評価すべき野田聖子議員の南沙問題についての発言 | |
[日本の政治] | |
2015年11月7日 6時28分の記事 | |
自民党の野田聖子衆議院議員が、南沙諸島をめぐって米国と中国が対立していることについて「日本は直接関係ない。日本は独自路線で外交していくことに徹するべきだ」(2015年11月5日 The Huffington Post) と述べたことが報道されています。大変に良い発言で、最近の政治家としての発言では非常に質の高いものであると思います。 「野田聖子氏『南沙諸島、日本は関係ない』」(2015年11月5日 The Huffington Post) この発言に対しては、恐らく「安全保障感覚がない」とか「鳩山由紀夫元総理と同じレベル」というお決まりの批判がなされるでしょう。ただ、本当にそうでしょうか。 鳩山外交をよく見るとかなりレベルの高いものであることがわかります。
2012年4月、鳩山元首相はイランを訪問しました。折しもイランの核問題でイランと欧米の間で戦争の機運が非常に高まり切迫していた時、鳩山元首相はイランを訪問し、外交を展開しました。当時は民主党政権でしたが、とにかく世間では、この訪問を大失態とか外交音痴とこき下ろしました。しかし、今年、このイランの核問題は決着し、米国とイランの歴史的な和解が成立しました。今から見るとこの鳩山外交の意味は非常に大きく、当時、世界で唯一の行動でしたし、鳩山元首相の行動がなければそのまま戦争になっていたでしょう。そして、3年後、その動きは実を結び、中東の安定化につながっています。また、現在の日本とイランの関係にも大きく貢献していると考えます。 当時、鳩山元首相の動きをこき下ろしたのは、何もわからないから仕方がないにしても、今や再評価をすべきでしょう。批判だけしているのでは、いけませんし、日本のためにもなりません。当時の鳩山元首相の動きを批判したのは、多分、戦争を起こしたい人々か、戦争を望んでいたグループなのでしょう。だから、再評価はできないかもしれませんが、そのような願望や戦争に利益が関わっていないなら評価をすべきなのは当然でしょう。 鳩山元首相は、今年、トルコにも行きましたし、クリミアにも行きました。本ブログの「ホロコーストに関するネタニヤフ首相の発言の背景にある事情」(2015年10月27日)で、詳しく書きましたが、トルコとクリミアは中東と黒海周辺・東欧の安定化には地政学的に不可欠な場所です。この1年、この地域は大変に重要視され、ローマ法王をはじめ多くの人びとが関わっています。そして、今年は、このことをポイントとしてウクライナ紛争が調停され、中東と黒海周辺・東欧の情勢は一気に変わりました。そういう重要地点にしっかりと鳩山外交として行っていることは、大変に意味があることです。 評価すべき野田議員の「独自路線」発言 今回の野田議員の発言も同じでしょう。大変に意味あるものと思います。 日本と米国は同盟国ですが、だからといってイエスマンである必要はありません。日本と米国は全く同じ状況に置かれているわけではないので、当然、利害が一致しないこともあります。そういう場合は「ノー」と言わなくてはなりませんし、そうでなければ同盟関係は続けることはできないでしょう。 外交において、まず「ノー」から初めるのが政治家としての第一歩です。実はこれが出来る人は、今の政界ではほとんどいません。だから、(米国に)すべてイエス、イエスになっています。一方で、国民に対しては「ノー」をかなり居丈高になって言っているのではないでしょうか。このような現在の政治・外交姿勢では、他国からなめられるだろうと率直に思いますし、米国も本当の意味で信頼感を日本に寄せないのではないかと思います。 まず、日本の権益、外交における存在感をつくりだすことが、わが国の政治家にとって課せられた使命です。そういう意味で、野田氏の発言は、しっかりとその最初の一歩があります。 中国だけを見ていて実利を失う 現状は、力をつけた中国が膨張主義に走り、それを止められず、それは日本にとって恐ろしいことだから米国の存在が際立つわけです。そこには、日本に有無を言わせぬ構図があります。そして、踏み絵を迫られるわけです。これが今ある南沙諸島の米中の緊張関係の状況です。 実は東アジア全体を見渡してもこの構図は同じです。