このブログのトップへ こんにちは、ゲストさん  - ログイン  - ヘルプ  - このブログを閉じる 
〔助太刀兵法10〕夜桜お七 (2) (無料公開) 
[【時代小説発掘】]
2011年8月7日 10時44分の記事


【時代小説発掘】
〔助太刀兵法10〕夜桜お七 (2)
花本龍之介 



(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


梗概
 悪党どもに狙われて兄を殺されたお七を助けようとして、早船飛十郎は仙台藩の下屋敷に乗り込む。臥煙たちに取り巻かれ、剣の冴えを見せた飛十郎も、波切平九郎という凄腕の浪人に斬られて大川に落ちて沈んだ。町火消しと大名火消しの大喧嘩が、十二社権現ではじまると聞いて、お七と小吉は仇討をするために駆けつけるが、果たして生首の松五郎と蝮の権三を討つことが出来るのか。物語は意外な人物の登場で、いよいよクライマックスをむかえる……。


【プロフィール】:
尾道市生まれ。第41回池内祥三文学奨励賞受賞。居合道・教士七段。
現在、熱海に居住している。



これまでの作品:
[助太刀兵法1]鎌倉しらす茶屋  
[助太刀兵法2]人助けの剣
[助太刀兵法3]白波心中
[助太刀兵法4]おとよの仇討 
[助太刀兵法5〕神隠しの湯
〔助太刀兵法6〕秘剣虎走り
〔助太刀兵法7〕象斬り正宗 
〔助太刀兵法8〕討ち入り象屋敷 
〔助太刀兵法9〕夜桜お七

猿ごろし


↓  ↓  ↓  ↓  ↓  ↓   ↓  ↓  ↓  ↓






【PR】システム構築、ソフトウェア開発はイーステムにお任せ下さい


************************************************************
当サイトからの引用、転載の考え方
・有料情報サイトですが、引用は可能です。
・ただし、全体の文章の3分の1内程度を目安として、引用先として「ニュースソース・NewsSource(有料版)」と必ず明記してください。
・ダウンロードしたPDFファイル、写真等は、透かしが入っている場合があります。これは情報管理上のことです。現物ママの転載を不可とします。ただし、そこから情報を引用しての表記は可とします。その場合も、全体の3分の1内程度を目安として、「ニュースソース・NewsSource(有料版)」と引用先を必ず明記してください。
・商業利用の場合は必ず、連絡下さい。
 メールは、info*officematsunaga.com
(*を@にかえてください)
************************************************************

