連立方程式が解けない支離滅裂さ | |
[日本の政治] | |
2015年12月16日 23時53分の記事 | |
12月14日、以下のように安倍首相の発言に関して2つの記事が出ています。一つは消費増税で経済に悪影響を認めていることと軽減税率について、そしてもう一つはTPPに政策総動員で取り組むと表明していることです。 「訪日外国人、3千万人に=政策総動員でTPP対策−安倍首相が内外情勢調査会で講演」(2015年12月14日 時事通信)
まず、消費増税について、首相自ら経済に大きなブレーキがあることを認めています。消費税の経済に対する問題性については、本ブログで何度も指摘しましたが、首相がそれを認めるのならなぜ、10%への消費増税をそのまま実施するのでしょうか。単純に理解に苦しみます。 本ブログ「消費税について考える」(2015年11月22日)で触れましたエコノミストの菊池英博先生は、1997年に消費税を3%から5%へ引き上げた時点からデフレになり経済は縮小していると述べています。ですから、菊池先生も私もこれ以上の増税は危険と5%から8%への消費増税に反対をしてきたわけです。言うまでも無く10%への増税はさらに危険です。昨日に触れたように、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンも、10%への増税で日本経済は完全に終わると指摘し、5%へ戻すべきと述べています。 「本誌独占インタビュー ノーベル賞経済学者クルーグマン『日本経済は消費税10%で完全に終わります』」(2015年9月16日 現代ビジネス) このように消費増税の問題性は明らかであり、増税すれば経済が落ち込むこともまた確実に予測できるレベルなのです。そして、そのような非常に明らかな問題点を抱えていますので、導入後、景気が良くなり、経済が拡大方向になると言うことはありません。 首相の発言は少なくとも消費増税が経済に悪影響を及ぼすことは認めているわけで、そのような悪影響があるものを制度として継続させるなら経済がプラスに転じるはずはありません。 そして、高度経済成長期のような社会にダイナミズムがない現状では、一度、縮小した経済を復元する力は乏しくなります。少子化はさらに拍車がかかり、貧困層は増大していきます。それがスパイラルに連鎖的になってなり、経済を縮小させていきます。そして、経済を再度拡大させる力は奪われ、拍車がかかっていきます。そうなると政府の税収を支える基盤は確実に失われていきます。それでは、財政健全化をするという目的はいつまでたっても果たすことはできないでしょうし、増税をした意味も目的もかえって自らの首を絞めるマイナス要因になることは明らかです。机上の計算の数字のやりくりで見通しが立つ時代では既に無くなっているのであり、社会の根本から富を生み出す構造をいかに造るかを考えなくてはならない時代なのです。現状の政府・与党は、これまでの惰性で考えているだけであって、新しい世界観やビジョンを構築するだけの力量がないものと考えます。その典型例が今回の軽減税率の議論でしょう。 ロイターの記事にあるとおり、首相に消費税再増税で経済にブレーキがかかる恐れがあるという認識がある上で、主に食料に対する軽減税率が連立与党内で合意に達したことを評価していると言うことは、この軽減税率は、そもそも人道的という要素があることになります。 消費税再増税で消費をしづらくなり経済も落ち込むのは確実な中で、せめて食料だけはそのような対象からは外すべきだということをこの記事は言っています。その軽減税率に新聞まで入ってくるのですが、それは別として、上記記事での首相の発言はかなり人道的状況を感じさせるものです。実際、国民の可処分所得を増やすどころか減らす政策をずっととり続けているのですから、そうなるのは当然でしょう。既に国民の食ということに関して危機的状況に入ってきているということでしょう。 抜本的に消費税について考え直す必要があるのは明らかです。 政策総動員でTPP対策? 安倍政権はTPPに非常に積極的ですが、なぜ自らのめり込んでいるのにそのTPPに対して対策をうつ必要がそもそもあるのでしょうか。これはかなり矛盾しています。まるでTPPは日本が他から突きつけられている国難のようですが、実相は自ら国難を作り出しているのであり、そのことに影響がでる層があルということです。それは明らかに政府によって切り捨てられたということなのです。 TPPで最も被害を受けるものの一つは農業ですが、軽減税率で生産者を救っているのに、TPPで生産者を窮地に追い込んでいるということになります。もしくは、TPPで生産者を追い込むから軽減税率で救おうとしているのでしょうか。 しかし、いずれにせよ国民の食が窮地に陥っている、否、政策によって窮地に陥らされていることは間違いないでしょう。 食は人間の生存に必須のものです。生命においての根本です。70年前、この根本が国の政策によって窮地に陥り、国民は飢えに苦しみました。 国民の食である農業は政治の第一義です。根本です。そして、このことは自然環境に大きく左右される不安定さを持っています。だから政の最重要の本義なのです。これをどうしてTPPで市場原理という資本の論理が支配するシステムに委ねようとするのか本当に理解に苦しみます。これは国民の生命を市場原理に委ねるということと同義です。つまり政権与党は国民の命を市場原理に託したと言うことであり、国民の命を守ることを既に放棄しています。今必要なのは世界に臨む農業者という市場原理主義ではなく、国民の食を安定・保証する国家としての責任と政策です。 ローマ法王フランシスコはその著書『福音の喜び』の中で「もはや、市場における見えざる力と見えざる手とに信を置くことはできません」(P.179)と述べ、市場において存在するのは神の見えざる手ではなく、人間の手であり、それは多くの問題を引き起こしているので信を置かないと述べています。これが今や世界の認識なのです。 つまり、食料に関して軽減税率を適用すると言っているにもかかわらず、一方で国民の食に対しての政策が崩壊しています。個別の政策に関してはもっともらしく見えますが、並べてみると、支離滅裂なのです。それは個別政策をアピールすることしか考えていないためでしょうし、政策において全体性への視点の欠如、国家運営・政治の根本・哲学がないからで、このようなものはやればやるほど矛盾が噴出していきます。現政権は連立方程式を解けないのです。まさに地に足がついていない政治と言えるでしょう。 TPPで切り捨てられた TPPによって様々なことが政府・与党によって切り捨てられました。政策総動員で対策をと国難のように言っていますが、自ら選択した方向性です。そして、そのために切り捨てられた層があるから、対策をやっていますというメッセージを出しています。どこまでいっても矛盾と欺瞞が付きまとっています。そこには明らかに二律背反、相矛盾する方向性の混在が見られますが、どちらか一方は本質ですから、結果として切り捨てが生じます。そして、もう一方は嘘というか、一時的な対策はありますが、本質ではないことを意味します。このことが現政権の本質的な思考です。 その手法は飴と鞭であるのですが、一方で飴と飴の層もあるわけです。そこに政権の本音があるのですが、国民の食という政治の根本は切り捨てられています。それは国を切り捨てると言うことであり、そのような中で軽減税率と言っても意味はないものと感じますし、そこに政治哲学があるのかとさすがに思わざるを得ません。 | |
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