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〈助太刀兵法22〉 尾道かんざし燈籠(2) (無料公開)
[【時代小説発掘】]
2012年10月21日 11時1分の記事


【時代小説発掘】
〈助太刀兵法22〉 尾道かんざし燈籠(2)
花本龍之介 



(時代小説発掘というコーナーができた経緯)


梗概
 ようやく尾道の荒神堂浜に着いた飛十郎と弥助は、荷揚げに繁昌する浜を珍しげに見廻した。腹が空いたふたりは、名物が喰えると言う宮徳屋へ向かう。その途中、遊郭がある新開に足を踏み入れた飛十郎はよけいなことを言って、潮見楼の女郎にあとで必ず寄ると約束させられる。宮徳屋へ行った飛十郎は、尾道には握り寿司がないと聞いて面くらう。食事のあと弥助と別れた飛十郎は、新開の路地を歩いていた時、荒くれ者の船乗りたちにからまれて困っている女を助ける。さそわれて女が働く小料理屋へいって酒を呑んでいると、地元のやくざ者を連れて引き返してきた船頭たちを相手にひと暴れする。 

【プロフィール】:
尾道市生まれ。第41回池内祥三文学奨励賞受賞。居合道・教士七段。
現在、熱海に居住している。



これまでの作品:
[助太刀兵法1]鎌倉しらす茶屋  
[助太刀兵法2]人助けの剣
[助太刀兵法3]白波心中
[助太刀兵法4]おとよの仇討 
[助太刀兵法5〕神隠しの湯
〔助太刀兵法6〕秘剣虎走り
〔助太刀兵法7〕象斬り正宗 
〔助太刀兵法8〕討ち入り象屋敷 
〔助太刀兵法9〕夜桜お七
〔助太刀兵法10〕夜桜お七 (2)
〔助太刀兵法11〕柳生天狗抄 (1)
〔助太刀兵法12〕柳生天狗抄 (2)
〈助太刀兵法13〉柳生天狗抄(終章)
〈助太刀兵法14〉山の辺道中
〈助太刀兵法15〉山の辺道中(2)
〈助太刀兵法16〉十五夜石舞台
〈助太刀兵法17〉五夜石舞台 (2)
〔助太刀兵法18〕大江戸人形始末)
〔助太刀兵法19〕大江戸人形始末(2)
〔助太刀兵法20〕 大江戸人形始末(3)
〈助太刀兵法21〉 尾道かんざし燈籠

猿ごろし




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【時代小説発掘】
〈助太刀兵法22〉 尾道かんざし燈籠(2)
花本龍之介 