【時代小説発掘】
〔助太刀兵法10〕夜桜お七 (2)
花本龍之介 



一 賭場の用心棒

 その日の夜――。永代橋横の、深川・佐賀町の煮売り酒屋で、職人たちにまじって盃をかたむけていた飛十郎は、ふと顔をあげて傍を通る小女を呼び止めた。
「いま、何刻かな」
「へえ、六つ半(午後七時)頃だと思いますが」
「そうか。よし、すまぬが勘定をたのむ」
 縄暖簾をかき分けて、ふらりと外へ出ると、飛十郎は仙台堀に架けられた、上の橋を渡った。橋を渡れば、すぐ目の前が伊達家の広大な下屋敷である。大川に面した、国持大名の厳めしい長屋門の前を通りすぎると、飛十郎は清住町の角を曲がって少し行った路地に、すいと身を潜めた。待つほどもなく提灯を持った男たちが、下屋敷の長い塀の途中にある脇門から、邸内へ次々と入って行った。
「ふん、生首め。蝮と手を組んで、やはり賭場をやっておったな」
 そう呟やくと、散歩でもしているような足取りで、門の前まで歩いて行く。
「おい、あけろ!」
 飛十郎は、脇門のくぐり戸を叩いた。
「誰だ。おめえは」
 開いた門から提灯と六尺棒が突き付けられると、門番が声をかける。伊達六十二万石の下屋敷を守る門番らしからぬ、伝法なもの言いである。
「客だ。博打をやりにきた」
 素早く屋敷に入ると、ふところ手のまま飛十郎は、提灯に顔をさらした。
「見かけねえ顔だな。この鉄火場は初めてか」
「そうだ。だが、金はあるぞ」
 にやりと笑って、飛十郎は手の中の小判五両を、門番の顔にむかって突き付けた。同時にふところに入れた手を袖から抜き出すと、一分銀を二枚門番の手に握らせる。
「ようし。元手さえあれば文句はねえ。きな、おれが案内してやる」
 この男も、生首配下の臥煙らしい。背中に伊達藩の竹に雀の家紋入りの、印半纏をはおっているが、六尺五寸(一九五センチ)はゆうにあるほど背が高い。見上げるばかりの巨漢である。大藩の大名家では、競って相撲あがりの大男を臥煙に雇い入れた。
「そんな姿で、寒くはないのか」
 飛十郎の問いかけに、大男の臥煙は振り向いて、ばしっと平手で胸板を張ると、にやりと笑う。
「臥煙てのはなあ、真冬の大雪の中でも上は半纏一枚、下は褌一丁ときまってるんだ。そうでなけりゃあ、火の中に飛び込むことは出来ねえ」
 雲龍の彫り物でも入れているのか、胸や腕それに太股に、黒い雲形の刺青が覗いている。
「たいしたものだな。命知らずが揃っているというわけだな」  
 じろりと飛十郎を睨むと、大男は無言のまま長屋の入口を、ぐいと顎で差ししめした。 「ご苦労」
 臥煙にむかって言い捨てると、飛十郎は火消し部屋の戸を開けて中へ入って行った。下屋敷だけでも百人近い臥煙が、寝泊まりしている火消し部屋だ。予想していたより、はるかに広かった。
「見かけねえ顔だが、浪人さんは初めてかい」
 下足番をしている背の高い臥煙が、飛十郎の履物を預かりながら声を掛けた。
「うむ。生首の松五郎は、どこにいる」
 刀を帯から抜き取り、右手に持ちかえると、飛十郎は部屋を見廻した。
 広々とした部屋の中央に、真っ白い晒しの布を敷いた鉄火場がしつらえてあり、その周りに百匁蝋燭を立てた燭台がずらりと並んでいる。闇に慣れた目で見るから、昼のように明るい。
「半かた揃った。丁かた無いか、丁かた無いか。はい、丁半揃いました。勝負!」
 全身に見事な不動明王の彫り物を入れた、壺振り役の臥煙が、さっと骰子(さいころ)を放り込んで、ひと振りすると壺をあけた。
「はい、九二の丁!」
 瞬間、盆茣蓙を取り囲んだ客たちの口から、悲鳴に似た溜め息が出る。
「なんでえ、頭(かしら)に知り合いか。ほら、頭ならあそこにいなさるぜ」
 熱気に満ちた鉄火場の次の間の、仕切りの板戸を開いた先に、どっかりと胡坐(あぐら)をかいた男がふたり、しゃべりながら盆茣蓙のほうを眺めている。
「お侍さん、こちらへ」
 三下らしい若い臥煙が、右手をのばして飛十郎を空いた席に案内する。飛十郎がすわると、浪人は珍しいのか、廻りの客たちがいっせいに顔を上げて見た。
「では、これを駒札に変えてくれ」
 ふところから出した五両を三下に渡すと、今度は飛十郎が客たちを眺めた。大店の主人か、職人の親方株。いずれも裕福そうな町人ばかりである。
 飛十郎の駒札が届くと、すぐに勝負がはじまった。賭けごとには〔つき〕というものがある。この、つきの女神は、どうやら欲のない者がお好きらしい。奇妙なことに、目の色を変えて、なけなしの銭を張る客の数字に骰子は転がらず、無欲な客が張った目に、つきの女神は微笑んだ。
 今夜の飛十郎がそうであった。もとより飛十郎は儲けるつもりで、この賭場に乗り込んだのではない。丁半の骰子博打の勘は冴えきっていた。四半刻(三十分)もしないうちに、骰子の出目癖が読めてきた。
勝負の合い間、合い間に、さり気なくとなり座敷の二人の男に目をやった。
 帳場格子の向こうに座って、寺銭箱に手を入れては金を出し入れしている三十がらみの、目付きの鋭い男が代貸しだろう。となると、その横にいる大形の雲に稲妻を染め出した革の長半纏を、無雑作に肩に引っ掛けた坊主頭の大男が、生首の松五郎ということになる。
「ふうむ……」
 飛十郎が盆茣蓙の上に駒札を張り、無精髭をひとなぜして、松五郎の顔を見る。飛十郎が勝って、目の前の駒札が倍になって戻ると、松五郎が嫌な目付きで、じろりと見る。負けて盆の駒札を取られると、松五郎は、にやりとして飛十郎を見る。
 およそ一刻(二時間)ほど、こんなやり取りをしているうちに、飛十郎の膝の前の駒札が倍になった。つまり元手の五両が、十両になったわけだ。
「ま、こんなところだな」
 駒札を掴んで立ち上がると、飛十郎はずかずかと帳場まで歩いて行くと、松五郎の前に座った。
「おや。お客人、もうお帰りで。まだ早えじゃござんせんか。もうちっと遊んでいったらどうです」
 代貸しが、へらへら笑いながら飛十郎の顔を見た。
「いや、もうあきた。なんだな、賭けごともこう勝ってばかりだと、つまらんものだな」「へ、へへ、そうですかい。この賭場は玄人筋に、地獄盆と呼ばれるほど、怖いといわれているんですがねえ」
「あいにく、おれは素人だ。生首地獄の呼び名も通用しないとみえる」
 飛十郎は、代貸しなぞは見向きもしない。正面の松五郎の顔に、鋭い視線を当てたまま動かさなかった。生首と言われて、松五郎の眉が、ぴくりと反応した。
「お客人。初めてのようだが、いい度胸だとほめておこう。だが、勝ち逃げはいけねえ。こいつがいうように、もう少しつき合ってくだせえ」
「ふん、素人に勝ち逃げもなにもなかろう。それとも、あれか。この伊達の賭場は、負けるまで帰れん仕掛けになっているのか。うっかり勝ったまま帰ると、袋だたきになったあげく、仙台堀に放り込まれるとでもいうのか」
 飛十郎の声が大きくなった。
「ちっと口が過ぎますぜ。こっちは二本差しだと思って、した手に出ているんだ。どうあっても、これで帰るとおっしゃるんで?」
「しつこい奴だな。つべこべいってないで、早くこの駒札を金に変えろ」
 代貸しは、松五郎の顔をみた。松五郎は坊主頭を後ろにむけて、板戸の陰に目をやった。つられて飛十郎も見ると、痩せて頬の削げた浪人者が、ひっそりと一升徳利を傾けて、茶碗の酒を口にふくんでいた。
「先生、どういたしやしょう」
「その男は、かまわんほうがいい。変えてやれ」
 顔をしかめると、松五郎は払ってやれ、というように顎をしゃくった。
「では、お客人。たしかに十両渡しましたぜ。せめて、一杯やって行っちゃあいかがです。めっぽういい味の握りや、稲荷鮨もありますぜ」
「ことわる」
 小判十枚を素早くふところに納めると、飛十郎は立ち上がった。
「うっかり呑んだ酒に、しびれ薬が入ってたら、かなわんからな。遠慮なく勝ち逃げさせてもらうぞ」
 さっさと、入り口にむかって歩き出した。
「先生、どうしたんです」
「わからんか。あやつ、お前たちが五人、たばになって掛かっても、かなわぬ相手だぞ」「じゃ、先生と斬り合ったらどうです」
 そう聞かれた浪人は、遠去かって行く飛十郎の後ろ姿を見ながら、薄い唇をゆがめた。「まず、腕は互角。今やれば、相討ちというところだな」
 下足番が出した草履に、片足を差し込んだところで、くるりと振り向くと、飛十郎は松五郎の前に、引き返した。
「いい忘れたことがある」
「な、なんでえ。金はちゃんと払ったじゃねえか」
 代貸しが顔を引きつらせて立ち上がったのを、飛十郎は手で押しのけた。
「おい、松五郎。きさまは、それでも伊達六十二万石の、お抱え火消しか。その拝領半纏を、よく恥ずかしげもなく着ていられるな」
「てめえ、この生首の松五郎に喧嘩を売るつもりか」
「だまれっ!」
 飛十郎は、でっぷり太った松五郎の革半纏の襟首をつかむと、引きずり上げた。
「人間にはな、していい事と悪い事があるぞ。いくら消し口を取りたくても、火消しが火つけをするとは、断じてゆるせん! たとえ火附盗賊改めが見逃そうと、この早船飛十郎がゆるさん」
「お、おめえが、早船とかいう浪人者か……」
 苦しげに目を白黒させて、松五郎はあえいだ。
「蝮の伝言を聞いたとみえるな。きさまと権三それに臥煙たちが、三番組の纏持ちの新次を、よってたかってなぶり殺しにしたことは、おい松五郎、もう割れているのだぞ」
 そう言い放つと、どこをどうしたのか生首の松五郎の巨体が、一回転して壁の羽目板に叩きつけられた。
「ぐえっ」
 羽目板が割れる音がすると、盆茣蓙を囲んでいた臥煙と客たちが総立ちになった。
「そこの、用心棒の先生。そろそろ仕事先を変えたほうがいいな。松五郎はもう終わりだ。どうあがいても、火あぶり獄門だ。いや、その前に、おれの助太刀で新次の妹に仇討をさせてやる」
 われ先に逃げ出していく客たちを横目に、あい変らず茶碗酒をあおっている浪人者にむかって、飛十郎は声を掛けた。
「ほう、おぬしか。いま世間で評判の、助太刀屋というのは」
 茶碗を持つ手を止めて、用心棒はしげしげと飛十郎の顔を眺めた。
「ま、そんなところだ」
 頭をかいた飛十郎の廻りを、手に鳶口や手鉤を持った大男の臥煙たちが、ぐるりと取り巻いた。「先生、のん気なことをいってねぇで、早くそいつを斬ってくだせえ。生首のお頭をこんな目にあわせた野郎ですぜ」
 気絶した松五郎を抱き起こしながら、代貸しが用心棒をけしかけた。
「あせるな。心配せずとも、この男はおれが斬る。それより日頃無駄飯をくらっているのが、十人もいるのだ。腕だめしに、やってみろ」
 片頬をゆがめると、用心棒は酒をすすりながら、じろりと臥煙たちを見た。
「それにしても、よく図体のでかいのばかり揃えたな。さすがは伊達鳶だ」
 天井に頭が届きそうな巨漢たちを前にして、飛十郎が感心したように首を振った。
「といいたいが、正月の出初めの行列や、伊達屋敷の門飾りがわりの虚仮(こけ)おどしにはなりそうだが、喧嘩はどうかな。おい、用心棒の先生よ、どう思う?」
 後へさがりながら、飛十郎が聞いた。
「さあて、な。喧嘩は、やってみないとわからん。早船とかいったな、まずお手並みを拝見しよう」
 用心棒は、茶碗を下へ置くと、腕組みをして飛十郎を見た。
「先生は高見の見物ときたか。よし、いいだろう」
 飛十郎は、ふところ手を袖から抜き出すと、ゆっくりと両脇に腕をおろした。指は軽く握ったままである。半円になった臥煙たちまで、距離はおよそ三間。臥煙百人近くが暮らす火消し部屋は、剣の道場といってもいいほど広い。
「では、いくぞ」
 にやりと笑った飛十郎は、真正面に立っている臥煙たちにむかって、一文字に歩きはじめた。
「野郎っ!」
 鳶口を振り上げた相手に、斬りかかると見せて、転瞬!低く身を沈めた飛十郎の柄頭が、目にも止まらぬ速さで右横の臥煙の鳩尾(みぞおち)に叩き込まれた。同時に、鞘から引き抜かれた刀の切っ先が、左横の臥煙の太腿に突き刺さる。その切っ先を抜き取りざま、頭上に振り上げて右前の敵に斬り付け、返す刀で左前の敵にむかって斬りおろす。
 これを、瞬(まばた)きを二回する速度でおこなう。一挙動作で四人を倒す、無双直伝英信流〔四方切り〕の技である。
「うわっ!」
 四人の臥煙が、ほとんど同時に床に膝を落とし、手の鳶口が音をたてて転がった。
 見ていた臥煙たちが、驚愕した顔で、どっと後へさがった。
「さて、お次は誰だ。この四人は、いずれも浅手だが、これからは死ぬかもしれんぞ」
 そう言って残る六人を見廻した時には、刀はもう鞘に納まっている。飛十郎は、まただらりと両腕を脇の下にたらした。
「それまで」
 用心棒が、そう声を掛けて、ふらりと立ち上がった。着古しの黒紋服の着流しに、博多献上の帯。その帯に朱鞘の大刀を差しながら、ゆっくりと飛十郎にむかって歩いてきた。「早船さん、見事な居合だ。ひさし振りに、忘れていた剣客の血が騒いだよ。いいものを見せてもらった。ひとまず礼をいっておく。けどな、こやつらも伊達家から給金を貰っているお抱え火消しだ。この下屋敷の中であまり斬ると、引っ込みがつかなくなるぞ」
「さすがは、用心棒だ。痛いところを突いてきたな。仙台藩の家臣とやり合う気はない。だが、おれをこのまま帰したのでは、今度はおぬしが引っ込みがつかんだろう」
「そういうわけだ。用心棒料だけは働かなくてはな」
「どうするつもりだ」
「生首の松五郎の目の前で、早船さんを斬る」
「うむ。どうしてもやるのか」
 こんな下らぬ悪党のために、といった顔で松五郎を見ながら、飛十郎が聞いた。
「悪いが、やる。これが、おれの商売だからな」
 どこかで聞いた言葉だ。思わず飛十郎は、にやりと笑った。
「よかろう。ただし、表で願いたい。おぬしと斬り合うには、ここは、ちと狭すぎる」
「よし、外へ出よう。いいか、この男はおれが斬る。きさま達は松五郎をかついで、あとから来い。ただし、手出しはゆるさんぞ。武士の一騎打ちをみせてやる」
 青ざめた顔で突っ立っている臥煙たちに、そう言い残すと、用心棒は待っていた飛十郎と、肩を並べて
脇門から外へ出た。
「さっき、早船さんがいっていたのは、本当なのか。松五郎が、火付けで人殺しだというのは」
「ああ、まず間違いない」
「そうか。どうやら、用心棒についた相手を間違えたようだ」
 月のない夜である。辻番小屋の軒行灯の明かりと、清住町の街並みの灯りと、そのむこうに見えている大川端の常夜灯の明りが、ぼんやりと滲んで見えるだけの暗さであった。「さっきの居合、英信流と見たが」
「そうだ。おぬしの流派は?」
「伯耆流を少々。ただし、居合は苦手でな」
「そうか。伯耆流と聞いた時は、居合同志の勝負かと思ったが。苦手ならば、ちと気の毒だな」
「そこで相談だが、早船さんどうだろう。刀を抜いて、やり合わないか。鞘におさまったままでは、とうてい勝ち目はないからな」
 用心棒は夜空を見上げながら、とぼけた声を出した。
「ふ、ふふ。兵法に、居合は抜かせて勝て、とあるからな。しかし、おぬしも図々しいことをいう男だな」
 飛十郎は、あきれた声を出した。それはそうだろう。あらかじめ刀を抜いて闘ったのでは、文句なく用心棒が有利である。
「そういわれると一言もない。だが、おれも松五郎や臥煙どもに、日頃大口を叩いている手前があるからな。早船さんに、一太刀で斬られるわけには、いかんのだよ」
 すまなさそうに言うと、用心棒は頭をかいて見せた。
「面白い、いいだろう。ところで、まだ先生の名を聞いてないな」
「おれの名か。しがない臥煙の賭場の用心棒だ。名のっても仕方がないが、早船さんには無理な頼みをしたことだしな。名は波切平九郎と申す。以後、よしなにお願いいたす」
「なに、波切 ――。まさか、箱根のそばの生まれではないだろうな」
「生まれは小田原だが、それがなにか」
「ふうむ」
 思わず飛十郎は、、腹の底でうなり声を上げた。
「では、兄上は、波切平助どのか」
「さよう。兄は、たしかに平助といいますが。早船さんは、兄をご存知ですか」
 知っているもなにも、箱根へ湯治に行き、仇討騒ぎに巻き込まれて、地獄谷で居合同志の決闘をした相手である。波切平助は盗賊に身を持ち崩していたが、飛十郎でさえ倒した時には、足に手傷をおったほどの、恐ろしい殺人剣の使い手だった。目の前の波切平九郎にとって、飛十郎は兄の仇ということになる。
「うむ。それならば……」
 そう呟やいて、飛十郎は下屋敷の長い海鼠塀にそって歩き出した。見上げると、雲が切れたのか、満天の星空である。その星明りで、行く手の大川が、かすかに光って見える場所で足を止めると、飛十郎はふところから手を出した。
「波切さんは、ひとり者かね」
「いや。妻と、ふたりの子がいる。そのための用心棒稼業だ」
「十両ある。取っておいてくれ」
「ありがたいが。早船さんから、こんな大金を貰ういわれがない」
「そちらにはなくとも、おれにはあるのだ。生首の用心棒をやめる、退き金と思ってくれ。早くしろ、臥煙たちが出てくるぞ」
 すらりと刀を抜くと、飛十郎は大上段に構えた。
「では遠慮なくいただく。兄に関わりのあるだと思うが、いずれわけを聞かせてもらおう。いくぞ、早船さん」
 平九郎も刀を抜くと、静かに刀身をかたむけて地摺り下段になる。
「出来るな、平九郎さん。賭場の用心棒には、おしい腕だ」
 大上段を、右八相の構えに変えながら、飛十郎はじりじりと腰を落とす。同じ速さで平九郎も、ゆっくりと身を沈める。地摺りの、地を這う虫のような刀の切っ先が、剣機をさぐるように、ぴくりと動いた。
「お、あんなところで斬り合っているぞ。先生、そいつを早くやっつけてくれ」
 臥煙の声がして、駆け寄ってくる足音が夜空に響く。気を失っていた松五郎が息を吹き返したらしく、両脇を臥煙たちにささえられて立っていた。
「遠慮はいらねえ。波切先生、その男を叩き斬ってくれたら、三両、いや五両、この場ですぐ渡すぜ!」
 松五郎のわめき声が合図のように、するすると近寄った飛十郎と平九郎の躰が交差したと見えた時、激しく金属が打ち合う音がして、ぱっと火花が散った。
「この早船飛十郎の首代が五両とは、安く見られたもんだ。平九郎さん、行きがけの駄賃だ。貰っておいたほうがいい」
 鍔ぜり合いの形で顔を見合わせると、飛十郎が小声でささやいた。
「それはそうだが、早船さんを斬るわけにはいかん。どうすればいい」
「まかせておけ」
 平九郎の鍔から刀を引きはずすと、飛十郎は大川端にむかって走り出した。
「おのれ、まてい」
 必死の形相で、平九郎が飛十郎を追いかける。清住町の角を曲がって、ふたりの姿が見えなくなると、すぐにまた刀を打ち合う高い金属音がした。
「えい!」
「うわあっ」
 飛十郎の絶叫がしたと思うと、大川に人が落ち込む水音が、大きくあたりに響き渡った。
「やったぜ」
「さすがは先生だ。てえしたもんだ」
「斬られて川に落ちたんじゃあ、もう助かるめえ」
 星明りの水面を覗き込んで、口々に騒いでいる臥煙たちを、かき分けて出て来た松五郎が、平九郎に声をかけた。
「どうやら仕止めなさいましたね、波切先生」
「うむ。逃げるところを、一刀のもとに逆袈裟に斬り捨てた。あやつ、なかなかの手錬者(てだれ)でな、少々てこずらされた」
 鍔鳴りの音も高く、刀を鞘に納めて平九郎は答えた。
「じゃあ明日の朝あたり、やつの死骸が百本杭にひっかかるってわけでござんすね」
「むろん、そうなるだろうな」
「は、ははは。そいつは、めでてえや。先生、部屋へもどって、祝い酒といきやしょうぜ」
 大声で笑いながら松五郎と臥煙たちは、仙台藩の下屋敷へ引き返しはじめた。
「気が変わった。頭、おれは今夜は帰らしてもらうぞ」
 足を止めると、平九郎は松五郎を見た。
「おや、そうですかい。あの野郎のおかげで賭場もおしゃかになっちまったし、べつにかまいませんがね」
「では、明日また顔を出す。その前に約束の金をいただこうか」
「へ、へへ、斬り料五両ですかい。波切先生も抜け目がねえや。おい、お渡ししろ」
 松五郎の言いつけに傍にいた代貸しが、すぐに懐中から小判をだして平九郎に渡した。黙ったまま受け取ると、平九郎はきびすを返して、足早に歩き出した。松五郎たちと酒を呑んでいる時間はなかった。
 これから家へ飛んで帰り、妻と子供ふたりを連れて夜明けをまたずに、江戸をあとにしなければならない。飛十郎がくれた金が十両、今もらった金が五両。合わせて十五両あれば、親子四人どこであろうと一年半は楽に暮らしていける金額であった。


