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宝屋の娘 (無料公開)
[【時代小説発掘】]
2012年5月6日 11時32分の記事


【時代小説発掘】
宝屋の娘
篠原 景


(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


【梗概】: 
江戸吉原の妓楼、宝屋の一人娘は、かつて宝屋で自死した花魁に瓜二つの姿に成長して……。

 
【プロフィール】:
篠原 景。
2000年より大学で史学に没頭、時代小説の道へ。敬愛するのは東西のロックの神様。日本文芸学院客員講師。


これまでの篠原 景の作品:
「かまきりと遊女」
「遊女の絵筆」 
「廓の子供 」
「春の床」
「花魁のねずみ」
「土人形」
「幕末吉原の猫」
「化け狐」
「初吉原」
「幕末吉原文化談義」
「人魚の肉と遊女たち」
秋月

「やなぎ屋おかよのウェブ日記(文久二年五月)」
やなぎ屋おかよのウェブ日記(文久二年十一月)



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【時代小説発掘】
宝屋の娘
篠原 景



 江戸吉原江戸町一丁目、宝屋の一人娘、おふみが、かつて宝屋にこの妓ありと言われたほどに名の知れた花魁、松風(まつかぜ)に似ていると囁かれ始めたのは、おふみが十三のときであった。
 最早全盛のときは過ぎていたが、それでも客には困らなかった松風が、何を憂いてか突然首をくくって死んだのは、天保五年、おふみが産まれたのはその翌年の天保六年である。
 おふみが松風の生まれ変わりなのではないかという噂は、奇異を好む廓暮らしの者たちの間に、あっという間に広がっていった。
 いくら松風が名の知れた花魁であっても、十四年前に死んだ女である。妓楼は人の出入りが激しく、宝屋でも松風のことを知るのは、楼主夫婦と遣手のおうめ、それから風呂番を務める吾平(ごへい)くらいのものであった。
 遊女を厳しくしつけ、管理することを責務とするおうめが、つまらぬ噂を立てるはずがなく、吾平は年は四十だが、見かけはそれよりも爺むさく、とにかく無口で人づきあいの悪い男で、必要以外のことはまったく口にしない。
 噂の出所は、軒を並べる同業者たちであろうことは容易に想像がつき、楼主夫婦は、忌ま忌まし思いを腹のなかに抱え続けねばならなかった。
 だが一方で、得体の知れない不安も抱えていた。
 それほどまでに可愛い一人娘は、松風そっくりの風貌をしていた。

 おふみに最初に松風のことを耳打ちしてくれたのは、互いの家を行き来するほどに仲の良い、おきわという娘だった。
 おきわは同じ吉原の妓楼の娘で、兄が一人いるので、おくみのように跡取りというわけではない。しかし、女たちを売り物として扱う家、「真っ当な」世間様には眉をひそめられ、それでも金だけはうなるほどにある家で、お嬢様として何不自由なく育てられる身の些細な心の機微は、お互い分かり過ぎるほどに分かり合う仲であった。一つ屋根の下に暮らす遊女たちへの憤懣、子供の頃から垣間見せられ続けた〈男女のこと〉、周囲に隠れて、何でも話し合った。
「おふみちゃんはね、その松風花魁の生まれ変わりだって、皆噂してるよ」
 おきわに教えられて、おふみはようやく自分の周りで声をひそめてさかんに囁かれる名が、一体何を意味するのかを知った。
「そんなことってあるのかしら」
「おふみちゃんはどう見たって、宝屋のお嬢さんにしか見えないのにね。張見世につんとすまして座るのは似合わないよ」
「でも、皆がびっくりするくらい、そっくりなんだよねえ?」
「……人は生まれ変わるとき、見た目もそのまんまに生まれ変わるものなのかしら……? おふみちゃんは別嬪だからいいけれど、あたしは来世も、そのまた来世もこの顔なの? 嫌だよう」
「何言ってるの。おきわちゃんは可愛いよ。皆、可愛いって言ってるよ」
「ふふ、ありがとう」
 元々、おふみの両親のような憂いがあったわけでもない。二人で顔を見合わせて笑いあった。
 この年頃の娘たちには、そうでなくても不思議なこと、考えねばならないことが山程あるのだ。
 だが翌年、おきわは、病を得て向島の寮で療養することになった母親の話し相手として、吉原を離れてしまい、おふみともなかなか会うことがかなわなくなった。
 急に一人ぼっちになったおふみは、いつしか噂のみを聞く松風という名の花魁に、声には出さず話しかける癖がついていた。
 よくよく考えれば、おふみは松風の生まれ変わりと言われているのであり、松風がおふみになったのならば、最早松風はどこにもいないはずなのである。
 だがおふみは、一人でいてさみしいような気持ちになるたびに、心のなかで松風に話しかけ、次第に、松風の応える声が、うっすらと聞こえるような気がするようにまでなっていた。
 そうして今年十七になったおふみは、今日も、心の中で松風に話しかけている。