一 水尾小路

 ふところ手をした飛十郎は、眩しげに目を細めながら、荒神堂浜の広場を見廻した。広場には、いたる所に山積みになった俵物や木箱が見える。その積み荷の傍では、仲買い問屋の番頭や手代らしい男たちが、真剣な顔で算盤をはじいたり矢立ての筆で、大福帳に数字を書き込んでいた。帳付けが終ると、番頭の指図で小僧たちが大八車へ荷を積み上げて、声をあげながら勢いよく走って行く。
「ふうむ。瀬戸内一の港町とは聞いていたが、たいした繁昌ぶりだな」
 船から降ろされた大量の積み荷が、車に乗せられて無くなったかと思えば、空いた場所に荷揚げ人足たちが運んで来た俵物が、あっという間に積み上げられる。飛十郎の前で、ひっきりなしにその作業が繰り返えされている。
「あそこに見える蔵も、江戸の日本橋に負けぬ立派な造りではないか」
 荒神堂浜から住吉社の向こうにある薬師堂浜まで、大きな蔵が数え切れぬほどずらりと並んでいる。白漆喰に瓦屋根、海鼠(なまこ)壁を巡らせた本格的な蔵であった。
「浜蔵の持主の海産問屋の旦那衆は、備前、備中、備後、安芸の国を合わせても、おらんゆうほどの冨裕な豪商ぞろいじゃけえな。こんな狭い町に五十を越す寺院があるけど、ほとんど浜旦那が私財でこしらえたゆう個人持ちの寺じゃ」
自慢げに言った弥助の顔から、飛十郎は目の前にそびえる山に目を移した。
「ほう。あの千光寺もか」
「もちろんじゃ。大宝山千光寺を、初めにお造りになったのは聖徳太子さまじゃが。あれほど立派に大きくしなさったのは、浜の旦那方の力じゃが」
「なに。聖徳太子は、こんなところまで来ていたのか」
 大和の飛鳥で見た太子の誕生寺のたたずまいを思い浮かべて、飛十郎は感慨深げな声を出した。
「まあ、伝え話じゃけえのう。ほんまのことは、ようわからん」
「あの寺の山号は、大宝山というのか。いかにも商人(あきんど)がつけそうな名だな」
「ほうよ。宝の山ゆうんじゃけえ、景気のええことじゃ」
「さてと、弥助。これから何処へ案内してくれる。新開とやらへいくか」
 時刻は、八つ半(午後三時)を過ぎた頃あいか、日差しはまだ強いが海からの風が吹いてくるから、まことに涼しい。
 新開は、荒神堂通りをのぼって、商家がずらりと並んだ本通りを久保町の商い町に入ってしばらく歩き、水尾小路(みずおしょうじ)という坂道を海のほうへ下ったところにあった。坂の名は向かいの小路の奥にある井戸にちなんで付けられたという。その坂を降りて左に曲がると、そこは紅殻格子(べんがらこうし)に色とりどりの派手な花暖簾を連ねた妓楼が、数えきれぬほど軒を並べた遊郭だった。
「ううむ……、こいつは驚いた。いったい尾道には何軒、遊女屋があるのだ」
 飛十郎は、思わず歩みを止めた。
「さっきの船頭に聞いたが、新開には遊女屋が三百軒に、客をとる女郎衆が千二百人ほどおる、ゆうことじゃがのう」
 まだ昼間とあって、さすがに遊客の袖を引く女郎の姿は見えなかったが、銭湯の帰りなのか小桶を抱えた洗い髪の女が狭い通り歩いていた。
「ほじゃけど、鞆の浦や室の津といった古い港町にゃあ、船頭や客相手に稼ぐ女郎衆がぎょうさんおるけえのう。遊女屋が多いのは、なにも尾道にかぎったことじゃあなかろう」 弁解するように言ったとき、道の真ん中に寝そべっていた野良犬が、のっそりと起き上ると弥助の足を嗅いだ。そのあと飛十郎の袴の裾を嗅ぐと、うさんくさそうな目で二人を見くらべて尻尾を振った。
「ふ、ふふ。こやつ、おれ達を仲間だと思っているのかもしれんな」
 笑いながら路地を見ると、女郎たちが魚の食べ残りを与えているのか野良犬の数がいやに多い。犬だけではない。よく見ると遊女屋の軒の上や、天水桶のかげに黒や白や三毛などの野良猫が香箱(こうばこ)をつくって寝転んでいた。
「情の深い、やさしい女郎たちがいそうな廓だな、新開は」
 飛十郎は、薄暗い見世先を格子越しに覗き込んだ。
「佐吉とわしは、色気づく前に尾道を飛び出したけえ。新開の女郎衆のことは、よう知らんのじゃ」
「それは、残念だったな」
 そう飛十郎が言ったとき、ふいに暖簾の間から白い顔が覗いた。