二 火消しの喧嘩

 朝と夕方の二度、海辺大工町の飛十郎の長屋へ顔を出した小吉が、腰高障子を引き開けると、不安げに首をかしげた。
「どこへ、行っちまったんだろう。あのすっとこどっこい。まさか斬られちまったんじゃないだろうねえ」
 いらいらした顔で、部屋を覗き込んでいた小吉が、
「ちっ! しょうがないねえ」
 伝法に舌打ちすると、思い切ったように駒下駄をぬぎ捨てて、座敷へ上がっていった。土間をあがってすぐが三畳、奥の座敷が四畳半、ずうっと通ればすぐに小名木川に突き当る、という棟割り裏長屋である。ぐるりと見廻せば、飛十郎がいるかいないか、ひと目でわかる。気のきいた所帯道具など一つもない。古びた行灯と、隅にきちんと積まれた夜具が見えるだけだ。
「正念場だというのに、いないってことがあるかい。芝居でいえば見得を切る、見せどころだよ。お七っちゃんが大変だというのに、あの馬鹿どこへ消えちまったんだろう」
 独り言をいいながら縁側へ出ると、片手を物干し台の柱へかけて、抜けるように白い二の腕をまで見せながら、小名木川に目をやった。
「おい、馬鹿はひどいな。おれは昨日の晩から、ずっとここだぞ」
 足の下から、聞きなれた飛十郎の声がした。
「あっ! どこにいるんですよう、旦那」
 素足のまま身軽に地面に飛び降りると、小吉は縁の下を覗き込んだ。
「ここだ、ここだ。川だよ」
「ふん、河童じゃあるまいし。川の中で、なにをやってるんですよ」
 身を乗り出して、小吉が川面を見ると、目の下に場違いな猪牙舟が一隻もやってある。「あきれるよ。そんなとこで、いったい何をやっているんです」
「しばらく外へ出られんのだ。斬られて、大川へ流されたことになっているのでな」
 船底に掛けた筵から顔を出すと、頭をかいて飛十郎は苦笑いをした。
「大変なことになったんだよ、早船の旦那。町火消しと大名火消しが、大喧嘩だよ。のん気に寝ころんでいる場合じゃないよっ」
 飛十郎が、むくりと起き上った。
「なに、大喧嘩だと。いつだ小吉」
「今夜だよ」
「どこでだ?」
 立ち上がると、刀を帯に差し込む。
「内藤新宿の先の、十二社権現!」
 石垣に手を掛けると、ひらりと飛び上がった。
「わけを話せ。どうして、そんなことになった」
「生首の松五郎が、二番組と三番組みに果たし状を叩きつけてきたんだよ」
 飛十郎は、小吉の腕を掴んだ。
「どうして止めなかった。まずいぞ喧嘩は」
「おふざけじゃないよ。火事と喧嘩は、このお江戸の華だよ。まして火消しが、売られた喧嘩を買わないわけがないじゃないか。これを旦那に見せろといって、火消したちを引き連れて兄貴はとっくに出ちまったよ」
 小吉は、袖の中から一通の封書を取り出して、飛十郎に渡した。
「このあたりで一番早い駕籠屋はどこだ、小吉」
 封書を開いて読み下しながら、飛十郎が聞く。
「そうだねえ。霊厳寺門前町の、駕籠寅だろうね。あそこにゃ、威勢のいい若い者が揃っているからね」
「よし、おれは駕籠で十二社まで駆けつける。わるいが小吉、この舟でひとっ走り安達屋までいってくれ」
「いくのはいいけど、口上はどういえばいいのさ」
「この書状を見せるだけでいい。あとは安達屋が、しかるべく手を打ってくれることになっている。小吉たのむぞ」
「あいよ、まかしとくれ」
 胸をぽんと叩くと、小吉は石垣から降りかけて、振り向いた。
「けど旦那、なんで駕籠でいくのさ。高田の馬場の安兵衛みたいに、走っていけばいいじゃないか」
「時間がない、それに間にあったとしても、息があがって助太刀どころではなくなる」
 袴の股立ちを取ると、刀の下げ緒で素早く襷(たすき)を掛けると、飛十郎は小吉を見た。
「急げっ! おれのほうより、その書状を藤兵衛に届けるほうが重要なのだ」
「なんだか、わけがわかんないけど。旦那のいう通りにするよ」
 なれた身さばきで猪牙舟に飛び移ると、すぐに艪を手に持って力強く漕ぎはじめた。小吉を見送ると、飛十郎は刀の鍔をしっかりと押さえ、脱兎のごとく駆け出して行った。