 ――ねえ、松風さん。あたし、そろそろ婿(むこ)を取らなきゃいけないみたい。
 自分の部屋に一人でいて、溜息まじりに見上げる空は、桜も散り終わった、気怠い色をしている。
 ――そりゃア、おふみちゃんは宝屋のお嬢様だもんねえ。
 応える声は、おふみに似ているが、少し臈たけた柔らかな声だ。
 ――婿になる人は、宝屋の主人になりたくて、あたしと祝言をあげるのかしら。少しでもあたしのことをいいと思って、祝言をあげるのかしら。どうせ、芝居小屋かなんかで、偶然会ったみたいにお互いの顔を見て、後はとんとん拍子なんだろうけど、きっとあたしは、一緒に杯事(さかずきごと)をする段になっても、その後、めでたくお床入りになっても、相手の気持ちなんか分からないまんまなんだろうなあ……。
 ――ふふ、おふみちゃんも年頃の娘だねえ。でもまあ、さすがに、宝屋の屋根の下で繰り返されている惚れた腫れたとはア、だいぶ違った有り様(さま)なんだろうね。
 ――ねえ、あたしもお婿さんと一つ床に入ったら、皆みたいに振る舞わなきゃいけないの? 恥ずかしいよ。でもああすると男の人は喜ぶんだよね。それとも、おぼこっぽさがない、これだから妓楼の娘はって、嫌われちまう?
 ――あれあれ、悩みがいっぱいだ。
 松風の声は、心配している調子にしてはいるが、僅かに笑いが含まれていて、おふみは少しむくれる。
 ――ふんだ、笑ってればいいよ。その時になったら、何がなんでも相手の人を、あたしの虜にするんだから。
 ――あい、楽しみにしておりんしょう。
 ――本当だよ。これでもあたしは吉原生まれの吉原育ちサ。
 おふみが一層むくれたとき、母親がおふみを呼ぶ声がする。飯にしようと言うのだ。
 妓楼は飯の時間も、普通の町屋とは違う。遊女たちは、明け方に客を送り出した後、朝寝をして、昼近くなってから起き出し、遅い朝食をとる。そして夜見世が始まる前に、夕飯をとる。
 ただ、これだけで満足出来るはずはなく、夜には客の相手の合間に夜食を掻き込むし、飯も、見世で用意するものはあまりに粗末なので、客の食べ残しを取っておいて温めたり、買い食いをしたりする。上級の遊女ならば、毎日出前を頼む。
 だが一応、妓楼の食事は二回となっている。
 宝屋では、楼主の家族も、食事内容は比べ物にならぬほど豪華であるが、同じ時間に飯を食べているので、今がちょうど朝飯の時間だ。
 とは言え、遊女たちと同じ時間に起きるようでは、稽古事にも通えなくなるおふみは、朝早くに起きて、一人簡単な飯をとる習慣が出来ているので、今日二度目の飯である。両親もおふみとは別に、その時々で軽く何かを腹に入れていることが多い。
 両親の部屋に行くと、膳は既に整えられており、今日の朝飯は白身魚のすり身の煮物に豆腐の汁、それから海苔であった。
 膳の前に座ったおふみは、つい、一人で飯を食べるときの癖が出てしまい、煮物のすり身や大根を箸で四つに砕いていた。一通りその作業が終わった後、細かくした具材を飯の上に乗せ、飯粒と一緒に口に運び、飯碗を半分ほど空けた後、海苔も軽くちぎって飯に混ぜ込んだ。汁は最後にとっておく。
 当然、行儀の悪い食べ方であり、一人で飯を食べるときだけの密かな楽しみであったのを、つい、親の目の前でやってしまったのだ。
 我に返って両親を見ると、両親は完全に手をとめてこちらを見ていた。こちらを見てはいるが、目はどこか虚空を見ている。
 その表情を見ておふみは理解した。松風も、同じようにして行儀悪く飯を食べる癖があったに違いなかった。

