TBS『NEWS23』の仏学者トッド氏へのインタビューは秀逸? | |
[日本の政治] | |
2016年2月4日 23時46分の記事 | |
2月1日、TBS『NEWS23』で放送されたフランス人歴史人口学者 エマニュエル・トッド氏のインタビューは大変に秀逸でした。非常に示唆に富む内容には、現状の日本や世界を考える上で、いくつかの非常に重要なポイントがありました。 「世界と日本はどうなる? 仏学者E・トッドの“予言”」(2016年2月1日 TBS) 「TBS『NEWS23』の仏学者トッド氏へのインタビューは秀逸?」(2016年2月6日)
フランス人歴史人口学者 エマニュエル・トッド氏は、これまでソビエトの崩壊、米国の衰退、そして中東の混乱の徴候などを歴史人口学の観点から分析して、予測し、的確に指摘してきたと番組では紹介されています。この歴史人口学の観点は、これまで本ブログで指摘している「社会基盤」の動態に注目し、考えていくものです。 社会というのは人の集まりです。その人の集まりは、一部のエリートや階層だけで成り立っているわけではありません。むしろ、そのような階層以外の人々の動向によって社会は大きく左右されます。人が生まれ、育ち、また人を生み、育てると連綿と繋がっていく生命の営みの中に、経済も企業も存在しています。企業の寿命は30年と言われていますが、人間社会の営みはそれより遙かに長いものです。その人間社会の営みの中から企業が生まれ、新しいものが創出されて行くわけですから、社会にとってどちらが基本かは考えなくてもわかるような明白な話です。 しかし、実際にはそうではなく、今の政権の政治は、企業を社会基盤よりも重視しています。財界も同じです。経済に関しては、小手先の議論だけで、生命の営みとしての人間の社会の中では、一瞬のまばたきほどのことを、さもすべてのように話しています。社会にいる多くの人々もそう考えています。これは思考が時間に埋没している結果と考えますが、この間違いの傾向が強まれば強まるほど、実は元となるこの社会基盤が崩れていきます。どこに本質があるかがわかっていないので、別のところとに力を入れますし、むしろ社会基盤を崩して近視眼的な利益を得ようとする発想があります。それでは、当然、社会は崩れていきます。歴史上、社会が崩壊するときは必ずこのような錯誤が生じています。 企業が儲からなければ人々の生活は成り立たないというのは、もっともらしく見えますが、実は極めて近視眼的な発想です。この話の実相は、企業が儲からなければ人々の生活は成り立たないと言って、企業を重視した結果、社会基盤が崩れ、その当然の帰結として企業が儲からない構造を作り上げているのです。本当にすべきは、社会基盤を作り上げることに投資し、そのことに資源をさいて行かなくてはなりませんし、まず分配をはじめるなどそのための政策を行わなくてはなりません。企業などはその基盤の上で活動ができるのですから、本当は財界もこのような動きを働きかけないといけないはずです。昔の財界の人々はこのことをわかっていたと思います。 今や海外のビジネススクールで習ったことを、何も考えず行い、さらにそれを政治に当てはめるようなとんでもない錯誤を起こしてしまっているので、経済も社会も行き詰まり、崩壊していきます。生命の営みの中で経済活動が生じるのであるのに、その生命の営みを経済や企業活動で割り切ろうとするところに、まったく底が浅く、一方で極めて傲慢であり、その本質は生命をないがしろにする大変に危険な発想があると考えます。本末転倒も良いところです。 このようなことをこの20年、これまでずっとずっとつづけて来ているわけで、それでは当然、社会基盤は崩れ、経済は縮小し、社会からは新しいものが生まれなくなっていきます。現状の政策は、この錯誤の傾向が非常に強いと考えますし、30年先、50年先、100年先を見ているものとは到底考えられません。国家百年の大計がない政治は、まさに現状のように社会の基盤が崩れ、上部だけがなんとなく良いように見えるという現象に当然なります。それは将来性がない政治とも言えますが、このようなものは遅かれ早かれ行き詰まり、崩壊することは必定です。 この構造は、一部のエリートや階層だけで成り立つと考える発想も同様な結果をもたらします。 このような意味でトッド氏の視点を番組で紹介しただけで、非常に有意義なことであったと考えます。まさに今の日本に非常に必要な視点です。 テロ、中東問題 トッド氏は、インタビューの中で、昨年のシャルリエブド紙のイスラム教に対する風刺画とテロ事件によって生じたフランスでのデモには嘘があると述べています。デモでは表現の自由を守るとうたわれましたが、実際にフランスでの表現の自由は脅かされていないとトッド氏は述べています。それは、シャルリエブドはそもそも質の悪い非常に小さな新聞社で、その内容はイスラム嫌いの風刺画に特化したものであり、その新聞社がイスラム教徒はフランスでは社会的少数派で弱者であることがわかっていながら、あのような風刺をすることが表現の自由の権利かと疑問を呈しています。もちろん、テロは間違っていると考えますし、表現の自由は大切ですが、私もトッド氏の意見に同感です。 昨年1月、ローマ法王フランシスコも同じ趣旨のことを述べており、他者の信仰を侮辱してはならない、表現の自由にも限度があるということを述べています。まさにその通りでしょう。 トッド氏は、あのデモにはイスラム嫌いの側面があると述べているわけですが、シャルリエブドが風刺画を出したことは、そもそも挑発であり、その後にこの挑発に対してテロがあり、このようなデモになっていくわけです。そして、この一連の流れは各国の中東政策へ大きな影響を与えていくわけですが、そこには、このような思想的底流があるわけです。日本もその流れにそって政府は当時、動いていたわけですが、世界においてこのとき、非常に危険な状態が中東や欧州に関してあったわけです。現状、昨年のうちに流れが変わり、今のところ大事には至っていません。したがって、当時、日本の現政権が行った中東での政策は必然的に現状、全く意味をなしていません。昨年この時期の日本政府による中東政策の本質を国会で明らかにすべきでしょう。 非常にトッド氏の分析は良いものと考えます。 「TBS『NEWS23』の仏学者トッド氏へのインタビューは秀逸?」(2016年2月6日)へつづく | |
このブログへのチップ 0pts. [チップとは] [このブログのチップを見る] [チップをあげる] |
このブログの評価 ★★★★★ [このブログの評価を見る] [この記事を評価する] |
◆この記事へのコメント | |
コメントはありません。 | |
◆この記事へのトラックバック | |
トラックバックはありません。 トラックバックURL https://kuruten.jp/blog/tb/katagiri/346119 |