三 夜の十二社権現

 四谷大木戸を抜けると、間もなく内藤新宿の下町(しもまち)に入る。
「おい、止まってくれ」
 飛十郎の声で、それまで矢のように突っ走っていた早駕籠が、ふいに止まった。
「どうした」
 棒鼻に長い縄を縛り付け、その先端を肩にかついで走っていた先駆けが、不審そうに引き返してくると先棒の駕籠かきに声をかけた。
「旦那が、おめえに話があるとよ」
 四人引きの早駕籠である。それが急に止まったから、内藤新宿を行き来している旅人や、行商人や、留め女たちが物見高く寄って来たが、
「どいた、どいた。見世物じゃねえぞ!」
 息杖を振り廻して怒鳴る後棒の剣幕に、すぐに散っていった。
 内藤新宿は、甲州街道の最初の宿駅である。品川宿がそうであるように、江戸を出た旅人たちは、この宿場で泊まろうとはせず、次の宿場町へ急ぐ者が多かった。ではどうして内藤新宿が、下町、仲町、上町と三つにわかれるほど栄えたかというと、飯盛り女という名目の女郎を置いた遊里だったからである。
 先駆け役に何か言いつけた飛十郎は、駕籠から出ると、ふところ手をしてあたりを見廻した。ずらりと並んだ旅籠屋から出て来た留め女たちが、声を張り上げて男たちの袖を引いている。左に見えるうっそうとした森は、信州・高遠藩三万三千石の内藤駿河守の下屋敷である。
「わかりやしたぜ旦那。竹に雀の火消し半纏の連中は、昼すぎにここを通ったそうで」
「そうか。何人ぐらいだ」
「へえ、ざっと三百人が、ものものしい身支度で、追分のほうへむかったそうで」
「で、町火消しのほうは、まだか」
「いえ、四半刻(三十分)ほど前に、やはり二百五十人ぐらいで、押し通っていったということです」
「その中に若い女がいたか」
「ふるいつきたくなるような、いい女がまじっているのを、地の者が見ておりやす。へ、へ、ひまな奴がいるもんで」
「よし。酒手を、はずむぞ。すぐに十二社権現までやってくれ」
 飛十郎が乗り込むと、駕籠はすぐに地面を離れ、先駆けの大声で、旅人たちをかき分けるようにして走り出した。追分を左に曲がれば甲州街道、まっすぐ行けば青梅街道である。どちらを進んでも十二社権現までは、ほぼ同じ距離であった。西の空が夕焼けに赤く染まり、重なり合ったその赤い雲のあいだを、ねぐらの森に急ぐ何十羽もの鴉が鳴き交わしながら、南の空へ飛んでいく。
 あたりは、ゆっくりと暗くなろうとしていた。
「間に合ってくれ……」
 大きく揺れる早駕籠の中で、天井から垂れた紐を握りしめて、念ずるような思いで飛十郎が呟やいた。
 暮れ六つの鐘を合図に、喧嘩は始まる。陽が沈むのが早いか、飛十郎が乗った駕籠が十二社権現に着くのが早いか。
 目を閉じた飛十郎の耳に聞こえていたのは、四人の駕籠かきたちの苦しげな荒い息使いと掛け声、それに宙を飛ぶような速い足音だけだった。
 先頭を走る駕籠かきの目に、十二社の森が黒々と見えて来た。大鳥居をくぐれば、朱塗りの社殿と広い池があり、その周囲に茶店や料理茶屋が何十軒も建ち並んでいる。
 広々とした境内を二つに分けて、町火消し深川南組・二、三番組の二百五十人と、大名火消し仙台・伊達家の臥煙たち三百人が、火の粉を上げて燃える大篝火をあいだにして睨み合っていた。
「えい、ほっ! えい、ほっ!」
 早駕籠は、その喧嘩場の真ん中に走り込むと、足を止めた。
「待った、まった、この喧嘩ちょっと待った!」
 駕籠が降ろされるよりも早く、転がるように外へ出ると、飛十郎は大手を開いて臥煙たちの前に立ちはだかった。
「なんだ、てめえは。これは火消し同志の喧嘩だ。侍には用はねえ、引っ込んでろっ!」 臥煙たちから、怒号がわいた。見廻しても、生首の松五郎をはじめ飛十郎が見知っている顔はなかった。
「ちがうぞ。これは喧嘩ではない。お前たち伊達鳶は、利用されているだけだ。手を引いてくれ」    
 飛十郎は大手を開いたまま、目の前の角材を振りかぶった大男にむかって話しかけた。臥煙たちは手に太い材木を持ち、帯に長脇差しをぶち込んでいる。町火消しのほうは、鳶口と手鉤を持っているだけだ。
「ふざけるな! 本所、深川は昔から大名火消しの縄張りだ。手を引くのは町火消しのほうだ」
「火事に、大名も町火消しもあるまい。いったん火がつけば、大切な人の命や財産がすべて失われるのだ。江戸が灰になるのだぞ。力を合わせて火から人の命を守るのが、お前たち火消しの仕事だろう。こんなところで殺し合ってどうする。背中の彫り物が泣くぞ」
「うるせえ、侍(さんぴん)! そんなこたあ百も承知だ。見ろ、これを」
 そう言って臥煙は半纏を脱ぎ捨てて、くるりと背中を向けた。
篝火に浮かび上がった刺青は、火焔を背にして右手に降魔の剣を持ち、憤怒の形相もすざましい見事な不動明王の図柄であった。
「どうでえ。こいつが泣くかどうか、黙って見てろ! いいか、おれたちも江戸の臥煙だ。寝ている一本柱の枕を、掛け矢でひと打ちされりゃ、どんな雪の中だろうが嵐の中だろうが半纏ひとつで、火事場めざして押し出していく勇み肌なんだ。町火消しふぜいに喧嘩状を叩きつけられて引っ込んでちゃあ、このあと江戸の町を顔を上げて歩けねえんだ。わかったか」
「ちょっと、待て。果し状を送って寄こしたのは、そっちのほうだと聞いたぞ」
「寝ぼけたことをいうんじゃねえ。大川の水で顔を洗って出直してこい! 喧嘩状を寄こしたのは町火消しのほうだ。なあ、お頭」
 不動明王の臥煙は、そう言って後を覗き込んだ。飛十郎も振り向いて、町火消しを見た。
 鳶口を振りかざした町火消しの中から、小吉の兄の二番組の小頭・小平次が出てくると、無言のまま封じ文の果し状を飛十郎に手渡した。
「やはりそうか。これを見ろ。誰かが両方に果し状を送りつけたのだ。これは、罠だ。お前たちは利用されている」
飛十郎は、頭上に果し状をかざしながら大声で言った。
「いったい誰に利用されてるってんだ、おれたちが」
「これは、喧嘩ではないのだ」
「なに、これが喧嘩じゃないってんなら、なんだ?」
「仇討だ!」
 あたりが一瞬、しんと静まり返った。
「なに、仇討だと? 誰が、なんの仇を討つってんだ」
「たったひとりの兄を、なぶり殺しにされた妹が恨みを晴らす仇討だ」
そう言って飛十郎は、ゆっくりと臥煙たち三百人の顔を見廻した。
「この中に、その仇討から逃げるために、この火消し同志の大喧嘩を仕組んだ者がいる」 臥煙たちは、顔を見合わせた。
「出てこい、生首の松五郎!」
「やっぱり生きていやがったか。用心棒の波切平九郎が姿をくらましゃがったから、妙だと思ってたぜ」
 臥煙の群れをかき分けて、松五郎とその取り巻きたちが姿をあらわした。
「おおい、皆んな騙されるな! この浪人者は、きのう下屋敷で暴れた賭場荒しだ。ちょうどいい、ここで会ったが百年目だ。叩き殺してやる」
 松五郎は顔を引きつらせると、長脇差を引き抜いた。代貸しと臥煙十五、六人も、いっせいに白刃を抜く。それを見て、つられたように三百人の臥煙たちが、腰の刀に手を掛けた。
「おい侍、おめえも年貢の納めどきだぜ。うしろの町火消しどもと一諸に、皆殺しにしてやる。いいか野郎ども、ぬかるんじゃねえぞ!」
 怒鳴り声を上げる松五郎に、飛十郎はにやりと白い歯を見せた。
「面白い。年貢を納めるのは、どっちかな」
 静かに両手を脇におろすと、ゆっくりと身を沈めて居合腰になった。


