきた従者は無念そうに言って、
「平三郎どのは、命を落としてござるぞ」
 と続けた。悔しさを絞り出すような声だった。
「なにっ!」
「なにゆえだ。あれほどの兵法を持ちながら」
 座は再び浮き足立ってきた。

「雑兵の十や二十、平三郎どのの敵ではないはずぞ」
「上杉邸に平三郎どのの兵法を破る者が居るとも思えぬが」
「それが・・・・。平三郎どのを破ったのは、念流の遣い手の禅僧だとか」
「なに! それでは正覚庵念道か」

「間違いあるまい。昨夜、念道どのは上杉家の別邸に足を運んでいる」
「なぜ。念道が平三郎どのを・・・・」
 呻くような声が聞こえた。
「どういうことだ。長倉どの」
 座は殺気立ってきた。
「先ほどの憲実を助するような物言いといい。可笑しいぞ」

「みなの衆。待ってくれ、それがしの話を聞いてくれ」
「いや。確かに可笑しい。源太左衛門どのは、念道に兵法を学ぶうち、心根も染まってしまったのだ」
「違う。聞いてくれ。それがしとて、念道どのとは激しく言い争ったのだ」
「風聞によると、念流は南朝の残党に好を通じているというぞ」
「許せぬ」
 激高した小栗牢人の中には、太刀を抜く者も現れた。

「源太左衛門どの。こうなってはもはや御身のことは我らも守れぬ。疑心が暗鬼を生んでいるのかも知れぬが、我らは小栗党とともに生死を誓った者どもだ。ひとまず、ここは我らと別れてくれ」
 長倉一族のうち思慮ある者の説得に、
「やむを得まい。さりながら、方々、決して短慮に走られるな。京と鎌倉を巡る動きは、我らが思うよりも複雑怪奇だ」
 さらば、と言って、源太左衛門は隠れ家を後にした。

「これにて源太左衛門は一味を去った。我らと縁を切ったのだ。もはや構うまい」
 長倉党の者の言に、
「よかろう」
 と、小栗党の者たちも含めて、みなが一斉に肯いた。
 その動きを背に感じて、
「寿福寺にも帰れぬ。この齢になって一人になろうとは・・・・」
 去りゆく源太左衛門は、そくそくとした寂しさを覚えていた。


四 酒生坊の最後

 雨が止んだ。
 激しくはないが、かといって春雨のような雨でもなかった。
 五月雨の時期には、まだ少し早い。

「やっと上がったか」
 藤四郎は一人ごちて鶴岡八幡宮の社務所の軒下を出た。
 長倉源太左衛門を探しての帰りだった。その途中に雨に遭ったものである。
 暦はすでに皐月(陰暦五月)である。

 あのような別れ方はない、と藤四郎は思った。と同時に、大人の口論である。頭を冷やせば元に戻ると思っていたが、その後、源太左衛門は寿福寺に現れなかった。
「どちらも、われから先には会いにくかろう」
 なろうことなら仲直りをして欲しい。そのためには自分が会って話をするべきだ、と藤四郎は決心した。
「わたしもご一緒に」
 香織も申し出てくれたが、
「いえ。まずはそれがしのみで・・・・」
 その好意を断ってのことである。むろん念道には内緒のことだった。

「急いで帰らねば」
 すでに日は落ちて、辺りは暗さを増していた。
 闇に目が慣れてきて、藤四郎の足は自然と早くなる。
 いわや小路から今大路に入ってすぐに裏の小路に入った。寿福寺への近道なのである。
(やれやれ、もう少しだ)
 と安堵したとき、人の争う気配を感じて藤四郎は足を緩めた。

 気配を消して、そろりそろりと近づいていく。
 争っているのは三人で、そこはややせり上がった野原になっていた。
 雨の上がった空には星が出ていて、三人の影法師をぼんやりと浮き立たせている。一人の行者らしい人物を二人の暮露が襲っているようだ。

