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黒田官兵衛物語 六尺四方の暗い地下牢に藤の花が咲く (無料公開)
[【時代小説発掘】]
2014年2月2日 12時20分の記事


【時代小説発掘】
黒田官兵衛物語 六尺四方の暗い地下牢に藤の花が咲く
斎藤 周吾


(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


【梗概】:
 今年、2014年の1月から、NHKテレビの大河ドラマ、『軍使 勘兵衞』が始まった。
 官兵衛の人生における最大の試練は、荒木村重に捕らえられて地下牢に放り込まれた事である。
 当時の人が入牢すると劣悪な環境で3ヶ月から長くて半年で死ぬのに、一年間も耐え抜いた。
 勘兵衞の出牢後の思索的な人生を見ると、己の禄高を高める卑小な野心より、豊臣秀吉に天下を取らせるという、次元の高い自己実現の場を求めた事が如実に表れている。
 功成した後、自分を牢に繋いだ荒木村重を許した。
 白人に捕らえられて27年間の獄中生活を送った後、白人と黒人の宥和を推し進め、昨年12月に亡くなった南アフリカ大統領のマンデラに通じるものがある。
 入牢は不幸でも、禍を転じて福と成した勘兵衞の人間力には、時代を超えて心を打たれる。

 
【プロフィール】:
斎藤周吾 (さいとうしゅうご)
受賞歴
 平成20年8月、日本文学館『最後の家康』で、短編部門の審査員特別賞。
 平成20年1月、(財)斎藤茂吉記念館にて、『短歌部門』で、川嶋清一選で佳作。


これまでの作品:
女帝物語−わが子に
血染めの染雪吉野桜
遙かなるミッドウェー『父からの手紙』前編
遙かなるミッドウェー『父からの手紙』後編
惟正、請益僧円仁に従い入唐求法の旅
随筆 うつけ信長、弱者の戦略



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【時代小説発掘】
黒田官兵衛物語 六尺四方の暗い地下牢に藤の花が咲く
斎藤 周吾



(一)

 
 摂津(大阪府)有岡城主の荒木村重が、織田信長に謀反を起こした。
 
 荒木摂津守、逆心を企てるよし、方々より言上、
 と、『信長公記』の天正六年(1578年)十月二十一日の項としてある。
 『先祖武功夜話』の巻八に、織田信長が石山本願寺を兵糧攻めしている時、荒木の配下が陰で本願寺に兵糧を入れた。虎狼の信長は荒木を決して許すまいと疑い、謀反に至ったともある。
 