米中の緊張関係によって、それぞれの国が米中双方から踏み絵を迫られるわけです。したがって、実相は、この緊張関係によって、米中双方の影響力が拡大していく結果になっているわけです。このような状況では、日本の存在感を示すということなどできませんし、他の国々も踏み絵を迫られる苦しい立場に追い込まれていきます。この状況は、米中双方にとって極めて大きな利益をもたらす一方で、わが国にとっては利益をもたらすものではありません。野田議員が南沙問題にわが国は「直接関係ない」というのは、このような状況から考えれば当然でしょう。 誰が利益を得るかと考えれば、このような一種仕組まれた構図はすぐに分かるはずです。そして、ここで米中が衝突、もしくは米国の同盟国日本や他国が中国と軽い小競り合いがあれば、この構図はより強化されていきます。しかし、その構図においては、日本に何の利益もないのです。 南シナ海での衝突の構図は、昨年3月のマレーシア機失踪事件の時から、ずっとあります。この時、失踪したマレーシア機を捜索する名目で、10カ国ほどの艦艇がこの海域に集結しました。この係争地域の南シナ海で、これだけの数の国の艦艇が集まるということは、実は非常に危険であったのです。当時、日本では艦艇を派遣しろという論調がありましたが、賢明にも艦艇を出さないという判断をし、何も起きませんでした。しかし、今度は南沙諸島で中国の人工島という新たな火種を生み出す装置が作られたというのが、国際情勢の実相でしょう。 ロシアファクターを読み誤り窮地に陥る日本 中国ということを考えるのなら、ロシアというファクターが非常に重要になります。日露接近を一番嫌うのが中国であり、それは時代を超えて地政学的に当然のことです。また、米国もこの接近を嫌います。近代では、東アジアに権益を持っていた英国がこの日露接近を嫌っています。そういう状況で生じたのが伊藤博文暗殺です。 話を現代に戻すと、2013年4月、日本とロシアは日露外務・防衛閣僚協議、いわゆる2+2に合意しました。急激に日露接近が生じたのですが、その後、ウクライナ紛争の影響で、現政権は米国に言われてロシアとの関係を遠ざけました。この時も一種の踏み絵なのですが、このことで利益を得たのは当然、米国と中国です。 このことと同種のことは欧州諸国でも生じましたが、欧州諸国はロシアとの関係を一定に保ちながら現在に至っています。しかし、日本はそのようにはなっていません。 米国の外交方針によって、中国と対峙し、ロシアと対峙する状況ができてしまうと、その状況に対して日本がどんなにがんばっても、そして強い米国がついていても軍事的に対応はできません。したがって、普通に考えて、日本はこのような状況を改善する必要に迫られます。米国の外交方針と日本の利害をしっかりと勘案し、ロシアとの関係を考えていかなくてはいけないのが、現在の日本の状況でしょう。そして、その上で中国との関係を考えていかなくてはなりませんが、実際にはそのようになってはおらず、どこか今の政権のやっていることは不可解なところがあり、結局、それは実のところ中国と米国を利し、日本の立場を改善させていません。 よく言われるシーレーンの問題も、かつての石油の道というのが、日本から見て南方方面というだけとは限らない状況に既になっています。今やロシアの北極海の航路も大きなポイントになっています。この点でも、ロシアとの関係が重要になっています。しかし、米国に言われるままに日露関係は疎遠になり、そのことがロシアを中国へ走らせ、今のような日本にとって厳しい状況になり、米中の間で日本が踏み絵を迫られる状況を作り出しています。 こう考えれば鳩山元首相のクリミア訪問はかなりの意味を持つことは明らかでしょう。米系人脈だけで考えていると日本の道筋を誤る可能性は大きくなります。 先日、安部首相が中央アジアを歴訪しました。中国を包囲するから中央アジアを訪問したという解説が多くなされています。しかし、ロシアとの関係が改善されていない中、旧ソ連領に行っても意味があまりないのではないかと率直に思いますし、そこには大きな矛盾があると言わざるを得ません。現政権が米国の思惑通りに動いている限り、国際情勢で日本が置かれている立場に光明が差すことはないでしょう。 昨今、あまり報道はされていませんが、日本の企業はロシアに進出もしていて、自民党議員も訪露をしています。