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新機軸ではないマイナス金利の実相
[日本の政治]
2016年1月29日 23時45分の記事

1月29日、日銀は金融政策決定会合を開き、史上初のマイナス金利導入を決定したと報じられています。このマイナス金利とは民間銀行が日銀に預けている一部資金に0.1%の手数料を課すというものです。つまり、日銀に民間銀行が資金を預けるとコストになるので、民間銀行は資金を何かで運用する必要があると言うことです。

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今回、このような決定がなされていると言うことは、明らかに日銀側に景気が悪いという認識があるということです。景気が良ければこのような決定はなされることはありません。日銀総裁などがこれまで発してきた景気や経済情勢についてのコメントとは反対と言えるものです。この矛盾は、今後の日銀総裁などのコメントの信憑性に必然的にかかわっていきます。
また、このような決定は、金融緩和政策ですから、現在、インフレ基調が一面としてあるにもかかわらず、一方で相変わらずデフレの様相があると言うことです。つまり、この3年間のアベノミクスの効果が上がっていないことを意味します。もう少しでデフレが解消するのではなく、施策に効果がなく、経済をコントロールできずにいびつな状態に現状なっていると言うことです。よって、今後、このいびつさは一層大きくなる可能性があります。
上記のように不景気であり、なおかつ消費者物価が上がっていてデフレの側面があるというのは、スタグフレーションより悪い状況がそこにあると考えられます。これは大変に深刻な状況を示しているわけで、そこで史上初の「マイナス金利」が出されることは、むしろ思考としては整合性があるものと考えます。しかし、このことは同時にこれまでの3年間、アベノミクスという経済政策が、かなり複雑な経済情勢を現状、作り上げてしまい、迷走状況に陥り、成果を上げられていないことを如実に示していると考えます。むしろ、問題はより深刻になっている可能性があります。
今回の決定は、これまで行っていた金融緩和政策という方向性が変わったわけではありません。史上初ということが言われていますが、新しい次元が違うことが行われるわけではありません。普通に考えれば、これまでの政策を促進させるということにすぎません。金融緩和は行うべきと考えますが、一方で新機軸がないと言うことは、これまでの構造や問題点の解決において抜本的な進展はなく、むしろこれまでの構造が続いていくと言うことを意味します。それは3年間で成果を上げられなかったことをし続けると言うことでもあります。

バブルをつくり出す−−それは極めて危険
そして、この「マイナス金利」にはもう一つ重要な側面があります。それは上述したように「日銀に民間銀行が資金を預けるとコストになるので、民間銀行は資金を何かで運用する必要がある」ということです。
このことは銀行が株やその他のことで資金を運用するということを意味します。
同時に「マイナス金利」は銀行に対して「市中に借金をさせろ」と言っているということでもあります。借金をさせ、その借金をさせる際にはマイナス金利ではないでしょうから、このことは社会においてリスクをつくり出すことを意味します。さらに、「借金をさせる」ので、融資条件が緩和されたりすることも当然、生じるでしょう。つまり、「借金をさせる」ということを一言で言えば、これはまさに「バブルの構造」の再来そのものであるわけです。したがって、一時は良いが、確実に社会に大きな穴を作り上げていくと言うことが、今回のマイナス金利の重要な側面であるのです。これは、金融緩和をやり過ぎるとむしろマイナスになることを示唆しています。
このことを示すように早速、以下の記事に、バブルの時と同じく海外投資家が不動産に目をつけたり、不動産株が高騰する現象が起き、銀行株はさがっています。

「市場、マイナス金利に期待と不安」(2016年1月29日 日本経済新聞)

このようなバブル政策はGPIFの損失を穴埋めするという目的があるかもしれません。そうであるなら、このことは同時にGPIFにこれ以上の資金投入ができないという状況があることも意味すると考えますし、かなりGPIFの資金状況は、現状、悪い可能性がある考えます。GPIF資金運用での株式運用比率を上げた政策の末路が今回のマイナス金利=バブル政策と考えられます。

極めて大きな穴を日本にあける
かつてのバブルによって、日本経済や日本の社会に極めて深刻な穴ができたことは言うまでもありません。一時的には有頂天になるほどの景気の良さがありましたが、その背景では確実に大きな落とし穴ができていたのが、バブルです。そのバブル後、その大きな落とし穴で、日本は非常に苦しみました。いまだに苦しんでいます。
そのような状況でまたバブルを作るというのですから、その末路は80年代のバブルの時よりも問題は一層深刻になるでしょう。80年代の日本はまだ体力がありましたが、現在はかつてのような体力がありません。そのような状況で一時的にバブルになっても、それが終われば、バブルの終焉だけではなく、日本の終焉になることは間違いありません。
現状、日本の問題点は経済基盤や社会基盤が極めて弱くなっていることです。このことを改善するしか道はありませんが、このようなバブルを作る方向性は、表面だけで本質は変わらないと言うことを意味しています。これはこれまでのアベノミクス政策と全く変わることがないものです。そして、このようなバブル政策が終焉したときに、極めて深刻な状況が出現するのは必然であることを意味すると考えます。
この表面だけの施策が行われるのは、明らかにトリクルダウンです。本ブログ「万人の力を活かせいない政治」(2016年1月26日)で取り上げましたが、首相が先日行った施政方針演説でトリクルダウンを認めていることと今回のマイナス金利決定は関連していると考えます。
明らかに間違った方向性で、今やるべきはバブルをつくり出し、経済基盤・社会基盤を強くしないトリクルダウンをやることではなく、経済基盤・社会基盤に直接施策を施してそれらを抜本的に強化していくことです。現在の施策は明らかに近視眼的で時間軸がない施策になっています。それでは、経済の成長は起こりません。時間軸がない新自由主義者の思考の欠陥がここでも出ています。同時に近視眼的であるので、短期の政権の思惑が関係していると考えられ、日本のための政策ではなく、政権のための政策という要素が確実にあるものと分析します。
このようなバブル政策でギャンブルなどをせずに、かつての財政投融資のように積極的に社会的な投資を行い、非正規労働者を減らし雇用を安定化させ、賃金も安定化させ、消費税を3%に思い切って落とせば確実に日本の経済は上向きます。安定性が非常に重要です。実は今までこれらと反対のことをして失敗をしてきたのです。成功には失敗の芽を確実に摘んでいくことがまず必要です。
このような施策を行えばバブル政策というギャンブルで損失する額より遙かに少ない額で日本経済は良くなります。しかし、今回のようなバブル政策というギャンブル的な施策を打ち、一方で社会基盤や経済基盤が脆弱になれば、確実に、バブルが終焉するときに日本は終焉します。
日銀の今回の決定は、現政権と連動していることと考えますが、このような施策は、追い詰められて起死回生の興奮に酔いしれたい政権の心情とも考えますし、同時にこのようなバブル政策には、富の移転という要素があることも忘れてはならないと考えます。この富の移転は安倍政権においてGPIF問題などにもあると考えます。これらのことが同時に進行しているのが現状の政権やマイナス金利の実相と考えますが、市場の他のギャンブラー達はこのことを既に知っていますので、確実にこのことは利用されるていくでしょう。それは日本にとっては明らかにマイナスです。

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片桐 勇治(かたぎり ゆうじ)プロフィール
1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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