 荒木村重謀反に最も驚いたのが、毛利征伐に四苦八苦する羽柴秀吉であった。
「羽柴殿、有岡城主荒木殿の口説きに、それがしを行かせて下さい」
 播州(兵庫県)姫路城主である小寺(後の黒田)官兵衛孝高は願った。
 官兵衛は三年前から織田信長に従い、今年三十三歳。秀吉の九歳下である。
 織田陣営に加わった官兵衛は水を得た魚のように働き、播州国人を次々と織田陣営に引き入れていた。秀吉の播州における快進撃は、ひとえに、官兵衛の調略によるところが大である。
「そちの申し出は嬉しいが、明智光秀殿が翻意を促しても従わなかった。格下のそちが行ったら愚弄するかと怒って殺されるぞ。荒木殿は、それでなくてもわしやそちを成り上がり者と蔑んでいる。今度ばかりは、もう駄目じゃ。わしはもう腹を切るしかない」
 苦境に立つ秀吉は、暗い部屋で一人、頭を抱えた。
 秀吉は前年の天正五年、上杉謙信と対峙する北陸の陣に赴いた。
秀吉は先手主将である柴田勝家と策戦を巡って争い、勝手に陣払いをして琵琶湖東北岸にある長浜城に帰っていた。手薄となった柴田軍は手取川で謙信に大敗を喫し、後陣に備えた信長本陣までが浮き足だった。幸い上杉軍はそれ以上追撃しなかったが、織田軍の崩壊と見た大和信貴山城主の松永久秀は謙信と結び、信長に叛旗を翻した。秀吉の北陸からの無断撤退が、織田家そのものを崩壊の危機に陥れていた。
 信長がようやく松永久秀を滅ぼし、秀吉を播州に向かわせる時、
「叛服常なき播州は治めにくい地じゃが、こんど不始末をしでかしたら切腹じゃ」
 秀吉は、信長から背に刃を突きつけられて播州へと下っていた。
 これより八ヶ月前の二月、播州の別所長治が秀吉に背き、三木城に立て籠もった。別所に呼応して荒木までもが謀反したのだからたまらない。安土との連絡が絶たれ、補給さえ困難になった。
 信長は、別所や荒木の謀反は秀吉の器量不足だと歯ぎしりする。秀吉はかつてない苦境に立った。
「それがしが主家である御着城も荒木殿に呼応する構えです。荒木殿が思い止まれば主家も思い止まると申します。主家の為、我が身に換えても荒木殿の翻意を促すしかありませぬ」
 官兵衛は願った。官兵衛の調略した別所が反し、さらに主家までもが謀反する構えなのだ。
「それがしに、幾ばくかの存念がございますれば」
 黙する秀吉に、官兵衛は続ける。
「それは?」
 秀吉は、重い首をどうにかもたげた。
「荒木村重殿の嫡子、村次殿は明智光秀殿の娘を離縁しました。替わりに信長様御息女の鶴姫様を室とし、荒木村重殿を朝臣の摂津国主に任ずる事です」
 名門である、戦国大名波多野氏一族の荒木が、最も喜びそうな策を述べた。
「謀反人に実の娘をやり、朝廷の冠位を与える事など上様が承諾なさるまい。虫が良すぎる。裏切った男を優遇すれば、今後ますます裏切り者が続出するだけだ」
 秀吉は眉をひそめる。
「荒木殿を許しても要衝摂津の支城には譜代与力を配し、荒木殿を牽制します。更に、全家中の大名小名から起請文を取り、今後、謀反した者の一族の端に至るまで、きっとなで切りにすると申し渡せば良いのです。織田家が没落の淵にある今、姑息な手立てでも先の憂いより今が大事ですぞ」
 官兵衛は、もはやなりふりなど構っておられない、と語気を強めた。
 このような苦境に至ったそもそもの元凶は、秀吉ではないかと官兵衛は言いたげでもあった。
 播州の西境にある上月城を、毛利勢が大軍で攻め寄せた。謀反した三木城の別所長治と示し合わせて前後から秀吉軍を攻めたてたのだ。上杉謙信がその頃、かつてないほどの大動員令を越後国内にかけていると伝わって来た。すわ、毛利と呼応して謙信の西上か、と挟み撃ちに遭う信長は震えた。信長はとうてい秀吉に援軍を送る余裕などなく、上月城は捨てて戦線を縮小せよと秀吉に命じた。だが官兵衛は秀吉に、織田家中に加わって間がなく、孤軍奮闘する上月城を救わねば播州国人のさらなる離反を招くと諫めたが、上様の命は絶対だ、織田本軍が大事だと言って、野戦下手な秀吉は上月城を見殺しにしたのだ。
 たとえ謙信が西上しても、城攻めの不得手な謙信に安土の堅城は落とせない。琵琶湖水軍に退路を断たれる謙信は安土攻略に長居はできない。そもそも安土城は、謙信西上を阻止する為に造った城ではないか。秀吉の本心は安土城などではなく、安土の北を守る己の根城の長浜城を案じているのだ。謙信西上の報に接すれば官兵衛らを見殺しにし、播州などさっさと捨てて長浜城にはせ戻る腹積もりでいるのではないのか。
 上杉謙信が脅威になった一端は秀吉にもあり、秀吉の肩身が狭いのは分かる。だが、秀吉は大任を帯びて一軍を率いる大将である。前線の実情を知らぬ安土の信長の命のまま、必死に戦う上月城を見殺しにして兵を引いた義侠心のなさが、案の定、荒木の謀反に繋がった。荒木に呼応して、官兵衛の主家である御着城までが叛く構えなのだ。
 秀吉は、争ってはいけない柴田勝家と争い、救わねばならない上月城を見殺しにした。 遠い安土に居る信長の下知に、秀吉が盲目的に従った罰だ。信長の顔色ばかり窺う小心で追従者の秀吉だから、足元を見透かされて離反者を招くのだ。
「分かった分かった。叶わぬまでも上様の許に参り、謀って見よう」
 秀吉は不承不承、腰を上げた。
 だが官兵衛は、さらにいまいましげに言った。
「主将たる羽柴殿が姫路城を留守にしては、それこそ上様の勘気に触れまする。三木城攻めの最中、毛利勢がいつ攻め寄せるか分かりませぬ。荒木殿の勢力地内を通らねば上様の安土には行けませぬ。危のうございます。代わりに、それがしが安土に参ります」
 官兵衛は必死に止めた。
 秀吉は最近、何かと言いわけをして信長の許に駆け寄り、機嫌を取り結ぼうとしている。
 秀吉は、柴田勝家はもちろん、織田家重臣の全てに睨まれている。移り気の信長しか頼れない。後がない秀吉は敵よりも信長の顔色ばかりを窺っている。
 一方の官兵衛は、安土で信長から直直、名刀圧切(へしきり)を拝領し、信長の信頼が篤い。播州に関しては秀吉より上手くやっている。信長の許しが得られるかどうか危ぶむ秀吉より、己が安土に行って西国の形勢を説いた方が手っ取り早いのだ。
「どこまで上様に追従なさるのですか。大将らしく、もっと、でんと構えて居て下され」 腹に据えかねた官兵衛はとうとう、怒りの目で秀吉を睨んだ。
 秀吉は、官兵衛に安土へ行かれると秀吉の悪口を並べられるとでも疑っているのか。秀吉という小男は、肚までもが小さい男か。それとも、安土城ではなく妻の待つ長浜城に帰ろうと思っているのではないのか。
 明智光秀の荒木への翻意失敗や、空回りする秀吉。実力のない者は置いてけぼりをくう織田の家風。若い血のたぎる官兵衛の心の底のどこかに、功名心がくすぶっているのも事実である。
 やはり秀吉は、官兵衛の本心を敏感に感じたのか、微かに身を震わし、
「いや、これだけは余人に任せられぬ。わしが安土に行く。播州には官兵衛が居る。後は頼んだ」
 官兵衛には功を奪われたくないと思ったのか、秀吉はこそこそと逃げるように安土へ出立した。
 
