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第三部 10話【懐かしい暖かさ】
[ハラベエさんの犬星☆猫星(第三部)]
2013年1月11日 21時6分の記事

ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 

第三部 10話【懐かしい暖かさ】
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ハラベエさんの犬星☆猫星
=BEEとハラベエの愛の物語= 作・原  兵 衛 

第三部 10話【懐かしい暖かさ】

『お父さん……おとうさん!』
 と、肩を揺すりながら呼びかけるBEEの声に、モシモの世界から呼び戻されたハラベエさんの目を大きな黒い目が覗き込んでいます。
 宇宙船の白い操縦室の指令台から身を乗り出して、隣の席のハラベエさんに声をかけたBEEですが、もしもの世界にのめり込みすぎた感のあるハラベエさんが、我に返り、思考力が回復するまで時間がかかりました。 
『面白いでしょう……でも夢中になりすぎると、意識が朦朧として、なかなか元に戻らないから程々にね』
(判った)
 BEEは、指令台の所定の位置に戻りながら、
『ところで、別命があって、一千万光年ほど先のの星雲まで行くんだけど、どうする、お父さん地球で待ってる?』
(一千万光年!……そんな長い時間、待っちゃあ居られないよ、命が幾つあったって足りやしないよ)
『地球には二千億個の銀河があり、端から端まで二千億光年、しかも刻一刻超スピードで膨張している、そんなところをまともに走る訳がない』
(?)
『そこで近道を走る』
(近道?)
『いいかい、ここに一本の棒がある……』
 と、空間に一本の白い棒が浮かびました。
『この棒の端を仮に地球として……反対の端を犬星とすると……両者の間には、何光年かの距離が存在するが、こうして……』
 と棒を手にすると、ほぼ中央あたりで折り曲げ、両端をくっつけます。
『近づけると、両者の間の距離は消滅する』
(……ワープすんのやろ、SF映画によう出て来る……)
『そう、地球では空想上の現象とされているが、我々の間では、宇宙の膨張によって生ずるゆがみやひずみを利用して、超高速で瞬間的に異動する航法として使われている』
(成る程、それやったら、そない長いこと待たんでもええな)
『……とも云えない、理論上は同一地点でも、実際には誤差を生じるが、どんなに微細な誤差でも、宇宙規模では途轍もない数字になる……その対策は近く陽の目を見る運びになっているが、現在は、ロスタイムを睡眠時間に当てている、つまり、眠っている内に目的地に到着って段取り』
ハラベエさん一も二もありません。
(いつでも出発どうぞ)
と、もしもの世界でやや疲れ気味のハラベエさんらしく睡眠を選びました。
『じゃあ、行くよ』
 BEEが手を振りました。
 司令室の様相が一変しました。
 白い雲か霧のような壁が取り払われただだっ広い空間に、蜂の巣のように無数の小部屋に区切られた、分厚く白い層が何層か積み重なって現れました。
 それぞれカプセルの内部は同一の規格のようですが、サイズは乗組員の多種多様な体格に合わせて特大から極小まで様々であり、あの、宇宙から地球へやってきたときのダイヤモンドダストのような輝きはなく、巨大な集合体が横たわって居るだけです。
 カプセルへの乗り組みは、瞬時に終わり、身近にいた幹部クラスの乗組員も、BEE達に会釈すると、カプセルの人となりました。
『さあ……僕たちが入れば出発だよ』 
(はいはい)
とハラベエさん、整然と並んだカプセルの中で、赤い照明に浮かび上がっている、まだ無人の一台に乗り込もうとして、
(?)
 動きが止まり、怪訝な顔であたりを見廻しました。
『ボクのカプセルだろう……ないよ』
(??)
『お父さんと同じカプセルで行くよ』
その一言で、初めてカプセルに乗り、睡眠状態で宇宙を旅する初体験に、一抹の不安を抱いていたハラベエさんですが、胴震いするような喜びが込み上げてきます。
 ハラベエさんは、カプセルのシートに滑り込むと、シートベルトと思われるベルトを体に巻き付けてBEEを待ちますが、一向に乗り込もうとしません。
(早く……)と云いかけ、辺りを見回しますと、シートにはBEEが納まるべきスペースがもうありません。
(?……!)ハラベエさんは、はっと気付くと、上着の襟をくつろげると、両手を拡げて待ちました。
 BEEが、胸に飛び込んできました。
 上着のジッパーを締めると、首だけ出して見上げるBEE。
 以前、良くこのスタイルをとったもんですが、そうです、最後にこの抱き方をしたのは、BEEが亡くなる前お医者さんに行ったときだ。
 あの時BEEは、自分の苦しさを訴えることはしなかった……むしろ、ハラベエさんを労るように見つめていたっけ……こいつ!……と、込み上げてくる思いに矢も楯もたまらず、力一杯抱き締めました。
