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万人の力を活かせいない政治
[日本の政治]
2016年1月26日 23時52分の記事

1月22日、安倍首相が国会において施政方針演説を行いました。しかし、「施政方針演説」というには、あまりにレベルの低いものであったと考えます。また、それは万人の活力を生かせない政治と言わざるを得ないものと考えます。

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演説の内容は、特段目新しいものはありませんでした。昨年末から首相などによって様々な場面で語られたことが集約されているにすぎず、何か新しい新機軸や要素が加わった印象を全く持てないものでした。
同時にこれら散発的に語られたことが列挙されたので、演説としては個別事項の羅列となり、聞いていて、何が結局言いたいのかという想いが頭をもたげるに十分なものでした。これは演説において、基軸となる抽象性がないことを示しています。抽象性がないとは「方針」がないことを意味します。つまり、「施政方針」ではないのです。したがって、これは明らかに施政方針演説としてはレベルが低いものなのです。
抽象性が低いということは哲学がないと言うことです。それは政治において、中核となる基軸・方向性がないことを意味しています。これは具体的・唯物的な思考の裏返しですが、政治がこのような思考に支配されると迷走します。方向性がしっかりと定まった具体論だからうまくいくのであって、中心的な思想がない具体論は必ず失敗を招きます。これは国の政治の責任者としてはあってはならないものです。
この方向感や抽象性、哲学がないというのは、そもそもアベノミクスや様々な施策に見られます。アベノミクスではマクロ政策を一方で行い、その反対の新自由主義の政策を行っています。デフレを脱却すると言っているにもかかわらずバス業界などを苦しめてきたような新自由主義の政策を成長戦略と言ってやっています。まさに二律背反で、この「矛盾」は常に現政権の政治に付きまとっていますが、それは抽象性や哲学のレベルが低いためです。この本質は、思考が明らかに唯物的なものだからです。したがって、首相と盟友の甘利氏の疑惑のようなものが当たり前のように浮上するのです。このような政治は短期的には問題なく見えますが、長期的になると必然的に内包されている「矛盾」が噴出しますし、また成果も上げられないと考えます。
今回の演説で、個別項目が列挙されていたのは、「実績」を言いたかったからでしょう。「これだけのことをやりました」、「これだけの成果がありました」ということとを強調したいために、結果として個別事項の羅列という結果になったのでしょう。そして、その本質は様々な批判に対する「言い訳」なのであると考えます。だから政治哲学がなく、羅列に見えるわけですが、それは一種の広告的な演説で、政治演説としては本当にレベルが低いものです。聞いていて心を揺さぶるものがないというのは当然であると考えます。
そして、この「言い訳」であるということは、追い詰められている心情を端的に示していると考えます。だからこそ、このような演説になっても事前に問題点を発見できなかったと考えます。このような「言い訳」となるのは、国のリーダーであるのに自分のことしか考えていないためであると考えます。そこには唯物的な思考が根幹としてあるものと考えますが、これでは国のリーダーとして万人の力を結集し活かすことなどできないでしょう。哲学や方向感がないのでこれはなおさらでしょう。万人に開かれていない政治が現政権の本質と考えます。
このことは、以下の演説の中で如実に表れています。

五十年間で五十六億人を輸送し、死亡事故ゼロ。年間十二万本を運行し、遅れは一分以内。新幹線技術は、日本が誇るイノベーションであります。トップセールスが実を結び、インドでその採用が決まりました。
(「施政方針演説」2016年1月22日)