「お許しがでたぞ。さすが官兵衛、よくぞ上様の肚を見通した」
 安土から帰ってきた秀吉は上機嫌な顔で官兵衛に語った。秀吉は、信長の苦渋の決断ではなく、官兵衛を称えたが、官兵衛の目を直視しないで言った。官兵衛の目を直視しないのは、小心者の秀吉が官兵衛に対して抱く、嫉妬に近い気持ちなのであろう。
 翌朝、官兵衛が有岡城に赴く時、
「そちに全てを任せた」
 秀吉は官兵衛の手を取った。
「もしもそれがしが帰って来なければ、城中はもとより、松寿丸をお願い致します」
 一粒種である十一歳の我が子、松寿丸を人質として信長に差出し、秀吉の根城である長浜城に居る。官兵衛の根城である姫路城は、西国征伐する秀吉の居城になっている。秀吉は姫路城の本丸に入り、官兵衛は二の丸に移り住んでいた。
 官兵衛は、頼りがいのない小心者の秀吉でも万が一を懸念し、後事を託さねばならなかった。

 
(二)

 
「おや?、何か様子が変だ」
 有岡城下にやってきた官兵衛は首をかしげた。
 城下の万屋(よろずや)にさえ味噌醤油のたぐいは無い。売り惜しむ方々の店の味噌蔵が破られたと言う。商人を大事にする荒木村重らしくもない蛮行だ。取り締まる兵の目も血走っている。城方は総掛かりで籠城支度にかかっている。鷹揚な荒木村重は祭り上げられ、城内はもはや主戦派が牛耳っているのかも知れない。
 信長の許しまで得てここに来た以上、今更引き返すこともできぬ官兵衛は、従って来た子飼いの善助を引き寄せた。
「そちはここで待っておれ。わしが三日経っても戻ってこずば、斬られたと姫路城に伝えよ。きっとだぞ」
 官兵衛は念には念を押し、愛馬と共に善助を宿に残した。
 やはり官兵衛は、有岡の城門を潜るとすぐに刀を取りあげられ、後ろ手に縛られた。いかに翻意の条件を声高に訴えても無視され、地下牢に放り込まれた。
 六尺四方しかない、狭く真っ暗な土牢である。敷いたムシロの上にアグラをかき、手枷足枷されて身動きすらままならない。一日に一食だけの飯を犬のように食わねばならない。
「どうだ、土牢の暮らしは」
 官兵衛が有岡城に来て初めて、荒木村重が官兵衛の前に姿を現した。荒木の顔が松明に映る。天狗の面に熊のような髭を生やしたような顔は、織田家筆頭の柴田勝家にどこか似ている。
 こういう熊男の内心は、案外、女が顔負けするほど繊細だ。
「居心地が良いとは世辞にも言えぬ」
 官兵衛は憮然と答える。
「明智殿に謀反の気持ちは変わらぬと伝えたのに、そちが来るとは、城内の様子を探りに来た間者に違いない。信長の娘とか摂津国主などと釣ってわしを誘い出し、謀殺する手筈だろう。念の為、安土の様子を細作に探らせたら、沿道にはわしを捕らえようと兵を配していたそうだ。端正な顔立ちのそちが、よくも汚い謀を巡らすものだ。その手は食わぬ」 荒木は、饅頭を美味そうに食いながら怒号した。
「又左衛門、そちも食え」
 荒木は、従う牢番の加藤又左衛門利安にくれた。
 貰った又左衛門は饅頭を懐にしまった。
「食わぬのか」
 荒木は、けげんな目で又左衛門を振り向いた。
「お館様から直直に頂くありがたいお饅頭です。持ち帰って、幼い九郎太郎に食べさせまする」
 又左衛門は頭を垂れて答える。
「九郎太郎の二つ下に、娘のおたまも居たな。これはおたまの分だ」
 荒木は更にもう一つ、又左衛門に渡した。
「官兵衛よ、これを食らったら解き放してやる」
 村重は剣先に食いかけの饅頭を刺し、格子越しに官兵衛へと突きだした。
 食えという荒木の目は、捕った鼠をいたぶる猫の目のようにらんらんと松明に輝く。官兵衛が食おうとすると剣を引き下げて辱めるか、そのまま、喉から尻穴まで串刺しされるに違いない。
「座興はご容赦を。松永久秀殿は、手取川で織田軍は崩壊したと見たが、元亀年間の頃から何度も包囲網を突破した織田軍はしぶとい。松永殿は返り討ちに遭った。荒木殿は、上様の凄さと織田家の人材の豊富さはお分かりだろうが、上様にお目通りした事のない重臣の方々はご存じないようだ。斜陽化した毛利は、遠い摂津まで救援に来る覇気がない。織田方はこの城を取り囲み、兵糧攻めを始めたようだ。まもなく落ちる。もったいぶらず、早く降参なさった方が身の為ですぞ。最悪、荒木殿が腹を切れば、城兵の命は助かりましょう」
 官兵衛は説く。
「利安、そちは城外の様子を官兵衛に語ったのか」
 荒木は又左衛門を振り向いた。
「いいえ、教えませぬ」
「むらのある飯の炊きようを見れば、米・薪・水の足らないのは分かる。糧秣を運び入れる間もなく織田軍に包囲され、城下の店の品が空になるほど、慌てて籠城したようだ。荒木殿が饅頭を見せびらかすのは、城中が飢えている事を物語っている。又左衛門とか申す者が饅頭をしげしげと見つめながら食わず、懐にしまうのが何よりの証しだ」
 官兵衛は、城内の様子を手に取るように説いて見せた。
「相変わらず、漢土の縦横家を気取って減らず口を叩く小間者め。その方を生かして帰せば、我らは信長に翻意したと毛利殿や石山本願寺から疑われる。殺してやった方が武士の情けかも知れぬが、そちの小生意気な口ぶりが気に入らん。生き地獄を味わえ」
 村重は、捨て台詞を吐いて去った。
 その後荒木は、二度と土牢を訪れる事はなかった。
 官兵衛は悔やんだ。考えが甘かった。秀吉の言う通りになった。
 だが官兵衛には、身を捨ててでも説得に来なければならない苦悩があった。主家が裏切れば、官兵衛よ、お前も裏切るのか、と信長に疑われ、その後の動きが制せられるからだ。
 荒木が、信長の娘との婚儀だと言ってのこのこと安土に行った際、謀殺する手筈を秀吉と信長の間で取り決めたに違いない。だから秀吉は何が何でも自ら安土に出向いたのだ。姫路に帰って来ても官兵衛を直視できなかった。無力で小心な者ほど陰険な策を用いる。荒木にわしを始末して貰おうと秀吉がわざと噂を流したのか。まさか。
 暗い土牢に閉じ込められた官兵衛は、疑いが疑いを呼んだ。
 
