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第一部 7話 【カレらはどこへ行くのか?】
[ハラベエさんの犬星☆猫星(第一部)]
2009年12月1日 15時52分の記事

ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 
第一部 7話 【カレらはどこへ行くのか?】
更新しました♪



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ハラベエさんの犬星☆猫星の第一部〜三部の
リンクを作りました。
使ってくださいね(*´∀`*)ノ♪

☆【第0部】【1P

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☆【第二部】【1P】【2P】【3P】【4P】【5P】【6P】【7P】【8P】【9P】【10P】【11P】【12P】【13P

☆【第三部】
1P】【2P】【3P】【4P】【5P】【6P】【7P】【8P





【お断り】都合により、前章までに登場していた、
     大事な子達三人の名前を変更させていただきます。
     父が「BOW」、
     母は「LOVES」、
     息子は「BEE」です。
     名前が変っても、三人への念いは変わりません。
     ご判読、宜しくお願いします。


ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 


第一部 7話 【カレらはどこへ行くのか?】 

「BEE!」
 ハラベエさんの頬はしとど涙に濡れ、声にならぬ声で叫びました。
 それでもあたりを支配する静寂をかき乱す、たぶんルール違反の声だったでしょう。
その声に応えるかのように、BEEはハラベエさん目指して飛び出そうとしました。
ハラベエさんも足を踏み出し、手を差し伸べて待ちました。
しかし、BEEはルールを守ろうとしてるのでしょうか、前足を踏ん張り隊列から出ようとはしませんでした。
「BEE!……おいで!」
 BEEは動きません。
 でも、その目はしっかりとハラベエさんの顔を捉えています。
そんなBEEに向かって駆け寄ろうとした時でした。
制止するかのようにショウちゃんの吠える声が響きました。
ハラベエさんの足が止まります。
引き続き、クーちゃんのカレの低いうなり声。
その声にうながされるように、ハラベエさんの足が自然に動きます。
犬類と猫類の集団を二分している直線の中央に、背中合わせに立っているショウちゃんと、クーちゃんのカレとの間にいざなわれて行きました。
ショウちゃんが天を仰いで吠え、同時にクーちゃんのカレが、鋭い唸り声でこれに和します。
すると、ドーム全体の空気がBEEリッと震えました。
そして、二つの大集団に動きが……。
それは一種の閲兵式でした。
あたかも「カシラーナカアーッ!」(頭ぁ中)と号令をかけられた兵士のようでした。
犬類はショウちゃんに、猫類はクーちゃんのカレに、、全員が注目して整然と行進を始めたのです。
それは死者の行進でした。
命を失ったカレらは、生きている二人の指揮のもと、死の世界に送られていくのでしょうか……。
では、その行く先こそ「彼らはどこへ行くのか」の……どこ……ではないのか。
この死の行進の目的地は?
突然、死の行進という言葉が、ハラベエさんをはるか昔、終戦前後を過ごした幼年時代に引き戻しました。

ハラベエさの思いは、しばしセピア色の世界に……。
バターン死の行進という、フィリッピンで旧日本軍が犯した残虐行為もあった……。
戦争末期、学徒出陣に駆り出され、学生服の上に襷(たすき)をかけた学生の、神宮外苑での行進。
彼らは生きて戦い抜くというより、既に敗色濃厚、勝つ見込みのない戦場に捨石として送られるために行進……死の行進をしていたのでした。
幸い命永らえて、復学した数少ない学生の中には、後に俳優となり、駆け出しのハラベエさんが指導を受けた先輩もいました。
しかし、惜しむらくは大半が、学業半ばにして戦場の塵(ちり)と消え、帰らぬ人となってしまったのです。
中学生だったハラベエさんの兄は、連日行軍を繰り返していました。
華奢(きゃしゃ)な体に大きな背嚢(はいのう)を背負わされ、軍靴の中はマメガ破れて血だらけ……ただ歩くだけで、それがどう戦いの勝利に結びつくのか、疑問を抱くことはなかったのでしょうか。
少年たちは、自らを鼓舞するように、あらん限りの声を張り上げて歌い……行進していました。

