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この選挙における『石橋湛山』というキーワード
[日本の政治]
2024年10月23日 23時56分の記事

数日前、知人と久しぶりに再会し、色々と話しました。そのとき、『石橋湛山(第2代自民党総裁、第55代内閣総理大臣)』のことが話題になったのですが、このことは今回の選挙においては、間違いなくキーワード・キーポイントであると考えます。実は、石破さんが自民党総裁選で勝利してから、すでにこの石橋湛山のポイントはありましたが、改めてそこに重要性があると考えます。

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石橋湛山は、戦前においては、東洋経済新報社の主幹、社長で、満州事変や五・一五事件を厳しく批判し、政府の軍国主義政策に反対しました。戦前のあの時代に、軍国主義を真っ向反対した石橋のほどの人が、今の東洋経済にいるのだろうかといえば、まだその魂はあるのでしょうが、残念ですが、ほとんどが失われているように思います。
石橋についてはウィキペディアには、以下のように出ています。


戦前戦中、帝国主義・軍国主義・ファシズムを批判し、言論の自由を標榜し、市民を中心に据えた徹底的民主主義とリベラリズムを貫き通したと言ってもいいだろう。

・ 『ウィキペディアより 』




このような人物が第2代自民党総裁なのですが、アベ政治を経た今の自民党をみれば、考えられないことです。しかし、以前の自民党にはこのように民主主義とリベラリズムを貫き通した巨人がトップとしていたのです。そして、実はいまもまだ、多くはないですが、いるのです。


○ 石橋湛山の視点
戦前、石橋は、中国の要求を受け入れ日本が実質支配下においていた『満蒙(まんもう/満州と内蒙古のこいと)』の放棄論を一貫して説きました。以下の文は、1931年に石橋が書いた文をもとに、1991年に尊敬する歴史家の江口圭一さんが書いたものです。この文を読むと戦前、日本が中国に行なったことがよくわかります。下線は私が引いたものですが、この部分が石橋が戦前述べた日本が中国に対して行なったことを、わかりやすく説明したことなのです。

 
ある民族がどんな外国の支配も抑圧もうけたくないと願うようになるのは近代の世界の歴史の動かすことのできない気運であり、当然かつ正当なことであって、これを押さえることは許されない。現に日本自身が列強から不平等条約を強要され、多くの苦しみを味わい、その束縛を逃れようと懸命の努力を重ねた末、主権を回復した。この日本と本質的に同じ努力を中国が日本に対してさし向けてきたのである。
まして中国の場合、領土を事実上侵犯され、巨大な経済的利益を外国に持っていかれているのである。仮定のこととして、たとえば房総半島の一角が外国――中国でもアメリカでもソ連でもどこでもよい――に租借され、大きな港がつくられ、そこからその外国の所有・経営する一大幹線が東北にむけて敷設されており、その線路の両側と福島・仙台・盛岡といった都市の一部は鉄道付属地とされて日本の主権を及ぼすことができず、東北の産物がこの鉄道を使って運び出され、これらを警護するために外国軍隊が駐屯しているという状態を想像してみよう。きみはこれを容認することができるだろうか。
主権尊重・民族平等という国際社会の原理・原則に立てば、日本は中国の国権回復の要求を受け入れ、満蒙特殊権益を放棄し、南満州の支配を解消しなければならなかった。これは一九九〇年代の時点から歴史にないものねだりの主張をしているのでない。一九三〇年代の日本に現実にこのように主張がなされていたのだ。それを代表するのは『東洋経済新報』――現在の『週刊東洋経済』――という経済雑誌の主幹石橋湛山(一八八四―一九七三)である。石橋は、満蒙問題を解決するには日本が潔く中国の要求を受け入れる以外にはないという満蒙放棄論を一貫して説き、満蒙を放棄したほうが日中の親善と負担の軽減とによって、日本の繁栄をもたらすだろうことを明快に論証していたのである。

『1941年12月8日―アジア太平洋戦争はなぜ起こったか (岩波ジュニア新書)』(1991年 岩波書店 江口圭一著 59頁)




石橋の『房総半島の一角が外国に租借され、大きな港がつくられ、・・・』という説明は、とてもわかりやすいものです。
これが、かつて日本が中国に対して行なったことですが、なぜか、そのようなことは日本では未だ自覚されず、このような石橋の観点から見ているものもほとんどありません。
しかし、中国にはあるのです。だからこそ、100%彼らの感覚は理解できなくとも、しっかりと理解するように努力をし続けなければならないのです。
これは土下座外交ではないのです。ポイントは、外交とは一度間違えたことをすると極めて長期間にわたって影響を及ぼすと言うことなのです。100年や200年は当たり前なのです。上記の石橋湛山が批判した戦前日本の対中政策は約90年前のお話しです。まだまだ、忘れて良いほど昔ではないのです。
上記文で石橋は日本が中国にしたことを日本がされたら『きみはこれを容認することができるだろうか』と問いかけていますが、私であれば、そんなことは容認はできません。日本が同じようなことを90年前にされていたら、私は21世紀の現在進行形のこととして、怒りをもってしっかりと覚えていることでしょう。そして、それは中国人も同じなのです。
とはいえ、だからといって、中国に滞在している日本人や日本人の子どもたちを殺していいと言うことではありません。無論、それは許されないこと。