 大雪が降っているのか、表からの音が急に途絶えた。冬がこれほど寒いとは思わなかった。凍え死にしそうだ。
 官兵衛が思い出すのは、長浜城に人質として居る我が子の松寿丸である。官兵衛が安土に行きたかったのも、長浜からほど近い安土城下に船で松寿丸を呼び寄せ、三年ぶりに会いたかった為だ。子供は直ぐに大きくなる。あれから大分大きくなった事であろう。無事に帰って松寿丸の顔を見たい。どうやってここから脱出しようかと考える事で、生への執着を保ち続けた。
 一月も過ぎると、官兵衛の生への執着も怪しくなってきた。どんな時にも屈することなく信念を保ち続けよ、と人は簡単に説くが、保ち続けられるのは己に共感してくれる人が一人でも居ればこそだ。暗闇で一人、手枷足枷されていてどうして信念を保ち続けられよう。
「官兵衛様、額から血が出ています。いかがなさいました」
 ある日、牢番の又左衛門が、松明で照らしながら官兵衛を揺すっていた。
「むむ」
 官兵衛は目をあけた。額を触れば壁土かと思ったが、血の塊であった。先刻、大声を出して壁土に額を打ちつけた事を思いだした。暗がりなので岩角に当たり、今まで気を失っていたようだ。
「なぜ気遣うのか。わしが死ねば手間は省けるだろうに」
 官兵衛は、己が額に薬を塗る又左衛門に言った。
「ここで自裁なされたら身共の手落ちになります。どうか、そういう気持ちはお捨て下さい。お子様の松寿丸殿がどれほどお嘆きになる事か」
 又左衛門は言う。
「そちはキリシタンか」
 官兵衛は、又左衛門の胸元に垂れる、樫木で作ったロザリオを見て言った。
「はい、いかなる事になろうと自裁を禁じられている、キリシタンでございます」
 官兵衛は、答える又左衛門をまじまじと見つめた。
 頭から血が流れ出なければ、内に血が溜まって死んでいた。血が出たのは悪い血だ。天は生きろと己に命じたのだ。官兵衛は強いてそう思おうとした。ウジ虫になろうともここを生きて出たい。
 汚れた所にわらを敷き、その上に横たわった。汚れた所ほど堆肥のように暖かくなっている。傷口から身は腐るが、少しでも暖が欲しい。凍え死ぬよりはましだ。
 暑い夏が恋しい。
 