♪【あゝ紅の血は燃ゆる】 

「花もつぼみの 若桜
 今こそ銃を とり持ちて 
 国の大事に 殉ずるは
 我ら学徒の 面目ぞ
 ああ紅(くれない)の 血が燃ゆる」

※歌が聞きたい方はこちら→【YOUTUBE】


学徒動員で、続々と軍需工場に徴用され、山一つ越えたところにある造船所に徒歩で向かった上級生たちのグループは、翌日襲来したグラマンの機銃掃射の餌食(えじき)になり、多数の犠牲者を出しました。
まさに、国の大事に殉じた、死への行進でした。
兄たちは補充としてその造船所に送られましたが、船の上での作業中頻繁(ひんぱん)にグラマンに襲われ、そのたびに海に飛び込んで機銃弾から逃れたこと。
海面に突き刺さった機銃弾が、たちまち勢いを失ってゆらゆら海底に沈んでいく様子を、海中に身を潜めて見ていたとのこと。
母と共に造船所へ慰問に訪れたハラベエ少年に、死と隣り合わせの日々をこともなげに話してくれたものです。
そんな兄を畏敬のまなざしで見ていました。
いずれ自分たちも経験することだと思っていましたが、それは決して恐怖を伴うものではなく、武者震いするような昂揚感がありました。
戦時教育一色に染められていた少年時代だったのです。

ふと気がつくと、BEEは、ハラベエさんをヒタと見つめたまま、通り過ぎようとしています。
「BEEッ!」
と、矢も盾もたまらず、突進しました。
 だが、ハラベエさんの両手は空をつかみます。
 あの持ち重りのするBEEの体を、この手で抱きしめたいという期待は叶いませんでした。
姿は目の前にあるのですが、実体がないのです。
二度三度繰り返すうちに、あたりにひしめき合っているカレらの集団も、実体のない幻と知りました。
その場に立ち尽くすハラベエさんの前を、幻の隊列が通り過ぎて行きます。
ハラベエさんがこよなく愛する子たちの姿は、大集団の中に包み込まれ、やがて全体の動きが止まりました。
ショウちゃんと、クーちゃんのカレの鋭い声が響きます。
すると、どこかから沸いてきた黒い霧が渦を巻き始めたのです。
竜巻のように見えます。
何本かの竜巻の根元の細い部分が、集団のそこここで一気に吸い上げるようで、その一角からカレたちの姿が消えて行きます。
やがて、ショウちゃんとクーちゃんのカレを残して、一人残らず吸い上げられたようです。
大集団を吸い上げた竜巻はすべてが合体し、ドーム内で一つにまとまり、黒い大きな塊になりました。
その塊の中心から細い触手のようなものが現れ、上に伸びて行きます。
触手の先端から、一条の光線が放たれ、ドームの天井に十字を描きました。
すると、天井に十文字の亀裂が走り、四つの三角形が外に向かって開いて、黒い方形の空間が形づくられました。
空間は黒い漆を塗りこめたような闇です。
黒い霧の大きな塊がゆっくり廻り始めました。
次第に回転の速度が上がり、触手は、黒い方形の空間へと伸びて行きます。
すると、黒い空間に、今は都会の空では光を失っている無数の星が美しく瞬き始めました。
その星の光が満月にさえぎられました。
いや、満月ではありません……自ら光を発する球体です。
球体は、ハラベエさんには表現することもできないような、異質な光を発しながら徐々に接近し、方形の空間に蓋をするかのように、覆いかぶさりました。
UFOだ。
宇宙ものの映画やテレビドラマが好きなハラベエさん、BEEたちとの別離の悲しみはおいといて、しばしは食い入るように見つめます。
球体が静止すると、円筒状の光の壁が降りてきました。
型どおりの展開です。
その光の輪を通って現れる宇宙人。
…………?
現れません。
逆に、黒い霧の塊が吸い込まれて行ったのです。
つきたてのお餅を、細く伸ばして切らずに啜り、一気に呑みこむ……ハラベエさんは、いつか見たことのあるそんな正月風景を連想しました。
あっという間に、大きな塊はやせ細ってすべて球体に吸収され、光の輪も消えました。
球体は急速に上昇すると、満月を横切って星空のかなたへ消え、ハラベエさんは空き地の踏み分け道に立って、首が痛くなるほど空を見上げていました。
何かが傍で動く気配に、首筋をもみながら見ると、ショウちゃんとクーちゃんのカレが、ハラベエさんを見上げています。
 目が合うと、ショウちゃんは尻尾を振って駆け出し、クーちゃんの彼は、無関心を装ってうっそりと去って行きました。
 先ほど、行進を仕切っていたときの、威風堂々としたショウちゃん、敏捷に走り回っていたクーちゃんのカレとは思えませんでした。
 しかしカレらに、ハラベエさんを、ついさきほどくりひろげられた、宇宙の壮大なショウに招待する力があったのは、疑う余地がありません。
 愛する子たちと最後の別れをさせてくれたカレらです。
「ありがとう」
感謝の言葉を口にすると、BEEたちが去った空を見上げました。
 はるかかなたの空から、もう戻ってくることはないでしょう。
 トコちゃんのおばあちゃんは、必ず戻ってくると 云ってたけど、あれは……いつまでも一緒にいたい、いやきっと一緒にいてくれる……という思い込みから描かれた……妄想なのでしょう。
 しかし、さっきの出来事は何なのだ。
 もし他人に話したら、ハラベエさんの妄想と云われるだけでしょう。
 危ないあぶない、ボケがまた進んだと云われるところだった。
 などと考える、この時点ではまだ冷静なハラベエさんでした。
 