日露の関係はまだ絶望的とは言えない状況で、ロシアとの関係で色々な方向性を考える余地はまだまだあるでしょう。いずれにせよ、ロシアファクターについての読み違えが日本の外交の前に大きな障壁を作り出しているのです。 そのような行き詰まった日本の外交において、野田議員の発言で「独自性」という言葉があることは、どのような方向性にせよ大変に意味を持っていると考えます。 対立しているから関係がないというのは誤解 拙書『この国を縛り続ける金融・戦争・契約の正体』(2015年 ビジネス社)で、「2013年の日本の独立」ということを申し上げました。詳細は拙書に譲りますが、これを簡単に言うと、1952年、戦後荒廃していた日本が米国経由で今の額にして30兆円を復興資金として借りたことによって結ばれた日米間の密約に、戦後の日本は外交・防衛などにおいて縛られ、それが2013年4月に終わったというものです。2013年4月と言えば、上述した日露2+2も締結されました。 この論は、小日向白朗という戦前、戦中、中国で馬賊の総頭目をし、戦後は池田首相のアドバイザーになった方が、1971年に誌上で語ったことを元に論じています。小日向氏は、日本の歴代の首相が、就任するとこの密約にサインをしてきたと語っています。 この小日向氏が誌上で語ったことは、他にもあります。興味深いことなので以下に引用します。 その時、アメリカはこういうんですよ。「米中が手を握り、日本の国内がゆさぶられてもくずれないような体制になった時には、あの覚書きの密約、これは石橋さんを除いて歴代の総理がみんな異議なく実行しますとこれにサインしているそうだがこれを白紙に戻してもいい」「国民全体の合意ができたなら、いつでも日本の政府代表にサインを拒否して貰っていい。アメリカとしては、いつでも喜んで解除するだけの用意はしております」というわけだ。 まあ、ニクソンドクトリンを実行していけば、そういうことになるとは思うが、このままじゃ日本にとっては密約がやはり問題だね。(『富士ジャーナル 1971年7月号』P.26) 折しも米中接近が言われ、キッシンジャーが中国へ極秘訪問していた時のことです。この時以来、「米中」という枠組みができているのです。 手を結ぶということは、ニコニコして握手しているということだけではありません。むしろ裏で結んでいれば表向きは敵対関係を装うのは政治や国際社会の常識でしょう。敵対して口もきかないから、関係がないと考えるのは早計ですし、ニコニコして握手をしているから関係ができていると考えるのも単純すぎます。実際は関係ができていないからこそニコニコしている事のほうが多いのではないでしょうか。緊張関係が報道されているから、すべてそのままそうだと考えるのはあまりにも人が良すぎるというのが国際関係の本質でしょう。 将来の日本の可能性を感じさせる発言 昨今の国際関係について国内で言われていることは、少し直情的で近視眼的であると思います。そのような観点では、結局のところ、自らの利益を確保するには至らないでしょう。もう少しシビアになったほうが良いでしょう。鳩山元首相の動きなども、もう少し様々な状況やその影響について慎重に評価すべきと考えます。 野田議員は、発言の中でこれからの日本の将来を考えると、労働力がなくなるということは、力を持ってして外交を進めていくという余力はありません」「(2015年11月5日 The Huffington Post)と述べています。人口減少・少子化の時代、わが国の外交が「頭」の勝負になることは間違いがありません。しかし、日本はまだまだ独り立ちできる「頭」ができていないとも率直に思います。そのような中で、野田議員の発言は将来の日本の可能性を感じさせるものと率直に感じました。「独自性」という視点を持たない限り、外交の可能性は広がりません。なぜなら、日本と置かれた立場や状況が同じ国は一つとして世界にはないからです。自分のことは自分で考えるしかないわけで、このことは世界のどこでも同じです。言うまでもなく、米国も同じなのです。そのような前提で、協調と平和を形造るしか、日本が生き残る道はないのです。 最終編集日時:2015年11月7日 6時35分 | |
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