四 風流殿様

「静まれ、しずまれいっ!」
 今まさに血の雨が降ろうとする、大名火消しと町火消しのあいだを、大鳥居をくぐり抜けた騎馬武者が、疾風のように走り込んできた。
「旦那、どうにか間に合いました」
 黒い影のように喧嘩場へ入って来た男が、背後から飛十郎に声を掛けた。
「伊蔵か。誰だ、あれは」
「お寺社の、脇坂さまで」
「ほう、自分で乗り込んできたか」
 飛十郎は、騎馬にうちまたがった身分の高そうな武士のほうを見た。
「静まれ、御用であるぞ!」
 馬を輪乗りにしながら、武士は威厳のある声で、火消したちを叱咤した。
 飛十郎をはさんで詰め寄っていた臥煙たちと町火消しが、馬に押されるようにして、どっと後へ下がった。騎馬の前足に蹴られるのも怖かったが、命知らずの男たちを躊躇させたのは、輪違いの定紋付きの陣笠の下の眼光鋭い目と、近寄りがたい品位のある顔であった。
「御用である。引けい」
 鮮やかな手綱さばきで、戛戛(かつかつ)と馬蹄の音を立てながら輪乗りをつづける武士こそ、播州竜野五万二千石の藩主で、寺社奉行の脇坂淡路守安董であった。
「そのほうが、早船飛十郎か」
 篝火を背にして立つ、飛十郎の前に馬を寄せると、手の鞭をむけて訊いた。
「は。飛十郎にございます」
「このたびの働き見事である。それに〔両国橋おとよの仇討〕および〔象斬り正宗〕の一件、すべて町奉行よりの報告で予の耳に入っている」
 淡路守は温和な眼差しで、飛十郎の顔を見た。
「いずれ、ゆっくりと一献くみ交わしたいものじゃな」
「恐れいります」
 飛十郎が頭を下げた時、駆け寄って来た徒士侍七人と槍持ちが、淡路守の馬の傍で膝をついた。
「だが今は、この者たちの仕置きをせねばならぬ」
 馬首をめぐらすと、淡路守は金蒔絵の鞍の上で、さっと鞭を振った。
「それっ!」
 その声を合図に、十二社権現を取り囲む木々の間から、いっせいに御用と書いた高張り提灯が差しあげられた。
「よく聞け。周囲はすべて、南北両町奉行所の手の者でかためておる。もはや鼠一匹逃がすものではない。どうじゃ、この大喧嘩。予にあずけぬか」
 淡路守の手元に、槍がすっと寄せられた。槍先には世に名高い、貂の皮の投げ鞘がはめてある。寺社奉行・脇坂淡路守の仲裁に不服なら、五万二千石のこの槍に、ものをいわせて見せるという威嚇である。
 あたりは、しんと静まり返った。
「よし。ならば喧嘩は、この淡路守があずかる。よいな」
 鞍の上で伸びあがると、淡路守はまた鞭を振った。
「あとは、仇討じゃ」
 与力が高手小手に縛りあげた男を、同心ふたりと共に淡路守の前に引っ立ててきた。
「この者は、蝮の権三と申す岡っ引きだ」
 馬からひらりと飛び降りると、淡路守は火消したちを見廻した。
「この男が、すべてを自白をした。心当たりのある者は、まえに出たほうがよいぞ」
 家来が差し出した床几に、ゆったりと腰をおろすと淡路守は微笑した。
「伊達家下屋敷の臥煙頭・生首の松五郎、前へ出ませい!」
 羽織袴姿の与力が、吟味慣れのした渋味にきいた声を張り上げた。
「待った! おれ達は、大名家お抱えの臥煙だぞ。町方与力の取り調べは、筋違いじゃあねえのか」
 松五郎の横に立っている代貸しが、刀を構えたまま声をあげた。
「黙れっ。そのほうら、この十二社権現の境内をなんと心得る。江戸および京、大坂、奈良、長崎ほか天領の神官僧侶の進退はおろか社寺の領地の監察は、すべてここにおられるお寺社奉行の脇坂淡路守さまの御支配である。われら町奉行の与力・同心も、いまはお寺社のお指図で動いておる。筋違いではないぞ」
 声を張り上げた与力を、鞭を握った手で軽く制すると、淡路守は閉じていた目を開けた。
「うむ。その男の申すことも一理ある。しかし、予もそのことを考えて、急使を立て伊達家上屋敷の江戸家老・伊達頼母どのに、このたびのことすべて伝えてある。それに明朝、江戸城殿中において、伊達候にもお知らせいたし、ご諒解ねがう手はずになっておる。心配はいらぬ。調べをすすめよ」
 淡路守の言葉を、片膝を地に突いて聞いていた吟味与力は、軽く頭を下げて立ちあがった。
「は、ありがたき幸せにございます。これ、生首の松五郎、おまえの悪事の数々すべて明るみに出たぞ。臥煙頭として日頃から町火消しを敵視し、消し口を取られたのを不満に思い、手下の臥煙に放火をさせ消し口を取るとは、大名火消しの仕業としてはまさに言語道断の曲事(くせごと)なり。あまつさえ、その火付けを見た三番組の新次を、よってたかってなぶり殺しにするとは、もはや人間の所業とは思えぬ。神妙にするがよい」
「と、とんでもねえ。あっしが火付けをさせたあげく人を殺したなんて、ひどい濡れ衣でございます。お奉行さま、よくお調べになってくだせえ」
 青ざめた顔の松五郎は、慌てて手を横に振った。
「松五郎とやら、そのほうのいう通りだ。もしこれが無実の罪ならば、告発した者も、吟味を指図した予も死罪になるであろう」
 そう言って言葉を切ると、淡路守は松五郎を見て、にこりと笑った。
「よってこの一件は、予の手で理非善悪を裁断せず、天にまかせることにした」
 与力と同心ふたりが、これを聞いて仰天したように顔を見合わせた。
「といわれますと、脇坂さま。いかがなさいますので」
「そうじゃな。せっかく、からめ捕って連れてきてくれたが。まず、その男の縄をほどいてもらおうか」
 淡路守は微笑を浮かべたまま、縛りあげられた蝮の権三を、鞭で指し示した。
「ははっ」
 与力の目くばせで、同心がすぐに縄をほどきはじめる。社寺の支配地での寺社奉行の権限は、巨大なものである。まして奉行自身が出張っての指揮において、その口から発した言葉は、もはや〔法〕そのものと言ってよい。
「だれか、この者に刀を与えよ」
 まさに鶴の一声である。徒士侍のひとりが進み出ると、自分の刀を帯から抜いて同心に渡す。茫然として立ちすくんで蝮の権三の帯に、その同心は淡路守の家臣の刀を差し込んだ。
「それでよい。つぎは、討っ手じゃ。お七という娘を、ここへ案内せい」
 鳴りをひそめて、この場の成り行きを見守っていた町火消したちのほうへ、淡路守は目をやった。
「殿(との)。お七は、ここに控えておりまする」
 徒士頭らしい壮年の武士の声に、飛十郎は振りむいて、思わず目を見張った。
 いつ着替えたのか、古式ゆかしい仇討の白装束に美しく身を包んだお七が、燃えさかる篝火に照らされて、つつましやかに片膝を突いてかしこまっていたからである。
「おう。そのほうが、お七か。苦しゅうない、近こう寄れ」
 淡路守が動くにつれて、陣笠の金裏が篝火の炎に反射して、きらりと光った。
 あらかじめ作法を教わったのか、お七は恐れ入ったように、わずかに膝を進めただけである。
「よい。このような非常の時じゃ。かたぐるしい礼式は抜きにせよ。立って、もそっとこちらへ寄るがよい」
 手招きしながらの、暖かい慈父のような淡路守の声に、お七は思わず立ち上がると、ふらふらと引き寄せられるように前へ進んだ。
「これ」
 徒士頭が、慌てたように声を掛けた。
「よい、よい。鹿島、しかるな。お七、そなたのことは、すべて予の耳に入っておる。この刀で、存分に兄の恨みを晴らして、本懐をとげるがよいぞ。よいな」
 淡路守は、自分の脇差しを抜き取ると、床几から立ち上がってお七に手渡した。
「さてと、あとは助太刀じや」
 飛十郎の前で立ち止まると、淡路守はいかにも楽しげに笑った。
「のう飛十郎、そのほうは江戸でも一、二を争う有名な助太刀人だそうじゃな」
「は。いえ、けっして、そのような……」
 淡路守の穏やかな目に覗き込まれて、飛十郎は途方にくれたように無精髭をこすった。「まあ、よい。この淡路はそう聞いておる。早船飛十郎、そのほうにお七の助太刀を命じる。よいな」
 さすがに、ふところ手はしなかったが、思わず頭に手をやって顔をしかめた飛十郎を、興味深げに眺めていた淡路守は、ついと身寄せると小声でささやいた。
「心配するな、飛十郎。助太刀料は、たっぷりとはずんでつかわす」
 相手は寺社奉行、しかも五万二千石の殿様である。安達屋藤兵衛の約束とは桁が違う。飛十郎の顔が、にんまりとほころんだ。
「殿。この両名の者も、お七の助太刀をしたいと申し出ておりまするが」
 徒士頭の声に、淡路守は振り返った。
「ほう。誰じゃ、その者たちは」
「は。ひとりは、お七の姉分と申したてます深川辰巳の芸者、小吉。あとひとりは、殺害されました新次と同じ町内の二番組小頭をしております小平次と申す者でございます。この両名は、実の兄妹ということでございます」
 徒士頭の言葉に耳をかたむけていた淡路守が、伸び上がるような仕草をして臥煙たちの方を見た。
「そうじゃな。お七の仇は、松五郎と権三それにその一党の、およそ七人か……… 」
 淡路守は、お七に目をやった。
「どうじゃな、お七。助太刀に、この両名を加えたほうがよいか。そのほうの心のままにするがよい」
「はい、できますれば……」
 お七の蚊の鳴くような声に、きっぱりと淡路守は頷ずいた。
「ならば、よし。これにて、討ち人と助太刀人は定まった。鹿島、ぬかりなく手配をせよ」
「ははっ!」
 淡路守の下知に、徒士頭・鹿島甚左衛門は中腰になって御前を引き下っていく。
 それを合図のように、南北両町奉行所から出張ってきた捕り物支度も、ものものしい与力・同心・小者たち、およそ百人余がいっせいに高張り提灯を差し立てた。広い境内の中央、およそ三十間(五十四メ−トル)四方を、仇討場として高張り提灯が取り囲み、四隅に赤々と燃える大篝火が置かれた。
 夜空から時おり吹きおろす風に、篝火の炎は大きく揺れなびき、池の周囲の散り残った桜が、水面にはらはらと零(こぼ)れて浮かんだ。
「今宵の仇討、この脇坂淡路守が検分いたす」
 床几に腰を掛けた淡路守が、愉快そうに見廻した。
「は、はは、あれを見よ。天網恢々疎にして漏らさず、とはよういったものよ。隠すにおのずから顕われるじゃ。これにて、このたびの付け火と、新次殺害の下手人は割れたぞ」 そう言って、淡路守は手に握った鞭の先で、生首の松五郎たちを差し示した。
 伊達六十二万石の上屋敷、中屋敷、下屋敷から押し出して来た臥煙たち三百人は、仇討の事情が知れるにつれ、じりじりと後退して仇討場が設営された頃には、松五郎と権三と賭場の代貸し、それに一味の臥煙の計七人を残して、完全に引き下ってしまった。
「これ。生首の松五郎とは、また恐ろしげな名じゃのう。そのほうの悪事は、すべて調べ上げてある。悪党の首領らしく、きれいに年貢をおさめるがよい。捕まれば、どうせ獄門か火あぶりじゃ。気持よくお七に討たれてやれ」
 楽しげに手の鞭で肩を叩きながら、淡路守は松五郎にむかって、さとすような口調で声を掛けた。