 藤四郎は知らなかったが、襲われている行者は酒生坊(さこうぼう)、二人の暮露は銀弥勒となかぬき坊だった。

 酒生坊も兵法をよくする。太刀を使って二人の攻撃を防いでいた。
 だが、明らかに押されていたのは、酒生坊の方だった。一人で二人に対しているという事情もあったが、それ以上に銀弥勒の兵法が勝っていたからである。
 やがて、酒生坊は追いつめられていった。

 銀弥勒、なかぬき坊も得物は太刀である。このままでは、危ないと思いながらも藤四郎は助けようかどうしようか迷っていた。

 暮露のことは念道から聞いて知っているが、三人が戦っている事情が分からない。下手に手を出して事態をこじらせては拙いという思いがあった。

 酒生坊は銀弥勒に斬りたてられて、すでにかなりの手傷を負っていた。致命傷に至らないのは、銀弥勒の作戦のようであった。

 なかぬき坊が後ろに回って退路をふさいだ。
 正面の銀弥勒が太刀を構えたまま、
「もはや負けは明らかよ。神剣を渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」
 命は助けてやる、といいながらも酷薄な響きが感じられた。

(神剣・・・・。もしや、草薙剣では・・・・?)
 藤四郎は心の中で反芻した。念道から長福寺での出来事を細かに聞いていたわけではないが、言葉の端々から薄々事情を察していたからである。

「持っておらぬ」
「ならばどこにある」
「すでに熱田神宮へお返し申し上げた」
「嘘を申すな」
 すかさずなかぬき坊が、酒生坊の後ろから否定した。
「熱田神宮に忍んだが、太刀は無かったぞ」
「そうか。ぬしが管領どのの使者を殺した暮露だな」
 酒生坊は何かを覚ったようだが、
「言え。神剣はどこに隠した」
 苛立ったような銀弥勒の声に、観念したように目を閉じた。
「言わぬか。ならばやむを得まい」
 銀弥勒が太刀を構えなおしたとき、

「待て」
 と、叫んで藤四郎は飛び出していた。
「何者! 邪魔するな」
 銀弥勒が藤四郎の方を見た。
「一人に二人で対するは卑怯であろう」
 藤四郎は庇うように酒生坊の側に寄った。
「おっ。こやつは高垣藤四郎」

 気付いたのはなかぬき坊だった。
「ほう。念道の弟子か」
 銀弥勒が意外なという顔つきをしたが、念道と聞いて酒生坊の顔色が変わっていた。
「ならばどうした。お師匠が直にここに現れるぞ」
 藤四郎は一計を案じた。このまま銀弥勒と戦っても藤四郎の兵法では勝ち目がない。
「ここで落ち合う約束になっているのだ」
「そうか。ならば、先にぬしを葬ろうかい」
 藤四郎の計略は、逆効果だったようだ。

 銀弥勒は、再び太刀を構え直して藤四郎に斬りつけてきた。
 その太刀を外して、藤四郎は酒生坊から離れた。
(やむを得ぬか)
 銀弥勒の関心を藤四郎に引きつけられれば、酒生坊はなかぬき坊を振り切れるかもしれないと考え直した。

 藤四郎は銀弥勒の太刀を受けながら、酒生坊との距離を開いていった。
「逃げたぞ」
 なかぬき坊のひきつった声が響いた。
 藤四郎の狙いは当たったようだ。

 銀弥勒の注意が逸れたとき、たっと藤四郎は気合いの一刀を突き出した。
 太刀は銀弥勒の袖をかすった。
「勝負はまたよ」
 そう言って銀弥勒は、酒生坊を追おうとしたが、なかぬき坊が手傷を負っていることを知ると、
「情けなきことかな。日を改めよう」
 なかぬき坊に手を貸して、銀弥勒は闇に溶けるように消えていった。

 藤四郎は酒生坊が逃げたと思しき辺りを探したが、酒生坊は見つからなかった。

 その少し後――。
「遅うございますね」
 香織が心配そうに言った。
「いつものように御酒が出ているのですよ」
 香夜は諦め顔である。
「すっかり京の風習に慣れてしまって・・・・」