「のう、お侍さん。新開の女は、やさしいことで有名なんよ。昼遊びもおつなもんじゃ。うちが相手をしてあげるけえ、あがっていきんさい。情が深いことがわかるよ」
 湯あがりの化粧をしていたのか、洗い髪の浴衣姿で手に紅筆を握っている。二十四、五の中年増だが目、鼻、口の三つ道具はなかなか整(ととの)っていた。
「すまん。たったいま荒神堂の船着き場へ上ったところでな、空っ腹なんだ。まず宮徳屋でなにか喰ってから、遊ぶつもりなんだ」
「お侍さんは花より団子ゆうわけかね。じゃあ、仕方がないのう」
 利かん気そうに唇の端を、きゆっと曲げると弥助を流し目で見た。
「こちらのお兄さんは、色気づく前に尾道を出て可哀そうじゃのう。うちが、その悔しさをなぐさめてあげるけえ、あんただけでも寄りんさい。安うしとくけえ」
「い、いや。わしゃ、おふくろの家へ早よう行かにゃいけんのじゃ。また、寄るけえ」
 おびえた顔で尻ごみした弥助の背中が天水桶に当たると、寝そべっていた三毛猫が大きな口を開けてあくびをした。   
「ふん、尾道の新開にゃあ、またとお化けは二度と出たことがないんじゃけえ。なんだい、いい歳をしておっかあの乳がまだ欲しいのかい!」
 腕まくりをして詰め寄る女郎と弥助の間に、飛十郎は渋扇を持った手で、ずいと割り込んだ。
「まて。この男は、江戸から十五年振りに尾道に舞いもどってきたのだ。あとで必ずおれが相方になるから、勘弁してやってくれ」
「そうかい、そんな事情ならしょうがないのう。けどお侍さんが、うちのとこへ来るゆうんは本当じゃろうね。客と女郎の約束ほど、この世で当てにならんものはないけえね」
 威勢のいい女郎は眉を上げて、野良犬と同じ目付きで飛十郎を見た。
「嘘はつかん。おれは江戸からきた早船飛十郎という浪人者だ。宿はこの港町で一番の、」
 と言って、飛十郎は弥助の顔を見る。
「新地にある、藤屋半兵衛さんとこが座敷もええし料理もええと、昔からゆうとりますのう」
「ああ、藤半ね。あそこへ泊まりんさるなら、いちおう信用できりゃん。この家は潮見楼、うちはお千代ゆうけえね。きてくんさるまで、朝までずっと待っとるよ」
 お千代は両袖を抱くようにすると、安心したような笑顔になった。
「武士に二言はない。時刻はわからんが、大引けの拍子木が鳴るまでには必ず顔を出すからな。待っていてくれ」
 飛十郎、いかにも吉原へ通いなれた口調で言ったが。なに仲之町の格子見世はおろか、一切二百文の羅生門河岸の切見世さえまだ上がったことがない。
「大引け、ゆうたら軒下が三寸さがる丑三つ刻(午前二時)じゃが、それまで新開の呑み屋をはしごするんなら、早船さんはよっぽど酒が好きなんじゃねえ」
「うむ。顔を見ればわかるように、おれは女より酒のほうだ。うまい酒と肴を用意しておいてくれ」
 ふところ手の指で胸を掻くと、飛十郎は風にひる返った潮見楼の暖簾の間から見世の中を見た。
「ほんまあ? 顔はけっこう助平そうじゃけどねえ。ま、ええから今夜きんさい。新開一の床上手といわれるうちが、ありったけの技をつこうて、酒よりよっぽど女のほうがおいしいことを教えてあげるけえのう」
 お千代はそう言って、なれなれしく飛十郎の腰を叩いた。
「は、はは、そいつは楽しみだな。では、あとでまたな」
 手を上げて歩き出した飛十郎の背後から、お千代の声が追いかけてくる。
「まちんさい。江戸とちごうて尾道の遊女屋の大引けの合図は、拍子木じゃのうて銅鑼(どら)なんよ」
「銅鑼だと? 船出の合図に鳴らす、あれか」
「ほうじゃ、出帆のさいに鳴らすあれよ。いかにも港町の遊女町らしゅうて、風情があるじゃろう。旅情が身についた、ゆうて喜ぶお客さんが大勢おるんよ」
「わかった。銅鑼が打たれる前に、必ずここへ戻ってくるからな」
 先を行く弥助を追って、無精髭をこすりながら飛十郎は歩き出した。
「ほんなら、早船さん。早ようお帰りなしゃんせ。うちゃ、あんたの顔を見るまで泣きの泪で暮らすけえの……」
 袖口を目に当てて泣くような仕草をすると、お千代は暖簾をはねて見世の中へ入ると、ぺろりと舌を出した。