私は日本の新幹線技術は世界一だと考えます。それは単なる鉄道ではなく、もはや次元が違う輸送システムであると考えます。そして、それは極めて多くの無名の日本人が何世代にもわたり長い時間をかけて作り上げてきたものです。この途方もない努力の積み重ねが実を結び、それが評価されインドで採用されたのはではないでしょうか。私は率直にそう思います。トップセールスで実を結んだのではないはずです。
実際、これだけのハイクオリティーの新幹線も、インドネシアや米国では中国にトップセールスで負けたではないですか。それは、極めて高い新幹線技術をトップセールスが生かせなかったためではないでしょうか。私はそう考えます。このようなことを隠して、成功事例はトップセールスのもと言う形でいうところに現政権の本質があると考えます。安倍首相が国会で、「税収というのは国民から吸い上げた物でありまして」と発言したということですが、これも全く同じ感覚でしょう。一億総活躍の本質はまさにここだろうと考えます。
ある会社で開発チームがヒット商品をつくりあげても、社長が「商品はとても良いが、私のトップセールスが実を結んて売れた」と言ってしまえば、多分、その優秀な開発チームはモチベーションを確実に下げるでしょう。演説の内容はこれと全く同じですが、なぜ、作り上げた人々の努力を評価できないのでしょうか。それが一番の核心のはずです。万人の力を結集できない、万人に開かれていない政治の本質が、この施政方針演説の中にあると考えます。これは国のリーダーとしては失言に近いものと考えます。
そして、抽象性がない具象だけの方針は、聞いているものにとってああそうなのか、という反応しかもたらさない、意味ないものになっていきます。これでは一億総活躍など起こることはありません。

トリクルダウンを認める
施政方針演説の中で以下のような箇所があります。

強い経済、「成長」の果実なくして、「分配」を続けることはできません。「成長と分配の好循環」を創り上げてまいります。(「施政方針演説」2016年1月22日)

経済において消費がなければ企業は成り立ちません。だから、まず分配をしましょうというのが、積極財政政策です。つまり、アベノミクスの3本の矢の一つの「機動的な財政政策」です。
一方、トリクルダウンというのは、そんな分配ではなく、まず企業にお金を出し、企業が儲かり、そのことによって経済が強くなるから、そのおこぼれが一般に落ちてくると言うものです。この議論は本ブログ「『トリクルダウン』を否定する新自由主義者 」(2016年1月5日)でも指摘したようにローマ法王が真っ向から否定していますし、そんなことはないと多くの人が言っているわけです。実際、アベノミクスでもそれを否定する政策が上記のように入っているわけです。これは明らかに矛盾ですし、明らかに滅茶苦茶です。普通、これは迷走と呼ばれますし、そのような政治が成果を上げることは、これまで何度も申し上げているようにないと考えます。非常に安倍政権的な政策論になっています。それは哲学がないからです。

生命力のなさを感じる
演説で、以下のような趣旨のことを2度ほど繰り返しています。

批判だけに明け暮れ、対案を示さず、後は「どうにかなる」。そういう態度は、国民に対して誠に無責任であります。是非とも、具体的な政策をぶつけあい、建設的な議論を行おうではありませんか。(「施政方針演説」2016年1月22日)

二度も繰り返すのは、よほどこの批判されることを気にしていると考えます。だから上述したように「言い訳」の列挙となるものと考えます。
現在、政権の座にある与党は圧倒的な議席を誇っています。そして、日本の政治を動かす権限は与党にしかありません。野党にはその権限はなく、できること、そしてやるべきことは与党政治のチェックです。権力は腐敗する、絶対的権力は腐敗するという言葉のとおり、腐敗現象と思われることが出ている現在の与党の本質は、あまりに弱い野党の力が助長をもしています。
現在の日本の政治において必要なことは、バランスをとることであり、問題は指摘し、批判することです。
また、与党に政策実現の権限がありますから、その政策が間違っていて必要がないと考えるのなら、対案を出す必要などありません。批判し、廃案を迫ることが、野党の当然の動きです。
実際、現与党に思想的・政策的に野党を受け入れる幅があるかと言えば、全くないでしょう。昨年末、臨時国会開会という野党の要請すら憲法を無視して受けれることができなかったではないですか。
演説でこのような発言がでるのは、自らの力と責任を自覚せずに、非力な野党と同等の視線で見ているということと考えます。だからこそ、野党に対しては高圧的になるものと考えます。その本質は、思考が与党ではなく、実は野党だからです。そこには責任という概念がありません。そうなると自らの成功しか言わなくなります。矛盾した政策を当たり前のように並立して出します。国民は税金を吸い上げる対象であり、国民の血と汗の努力の結晶は自らのお手柄となるのです。
このような発言が飛び出してくる背景は、批判に対応できるだけの知力と体力が弱まっていることが本質と考えます。そこからは生命力を感じません。演説にはそれが如実に表れていると考えます。

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片桐 勇治(かたぎり ゆうじ)プロフィール
1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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