 刀匠行定の邸では、香夜と香織母子が行定の帰りを待っていた。その日行定は、刀座の寄合に弟子一人とともに出かけて留守だった。
 時刻はすでに戌の刻(午後八時)を大幅に過ぎている。

「香夜さま」
 突然、行定の弟子の一人がけたたましい声で呼んだ。
「なんです。騒々しい」
 香夜は入口に出て思わず声を出した。
「まあ。いかがいたしました。しっかりなさい」

 弟子が血だらけの行者を抱いていたからである。その行者こそ藤四郎の助けで銀弥勒たちから逃れた酒生坊だった。
「いま、この行者が倒れ込んできたのです」
「奥へ。奥へ寝かせましょう」
 気丈に指図した香夜は、香織を呼んで湯を沸かすように言いつけた。

「すまぬ。ここは刀匠行定どののお宅であろうか」
「話してはいけませぬ」
 香夜は肯きながら、行定の弟子に命じて酒生坊を奥の部屋へ移した。
「やつがれは酒生坊と申す。行定どのは?」
「座の寄合で留守にしております」
「これを、これを行定どのに渡してくだされ」
 そう言って酒生坊は、錦の守袋を手渡した。

「分かりました。まもなく帰って参りましょう。傷は深くはありませぬ。直にお渡しなされ」
 香夜はやんわりと断って、守袋を酒生坊の懐へ戻そうとした。
「いや。是非とも・・・・」
 酒生坊は意外にもかたくなだった。
 香夜は安心させようとしたのか、今度は黙って受け取った。

「かあさま。医師(くすし)を呼んで参ります」
 香織が外へ出ようとするのを、
「お待ちなさい」
 と止めて、弟子の一人に供をするように命じた。

 香織と弟子の一人が医師を呼びに行ってすぐに、もう一人の弟子が湯を持って現れた。さきほど酒生坊を抱えていた男である。

 香夜は行者の着ているものを脱がせているところだった。
「傷口を拭いてあげなさい」
 香夜が命じたとき、
「頼もう」
 という声が響いてきた。

 重く腹にずしりとくる声である。香夜は兵法仁だと覚った。
 胸騒ぎを感じて、酒生坊から預かった守袋を鹿島大明神を祀った神棚にそっとおいてから入口へ出た。

 声の主は確かに兵法仁だった。四角い顔は厳つく、大きく開いた目は、ぎらぎらと光っている。肩幅も広く背も高い。思わず悪鬼羅刹を思わせた。

「夜遅く、何用でござりましょうや」
 さすがに香夜の声も震えている。
「ここに、手傷を負った行者が転がり込んだであろう。出せ」
 兵法仁は居丈高に言った。

「無礼でありましょう。名も名乗らず、いきなり指図するとは・・・・」
 香夜は震える声ながらも毅然と言い返した。
「ふふ。我が名は鹿伏兎刑部。盗人酒生坊なる行者を探しているのだ。邪魔立てすると女とて容赦せぬぞ」

「盗人とは? 何を盗んだのでござります」
「熱田神宮の神剣よ」
「まあ・・・・」
 さすがに香夜もびっくりしてしまった。次の言葉が出てこない。
「分かったらそこをどけ」
 刑部はむりやり邸に上がろうとした。

「お待ちなさい」
 香夜が止めようとしたとき、刑部の持っていた太刀が引き抜かれた。
 あっ、という声を出して、そのまま香夜が倒れ込む。刑部はかまわず奥に進んだ。
「お待ちくだされ」
 酒生坊を背に弟子が止めようとしたが、刑部はその弟子を一突きにした。
「神剣はどこにある」
 刑部が太刀を抜いて酒生坊に問う。

「ここにはない」
「見れば分かる」
「やつがれはもういかぬ。このまま楽にしてくれ」
「神剣を隠したまま死ぬというか。兄弟子今出川義円が悲しむぞ」
「やむを得ぬ」
 酒生坊はすでに覚悟を決めているようである。