 城の西北端にある土牢に、夜中になると城外の織田陣営から呼びかける声が聞こえる。高山右近や中川清秀が織田方に寝返り、毛利の水軍が木津川口で全滅した。有岡城はもう孤立無援だ。早く開城せよと叫ぶ。官兵衛はその声に、生きのびる勇気を与えられた。
 対する城兵は、石山本願寺と同じ堅牢な総構えの有岡城だ、織田方には落とせない、と叫ぶ。小寺官兵衛は有岡城側に寝返り、城兵を采配していると官兵衛にも聞こえよがしに叫ぶ者もいる。官兵衛が荒木に寝返れば、松寿丸は間違いなく殺される。この分ではもう殺されているかも知れない。
「織田の衆、小寺官兵衛孝高は、有岡城の地下牢に閉じ込められている。聞こえるか!」 城外に向かって何度も叫んだが、向こうからの返事がない。地下牢に閉じ込められた意味をまざまざと知らされた官兵衛であった。
 官兵衛の髪の毛は抜け落ち、かさができている。その頭をかきむしった。かさがますます増える。

「表に出たい。黄色い草花、青い水、赤い太陽をこの目で見たい」
 官兵衛は暗い土牢で溜息をついた。
 ある日、牢番の又左衛門がブドウ状の花の房を差し入れた。
「この花は我が家紋です。それがしの曲輪前に這わせている物です」
 又左衛門は言った。
「藤の花か。もう夏か。囚われてもう半年も過ぎたのか」
 久しぶりに見る地上の息吹だ。青い空、白い雲が藤の花を通してはっきりと見える。松明に映る藤の花がこれほど美しいとは思わなかった。生きる事はこれほど尊いものか。
 花を美しいと思うのは、生きる望みを保つ証しだ。
(ああ、わしに望みを捨てるな、と又左衛門は無言で語っているのだ)
 官兵衛の目から涙が溢れた。今は、藤の花の一朶だけで又左衛門の深い情を感じる。
「わしは藤の花より、藤の家紋の加藤殿に支えられている。わしが無事に出るという事は、この有岡城が落ちる事だ。わしが無事に出たら、己が家中に加わらぬか」
 官兵衛は言った。
 織田方の喚声や矢玉の音がどんどん近づいている。官兵衛の気が以前よりずっと研ぎ澄まされてきた。又左衛門の目を見ると、有岡城はますます危うくなって来たのがわかる。「官兵衛様、今のお言葉は、わが主に背けと言う事です。官兵衛様はわが主が差し出した剣先の饅頭を食いませんでした。そのような志操高いお方ゆえ気遣っているだけです。牢番はそれがしの勤めです。勘違いなされては、はなはだ迷惑でございます」
 又左衛門は戸惑う。
 
 暑い夏が来た。
 官兵衛は初めの頃、汚物の臭いで頭が痛かった。鼻馬鹿になり、それにも慣れてきたと思ったが、夏になり、悪臭が更にひどくなった。
「何度も願うが、せめて手枷足枷を外してくれるよう、荒木殿に頼んではくれぬか。早くヤソ教に改宗せよと催促するかのように、四六時中、手印を結ばされているのは辛い」
 官兵衛は又左衛門に頼んだ。前から願っているが、一向に外しては貰えない。
 手で蚊を叩くことすらできない。流れが近いのか、血を吸う蚋(ぶゆ)も入って来る。 早く夏がこないかと冬の間は願った。いざ夏が来ると蒸し暑く血吸い虫が多くてかなわない。地下の牢内だが、夏の方が辛いとは思わなかった。このままではやせ衰えて死んでしまう。
「お館様に聞いて参ります」
 又左衛門が去った。
 又左衛門が帰ってくると官兵衛の手枷足枷は外れた。又左衛門が荒木に、必死に頼み込んだのであろう。土牢内に新しい土とわらを敷いてくれた。汚物入れも毎日換えてくれた。
「又左衛門殿が常に言う、デウス様の天国に居る心地だ」
 手足をのびのびと広げた官兵衛は、又左衛門に、素直に礼を述べた。唇から笑みさえこぼれていた。官兵衛はふと、物思いにふけられる牢内の暮らしも悪くはないと思った。決して負け惜しみではない。六尺四方の牢内は広大無辺だ。手足が自由になるのはこれほど嬉しい事なのか。我ながら驚き、かつあきれた。
 荒木が手枷足枷を外してくれたのは、官兵衛の足腰が立たなくなり、自力ではもう逃げられないほど衰えたと思ったからでもあろう。
 官兵衛の心の高揚とは裏腹に、左足が全く動かなくなっているのも事実である。
 