二 宮徳寿司

 目指す宮徳屋は、新開と新地の間にあった。、名物を出す店らしく瓦葺きの立派な寿司屋だったが、店の中はひどく狭かった。土間を入ると、十畳ほどの広さの板敷きの入れ込みがあるだけで、店売りよりも仕出しのほうが多そうだった。
「なにに、しゃんすかのう」
 品の良い顔立ちの小柄な老婆が出てくると、愛想のいい顔で挨拶した。
「おう、喉が渇いて腹がへった。酒と寿司をたのむ」 
 いかにもうれしそうな声で、飛十郎が返事をした。この男、酒さえ呑めれば、無上に幸せらしい。
「こちらのお人も、同じもんでええんかのう?」
 老婆のなごやかな目が糸のように細くなる。
「わしゃあ酒はいらんけえ、お茶と寿司だけでええ」
「どうやら尾道には、握り寿司はなさそうだな」
「へい。昔から尾道にゃあ、上方風の押し寿司か散らし寿司しかなあですのう。江戸で流行っとる握りは、まだこの港町には来とりゃあせんみたいじゃのう」
「まあ、どっちにせよ、おれは酢めしに魚の切り身をのせて、わさびを利かせた握りというのは、嫌いだからな」
「そりゃあまた、変わっとりんさるのう」
 首をかしげながら弥助が言ったとき、丸盆に枡酒と干した小魚を盛った皿をのせた老婆が運んできた。
「お、こいつはいい」
 たちまち上機嫌になった飛十郎は、ぐっと躰を前に倒すと迎えにいくように口を枡の角に付けると、音を立てて酒をすすり込んだ。
「寿司のほうは蒸しとるけえ、ちょっと待ってくだしゃあ」
「うまいな。婆さん、この酒は地酒か?」
 感に堪えぬような声を上げて飛十郎が聞く。
「お隣りの三原で造っとる、酔心ゆう酒じゃが。そぎゃあに、おいしいかのう」
「うむ。鞆で賀茂鶴というのを呑んだが、これもなかなかいけるな。安芸は酒がうまいとは耳にしていたが、これほどとは思わなかった」
 口の端を手の甲で拭うと、今度は枡を持ち上げて、うまそうに呑みはじめた。それを横目に見ながら、弥助も玄米茶を飲みはじめた。湯呑みの横には、刻んだ塩昆布が豆皿に一つまみ置いてある。
「それにしても、これはなんだ」
 盆の横に置かれた皿を、覗くように見た。
「炒り子じゃがなあ。焙烙(ほうろく)で軽う炒って醤油を掛けただけじゃが、これがよう酒と合うんよ」
「ふうん。しかし、形が煮干しとそっくりだな」
「旦那、江戸の煮干しを、このへんじゃあ炒り子いうんよ。船で見た俵物で、教えたでしょうが」
「なんだ、ではこれは、出しを取るときに使う小魚か。こんなものが喰えるか」
 憤然として見上げた飛十郎の視線を、老婆のやさしい目が見返した。
「まあまあ、そう言わんと一度口に入れてみなしゃあ。文句は食べてからゆうても遅うないけえのう」
 しばらく老婆の顔を見ていた飛十郎が、素直に頷ずくと炒り子を一匹つまんで口に放り込んだ。
「ううむ……」
 無言のまま炒り子を噛んでいた飛十郎は、手にしていた枡を盆に戻すと老婆にむかって軽く頭を下げた。
「こいつは、まいった。お婆どののいう通りだ。あやまる」
 浪人とは言え、侍が町人の女に頭を下げたので、さすがに老婆は驚いた。
「そ、そんな……。あやまるなんて、おやめくだしゃあ。困りますけえ」
 恐ろしそうに身を震わせると、じりじりと後に下がって逃げるように奥へ引っ込んでしまった。
「は、はは、宮徳のお婆さん、とうとう逃げなさったのう。旦那、瀬戸内の炒り子は伊豆や房総の沖でとれる片口いわしと違うて、ぼげちいうまいんじゃ。江戸の煮干しと一緒にしてもろうては、困るんじゃけどのう」
 珍しく声をあげて笑った弥助は、炒り子をひょいとつまんで口に入れた。
「これじゃ。やっぱりこれが尾道の味じゃ」
 佐吉が殺されてから元気をなくしていた弥助が笑うの見て、飛十郎はほっとしたように頭をかいた。
「早船の旦那は、あのお婆さんにえらく腰が低かったが、どうしてかのう」
 からかうような顔で、弥助が聞いた。
「じつはな、おれが子供の頃に、えらく可愛がってくれたお婆どのに、感じやもの言いがそっくりなのだ。あの手の婆さんは、どうも苦手でな」
「う、ふふ。旦那が年寄りや子供に弱いことは、深川あたりの人間は皆んなよう知っとりまさあ」
 ふくみ笑いをすると、弥助は楽しげに宮徳屋の店内(みせうち)を見廻した。思いがけなく飛十郎と生まれ故郷の尾道を訪ずれたことが、うれしくてならないようだった。
「お待たせしゃんした。これが蒸籠(せいろ)寿司じゃけえ、よろしゅうおあがりなしゃあ」
 老婆の娘らしい四十がらみの中年女が、黒塗りの器を二個お盆にのせて運んできた。
「おう、これが噂の蒸籠寿司か。名物にうまい物なしというが、ひとつ食べてみるか」
 枡に残っていた酒を一口で呑み乾すと、飛十郎は舌なめずりするような顔で塗り箸を取り上げた。
「尾道生まれゆうて威張っとっても、わしら長屋育ちの貧乏人は、こぎゃあなええもんを食べるんは生まれて初めてじゃが。まだ味を知らんのよ」
 震える指で取っ手をつまんで蓋を取る。とたんに、ぷうんといい匂いがして、あたたかい湯気がふんわりと弥助をつつみ込む。
「長屋育ちは、おれも同じだぞ。たしかに金には縁がなかったが、となり近所や幼な友だちの縁はたっぷりとあったではないか。これだけは人情には縁のない金持ちどもには、味わえぬ楽しみだと思うがな」
 立ち昇る湯気に顔を入れて、ひとしきり香りを楽しむと飛十郎は箸を四角な器の隅に差し入れて、蒸し寿司をたっぷりと持ち上げて口に頬張った。
「あ、熱い。いや、弥助これはまた、なんというか……」
「口では、いえぬほど、旦那うまいもんじゃのう」
 初めて蒸し寿司を味わった飛十郎と弥助は、顔を見合わせると思わず溜め息のような声をもらした。
「う、うむ……」
 あとは無言のまま、せっせと箸を口に運んでいるだけである。飛十郎、二杯目の酒を頼むのも忘れているらしい。すさまじい早さで寿司を平らげると、飛十郎は満足げにおくびを洩らして、ようやく空にした枡に気が付いた。
「おおい、酒をたのむぞ。それから茶もおかわりだ」
 楊枝をくわえて、何気なく弥助に目をやった飛十郎は、思わずはっとした。弥助が箸を持った手の甲を目に当てて、泪をぽろぽろ零していたからだ。
「ど、どうした弥助。なにを泣いている。また佐吉のことを思い出したか」
「いいや。こんなうめえ寿司を一度でええから、おふくろと妹に食べさしてやりてえ。と思ったら、急に悲しゅうなったんじゃ」
 器を下に置いた弥助の膝のうえに、泪がとめどなく落ちている。
「ううむ。そうか」
 幼い頃に母親を失っている飛十郎は、貰い泣きしそうになって、慌てて天井を見上げると無精髭をひとこすりした。
「わかった。それなら話は簡単だ。明日にでも母親と妹をここへ連れてきて、蒸籠寿司を食べさせればよい。おれが、おごってやる」
 一升徳利から杉枡に酒をそそぎ入れている中年女の前で、飛十郎はこれで問題は片付いたとばかりに胸を張った。
「おい。枡から酒があふれても、おれは怒らんからな。たっぷりと皿にこぼしてくれ」 「へぇへ。うんと勉強するけえ。安心しなしゃあ」
 飛十郎の冗談口に愛想よく答えると、前掛け姿の中年女は言葉通り、皿から溢れんばかり徳利を傾けた。「旦那、やっぱり駄目だ。わしのおふくろは、継ぎが当たったぼろぼろの着物をきて、藁しべで髪を結ってるような魚の行商人じゃ。こげな立派な寿司屋へくりゃあ、お茶もろくに喉を通りやせん。よう店に入いれんよ」
「そうか。ならば、出前を頼めばいい。悪いが、今夜この男の親が住む黒門横丁へ、三つばかり届けてくれんか」
「黒門ゆうたら、浄土寺さんの下にある長屋かのう」
 徳利に木の栓をしながら、女は飛十郎を見た。
「そうだ。その長屋だ」
「へぇへ。あそこなら横丁の前に、うちが寺小屋で手習いを教えてもろうた先生が住んどるから、よう知っとりゃん」
「あの先生なら、わしも習うた。奥から二軒目の井戸の前の家じゃけえ。わからんかったら、魚を売っとるお徳ゆうたら誰でも知っとるけえ、よろしゅうの」
 いま泣いた鴉がもう笑う。と言う喩え通り弥助は泣き腫らした目のまま、うれしそうに笑った。