「ふうむ」
 しばし迷った刑部だったが、
「ならば死ね」
 冷酷に言い放って、酒生坊の胸を一突きした。そのまま酒生坊は絶息した。
「酒生坊は死んだ。神剣の行方は分からぬが、これで良いわ」
 刑部は一人呟くと、行定の邸を後にした。

 香織が医師を伴って戻ってきたのと、行定が座の寄合から帰ってきたのは同時であった。

「何者がこのように酷いことを」
 行定はかなり酔っていたが、我が家の惨劇を目の当たりにして一気に酔いが冷めた。
 酒生坊のために呼ばれた医師は、香夜と弟子の介抱に当たった。弟子はすでに絶命していたが、香夜は苦しい息の下から、
〈鹿伏兎刑部〉
 に殺されたと言い残して息絶えた。


五 酒生坊の正体

 翌日――。
 急変を聞いて駆けつけた念道と藤四郎だったが、余りの悲惨な状況に二人とも息を呑んだ。

 藤四郎をみとめた香織は、その胸に縋ってきた。慰める言葉もなく、藤四郎はただ黙って香織の任せるままにしていた。

 念道は経を上げて三人を弔った後、
「何者がこのような酷いことを」
 疑問に思って行定に訊ねた。酒生坊は知らず、香夜も弟子も一刀のもとに絶息しているのである。

「鹿伏兎刑部の仕業でござります」
 行定の声は沈んでいる。
「何者です?」
「鹿島の剣を遣う兵法仁と聞いたことはありますが、その他には・・・・」
 行定は首を振った。

「かあさまの仇はわたしが討ちます」
 香織が興奮したように叫んだ。
 藤四郎が落ち着かせようと必死になっている。

「この手傷を負った行者は」
「酒生坊です」
 念道の問いを遮るように藤四郎が答えた。
「なぜ、こなたが知っている」
 びっくりした念道が藤四郎に問うた。
 昨夜のできごとをかいつまんで藤四郎が話した。

「酒生坊とそれがしは旧知の間柄なのです。それゆえ暮露の手を逃れた酒生坊は、ここへ来たものでしょう」
 行定が酒生坊を知っていたことも念道には驚きであった。

「教えてくだされ。酒生坊とは何者なのです」
「酒生坊は、本山派の山伏ながら鞍馬承元の弟子なのです」
 鞍馬承元とは、鬼一法眼、源義経に連なる京八流の正当な承継者の一人である。

 京八流とは、鬼一法眼が創始した兵法と伝わっている。その伝授を受けた源義経が、木曽義仲と平氏を破って兄頼朝の鎌倉幕府創業を助けたことから隆盛となった。
 義経は鬼一法眼から授かった兵法を八人の僧侶に伝えた。そのため、京八流と呼ばれているものである。

「さりながら、京流を受け継ぐものは八つの流派に限られませぬ、八流の八は、いわば末広がりの縁起を担いだもの」
「知っております。八人の僧は・・・・」
 と言って念道は、
 祐頼
 清尊
 朝範
 性尊
 隆尊
 光尊
 性祐
 了尊
 の、八人の名をあげた。それぞれの流れを初代の名をとって祐頼派、清尊派という。
「はは。もしや、釈迦に説法でしたか」
 行定は笑って、
「鞍馬承元は、八人の僧とは異なる流れでございました。ただ、あまり人前に出ず、ひたすら鞍馬寺に籠もっておりましたゆえ弟子は二人のみでござります」
 と言った。

「その一人が酒生坊と」
「いかにも」
「だが、なにゆえ南朝と敵対を」
「敵対はしておりませぬ。ただ、兄弟子が今出川義円どのゆえ」
「そういうことか」
 念道は合点した。

「何がでござります、お師匠」
 藤四郎には分からない。
「今出川義円どのは、青蓮院門跡にして先の天台座主。室町殿の御弟に当たられるのだ」
 室町殿とは、四代将軍足利義持のことである。後に今出川義円は六代将軍足利義教となる。京に出た藤四郎が不思議な縁で結ばれることとなるのだが、それはもう少し先の物語である。