「これぞ御仏のお導きだよ」
「まずはお会いする手はずをつけませんと……」
 宝屋に楼主夫婦の歓声が上がったのは、おふみが一人の楽しみとしていた飯の食べ方を、うっかり両親の前で披露してから十日ほどのことだった。
「おふみも最初は驚くかもしれないが、会えばきっと、とんとん拍子だ」
「年もまだ三十八」
「始めは世間もいろいろ言おうが、なに、逆手にとって評判とすれば良いだけのこと。その手のことは得意の稼業だ」
「これで宝屋も安泰」
 まるで熱に浮かされたかのような二人の声は、すっかりうわずってしまっている。
 松風には、情人(いろ)と言われていた男がいた。名を道之助(みちのすけ)、呉服問屋井筒屋の跡取りで、父親と共に宝屋に通って来ていた。
 父親の方はいかにも羽振りの良い商人という感じで、物腰は柔らかであるが、どこか他人(ひと)を威圧するような雰囲気も持ちあわせていたのだが、打って変わって息子の方は、至極おっとりとして、周囲を和ませる男であった。松風も、道之助を前にしたときだけは、表情が穏やかで明るくなると、見世の者たちはもっぱら噂しあっていた。
 しかし道之助は、ある日突然、吉原に来ることがかなわなくなった。井筒屋が金詰まりで店をたたむこととなったのだ。
 道之助や父親のせいではない。
 京にある本家の井筒屋が、無茶な商いをしてしくじった挙句、そのしくじりを取り戻そうと、家土地の売り買いにまで手を出し、その資金繰りに江戸店を巻き込んだのだ。
 松風が首をくくる一年前のことで、見世の者たちは皆、順当に行けば身請けも夢ではなかったのに、と噂しあった。
 ただ、それが松風の死に、どれだけ関連するものであったかは定かでない。
 そもそも遊女たちは、体を病み、あるいは心を病み、死を選ぶ者があまりに多い。病んで床についたところで、先々それなりの稼ぎが見込める遊女でなければ、ろくな看病もなされず、干し殺しにされるのが常の身の上である。
 死を選んだというより、選ばされたに近い場合も多かった。
 ゆえに松風ほどの評判の花魁でも、死を選ぶ理由がまったくないほどに幸福な暮らしをしているはずはなく、松風の死の理由は定かではなかったが、謎でもなかった。
 事実、松風が亡くなる前の一年間に、おうめの前に遣手を務めていた女は、何度か松風を折檻しているし、当時まだ若かったおふみの父が手を下したこともあった。
 負い目はないが、恨まれる覚えは数えきれぬほどあったのだろう。
 おふみは知らなかったが、十七となり、声や表情まで松風生き写しとなったおふみの、特徴ある飯の食べ方を目の当たりにして、親たちはいよいよ「親の因果が子に報い……」を確信したらしい。額を突き合わせて話し合った結果、遣手のおうめが探し出してきた行者と巫女の二人組を密かに宝屋へと招き、託宣を求めた。