三 新開遊郭

 宮徳屋を出て弥助と別れた飛十郎は、ふところ手をして楊枝をくわえると、新開の狭い路地をゆっくりと歩きだした。深川の門仲界隈、入江町、谷中、根岸と江戸の岡場所は、ひと通り知っているつもりの飛十郎も、新開を埋め尽くしている遊女屋の数の多さには目を見張った。
 ―――むむ、こいつは驚いた。江戸中に散らばっている岡場所を、ひと所に集めたような盛況振りではないか………
 躰を斜めにしても、肩がぶつからずにはすれ違えぬような細い道の両側に、ぎっしりと娼家が建ち並んでいる。大きな構えの妓楼は数えるほどしかない。ほとんどが小路(しょうじ)の両側の九尺二間の棟割り長屋に女ひとりを置いた切見世だが、お千代がいる潮見楼のような三、四人の女郎を抱えた紅柄格子の中見世も多かった。
「せっかくこの小路に入ったんじゃけえ、遊んでいきんさい。安う楽しませてあげりゃん」
 通り過ぎていく飛十郎に、門口にしどけなく座った女郎がなれなれしく声を掛けてくる。
「や、すまん。道を間違えたらしい。またな」
「何をゆうとりんさるん。または、ここじゃが」
 急ぎ足になる飛十郎にむかって、とうに四十は越していそうな厚化粧の女は股間を手で叩いて、げたげた笑う。切見世の中で遊客を待っている女たちが、いっせいにどっと笑った。
「お侍さま。辻占(つじうら)をこうて下さい」
かぼそい声に、飛十郎は振りむいた。ようやく暮れはじめた尾道の空に、一筋、二筋、刷毛で描いたような雲が、薄く桃色に染まって見える。その淡い光に照らされて、八歳ほどの女の子が〔恋の辻占〕と書かれた小箱を首から下げて、おずおずと飛十郎を見あげていた。
「なんだ、辻占売りか」
 江戸の岡場所にも、子供を使ったこの手の物売りはよく見かける。
「見ればわかるだろう。女とか恋とかには、とんと縁のない男だ」
 にべもなく言って歩き出した飛十郎が、二、三歩行って引き返してきた。
「辻占はいらんが、このあたりに酒と肴のうまい呑み屋はないか。案内してくれたら、心づけをやるぞ」
「呑み屋さん……、ゆうても女の人がおる店と、おらんとこがあるけど」
 可愛らしく小首をかしげながら、女の子は夕焼け雲が流れる空を見あげた。
「どっちでもかまわん。うまい酒があればいいんだ」
 一朱銀を見せながら、女の子の顔を覗き込む。一朱といえば辻占を全部売っても手に入らぬ金高である。
「うちは、よう知らんけえ。知り合いのお姉ちゃんにきいてくる」
 飛十郎の手から一朱銀をひったくると、細い脛を跳ねるように動かすと小鹿のように駆け出していった。
 勝手のわからぬ遊郭ほど、手におえぬものはない。黄昏どきのこの時刻ともなれば、厚化粧をして派手な着物と帯を身にまとった女郎たちが、見世の格子先に立って、前をいく遊客たちの腕をとらえて引っ張り込もうと、手ぐすね引いて狙っているのだ。
「くわばら、くわばら」
 見慣れぬ浪人者を格子の間から覗いている女郎たちを、横目で眺めると飛十郎は怖そうに首をすくめた。
「あの、お侍さんだよ」
 小さな稲荷社の横で無精髭をなぜていた飛十郎の耳に、かたかたと辻占箱が鳴る音と女の子の声が聞えた。のっそりと赤い鳥居の陰から姿を見せた飛十郎の前に、結いたてらしい銀杏返しの髪に螺鈿細工の櫛と銀の簪を差した若い女が、すらりと立っていた。
「お前さんかい。お弓ちゃんに呑み屋を聞いたお侍さんは」
 女郎たちが身にまとっている友禅まがいの、ごてごてした派手な柄物とは違い、若い女は白と黒の縞の上に雪月花の文字を散らした粋な着物をきていた。
「おれだ。もっとも侍ではなく、浪人だがな」
「ふうん。旅のお人らしいけど、それにしては荷物がないね」
 瓜実(うりざね)顔の綺麗な目が、油断のない光を見せて、さぐるように飛十郎を見る。「手ぶらが好きでな。必要なものは、なんでも宿場町で手に入るからな」
 飛十郎は、顎をひとこすりした。
「ふん、贅沢をいってるよ。いいから、あたしについてきな。新開で一番おいしい酒を呑ませてやるから」
 腕組をしたまま顎をしゃくって歩き出したが、その横柄な態度に似合わず、ようやく十九か二十(はたち)になったばかりだろう。辻占売りのお弓の前でしゃがみ込むと、肩に手を置いた。
「このご浪人さんが、いっぱい酒を呑んでくれたら、あとでお礼をたんとあげるからね。今夜はもう商いはよして、長屋へお帰り」
 にっこり笑いながら、うって変わってやさしい声で言った。
「ほう、子供には親切とみえるな」
「ご浪人さんもね。この子に一朱もやったそうじゃないか」
 皮肉な目付きで、飛十郎を見上げる。
「おぬしも、あとで礼をたっぷりはずむといったではないか。同じだな」
「うるさいねえ。黙ってついてきな」
 ぱっと立ち上がると、さっさと歩き出す。
「助かったぞ。お弓、またな」
 苦笑しながら、お弓の頭をひと撫ぜして歩き出した飛十郎の目に、前からやってきた四、五人の船乗りたちの一人が、すれ違いざまに若い女の尻を、ぐいとわし掴みにしたのが見えた。
「なにをしゃがるんだい! あたしの躰は、ただじゃないんだよ」
「うるせえやいっ。安女郎がなにをぬかす」
 ふたりの罵(ののし)り声に、たちまち人が寄ってくる。
「まちな。深川亭のお紺さんの躰にさわって、知らん顔で逃げようたって、そうは問屋がおろさないよ。さあ、百文払ってもらおうじゃないか」
 腕まくりして啖呵をきったお紺にむかって、尻をさわった赤銅色に日焼けした中年男が、鼻に皺を寄せてせせら笑った。
「わ、はは、無茶をぬかすのう。そのへんの切見世の女を買うて、一切り百文じゃ。それを尻をなぜただけで同じ銭を払えとは、がいに法外なことをぬかす女じゃのう」
 連れを振り返って笑い飛ばすと、そのまま行き過ぎようとするのを、素早く前に廻ったお紺がいきなり平手で相手の頬を張った。ぱん!と、あたりに小気味のいい音が響いた。「お、おのれは、なにをさらす」
 船頭が大きな拳を、お紺の顔めがけて振りおろした瞬間、すっと二人の間に入った飛十郎が軽くお紺の背中を押したから、拳は空をきった。それを飛十郎の刀の柄(つか)が、ぴたりと上から押さえた。
「う、うぬ。こなくそ」
 真っ赤な顔で拳を振り上げようとするが、柄で軽く押さえているとしか見えない拳が、いくら力を入れても、ぴくりとも動かない。
「おぬしのほうが悪いな。早く払ってやらないと、もっと男を下げるはめになるぞ」
「く、くそったれめが」
「くそは、おぬしもたれるだろう。くだらんことをいうな」
 言ったかと思うと、飛十郎は拳を押さえていた柄を、ついとはずすと今度は柄頭を喉仏に、ごきりと音がするほど突き当てた。
「さあ、早く百文出せ。拳骨と違ってこの骨は砕かれれば、酒も呑めねば声も出せなくなるぞ。それでもいいのか」
「わかった。すぐに払う」
 おびえた顔の船頭にうながされて、すぐ傍にいた舵取りらしい男が、懐中から四文波銭二十五枚を一本に束ねた緡(さし)を取り出すと、お紺の手に押し付けた。
「だらしがないったらないね。これでこりたら、女郎だろうが町娘だろうが、尻にさわるんじゃないよ。さっさと消えな。この、すっとこどっこい!」
 威勢のいいお紺の啖呵に、何事かと見世から出てきた女郎たちが、どっと笑って拍手喝采した。海の上では恐いもの無しの荒くれ男たちも、新開では勝手が違うとみえて尻尾を巻いてすごすごと去って行く。「やい、おぼえてろ。このままじゃすませねえからな!」 負け犬の遠吠えの、きまり文句を怒鳴ると、船乗りたちは新地の方角へ走っていった。