 念道は、天狗の面を被っていながらも、畠山駿河守、大猿が酒生坊と見破った理由を覚った。

「ですが、なぜ酒生坊が行定どのの邸を訪れましたのか」
「むろん、偶然ではありませぬよ」
 藤四郎の疑問に行定が答えた。
「先年それがしが、京の信国どのを訪ねたおりに親しくなったゆえ頼られたものでしょう」

 信国とは来派につながる刀匠で、信国派の三代目である。代々が信国の名を継承し、三代目は後に応永信国と呼ばれる名刀工でもある。信国派は、山城伝のみでなく相州伝の太刀もよくした。

「おそらく、長福寺で神剣を奪ったものの暮露の探索が厳しく、熱田神宮まで行き着けなかったものでしょう」
「だが、鎌倉に現れるとは」
 不用心だったのではないか、と念道は思ったが、
(それほどに暮露の追求が厳しかったということもあろうか)
 と、すぐに考えを改めた。

「神剣は?」
「持ってはおりませんでした。神剣なれば、わたしでも分かりまする」
 香織の言葉に行定が大きく肯いた。
「どこかに隠しているのでしょうか?」
「隠し場所を訊かれたかな」
 念道の問いに、
「いいえ。わたしはすぐに医師を呼びに行きましたゆえに」
 香織の言葉に、「それがしも」と弟子が続けた。

「あるいは香夜が訊いたとも思われますが」
 そこまで言って行定は、はっとして、
「それゆえに鹿伏兎刑部に殺されたものでしょうか」
 と疑問を口にした。
「許せませぬ。かあさまの仇は、必ずわたしが討ちます」
 香織が決意を新たにした。

「まずは葬儀。その後、手分けして鹿伏兎刑部を探しましょうぞ」
 念道の提案に、その場に居合わせた者が全て首肯した。

 同じ頃――。
 楠木正勝こと暮露の総帥虚堂道人は、釈迦谷の法華堂にいた。
「不首尾であったか」

「銀弥勒ともあろうものが、面目なきこと」
 自嘲が籠もっている。銀弥勒は盆の窪に手をやった。
「藤四郎さえ現れねば。今一歩というところだったのですぞ」
 なかぬき坊が口を尖らせた。
「これ・・・・」
 銀弥勒がたしなめる。

「藤四郎はたいしたことはござらぬ。ただ、きゃつの言に迷って、念道を警戒し過ぎましたわい」
「まあよい。で、神剣は?」
「酒生坊は持っておりませなんだ」
「行定の所へもか?」
「いかにも。鹿伏兎刑部の手にも渡っておりませぬ」
「ふうむ。隠したか?」
「おそらくは。しばらく、行定、念道、刑部の動きから目を離さぬようにいたしましょうわい」
「頼むぞ。我は鎌倉公方に会う」

「おお。目通りが叶いまするか」
 なかぬき坊が嬉ししそうに叫んだ。
「虚道ではなく、楠木正勝として会う」
「では。いよいよ」
「策は我が胸に有り」
 虚道道人は大きく肯いた。


六 正勝、持氏に謁見す

 話は少し前に遡る。

「御所さま。内密のお話が」
 一色直兼は、鎌倉公方持氏の機嫌の良いときを見つけて、ずずっと座をすすめた。
 御座の間には、持氏と直兼以外は誰も入ない。

「どのようなことだ」
 持氏の言葉も小さくなる。
「楠木正勝と申すものが、目通りを願い出ておりまするが、いかが取り計らいましょうや」
「ほう楠木とな。楠木といえば、あの正成に連なる者か」
「曾孫と聞きおよびまする」

「ふむ。とすると南朝再興に関わることだな」
 持氏の細い癇の強そうな目がきらりと光った。
「おそらくは」
「よかろう。密かに会いたい。よきようにとりはかろうてくれ」
 持氏の命に直兼が、はつ、と平伏した。