「ラーメン、行こ」
 いつの間にか近付いてきていた自転車の人物の声です。
「BEEに遇うたん?」
「え?……」
「BEE、BEE……云うてたやんか」
「そうか」
「遇うときは私にも云うてな……一人だけで遇うやなんてずるいわ」
「ずるい?」
「そうや、独り占めしてるやん……死んだペットに遇えるやなんて、ラッキーや……お願いやでえ」
 と云うなり、もう走り出しました。
「死んだペットになんか遇えるはずがないやろ、阿呆なことは止めとき」
 と云われて当たり前ですが、その言葉には、思いやりがあります。
 ハラベエさんも自転車に飛び乗ると、もうはるか先を行くスピード豊かな自転車に追いつこうと、懸命にペダルを踏みました。
 ラーメン屋ばやりで、はぐれるとどの店かわからなくなるからです。
 
   
※?  この行の記憶がやや曖昧です。
       若い頃の脳みそは柔軟だったんですけどね。
その襞(ひだ)に記憶をせっせと貯め込んで、長年頑張ってくれました。
つるつるの禿頭を、蝿が止まろうとしても滑ってしまうので、ハイスベールなんて揶揄するの表現もありましたが……。
今や、寄る年波に顔の皺(しわ)は増えるのに、脳みその襞がだんだん減ってきてつるつるになり、ハイスベール同様、記憶が片っ端から、滑り落ちていくようです。
今や、次々と剥落していく記憶の数々を、感謝して見送る、そんな心境です。
それにしても、特に新しい記憶ほど滑りやすい……嗚呼。


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プロフィール
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ハラベエ さん
〜OGUNI・WORLD〜
地域:大阪府
性別:男性
ジャンル:趣味 漫画・小説
ブログの説明:
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シーズの愛犬BEEとハラベエを取り巻く生き物たちとの、
出会いと別れを描いた感動、ファンタスティック・ノベルです。

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