 再び初冬十月が巡って来た。
 このような牢に閉じ込められると、殆どの罪人は三ヶ月から半年で死ぬ。官兵衛は囚われて丸一年にもなる。碗に触ると残った飯は凍っているが、官兵衛は少しも寒さを感じない。あれほど冬が来るのを怯えながら、寒さを全く感じなくなっている。暑いの寒いのと言うのは生きている者の贅沢な悩みだ。この冬は越せないだろう。もう一度藤の花が見たかった。
 暗がりで何も見えない官兵衛は耳だけが頼りだ。ずっと同じ小高い岡の上から国崩(大砲)に射たれっぱなしという事は、城側に反撃する力がない証しだ。国崩の音は、まもなく救い出すから生きぬけという励ましの太鼓に聞こえていたが、一年も聞いていると、もはや、遠くの出来事だ。
 静かだ、全く静かだ。
 ひっそり死ぬ前に、一目、松寿丸に会いたかった。夢のまた夢か。
 官兵衛がふと下を見ると土牢が見える。
「あっ危ない。身体が浮いた」
 墜落しないよう壁に必死に捕まろうとしたが、捕まるものが何もない。身体は金縛りにあったように全く動かない。眼下の有岡城がだんだん小さくなる。なるほど、城は町をすっぽり囲んだ総構えだ。一年も持ちこたえられた筈だ。いつの間にか明るくなっているが、今まで見た明かりとは全く違う。太陽を見ても少しもまぶしくない。天に昇っているのだ。
「ああっ、織田方の放った弾丸が、南の大門に落ちた」
 官兵衛は叫んだ。
「官兵衛様、どうなさいました、大丈夫ですか」
 又左衛門が下で叫んでいる。
 官兵衛がふと下を見ると、再び真っ暗になった。
「ああ」
 いつの間にか官兵衛は格子にすがり、格子の間に頭をはめて気を失っていた。
「今の弾丸は南門を打ち壊し、門兵が十数人倒れたようだが」
 我に返った官兵衛は、又左衛門に尋ねていた。
「いえ、何もおこりませぬが」
 又左衛門が不審げに答えた。
「そうか、身体が弱まり、とうとう幻覚が見えるようになったか」
 官兵衛の頭は朦朧とし、いよいよ死期が迫ったと感じた。
「ドドーン!」
 その時、大きな物音が南の方角からした。又左衛門は慌てて表に飛び出した。
「南大門が壊れ、多くの兵が死んだようです。今や城中は、織田に降れ降れと騒いで混乱の極みでございます。南門が壊れれば、もはや防ぎようはありませぬ」
 戻った又左衛門は、初めて城中の不穏な様子を語った。
 やはり幻覚ではなかったと官兵衛は思った。
 又左衛門は大門大破という余りの事に、官兵衛があらかじめ語った事に未だ気づいてはいないようだ。それとも、官兵衛の頭がおかしくなったと思っている目だ。官兵衛は素知らぬ顔でいたが、いつしか口元をほころばせていた。
 開城だと喜んだ官兵衛はそれこそ心が浮き浮きとなり、この弾みでもう一度浮き上がり、今度は姫路城や松寿丸のいる長浜に行こうと心を念じた。こうして自由に脱け出せるのだから、あれほど悲願だった、身体が自由になりたいなどと毛ほども思わなくなった。
「なぜだ、見えぬ、なぜ何も見えぬのだ」
 必死に見ようとするが、見えたのは先ほどの一度限りであった。
 又左衛門が声を掛けなかったら長浜まで行っていただろう。だが、この世に戻れなかったかも知れない。嬉しくもあり、悲しくもあった。
「殿、殿でござるか」
 官兵衛が再び、何とかここを出たいと願っていると、声がした。
 どこかで聞いた事のある声だと思ったら、あの、懐かしい家来の善助の声だ。馬を引いて一緒に有岡城に入れば、間違いなく殺されていた善助であった。
 姫路城が毛利と別所の挟み撃ちに遭って落城したのだろうか。討たれた善助が彼岸から呼んでいるのか。何も見えぬが、やはりわしはもう死んであの世の闇をさまよっているのか。ではなぜ又左衛門が声を掛けてきたのだ。頭が乱れに乱れる官兵衛であった。
「善助、善助はどこだ」
 彼岸に導かれようと、声のする方角に耳を澄ませた。
「やはり、殿の声だ、殿」
 官兵衛の目の前に光が灯った。
「おお、光り輝く向こうに藤の花が見える。早くいかねば」
 官兵衛は必死にもがいた。
「殿!、荒木村重は逃亡し、有岡城はまもなく開城します。さあ、ここを出ますぞ」
 善助の声がする。
「太陽、太陽が見たい」