四 深川亭

「よけいなことを、してくれるじゃないか。あんな連中は指一本で片ずけたんだ」
 肩までめくり上げた袖をおろしながら、お紺は礼も言わずに飛十郎を睨みつけた。
「そうか、よけいなことだったか。いや、すまん。ゆるせ」
 あっさり頭を下げると、飛十郎は引きさがった。
「わかりゃいいんだよ。お弓ちゃん、こっちへおいで」
 遠くで目を丸くして眺めていた辻占売りを手招きして呼ぶと、貰ったばかりの銭百文を押しつけた。
「これで病気のおっかさんに、なにか精のつく物を買ってお帰り。青柳の鰻のかば焼きなんかがいいんじゃないかい」
 首を振りながら無精髭をこすって見ている飛十郎に気付くと、お紺は櫛を抜いて前髪を撫ぜつけて歩き出した。深川亭は、ほど遠くない路地にあった。間口の広い、呑み屋というより小料理屋と呼んだほうがふさわしい造りで、派手な花暖簾をさげた格子づくりの店先は、周囲の妓楼とまるで変わらなかった。
「さあ、あがんなよ」
 土間へ入っていくと、お紺はさっさと入れ込みの座敷にあがって、腕組をしたまま廊下に目をやった。「奥に小座敷もあるけど、こっちのほうがいいだろ」
「ああ、座敷なぞ肩がこっていかん。入れ込みのほうがいい」
 店を見廻しながら飛十郎が答える。壁には桜の造り花が飾りたてられ、頭上の八間(はちけん)には新しい蝋燭が十本ほど立ち並んでいる。八間とは、店内を照らす大形の吊るし行灯のことである。
「じゃあ、ここへすわりな」
 店を開いたばかりとみえて、まだ誰もいない。客は飛十郎ひとりである。
「酒と、つまみは、おまかせだよ」
「うむ、まかせる」
 返事もせずに、お紺は奥へ歩いていった。入れ込み座敷とはいっても、低い衝立(ついたて)で仕切られて隣りの席が見えないようになっている。小座敷で稽古しているのか、三味線を弾く音が流れてくる。
「おまたせ」
 お銚子と盃と刺し身をのせた高足膳を持ったお紺がきて横に座ると、あとについて現れた女ふたりが、品をつくりながら飛十郎の前に座り込んだ。
「旦那さん、うちらにもお流れをめぐんでくだしゃあ。お情けじゃが」
 飛十郎は、苦笑しながら盃を取り上げた。
「お流れもなにもあるまい。まだ酌をして貰っておらんぞ」
 お紺が、たちまち柳眉を逆立てた。
「いま酌をしようと思っていたとこじゃないか。侍のくせに、うるさいよ」
 口は悪いが、お紺は横座りになると、色気たっぷりに酌をした。
「う、む……」
 酒をあおって、飛十郎は妙な顔をした。水っぽかったらしい。この時代、酒は蔵元から樽に詰められた原酒が酒屋に送られ、適当に薄められて客に売られた。そのため悪どい呑み屋は、いくら呑んでも酔えない酒を出した。
「どんどん、お呑みなさいな。ご浪人さん」
 盃を置く間もなくお紺が酌をするが、なにしろ水っぽいから酔えるわけがない。女たちも勝手に呑みはじめた。しぶい顔をしながら飛十郎は刺し身をつまむと、これがまた向こうが透けて見えるほど薄い。
「おい、ちょっとまて。おれは一人で呑むのが好きなんだ。その銚子をたいらげたら、みんな帰ってくれ」
 お紺は仕方がない、というように手を振った。
「わかったよ。みんな奥へ戻っておくれ。けど、あたしはここにいるよ」
 銚子を空にすると、女たちは愛想笑いをしながら引き取っていった。
「お紺、おまえも三味線は弾けるのか」
「そりゃあ、やれといわれりゃ弾くけど。ちっとばかし値が張るよ」
「かまわん。金ならたっぷり持っている。気にしないでやれ」
「辻占売りの小娘に、一朱渡すぐらいだ。たんまり持っていると、せんから睨んでいるのさ」
「そうだろうな」
 袂から取り出した小判を、飛十郎はお紺の膝の前に放り投げた。
「なんだい、この一両は」
「前金だ。あつかいが気に入ったら、もっと払ってやる。こんな水みたいな酒ではなく、ちゃんとした酒を持ってくるんだな、お紺」
 皮肉な笑みを浮かべながら、飛十郎がお紺を見た。
「わかったよ。あたしにゃ旦那が、すご腕だってことはお見通しなんだけどね。帳場が聞かないのさ。だけど、この小判をおがませりゃ、ちゃんとした酒と料理を出すだろうさ」 指先でつまんだ小判をひらひらさせて奥へいったお紺は、すぐに新しい銚子と肴を運んできた。
「こいつは、うまい。なんという酒だ」
「白牡丹だよ。くち当たりがいいだろ。ここの親爺が好きなんだ。船頭なんてのは、酒の味なんか知らないからね。水で薄めたうえに焼酎をまぜたって、平気で呑んでるからね」「そいつは、ひどいな」
「なあに、船頭たちが悪いのさ。酔っぱらっては店の中で大暴れする。嫌がる女を力ずくで押えつける。つけで呑んで、船に乗って逃げ出す。ろくなことはしないからね。水で薄めるのは、酔わさないためさ」
 そう言いながら手酌で盃に酒をつぐと、ひと息で呑み乾した。盃の底には港町らしく、波と帆かけ船の絵が染め付けてある。
「はるばる尾道までやってきて、深川とは珍しい文字を見るな」
 入口の暖簾の〔深川亭〕という店の名が裏返しに見える。
「ご浪人さんは江戸者らしいけど、やっぱり川むこうかい」
「ああ、海辺大工町だ」
「じゃあ、万年橋のそばだね」
 お紺が、懐かしげな声を上げる。
「よく知っているな。おまえも深川か」
「あの暖簾を見て、この店で働くようになった口さ。生まれは佐賀町さ」
 江戸者同士の気安さからか、伝法な口調は相変わらずだが、無愛想な顔はしなくなった。
「永代橋の近くだな。富岡八幡宮の氏子というわけだ」
「そうさ。小さい頃は、八幡さまの境内でよく遊んだものさ。あそこの銀杏(ぎんなん)は、うまくてねえ。秋になるのが待ち遠しかったものだよ」
「あのあたりも船宿が多いところだな」
「あたしは、その船宿の娘さ」
「ふむ、どうりで威勢がいいわけだ」
 にやりとして、飛十郎は盃をかたむけた。