 何かが乗り移ったらしい巫女の託宣は、おふみを、この世に未練を残した松風の生まれ変わりと断じ、必要なのは祈祷と、松風が心を残した男とおふみを添わせることだと続けた。それを行わなければ、おふみは次第に禍いを生み出す渦となり、宝屋の者は順に呪われていくのだと言う。
 怪しげな香の煙をかがされ、脅かされ、宥めすかされ、すっかりその気になった両親は、何も聞かされていなかったおふみを、行者の読経のなか、盛大に焚いた香の煙でいぶした。
 残すは松風が心を残した男を探すことで、それはきっと道之助であろうということになり、早速、人と金を使って道之助の行方を探しにかかった。
 すると道之助は、あちらこちらを転々とした挙句、今は筆屋の主(あるじ)となっていた。奉公人が一人きりの小さな店で、一度女房をもらったが、五年前に病で亡くなり子はいない。
 道之助が、一応は主と呼ばれる身分であったこと、係累を持たぬ身の上となっていたことは、楼主夫婦を「御仏のお導き」と舞い上がらせた。
「年が離れていることは止むを得ないとして、その他のことは宝屋の婿として申し分ありません」
「親子ほど年の離れた夫婦(めおと)など、世間では珍しくもない。それよりも、事の顛末が顛末だけに、仲睦まじく暮らせば暮らすほど、世間に名高い夫婦になるよ」
「そうなりましょう」
「ああ、でもまずは会いに行って、今の暮らしぶりを確かめないと。あまり荒んでいるようなら」
「改めていただきませんとね」
 しかし、親たちが案じていたようなことはなく、二人が直々に出向いて道之助に会い、今、宝屋に起きていることを告げると、道之助はすぐにでもおふみに会いたいと返答した。
 おふみと道之助の対面がなされたのは、浅草にある料理茶屋であった。
 両親に連れられて部屋に入ってきたおふみを見た瞬間、道之助は大きく目を見開き、「まつ」と小さく口を動かした。だがすぐに居住まいを正し、
「井筒屋と申します筆屋を営んでおります。道之助でございます」
と深々と頭を下げた。
 年よりは少し若く見え、ほっそりとした面立ち、体つきで、落ち着いた声で話す道之助は、確かに、穏やかな人となりの男だと、親から聞かされていた通りのようでもあったが、おふみをじっと見る目だけは、異様な光をたたえ、おふみを縮こまらせた。
 男が自分に対して、思い詰めているのだと分かる。そして、妓楼の娘ならばどうしても思い至るのは、おふみが松風に何もかも生き写しなのであれば、目の前の男は、おふみに等しい体を幾度も抱き、知り尽くしているのだろう、ということであった。
 急に、男の目で、着ている物をはがれる感覚を覚えたおふみは、部屋から逃げ出したい衝動にかられたが、懸命にこらえて俯き、下唇を噛んだ。
 長い沈黙の後、前方で、道之助が徐々に咽び泣く声が聞こえる。何故か、母親までつられてすすり泣きをしている。
 心の中で懸命に松風に話しかけるが、道之助の一件が持ち上がって以降、一度もおふみの問いかけに応えてくれない松風は、今日も黙ったままだった。