BEEの体からの量感は伝わってきません、抱いているという実感はないのですが、確かな存在感は伝わってくる、手をゆるめて改めて顔を見つめると、確かにそこには、黒目がちで涙が溢れるような大きな目、豊かな体毛に全身を覆われた子がいます。
幻影のように見えて、確かな存在感は伝わってくる、不思議な感覚を味わいながら、この時間が永遠に続くことを念い願うハラベエさんでした。
『い、痛いよ、お父さん』
(?……!)
 力の限りに抱き締めていた両の手をゆるめて、BEEを解放しました。
(お父さんはBEEを抱き締めているという実感はないが、お前は痛いという……これは……)
『心だよ』
(こころ?)
『以前、ボクがやや太めだった頃、よく抱いてくれたけど……あれ、ただ単にボクという肉の塊が抱きたかったんじゃないよね』
(当たり前だ、なんぼ肉が好きでも、例え食べたいほど好きでも、それは別問題……)
『だろう……あの頃は、骨がきしむほど抱き締められて、肉が悲鳴を上げたものだけど嫌ではなかった……むしろ、お父さんの力強さが嬉しかった、僕を心底愛してくれているお父さんの心がね』
(そうかそうか)
鼻の奥に、ツンと奔るものがあり、BEEの体を、いやBEEの心を抱いている筈の胸元を両の手でかき抱くハラベエさんでした。
『い、痛い!……あ……ごめん……痛いのは力を加えられたからじゃなくて、この世で唯一無二の愛情を注いでくれる、お父さんの心が痛いほどわかる、嬉しい痛さなんだよ……これからも……遠慮なく……頼むよ』
(云われるまでもないよ……ハハハハハ……ところで眠るのは、いつ頃なんだい?)
『自然に眠りにつけばいいんだよ、時間は無限にあると云っていい……どうせそんなに起きてはいられないけどね』
(十分じゅうぶん、さあ、しゃべりまくろう!)
主として、ハラベエさんの疑問質問にBEEが応える形の二人の会話は、夜を徹して……いや、宇宙を移動する睡眠用カプセル内で延々と続けられました。
初めの内は主として、ハラベエさんが、疑問・質問を呈し、逐一BEEが応える形の会話でしたが、お互いの存在を再確認するという作業に終始し、新しい発見などさほどあるものではない。
親子の関係は、子供の全てを把握しているという親の錯覚と、自分の誕生以前の過ぎ来し方は、伝聞による不確実なものが多い、明らかな情報不足から成り立っているのではないでしょうか。
痛い、痛くないにこだわりがあるのか、ハラベエさんは心と体について質問しました。
答えは明解です。
宇宙を自在に動き回るのはいいが、旅行者の体重が問題でした……何億光年の規模で展開する宇宙では僅かな誤差でも、生ずる時間や距離のロスは膨大なものになります。
当然ビッグ・ドッグが計算を担当し、正確な計算結果をはじき出すのですが、計算を必要とする事例があまりにも多すぎて、さしものビッグ・ドッグも悲鳴を上げました。
そこで、犬星では、全犬類から体重を消し去り、幻影化に成功したのです……つまり宇宙旅行に際しての体重の測定や計算を不要とし、ビッグ・ドッグの負担軽減に成功したのです。
『幻影化のメカニズムを説明しようか?』
(いい、いいよ……ただ、ここにいるBEEと、地球で死んだBEEが同一犬類というのが、どうにも理解し難くて……)
『そうか……どっちも間違いなくBEEなんだけどな』
(?)
『先ず、地球に生きる犬類としてBEEが生まれた』
(うんうん)
『そこへ、犬星育ちのBEEが接近し、憑依』
(ひょうい?……乗り移ったんやな)
『以後、体と心とは共存、やがて、体に終局が訪れる、つまり死だ』
(そこで、様々な形で、体の重みが徐々に消え去る)
『そう……そこで、残った犬と猫の心は、それぞれの星に帰り応分な休養をとり別命を待つ……』
(なるほど)
『そしてBEEに発令された別命……HPT……つまり,ハラベエ・プロジェクト・チームの責任者としての活動が始まりつつある』
(有り難いことだ……BEEをHPTのチーフにして下さったビッグ・ドッグさんに、お礼を云わなくちゃ)
『もう通じてるよ』
(?)
『ビッグ・ドッグに関する毀誉褒貶は、ただちにビッグ・ドッグに通報されます……反応は明瞭簡単、毀誉褒貶のヨとホウは軽く聞き流し、キとヘンに対しては徹底的に攻撃する』
(?)
『ビッグ・ドッグの奴と、奴呼ばわりしたばっかりに、宇宙の果ての果てのその果ての星に島流し……いや、星流しにされた幹部がいる』
(うわっ!……桑原くわばら)
『心配要らないよ、お父さんにそんなことはしない』
と、謎めいた笑顔を浮かべるBEEでした。


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〜OGUNI・WORLD〜
地域:大阪府
性別:男性
ジャンル:趣味 漫画・小説
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シーズの愛犬BEEとハラベエを取り巻く生き物たちとの、
出会いと別れを描いた感動、ファンタスティック・ノベルです。

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