五 尾道名物

「おや、銚子が空になったようだね」
 ふらりと立ち上がると、板場ヘ向かったお紺が、すぐに廊下を戻ってきた。手にした盆に銚子が二つと刺し身皿がのっている。
「なんだ、これは。見たことのない魚だな」
 皿の上には、六寸(約十八センチ)ほどの細長い青みを帯びた銀色の魚が、頭がついたまま生き造りにされている。
「針魚(さより)ですよ。鯛とならんで、この季節の尾道名物ですよ」
「ふうむ。珍しい形をしているな」
 小柄(こずか)のような細長い躰をして、口が針のように尖っている。江戸では見ない魚である。
「まあ、ためしに食べてごらんなさいよ」
 悪戯っぽい目で飛十郎を見る。箸でつまんだ切り身を、かざすようにして眺める。白身魚だが薄く切られた身が、鯛よりもっと白く透明で美しい。山葵(わさび)を入れた醤油に、その切り身の端をひたして飛十郎は食べはじめた。黙々と口を動かしていたが、時おり舌を鳴らす音がした。三切れほど食べて、ようやく箸を置くと盃を取った。
「えらく、あっさりした味だな。鯛よりもっと淡白だ」
「お気に入りましたか」
 にっこり笑いながら、お紺が聞いた。これまでの愛想笑いと違い、本物の笑顔だ。
「気にいった。おれは気性が、あっさりしているほうだからな。酒や肴も、あっさりした味のほうが好きなんだ」
 盃を置くと、残りの刺し身を、今度はゆっくりと味わうように噛む。
「ほ、ほほ。旦那が、しつこいお人じゃないことは、こちらも伊達に苦労をしちゃいませんからね。ひと目でわかりましたよ」
「ほう、どんな苦労をしたか、ちと聞いてみたいものだな」
 さよりの刺し身をすべて平らげて満足した飛十郎は、からかうような目でお紺を見た。「なあに、若い男前の船頭と手に手を取って掛け落ちしたっていう、深川じゃよくある話なんですよう」
 柄にもなく恥ずかしそうな顔を、お紺はした。
「うらやましいことだ。家に帰れば、そのいい男の船頭が待っているとなれば、めでたしめでたしだな」
 そう言って、飛十郎は盃につがれた白牡丹を口にふくんだ。
「ふん。芝居じゃそうかもしれないけど、実際はそんな甘い筋書きじゃあ幕がおりないんですよ」
 手酌の酒を一気にあおると、お紺は悔しげに唇を噛んだ。
「うむ、どんな幕が開いたんだ」
「追っ手をさけて木曽街道を大津へ出て、京へのぼったまでは上首尾だったけど、あとがいけないよ。京じゃ、まだ危ないと伏見から淀川下りの三十石船で大坂の八軒屋の船着き場へたどりついたまでは、あたしも夢見心地の幸せ気分だったけど、あとは地獄へまっさかさまさ」
「そうか、その男に騙されて、女郎に売り飛ばされたわけだな」 
 顔をしかめながら、飛十郎も盃を呑み乾した。
「旦那も無駄に年を取っちゃいないねえ、図星だよ。新町の廓に売られて、あとはお定まりの住み替えで、とうとう尾道の新開まで流れてきちまったのさ」
「悪い男に引っかかったものだな」
「まったく、船頭なんて皆んなろくでなしだよ」
「は、ははは、それで船頭に喰ってかかって、顔を張り飛ばしたわけか」
 苦い気分を振り払うように、飛十郎は大声をあげて笑った。
「そういうわけじゃあないよ。あいつが新開の女を、馬鹿にしているからさ。あんな男は我慢がならないんだよ」
 銚子が空いたのを見て立ち上がろうとしたお紺が、ふと表に目をやった。
「おや、旦那。噂をしたら、いやな野郎がきたよ」
 暖簾の間から顔を出した船頭が、飛十郎とお紺を見ると薄笑いをして引き返した。
「やはり、きたか。お紺が深川亭の名を出したからな。こんなことだろうと思っていた」「旦那は、なんの関わりもないんだ。すぐに逃げちまってくださいよ」
 壁に立て掛けてあった心張棒を握ったお紺が、気の強そうな顔を白く緊張させながら土間へ降りた。
「まて。ここは商売柄、おれにまかせてもらおう」
 眩しげな目でお紺を見ると、飛十郎は無精髭をひとこすりした。
「旦那の商売ってのは、いったいなんです?」


