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ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)に対する政権の対応が焦点
[日本の政治]
2015年10月30日 23時21分の記事

安倍政権の政策的目玉である「1億総活躍国民会議」に民間議員として参加しているタレントの菊池桃子さんが、「1億総活躍」というネーミングが分かりづらいので、「ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)」の新名称を提案したことが報道されています(「菊池桃子が国民会議で安倍首相に1億総活躍論提言」2015年10月30日 日刊スポーツ) 。「1億総活」という言葉に対して人によっては「国家総動員法」や「一億総玉砕」を連想させるので、それに比べれば、はるかに良いネーミングですし、ソーシャル・インクルージョンという言葉に内包される概念も大変よいものです。しかし、これは果たして採用されるのでしょうか。

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このソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)というのは、貧富の格差をなくし、社会的な孤立をなくしていくということですが、この数年間、バチカンの法王フランシスコが大変盛んにこのことを訴えています。9月25日に行われた国連演説でも法王は非常にこのことを強調していますし、2013年に法王が記した『福音の喜び』(2014年 カトリック中央協議会/原文は2013年に発行)でも非常に強調していて、メインテーマのひとつなっています。現在、『ザ・フナイ』で書かせて頂いている連載で『福音の喜び』について集中的に取り上げていますが、このテーマは今や世界的なものとなっています。
このソーシャル・インクルージョンを行っていくということは、貧富の格差をなくしていくことが非常に重要になります。つまり、法王フランシスコが言っているように富の再分配を積極的にやることが大きな主柱となります。
しかし、派遣労働者や労働者の立場が弱くなる政策が打ち出され、子供の貧困が問題となっているのに抜本的な政策をとっていない現政権に、このソーシャル・インクルージョンの方向性を打ち出すことができるのかは疑問です。本当にやるなら防衛政策と同じくらい、否、それよりもはるかに懸命にやらなくてはならないことです。なぜなら、そうしなければ防衛を語る前に国が衰退していくことになるからです。国づくりの概念がない防衛論など全く意味がなく、平時における国家は「守成は創業より難し」なのです。国家における守成を考えていない現政権には、国造りの本質が見えていないように思います。

史上最強の新自由主義政権にはソーシャル・インクルージョンは不可能
そのような政権がソーシャル・インクルージョンを実現できるのか。法王フランシスコはグローバル資本主義と闘えと述べ、貧富の格差を拡大させるトリクルダウンを完全に否定し、新自由主義を否定しています。その法王が言うソーシャル・インクルージョンを、新自由主義の現政権が行うには自己否定を先にするしか辻褄はあわないでしょう。西に走っているのに東に走りますと言っているのに等しく、もしくは砂漠で雨を降らすと言っているのに等しいものです。もしかしたら「小雨」程度は降らすことはできるかもしれませんが、それでは砂漠を緑に変えることはできないでしょう。政権の本気度も含めこのソーシャル・インクルージョンに対する対応が焦点です。
新自由主義の最たるものであるTPP実現に率先して旗振りをして内実は食料自給の将来を危うくし、子どもの貧困化が鮮明になりつつあり、医師の給与をさげて医療現場をさらに厳しい状況に追い込もうとしている(「診療報酬下げ求める=医師技術料も切り込み?財務省」 2015年10月29日 ウォール・ストリート・ジャーナル〈時事通信〉)のが、現状です。医療崩壊は小泉政権の新自由主義政策の時に話題になりましたが、また同じ方向に動いているのが現状です。
新自由主義的な政策をとると社会の基礎がゆらぎ、崩壊して行く傾向が必ず顕著になりますが、新自由主義とは反対の概念であるソーシャル・インクルージョンという概念が提示されて、現政権がどこまで本気で向き合えるのか、見つめる必要があるでしょう。統一地方選の前に地方創生担当相を作って、内実なんの変化も見られない選挙向けパフォーマンスと思われるようなことはもう必要はないでしょう。
新自由主義的な経済政策を言って、反面で自立性がかかわる防衛論を唱えるのは、本質的に国家論として矛盾する考えです。でも、疑問なく平気で述べている人が多い。現政権はその代表です。
しかし、実際は矛盾していないのです。なぜなら自立性を放棄した防衛論を言っているからなのです。それが集団的自衛権であり、TPPなのです。したがって、現政権の本質は、国家としての自立性は放棄しているということなのです。それが新自由主義の本質です。
法王フランシスコは、『福音の喜び』で、ソーシャル・インクルージョンを実現させるための政府の役割を述べています。私もその考えに賛成です。貧富の格差を解消させるために労働分配率を上げる税制の改革などはすぐにできることでしょう。「軽減税率」で毎日、税調で税制が話題になっているのですから、このようなことは出てきて当然のことです。むしろ「軽減税率」よりもこちらの方が圧倒的に重要で本質的なことです。しかし、国家としての自立性を忘れている政府・与党にこのような発想はそもそもないでしょう。

グローバリズムという画一性につきすすむ新自由主義には、本来的な意味での「個」の価値を高めることは不可能です。新自由主義の政権による「一億総活躍」ということの意味とは一体何なのかということはよく考える必要があるでしょう。ソーシャル・インクルージョンに対する政権の対応が、そのことを見極めるリトマス紙のひとつになることは間違いありません。

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片桐 勇治(かたぎり ゆうじ)プロフィール
1967年生まれ。東京都出身。中央大学法学部政治学科卒。高校がミッションスクールの聖学院高校で高校・大学時代は聖書研究に没頭。
大学在学中から元航空自衛隊幹部の田村秀昭元参議院議員の秘書、以来、元防衛庁出身の鈴木正孝元参議院議員、元防衛大臣の愛知和男元衆議院議員の秘書、一貫して政界の防衛畑を歩む。
2005年から国民新党選挙対策本部事務局次長、広報部長を歴任。2010年より保守系論壇で政治評論を行う。 yujikatagiri111@yahoo.co.jp
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