○ 石橋湛山の言葉通りにしていれば、先の大戦で日本は破滅する事はなかった
上記の石橋の言葉通り、戦前、中国の要求を受け入れて、満蒙(満州と内蒙古)を放棄せよと一貫して説きました。その理由は、そうした方が日中親善が促進され、日本の負担は軽減され、結果、日本の繁栄をもたらすからで、そのことを当時、石橋は明快に論証しています。これ、その後の歴史の動きを見れば大変に的確な指摘で、とてもすごいことなのです。
日本はこの満蒙問題から自存自衛を主張して拡大路線をとり日中戦争になり、その日中戦争は泥沼に至り、それを打開するために自存自衛を主張して、東南アジアなどへの南進と日米開戦に踏み切り、1945年に破滅するわけです。これが満洲事変から始まる先の大戦である15年戦争であり、アジア・太平洋戦争なのです。
ですから、石橋のいったとおり、満蒙を放棄、日中親善を行なっていれば、その後の日米開戦はなく、東アジアでの多大な犠牲と荒廃はなかったことは間違いありません。確実にその後の日本は、領土を失うこともなかったでしょう。まさに『自存自衛』とはまったく反対になったわけで、『自存自衛』を主張して侵略や戦争をはじめて、破滅したのです。まったく話しにならないレベルです。そういう反省が右翼にはない。だから、また同じ過ちを犯す。
日本は先の大戦で、米国(など)に敗北したことは誰でも知っていますが、実は日中戦争で中国にも完全に敗北していることは多くの方々が忘れています。
そして、先の世界大戦において、日本はアメリカとのたたかいで敗れたことは第一のポイントではないのです。この日中戦争に苦戦し、結果、敗れたことが最大のポイントなのです。


○ 石橋湛山は日本の善隣(全方位)外交を主張した――これからの時代には絶対に必要なこと
そして、この日中戦争の敗北の100%といって良い原因は、石橋が言うように、満洲なのです。その満洲の中心は誰か? それは後述します。
満蒙放棄と日中親善を主張した石橋はまさに慧眼なのですが、その石橋は戦後、「日中米ソ平和同盟」を主張しています。今風に言うのなら、『日米中露平和同盟』です。現在であればこれに当然『朝鮮半島』が入らなくてははなりません。
そして、これはまさに、私が約10年ほど前から申し上げてきた日本の善隣(全方位)外交です。これからの日本はこの方向でしか生きていけません。そうでないと、また上述した石橋湛山の戦前の予言のように、日本は悲惨な歴史を繰り返すことになります。これは200%断言します。1000%でもいい。


○ 石橋湛山研究会
実は2023年6月に超党派の国会議員による『石橋湛山研究会』が発足しています。この研究会については以下のような報道があります。



主催したのは、今年6月に発足した超党派の議員による「石橋湛山研究会」。この日の勉強会には自民党の小渕優子選挙対策委員長や石破茂元幹事長のほか、立憲民主党の逢坂誠二代表代行、国民民主党の古川元久国会対策委員長らが参加した。

・ 『石橋湛山・元首相の政治姿勢を学ぶ 「民主主義の努力を大切にした」 』(2023年11月2日 朝日新聞)


自民、立民、維新、公明、国民など党派を超える議員が参加する湛山研究会は、昨年6月に結成された。共同代表は自民の岩屋毅・元防衛相のほか、立民、国民の計3人が就き、幹事長に古川氏、事務局長は立民から選ばれた。国会開会期に、湛山に詳しい講師らを招いて勉強会を開いている。初回の参加者は44人だったが、その後、特に勧誘活動はしていないのに会員は倍以上に増え続けている。

・ 『政治劣化の今こそ石橋湛山に学ぶべき:拡大する超党派100人の国会議員連盟 』(2024年2月9日 Nippon.com)


・ 『石橋湛山の偉業に今こそ光、非戦唱えた「反骨の巨人」 』(2024年10月20日 日本経済新聞)

・ 『超党派「石橋湛山研究会」が発足した現代的意義 「向米一辺倒にならない」外交への転換なるか 』(2023年7月5日 東洋経済)




石破さんが出ていて、この会の共同代表は、石破さんの腹心で外相の岩屋毅さんです。岩屋さんは先の自民党総裁選で石破陣営の選対本部長でした。石破さんはこの石橋湛山研究会では、いつも一番前に座って熱心に耳を傾けているそうです。
まさに、石破新政権ということには、この石橋湛山というキーワードがあり、それはそのまま今回の衆院総選挙のキーポイントなのです。
そして、この石橋湛山というキーワードを持つ石破新政権に反対する人たちがいる。無論、反対するには理由があるのです。そのキーポントもやはり石橋湛山なのです。そのことを次回は見つめましょう。

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片桐 勇治(かたぎり ゆうじ)プロフィール
1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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