「やい。寺社奉行かなんだかしらねぇが、たかが五万石ぽっちの小大名が、ふざけるな!。こっちにゃ仙台藩伊達家六十二万石がついてるんだ。この松五郎の生首、取れるものなら取ってみろってんだ」
 啖呵を切るなり、伊達家の定紋入りの革の臥煙半纏を、ぱっと脱ぎ捨てると、松五郎は淡路守に背中の彫り物を見せつけた。
「ほう、美女の生首が桜の小枝を口にくわえた図とは、そのほう柄に似合わず粋な絵を背中に描いておるのう。悪党ながら、あっぱれじゃ。よし、その彫り物に免じて、そのほうらに一つの機会を与えてつかわそう。よいか松五郎もしこの仇討に勝ちぬき、お七そのほかの助太刀人をひとり残らず返り討ちにいたしたならば、一命を助け江戸十里四方お構いの罪にいたすが、どうじゃ」
 にこやかに目尻に笑い皺を見せて、松五郎の顔を見た。
「へ? そいつは、いってぇ何のことだ。お奉行」
 話が呑み込めないらしく、松五郎は首をひねった。
「お七と、その助太刀たちを返り討ちにすれば、そちが背負っておる生首の命を助けてやる、といっているのだ」
「つまり、あっしがこれまで重ねた罪を、全部ゆるしてやるってことですかい」
「うむ。その通りだ」
 松五郎は、あっけに取られたように口を開けた。
「殿、恐れながら……。その儀は、なにとぞ」
 また主君の気まぐれが始まったかと、鹿島甚左衛門が渋い顔をして歩み出た。
「かまうな。口をはさむでない、甚左。予は奉行の職務同様、この一件も公平に扱いたいのじゃ。罪を憎んで人を憎まず、という。なによりも、返り討ちをすれば、その身は構いなし、というのは古来からの約束事じゃ。お定め書きにはないが、これも法である。それに松五郎を追いつめすぎては、お聞きになった陸奥守どのが哀れに思われるかもしれぬでな。殿中ではいろいろとむずかしい事があるのじゃ」
 苦笑いを浮かべた淡路守が、思い付いたように顔を上げた。
「飛十郎、そちはどう思う」
「さよう。淡路守さまの、御意(ぎょい)のままでよろしゅうございましょう」
 そう答えた飛十郎は、にやりとして言葉をつづけた。
「大名には大名の、つき合いがあるでしょうからな」
「これは、不思議なことを聞く。飛十郎、そのほうはまるで大名の家に生まれたようなことを、いうではないか」
 淡路守の言葉には答えず、飛十郎は軽く頭を下げると、草履を脱ぎ捨て高々と袴の股立ちを取った。
「野郎どもっ! 脇坂さまの、お言葉を聞いたか。お七とあの助太刀どもを叩っ斬りゃあ、おれ達の罪状はすべて帳消しになるんだ。ありがてえじゃねえか、遠慮なく返り討ちにしてしまえ」
 生首の松五郎の叱咤の声に、それまで生きた心地も無く、蒼白になって立ちすくんでいた臥煙たちの顔に、ぱっと血の色が散った。
「ようし。こうなりゃあ、やけくそだ。一人でも斬って、三途の川の道連れにしてやる」 血眼(ちまなこ)になって逃げ道を捜していた蝮の権三が、ふいに大声を上げると、刀を引き抜いた。つられて残る六人も、いっせいに刀を抜く。
「やい、お七、覚悟しろ! てめえから血祭りにあげてやるぜ」
 何よりも危険なのは、死人(しびと)の剣である。死を決意した人間は、なにを仕出かすかわからぬ。戦国の頃、城攻めをした武将は、必ず一方の退き口をわざと開けておいたと言う。城を守る兵士が、死兵と化すことを恐れたからである。死に物狂いになった人間ほど怖いものはない。どれほど勇猛な戦国武将であろうが、そのことを極度に恐怖した。
 脇坂淡路守が松五郎たちにわざと助命のことをのべたのも、七人を死兵にしないための心得ある武将の策であることを、飛十郎は気付いていた。
「よいか。お七、小吉、小平次。おれが声をかけるまで、けっして離れるな」
 飛十郎は三人にむかって声を掛けると、だらりと手を両手にたらして、軽く身を沈めた居合腰になると動かなくなった。
「うわあっ!」
 臥煙たちの中でも、ひときわ巨大な男が角材を飛十郎にむかって投げつけると、長脇差を振り回しながら、絶叫をあげて突進してきた。
 飛んできた角材を、ふわりと躱(かわ)すと身を沈めて片膝を地に立てた姿で、飛十郎は抜き放った刀の切っ先で、臥煙のひと抱えもありそうな太股を斬り割った。無双直伝英信流・立膝〔横雲〕の技である。立膝とは、戦国武士が鎧を身に着けて座る姿を言う。
「小平次。いまだ、背中を刺せ」
 吹きあげる太股の血潮を、必死になって手で押えている臥煙の大きな背中にむかって、小平次が刀を突っ込んだ。
「ぐわっ」
 心の臓を刺された臥煙は、ひと声あげると、がっくりと動かなくなった。刀を抜き取ろうとするが、収縮した筋肉に挟まれて、片手では容易に抜けない。小平次は口の中で念仏を唱えながら、両手で柄を握り片足を死骸の背中に押し当てると、力まかせに引き抜いた。
「残るは、六人……」
 床几に腰を降ろしたまま、淡路守は小さく呟やいた。
 素早く刀を鞘に納めると、軽く目を閉じて飛十郎は、また塑像のように動かなくなった。両手は、やはり脇にだらりと垂らしたままである。
「行け! やつも鬼じゃねえ、同じ人間だ。三人いっしょに斬りかかりゃ、一人の刃先は身にとどく算術だ。ぶるってんじゃねえぞ。それでも仙台さまの伊達鳶といわれた臥煙か、恥を知れっ!」
 生首の松五郎のわめく声に、腹を決めたように三人の臥煙が歩き出した。ひとりの時と違って、味方に当たる恐れがあるから刀を振り回すわけにはいかない。三人は切っ先を並べて、おなじ速度で飛十郎にむかって進んでいった。
「頭のいう通りだ。三人が同時に斬り込みゃ、あいつもよけられねえ。やっちまおうぜ」 兄貴株の臥煙の声に、勇気づけられたように獰猛な顔を見合わせると、油断のない足取りでじりじりと進みはじめた。
 三人の距離が、六間(約十一メ−トル)まで近づいた時である。飛十郎は目を開けると、にやりと笑って左指で鍔をおさえ三人にむかって早い速度で歩き出した。ぎくりとして、臥煙たちが足を止めた。
 真ん中の男を襲う、と見せた飛十郎は急に向きを変えると、柄を握って右端の臥煙にむかって刀を抜き放った。自分にむかって抜いた刀を見て、その臥煙はぎょっとして二、三歩うしろへ下った。これを見て、残るふたりが、さっと刀を振りかぶった。同時に斬りおろせば、刀は二本とも飛十郎の背中と肩を切り裂くことになる。理屈の上ではそうなるが、これが違った。
 目にも止まらぬ速さで、右側の臥煙にむかって柄頭を抜き突くと、牽制した刀の棟を胸元に当てるようにして左後方へ滑らせると、切っ先を後ろの臥煙の胸にぐさりと突き立てた。その刀を抜きながら頭上に撥ねあげると、正面の臥煙の刀を鎬(しのぎ)で受け止め、その刀を斜めに流しながら、返す刀で臥煙の頭を斬り割ったのだ。無双直伝英信流・奥居合〔連達〕と〔受流し〕の合わせ技であった。説明すると長いが、見ていると一瞬の技前である。
 見守っていた淡路守の目には、どう見ても臥煙ふたりが、ほとんど同時に血しぶきを上げて倒れたとしか思えなかった。刀が打ち合う高い音が、一つ聞えただけである。
 ひとり残った臥煙が唇を白くして、ぶるぶる震えながら絶望的な顔で刀を振りかぶると、飛十郎に斬りかかった。地摺り下段から斬り上げた刀の棟で、相手の刀を軽く撥ねると、飛十郎は手の内で柄を半転させて、臥煙の拳を切り裂いた。
「わっ!」
 音を立てて刀が地面に転がった。右手の指が二本、飛び散った。血が吹きだす拳を抱えるようにして、男はうずくまった。
「お七、小吉、小平次。とどめだ」
 刀を鞘に納めると、飛十郎は何も無かったように、生首の松五郎たちのほうを向いた。「早船の旦那。ちょいと、教えてほしいことがあるんですけどね」
 飛十郎の袴の背板を引っ張りながら、小吉がささやいた。どこで用意したのか、仇討らしく白装束を着込んで脇差しを差している。
「どうした、小吉」
「いえね。とどめってのが、何処にあるのか、わからないんですよ」
「ふふ、そうだろうな。芸者にとどめは必要あるまいからな」
 飛十郎は、風が吹くたびに散っていく桜の花びらに目をやった。
「とどめとは、喉のことだ。小吉、喉を刺して息を断ち、楽にしてやれ」
 怖そうに身を縮めると、小吉はそっと飛十郎の背後から離れていった。
「残るは、三人……。早くも半数以上が仕留められたとは、陸奥守どの自慢の伊達鳶も、とんと形無しじゃのう」
 検分役の淡路守は、床几に腰をすえたまま、小さくつぶやいた。
「それにしても、聞きしにまさる、見事な居合じゃ」
 篝火がはねて大きく鳴ると、火の粉があたりに飛び散った。
「だ、だから頭、あのとき新次を殺すのをやめろって、おれはいったんですぜ。町火消しを殺せば、やっかいなことになるって。いわねえこっちゃねえ」
 代貸しが、恐怖に顔を引き攣らせながら、松五郎にむかって叫んだ。
「うるせえ。まだ骰子の目は、凶と出たわけじゃねえ。ぐだぐだ、ほざくな銀次。相手はあの浪人ひとりだと思え。あとの連中は、刀の振り方も知らねえんだ。怖わがるこたあえねえ」
 不敵な笑みを浮かべると、松五郎は傍にいる蝮の権三を、じろりと睨んだ。
「そうだよな、権三」
「そ、そうだ。銀次、生首の頭のいう通りだ。死にもの狂いになって、おれたち三人が力を合わせりゃ、あの侍野郎をやれねえことはねえ」
「ところが、そうはいかねえんだ。おめえはな」
 いいざま松五郎は、手にしていた刀で、ふいに権三の腹を刺した。
「うわっ。な、なにをしゃがる、生首」
「権三、てめえは本当に蝮だったな。あれほど身うち同然にかわいがって、金も廻してやったのに、あっさり口を割りゃあがって。岡っ引きのくせに、情けねえ野郎だぜ。おかげで、おれたち臥煙が、こんなざまになったんだ! せいぜい苦しむんだな」
 ぐいと刀をひねると、悲鳴をあげて苦しむ権三の躰を、片足を上げてひと蹴りして、代貸しの銀次の顔を見た。
「ざまあみやがれ。裏切り者はこうなると、相場がきまってるんだ。なあ、銀次」
 ぴゅっと音をたてて血振りをすると、刀についた権三の血を払い落し、篝火の燃える炎に刀身をかざしながら、生首の松五郎はにやりと笑った。
「さあ。銀次、いよいよだ。骰の目がどう出ようが、運を天にまかせて、ここは悪党らしく腹をすえるんだ。いいな」
「わかったぜ、頭。どうせ、人間一回は死ぬんだ」
「よくいった。早いか遅いかの違いだけだ。銀次、いまくたばっても思い残しはねえな」「ああ、ねえとも。呑む打つ買うと、やりたいこたあ全部やったぜ」
「は、ははは。酒と博打と女か、そいつはおれも同じだ。銀次、ほかのやつには目もくれるな。やるのは、あの浪人ひとりだ。いくぜっ!」
 大声で笑うと、松五郎と銀次は刀を腹の前に構え、声を上げながら飛十郎めがけて突進していった。