 このとき楠木正勝は、一色直兼の館に滞在していた。
 始め正勝は、念道を使って上杉憲実を暗殺し、それを手土産に一気に後南朝と鎌倉の同盟を謀ろうと考えた。だがその計略は、念道の拒否に会いあっさりと破れた。
 最後はくぐつの術で操ってでも暗殺を図ろうとしたが、それも失敗した。

 くぐつの術は気を集中して行う。そのため、術の正否に係わらず、かなりの気力、体力を消耗するのである。
 正勝は念仏堂で体力の回復を待った。

「暗殺のことを軽々に漏らす念道ではあるまい。事は急がねばならぬ。だが・・・・」
 正勝も簡単には次の策が思い浮かばなかった。

「念道の弟子か、憲実の妹をうまく使えぬものか・・・・」
 そのとき、正勝には閃くものがあった。一色直兼の子小次郎のことを思い出したのである。

 それは先月のことだった。
 無頼の徒と交わり、狼藉を繰り返す小次郎に、正勝はわざと近づいていった。
 化粧坂の傾城屋の建ち並ぶ一角――。
 小次郎たちは、昼間から酒に酔い、遊君をからかっていた。侍烏帽子に直垂を着崩して、これも酒に酔っている取り巻きを四、五人ほど引き連れている。

「小次郎どの。先だっては、ご不快でありましたな」
「何のことだ?」
 小次郎は突然現れた正勝に胡乱な目を向けた。

「巨福呂坂上で逃げられた爺いと坊主一行のことでござるよ」
「なにっ! わぬし、どうしてそれを」
 取り巻きの一人が語気を荒げたが、小次郎が片手で制した。

「爺いは知らず、坊主は念流という兵法の遣い手。なまなかなことでは勝てませぬぞ」
「ふん。ならばどうする」
 ぎらぎらと目を光らす小次郎に、
「身どもが坊主を上回る兵法仁をご紹介いたそう」
「こなた何者だ?」
 その目には明らかに警戒の色があった。

「お父上にお会いしたら申し上げよう」
「ふん。親父殿に擦り寄って、あわよくば郎党になろうとの魂胆か」
 言いざま、だっと腰刀を抜いて、小次郎は正勝に斬ってかかった。

 正勝はその刀を避けると、素早く小次郎の腰刀を握っている両手を包むようにして身を近づけると、
「上杉多恵姫のこと、身どもにお任せあれ」
 と、耳元でささやいた。
「む・・・・」
 小次郎の顔色が変わり、酔いが覚めたように正勝の目を見た。

「遊君をからかったとて、多恵どのは我がものになりませぬぞ」
 その言葉は、荒んでいた小次郎の心をとらえた。
 小次郎の力が抜けたのを見て、正勝が手を離した。

「ならばどうする?」
 腰刀を収めて小次郎が問うた。
「身どもにお任せあれ。まずはお邸にて策を・・・・」
「分かった。ついて参れ」
 そう言って小次郎はすたすたと歩き出した。
 正勝がにやりと笑って後に続いた。
「小次郎どの。どうしたのだ」
 急に変わった小次郎の態度を不審に思いながらも、取り巻きたちが後に続いた。

 そして正勝は、小次郎を通じて父直兼に面謁した。
 無頼を極める小次郎の紹介である。はじめ迷惑そうな顔をしていた直兼だったが、やがて正勝の巧みな弁舌に、いつしか魅了されていった。根は気の小さい野心家だが、憲実憎しの気持ちは強い。

 直兼にとって持氏の信任は、自らの権力の源泉である。そのことを熟知している直兼は、持氏の将軍職への野望を何とか叶えたいと考えていた。
 それが実現できないのは、憲実が京に通じ阻んでいるからである。そのため、憲実を排除したいと直兼は思っていた。
 そんな直兼にとって、正勝の登場は、まさに渡りに船だった。正勝の目に狂いはなかったのである。