 朝から沸かし続けた風呂の湯を、昼見世が始まる頃に落とし、風呂場の掃除を終えると、風呂番の仕事は仕舞いとなる。よって風呂番は昼から夜にかけて、別の仕事を手伝って過ごすことになる。
 昼見世の最中(さなか)、今日は庭木の手入れを言いつけられた吾平のすぐ横で、おふみはどこからか迷いこんできた猫を撫でていた。
 ほととぎすの声の後、夏の気配をはらみ始めた風が、おふみの頬のほつれ毛と、猫のひげを撫でていく。
「……ねえ、吾平……吾平?」
「……へえ」
「吾平は、松風花魁を知っているんだよねえ」
「……へえ」
 猫を撫でながらのおふみの問いかけに、吾平は手を止めずに応える。見世のお嬢さんにも、口の重い、無愛想な男であった。
「……松風花魁は、大層素敵な花魁だった?」
「……へえ」
「……あたしが……あたしが……」
 言いよどんだが、おふみは猫を抱き上げて、喉元につかえていた言葉を吐き出した。
「あたしが道之助さんと夫婦(めおと)になったら、花魁の望みはかなって、供養になるの? 本当に?」
 吾平の手が止まった。一度こちらを見た後、俯いている。言葉を選んでいるようだった。
「……松風が……松風がお嬢さんなら……お嬢さんの好きになさるがいいです。松風とお嬢さんが関係ないなら、……やっぱりお嬢さんの好きなように……。……女は、玄人だって、素人だって……いや、男も女も……突きつめりゃア、願いはたった一つで……その、好きなように……」
 しどろもどろの吾平を、おふみはじっと見上げていた。身をよじった猫が、おふみの腕をすり抜ける。
「……吾平は、好きに生きてるの?」
「いえ、その、あっしは……」
「吾平は松風花魁が好きだった?」
「お嬢さん、その、滅相もねえ……」
「それとも別に好きな人がいたの?」
「だから……その……」
 次第に顔を赤らめていく吾平を見て、おふみは満面の笑顔になった。今まで思いもしなかった感覚が体に満ちてくる。
 大きく息を吸い込んだ。吸い込んだ息が、体に溶けていく。
「……ねえ、吾平。吾平は松風花魁が好きで、松風花魁もおんなじだった。でも二人は密かに思いあうだけで、気持ちを伝えあうこともない仲だった。そういうことにしておこうよ」
「……お、お嬢さん?」
「年のことは心配いらないよ。吾平と道之助さんはたったの二つ違いだ。あたしから見りゃア、どっちもおじさんだ」
「な……何を仰って……」
「あたしのこと、嫌い? 別に奉公人をからかってるわけじゃアないからね」
 勝ち気な口調で言って立ち上がったおふみは、胸をそらして見せる。
 風が、おふみの頬のほつれ毛を揺らす。吾平の髷のそこかしこのほつれ毛を、揺らす。「まっ、そういうことサ。あたしは松風花魁の生まれ変わりなんだよ。松風花魁の願いだと言えば、おとっつあんも、おっかさんも、異論はないよ。逆らえば祟りだ」
 歩き出したおふみは知らなかった。吾平が松風の名を口にするとき、その声に、心を許しあった者同士特有の柔らかさがあったことを。自分の口から出まかせが、実は真実であったことを。
 けれども、知ったところでおふみの気持ちは変わらなかった。
 松風の生き写しと言われて五年、自分が松風の生まれ変わりでも、本当は違っても、これと言って抵抗はない。もう、どっちでもいい。
 ただ、夫にする男は、あやふやな今の自分を、そのまんまに見てくれた吾平のような男が良かった。
「……よし」
 呟くと、みるみる心に力が沸いてくる。突然に、こうと決めた年頃の娘は、恐ろしく強い。どこまででも走っていける気がする。
 だが、行くあてもなく表の通りに出たところで、急に、吾平との〈男女のこと〉に思いが至った。
 吾平は自分が、うぶな娘らしく振る舞うのが好きだろうか、それとも、一つ屋根の下の女たちのように振る舞うのが好きなんだろうか、と思った途端、喉元を締められたような、胸を押さえつけられたような心地になって、顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。 ――あれあれ、おふみちゃん。年頃の娘だねえ。
 と、おふみをからかう松風の明るい声が、久しぶりに聞こえた。

 こうして宝屋の娘、おふみは、年頃になって、普通に男に思いを寄せ、その男と普通の夫婦(めおと)となった。
 度を超して無口で無愛想な中年男に、これからの見世を任せられるはずもなく、散々頭を悩ませた楼主夫婦は、親類から養子をとり、その養子にゆくゆくは嫁をとって、見世を継がせることにした。
 宝屋から離れたおふみと吾平は、吾平が八十で長生きの大往生を遂げるまで、仲睦まじく暮らした。

                              了






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