五 名残りの桜

「あっぱれ、お七。見事じゃ、ほめてとらす」
 飛十郎に助けられて、生首の松五郎と銀次にとどめを刺し、血刀をぬぐうことも忘れて茫然と立っているお七に、脇坂淡路守が声をかけた。
「兄の仇が討てて、よかったのう」
「はい……、これも、すべて……」
 胸が込み上げてきたのか、お七はわっと声をあげて泣きはじめた。
「本懐をとげたのじゃ、心ゆくまで泪を流すがよい」
 飛十郎は、ふところから懐紙を取り出して、丹念に刀をぬぐって鞘に納めると、お七の手から脇差しを取り、これも叮嚀に血を拭き取った。
「これへまいれ、飛十郎」
「は」
 淡路守の前に進み出ると、飛十郎は両手を膝に置いて軽く頭を下げる。
「あざやかな助太刀であった。ほめてつかわす」
 床几から立ち上がると淡路守は、すっと飛十郎に身を寄せた。
「楽しみに待つがよい。助太刀料は、明日そこにいる甚左に、海辺大工町の長屋へ届けさせるぞ」
「えっ。脇坂さまは、てまえの長屋を御存じですか」
「あたり前じゃ。予をなんと心得る、寺社奉行であるぞ。この江戸のことで、知らぬことは何ひとつない」
 手にした鞭で肩を叩くと、淡路守は篝火に照らされた、あたりの光景を見廻した。
「さてと……、問題はこの者たちの死骸の始末じゃ。蝮の権三めは町奉行の手に引き渡すとして、あとの六人はどうするかの」
「恐れながら、六名の者は伊達家お抱えの火消しでございます。そこにひかえる臥煙どもに渡すのが一番かと、甚左めは思いまするが」
「それでは面白うない。すこしは飛十郎を見習え、甚左。さっきこの男が申したであろう。大名には大名のつき合いや、駆け引きというものがあるのじゃ。予の日頃の苦労を、なにも知らぬ奴じゃのう」
 地面に倒れ伏している死骸を眺めながら、淡路守はまた一つ肩を鞭で叩いた。
「よし。甚左、この六人は町方役人の手を借りて、予の下屋敷へ運び込め。あとのことは追って指示をいたす」
 鹿島甚左衛門を鞭を振って追い払うと、淡路守は微笑を浮かべて飛十郎を見た。
「すべて伊達候の、お心のままにいたすつもりじゃ。それにしても、明日殿中に置いて予が今宵のことをお知らせした時に、陸奥守どのがどんな顔をなさるか、まこと楽しみじゃのう」
「さようでございますな。弱みを握る手駒は、大切にいたしませぬと……」
 無精髭をひとこすりすると、難かしい顔をして飛十郎は答えた。
「ふ、ふふ。そう申すな。政り事というのは、なかなかに簡単にはゆかぬ。むずかしいものでな。ま、なにごとも世のため、人のためなのじゃ」
「うっかりすると、外様大名に足を引っ張られますか」
「そういうことかな……。飛十郎、あれを見よ」
鞭をあげると淡路守は、十二社権現の池を取り囲んでいる桜の樹を指し示した。
「公務の忙しさにかまけて、今年はろくに桜の花なぞ見ておらぬ。お七の美しさに負けぬ、見事な夜桜じゃのう」
「まことに……。そういえば、この十二社に夜桜稲荷とかいう小社(こやしろ)があるそうですな」
 頭をかいて、とぼけた声で言った飛十郎の顔を、淡路守が横眼でちらりと見た。
「ふむ、そのことじゃ。なんでも、このあたりに、ある大藩の留守居役の別邸があるそうな。その男は、なかなか風流な御人でな。深川八幡の茶店の看板娘を、おのれの手活けの花にしたうえ笠森お仙のむこうを張り、夜桜お七と名付けて金儲けをたくらみおったそうな」
「ほう。それは、初耳ですな」
「馬鹿な男じゃ。下世話に〔散る桜、残る桜も散る桜〕と申すそうな。どのような美しい夜桜も、いずれは一片(ひとひら)残らず散るさだめじゃ。自然は天下万民にもの、私しようと思ってはならぬ」
「御意にございます」
「明朝、その留守居のことも、陸奥守どのに耳うちするつもりじゃ。飛十郎、この話は聞き捨てにせい」
「はは」
「誰か、馬を引けい!」
 淡路守の前に、すぐ馬が連れてこられた。ひらりと鞍にまたがると、淡路守はしみじみとした顔で、池のほとりに爛漫と咲きほこる夜桜を眺めた。
「見よ。水面が半ば花びらで、おおわれている。明晩は、もうこの美しい夜桜はあるまい」
 ぴしり、と鞭が鳴った。
「じつに見事な、仇討と夜桜であった。お七、いつまでも躰をいとえよ。さらばじゃ」
 小走りに馬が動きはじめた。いつの間にあらわれたのか、三十人あまりの供廻りの徒士侍たちが、馬と一諸に走り出す。
「飛十郎、いずれ、またな」
 淡路守の声につられて、思わず飛十郎が手をあげた。  
 火の粉を散らせて、赤々と燃える篝火の中を、貂の投げ鞘がゆっくりと遠去かっていく。
その行列の上に、行く春を惜しむかのように、はらはらと夜桜が散った。