 正勝が虚道道人として、銀弥勒となかぬき坊から神剣奪取に失敗した顛末を聞いた数日後――。

「ご尊顔を拝し恐悦至極に存じまする」
 恭しく挨拶を述べる正勝に、
「予が持氏である。正勝とやら何用じゃ」
 満足げに持氏が言葉をかける。

 御所内の回廊の片隅である。玉砂利を敷き詰めた地面に正勝は畏まっていた。
 その日も鎌倉はよく晴れた暑い日だった。
 だが、回廊にはほどよい風が吹き抜けて、日差しも届かず、むしろ爽やかな感じであった。癇性の持氏も殊の外に機嫌がよい。

 正勝の肩はこころなし震えているように見えた。持氏はそれを己の威を畏れてのことと思い至極満足の体であった。機嫌の良さは気候よりも、むしろこちらの方に原因があるのかも知れない。

 今日の正勝は、侍烏帽子に直垂姿だが、南朝の重臣とはいえ無位無冠である。仮にも鎌倉公方に会うのだ。さすがに座敷でというわけにはいかなかった。

「よい。内密の面謁である。直答を許す」
 なかなか頭をあげぬ正勝に、自分の威光にひれ伏しているものと思っている持氏は、相変わらずの上機嫌で命じた。側には一色直兼が控えるのみである。

 されば、と言ってゆっくりと顔を上げた正勝は、
「御所様には大望をお持ちと拝察仕りまする」
 いきなり、ずけりと言った。

 むっ、と気色ばむ一色直兼を、よい、と手で制して、
「聞けばそなたは楠木正成の末裔とか。何の策略あって予のもとへ参った」
 持氏もはっきりと問い返した。

「恐れ入り奉る。それがしは策略を持って参ったわけではござりませぬ。ただ、ひとえに小倉宮さまの意を体しての伺候にござりまする」
「なに。小倉宮とな」

 幼くして鎌倉公方を継いだ持氏は、純粋で一本気なところがある。それゆえに持って回った言い方を嫌う。当然のことながら諌言も嫌った。このあたりが関東管領だった上杉禅秀と相容れず、結局は禅秀の謀反を誘ってしまった遠因でもあったろうか。

 だが、本人にその自覚はない。老獪な正勝は、そうした心のあやを十分心得ていて、あえてはっきりと述べたのであろう。
 狙いはたがわず、持氏はまるで餌にがぶりと食らいついた犬狼のように、正勝の誘いに乗ってきた。
 癇の強そうな細い目が蛇のように光っている。

「御意にござりまする」
 いったん平伏して、再び頭をあげた正勝は、京都の足利将軍家がいかに南朝(大覚寺統)を粗末に扱ってきたかを手短に述べ立てた。この場合、長話は禁物である。

「義満さまは両統から交互に皇位に就くことをお約束なされました。しかるに義持さまはじめ幕府は、一向にその約束を守っておりませぬ。思うにこれは宿老の皆様の謀ではないかと愚考仕る次第」
「宿老か・・・・」
 持氏が、ふっと呟いた。

「いかさま。噂によると、御所さまから室町殿への申し状をお取り上げにならないのも、ひとえに宿老の皆様のご意見とか」
 御所さまとは持氏、室町殿とは足利義持のことである。

「うむ。分かっておる。元凶は畠山と坊主よ」
 畠山とは管領畠山満家、坊主とは三宝院満済のことである。二人とも義持の父義満以来の宿老で、幕府内での発言力も大きい。

「・・・・でありますならば、宿老の皆様方に目を覚ましていただかねばなりませぬ」
 正勝はここでいったん言葉を切って、
「小倉宮さまは伊勢の北畠中納言さまを頼るお積もりにござりまする。すでに北畠さまは戦の支度に余念がござりませぬ」
「なに。北畠が兵を挙げると」

 持氏と直兼の顔色が変わった。それを盗み見て正勝に薄い笑みが浮かぶ。
「南北合一の際には、北畠さまも随分のお骨折りでござりました。したがって、今だ約束が果たされぬのは、幕府の落度であると思いなしておりまする」
 北畠さまとは、伊勢国司北畠中納言満雅のことである。

