くる天 |
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飯島浩樹 さん |
シドニー通信員の『豪リークス』 |
地域:海外 |
性別:男性 |
ジャンル:ニュース 世界情勢 |
ブログの説明: オーストラリア在住 某民放局シドニー通信員からの情報。 |
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アボリジニ、ウラン、そして原発事故… |
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2011年12月26日 15時12分の記事
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第6回アボリジニ、ウラン、そして原発事故… ※日豪プレス2011年7月号掲載 http://nichigopress.jp/nichigo_news/goleaks/26654/
今年4月、1人の先住民アボリジニの女性が、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の被害を受けた被災者への深い同情と悲しみを綴った1通の手紙を、国連事務総長宛てに送った。そこには、豪州北部で採掘され、多くが日本に輸出されるウランをめぐる、地元アボリジニの人々の苦悩と、日本の原発事故を警告していたかのような伝説についても書かれていた…。
◇アボリジニ長老からの1通の手紙 (写真:ミラル族イボンヌさんの国連事務総長宛ての手紙)
果てしなく広がる熱帯雨林、大湿原に舞い降りる白い鳥の群れと沈む夕日…。オーストラリアの観光プロモーション・ビデオに必ず登場する北部準州カカドゥ国立公園の景観だ。
ユネスコの世界遺産(自然・文化の複合遺産)にも指定され、古いものでは2万年以上の歴史を持つという洞窟壁画が各所に残るカカドゥ。ここで暮らす1人の先住民アボリジニの女性が、東日本大震災発生から約3週間後の今年4月はじめ、潘基文国連事務総長に1通の手紙を送った。手紙には「地震、津波、そして原発事故の被害を受けた日本国民への同情と悲しみ」について書かれていた。
この手紙を送ったのは、カカドゥの先住民ミラル族の長老イボンヌ・マルガルラさん。ミラル族は1976年に制定された「アボリジニ土地権法」により、カカドゥにある3つのウラン鉱床のうち、レンジャーとジャビルカの2つの鉱床がある地域の伝統的土地権利者(Traditional Owner)として認定されている。
資源大手リオ・ティント社傘下のERA社運営するレンジャー鉱山(1980年操業開始)は、北部準州の首都ダーウィンの東約250キロにあるオーストラリア最大のウラン鉱山で、世界のウランの約10%を生産し、日本にも多く輸出している。レンジャー鉱山で採掘されたウランは、その場でいわゆるイエローケーキ(ウラン精鉱)に精錬され、その際に出る不純物は巨大な池に貯められる。だが、この池にとどまっているはずの高濃度の放射能汚染水が、大雨の影響などにより下流のアボリジニの村やラムサール条約によって保護されているマジェラ湿原に流れ込んでいるとの指摘もある。
イボンヌさんの父トビー・ガンガーレさんも当初このウラン鉱床開発に反対していたが、6年にも及ぶ長期交渉に根負けし、ついに協定書にサインしてしまう。これにより伝統的所有者側には、2億ドル以上の大金が支払われることになるが、結局「聖地」として大切にしてきた土地が破壊され、部族の中では金銭をめぐるいざこざが頻発するようになったという。
その後、酒に溺れ失意のうちに1988年に他界した父の跡を受け継ぎ、ミラル族の長老となったイボンヌさんは、父を騙すようにして結ばれてしまった協定破棄のための行動を開始。1998年には8カ月にわたり約5,000人がジャビルカ鉱山開発地を封鎖 するなどした。
イボンヌさんは、国連事務総長宛ての手紙の中で、1970年代に当事の田中角栄首相とオーストラリア政府が、カカドゥのウランを日本に輸出することに同意したことに触れ、「私たちの土地から採掘されたウランが、福島第1原発事故による放射能汚染の原因の少なくとも一部になったことをとても悲しく思う」としている。
◇ウラン長者への誘惑を拒否した男
6月24日、フランスのパリで開かれていたユネスコの世界遺産会議で、日本の「小笠原諸島」とWA州の「ニンガルー・コースト」、翌25日には岩手県の「平泉文化遺産」が新たに世界遺産に登録された。この会議には、カカドゥ第3のウラン開発区クンガラ鉱床の伝統的所有者ジョック族のジェフリー・リーさん(40)も出席していた。
ジェフリーさんには、クンガラ鉱床の採掘権を持つフランスの世界最大の原子力関連企業アレバ社から、もし受諾すれば一挙にオーストラリアの長者番付上位に躍り出るほどの多額の保証金が提示されていた「お金なんて俺にとっては何の意味もなさないよ。心配なのはこの大地なんだ」。年収3万ドル(約240万円)足らずで国立公園のレンジャーとして働くジェフリーさんは、巨額のオファーをきっぱり断わり、在世界遺産の指定地域から除外されている ウラン鉱区が世界遺産に含まれるよう働きかけるため、奇しくもアレバ社のお膝もと花の都パリに乗り込んだのだ。
この原稿を書いている間にも協議は行われているはずだが、このジェフリーさんに同行している支援のジャスティン・オブライエン氏は我々の取材に対し、「今のところ交渉は順調に進んでいる。良い結果がもたらされることを願っている」と答えた。 (※6月27日、ユネスコの世界遺産委員会は、 クンガラ地区を世界遺産に含めることを決定した。)
先日、東北のある町で原発を受け入れた住民の本音を取材したテレビ番組を観たが、その中である住民はカメラをまわさないことを条件に、「原発に心から賛成している住民なんて1人もいないさ」と答えたという。
何万年もの間、先祖が大切にしてきた土地を断腸の思いで売り渡してしまったイボンヌさんの父。そして大富豪への道を自ら断ち、自分の主張を貫いたジェフリーさん。今の日本人にとって、とても他人事とは思えない話だ…。
◇原発事故をアボリジニの伝説が警告していた ?
世界一のウラン埋蔵量を誇り、日本を含めた世界各国にウランを輸出するオーストラリアだが、自国には実験炉を除き商業用原発は1基も保有していない。今年4月訪したギラード豪首相は、東京で開かれた記者会見で「現在と同様、原子力発電は選択肢にない」と明言した。
しかし、経済界や一部の政治家の間に原発を推進する声がないわけではない。今年5月にはリオ・ティント社の会長が「二酸化炭素排出削減を真剣に考えるなら、“原子力豪州(nuclear Australia)”は不可避だ」と述べている。
※写真ミラル族のホームページ
ミラル族の伝説によれば、カカドゥのウラン鉱床がある地域には“ジャン(Djang)”と呼ばれる聖地があり、もしそこが荒らされるなら“壊滅的な恐ろしい力” が世界に解き放たれるう。イボンヌさんの父は1970年代にそのことをオーストラリア政府に警告したが、当事誰もその話に聞く耳を持たなかった。ミラル族は、今回日本で起きた原発事故にこの“ジャン”の力が関係していると感じているそうだ。
効率よく莫大なエネルギーをもたらす原子力発電ではあるが、一歩間違えればまさに壊滅的な事態を引き起こす “恐ろしい力”を持っているといういうことを、過去に2度も原子爆弾を落とされている日本は、今回改めて痛いほど思い知らされた。ミラル族のウェブサイト(www.mirarr.net)には、ありがたいことに日本語で「頑張れ、日本。頑張れ、東北」と大きく表示されている。何万年もの間、自然とともに暮らしてきたアボリジニの人たちの警告に、オーストラリア政府、そして我々日本人は真摯に耳を傾ける必要があるのかもしれない。
※写真付の記事はこちらから http://nichigopress.jp/nichigo_news/goleaks/26654/
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