六 秘技滝落とし

「おれの商売は、助太刀人だ」
 刀を帯の間に差し入れながら飛十郎が立ち上がる。
「へええ、知らないね。助太刀人なんて聞いたことがないよ」
「乗りかかった早船、いや船だ。荒くれたちの始末は、まかせておけ」
「なんです、その早船ってのは」
「おれの名だ。早船飛十郎という。よろしくな」
 飛十郎が名のった時、暖簾をかき分けて十人ほどの男が入ってきた。
「大勢さんだねえ。お客なら、そこの下足箱へ履物を入れてあがっておくれ」
 腕まくりをして心張棒を構えたお紺が、飛十郎の背後から顔を出して憎まれ口を叩いた。
「やい、お紺。わしは北前船〔太平丸〕の船頭で、五平次ゆうもんじゃ。大坂から瀬戸内はおろか、長州、因幡、越中、越前、越後、奥州から蝦夷地にかけて、ちっとは人に知られた男よ」
「ずいぶん並べ立てたねえ。まるで道中案内みたようじゃないか。ちっとは知られた五平次が、どうしたってんだい」
「おうよ。たかが尾道港のすべた女(あま)に、恥をかかされて引っ込んでいられねえんじゃ」
 飛十郎が見ると、船頭の五平次と手下の船乗りが六人。あとの四人は地元の地廻りらしく、喧嘩なれした身ごなしで腰に長脇差(ながどす)をぶち込んでいる。
「ふん。じゃあ、どうすれば気がすむってんだ。聞いてやるから、いってみな」
 五平次は、にたりと笑った。
「そうさな。わしは浜問屋の旦那衆に、えろう可愛がられておるんじゃ。これから新地の料理茶屋へ出むいて、土下座してあやまったあと全員に酌をして廻ったら、ゆるしてやってもええ」
「そんなことなら、お安い御用さ。といいたいところだが、死んだって土下座なんかするもんか。つらあ洗って出直してこいってんだ。この、すっとこどっこい!」
 深川仕込みの痛快な啖呵をきられると、五平次の顔が怒りのために真っ赤になった。
「な、なんだと。おとなしく出りゃあ、つけあがりゃあがって。こうなりゃ腕ずくだ。野郎ども、侍(さんぴん)もろとも、たたんじまえ」
 五平次の言葉が終る前に、すっと土間に右膝を付きざま、長脇差を抜こうとした地廻りの脇腹を、飛十郎が下からすくいあげるように抜き討った。無双直伝英信流居合の奥の立技〔前敵逆刀〕である。手の内で半回転させた刀の棟(みね)が、男の肋骨に叩きつけられた。
「ぐえっ」
 うめきながら前のめりになった時には、もう飛十郎の刀はべつの男の右肩を棟打ちで袈裟に斬りさげていた。二人の地廻りが、同時に崩れ伏した。その時には飛十郎の刀は、すでに鞘におさまっている。
 残りの八人が顔色を変えて、ざざっと後へ引き下がった。船乗りたちは、匕首(あいくち)を抜くのを忘れ、地廻りたちは長脇差の柄に手を掛けているものの、あまりの剣の早さに茫然として立ちすくんだままだった。
「どうした。もう、やらんのか。おれは、うまい酒の邪魔をされて、機嫌が悪いんだ」
「ぶ、ぶるってんじゃねえぞ。今のは、まぐれだ。やっちまえ!」
 悲鳴のような声をあげて、匕首を抜いた五平次の手が、ぶるぶる震えている。
「こないのか。では、おれのほうがいくぞ」
 ようやく長脇差を抜いた若い地廻りが、顔を引きつらせて飛十郎の頭めがけて斬りかかった。素早く体(たい)を左に開いた飛十郎が、鞘に入った刀の柄頭を両手で握って円を描くように、若い男の右手首を打ち叩いた。
「うわっ」
 よほど痛いのか刀を落とすと、若い地廻りは手首を抱えて土間を転げまわる。その隙に後に廻った五平次が、しめたという顔で飛十郎の刀のこじり(鞘の先端)を掴んだ。海で鍛えた船頭の馬鹿力である。そのまま鞘を引き抜かれたら、帯に残された刀身で飛十郎の腰が斬れるか、帯もろとも袴が下へ落ちるか二つに一つだ。
「む」
 左右の手で握った刀の柄を、力を込めて胸元へ引き寄せる。ぐいと下がったこじりに、前のめりになった五平次が、顔をしかめて鞘から手を離した。瞬間、前へ刀を抜いた飛十郎は、振り向きざま胸へ棟をこすらせながら五平次の喉元へ切っ先を、ぴたり押し当てた。無双直伝英信流居合・立膝の技〔滝落し〕であった。寸止めをしなければ、五平次の首は串刺しになっている。
「じっとしていろ。動けば二度と酒が呑めなくなるぞ」
「わ、わしが悪かった。かんべんしてくれ」
 喉に刀を突き付けられた五平次は、たわいなく匕首を放り出すと、わなわなと震え出した。
「お、親方!」
 梶取りや水夫(かこ)たちが、青くなった。無理もない、船頭の五平次がいなければ、荷を満載した太平丸は尾道の港から出帆出来ないのだ。荷元の浜旦那も、荷受けの松前の海産問屋の旦那方も、何千両もの被害をこうむることになる。
「五平次、船はいつ出る」
「あさっての朝五つ(午前八時)でございやす」
 額の汗が首筋を伝って、五平次の腹へしたたり落ちていく。
「よし。ならば、出港までおとなしくしていろ。また尾道へやってきても、二度とお紺に手を出すな」
「へい。きっと、お約束いたしやす」
「おれは、呑み直すことにする。塩をまかれないうちに、さっさとこの店から出ていけ」 言い終えた時には、すでに刀は鞘に納まっている。ふところ手をした飛十郎は、五平次たちを見向きもせず元の席に戻ると盃を持ちあげた。
「ふん、ざまあないね。北前船が笑わせるよ。おととい来いってんだよ」
 肩を落として引きあげていく五平次たちにむかって、お紺が捨て台詞を投げつける。
「おい、酒がないぞ。酒をもってこい、お紺」
 飛十郎が顔をしかめて、お紺をうながした。なに酒はまだあるのだが、水に落ちた犬を棒で打つのは、飛十郎の好むところではない。
「あいよっ。板前さん、銚子二、三本に、塩を山盛りおくれ。厄病神がお帰りになったからね」
 わざとらしく大声ヘ言いながら、お紺は足音も荒く廊下を歩いていった。本気で塩を撒く気らしい。酒を口にふくみながら、飛十郎は苦笑いをした。

           了 〈助太刀兵法23・尾道かんざし燈籠−3−につづく〉











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