「いつだ。北畠は、いつ兵を挙げる」
 一色直兼が思わず問うた。正勝はその問いには答えず、
「実は、そこでござりまする」
 持氏を見て焦らすように言った。

「北畠さまお一人にては過去にも例あれど、成就した例しがありませぬ」
 満雅はこれより前に幕府に背き、一度兵を挙げている。だが、結果的には満雅のみの謀反となり、他に同調する者が現れなかった。そのため、失敗に終わっている。

「さりながら、御所さまが共に起つならば、成就間違いなしかと」
「むむ・・・・」
「これは謀反にあらず。頑迷かつ君側にあって、邪に政事を壟断する宿老の皆様への鉄槌にござりまする」
「相分かった。宿老どもの増上慢は、少し懲らしめてやらねばと思うておったところじゃ。予も・・・・」
 御所さま。と一色直兼があわててその先を制した。

「良い。正勝とやら、南北朝合一の約定は守られねばならぬと思うている」
「有り難き仰せでござりまする」
「予もそろそろ焦れておるところだ。詳しくは直兼と談合するがよい。大義であった。そなたのことは忘れぬぞ」
 持氏は自らはっきりと言って回廊を去った。

 はっ、と平伏した直兼は、すぐさま場所を奥の一室に移して、正勝と遅くまで密議を凝らした。

「なに。御所さまが楠木正勝と密かに会ったと!」
 その知らせを聞いて、上杉憲実の顔色が変わった。
(続く)







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11/15 15:30 〈助太刀兵法46〉北斎蛸踊り(8) (無料公開)
10/26 08:49 「本日のマーケット」(FX編)・・・今週は日米の金融政策イベントに注意。
10/26 08:40 「本日のマーケット」(株式編)・・・ 続伸後に日経平均株価が1万9000円台を回復。
10/21 08:39 「本日のマーケット」(FX編)・・・ドル円は120円ちょうどの壁を意識。
10/21 08:25 「本日のマーケット」(株式編)・・・手掛かり材料難のなか、方向感の出づらい展開。
10/19 08:33 「本日のマーケット」(FX編)・・・午前11時に発表される中国の一連の経済指標に注目
10/19 08:23 「本日のマーケット」(株式編)・・・午前11時、中国経済の指標しだい。
10/14 08:48 「本日のマーケット」(FX編)・・・昨日に続き中国の経済指標。米9月小売売上高。
10/14 08:31 「本日のマーケット」(株式編)・・・前日の動きが継続し軟調な展開。
10/13 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・ドル円は120円大台を中心に方向感に欠ける動きが当面続きそう
10/13 08:36 「本日のマーケット」(株式編)・・・5日線(前週末9日時点で1万8218円)が下値を支え
10/05 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・東京タイムではドル円やクロス円は押し目買いが優勢
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10/04 12:07 江戸浅草物語13「天海僧正の結界が破られる時、魔界の者たちの進撃が始まるのか」 (無料公開)
10/02 08:44 「本日のマーケット」(FX編)・・・米雇用統計を控えた様子見姿勢
10/02 08:35 「本日のマーケット」(株式編)・・・週末要因や米雇用統計を前にポジション調整
10/01 08:47 「本日のマーケット」(FX編)・・・9月日銀短観、9月中国製造業購買担当者景気指数(PMI)などが材料。
10/01 08:35 「本日のマーケット」(株式編)・・・欧米株式の上昇を受けて買いが先行後、もみ合い。
09/30 08:52 「本日のマーケット」(FX編)・・・日中は119円後半のもみあい
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09/29 08:55 「本日のマーケット」(FX編)・・・株安・円高パターンの継続はドル高圧力を後退
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09/28 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・東京時間のドル/円は120円半ばを中心にもみあい。
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09/20 10:55 〈助太刀兵法45〉北斎蛸踊り(7)(無料公開)
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