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元自衛隊幹部が「海自は南沙に行くべきでない」と発言
[日本の政治]
2015年11月8日 23時45分の記事

元陸上自衛隊北部方面総監の酒巻尚生氏が、11月5日、外国特派員協会で「海自は南沙に行くべきでない」と発言したことが報じられています。昨日7日、本ブログ「評価すべき野田聖子議員の南沙問題についての発言」(2015年11月7日)でも触れましたが、米中間の南沙諸島問題に対する日本の関わり方について、非常に冷徹で現実的な発言が出たことは評価すべきことでしょう。

「『海自は南沙に行くべきでない』元陸自方面総監が強烈な一言」(2015年11月7日 日刊ゲンダイ)

酒巻氏の言葉を以下に引用します。

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日米同盟は絶対的に重要です。しかし、アジア圏においての日本は全方位外交が前提。もし12カイリ内で航行すれば、日中関係にどんな影響を及ぼすかを考えなくてはいけません。万が一、中国の行動が我が国のシーレーンに対し、致命的な影響を及ぼすとなれば話は別ですが、その段階においても政治的にはかなりハードルの高い問題になってくると思います((2015年11月7日 日刊ゲンダイ)

全方位とは米国を筆頭に、中国、ロシア、南北朝鮮、台湾、フィリピンなどを見据えて外交を行っていくということですが、昨今の中国だけを見て、一方で米国の思惑には全く不問、ロシアとの関係は構築できないという姿勢で作られる南沙諸島問題への関与に前のめりの論理の視野の狭さと不可解さが、酒巻氏の発言から非常に鮮明に浮かび上がってきます。
特定の利害関係がなく、日本を中心に自立性という視点を動かさずに考えれば当然、このような発言になります。陸上自衛隊の元幹部からこのような発言が出たことに、正直、安心をします。
米中という構図が生じた時、日米安保の意味も変わってきます。むしろ日本にとっては手足を縛る状況が出現すべきことは想定すべきです。このことに対してポイントになるのが、ロシアとの関係ですが、現状、日本はロシアとの関係を戦略的な形にできてはいませんし、その方向性も見えません。

トントン拍子に進む状況
今年最大の政治的問題は集団的自衛権の行使などを含む安保法制でした。この安保法制の審議が注目を浴び始めた5月以降、南沙諸島における中国の人工島の問題が報道されるようになりました。そして、安保法制が国会を通過して、今度はこの中国の人工島に関する米中緊張が生じます。この問題には日本の集団的自衛権とシーレーンという要素があります。そして、中東やウクライナで戦争を強く主張した米国のジョン・マケイン上院議員が日本の南沙諸島問題への関与を言い、一方で菅官房長官が、先日、この南沙諸島問題に関与の可能性の発言をします。そういう状況で今回の酒巻氏の発言があります。
こう概観すると、米中対立を要因とする状況に日本が関与する法制や状況がトントン拍子に進んでいる感があります。正にスケジュール通りのタイミングの良さです。中国の悪辣な膨張主義があるから、そのことに対処しているのだという声が聞こえてきますが、そこに米中の構図という想定はありません。
中国は日米離反を画策しているというのですが、南シナ海問題や尖閣問題で中国が動くときは、必ずタイミングよく日米が手を結ぶような結果になっています。日米離反を画策するのなら、中国は動かないほうが良い時に動いていると考えますが、それは単に中国の戦略ミスなのでしょうか。実は米中の構図に日本を組み込むことが目的とも考えられます。
米中にとって、日本が独自性を持つことを警戒する考えがあることは忘れるべきではないと思います。そして、タカ派傾向の強い現在の安倍政権や自民党の議員による様々な発言は、そのような両国の警戒心をさらに強めるので、結果として日本が独自性を保つための可能性は減っているものと考えます。

集団的自衛権とインテリジェンス
歴史をみると、集団的自衛権行使の一番の怖さは、一度、戦争が始まると極めて広範囲で損害の大きな戦争になることです。日本における集団的自衛権行使の問題には、間違いなく違憲問題はありますが、その他にそのような大戦に巻き込まれないようにするためにしっかりと判断できるインテリジェンスをそもそも備えているのかということは、新たに日本が突きつけられている課題であるのは明らかです。
先日、「イラク戦争にかかわるブレア英元首相の報道に見る戦争の構造?」(2015年10月21日)でも取り上げましたが、イラク戦争に対して英国が集団的自衛権を行使して米国とともに参戦したことの検証が、英国で行われてきています。このような流れで、2013年のシリアへの英国の参戦は議会の反対でなされませんでした。議会の権限が、明らかにイラク戦争時よりも強くなっています。
日本に、この英国のような戦争とインテリジェンスへの姿勢があるのかと言えば、全く無いように思います。どうも戦争や外交安全保障の一面しか考えていないように思います。例えて言えば車のアクセルとブレーキで、アクセルしか考えていないように見えます。アクセルだけの車は必ず暴走します。近視眼、一面的な視点、直情的という見識が多く、結果として暴走する危険性を現状は大変にはらんでいるものと考えます。

同盟関係についてのポイント
同盟関係についても、もっと冷徹に考えるべきでしょう。同盟と言っても、そこにマイナスの要素があることはよく考えるべきです。プラスだけというのは、やはり脆い考えです。
例えば、同盟相手国がおかしくなる可能性はあります。民主主義国であっても、選挙によっておかしな指導者が選ばれ、国際社会の中で間違った行動を起こす可能性があります。そういう場合、どうするのかは想定すべきことです。英国のイラク戦争についての検証は明らかにそのような想定のもとに行っているものと私は考えます。一方、日本は山崎拓元衆議院議員がイラク戦争についての自身の判断を反省していますが、その他には全くそのような検証の動きはありません。恐らく、現状、日本では同盟国相手国がおかしくなる想定はしっかりとなされていないと考えます。
また、同盟相手国が裏切ることもあります。同盟国相手国への依存度が高くなればなるほど、裏切られた場合の損害は大きくなります。そして、依存度が高くなればなるほど、裏切られる可能性は大きくなります。なぜなら、裏切られてもそのことに対向する手立てがなくなり、相手国に力を与えるからです。同時に、そのような状況になると、日本をコントロールするには、日本と直接交渉するよりも、日本が依存する米国と交渉したほうが良いという状況が生まれます。この構図は、日米中の関係においてはよく考える必要が今やあり、米国依存を非常に強めている現政権の方向性では生ずる可能性は大きくなっています。

同盟関係は友だち関係ではない
同盟関係とは友だち関係ではありません。リアリティーの中での生き残りの策です。しかし、日米関係において、同盟は友だち関係と思っている向きが多いのではないかと思います。それが、米国をしっかりと見つめない姿勢を生み出しているものとも考えます。もしくは、日米同盟は、友だち関係であるというそんな思い込みを利用して、日米両国の国民のマイナスなることを画策し自らの利益のために動くグループがあるのかもしれません。
私は米国が好きです。ただ、それは個人的な感情であって、国際社会における外交はまた別の話です。なぜなら、日本と米国の利害は完全には一致しないからです。それを当然の前提として日本は進むべき道を自分の頭で考えていかなくてはならないのです。

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1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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