 善助は、暗闇で跳梁跋扈する邪鬼か物の怪かも知れない。ぬか喜びさせられた後の落胆は死ぬほどに大きい。決して、魑魅魍魎の類いにはだまされはせぬ。明るい太陽の下で善助を見ないうちは、果たしてあの世かこの世かまだ分からぬ。
 官兵衛は、なおも虚空をさまよっている。
「なりませぬ。お目がつぶれますぞ」
 善助はそう言って、官兵衛の目に布を被せて塞いだ。
 目隠しをされた官兵衛は、やはり暗夜に巣くう化生の仕業だと疑い、逸る気を鎮めた。「殿、官兵衛様!」
「むむ」
 善助に頬を打たれた官兵衛は、間違いなく痛みを感じた。
 どうやらこの世のようだ。荒木は逃亡し、やはり開城したのか。
「殿、やつがれの背におんぶなされませ」
「もう、足腰が立たぬのです」
 又左衛門の声もする。
 長い間の悲惨の余り、未だ救出された事を信ずる気にはなれない。むしろ、いざ出牢となると、白日の下にこのみすぼらしい風体が晒されるのを尻込みする官兵衛である。善助の背に負ぶさるのをためらった。
「殿、御免、背負いますぞ」
 突然、官兵衛の身体が浮いた。先ほどの浮きあがる感じがよみがえった。いよいよあの世に導かれるのかも知れない
「ああ、殿は何という軽さだ」
 官兵衛が善助の背に負われると、善助の声は震えている。
「今まで、まことに申し訳ありませんでした」
 又左衛門の声もする。
「加藤利安殿、改めて願う。有岡城が落ちた以上、わしの家中に加わってくれ」
 助け出された事をようやく得心した官兵衛は、恩ある又左衛門にまたもや願った。
「官兵衛様はようやく正気をとり戻された。良かった。でも、ありがたいおおせなれど、身共は、主家以外の禄を食むつもりはございませぬ。戦はもう飽きました。帰農します。これは神の思し召しなのです。この気持ち、官兵衛様ならとくとおわかりのはずです」
 又左衛門はさわやかに答えた。
(ああ、又左衛門はまさしく賢者だ。死の刻を止めてくれていたのだ。だからわしはこの一年を耐える事ができたのだ)
「善助、松寿丸は無事か」
 官兵衛が出牢しての開口一番は、我が子の安否であった。
 官兵衛を背負って走る善助の返事がない。
「松寿丸は、どうしたのじゃ」
 善助の後ろ首を叩いても只うなだれ、背中は語らない。
「おい、死んだのか生きているのか、どっちだ!、わしをおろせ」
 官兵衛は奔馬の手綱を引くように善助の首を絞めた。
 下りた官兵衛は善助を支えにしてようやく立つと、目隠しをかなぐり捨てた。
「殿!、お目がつぶれますぞ」
 善助が叫んだ。
「暗い、見えぬ、日輪が見えぬ」
 光で官兵衛の目がつぶれるどころか、両手で目を強くこすっても、辺りは夜のように暗い。官兵衛の目は衰え、太陽は夜のともし火くらいにしか見えないのだ。
 暫くすると、迎える皆の顔がおぼろげに浮かんできた。皆、無言で俯いている。
 善助が必死に走ったようで、ここはどうやら城外のようだ。
「松寿丸殿は長浜で、哀れにも、羽柴殿の御家来の御手にかかりました。幼いながら、武士らしいご立派な最期と漏れ伺っております」
 有岡城寄手の大将である織田信澄の家来が官兵衛を慰める。官兵衛の顔見知りであった。
 出牢した官兵衛は、誰が見ても、荒木に寝返ったとは思わない姿をしている。その武士の目は腫れあがり、官兵衛に語り聞かせる口調は悲壮極るものがあった。
 松寿丸の事を諦めてはいたが、それでも心の片隅で望みをつなぎ、生きるよすがにしてきた。それが、斬られたとは。
「殿様は決して織田家を裏切るお方ではありませぬ、有岡城に入る時も死を覚悟なさいました。松寿丸様を斬るのはお止め下さい。官兵衛様の去就を見定めてからでも遅くはありませぬ、と何度も羽柴様にお願いしたのですが、羽柴様は、上様の御命は絶対に拒めないと怯えておられました」
 善助は、はらはらと涙をこぼした。
 小心で卑屈な追従者の秀吉なら、当然、信長に従う。
 それとも秀吉は上様の御命と偽り、播州中の国人に見せしめとして、松寿丸を殺したのかも知れない。
 官兵衛には、激しい怒りを表す力が残ってはいない。
「ああ」
 官兵衛は苛酷な定めの我が子を思うと、痩せて貧血な頭から血が引き、気を失って倒れていた。