                了 〈助太刀兵法11・柳生天狗抄へつづく〉






このブログへのチップ   101100pts.   [チップとは]

[このブログのチップを見る]
[チップをあげる]

このブログの評価
★★★★★

[このブログの評価を見る]
[この記事を評価する]

◆この記事へのコメント
コメントはありません。

◆コメントを書く

お名前:

URL:

メールアドレス:(このアドレスが直接知られることはありません)

コメント:


くる天
officematsunaga
速報情報は、オリジナル取材ネタも含めてtwitterで無料公開!
twitter

【オフイス・マツナガのブログ】

【CONTACT/連絡先】

カレンダー
<<2011年08月>>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031   
マーケット情報
by 株価チャート「ストチャ」


FX経済指標


会員制システム
会費は月額1000円で、すべての記事、すべての連載、バックナンバーを見ることができます。また、一般には入手困難な資料等をダウンロードできます。
 購読の規約に関しては、くる天 よくある質問を参考ください。


会費の支払い方・課金の仕方

1:くる天へ会員登録する。
2:ポイントを購入する。
3:記事を購入する 。
 という手順となります。
 初めての課金の申し込み方

返金システムに関して

なお、会費を支払い購読されて「これは課金に値しない」と判断された方には、すみやかに返金に応じます。詳細は、返金システムに関してを参考ください。

入稿後は加筆・修正しません

有料会員制度のサイトという性格と、くる天さんのシステムから、有料記事に関しては入稿後の修正、訂正はきかないようになっています。そのため誤字・脱字・錯誤が含まれる場合があります。誤字・脱字・錯誤等の修正に関しては、別途、指摘させていただく場合があります。誤字・脱字・錯誤  修正情報

皆様へのお願い

 申し込まれたアクセスコード、パスワードを他人に教えたり、譲渡する行為は犯罪行為です。すでに、第三者におしえてしまった!という方は、すみやかにパスワードの変更をお願いします。やむなき場合は、しかるべき対応をさせていただきます。
皆様へのお願い  
当サイト連載コラム
週刊日程表

本日のマーケット

今週の永田町

永田町レポート

本日のオフレコ情報

遠藤顧問の歴史だよ

時代小説発掘(無料公開)

カテゴリ
全て (3356)
2014衆議院選挙当落予想 (12)
無料公開記事 (7)
週間日程表 (154)
選挙 (26)
政治 (86)
経済 (6)
社会 (17)
永田町レポート (67)
今週の永田町 (326)
本日のオフレコ情報 (71)
本日の日経225 (29)
本日のマーケット (1654)
特オチ最前線 (75)
瘋癲老人のレイジーな日々 (25)
扱い注意 (38)
ネットでメシウマ!ウェブマーケティングの虚実 (32)
伊藤博一の事件の眼 (23)
鬼デスクの酔いどれ日記 (44)
アダルトサイト運営奮闘記 (3)
遠藤顧問の歴史だよ (30)
業界記者の覆面レポート (2)
真名のケーザイ探検 (27)
ホッピー・モツ焼・闇市の世界 (4)
ネットでビビるな!ネット音痴の業界人へ (14)
今週のマスコミがびびったネットネタ by 野次馬 (10)
アラカルター久里&占い軍団 (46)
コーヒーブレイク・エクササイズ編 (64)
コーヒーブレイク・ボイスエクササイズ編 (12)
医読同源 (1)
永田町奥の院を新人記者「僕」行く (12)
アンコール (2)
「永田町に棲んだ女たち」2 (13)
「永田町に棲んだ女たち」 (15)
ぼやき三毛猫 (49)
白川司郎訴訟関係 (4)
動画で go !!!! (7)
縄文だよ!!!! (4)
【時代小説発掘】 (204)
2009年 衆議院選挙  最新調査データ (26)
衆議院選挙 選挙区レポート (4)
島田が行く!報道現場の盲点 (2)
誤字・脱字・錯誤  修正情報 (6)
見落とすな!ネット情報・リンク先・保存先 (3)
「永田町に棲んだ女たち・特別番外編」 (8)
雑誌販売動向 (7)
最近の記事
12/06 12:26 江戸浅草物語14「月こそ心よ花こそ心よ」 (無料公開)
11/15 15:30 〈助太刀兵法46〉北斎蛸踊り(8) (無料公開)
10/26 08:49 「本日のマーケット」(FX編)・・・今週は日米の金融政策イベントに注意。
10/26 08:40 「本日のマーケット」(株式編)・・・ 続伸後に日経平均株価が1万9000円台を回復。
10/21 08:39 「本日のマーケット」(FX編)・・・ドル円は120円ちょうどの壁を意識。
10/21 08:25 「本日のマーケット」(株式編)・・・手掛かり材料難のなか、方向感の出づらい展開。
10/19 08:33 「本日のマーケット」(FX編)・・・午前11時に発表される中国の一連の経済指標に注目
10/19 08:23 「本日のマーケット」(株式編)・・・午前11時、中国経済の指標しだい。
10/14 08:48 「本日のマーケット」(FX編)・・・昨日に続き中国の経済指標。米9月小売売上高。
10/14 08:31 「本日のマーケット」(株式編)・・・前日の動きが継続し軟調な展開。
10/13 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・ドル円は120円大台を中心に方向感に欠ける動きが当面続きそう
10/13 08:36 「本日のマーケット」(株式編)・・・5日線(前週末9日時点で1万8218円)が下値を支え
10/05 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・東京タイムではドル円やクロス円は押し目買いが優勢
10/05 08:34 「本日のマーケット」(株式編)・・・続伸後、日経平均株価が1万8000円に迫る。
10/04 12:07 江戸浅草物語13「天海僧正の結界が破られる時、魔界の者たちの進撃が始まるのか」 (無料公開)
10/02 08:44 「本日のマーケット」(FX編)・・・米雇用統計を控えた様子見姿勢
10/02 08:35 「本日のマーケット」(株式編)・・・週末要因や米雇用統計を前にポジション調整
10/01 08:47 「本日のマーケット」(FX編)・・・9月日銀短観、9月中国製造業購買担当者景気指数(PMI)などが材料。
10/01 08:35 「本日のマーケット」(株式編)・・・欧米株式の上昇を受けて買いが先行後、もみ合い。
09/30 08:52 「本日のマーケット」(FX編)・・・日中は119円後半のもみあい
09/30 08:44 「本日のマーケット」(株式編)・・・反発後、上値が重い展開。
09/29 08:55 「本日のマーケット」(FX編)・・・株安・円高パターンの継続はドル高圧力を後退
09/29 08:36 「本日のマーケット」(株式編)・・・続落後に落ち着きどころを探る展開。
09/28 08:46 「本日のマーケット」(FX編)・・・東京時間のドル/円は120円半ばを中心にもみあい。
09/28 08:36 「本日のマーケット」(株式編)・・・手掛かり材料難のなか、もみ合い。
09/25 08:53 「本日のマーケット」(FX編)・・・・朝方、イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が年内利上げが適切との見方を
09/25 08:44 「本日のマーケット」(株式編)・・・引き続き弱含みで推移。直近の安値1万7415円61銭を意識。
09/24 08:37 「本日のマーケット」(FX編)・・・・連休明けの東京時間のドル/円は120円前半を中心にもみ合う展開。
09/24 08:26 「本日のマーケット」(株式編)・・・続落スタート。連休中にNYダウが軟調に推移。
09/20 10:55 〈助太刀兵法45〉北斎蛸踊り(7)(無料公開)
オフイス・マツナガのサイト
[現役雑誌記者によるブログ日記!by オフイス・マツナガ]

[オフイス・マツナガ書籍部]

[今週のキーワードbyオフイス・マツナガ]

[オフイス・マツナガのブログWordPress版]

[週刊日程表(アクセス規制有)]

[調査分析報道・資料倉庫]

【公にされない公の資料を公開】

【その他 オフイス・マツナガweb管理人】

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
最近のコメント
風雲 念流剣 七 (無料公開)(鮨廾賚此丙郤圈)
宿志の剣 三 (無料公開)(会話スキル★吉野)
週刊・月間誌 販売動向13年3月6-7日(管理人:kitaoka)
週刊・月間誌 販売動向13年3月6-7日(珈琲好き)
■この国の最大の問題点は「スパイ防止法案」がない点。マスコミだけでなく、政党にも外国勢力が跋扈。(珈琲好き)
イチローストレッチが止まらない!(バーバリー 時計)
■あまりにあっけなく、野田民主党惨敗。あまりにあっけなく、安部自民党大勝利(takeshi.komi)
時代小説発掘 !!!!!告知!!!!!()
〈助太刀兵法21〉 尾道かんざし燈籠 (無料公開)(モンクレール ダウン)
薩摩いろは歌 雌伏編(十一)痛撃(無料公開)  (株式の初心者)
ブログ内検索

RSS
携帯からも見られます!
QRコード対応の携帯で、このコードを読み取ってください。

Copyright (c) 2006 KURUTEN All right reserved