 
(三)

 
 官兵衛は湯治の為、織田方の勢力内にある、有岡城西の有馬の湯に向かった。
 この頃にはもう、すっかり正気を取り戻していた。
 秀吉は、兵糧攻めする三木城包囲戦の合間を縫い、直ぐ有馬に駆けつけて来た。
「官兵衛、ご苦労であった。色白で好い男になった」
 秀吉は、官兵衛の痩せ衰えた体を抱きしめて涙にくれた。
 官兵衛の黒い顎髭は胸元まで伸び、髪には蚤と虱がたかり、異様な臭いがするのにである。
 二人で湯に浸かり、秀吉は自ら官兵衛の背中を流した。垢がはげ落ちると血が出た。
「本来なら、それがしが姫路城まで無事帰還の御礼に行かなければなりませぬ。もったいのうございます」
 官兵衛は深々と頭を垂れ、形ばかりの礼を述べた。小心で追従者の秀吉は、信長に松寿丸の命乞いすらしてはくれなかったのだ。
「上様は、荒木に鶴姫様をやり、摂津国主に任ずると偽って荒木を安土におびき出し、捕らえようと、沿道に、これ見よがしに兵を配した。それでも荒木が単身、頭を丸めて死に装束で来れば、上様は国替をして許す積もりで居た。官兵衛にこの策を告げると口説く力が鈍り、荒木の本心が分からなくなるから言うなとの御命であった。有岡城に入ったきり帰って来ない官兵衛を見て、やはり官兵衛は荒木と通じていたのかと疑い、松寿丸を殺せと上様の頑なな御沙汰であった」
 秀吉は溜息をついた。
 官兵衛は、信長から名刀圧切を親しく授かるほど信頼が篤いと思っていた。信長の信頼を得ようと必死に耐えて来た。それなのに、播州人の官兵衛をはなから信じていなかった。ただの捨て駒に使われただけだ。信長は、荒木ではなく、この官兵衛をこそ疑っていたのだ。
 信長に対する信頼が、音を立てて崩れ去った。
「我が子、松寿丸の首塚はどこにございますか」
 官兵衛は秀吉に尋ねていた。生い先を楽しみにしていた一粒種の松寿丸はもうこの世にいない。信頼していた信長から裏切られ、秀吉は信頼するに価しない。生きる望みを断たれた官兵衛はもう、出家遁世して俗世を離れたい。今はただ、逆縁となった我が子を弔うことだけが唯一の望みであった。閉じ込められた暗い地下牢から見れば、出家遁世する事など極楽か天国に行くようだ。
「実は、そのことだが」
 秀吉は辺りを見回した。
 官兵衛は、秀吉を不審げに上目で探った。
 織田家臣が二度と信長に背かないよう見せしめの為、屍を墓に埋める事さえ許されず、犬にでも食わせたのか。何と哀れな松寿丸か。父の身を斬られるより辛い。
「大きい声では言えぬが、松寿丸は今、名を変え、小僧として近江のある寺に匿っておる。そのまま正僧の道に進ませるか、還俗させるか、松寿丸が大きくなったら決めればよい。よいか、これは、上様どころか、誰にも絶対、内密だぞ」
 秀吉は、官兵衛にそっと耳打ちをした。
「おお!」
 官兵衛は、卒倒せんばかりに目を見開いた。
 案じていた一粒種の松寿丸は生きていた。手厚く庇護されていたのだ。
 それも、小心者で追従しか能のない筈の秀吉が、今度こそ切腹を命じられるかも知れない秋霜烈日な信長の命に背き、密かに匿ってくれていたのだ。
「羽柴様!」
 官兵衛は震える手で、秀吉の手を握ったのであった。
 官兵衛は、誰の為でもない、これから、秀吉の為に働こうと決意した一瞬であった。

 
 
 官兵衛はその後、生きる勇気を与えてくれた又左衛門に再三再四願い、子の九郎太郎を我が子同然とする約束で家中に迎えた。
 三年後、織田信長が明智光秀に討たれた本能寺の変の年、一粒種の松寿丸は十五歳で元服して黒田長政と名乗った。九郎太郎は長政の小姓となった。娘のおたまは、官兵衛一族に縁づかせたのであった。
 
 それから九年後、官兵衛は後北条氏に、小田原開城を迫る使者に立った。
 官兵衛は、この時も死を覚悟して小田原城内に入った。
「頭巾だけは取るのをご勘弁願いたい。有岡城での長い入牢で左足が利かず、頭には髪の毛がなく、かさだらけで見苦しいのでござる」
 丸腰の官兵衛は、頭に頂く華やかな金襴の頭巾をこれ見よがしに触り、小田原城主の北条氏直と対座した。秀吉風の派手な頭巾を被ったのも、氏直の北の方に、貧相な下衆男が遣わされたと顰蹙されぬよう、せめてもの身繕いであった。
官兵衛に打たれた北条氏直夫妻は、快く開城に応じた。
 さらに氏直は、丸腰では武士の面目がたつまい、と言って日光一文字の名刀を官兵衛の腰に帯びさせて帰したのであった。
 






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